【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2001年,Vol.98, No.20,p.11114-11119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
[049] 次に、様々な態様を以下でより完全に記載する。しかし、このような態様は、多くの異なる形式で具現化することができ、本明細書に示した実施形態に限定されると解釈されるべきでない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が、徹底的かつ完全となり、当業者にその範囲を完全に伝えることになるように提供されている。
【0027】
[050] 本開示の実施には、別段の指定のない限り、当技術分野の技術の範囲内の化学、生化学、および薬理の従来法が使用されることになる。このような技法は、文献で完全に説明されている。例えば、A.L.Lehninger、Biochemistry(Worth Publishers, Inc.、現行版);MorrisonおよびBoyd、Organic Chemistry(Allyn and Bacon, Inc.、現行版);J.March、Advanced Organic Chemistry(McGraw Hill、現行版);Remington:The Science and Practice of Pharmacy、A.Gennaro編、20版;Goodman&Gilman The Pharmacological Basis of Therapeutics、J.Griffith Hardman、L.L.Limbird、A.Gilman、10版を参照。
【0028】
[051] 値の範囲が提供されている場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値、およびその明言した範囲内の任意の他の明言した値または介在値は、本開示の範囲内に包含されることが意図されている。例えば、1%〜8%の範囲が明言されている場合、2%、3%、4%、5%、6%、および7%も、明示的に開示されており、1%以上の値の範囲および8%以下の値の範囲も明示的に開示されていることが意図されている。
【0029】
1.定義
[052] 本明細書において、かつ添付の特許請求の範囲では、単数形の「a」、「an」、および「the」は、脈絡で別段に明らかに要求されていない限り、複数形の言及を含むことに留意されなければならない。
【0030】
[053] 別段に定義されていない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載したものと同様または等価な任意の方法および材料を、本発明を実施または試験するのに使用することができるが、好適な方法、デバイス、および材料を次に記載する。本明細書で述べるすべての刊行物は、本発明と共に使用され得る、刊行物に報告されている方法論を記載および開示する目的で、参照により本明細書に組み込まれている。
【0031】
[054] 用語「実質的に精製された」は、本明細書において、核酸配列またはアミノ酸配列であって、これらの自然環境から取り出され、単離または分離され、これらが天然に伴い、または精製方法によって伴う他の成分を少なくとも60%含まない、好ましくは75%含まない、より好ましくは90%含まない、最も好ましくは95%含まない、核酸配列またはアミノ酸配列を指す。
【0032】
[055] 「ペプチド」および「ポリペプチド」は、本明細書で互換的に使用され、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の鎖で構成される化合物を指す。別段の指定のない限り、ペプチドの配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の順序で与えられる。「置換」は、本明細書において、それぞれ、1つまたは複数のアミノ酸の異なるアミノ酸による交換を指す。「保存的アミノ酸置換」は、選択されたポリペプチドの活性または三次構造の有意な変化をもたらさない置換である。保存的アミノ酸置換をアミノ酸配列内で行うことによって、本発明で有利に利用され得るペプチドの誘導体を得ることができる。保存的アミノ酸置換は、当技術分野で公知であるように、かつ本明細書で参照する場合、タンパク質中のアミノ酸を、例えば、構造、サイズ、および/または化学的性質に関して同様の側鎖を有するアミノ酸で置換することを伴う。例えば、以下の群のそれぞれの中のアミノ酸を、以下と同じ群内の他のアミノ酸と交換することができる:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンを含めた脂肪族側鎖を有するアミノ酸;セリンおよびトレオニンなどの非芳香族、ヒドロキシル含有側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン酸およびグルタミン酸などの酸性側鎖を有するアミノ酸;グルタミンおよびアスパラギンを含めたアミド側鎖を有するアミノ酸:リシン、アルギニン、およびヒスチジンを含めた塩基性アミノ酸;フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンを含めた芳香族環側鎖を有するアミノ酸;ならびにシステインおよびメチオニンを含めた硫黄含有側鎖を有するアミノ酸。さらに、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびこれらのアミドも、本明細書で互換性であるとみなされる。
【0033】
[056] 「挿入」または「付加」は、本明細書において、天然に存在する分子と比較して、1つまたは複数のアミノ酸残基の付加をもたらすアミノ酸配列の変化を指す。
【0034】
[057] 「欠失」は、本明細書において、アミノ酸配列の変化を指し、1つまたは複数のアミノ酸残基の不在をもたらす。
【0035】
[058] 第1のアミノ酸配列の「バリアント」は、第1のアミノ酸配列と比べて、1つまたは複数のアミノ酸の置換または欠失を有する第2のアミノ酸配列を指す。
【0036】
[059] アミノ酸配列の「修飾」、または「修飾された」アミノ酸配列は、配列のN−末端またはC−末端のいずれかへの1つまたは複数のアミノ酸残基の付加から生じるアミノ酸配列を指す。「修飾」は、アミノ酸類似体の取り込みなどの、ペプチド配列内の1つまたは複数のアミノ酸の化学修飾も指す場合がある。アミノ酸類似体は、天然に存在する類似体であっても、合成のものであってもよい。
【0037】
[060] 用語「調節する」または「レギュレートする」は、本明細書において、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK)の活性の変化を指す。例えば、調節またはレギュレーションにより、PDKのタンパク質活性、結合特性、または任意の他の生物学的、機能的、もしくは免疫学的性質を増減させることができる。
【0038】
[061] 別の配列と「「x」パーセントの同一性を有するアミノ酸配列」に本明細書で言及することは、配列が、以下に示すように決定される指定されたパーセント同一性、「x」を有し、共通の機能活性を共有することを意図する。2つのアミノ酸配列のパーセント同一性を決定するために、配列は、比較を最適にする目的で整列される(例えば、最適なアライメントのために、第1および第2のアミノ酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、非相同配列を比較目的のために無視することができる)。好適な実施形態では、比較目的で整列される参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、または95%である。本明細書に記載の相対的に短いペプチド配列については、パーセント同一性は、第1および第2の配列のうちのより長い配列中の残基の総数と比べた、第1の配列と第2の配列との間の同様の残基の数とされる。2つの配列の間の配列の比較およびパーセント同一性の決定は、数学アルゴリズムを使用して達成することもできる。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)内のGAPプログラム中に導入されたNeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol.、48:444-453(1970))のアルゴリズムを使用して、Blosum62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、および16、14、12、10、8、6、または4のギャップ重量、および1、2、3、4、5、または6の長さ重量を使用して、決定することができる。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)中に導入されたE.MeyersおよびW.Millerのアルゴリズム(CABIOS、4:11-17(1989))を使用して、PAM120重量残基表(weight residue table)、12のギャップ長ペナルティ、および4のギャップペナルティーを使用して決定することもできる。タンパク質配列は、公共データベースに対して探索を実施するための「クエリー配列」としてさらに使用することができる。例えば、BLASTタンパク質探索は、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施することができる。www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照。
【0039】
[062] 「虚血」は、特定の臓器または組織への血液の不十分な供給として定義される。血液供給の減少の結果は、臓器または組織への酸素および栄養分の不十分な供給である(低酸素)。低酸素が長引くと、患部臓器または組織の傷害がもたらされ得る。
【0040】
[063] 「無酸素」は、臓器または組織内に酸素が実質的に完全に存在しないことを指し、これは、長引くと、臓器または組織の死がもたらされ得る。
【0041】
[064] 「低酸素状態」は、特定の臓器または組織が、酸素の不十分な供給を受ける状態として定義される。
【0042】
[065] 「無酸素状態」は、特定の臓器または組織への酸素の供給が遮断された状態を指す。
【0043】
[066] 「虚血性傷害」は、虚血の期間の結果としての臓器または組織の細胞および/または分子の損傷を指す。
【0044】
[067] 「再灌流」は、流れ無しまたは流れの低減の期間の後の組織内への流体の流れの復帰を指す。例えば、心臓の再灌流では、流体供給または血液供給の閉塞を除去した後、in vivoで冠動脈などの供給ラインによって、流体または血液が心臓に戻る。
【0045】
[068] 用語「ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ」または「PDK」は、4つの公知のPDKアイソザイムのうちのいずれか1つを指す。4つの公知のヒトアイソザイムとしては、PDK1(GenBank受託番号NP_002601;配列番号:11)、PDK2(GenBank受託番号NP_002602;配列番号:12)、PDK3(GenBank受託番号NP_001135858;配列番号:13)、およびPDK4(GenBank受託番号NP_002603;配列番号:14)がある。PDKは、それだけに限らないが、ラット、マウス、およびニワトリを含めた他の生物に由来するPDKアイソザイムも指す場合がある。いくつかの実施形態では、PDKは、ヒトPDK1、PDK2、PDK3、またはPDK4タンパク質配列と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%同一である配列を有するタンパク質を指す場合がある。
【0046】
[069] 「特異的な」または「特異性」は、δPKCによるδPKCリン酸化のΨPDKペプチドまたはΨPDKペプチド組成物による選択的調節を指す。ΨPDKペプチドは、ΨPDKペプチドまたはΨPDKペプチド組成物の存在下または非存在下で、δPKCによるPDKのリン酸化の量を、他の公知のδPKCリン酸化基質のリン酸化の量と比較することによって、調節(阻害または活性化)のその特異性について試験することができる。一実施形態では、リン酸化アッセイに特定のΨPDKペプチド阻害物質を添加して、ΨPDKペプチドの存在下および非存在下でδPKCによるPDKのリン酸化を測定すると、δPKCによるPDKのリン酸化が減少する。この実施形態では、δPKCによるPDKのリン酸化の減少は、PDKでない公知のδPKCリン酸化基質のδPKCによるリン酸化の減少より、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍大きい。
【0047】
II.ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK)モジュレーターペプチドの合理的な設計
[070] マウスおよびラット(Chenら、2001、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、98:11114-11119)、ブタ(Inagakiら、2003、Circulation、108:2304-2307)、ならびに場合によりヒト(Batesら、2008、Circulation、117:886-896)を含めた、心筋梗塞の様々な動物モデルにおいて、ΨRACK、δPKC特異的活性化因子を用いて心虚血および再灌流傷害(すなわち、心発作で誘導される傷害)を治療すると、δPKC媒介心外傷が増大し、一方、δV1−1、δPKC特異的ペプチド性インヒビターを用いて治療すると、この傷害が阻止されたことが以前に示されている(Chenら、2001、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、98:11114-11119)。
【0048】
[071] δPKCの多数の基質が様々な細胞型において同定されており、これらは、異なる細胞内の位置で見つかる。これらとして、必ずしもそれだけに限らないが、ミリストイル化アラニンリッチC−キナーゼ基質(MARCKS)(Disatnikら、2002、J. Cell. Sci.、115:2151-2163; Myatら、1997、Curr. Biol. 7:611-614)、オクルディン(Qiら、2008、J. Clin. Inv.、118:173-182)、ならびに原形質膜において見つかるいくつかのイオンチャネル(Barmanら、2004、Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol.、186:L1275-L1281);小胞体上にあるc−Abl(Qiら、2008、J. Cell Sci.、121:804-813);ミトコンドリア上のダイナミン関連タンパク質1(Drp-1)(Qiら、2010、Mol. Biol. Cell、22:256-265);ならびに細胞質ゾル内にあるピルビン酸キナーゼおよび熱ショックタンパク質(HSP27)(Siwkoら、2007、Int. J. Biochem. Cell Biol.、39:978-987)が挙げられる。
【0049】
[072] 組織に虚血/再灌流を受けさせた後に、δPKCによるPDKのリン酸化を特異的に阻害するペプチドモジュレーターの同定および特徴付けに関係する研究を以下に記載する。この高度に選択的なペプチドは、虚血/再灌流事象後に通常観察される組織損傷の低減に有効であり、それによって、虚血性障害を治療および/または予防するための新規療法をもたらす。
【0050】
[073] δPKCの単一のリン酸化機能−−PDKのリン酸化の特異的阻害物質を同定するのに、合理的な設計手法を使用した。この合理的な手法は、PKCの結合タンパク質RACK(εV1-1およびδV1-1など;
図1a、e)(Johnsonら、1996、J. Biol. Chem.、24962-24966; Dornら、1999、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、96:12798-12803; Brandmanら、2007、J. Biol. Chem.、282:4113-4123)へのPKCアンカリングを妨害することによって、PKC活性を選択的に阻害するペプチドを同定するのに以前に使用された(Chenら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、98:11114-11119; Brandmanら、2007、J. Biol. Chem.、282:4113-4123)。さらに、自己阻害相互作用を妨害し、したがって対応するアイソザイム(例えば、ΨεRACKおよびΨδRACK)の活性化因子として作用するペプチドが同定された(Chenら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、98:11114-11119; Ronら、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、92:492-496)。
【0051】
[074] 次いでこの阻害物質は、PDKのδPKC媒介リン酸化が、虚血事象後のδPKC依存心外傷に要求されることを示すのに使用された。このペプチド阻害物質は、ΨPDKと本明細書で呼び、PDKのδPKC媒介リン酸化を阻害したが、MARCKSまたはDrp1などの他のδPKC基質のリン酸化を阻害しなかった。δPKCに対するその特異性は、δPKCを欠く細胞内でΨPDKの効果がないことによっても明白である。
【0052】
[075] ΨPDKペプチドは、PDK2(ALSTD;配列番号:5)、δPKCの直接基質と、δPKC(ALSTE:配列番号:1)との間の類似性の短い配列を代表する。ΨPDK部位、ALSTEと同様に、これらのペプチドは、すべてC2ドメインに由来する。しかし、ΨPDKの作用は異なる。
【0053】
[076] 用語「ΨPDK」は、δPKCによるPDKのリン酸化を選択的に阻害するペプチド配列を指す。言い換えれば、ΨPDKペプチドを含む組成物は、δPKCによるPDKのリン酸化を低減するが、δPKCによってリン酸化されることが知られている任意の他の基質(および上記に記載の)のリン酸化に影響しない。ΨPDKは、このような基質(PDKでない)のδPKCリン酸化に対する効果が、等価なアッセイ条件下で、δPKCによるPDKのリン酸化に対するΨPDKペプチドの効果より単に低いペプチドを包含することになることが理解される。「より低い」効果は、δPKCによるリン酸化の5%〜20%、10%〜50%、30%〜50%、40%〜60%、50%〜80%、70%〜90%、80%〜95%、または90〜99%の減少を包含し得る。代わりに、この「より低い」効果は、δPKCによるリン酸化の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、または99%の減少を包含する。
【0054】
[077] ΨPDKは、本明細書で記載するように同定された選択的モジュレーターペプチドと同様であるコアアミノ酸配列を含む。このコアアミノ酸配列は、PDK2配列、ALSTE(配列番号:1)と少なくとも60%同一である。しかし、δPKCによるPDKのリン酸化を選択的に阻害することができるペプチドは、5アミノ酸残基のこのコア配列より有意に長い場合がある。例えば、ΨPDKモジュレーターペプチドは、長さが5〜20アミノ酸、または長さが6〜15アミノ酸である場合がある。いくつかの実施形態では、追加のアミノ酸は、コア配列のN−末端、C−末端、またはN−末端とC−末端の両方とすることができ、PDK配列に由来する。したがって、ΨPDKモジュレーターペプチドの全長は、ΨPDKモジュレーターペプチドが有効であるPDKタンパク質内の同じ長さの配列と、少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、または99%同一となる。ペプチドは、ホモサピエンスに由来するアミノ酸配列を主に参照して記載されているが、ペプチドは、本明細書に示される特定のアミノ酸配列に限定されないことが理解される。
【0055】
[078] ΨPDKペプチドは、以下に記載するものなど、天然型で使用し、または担体へのコンジュゲーションによって修飾することができることが理解されることになる。代わりに、配列から1個または2個のアミノ酸を、置換し、または欠失させることができる。各ペプチドの例示的な修飾、誘導体、および断片を以下に示す。いくつかの実施形態では、ΨPDKペプチドは、AISTER(配列番号:6)、AVSTER(配列番号:7)、ALTTER(配列番号:8)、ATSSER(配列番号:9)、またはALSTDR(配列番号:10)である。
III.担体部分を含む調節ΨPDKペプチド組成物
【0056】
[079] δPKC特異的PDKリン酸化の阻害に有用な調節ΨPDKペプチドは、細胞膜を横断する調節ペプチド組成物の移動を促進するペプチド部分に結合または連結させることができる。このペプチド担体は、Tat、ショウジョウバエアンテナペディアタンパク質、ポリアルギニンまたはポリリシンなどのポリカチオン性ペプチド(例えば、(R)
7)、ペネトラチン、Tat、VT5、MAP、トランスポータン、トランスポータン−10、pVEC、pISL、Pep−1、およびマウスPrPC(1-28)を含めた、細胞膜を横断する移動を促進するための当技術分野で公知のいくつかのペプチド担体のいずれか1つとすることができる(Lundbergら、2003、J. Mol. Recognit.、16:227-233、米国特許公開第2003/0104622号および同第2003/0199677号を参照)。好適な実施形態では、担体ペプチドは、Tat由来輸送ポリペプチド(米国特許第5,747,647号および同第5,804,604号; Vivesら、J. Biol. Chem.、272:16010-16017(1997))、ポリアルギニン(米国特許第4,847,240号および同第6,593,292号; Mitchellら、2000; Rolhbardら、2000)、またはアンテナペディアペプチド(米国特許第5,888,762号)である。これらの参考文献の開示は、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0057】
[080] 調節ペプチドは、ジスルフィド結合によって担体ペプチドに連結することができる。いくつかの実施形態では、ジスルフィド結合は、2つのシステイン、2つのシステイン類似体、またはシステインとシステイン類似体との間で形成される。この実施形態では、調節ペプチドおよび担体ペプチドは共に、少なくとも1つのシステインまたはシステイン類似体を含有する。システイン残基あるいは類似体は、ペプチドのN−末端残基もしくはC−末端残基として、あるいは調節ペプチドおよび担体ペプチドの内部残基として存在し得る。次いでジスルフィド連結が、システイン残基またはシステイン類似体のそれぞれの硫黄残基同士間で形成される。したがって、ジスルフィド連結は、例えば、調節ペプチドのN−末端と担体ペプチドのN−末端、調節ペプチドのC−末端と担体ペプチドのC−末端、調節ペプチドのN−末端と担体ペプチドのC−末端、調節ペプチドのC−末端と担体ペプチドのN−末端、または調節ペプチドおよび/もしくは担体ペプチド内の任意の内部位置におけるものを含めた任意の他のこのような組合せの間で形成することができる。
【0058】
[081] 調節ペプチドは代わりに、融合タンパク質の一部とすることができる。一般に、融合タンパク質を形成するために、ペプチドは、Cys−Cys結合以外の結合によって別のペプチドに結合している。一方のペプチドのC−末端から他方のペプチドのN−末端へのアミド結合は、融合タンパク質中の結合の例示的なものである。この実施形態は、調節ペプチドおよび担体ペプチドの両方を含む単一線形ペプチド組成物を形成するための調節ペプチドと担体ペプチドとの間の、かつこれらを連結するペプチド結合の存在を包含する。調節ペプチドを担体ペプチドのN−末端とすることができ、または担体ペプチドを調節ペプチドのN−末端とすることができる。
【0059】
[082] 短いリンカーペプチドが、単一線形ペプチド組成物内の調節ペプチドと担体ペプチドとの間に存在してもよい。リンカーペプチドは、2〜15個のアミノ酸を含むことができる。代わりに、リンカーペプチドは、2〜10個のアミノ酸、3〜10個のアミノ酸、4〜10個のアミノ酸、2〜8個のアミノ酸、3〜7個のアミノ酸、または4〜6個のアミノ酸を含む場合がある。リンカーペプチドは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個のアミノ酸を含むことができる。いくつかの実施形態では、リンカーペプチドは、1、2、3、4、または5個のグリシン残基を含む。他の実施形態では、リンカーペプチドは、1、2、3、4、または5個のアラニン残基を含む。さらに他の実施形態では、リンカーペプチドは、少なくとも1個のセリン残基を含む。好適な実施形態では、リンカーは、Gly−Ser−Glyである。リンカーペプチドは、任意のアミノ酸またはアミノ酸類似体を含み得ることが理解される。単一線形ペプチド組成物は代わりに、調節ペプチドと担体ペプチドとの間に存在する単一のアミノ酸を有することができる。
【0060】
IV.ΨPDKの作用機序
[083]
図8は、ΨPDKの作用機序を要約するスキームを提供する。ΨPDKは、細胞質ゾル内の基質のリン酸化を増大させるが(S1、左側に緑色で囲んである)、これは、PDKのリン酸化を阻害する(S2、右側に赤色で囲んである)。ΨPDKの阻害効果は、任意の細胞内コンパートメント内のすべての基質のδPKCリン酸化を阻害するδV1−1と異なる(
図1Aの中央パネルを参照)。ΨPDKは、すべてのδPKC基質のリン酸化を増大させるΨδRACKとも異なる(
図1A、右パネル)。したがって、ΨPDKは、他のδPKC媒介機能を阻害することなく、ミトコンドリア機能のPDKレギュレーションに関連したδPKC機能を区別する最初のδPKC特異的ペプチドモジュレーターである。重要なことに、ΨPDKは、PDKのδPKC媒介リン酸化は、虚血事象後のδPKC依存心外傷に要求される、主要なまたは唯一のリン酸化事象であり得ることを実証する。
【0061】
[084] 多くのミトコンドリアタンパク質は、そのN−末端に20〜50アミノ酸から構成されるミトコンドリア標的化シグナル(MTS)を有し、これは、ミトコンドリアインポートシステムによって認識される。δPKCは、このようなミトコンドリア標的化配列を含有しないので、ΨPDKがミトコンドリア内へのδPKCの侵入を実際に誘導したことを確認するための実験を行った。ミトコンドリア分画に付随するδPKCは、プロテイナーゼK消化に対して耐性であり(
図4C)、δPKCは、ミトコンドリアに確かに入ることを示す。しかし、ミトコンドリア内へのδPKCインポートの機構は、同定されないままである。
【0062】
[085] ミトコンドリア内酵素ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)は、クレブス回路内への侵入のために、解糖に由来するピルビン酸をアセチル−CoAに変換するので、心臓における好気的呼吸への解糖の寄与の重要なレギュレーターである。酵素活性の一部は、それぞれ、リン酸化依存および脱リン酸化依存阻害および活性化によってレギュレートされる(Patelら、2001. Exp. Mol. Med.、33:191-197)。PDHのリン酸化を触媒し、その活性を調節する酵素は、PDKである。PDHが虚血後の心臓の収縮機能の回復をレギュレートするという証拠がある(Lewandowskiら、1995、Circulation、91:2071-2079; Stanleyら、1996、J. Mol. Cell. Cardiol.、28:905-914)。ここで、I/Rで誘導されるPDKリン酸化の増大は、PDHリン酸化の増大と関連し、ΨPDKの存在下で阻止されることが示される(
図5)。δPKC特異的阻害物質、δV1−1が再灌流時に添加されるとき、同じ結果が得られる(
図5)。本試験におけるペプチド担体であるTAT
47−57ペプチドは、ミトコンドリア膜を通過することが示されているので(Rayapureddiら、2010、Biochemistry、49:9470-9479; Gaizoら、2003、Mol. Genet. Metab.、80:170-180)、ΨPDK−TATコンジュゲートがミトコンドリア膜を通過し、ミトコンドリア内部のPDK/δPKC相互作用を阻止した可能性がある。この効果は、細胞質ゾル画分内のΨPDKとδPKCとの相互作用に加えたものとなり得、これは、δPKCのトランスロケーションをもたらし、MARCKSリン酸化を増大させる(
図2、
図5)。さらに、ΨPDKは、ミトコンドリアにトランスロケーションするとδPKCに結合してミトコンドリアの分裂を媒介する別のδPKC特異的基質であるDrp1のリン酸化に影響することなく、in vitroでPDKのリン酸化を減少させることが本明細書で示される(Qiら、2010、Mol. Biol. Cell.、22:256-265)。ΨPDKは、δPKCと、その細胞質ゾル基質Drp1、または原形質膜に位置したMARCKSとの相互作用を阻止しないことが示された
ので、ΨPDKの効果は、δPKCによるPDKのリン酸化に特異的であると結論づけられる。
【0063】
[086] キナーゼモジュレーターは、基礎研究および薬剤にとって非常に重要である。多数のキナーゼモジュレーターが、早期に開発されている。これらのレギュレーターのほとんどは、多くは広い活性を伴い、他のものはより高い選択性を伴った小分子である(Karamanら、2008、Nat. Biotech.、26:127-132)。しかし、本発明者らの知る限りでは、単一シグナル伝達分子に特異的なモジュレーターペプチドが報告されるのは、これが最初である。本発明者らの研究は、このような特異的なレギュレーターを合理的に設計することができ、これらのペプチドは、例えば、所与のPKCアイソザイムのいくつかの細胞機能の1つの役割を求めるのに不足しているツールを提供することを実証する。この手法は、他のシグナル伝達タンパク質におそらく適用可能であり、他のタンパク質間相互作用の機能分離レギュレーターの生成を可能にする。
【0064】
V.使用方法
[087] 本明細書に記載の調節ペプチドおよびペプチド組成物は、虚血および生じる低酸素に起因する臓器、組織、および/または細胞の損傷を予防または低減するために、それを必要とする対象に投与することができる。このようなペプチドは、虚血後の心不全の進行の減速もしくは阻害、生存時間の延長、短縮率の低減、左心室重量と体重の比の低減、線維症の低減、対象のEKG/ECGを健康な動物のものにより酷似させること、および/またはこれらの組合せに有用である。ペプチドは、移植手順の間の虚血性障害から心臓を保護するのに特に価値のあるものとなり得る。したがって、ここに記載のペプチドおよびペプチド組成物は、例えば、心血管疾患、心虚血、心虚血/再灌流傷害、心筋梗塞、慢性安定狭心症、もしくは急性冠状動脈症候群を罹患している、または心臓移植を受けている、もしくは受けたことがある対象の治療に有用である。
【0065】
[088] ある特定の実施形態では、心血管障害に罹るリスクのある、またはそれに罹った個体を治療する方法が提供される。このような方法は、心臓組織の損傷または傷害を低減する薬理学的有効量のΨPDKペプチド組成物を個体に投与する工程を含む。「有効量」または「薬理学的有効量」は、治療される対象に治療効果、例えば、再灌流傷害の低減などを与えるのに要求される化合物の量を指す。有効用量はまた、当業者が認識するように、投与経路、賦形剤の使用量、および他の治療的処置との任意選択の併用に応じて変化することになる。なおさらに別の実施形態では、心血管疾患から心臓を保護する方法が存在する。このような方法は、ΨPDKペプチド組成物を投与する工程を含み、投与により、ΨPDKペプチド組成物の不投与、または対照ペプチド組成物の投与での結果と比較して、心筋梗塞サイズが低減され、心血行動態性能が改善され、心不全症状が改善され、心毒性薬のアポトーシス作用が低減され、またはこれらの組合せがもたらされる。低減することは、それだけに限らないが、梗塞サイズを含めた、虚血および/または再灌流に起因する傷害の量の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、もしくは100%の減少、またはその間の任意の値もしくは範囲を指すことができる。
【0066】
[089] ある特定の実施形態では、ΨPDKペプチドおよびペプチド組成物は、第2の治療剤を含む1つの組成物で同時投与することができる。このようにして、当業者は、ΨPDKペプチドを個々に、組合せで、または第2の治療剤と組み合わせて使用することによって、例えば、心血管疾患、もしくは心虚血、心虚血/再灌流、心筋梗塞、慢性安定狭心症、急性冠状動脈症候群からの傷害、または心臓移植から生じる合併症の進行を遅らせ、もしくは阻害するための薬物を調製することができることを認識することになる。
【0067】
VI.製剤
[090] 記載した化合物、および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物が提供される。このような医薬組成物を調製する方法は、一般に、担体部分を含み、または含まない記載した化合物、および任意選択により1種または複数の副成分を会合させる工程を含む。記載した化合物および/またはこれを含む医薬組成物は、当業者に公知の従来法によって製剤化して薬学的に許容される剤形にすることができる。一般に、製剤は、記載した化合物を液体担体、もしくは微粉化した固体担体、または両方と均一かつ密接に会合させ、次いで必要であれば、生成物を成形することによって調製される。非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、砂糖、アルコール、アミノ酸、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、製剤を意図されたレシピエントの血液と等張性にする溶質、または懸濁剤もしくは増粘剤を含有し得る、1種または複数の薬学的に許容される滅菌等張性水性もしくは非水性溶液、分散液、懸濁液、またはエマルジョン、または使用直前に再構成して滅菌注射用溶液もしくは分散液にすることができる滅菌粉末と組み合わせて、1種または複数の記載した化合物を含む。
【0068】
[091] 本発明の医薬組成物中に使用することができる適当な水性担体および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適当な混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルがある。例えば、レシチンなどのコーティング材を使用することによって、分散液の場合では要求される粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を維持することができる。
【0069】
[092] これらの医薬組成物は、補助剤、例えば、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤なども含有することができる。記載した化合物に対する微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含めることによって保証され得る。張性を制御するための作用物質、例えば、砂糖、塩化ナトリウムなどを組成物中に含めることが望ましい場合もある。さらに、注射用医薬品形態の吸収の延長は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどを含めることによってもたらすことができる。
【0070】
[093] いくつかの場合では、薬剤の効果を延ばすために、皮下注射または筋肉内注射からの薬剤の吸収を遅くすることが望ましい。これは、難水溶性を有する結晶性または非晶質材料の液体懸濁液を使用することによって達成することができる。このとき薬剤の吸収速度は、その溶解速度に依存し、これはひいては結晶サイズおよび結晶形に依存し得る。代わりに、非経口投与される薬剤形態の吸収の遅延は、油ビヒクル中に薬剤を溶解または懸濁させることによって達成される。
【0071】
[094] 例えば、記載した化合物は、固体形態の薬剤を液体で再構成することによって作製される溶液の形態でヒトに送達することができる。この溶液は、注入液、例えば、注射用水、0.9%塩化ナトリウム注射剤、5%デキストロース注射剤、および乳酸加リンガー注射剤などでさらに希釈することができる。再構成され、希釈された溶液は、最大効力で送達するために4〜6時間以内に使用されることが好適である。代わりに、記載した化合物は、錠剤またはカプセルの形態でヒトに送達してもよい。
【0072】
[095] 注射可能デポー形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中で記載した化合物のマイクロカプセル化したマトリックスを形成することによって作製される。薬剤とポリマーの比、および使用される特定のポリマーの性質に応じて、薬剤放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(アンヒドリド)がある。デポー注射用製剤は、体組織に適合するリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬剤を封入することによっても調製される。
【0073】
[096] 記載した化合物がヒトおよび動物に医薬品として投与される場合、これらは、単独で、または例えば、医薬として許容可能な担体と組み合わせて0.1〜99%(より好ましくは10〜30%)の活性成分を含有する医薬組成物として与えることができる。他の実施形態では、医薬組成物は、0.2〜25%、好ましくは0.5〜5%または0.5〜2%の活性成分を含有することができる。これらの化合物は、例えば、皮下注射、皮下デポー、静脈内注射、静脈内注入または皮下注入を含めた任意の適当な投与経路による療法のために、ヒトおよび他の動物に投与することができる。これらの化合物は、大量瞬時投与として迅速に(1分未満以内)、または長時間にわたって(数分、数時間、または数日にわたって)よりゆっくり投与することができる。これらの化合物は、毎日、または複数日にわたって、連続的もしくは断続的に送達してもよい。一実施形態では、化合物は、経皮投与される場合がある(例えば、パッチ、微細針、マイクロ細孔、軟膏、マイクロジェット、またはナノジェットを使用して)。
【0074】
[097] 選択される投与経路にかかわらず、適当な水和形態で使用され得る記載した化合物および/または医薬組成物は、当業者に公知の従来法によって製剤化して薬学的に許容される剤形にされる。
【0075】
[098] 医薬組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者に有毒であることなく、特定の患者、組成物、および投与方法に対して所望の治療応答を実現するのに有効な活性成分の量を得るように変更することができる。
【0076】
[099] 選択される投与量レベルは、使用される特定の記載した化合物、またはそのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与経路、投与の時間、使用される特定の化合物の排泄率または代謝率、吸収の速度および程度、治療の継続時間、使用される特定の化合物と組み合わせて使用される他の薬剤、化合物、および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康、および前の病歴、ならびに医術で周知の同様の要因を含めた様々な要因に依存することになる。
【0077】
[100] 当技術分野における通常の技術を有する医師または獣医は、要求される医薬組成物の有効量を容易に決定および処方することができる。例えば、医師または獣医は、所望の治療効果を実現するのに要求されるレベルより低いレベルで医薬組成物中に使用される記載した化合物の用量から開始し、所望の効果が実現されるまで投与量を徐々に増やすことができる。
【0078】
[101] 一般に、記載した化合物の適当な一日量は、治療効果を生じさせるのに有効な最低用量である化合物の量となる。このような有効用量は一般に、上述した要因に依存することになる。一般に、患者に対する記載した化合物の静脈内、筋肉内、経皮、脳室内、および皮下用量は、指定された効果に対して使用される場合、1時間当たり、体重1キログラム当たり約1μg〜約5mgの範囲となる。他の実施形態では、用量は、1時間当たり、体重1キログラム当たり約5μg〜約2.5mgの範囲となる。さらなる実施形態では、用量は、1時間当たり、体重1キログラム当たり約5μg〜約1mgの範囲となる。
【0079】
[102] 必要に応じて、記載した化合物の有効な一日量は、1日を通して適切な間隔で、任意選択により単位剤形で、別個に投与される2、3、4、5、6、またはそれ以上のサブ用量として投与することができる。一実施形態では、記載した化合物は、1日当たり1回の用量として投与される。さらなる実施形態では、化合物は、静脈内または他の経路を通じて連続的に投与される。他の実施形態では、化合物は、毎日より低い頻度、例えば、透析治療と併せて2〜3日毎、毎週、またはより低い頻度などで投与される。
【0080】
[103] この治療を受ける対象は、霊長類、特に、ヒト、ならびに他の哺乳動物、例えば、ウマ、ウシ、ブタ、およびヒツジなど、ならびに一般的に家禽およびペットを含めた、必要のある任意の動物である。
【0081】
[104] 記載した化合物は、そのまま投与しても、または医薬として許容可能な担体との混合物で投与してもよく、抗微生物剤、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、アミノ−グリコシド、および糖ペプチドなどと併せて投与することもできる。したがって、併用療法(conjunctive therapy)には、最初に投与されるものの治療的効果が、後続のものが投与されるとき完全に消滅しないように、活性化合物を連続して、同時に、および別個に投与することが含まれる。
【0082】
VII.開示した化合物の投与経路
[105] これらの化合物は、任意の適当な投与経路による療法に対してヒトおよび他の動物に投与することができる。本明細書において、用語である投与の「経路」は、それだけに限らないが、皮下注射、皮下デポー、静脈内注射、静脈内注入もしくは皮下注入、眼内注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、気管内投与、イントラアディポーザル(intraadiposal)投与、関節内投与、クモ膜下投与、硬膜外投与、吸入、鼻腔内投与、舌下投与、頬側投与、直腸投与、膣内投与、槽内投与、および局所投与、経皮投与、または局所的送達を介した投与(例えば、カテーテルもしくはステントによる)を含むことが意図されている。
【0083】
[106] 体への経皮薬剤送達は、対象への生物学的活性物質の全身送達、特に、タンパク質およびペプチドなどの芳しくない経口生物学的利用能を有する物質の送達にとって望ましく好都合な方法である。経皮経路の送達は、スコポラミンおよびニコチンなどの小さい(例えば、約1,000ダルトン未満)親油性化合物で特に成功しており、これらは、体内への物質の侵入に対する有効なバリアとして働く、皮膚の角質層外層を貫通することができる。角質層の下は生存表皮であり、これは、血管をまったく含有しないが、いくつかの神経を有する。さらにより深い所は、真皮であり、これは、血管、リンパ管、および神経を含有する。角質層バリアを横切る薬剤は、一般に、真皮内の毛細血管に拡散し、吸収され、全身に分布し得る。
【0084】
[107] 経皮送達における技術的進歩は、皮膚を横断して、タンパク質およびペプチドなどの親水性高分子量化合物を送達するための当技術分野における必要性に対処することに集中している。一手法では、角質層がもたらすバリアを低減するために、化学的または物理的方法を使用して角質層を破壊する。最小限に侵襲性の技法を使用して、皮膚内にミクロン寸法の輸送経路(マイクロ細孔)(特に、角質層内のマイクロ細孔)を創製する皮膚マイクロポレーション技術は、より最近の手法である。皮膚(角質層)内にマイクロ細孔を創製する技法としては、熱マイクロポレーションまたはアブレーション、微細針アレイ、音波泳動法、レーザーアブレーション、および高周波アブレーションがある(PrausnitzおよびLanger (2008) Nat. Biotechnology 11:1261-68: Aroraら、Int. J. Pharmaceutics、364:227(2008); Nandaら、Current Drug Delivery、3:233(2006); Meidanら、American J. Therapeutics、11:312(2004))。
【0085】
[108] 一実施形態では、モジュレーターペプチドは、マイクロポレーションを介して送達される。マイクロポレーションのいくつかの技法のいずれか1つを企図し、いくつかを簡単に記載する。
【0086】
[109] マイクロポレーションは、皮膚の表面を通じて、下にある皮膚層および/または血流中に本明細書に記載のカルシウム様剤を送達するように角質層を破るために、機械的手段および/または外部原動力によって実現することができる。
【0087】
[110] 第1の実施形態では、マイクロポレーション技法は、下にある表皮を著しく損傷することなく、角質層をアブレートするのに十分な波長、パルス長、パルスエネルギー、パルス数、およびパルス繰り返し率のパルスレーザー光を使用する、皮膚の特定領域内の角質層のアブレーションである。次いでカルシウム様剤が、アブレーションの領域に施される。レーザー誘起応力波(LISW)と呼ばれる別のレーザーアブレーションマイクロポレーション技法は、高出力パルスレーザーによって生成される広帯域、単極、および圧縮性の波を伴う。LISWは、組織と相互作用して角質層内の脂質を破壊し、角質層内に一過性に細胞間チャネルを創製する。角質層内のこれらのチャネルまたはマイクロ細孔により、カルシウム様剤の侵入が可能になる。
【0088】
[111] 超音波導入または音波泳動法は、超音波エネルギーを使用する別のマイクロポレーション技法である。超音波は、20KHz超の周波数を有する音波である。超音波は、連続的に、またはパルスで印加することができ、様々な周波数および強度の範囲で印加することができる(Nandaら、Current Drug Delivery、3:233(2006))。
【0089】
[112] 別のマイクロポレーション技法は、微細針アレイを使用する。微細針のアレイは、対象の皮膚領域に適用されるとき、角質層に穴を開け、神経を著しく刺激する、または毛細血管を刺す深さに侵入しない。患者は、調節剤が送達されるマイクロ細孔を生成するために微細針アレイを適用する際に不快感または痛みをまったく感じないか、最小の不快感または痛みを感じる。
【0090】
[113] 中空または中実の微細針から構成される微細針アレイが企図されており、この場合、調節剤は、針の外面に被覆し、または中空針の内側から投薬することができる。微細針アレイの例は、例えば、Nandaら、Current Drug Delivery、3:233(2006)およびMeidanら、American J.Therapeutics、11:312(2004)に記載されている。第一世代の微細針アレイは、治療剤で外部から被覆された中実のシリコン微細針から構成されていた。針のマイクロアレイが皮膚に押し付けられ、約10秒後に取り外されると、体内への針上の作用物質の浸透が容易に実現される。第二世代の微細針アレイは、中実のシリコンもしくは中空のシリコン、ポリカーボネート、チタン、または他の適当なポリマーの微細針で構成され、治療化合物の溶液で被覆され、または満たされていた。より新しい世代の微細針アレイは、生分解性ポリマーから調製されており、この場合、治療剤で被覆された針の先端部は、角質層内に残り、徐々に溶解する。
【0091】
[114] 微細針は、金属、セラミック、半導体、有機物、ポリマー、および複合材料を含めた様々な材料から構築することができる。構築物の例示的な材料としては、医薬品グレードのステンレス鋼、金、チタン、ニッケル、鉄、スズ、クロム、銅、パラジウム、白金、これらまたは他の金属の合金、シリコン、二酸化ケイ素、およびポリマーがある。代表的な生分解性ポリマーとしては、乳酸およびグリコール酸などのヒドロキシ酸のポリマー、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリラクチド−co−グリコリド、ならびにポリ(エチレングリコール)とのコポリマー、ポリアンヒドリド、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ならびにポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)がある。代表的な非生分解性ポリマーには、ポリカーボネート、ポリエステル、およびポリアクリルアミドが含まれる。
【0092】
[115] 微細針は、まっすぐな、または先細のシャフトを有することができる。一実施形態では、微細針の直径は、微細針の基端で最大であり、基部の遠位の端で先細になって点になる。微細針は、まっすぐな(先細になっていない)部分および先細の部分の両方を含むシャフトを有するように製作することもできる。針は、先細端部をまったく有さない場合もあり、すなわち、これらは単に、とがっていない、または平らな先端部を有する円柱であってもよい。実質的に均一な直径を有するが、先細になって点になっていない中空微細針は、「マイクロチューブ」と本明細書で呼ばれる。本明細書において、用語「微細針」は、別段の指定のない限り、マイクロチューブおよび先細針の両方を含む。
【0093】
[116] 電気穿孔は、皮膚内にマイクロ細孔を創製するための別の技法である。この手法では、角質層内に一過性の透過性の孔を創製するために、マイクロ秒またはミリ秒の長さの高電圧電気パルスの印加が使用される。
【0094】
[117] 他のマイクロポレーション技法には、皮膚内にマイクロチャネルを創製するための電波の使用が含まれる。熱アブレーションは、経皮的に、より大きい分子量の化合物の送達を実現するためのさらに別の手法である。
【0095】
[118] 本明細書で述べられるすべての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。しかし、特別の定義を含有する特許、特許出願、または刊行物が参照により組み込まれている場合、これらの特別の定義は、これらが見つかる組み込まれた特許、特許出願、または刊行物に適用され、本願の本文、特に、本願の特許請求の範囲に必ずしも適用されないことが理解されるべきであり、この場合では、本明細書に提供される定義が、取って代わるものである。
【0096】
[119] 以下の実施例は、本発明の実施方法の完全な開示および記述を当業者に提供するように示されており、本発明者らが自身の発明とみなすものの範囲を限定するように意図されていない。数値(例えば、量、温度など)に関して精度を保証する取り組みを行ってきたが、いくらかの誤差および偏差が考慮されるべきである。別段の指定のない限り、部は、重量部であり、温度は℃であり、圧力は、大気または大気付近のものである。
【実施例】
【0097】
実施例1
材料
[120] 細胞培養。線維芽細胞を、以前に記載されたように(Disatnikら、2004、J. Cell Sci.、117:4469-4479)、野生型またはδPKCノックアウトマウス(Robert Messing博士、Gallo Center、UCSFにより提供)から単離し、20%ウシ胎児血清中で維持した。
【0098】
[121] ペプチド合成。Liberty Microwave Peptide Synthesizer(CEM Corporation、Matthews、NC、USA)またはAmerican Peptide(CA、USA)によって、電子レンジを使用してペプチドを合成した。ペプチドを、Chenら(2001、Chem. Biol.、8:1123-1129)に記載されているように、ジスルフィド結合によってTAT担体にコンジュゲートし、または1つのポリペプチド:
N−末端 − TAT − スペーサー − カーゴ − C−末端
として合成した。
【0099】
[122] ペプチドのC−末端を、Sabatinoら(Cur. Opin. in Drug Disc. & Dev.、11:762-770)に記載されているように、Rink Amide AM樹脂を使用して修飾してC(O)−NH
2にすることによって安定性を増大させた。ペプチドを、分析用逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)(Shimadzu、MD、USA)およびマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析法(MS)によって分析し、分取RPHPLC(Shimadzu、MD、USA)によって精製した。
【0100】
[123] 線維芽細胞内のPKC基質リン酸化。ミリストイル化アラニンリッチCキナーゼ基質(MARCKS)、ユビキタスPKC基質のリン酸化を、抗リン酸化MARCKS(Cell Signaling、Danvers、MA)を使用して、総細胞可溶化物のウエスタンブロットによってモニターした。抗MARCKS抗体および抗δPKC抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz Biotechnology、CA、USA)から得た。
【0101】
[124] 虚血/再灌流(I/R)に対するex vivo心保護。急性虚血性心損傷のex vivoモデルを使用した。これは、30分の平衡期間、その後の30分の広範囲の虚血を伴い、次いでこれに60分の再灌流が続いた。心臓を1μMのTATまたはTAT−コンジュゲートペプチドで灌流した。正常酸素圧の対照心臓に、虚血にしないで90分の灌流にかけた。冠流液(coronary effluent)を収集して、再灌流期間の最初の30分中のクレアチンホスホキナーゼ(CPK)放出を求めた。再灌流期間の最後に、心臓をスライスして厚さ1mmの横断切片にし、塩化トリフェニルテトラゾリウム溶液(TTC、リン酸塩緩衝液中1%、pH7.4)中で、37℃で15分間インキュベートした。梗塞サイズを、危険ゾーン(総LV筋肉量と等価)の百分率として表した(Brandmanら、2007、J. Biol. Chem.、282; 4113-4123; Inagakiら、2003、Circulation、108:869-875に記載された方法)。
【0102】
[125] ウエスタンブロット分析および2D分析。ラットの心臓を、210mMマンニトール、70mMスクロース、5mM MOPS、および1mM EDTAを含有する緩衝液中でホモジナイズし、その後ミトコンドリア分画を単離し(Churchillら、2008、J. Mol. Cell. Cardiol.、46:278-284に記載)、VDAC(MitoSciences、Eugene、OR、USA)の存在によって同定した。リン酸化および未リン酸化JNK1/2のレベルを、それぞれの特異的抗体(Cell Signaling、Danvers、MAおよびSanta Cruz Biotechnology、CA、USA)を使用して、総画分中で分析した。
【0103】
[126] ラットの心臓試料を使用する2−D IEF/SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を、以前に記載されたように実施した(Chenら、2008、Science、321:1493-1495)。10% SDSゲル電気泳動およびウエスタンブロッティングを、PDK2 c−末端ウサギ(Abgent、CA、USA)、PDHサブユニットE1 αモノクローナル(Invitrogen、CA、USA)、およびALDH2ヤギ(Santa Cruz Biotechnology、CA、USA)の抗体を使用して、標準方法によって実施した。
【0104】
[127] in vitroリン酸化アッセイ。ΨPDKの存在下でのPDKおよびDrp1リン酸化のレベルを求めるために、δPKC組換えタンパク質(Invitrogen、CA、USA:200ng)を、ペプチドと共に、またはこれを伴わないで10分間インキュベートし、次いで、組換えPDK2(Abnova、Taiwan)またはDrp1(Abnova、Taiwan)100ngを、少量のPKC活性化因子、ホスファチジルセリン(PS、1.25μg)、および1,2ジオレオイルsn−グリセロール(DG、0.04μg)の存在下で、5μCi[γ
32P]ATP(4500Ci/mmol、ICN)を含有するキナーゼ緩衝液(20mM Tris-HCl、20mM MgCl
2、1μM DTT、25μM ATP、1mM CaCl
2)40μl中で、37℃で20分にわたって添加した。5% SDSを含有するLaemmli緩衝液を添加することによって、キナーゼアッセイを終了し、試料を10% PAGE−SDSポリアクリルアミドゲルに装填し、リン酸化PDK2タンパク質のレベルを、ニトロセルロースに曝露してオートラジオグラフィーにかけることによって求めた。ニトロセルロースも、負荷対照のためにそれぞれの抗体を使用して再プローブした。
【0105】
[128] プロテイナーゼK消化。δPKCタンパク質が、I/R傷害後にミトコンドリアの内膜に位置しているか、外膜に位置しているかを判定するために、本発明者らは、30分の虚血、その後60分の再灌流にかけた心臓から、上述したようにミトコンドリアを単離した。それぞれのミトコンドリア抽出物(200μg)を、50μg/mlのプロテイナーゼK(ストック濃度20mg/ml、Invitrogen、CA、USA)で処理した。5mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を添加することによって消化を停止した。等量のタンパク質を、10% SDSゲルに装填し、δPKCならびにMFN1(ミトコンドリア外マーカー(outer mitochondrial marker))およびALDH2(ミトコンドリアマトリックスマーカー)についてプローブした。δPKCがプロテイナーゼK消化に感受性であることを判定するために、ミトコンドリア分画を1% Triton X−100で可溶化し、同じアッセイで対照として使用した。
【0106】
[129] ヒト組換えδPKC(Invitrogen、CA、USA;50ng;0.625pmole)を、ΨPDK(TATとコンジュゲートされていない、1nmol)と共にインキュベートした後、1μM DTTを含有する20mM Tris−HCl、pH7.4中のプロテイナーゼK(0.05μg/ml)を添加した。5mM PMSFを添加することによって指示された通り反応を停止した。
【0107】
[130] 統計的方法。データを平均±標準誤差として表す。対応のない検定を使用して、2群間の統計的差異(p<0.05)を明確にした。
【0108】
実施例2
δPKCとPDKの間の相同性に基づくペプチドの合理的な設計
[131] 対応するPKC相互作用タンパク質と相同である各PKC上の偽基質部位(Houseら、1987、Science、238:1726-1728)および疑似RACK部位(Dornら、1999、Proc. Natl. Acad. Sci.、96:12798-12803; Ronら、1995、Proc. Natl. Acad. Sci.、92:492-496)と同様に、δPKC中にPDK様配列がある可能性があると推論された。Lalign(Huangら、1991、Adv. appl. Math.、12:337-357)を使用する配列相同性検索により、δPKC中の配列(ALSTE、アミノ酸35-39;
図1B)とほとんど同一である、PDK中の5アミノ酸ストレッチ(ALSTD;アミノ酸391-395)が同定された。興味深いことに、PDK構造中のALSTD配列は、タンパク質間相互作用に利用可能な露出領域内に位置している(
図1B)。タンパク質間相互作用に極めて重要である配列の同定について確立された基準の1つは、これらの進化の保全である(Souroujonら、1998、Nat. Biotechnol.、16:919-924; Qvitら、2010、Drug Disc. Today: Dis. Mech.、7:e87-e93)。δPKCおよびPDK中のALESTE/D配列は、δPKCアイソザイム(
図1C、D)を有するすべての種において保全されている。上記原理によって支持されて、δPKCを欠く種では、配列は、追加の負電荷を含有し(例えば、ショウジョウバエ、
図1D)、または全体で欠損している(例えば、虫および酵母;
図1D、下)。
【0109】
[132] 予想外に、ALSTEは、δPKCのC2ドメイン内に見つかる。このドメインは、PKCのタンパク質間相互作用において極めて重要であり(Smithら、1992、Biochem. biophys. Res. Commun、188:1235-1240; Johnsonら、1996、J. Biol. Chem.、271:24962-24966; Brandmanら、2007、J. Biol. Chem.、282:4113-4123)、アイソザイム特異的阻害物質(例えば、εv1-2、δV1-1、およびθV1-2;
図1E)ならびに活性化因子(ΨεRACK、ΨδRACK、およびΨθRACK;
図1E)を含有することが既に判明していた。重要なことに、ALSTEは、εPKCまたはθPKC(θPKCは、δPKCとほとんど相同のアイソザイムである)中に見つからない(Baierら、1993、J. Biol. Chem.、268:4997-5004、
図1E)。δPKC中のALSTEは、θPKC中にも見つかるユニークなβヘアピンの一部であり、εPKCを含めた他のPKCアイソザイムでは欠損している(
図1F、囲まれた範囲)。
【0110】
[133] この配列が、PDKのδPKCレギュレーションに関与しているか否かを判定するために、対応するペプチドを合成した。タンパク質間相互作用の生物学的に活性なペプチド阻害物質の最小の長さは、6アミノ酸であり得ることが以前に観察されていたので、本発明者らは、1個のアミノ酸、RによってALSTEを伸長した(ALSTER、配列番号:2)。このペプチドをΨPDKと本明細書で呼ぶ。δPKC中のβヘアピン(
図1E〜F、囲まれた範囲)を完成するδV1−5ペプチドを、対照ペプチド(GKTLVQ、配列番号:4)として合成した。細胞内へのペプチドの送達を促進するために、ペプチドを、調節ペプチドまたは対照ペプチドのそれぞれのC−末端に位置したシステイン残基と担体ペプチドとの間でジスルフィド結合を介してTAT由来細胞透過性ペプチド、TAT
47−57(配列番号:33)にコンジュゲートした(
図2A)。
【0111】
実施例3
ΨPDKは、δPKCに特異的である:培養線維芽細胞における試験
[134] ΨPDK配列は、PDK、およびPDK同族タンパク質、δPKCの両方に見つかる。したがって、ΨPDKは、阻害性分子内相互作用を模倣すると予測された。ΨδRACKと同様に、ΨPDKは、PDKおよびδPKCの阻害性相互作用と競合し、δPKC媒介機能を増大させるはずである(
図1A)。ミリストイル化アラニンリッチC−キナーゼ基質(MARCKS)のリン酸化を、PKC活性のマーカーとして使用した(Disatnikら、2004、J. Cell. Sci.、117:4469-4479)。20%血清(活性化のためにPKCを刺激する(Disatnikら、2004、J. Cell. Sci.、117:4469-4479))を含有する培地中で培養した細胞を、ΨPDK(
図2A)またはδV1−5(細胞内へのこれらの送達を促進するために、それぞれをTAT
47−57とコンジュゲートした)と共にインキュベートすると、対照ペプチドと比べてMARCKSリン酸化が増大した(
図2C、左)。陽性対照として使用したPKCまたはΨδRACKの強力な活性化因子であるホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)も、MARCKSリン酸化を増大させた(
図2C、右)。δPKCに対するペプチドの選択性を判定するために、δPKCノックアウトマウスに由来する線維芽細胞も使用した。δV1−5は、これらの細胞内でMARCKSリン酸化を増大させた一方、ΨPDKは、δPKCを欠く細胞内でMARCKSリン酸化に影響しなかった(
図2D、2Dの挿入図)。これらのデータは、δPKC誘導ペプチド、ΨPDKおよびδV1−5は、MARCKSのδPKCリン酸化の活性化因子であるが、ΨPDKのみがδPKCに特異的であり、δV1−5はおそらく、複数のPKCアイソザイムに影響することを実証する。
【0112】
実施例4
ΨPDKは、IN VITROで、δPKCによるPDKリン酸化を特異的に阻害する
[135] ΨPDKは、δPKC中のPDK様配列に由来するので(
図1B)、このペプチドは、PDKのδPKCリン酸化に選択的な競合性阻害物質として作用するはずであることが推論された。この仮説を直接試験するために、δPKCがPDKをリン酸化する能力が判定されるin vitroキナーゼアッセイを使用した。ΨPDKは、PDKのδPKCリン酸化を約30%阻害した一方、対照ペプチドは阻害しなかった(
図3A)。PDKに対するΨPDKの選択性を、別のδPKC基質であるDrp1のin vitroリン酸化を検査することによって判定し(Qiら、2010、Mol. Biol. Cell.、22:256-265)、ΨPDKは、Drp1リン酸化に影響しないことが判明した(
図3B)。まとめると、これらのデータは、ΨPDKは、δPKCによるPDKリン酸化の特異的阻害物質であることを示唆する。
図3Cは、ΨPDKがδPKCに直接結合することを実証し、その理由は、このペプチドは、タンパク質分解に対するδPKCの感度を変化させたためである。プロテイナーゼK(PK)アッセイでは、ヒト組換えタンパク質δPKCは、ペプチド無しまたは対照ペプチド、ΨδRACKと比較して、ΨPDKの存在下でPK消化に対してより安定であることが示された。δPKCのPK分解に対するΨPDK誘導耐性は、特異的であった。PKによるタンパク質分解に対するεPKCまたはβ
IPKCの感度は、ΨPDKの存在によって影響されなかった。
【0113】
実施例5
ΨPDKは、虚血および再灌流(I/R)を受けたインタクトな心臓において、δPKCのミトコンドリア内へのトランスロケーションを増大させる
[136] δPKCによるミトコンドリアPDKのリン酸化は、心筋梗塞後のみで起こる。これらの条件下で、δPKCは、ミトコンドリア内にトランスロケートし(Churchillら、2005、Circ. Res.、97:78-85)、そこでこれは、PDKへのアクセスを有する。したがって、ΨPDKペプチドがミトコンドリア内へのδPKCのトランスロケーションに影響するか否かを最初に判定した。心筋梗塞を模倣する虚血および再灌流(I/R)条件の後(
図4A)、対照ペプチドで処置した心臓と比較して、心臓をΨPDKで処置したとき、ミトコンドリアとのδPKCの会合が2倍増加した(
図4B)。本発明者らは、ΨPDKは、正常酸素圧条件下では、ミトコンドリアへのδPKCのトランスロケーションを誘導しないことも見出した。δPKCが、ΨPDKで処置した後にミトコンドリアに入るか否かを判定するために、上記インタクトな心臓ミトコンドリアをプロテイナーゼK処置にかけた。外膜タンパク質、ミトフュージョン1(MFN1)は、完全に分解された(
図4C、下のパネル)。しかし、ミトコンドリアマトリックスタンパク質、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH2)と同様に、δPKCの大部分は、PKによるタンパク質分解に非感受性であった(
図4C;
図4Dで定量化)。これらのデータは、ΨPDKは、ミトコンドリア内へのI/R誘導δPKC侵入を増大させたことを示す。
【0114】
実施例6
ΨPDKは、I/R後のδPKC基質、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼのリン酸化を選択的に阻害する
[137] 上述したように、心虚血および再灌流後のPDKのδPKCリン酸化により、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)がリン酸化し、その活性が低下する(Churchillら、2005、Circ. Res.、97:78-85)。したがって、PDKがPDHをリン酸化すると、TCAサイクルおよびATP産生に要求されるアセチルCoA産生が低減する(
図5A)。ΨPDKは、δPKC中のPDK相同配列に由来するので、次に、PDKリン酸化がΨPDK処置によって影響されるか否かを判定した。以前に報告されたように(Churchillら、2005、Circ. Res.、97:78-85)、2次元等電点電気泳動法(2-D IEF)を使用して、心臓I/Rにより、PDK2のリン酸化が増大し(
図5B:矢印)、引き続いてPDHのE1サブユニットがリン酸化する(
図5C;矢印)ことが判明した。しかし、これらの2つの酵素のリン酸化(2-D IEF分析による酸性pHへのシフトによって示される)は、ΨPDKの存在下でも、δV1−1、δPKC特異的阻害物質の存在下でも起こらなかった(
図5B〜C)(Chenら、2001、Proc. Natl. Acad. Sci.、98:11114-11119)。
【0115】
[138] ΨPDK阻害が、ミトコンドリア内部の場合のδPKC媒介リン酸化に選択的であるか否かを判定するために、アルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)、εPKC選択的ミトコンドリア基質のリン酸化状態(Chenら、2008、Science、321: 1493-1495)も検査した。アイソザイム特異的ペプチドレギュレーターについて予想されたように、ΨPDKもδV1−1もALDH2リン酸化に影響せず(
図5D)、δPKCに対するこのペプチドの選択的効果を実証した。
【0116】
[139] 最後に、同じ心臓I/R条件下で、ΨPDKは、膜結合基質、MARCKSのリン酸化を阻害せず、むしろ、I/R誘導MARCKSリン酸化の増大が、対照ペプチドと比較して、ΨPDKの存在下で観察された。さらに、ΨPDKは、I/Rを受けたこれらの心臓においてDrp1リン酸化も増大させた(
図5E)。まとめると、これらのデータは、in vitroキナーゼアッセイと同様に(
図3A)、ΨPDKは、ミトコンドリアにおいてPDKリン酸化の阻害物質として作用したことを示す。重要なことに、ΨPDKは、同じ条件下で他の細胞内コンパートメント内の他のδPKC基質のリン酸化に影響しなかった(
図3B、5E)。
【0117】
実施例7
ΨPDKペプチド処置により、心発作のex vivoモデルにおいて心臓保護が誘導される
[140] ΨPDKは、PDKのδPKC媒介リン酸化を阻害したが、他のδPKC基質のリン酸化を阻害しなかったので、心虚血および再灌流傷害におけるδPKC媒介ΨPDKリン酸化の役割を次に判定した。ランゲンドルフ標本(Langendorff、1895、Pfilgers Archiv、61:291-382; Hondeghemら、1978、Amer. J. Physiol.、235:H574-H580)を使用して、δPKCを活性化すると、心筋の虚血性傷害が増大することが以前に判明した(Chenら、2001、Proc. Natl.、Acad.、Sci. 98:11114-11119)。PDKリン酸化がδPKC媒介機能に決定的である場合、他のδPKC基質のリン酸化に影響することなくPDKリン酸化を選択的に阻害するΨPDKは、I/R誘導傷害から心筋を保護することが予想される。
【0118】
[141] 3つの基準を使用して、ΨPDKで処置すると、対照ペプチドと比較して、I/R後の心保護が誘導されることが確認された(
図6)。第1に、ΨPDKまたはδV1−1で処置した後のI/R誘導梗塞サイズ(Inagakiら、2003、Circulation、108:869-875)は、対照ペプチド、またはΨδRACK、δPKC特異的活性化因子、またはδV1−5で処置した心臓におけるものより小さかった(
図6A)。第2に、心筋梗塞のマーカーとして放出されたクレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベルを求める際、同様のデータが得られた。ΨPDKまたはδV1−1で処置した心臓におけるCPKレベルは同様であり、対照ペプチド、ΨδRACK、またはδV1−5で処置した後のものより低かった(
図6B)。最後に、細胞ストレスおよびアポトーシスの公知のマーカーである、JNKタンパク質リン酸化のレベル(Davisら、2000、Cell、103:239-252)を求めた。δV1−1およびΨPDKは、他のδPKC−誘導ペプチド、δV1−5およびΨδRACKと比較して、I/R誘導JNKリン酸化を低減した(
図6Cおよび6D)。まとめると、これらのデータは、PDKリン酸化の選択的阻害剤であるΨPDKは、I/R傷害を阻害するのに十分であったことを示す。
【0119】
[142] ΨPDKは、N−末端上のTATとC−末端上のカーゴとの間に3アミノ酸(GSG)のスペーサーを含む、アミド結合によってTATに接続された単一ポリペプチドとしても合成した(ΨPDK-GSG-TATと呼ぶ)。興味深いことに、これらの条件下で、ΨPDK−GSG−TAT(配列番号:41)は、δPKC活性の指標としてMARCKSリン酸化を使用する場合、ΨPDK−Cs−sC−TATと比較して、より有効なδPKCレギュレーターであることが判明した(
図7)。これは、ΨPDK−Cs−sC−TAT放出性ペプチドと比べて、細胞内へのΨPDK−GSG−TAT(配列番号:41)の送達が改善されていることに起因し得るが、このことは、まだ決定されていない。さらに、TAT−GSG−ΨPDK(線形ポリペプチド、
図2B、配列番号:42)は、より心保護的であることが示された。これは、45%の保護(放出性ペプチドによって誘導される)から73%の保護までI/R傷害からの保護を大いに増大させた(n=6)。
【0120】
[143] δPKC中のPDK関連配列は、PDK中のものと同一(またはほとんど同一)であることが意外にも判明した(
図1B、D)。これにより、配列ALSTE(配列番号:1)のいくつかのアミノ酸またはすべてのアミノ酸の極めて重要な役割が示唆された。このペプチドの効果に対するアミノ酸のそれぞれの寄与の判定を始めるために、アラニンスキャニングを使用した(Brunelら、2006、J. Virol.、80:1680-1687; Chenら、J. Pep. Res.、2000、56:147-156; Bremsら、1992、Prot. Eng.、5:527-533)(個々のアミノ酸をアラニンと置換する)。次いで、得られたΨPDKペプチド類似体を、心外傷のマーカーとしてCPK放出およびJNKリン酸化を使用して、心筋梗塞の同じモデルで使用した。灌流液中へのCPI放出および心臓内のpJNKを、それぞれのペプチドの存在下でI/R後に求め、対照ペプチドの存在下でI/Rにかけられた心臓内のレベルと比較した。置換を有するペプチドのいずれも、いずれの有意な生物活性も有していなかった(表1)。さらに、ALSTER中のSおよびTは、δPKCのコンセンサス配列に相当しないが、合成中にS/Tをリン酸化S/T(それぞれS(p)およびT(p)として表1に表した)と置換すると、ペプチドの生物活性が変化するか否かを次に判定した。リン酸化ペプチド(p197、198、199)のいずれも、ex vivo I/Rモデルにおいて心保護に影響しなかった(表1を参照)。したがって、ALSTERペプチドのみが、表1に記載の他のペプチド配列と比較して心保護作用を発揮することが観察され、δPKCとの相互作用におけるこれらのアミノ酸の側基のそれぞれの役割と一致した。
【0121】
【表1】