特許第6061917号(P6061917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061917
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】接触帯電によりX線を生成する装置
(51)【国際特許分類】
   H05G 2/00 20060101AFI20170106BHJP
   G01N 23/04 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H05G2/00 J
   G01N23/04
【請求項の数】28
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-509438(P2014-509438)
(86)(22)【出願日】2012年5月3日
(65)【公表番号】特表2014-513406(P2014-513406A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】US2012036310
(87)【国際公開番号】WO2012154494
(87)【国際公開日】20121115
【審査請求日】2015年4月17日
(31)【優先権主張番号】61/482,031
(32)【優先日】2011年5月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】304056899
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カマラ、カルロス
(72)【発明者】
【氏名】プッターマン、セス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハード、ジョナサン
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/102784(WO,A1)
【文献】 米国特許第04990813(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00 − 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源であり、
封入器と、
少なくとも部分的に前記封入器内に配置された第1ローラーと、
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記第1ローラーと回転接触する第2ローラーと、
前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち少なくとも一方に対して操作可能に接続された駆動アセンブリと
を備え、
前記駆動アセンブリは、前記第1ローラーおよび前記第2ローラーが回転しつつ前記第1ローラーの部分と前記第2ローラーの部分とが前記封入器内で接触したり接触しなかったりするよう、前記第1ローラーと前記第2ローラーとを回転接触させつつ回転させ、
前記第1ローラーは、少なくとも部分的に第1摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第2ローラーは、少なくとも部分的に第2摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第1摩擦電気材料は前記第2摩擦電気材料に対し負の摩擦電位を有し、
前記封入器は制御された雰囲気環境を提供し、
前記第1摩擦電気材料、前記第2摩擦電気材料、および前記制御された雰囲気環境は、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間の回転接触によりX線が生成されるよう選択される、X線源。
【請求項2】
前記封入器は、前記封入器の他の部分と比較しX線に対して実質的に透明なX線窓を有する、請求項1に記載のX線源。
【請求項3】
前記封入器は、10−1Torr未満の真空度を維持する、請求項1または2に記載のX線源。
【請求項4】
前記封入器は、10−9Torr超、かつ10−3Torr未満の真空度を維持する、請求項1または2に記載のX線源。
【請求項5】
前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち少なくとも一方は、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間の回転接触の間、少なくとも2つの異なるX線スペクトルが生成されるよう、互いに異なる摩擦電気材料からなる少なくとも2つの表面領域を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項6】
前記駆動アセンブリは電気モータを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項7】
バッテリー、コンデンサ、および超コンデンサのうち少なくとも1つを有する蓄電部材をさらに備える、請求項1から6のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項8】
光起電性部材をさらに備える、請求項7に記載のX線源。
【請求項9】
手動充電器をさらに備える、請求項7また8に記載のX線源。
【請求項10】
前記駆動アセンブリは手動メカニズムを有する、請求項1から9のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項11】
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち少なくとも一方と回転接触する第3ローラーをさらに備え、
前記駆動アセンブリは、前記第1ローラー、前記第2ローラー、および前記第3ローラーが回転しつつ前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち前記少なくとも一方の部分が前記第3ローラーと前記封入器内で接触したり接触しなかったりするよう、前記第1ローラーと、前記第2ローラーと、前記第3ローラーとを回転接触させつつ回転させ、
前記第3ローラーは、前記第1摩擦電気材料と前記第2摩擦電気材料とのうち少なくとも一方に対して負の摩擦電位を有する少なくとも部分的に第3摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第1摩擦電気材料、前記第2摩擦電気材料、前記第3摩擦電気材料、および前記制御された雰囲気環境は、前記第1ローラーと、前記第2ローラーと、前記第3ローラーとの間の回転接触により、少なくとも2つのローラー間接触部に沿って実質的に同時にX線が生成されるよう選択される、請求項1から10のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項12】
少なくとも部分的に前記封入器内に配置された第3ローラーと、
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記第3ローラーと回転接触する第4ローラーとをさらに備え、
前記駆動アセンブリは、前記第3ローラーと前記第4ローラーとのうち少なくとも一方に対して操作可能に接続され、
前記駆動アセンブリは、前記第3ローラーおよび前記第4ローラーが回転しつつ前記第3ローラーの部分と前記第4ローラーの部分とが前記封入器内で接触したり接触しなかったりするよう、前記第3ローラーと前記第4ローラーとを回転接触させつつ回転させ、
前記第3ローラーは、少なくとも部分的に第3摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第4ローラーは、少なくとも部分的に第4摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第3摩擦電気材料は前記第4摩擦電気材料に対し負の摩擦電位を有し、
前記第3摩擦電気材料、前記第4摩擦電気材料、および前記制御された雰囲気環境は、前記第3ローラーと前記第4ローラーとの間の回転接触によりX線が生成されるよう選択される、請求項1から10のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項13】
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記駆動アセンブリに対して操作可能に接続された複数のローラーペアをさらに備え、
前記複数のローラーペアのうち各ローラーは、前記複数のローラーペアのそれぞれのローラー間の回転接触によりX線が生成されるよう選択された対応する摩擦電気材料からなる表面を少なくとも部分的に有する、請求項1から12のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項14】
前記第1摩擦電気材料と前記第2摩擦電気材料とのうち少なくとも一方は組成中に、前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち一方から他方へ移動する電子によって励起され得る量子励起エネルギー状態を有する原子を含み、
前記原子は、前記X線源が狭エネルギー帯のX線を生成するよう、前記量子励起エネルギー状態から低エネルギー状態への遷移に応じて少なくとも1つの狭エネルギー帯に含まれるエネルギーを有するX線を発する、請求項1から13のいずれか1項に記載のX線源。
【請求項15】
X線画像化システムであり、
X線源と、
X線検出器と
を備え、
前記X線源は、
封入器と、
少なくとも部分的に前記封入器内に配置された第1ローラーと、
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記第1ローラーと回転接触する第2ローラーと、
前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち少なくとも一方に対して操作可能に接続された駆動アセンブリと
を有し、
前記駆動アセンブリは、前記第1ローラーおよび前記第2ローラーが回転しつつ前記第1ローラーの部分と前記第2ローラーの部分とが前記封入器内で実質的に線状の接触領域に沿って接触したり接触しなかったりするよう、前記第1ローラーと前記第2ローラーとを回転接触させつつ回転させ、
前記第1ローラーは、少なくとも部分的に第1摩擦電気材料からなる表面を含み、
前記第2ローラーは、少なくとも部分的に第2摩擦電気材料からなる表面を含み、
前記第1摩擦電気材料は前記第2摩擦電気材料に対し負の摩擦電位を有し、
前記封入器は制御された雰囲気環境を提供し、
前記第1摩擦電気材料、前記第2摩擦電気材料、および前記制御された雰囲気環境は、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間の回転接触により前記実質的に線状の接触領域に沿ってX線が生成されるよう選択され、
前記X線検出器は、前記X線源からのX線を検出する線形検出器を有するよう構成され配置された、X線画像化システム。
【請求項16】
前記封入器は、前記封入器の他の部分と比較しX線に対して実質的に透明なX線窓を含む、請求項15に記載のX線画像化システム。
【請求項17】
前記封入器は、10−1Torr未満の真空度を維持する、請求項15または16に記載のX線画像化システム。
【請求項18】
前記封入器は、10−9Torr超、かつ10−3Torr未満の真空度を維持する、請求項15または16に記載のX線画像化システム。
【請求項19】
前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち少なくとも一方は、前記第1ローラーと前記第2ローラーとの間の回転接触の間、少なくとも2つの異なるX線スペクトルが生成されるよう、互いに異なる摩擦電気材料からなる少なくとも2つの表面領域を含む、請求項15から18のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【請求項20】
前記駆動アセンブリは電気モータを含む、請求項15から19のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【請求項21】
バッテリー、コンデンサ、および超コンデンサのうち少なくとも1つを有する蓄電部材をさらに備える、請求項15から20のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【請求項22】
光起電性部材をさらに備える、請求項21に記載のX線画像化システム。
【請求項23】
手動充電器をさらに備える、請求項21または22に記載のX線画像化システム。
【請求項24】
前記駆動アセンブリは手動メカニズムを有する、請求項15から23のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【請求項25】
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち少なくとも一方と回転接触する第3ローラーをさらに備え、
前記駆動アセンブリは、前記第1ローラー、前記第2ローラー、および前記第3ローラーが回転しつつ前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち前記少なくとも一方の部分が前記第3ローラーと前記封入器内で接触したり接触しなかったりするよう、前記第1ローラーと、前記第2ローラーと、前記第3ローラーとを回転接触させつつ回転させ、
前記第3ローラーは、前記第1摩擦電気材料と前記第2摩擦電気材料とのうち少なくとも一方に対して負の摩擦電位を有する少なくとも部分的に第3摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第1摩擦電気材料、前記第2摩擦電気材料、前記第3摩擦電気材料、および前記制御された雰囲気環境は、前記第1ローラーと、前記第2ローラーと、前記第3ローラーとの間の回転接触により、少なくとも2つのローラー間接触部に沿って実質的に同時にX線が生成されるよう選択される、請求項15から24のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【請求項26】
少なくとも部分的に前記封入器内に配置された第3ローラーと、
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記第3ローラーと回転接触する第4ローラーとをさらに備え、
前記駆動アセンブリは、前記第3ローラーと前記第4ローラーとのうち少なくとも一方に対して操作可能に接続され、
前記駆動アセンブリは、前記第3ローラーおよび前記第4ローラーが回転しつつ前記第3ローラーの部分と前記第4ローラーの部分とが前記封入器内で接触したり接触しなかったりするよう、前記第3ローラーと前記第4ローラーとを回転接触させつつ回転させ、
前記第3ローラーは、少なくとも部分的に第3摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第4ローラーは、少なくとも部分的に第4摩擦電気材料からなる表面を有し、
前記第3摩擦電気材料は前記第4摩擦電気材料に対し負の摩擦電位を有し、
前記第3摩擦電気材料、前記第4摩擦電気材料、および前記制御された雰囲気環境は、前記第3ローラーと前記第4ローラーとの間の回転接触によりX線が生成されるよう選択される、請求項15から24のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【請求項27】
少なくとも部分的に前記封入器内に配置され、前記駆動アセンブリに対して操作可能に接続された複数のローラーペアをさらに備え、
前記複数のローラーペアのうち各ローラーは、前記複数のローラーペアのそれぞれのローラー間の回転接触によりX線が生成されるよう選択された対応する摩擦電気材料からなる表面を少なくとも部分的に有する、請求項15から26のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【請求項28】
前記第1摩擦電気材料と前記第2摩擦電気材料とのうち少なくとも一方は組成中に、前記第1ローラーと前記第2ローラーとのうち一方から他方へ移動する電子によって励起され得る量子励起エネルギー状態を有する原子を含み、
前記原子は、前記X線源が狭エネルギー帯のX線を生成するよう、前記量子励起エネルギー状態から低エネルギー状態への遷移に応じて少なくとも1つの狭エネルギー帯に含まれるエネルギーを有するX線を発する、請求項15から27のいずれか1項に記載のX線画像化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2011年5月3日に提出された米国仮特許出願第61/482,031の優先権を主張する。同仮特許出願は、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本願発明は、米国陸軍医学研究司令部から与えられた米国連邦政府補助金第W81XWH−10−1−1049号の援助を受けてなされた。米国連邦政府は本願発明に関する一定の権利を有する。
【0003】
本願発明の分野は、摩擦X線源およびシステムに関する。
【背景技術】
【0004】
初期のHaukesbee(F.Haukesbee,Physico−Mechanical experiments on various subjects(London:1709))の静電装置からvan der Graafの自身の名前に基づいた名称を持つ生成器まで3世紀に亘って、摩擦電気は高い静電電位の生成源として基礎科学研究に用いられ続けてきたが、当該主題においては第一原理的アプローチが不在のままとなっている(M.Stoneham,Modelling Simul.Mater.Sci.Eng.17,084009(2009))。静電生成器は2つの材料が互いに摩擦接触して擦れ合った時に生成される統合された電荷を蓄積する。選択される材料は、帯電する材料および電荷の極性の特性を示す、実験に基づき抽出されたリストである帯電列において互いに最も離れたものである(P.E.Shaw,Proc.R.Soc.Lond.A 94,16(1917))。2つの材料の接触点おいて、摩擦帯電の程度は、当該材料の周囲の気体をイオン化し、摩擦ルミネセンスを引き起こす程である。粘着(PSA)テープを剥離する際に観察される摩擦ルミネセンスは長くに亘って科学の興味の対象であり(E.N.Harvey,Science 89,460(1939))、静電に関する研究に起源を有する。テープが剥離されると、剥離されたばかりの領域の表面に、1012e cm−2(eは電子の基本的な電荷である)の電荷密度が曝され、続いて放出される(C.G.Camara,J.V.Escobar,J.R.Hird and S.P.Putterman,Nature 455,1089(2008))。〜10ミリTorrの真空度でテープが剥離されると、生成された摩擦ルミネセンスは、X線エネルギーにまで拡大することが分かっている(V.V.Karasev,N.A.Krotova and B.W.Deryagin,Dokl.Akad.Nauk.SSR 88 777(1953))。より最近になって(Camaraら、同文献)、真空でテープを剥離する際の摩擦帯電には2つの時間尺度があることが分かった。1つ目は静電生成器および旧来からの静電に関する実験に共通のものであり(W.R.Harper,Contact and frictional electrification,(Oxford University Press,London,1967))、テープの表面上において平均1010e cm−2の電荷密度が維持されることになる長い時間尺度のプロセスである。2つ目は、1012e cm−2の電荷密度であるナノ秒のプロセスである。加えて、テープの剥離によって放出されるX線は、人の指節間の間隔を分析出来る程、剥離の線においてそれ自体で十分にコリメートされていることが分かっている。ナノ秒レベルのX線パルスを放射することにより、放射領域の推定を計算出来た。続く、幅が1.5mmのPSAテープを剥離した研究によって、プロセスが300μm未満の寸法において起こることが確認された(C.G.Camara,J.V.Escobar,J.R.Hird and S.P.Putterman,Appl.Phys.B 99,613(2010))。
【0005】
摩擦電気に関するこの最近の研究を支持しているのは、異なる材料間、特にポリマー間で電荷がどのように移動するかという疑問に改めて関心が集まっているという事実である。特に興味深いのは、互いに似通ったポリマー同士が互いに帯電するという報告である(M.M.Apodaca,P.J.Wesson,K.J.M.Bishop,M.A.Ratner and B.A.Grzybowski,Angew.Chem.Int.Ed.49,946(2010))。さらに基本的には、移動する粒子がイオンであるのか(L.McCathy and G.M.Whitesides,Angew.Chem.Int.Ed.47,2188(2008))、電子であるのか(Harper、同文献)という数世紀にも亘る実験研究にも関わらず依然として議論されている未解決の問題である。摩擦帯電を引き起こす電荷担体が電子であるかイオンであるかに関わらず、非常に高い電荷密度が容易に生成されるということははっきりしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最も効果的に帯電を引き起こすには、材料同士の密な接触、および接触面の清潔さが重要である(R.Budakian,K.Weninger,R.A.Hiller and S.P.Putterman,Nature 391,266(1998))。PSAテープの剥離のジオメトリは数学的に見事であり(A.D.McEwan and G.I.Taylor,J.Fluid Mech.26,1(1966))、両方の基準を満たしてはいるが、高電圧源を必要としない携帯型のX線源においてこれらを用いることの不利な点は、市販のテープを真空内で剥離する際に起こる顕著な気体放出(E.Constable,J.Horvat and R.A.Lewis,Appl.Phys.Lett.97,131502(2010))、並びに、信頼性および摩耗などの実用面での課題である。よって、改善された摩擦X線源およびシステムの必要性は依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の一実施形態に係るX線源は、封入器と、少なくとも部分的に封入器内に配置された第1ローラーと、少なくとも部分的に封入器内に配置され、第1ローラーと回転接触する第2ローラーと、第1ローラーと第2ローラーとのうち少なくとも一方に対して操作可能に接続された駆動アセンブリとを含む。駆動アセンブリは、第1ローラーおよび第2ローラーが回転しつつ第1ローラーの部分と第2ローラーの部分とが封入器内で接触したり接触しなかったりするよう、第1ローラーと第2ローラーとを接触したまま回転させる。第1ローラーは、少なくとも部分的に第1摩擦電気材料からなる表面を有し、第2ローラーは、少なくとも部分的に第2摩擦電気材料からなる表面を有し、第1摩擦電気材料は第2摩擦電気材料に対し負の摩擦電位を有する。封入器は制御された大気環境を提供し、第1摩擦電気材料、第2摩擦電気材料、および制御された大気環境は、第1ローラーと第2ローラーとの間の回転接触によりX線が生成されるよう選択される。
【0008】
本願発明の一実施形態に係るX線画像化システムは、X線源と、X線検出器とを含む。X線源は、封入器と、少なくとも部分的に封入器内に配置された第1ローラーと、少なくとも部分的に封入器内に配置され、第1ローラーと回転接触する第2ローラーと、第1ローラーと第2ローラーとのうち少なくとも一方に対して操作可能に接続された駆動アセンブリとを含む。駆動アセンブリは、第1ローラーおよび第2ローラーが回転しつつ第1ローラーの部分と第2ローラーの部分とが封入器内で接触したり接触しなかったりするよう、第1ローラーと第2ローラーとを接触したまま回転させる。第1ローラーは、少なくとも部分的に第1摩擦電気材料からなる表面を有し、第2ローラーは、少なくとも部分的に第2摩擦電気材料からなる表面を有し、第1摩擦電気材料は第2摩擦電気材料に対し負の摩擦電位を有する。封入器は制御された大気環境を提供し、第1摩擦電気材料、第2摩擦電気材料、および制御された大気環境は、第1ローラーと第2ローラーとの間の回転接触によりX線が生成されるよう選択される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
他の目的および効果は説明、図面、および例から明らかになるであろう。
図1】本願発明の一実施形態に係るX線源を封入器の一部を省略して示す概略図である。
図2A】本願発明の一実施形態に係るX線源の側面を、封入器を省略して示す概略図である。
図2B】本願発明の一実施形態に係るX線源の上面を、封入器の一部を省略して示す概略図である。
図3】本願発明の概念のいくつかを説明するための補助となる、2つのローラー間の接触領域を拡大して示す概略図である。
図4】本願発明の一実施形態に係るX線源の概略図である。
図5】本願発明の一実施形態に係るX線源の概略図である。
図6】本願発明の一実施形態に係るX線源の概略図である。
図6A】本願発明の一実施形態に係るX線システムの概略図である。
図7】引張バネにより接触させられ、1×10−3Torrの大気圧において300rpmの速さで回転させられる2cm幅のローラーからのX線放射の例を示し、一方のローラーは鉛製テープで覆われ、他方のローラーはテープ(処理済ポリエチレン)の層で覆われている。
図8】異なる複数のシステムについて、回転速度の関数としてのX線束の例を示し、黒色の四角は、セロハンテープの剥離に関し本発明者らが以前発表した結果の要約を示し、Figure 2 Nature Supplementaryは、2cm幅のテープを20cm/秒で剥離することにより以前発表されたX線画像を得るべく用いられた統合された束であり、Figure 2 Natureは、2cmのテープを3.6cm/秒で剥離することにより得られる統合された束であり、Figure 3 APBは、1.5mmの細長のテープを3.6cm/秒で剥離することにより得られる束であり、ひし形は、2cm幅のセロハンテープを剥離することにより得られるデータを表し、このシステムにより生成されるX線が回転速度に比例することを示しており、点は、鉛製ローラーとテープのバッキング(処理済ポリエチレン)との接触により得られるデータを表し、差し込み図は、代表的な速度に関して平均値を示す。
図9】5×10−5Torrの大気圧および3cm/秒の接線速度で接触する2cm幅のローラーについてX線スペクトルの例を示し、上部の波形は、鉛製ローラーとテープのバッキング(処理済ポリエチレン)との接触により得られるスペクトルであり、下部の波形は、粘着側が表側であるセロハンテープのローラーとテープのバッキングとの接触により得られるスペクトルである。
図10】3mm幅の鉛製ロールをポリエチレン製ローラーに対して3cm/秒で回転させることにより得られるX線のバーストの幅の例を示し、ヒストグラムに示される50keV超のエネルギーを有するX線パルスを検出するのに5'PMTに結合された2つの液体シンチレータが用いられ、PMT信号が記録され、それらの幅を得るべくガウス分布に当てはめられ、差し込み図は、2つの検出器の間の相関を示し、X線パルスが実際に測定されたことを示しており、右側の狭い出力記録は、宇宙線により得られる幅のヒストグラムであり、特性信号が5ナノ秒の幅を有することを示している。
図11】1×10−4Torrの大気圧および3cm/秒の接線速度で接触する2cm幅のローラーについてX線スペクトルを示し、上部の波形は、鉛製ローラーとテープのバッキング(処理済ポリエチレン)との接触により得られるスペクトルであり、下部の波形は、モリブデン製ローラーとテープのバッキングとの接触により得られるスペクトルであり、鉛により得られる特徴的なLライン、およびモリブデンにより得られるKラインがはっきりと観察される。
図12A】互いに接触する1cm幅の鉛製ローラーおよびポリマー製ローラーを用いて撮像されるX線画像の例を示し、X線源上の窓に載置された物体を示す。
図12B】互いに接触する1cm幅の鉛製ローラーおよびポリマー製ローラーを用いて撮像されるX線画像の例を示し、200rpmの速度および30秒間の露出で撮像されたX線画像を示す。
図13】本願発明の一実施形態に係る、検出器から2cm、頂点から8cmの位置で0°、45°、90°の角度で得られる、250ミクロンの厚さのステンレス製剃刀のX線画像の例を示し、0°では、剃刀は直接、頂点の方向に向き検出器に対し垂直であり、ローラーは、1cm幅で30rpmの速度で回転しており、露出は30秒であり、このような画像は、トポグラフィの再構成に用いることが出来る。
図14】南京錠のX線画像、および、デジタルX線検出器Rad−Icon RadEye200上の当該物体の絵の例を示し、検出器は10×10cmの放射面と、100μmの画素分解能とを有し、画像解像度はおよそ1/4mmである。
図15】本願発明の一実施形態に係る、手、および鶏の折れた腿のX線画像の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明のいくつかの実施形態を以下に詳細に説明する。実施形態の説明において、説明を明確にすべく特定の用語を用いる。しかし本願発明は、そのように選択される特定の用語によって限定されない。当業者であれば、本願発明の幅広い概念から逸脱することなく他の同等の部材を用いることが可能であり、他の方法を実施することが可能であることを理解されよう。背景技術および発明を実施するための形態の項を含む本明細書のあらゆる箇所において参照される参考文献は全て、それぞれが組み込まれたかのように参照により組み込まれる。
【0011】
本願発明のいくつかの実施形態は、高電圧電源を用いることなくコリメートされたX線を生成する装置および方法に関する。本願発明の一実施形態に係るX線源は、高電圧の電子機器を要さず、どのような機械運動の動力源によっても駆動され得る。本発明者らは、単に2つの材料を接触運動させるだけで、X線画像法に有用なX線束を生成出来ることを実証した。接触する際のジオメトリ次第で、コリメートを実現することが出来る。本発明者らは、線形のX線検出器に結合される線状のX線放射を用いることによりX線画像を取得するための単純な方法を実現出来ることを実証した。本願発明のいくつかの実施形態は、電力供給網を要さない極めて携行性の高いX線源を提供出来る。本発明者らによる以前の発明は、WO/2009/102784 MECHANOLUMINESCENT X−RAY GENERATORに記載されており、当該特許文献はその内容の全体が本明細書に参照により組み込まれる(内容の全体が本明細書に参照により組み込まれるNature v455 1089−1092(2008)およびAppl.Phys.v99 613−617(2010)も参照されたい)。
【0012】
このX線源は高電圧電源を要さず、単純な直接的な機械運動により駆動され得る。互いに接触する回転ローラーからのX線放射は、接触部の長さに亘る頂点に近い小さな領域から発せられる。その結果得られるのが、線状のX線放射である。これはあらゆる従来の技術とこのX線源とを区別する独特な性能である。
【0013】
本願発明のいくつかの実施形態は、コリメートされ得、必要な時間およびエネルギーが少なくて済み得るX線源として、制御された環境で異なる複数の材料の接触運動を実現するシステムおよび方法に関する。本願発明の単純な一実施形態は、図1に示される部分真空中で自身の接触摩擦により回転させられる異なる材料からなる2つのローラーを含む。この構成を用いて、X線画像法に有用なX線束を生成することが出来る。X線放射は、接触部の長さに亘って延在する頂点に近い領域から連続的、かつ、ナノ秒のバーストとして起こり得る。
【0014】
加えて、2以上の回転表面が接触させられる際に加えられる力を変化させることにより、X線の生成に大きな影響が及ぼされる。これは、表面の圧縮力の変化により電荷移動も変化するからである。本願発明のいくつかの態様によると、部分的な回転および変化のある回転も有用である。例えば、本願発明の一実施形態によると、2つの表面を時計方向に数度だけ回転させ、その後、それら2つの表面が反時計方向に回転するように反転させ、このように前後させられる。本願発明の一般的な概念は、互いに接触する円筒ローラーに限定されない。本願発明のいくつかの実施形態によると、円筒以外の形状を有する表面を用いることも出来る。いくつかの実施形態において、表面の1つは例えば平面上であり、他の表面は、当該平面を前後して移動するローラーである。本願発明の概念は幅広く、これらの特定の例に限定されない。
【0015】
図1は、本願発明の一実施形態に係る、X線源100を示す概略図である。図1のX線源100は、内部構造を見ることが出来るよう部分的に組み立てられた状態が示されている。X線源100は、図1では下半分だけが示されている封入器102と、少なくとも部分的に封入器102内に配置された第1ローラー104と、少なくとも部分的に封入器102内に配置され、第1ローラー104と回転接触する第2ローラー106と、第1ローラー104と第2ローラー106とのうち少なくとも一方に対して操作可能に接続された駆動アセンブリ108(図2A)とを含む。駆動アセンブリ108は、第1ローラー104および第2ローラー106が回転しつつ第1ローラー104の部分と第2ローラー106の部分とが封入器102内で接触したり接触しなかったりするよう、第1ローラー104と第2ローラー106とを接触したまま回転させる。第1ローラー104は、少なくとも部分的に第1摩擦電気材料からなる表面を有し、第2ローラー106は、少なくとも部分的に第2摩擦電気材料からなる表面を有する。図3に概略的に示されるように、第1摩擦電気材料は第2摩擦電気材料に対し負の摩擦電位を有する。しかし、本願発明の一般的な概念は、図1図3に示される実施形態に限定されない。他の実施形態において、材料の順序は逆であり得る。封入器102は制御された大気環境を提供する(図4図6も参照)。第1摩擦電気材料、第2摩擦電気材料、および制御された大気環境は、第1ローラー104と第2ローラー106との間の回転接触によりX線が生成されるよう選択される。
【0016】
X線源100の封入器102は、封入器102の他の部分と比較しX線112に対して実質的に透明なX線窓110を有する。言い換えると、封入器102は、窓110以外の部分を通って容器102からX線が放出されないよう実質的にブロックする遮蔽された状態を実現する。窓110を含む封入器は、容器102内のガス圧が容器102周囲の大気圧よりも低くなるよう真空を維持する。本願発明の一実施形態において、封入器102は、10−1Torr未満の真空度を維持する。本願発明の一実施形態において、封入器102は、10−9Torr超、かつ10−3Torr未満の真空度を維持する。
【0017】
他の実施形態において、第1ローラー104と第2ローラー106とのうち少なくとも一方は、第1ローラー104と第2ローラー106との間の回転接触の間、少なくとも2つの異なるX線スペクトルが生成されるよう、互いに異なる摩擦電気材料からなる少なくとも2つの表面領域を有する。容易に理解されるであろうが、本願発明の様々な実施形態においては、1つ、2つ、3つ、またはより多くのタイプの摩擦電気材料でコーティングされたローラーが含まれ得る。それ自体がコーティングされていてもよい当該摩擦電気材料は、空間的パターンであり、X線源100により生成されるX線スペクトルのタイプが変化するよう選択される。加えて、狭エネルギー帯のX線放射を促すよう所望される励起状態を有する1以上の原子を含む材料も含まれ得る(2012年3月9日に提出された本願の譲受人と同じ譲受人による国際特許出願PCT/US2012/028581も参照。当該国際特許出願はその内容の全体が本明細書に参照により組み込まれる。)
【0018】
本願発明の一実施形態において、駆動アセンブリ108は電気モータを含む。いくつかの実施形態において、X線源100は、バッテリー、コンデンサ、および超コンデンサのうち少なくとも1つを含む蓄電部材をさらに含む。例えば、ハンドル114内にバッテリーが位置付けられている。いくつかの実施形態において、X線源100は光起電性部材をさらに含む。他の実施形態において、X線源100は手動充電器も含む。いくつかの実施形態において、駆動アセンブリは手動メカニズム(図示せず)を含む。手動メカニズムには、例えば手回しクランクが含まれる。そのような手動メカニズムは、電気モータの代わりに設けられるか、または電気モータに追加して設けられる。
【0019】
本願発明の他の実施形態においては、3つ、4つ、またはより多くのローラーが含まれる。例えば、少なくとも1つのローラーを駆動することにより残りのローラーが摩擦接触により回転させられるよう隣り合って配置された3つ、4つ、またはより多くのローラーが含まれ得る。これらのローラーは直列のローラーとして見なすことが出来る。代替的に、若しくは追加的に、本願発明の他の実施形態においては、別個の複数のローラーペア、または複数の直列配置されたローラーが含まれる。例えば、1つのローラーペアが他のローラーペアの隣に配置され、各ローラーペアは他のローラーペアとは独立して駆動させられる。これらのローラーは並列のローラーと見なすことが出来る。隣接するローラーに接触する各ローラーは、接点においてX線が生成されるように構成される。よって、1つのローラーペアが存在する一実施形態において、X線源100は単線X線源となる。2以上のローラーが存在する場合、X線源は複線X線源となる。いくつかの実施形態において、複数のローラーを用いることにより、平面X線源を実現することが出来る。
【0020】
圧力が10−3Torr未満であり、接触する材料が金属およびポリマー碍子である場合、X線パルスが生成され得る。また、X線パルスの生成にはおよそ1mmの接触面積が適していることが分かっている。X線パルスは例えば、数10ナノ秒程度であり得る。
【0021】
X線源100は単線X線源、または複線X線源となり得るので、本願発明のいくつかの実施形態に係るX線画像化システムは、線状X線源に対応するよう選択された線状検出器を実現出来る(図6Aを参照)。
【0022】
以下に、本願発明の概念の説明を補足するいくつかの実施例を示す。本願発明の幅広い概念は、特定の例によって限定されない。
【0023】
実施例
一実施例において、接触後に電荷を交換し保持するよう、異なる材料からなる2つのローラーが選択される。これらのローラーは、限定するわけではないがバネなどの外力によって接触するよう互いに押し付けられる。限定されるわけではないが電気モータなどの機械運動の動力源により、ローラーの表面が相対的に移動させられる。本実施形態の特定の実施例においては、金属面を有するローラーと、当該ローラーに接触するポリマー製ローラーが含まれる。1×10−3Torrの空気圧が維持された容器内で回転させられるそのようなシステムからのX線放射は、図7に示されている。
【0024】
互いに接触する回転ローラーからのX線束は、回転速度により制御され得(図8)、本願発明の一実施形態によると、接線速度が80cm/秒となるまで回転速度に比例する(図8の差し込み図を参照)。この速度は200rpmの回転速度に対応する。一般的にX線束は、接触させられ、非接触とさせられる材料の1秒あたりの面積に対応する。本発明者らの以前の研究の比較として、図8は、Nature 455,October 23,2008およびApplied Physics B 99,2010からのデータを編集したものも含む。
【0025】
図8は、異なる複数のシステムについて、回転速度の関数としてのX線束を示す。黒色の四角は、セロハンテープの剥離に関し本発明者らが以前発表した結果の要約を示す。Figure 2 Nature Supplementaryは、2cm幅のテープを20cm/秒で剥離することにより以前発表されたX線画像を得るべく用いられた統合された束である。Figure 2 Natureは、2cmのテープを3.6cm/秒で剥離することにより得られる統合された束である。Figure 3 APBは、1.5mmの細長のテープを3.6cm/秒で剥離することにより得られる束である。ひし形は、2cm幅のセロハンテープを剥離することにより得られるデータを表し、このシステムにより生成されるX線も回転速度に比例することを示している。点は、鉛製ローラーとテープのバッキング(処理済ポリエチレン)との接触により得られるデータを表す。差し込み図は、代表的な速度に関して平均値を示す。
【0026】
鉛と一巻きのテープのバッキング(処理済ポリエチレン)との回転接触により得られるX線スペクトルは、図9の上側の曲線に示されるような特徴的な鉛のLラインを示す。このことは、テープのバッキングに対して鉛が正に帯電し、電子の標的としての役割を果たすことを明らかに示している。同じ実験環境下で、一巻きのテープのバッキングと粘着側が表側である一巻きのテープとの接触により得られるX線放射を測定した(図9の下側の曲線)。これらの2つのシステムから得られるX線束の違いは、対象材料の原子量(Z)を異ならせることによる、高いエネルギーの電子をX線に変換する効率性を制御する方法を示唆している。これらの結果は、異なる複数の材料により構成される1つのローラーを用いて、接触位置に応じて放射を制御することが出来ることも示している。
【0027】
接触運動により得られるX線放射から、X線のバーストが生じ得る(図10)。これらの測定は、鉛製ローラーとポリエチレン製ローラーとの接触により得られるX線パルスは、10〜20ナノ秒の長さとなることを示している。またこのことは、放出距離が1mmとなり、電荷密度がおよそ1×1011/cm2となることを示唆している [Nature 455,October 23,2008]。これらの結果は、このX線源からのX線放射が空間に関してコリメートされており、時間的に短いものであることを示している。
【0028】
接触運動によって放射されるX線のスペクトルは、材料の構成を異ならせることにより制御することが出来る。図11は、ポリマー製ローラーと鉛製ローラーとの接触により得られるスペクトルを、同じポリマー製ローラーとモリブデン製ローラーとの接触により得られるスペクトルと比較して示す。モリブデン製ローラーにより得られるX線放射は、特徴的なKラインが主に占めており、X線エネルギーのスペクトルが制御されていることが示されている。このスペクトル分布は、従来のマンモグラフィーシステムにとって典型的なものである。このX線源は、造影X線画像法に有用となり得る。例えば、その表面の半分がある材料で覆われ、残りの半分が他の材料で覆われたローラーを用いることにより、回転と同期させて、異なるエネルギーが交互に表れるX線スペクトルを得ることが出来る。
【0029】
本願発明の一実施形態に係るX線源は、対象材料の特徴的なX線ラインを用いてエネルギースペクトルを狭め、またX線源のサイズの小ささを生かすことにより、位相差画像法にも用いることが出来る。複数の並列に配置されたローラーは格子の代わりに、垂直に配列されたX線源としての役割を果たすことが出来る。
【0030】
本願発明の一実施形態に係るX線源は、X線断層撮影法にも用いることが出来る。特に、配列された異なる複数のX線源を用いて、X線源を移動させる必要なく、複数のX線画像を撮像することが出来る。
【0031】
互いに接触するローラーにより得られるX線放射によって撮像されるX線画像の例は、図12A図15に示されている。
【0032】
本願発明の一実施形態に係るX線源は、電力を用いないX線画像法に有用である、携行性の高い、機械的に駆動されるX線源を実現する。例えば線形のCdTeX線検出器と組み合わせて、本願発明の一実施形態に係るX線源を用いて、エネルギー分解されたX線画像法を行うことが出来る。本願発明は、乳房デジタルトモシンセシスなどにおいてトモグラフィの再構成に用いることが出来る(図13)。
【0033】
本願発明の一実施形態に係るX線源は、蛍光X線にも用いることが出来る。
【0034】
本明細書において図示し説明した実施形態は、当業者に本願発明を実施し利用する方法を提示することのみを目的としている。本願発明に係る実施形態の説明を明確にすべく、特定の用語が用いられている。しかし本願発明は、その選択された特定の用語によって限定されない。本願発明に係る上述した実施形態は、上述した提示の内容から当業者には理解いただけるように、本願発明から逸脱することなく修正および変更を加えることが可能である。特許請求項およびそれらの同等物の範囲において、特定して説明されるものは異なる実施が可能であることが理解されよう。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図6A
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15