【実施例】
【0080】
ここで、本発明の例示的な実施形態に対して詳細に参照が行われる。これら実施形態は、当業者が本発明を実行することができるよう十分に詳細に説明されるが、その他の実施形態が利用され得ること並びに本発明の範囲から逸脱することなく変更がなされ得ることが理解されるべきである。したがって、以下の説明は、単に例示的なものである。
実施例1
【0081】
PTSD(n=13)、BP(n=23)、MDD(n=12)、SCZ(n=12)を有する被験者及び対照(n=14)を、「精神障害の診断と統計の手引き第4版 DSM−IVを使用して、2人の精神科医により診断する。CSF、全血、血漿、血清、唾液及び尿の生物学的検体を、各患者から得る。
患者
【0082】
14人の投薬を受けていない、慢性PTSDの一般人(非戦闘員)の外来患者(34.9±10.4歳、女性10人)と10人の外傷曝露がない健常な被験者(35.3±13.1歳、女性7人)とを選択する。健常被験者は、PTSD患者と、年齢、性別及びBMIに関して可能な限り近いように選択される。前駆型PTSD外傷は、5人の被験者では思春期前で、9人の被験者では成人期である。外傷曝露からの経過時間は、思春期前の外傷で26±4年であり、成人期の曝露では10.1±8.8年であった。患者は、腰椎穿刺前に少なくとも3週間にわたって向精神薬の投与がない状態で、その他の点では身体的に健常であり、少なくとも6ヶ月前の期間で、アルコール又は薬物乱用、若しくは依存症に関する基準を満たさない。しかしながら、PTSD患者について必要とされる無投薬期間は、パラキセチンに関しては、患者のために6週間まで延長される。また、4人の患者(女性3人及び男性1人)は、過去の外傷を有するが、PTSDの継続する病歴がない患者に含まれる。PTSD患者及び健常対照群に関する完全な統計的データ情報を、表1に概説する。
【表1】
精神医学的診断
【0083】
精神医学的診断を、構造的臨床面積基準DSM−IV(SCID)を用いて立証し、PTSDの重症度を臨床医の投与PTSD尺度(CAPS)を用いて判定する。うつ病、不安症及び全体の症状の重症度を、それぞれ簡易抑うつ症状尺度(IDS)、ハミルトン不安評価尺度(HAMA)及び臨床上の医師の印象による重症度(DGI−S)を用いて評価する。PTSDを有する患者群及び対照群は、年齢、性別分布、人種、又は肥満度指数(BMI)に関して差異がない。PTSDの重症度は、73±10.3のCAPSスコアで、中等度であった。抑うつ症状尺度(IDS 16.4±8.2)、不安評価尺度(HAMA 13.1±6.8)及び全体的な症状重症度レベル(CGI−S 4±1.2)も同様に中等度であった。
生物学的検体採取
【0084】
CSF、血液、尿及び唾液の生物学的検体を、通常の採取技術を用いて採取する。CSFについては、経験豊富な医師によって、腰椎穿刺(LP)を、午前8:00から9:00の間に実施した。20ゲージの導入器針を挿入し、約15ccのCSFを回収し、後のアッセイのために、アリコートで−80℃にて凍結した。血液については、検体(各々10mL)を、静脈穿刺によって真空チューブ内に吸引回収し、一部は遠心沈殿させ、血清及び血漿に分離した。全ての全血、血漿、血清は、後のアッセイ用に、アリコートで−80℃にて凍結した。尿及び唾液については、好ましくは汚染物質の検体への侵入を回避して、検体を採取する。8〜15mLの検尿管を使用して、後の使用のために、検体を−80℃の冷凍機で保管する。
生物学的検体中のタンパク質
【0085】
生物学的検体中のタンパク質を、Cy3蛍光染料で標識付けし、実験全体にわたって共通の標準を提供するために、標準試料の検体を、Cy5で標識付けする。混合物を、507−二重特性の抗体マイクロアレイでインキュベートし、Perkin−Elmer ScanArray2蛍光スライドリーダー上に画像化する。生物学的検体はまた、逆捕捉タンパク質マイクロアレイプラットフォームで分析する。有意性は、t−検定(p<0.05)及び<10%の局所的偽検出率に基づく。
結果
【0086】
性別とは無関係に、全てのPTSD患者の分析に基づいて、対照と比較してアップレギュレート又はダウンレギュレートされるこれらタンパク質を特定することが可能である。表2は、t−検定が>10〜4で、<10%の偽検出率の統計的分類中に入るトップの10個の候補マーカータンパク質を列挙している。重要なことは、これによって、これらタンパク質が、アレイデータに関するp値に対するボンフェローニ補正(0.05/507=10〜4)及び上述したSAMアルゴリズムの双方を満たすことである。UBE3A、STY1、EMAP−II、SIP1、ORC5L、DCX、SCYEマーカーはまた、PTSDについての非性別特異的マーカーであると見出さていることに留意するべきである。
【表2】
【0087】
本発明は、精神障害、例えばPTSD及び自殺の検出のための、性別特異的及び非性別特異的の双方のタンパク質を検出するプロセスを提供する。これら同一の神経タンパク質はまた、多くの精神障害と併発することが多い、TBIなどの神経損傷及びニューロン障害を検出するために使用され得る。好ましい実施形態では、PTSDに特異的な、少なくとも1つ、複数の、又は全ての無性タンパク質、ペプチド、これらの変異体又は断片が検出され、これは、シナプトタグミン1、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A、ポリメラーゼ(DNA指向性)・デルタ1触媒サブユニット125kDa、小誘導性サイトカインサブファミリーE・メンバー1(内皮単球活性化)、非転移性細胞1タンパク質(Nm23A)、タンパク質キナーゼC様1、核タンパク質(毛細血管拡張性運動失調症遺伝子座)、モノクローナル抗体KI−87によって特定される抗原、ホスホリパーゼCベータ1(ホスホイノシチド特異的)、カリウム電位依存性チャネル、及びサブファミリーH(eag関連)・メンバー6、ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼL−1(UCH−L1)、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)、アルファ2−スペクチン分解生成物、シナプトフィシン、α−シヌクレイン、ニューログラニン、S−100ベータ、ニューロフィラメントタンパク質−F、H及びN、マイクロチューブリンタンパク質、ミエリン塩基性タンパク質、コラプシン応答仲介タンパク質(CRMP)、P−11並びにP2RX7から選択される。
【表3】
【表4】
【0088】
受信者動作特性(ROC)分析は、偽陽性と偽陰性の分析値の間を判別することに基づく生物学的アッセイの妥当性を確認する通常の「ゴールドスタンダード」法である。アッセイの品質は、曲線下面積(AUC)に基づき、ここでは、100%の値は優れ、50%の値は、ランダム分布を示唆する。性別非依存的PTSDについてのトップ3の候補タンパク質マーカーは、(i)
図1:ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(このAUCは、男性及び女性患者の双方について100%である)、(ii)
図2:シナプトタグミン1(このAUCは、男性で95%であり、女性では88.8%である)、並びに(iii)
図3:小誘導性サイトカインサブファミリーE(このAUCは、男性では98.1%であり、女性では97.9%である)である。
図4は、対照とPTSD患者との間で規定された本発明のマーカーについての複合型ROC曲線を示し、このAUCは、検体統計的データについて88%である。
【0089】
性別とは無関係に、PTSD患者と健常対照群との間を有意に識別するいくつかのタンパク質が発見されている。これらは、見出されたトップタンパク質の中では、(i)カルシウム依存的神経伝達物質開口放出に関連するタンパク質であるシナプトタグミン(SwissProt P21579)[p=6EXP(−9)]である。STY1は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約33%(p=6×10
−9)減少する;(ii)その突然変異が精神遅滞の型に関連するタンパク質であるユビキチンE3リガーゼ(SwissProt Q05086)[p=2EXP(−7)]である。UBE3Aは、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約3倍(p=6×10
−9)上昇する(p=2×10
−7);(iii)小グリア細胞に関するタンパク質化学誘因物質であり、脊髄損傷において上昇することが見出されている、タンパク質小誘導性サイトカインサブファミリーE、メンバー1(SCYE1/EMAPII;SwissProt Q12904)[p=2EXP(−6)]である。SCYE1は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約55%減少する(p=約5×10
−13);(v)SIP1は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約52%まで減少する(p=約2×10
−11);並びに(vi)ダブルコルテックス(DCX)は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約50%まで減少する(p=約9×10
−6)。
【0090】
また、男性及び女性PTSD患者の間を有意に識別するタンパク質の異なるセットを特定した。男性PTSD患者から得た生物学的検体は、炎症誘発性シグナル伝達経路に関連する多くのタンパク質で有意に特徴付けられる。重要なことは、これらタンパク質が、男性及び女性の健常対照群の間を識別しないことである。
【0091】
これらの結果は、リアルタイムRT−PCRによるmRNAの定量化で確認される。約1.5μgの総mRNAを、被験者の血液検体から単離し、Omniscript RTキット及びランダムプライマーを用いて20μlの反応容量中で逆転写する。生成物を150μlの容量まで希釈し、6μlのアリコートを、通常のPCR試薬キット成分及び遺伝子特異的プライマーを用いて、増幅のための鋳型として使用する。mRNAの検出を、PTSD判定用の対応するタンパク質の検出と相関させる。
実施例2
【0092】
自殺未遂を起こした11人の患者、自殺行為を呈さない15人の患者からなる、心的外傷後ストレス障害(PTSD)及び大うつ病性障害(MDD)を有する26人の精神疾患患者と、PTSDを有さない14人の正常な対照群とから血液検体を得る。これらの被験者は、抗精神病薬治療薬を飲んでいない。定量的リアルタイムPCRを用いて、末梢血単核細胞(PBMC)中のP−11のmRNA及びP2RX7のmRNAについて、検体を順次分析する。自殺した患者(n=56)の剖検の前頭前皮質から得た又は希死念慮対照群(n=61)から得たP−11、P2RX7及びS100βのマイクロアレイデータのメタ分析も試験する。
【0093】
PBMC P−11 mRNAレベルは、正常被験者群と比較する場合、自殺未遂者で有意に低く、非自殺未遂者でより高い。自殺完遂者におけるPFC P−11 mRNAレベルはまた、非希死念慮対照群よりも低い。P−11とは異なり、P2RX7 mRNAレベルは、PBMC及びPFCの双方で測定されるように、自殺未遂者、非自殺未遂者、及び自殺完遂者を含む全ての患者で正常な対照群よりも有意に低い。加えてPFC中のS100β発現レベルは、PFCで測定されるように、自殺完遂者と非希死念慮対照群との間で差異がなかった。本明細書で詳説されるmRNAレベルにおけるこれらの傾向は、被験者から採取した他の検体に相関することが見出され、他の検体には、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、及び唾液が含まれる。P−11タンパク質及びP2RX7タンパク質のレベルもまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートで、ELISAによりタンパク質レベルを測定することによって、mRNAに関する上記のような傾向にあることを確認している。
【表5】
【0094】
表5中、ADは標準偏差であり、AUCは曲線下面積で、1日目及び2日目のAUCの平均である。対照及びPTSDの血漿コルチゾールレベルの平均濃度は、それぞれ3.86+2.33ng/ml、2.96+1.88ng/mlであり、各AUCは、唾液コルチゾールレベルを4回計算した(午前8時、午前10時、午後4時、午後10時)。
【0095】
mRNAマーカーについては、全血検体を用いて定量的リアルタイムPCR分析を使用する。PBMC mRNAの精製、cDNAの合成及び定量的リアルタイムPCRは、製造元のプロトコールに従って実行する。P−11 mRNA、GR mRNA及びコルチゾールのレベルにおける差を、二元配置ANOVA(分散分析)によって評価する。有意差は、0.05以下のP値として定義する。全血(2.5mL)を、6.9mLの安定化剤試薬を含有するPAXgeneチューブに移し、赤血球を溶血させる2時間の休止後に、いずれも−70℃で保存する。総RNAの量は、Nano Drop分光光度計を用いて定量化する。RNA 6000 Picoアッセイを用いてAgilent BioAnalyzerで電気泳動的に品質を制御する。RNA比率値(28S/18S)を推定し、全ての検体から取得する。次いで、総RNA(2.5μg)を、45μLの最終反応容量中で、ランダムヘキサマー(Eurogentec)及びSuperScript RT RNアーゼ H−逆転写酵素(Life Technologies)で逆転写する。データを、平均値±SEM、
*p<0.05(対照対PTSD)として示し、分析する。
【0096】
PTSD患者及び対照群中の血漿及び唾液コルチゾールの基底レベル、並びにPTSDを有する患者及び対照群のPBMC中のP−11及びGR mRNAのレベルを、検体中で測定する。
【0097】
図5は、血漿コルチゾールの基底レベルが、PTSD(n=13)と対照被験者(n=11)間で有意差は認められないことを示す(p>0.05)。
【0098】
図6は、GR mRNAレベルが、対照被験者よりもPTSDのPMMC中で有意に低いことを示す。
【0099】
図7は、対照(n=14)に比べてPTSDを有する患者(n=13)における有意に低いP−11 mRNAレベルを示す(p<0.05)。双極型障害、BP(n=24)、大うつ病性障害、MDD(n=12)、精神分裂症、SCZ(n=12)のPBMC P−11 mRNAレベルは、対照被験者(n=14)よりも有意に高いことを示す(p<0.001)。
【0100】
本明細書で詳説されるmRNAレベルにおけるこれら傾向は、被験者から採取されたその他の検体に相関することが見出され、その他の検体としては、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿及び唾液が挙げられる。P−11タンパク質及びP2RX7タンパク質レベルはまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートで、ELISAによりタンパク質レベルの測定を行うことによって、mRNAに関する上記詳説したような傾向があることが確認される。
実施例3
【0101】
化学的及び治療薬介入の有効性に関してのフィードバックを提供するための本発明の能力が、生物学的検体が合計で49人の被験者から得られる本実施例で提供される。14人の被験者を、PTSDを有すると判定し、そのうち9人が自殺型であり、残りの5人が非自殺型である。21人の被験者を、BPを有すると判定し、そのうち7人が自殺型であり、残りの14人が非自殺型である。残りの14人の被験者は、健常な対照被験者である。性別については、有意な群差は存在しない(表6を参照)。年齢、性別比、教育水準又は結婚歴に関して、BP又はPTSD患者と対照被験者の間で統計的有意差は存在しない。表6は、BP及びPTSD患者は、自殺未遂が有り無しの両方で、それぞれ同様な発症の平均年齢を有することを示す。
【0102】
全てのPTSD被験者は、PTSDを有する自殺未遂者の66%がリボトリール(クロナゼパム、ベンゾジアゼピン)を服用し、一方55%がデパキンを服用して、投薬を受けている。22%がサインバルタ、レンドルミン、モディパノール、セミナックス又はセロキサットのいずれかを服用している。11%が、セロキサット、エビリファイ、アチバン、エフェキソール、ロドピン、nil、オランザピン、レメロン、シネクアン、スティルノックス、トリプタノール、ウェルブトリン又はザナックスのいずれかを服用している。
【0103】
PTSDを有する非自殺型患者の60%が、エリスパンを服用し、一方40%が、エフェキソール又はスティルノックスのいずれかを服用している。20%が、エビリファイ、デパキン、インデラル、レンドルム、メシレル、nil、リボトリール又はセロキサットのいずれかを服用している。BP患者はいずれも投薬を受けていない。
【表6】
【0104】
被験者の診断は、全試験被験者について、精神疾患簡易構造化面接法(MINI)及びDSM−IVを用いて2人の精神科医によって行われる。全ての患者は、BP又はPTSDに関するDSM−IV診断基準を満たすものとする。除外基準は、現状の医学的な問題、重大な肉体的疾患、神経疾患、意識喪失を伴う頭部外傷の病歴、並びに薬物乱用歴及び現在のアルコール乱用(6ヶ月以内)である。非精神疾患対照被験者は、年齢、性別、教育、及び人種に関してPTSD及びBP患者と一致する。半構造的面接を用いて、並びに医療記録の再調査を組み合わせることによって、自殺未遂の生涯の既往歴を評価する。
【0105】
気分症状及び不安症状の臨床転帰を定量的に測定するために、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、及びハミルトン不安症尺度(HARS)をそれぞれ用いる。
【0106】
ヘパリン添加血液検体及びヘパリン非添加血液検体(それぞれ10mL)を、真空チューブ中に静脈穿刺によって採取する。末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll−Hypaque(Invitrogen)密度勾配上で遠心分離によって分離する。血液検体を−80℃で保存する。
【0107】
全血検体を、4℃にて1300×gで遠心分離する。次いで、血漿をラベルが貼付された新しいエッペンドルフチューブに移し、−80℃で保存する。P−11の血漿レベルを、高感度ELISAによって決定する。モノクローナル抗−ヒト−P−11抗体を使用する。P−11濃度を、各アッセイで同様な条件下で行われたP−11標準曲線についての回帰直線から決定する。
【0108】
RNAを、PAXgen血液RNA妥当性確認キット(PreAnalytiX a Qiagen/BD company、カリフォルニア州バレンシア)を用いて、ヒト血液溶解物から抽出する。cDNAを、Superscript III RT(逆転写酵素)及びオリゴ(dT)プライマー(Invitrogen)を用いて、3mgの総RNAから作製する。SYBR Green(Bio−Rad)を使用するIQ5配列検出システム中で、作製したcDNA生成物にリアルタイムPCRを実施する。ヒトP−11 mRNA分析に、順方向プライマー5’AAATTCGCTGGGGATAAAGG−3’(配列番号1)及び逆方向プライマー5‘AGCCCACTTTGCCATCTCTA−3’(配列番号2)の配列を使用する。P2RX7 mRNA分析用の配列は、順方向プライマー5‘AGATCGTGGAGAATGGAGTG−3’(配列番号3)及び逆方向プライマー5‘− TTCTCGTGGTGTAGTTGTGG−3’(配列番号4)である。β−アクチンのmRNAレベルを、対照検体及び実験検体中のP−11又はP2RX7 mRNAレベルを正規化するための内部標準として使用する。ベータ−アクチンプライマーについての配列は5‘− ACCTGTACGCCAACACAGTG−3’(配列番号5)及び5‘−ACACGGAGTACTTGCGCTCA−3’(配列番号6)(Applied Biosystems)である。希釈曲線を使用して、鋳型RNAの濃度への閾値サイクル数の線形依存性を確認する。
【0109】
対照及び実験検体中のP−11又はP2RX7 mRNAの相対的定量を、標準曲線法を用いて得る。
【0110】
全てのデータを、平均値±S.D.として表す。PTSD、BPを有する自殺未遂者及び非自殺患者並びに対照被験者の間のPBMC P−11又はP2RX7発現における差を、一元配置ANOVAにより分析する。相関係数及びP−値の分析も実行する。GraphPad Prism(GraphPad Software,Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)、SPSS(SPSS Inc.イリノイ州シカゴ)及びマイクロソフトエクセルを用いて、統計を実行する。
【0111】
PBMC P−11 mRNA及びP2RX7 mRNAの発現レベルを各検体について測定し、その結果を比較する。
【0112】
図8Aは、対照、PTSDを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の間のPBMC P−11 mRNA発現レベルの差を示す。リアルタイムPCRデータは、BPを有する群間でPBMC中のP−11 mRNAレベルに関して有意差があることを明らかにする。PTSDを有する自殺未遂者は、対照被験者及び非自殺型患者よりも、PBMC中の有意に低いレベルのP−11 mRNAを有する。
【0113】
図8Bは、対照、BPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の間のPBMC P−11発現レベルの差を示す。リアルタイムPCRデータは、PBMC中のP−11 mRNAレベルに関して群間で有意差があることを明らかにする。自殺未遂者及び非自殺型患者の双方は、対照被験者よりも、PBMC中の有意に高いレベルのP−11 mRNAを呈するが、一方自殺未遂者及び非自殺型患者との間で、P−11 mRNAレベルにおいて有意差は認められない。
【0114】
PBMC P−11 mRNAの発現レベルは、治療の有効性を示唆する投薬コホートにおいて、自殺未遂が有る無しの両方で、患者のPTSDの症状にもはや相関しない。P−11レベルに関する相関的分析を、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、及びハミルトン不安症尺度(HARS)により測定されるように、うつ病及び不安症を有するPTSD患者で実行する。PBMC P−11 mRNA発現は、自殺未遂者におけるHAMD又はHARSスコアのいずれとも相関せず(
図9A〜B)、PTSDを有する非自殺型患者のものとも相関しない(
図9C〜D)。
【0115】
PBMC P−11 mRNA発現レベルは、投薬コホートにおいて、自殺未遂が有る無しの両方で、患者のBPの症状にもはや相関しない。P−11レベルに関する相関的分析を、HAMD及びHARSにより測定されるように、うつ病及び不安症を有するBP患者で実行する。PBMC P−11 mRNA発現は、自殺未遂者におけるHAMD又はHARSスコアのいずれとももはや相関せず(
図10A〜B)、BPを有する非自殺型患者のものとも相関しない(
図10C〜D)。
【0116】
自殺未遂の有る無しの両方のPTSD患者並びに自殺未遂がないBP患者のPBMC P2RX7 mRNA発現レベルは、対照被験者のものよりも有意に低い。
図11Aは、対照被験者及び自殺未遂の有る無しの両方のPTSD患者の間のPBMC P2RX7発現レベルでの差を示している。リアルタイムPCRデータは、PBMC中のP2RX7 mRNAレベルについて、群間の有意差を明らかにしている。PTSDを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の双方は、対照群よりもPBMC中の有意に低いレベルのP2RX7 mRNAを有した。
【0117】
図11Bは、対照被験者、BPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の間のPBMCのP2RX7発現レベルにおける差を示している。リアルタイムPCRデータは、自殺未遂無しのBP患者が、対照被験者及び自殺未遂を有するBP患者と比較して、PBMC中の有意に低いレベルのP2RX7 mRNAを有したことを明らかにしている。
【0118】
PBMCのP2RX7 mRNA発現レベルとPTSDを有する非自殺型患者の症状とは高い相関が認められ(
図12A〜B)が、PTSDを有する自殺未遂者とは高い相関が認められない。
【0119】
PBMC P2RX7 mRNA発現レベルは、自殺未遂が有る無しの両方のBP患者の症状とは相関がない。自殺未遂が有る無しの両方のBP患者のPBMC中のP2RX7 mRNAレベルは、HAMD又はHARSスコアのいずれとも有意な相関が認められない(
図13)。
【0120】
本明細書に詳説されたmRNAレベルにおけるこれら傾向は、被験者から採取されたその他の検体とも相関することが見出され、その他の検体としては、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、及び唾液が挙げられる。P−11タンパク質及びP23RX7タンパク質のレベルはまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートでELISAを行うことによるタンパク質レベルの測定によって、mRNAについて上記詳説されたような傾向性を確認する。
実施例4
【0121】
生物学的検体を、PTSD(n=14)又はMDD(n=12)と診断された40人の被験者、並びに14人の正常対照群から得る。精神病患者の11人は、自殺を図ろうとした。入院患者及び外来患者を含む入手可能な診療記録を見直し、全ての被験者を、精神病歴、精神障害の家族歴、及び薬物乱用歴について入念に面接する。診断は、全試験被験者について、精神疾患簡易構造化面接法(MINI)及びDSM−IVを用いて2人の精神科医によって画定される。全ての患者は、PTSD又はMDDに関するDSM−IV診断基準を満たす。除外基準は、現状の医学的な問題、重大な肉体的疾患、神経疾患、意識喪失を伴う頭部外傷の病歴、並びに薬物乱用歴及び現在のアルコール乱用(6ヶ月以内)である。正常な対照群は、年齢、性別、教育、及び人種に関してPTSD及びMDD患者と一致する。
【0122】
全被験者が、試験計画が完全に説明された後に、並びに精神医学的評価及び血液採取を受ける前に、書面によるインフォームドコンセントを提出した。自殺未遂の生涯の既往歴を、半構造的面接を用いて、並びに医療記録の再調査を組み合わせることによって評価する。各群についての臨床診断を表7に示す。自殺未遂したことがある患者(n=11)の年齢と自殺を図ったことがない患者(n=15)の年齢の間に有意差は認められない。全ての群により使用された投薬を表8に示す。
【表7】
【表8】
【0123】
神経病理学協会、Array Collection、及びDepression Cohortを含むスタンリー医学研究所(SMRI)から取得した3人の死体解剖脳採取物を用いる。被験者は、年齢、性別、人種、脳pH(表9)、死後経過時間(PMI)、脳の左右側及びmRNA品質に関して一致する。背側方前頭前皮質(PFC)を、全てのマイクロアレイ試験用に用いる。RNA処理プロトコールは、マイクロアレイ製造元のAffymetrix社によって推奨されるものである。自殺者分析については、被験者を、自殺を遂行した精神障害を有する患者(n=56)及び精神障害を有さない正常対照(n=61)を含む2つの群に分割する。精神障害及び投薬効果を、多重回帰モデルを用いて、個別の試験分析で調整する。
【表9】
【0124】
全てのマイクロアレイの生データを、MAS5.0正規化アルゴリズムを用いて変換する。一連の品質管理分析を実行し、統計的分析を行う前にマイクロアレイ異常値を特定する。簡単に言うと、各マイクロアレイチップを、尺度因子、プローブの完全一致/不一致の差の計数、パーセントプレゼントコール(マイクロアレイ上の検体で存在することが検出される遺伝子のパーセンテージ)、対照遺伝子(GAPDH及びb−アクチン)50/30比、及びアレイ全体のこれらパラメータについての参照分布に関する平均的相関性などのチップ−レベルパラメータについて、Affimetrix QCメトリクスにかける。
【0125】
個別の試験分析については、人口統計的変数及び臨床変数を、各試験内の線形モデルを使用して評価し、潜在的交絡因子を特定する。これら人口統計的分析の後に、自殺群を分析し、交絡変数に関して補正した識別遺伝子のリストを特定する。多重回帰分析が、各試験における各遺伝子についての調整後ホールド変化、標準誤差(SE)、及びp−値を提供した。交差試験分析については、Affimetrixマイクロアレイ試験(試験番号:1、2、3、4、5、7、14、15及び21)を含む。交差試験比較は、生物学的パターン及び関係を抽出するために、試験全体にわたる個々の試験レベル分析の計測表示に基づく。コンセンサスホールド変化を、個々のホールド変化の重み付き組み合わせ並びに試験全体にわたって各遺伝子に対してマップするAffymetrixプローブセットについてのSEに基づいて、各遺伝子について計算する。プラットホームにわたって所定の遺伝子に対してマップする各プローブセットに関連する異なるレベルの精度を考慮に入れるために、重み付けをプローブセットに特異的様式で決定する。重み付けは、1SEiに等しく、このSEiは、全ての試験にわたる遺伝子に対するi番目のプローブセットの標準誤差である。
【0126】
気分症状及び不安症状の臨床発現を定量化するために、それぞれハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、及びハミルトン不安症尺度(HARS)を用いる。
【0127】
ヘパリン添加及びヘパリン非添加血液検体(各10mL)を、真空チューブ内に静脈位穿刺によって採取する。末梢血単核細胞を、Ficoll−Hypaque(Invitrogen)密度勾配上の遠心分離によって分離する。血液検体を、−80℃で保存する。
【0128】
P−11又はP2RX7遺伝子発現のリアルタイムPCR分析用に、PAXgen血液RNA妥当性確認キット(PreAnalytiX a Qiagen/BD company、カリフォルニア州バレンシア)を用いて、ヒト血液溶解物からRNAを抽出する。cDNAを、Superscript III RT(逆転写酵素)及びオリゴ(dT)プライマー(Invitrogen)を用いて、3mgの総RNAから作製する。リアルタイムPCRを、SYBR Green(Bio−Rad)を使用するIQ5配列検出システム中で、作製したcDNA生成物で実行する。配列番号1〜6を、鋳型RNAの濃度への閾値サイクル数の線形依存性を確認した実施例3の希釈曲線毎の分析に使用する。対照及び実験検体中のP−11又はP2RX7 mRNAの相対的定量を、標準曲線法を用いて取得する。
【0129】
全てのデータは平均値S.D又はS.Eとして表す。自殺を企図した患者、自殺を企図したことがない患者、及び対照被験者の間のPBMCのP−11又はP2RX7発現レベルにおける差を、一元配置ANOVAによって分析する。相関係数及びP−値の分析も、マイクロソフトエクセルを使用して実行する。GraphPad Prism(GraphPad Softoware,Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて、統計を実行する。
【0130】
自殺未遂者のPBMC中及び自殺完遂者のPFC中のP−11 mRNA発現レベル、並びに対照被験者、自殺未遂者及び非自殺未遂者のPBMC中のP−11 mRNAレベルを、
図10に示す。P−11 mRNAレベルは、対照被験者に比べて自殺未遂者で有意に減少し、一方非自殺未遂者のP−11 mRNAレベルは、対照被験者又は自殺未遂者のいずれかよりも有意に高い。
【0131】
HAMD及びHARSスコア並びに自殺未遂者及び非自殺未遂者のP−11 mRNAレベルの相関性を検討する。HAMD又はHARS並びに投薬された自殺未遂者のP−11 mRNAレベルの間に有意差は認められない。しかしながら、投薬を受けた自殺未遂者及び非自殺未遂者の間のHARSスコアでは、有意差が認められる。最終的に、投薬を受けた自殺未遂者投薬を受けた非自殺未遂者との間のHAMDの3項目のスコアで有意差が認められる。これらの結果は、投薬を受けていないPTSD被験者に対するマーカーレベルの変更において、全体として治療の効力に関するフィードバックを提示する。
【0132】
PBMCのP3RX7 mRNAレベルは、対照被験者に比べて、自殺未遂者及び非自殺未遂者の双方で有意に減少する(
図11)。9つのAffymetrix遺伝子発現マイクロアレイ試験の組み合わせは、P2RX7 mRNAレベルが、非自殺対照と比較する場合、自殺症例のPFCで一貫して減少することを示した(p=0.03に調整)。
【0133】
PTSD及びMDDの自殺未遂者及び非自殺未遂者のHAMD又はHARSスコア並びにP2RX7 mRNAレベルの間で有意な相関は認められない。
実施例5
【0134】
それぞれが150〜200gの重量の成体雄Sprague−Dawleyラットを選択する。幾匹かのラットをそれらのホームケージ内で平静に保ち、同時に同数のラットを不可避の尾部ショック(ストレス)に曝す。
【0135】
ストレスプロトコールは、ラットの試験群をPlexiglas拘束チューブ(長さ23.4cm及び直径7cm)内に配置することと、これらを、60秒の試行間間隔を伴い、各5秒間の100回の不可避の電気ショック(2.0mA)に曝すことを伴う。ショックは、尾部にテープで固定した電極によって加える。ショックの長さ及び強さは、行動における変化によって並びに上昇した血漿コルチコステロンレベルによって測定されるような不可避ストレスのモデルを与えるよう最適化される。使用される動物の数及びそれらの苦痛は最小限に留める。全ストレスセッションは約100分間持続する。ストレスへの曝露後又は終了後に、全ての動物をそれらのホームケージに戻す。
【0136】
不可避尾部ショック直後又はその48時間後に、全てのラットを、イソフルランへの短時間曝露で麻酔処理する。動物の脳を、骨頭切除術後に直ちに除去する。全ての解剖は、砕氷の上部に配置されたすりガラス板上で実行する。前頭前皮質、海馬、小脳扁桃及び小脳などの脳検体をドライアイスで迅速に凍結し、使用時まで−70℃で保存する。血液を採取し、凍結させる。
【0137】
非ストレス負荷対照又はストレス負荷群の血漿コルチコステロンを、DSL−10−81100 ACTIVE RAT Corticosterone(Diagnostic System Laboratories,Inc.、米国テキサス州ウェブスター)などの適切な酵素免疫アッセイキットを使用して測定する。
【0138】
血漿p−11タンパク質を、ヤギ抗−マウスIgGマイクロプレート(R&D systems)を用いて測定する。プレートを調製するために、まず初めに、1:1000で希釈されたマウス抗−ヒトS100A10(P−11)モノクローナル抗体(Abcam、Ab52272)の100ulをELISAプレートの各ウェルに移す。プレートをフィルムで密封し、室温で一晩インキュベートする。第二段階では、未知試料及び基準物の100ulをプレートに加え、室温で2時間インキュベートする。第三段階では、ウサギ抗−ヒトP−11抗体(1:1000で希釈された)(Proteintech Group、カタログ番号#:11250−1−AP)の100ulをプレートに加え、4℃で一晩インキュベートする。第四段階では、100ulのストレプトアビジン−HRP(抗−ヤギIgG、R&D Systems、カタログ番号#:DY998)を室温で20分間インキュベートする。上記工程の間に、プレートを3回洗浄する。第5段階で、100ulの基質溶液(R&D Systems、カタログ番号#:DY999)を各ウェルに加え、室温で20分間インキュベートする。第6段階では、停止溶液50ulを加え、各ウェルの光学密度(OD)を、マイクロプレートリーダーで30分以内に決定する。
【0139】
TRIzolを用いて、RNAを組織又は血液細胞溶解物から抽出する。RNA含量の差が検体重量における差からも生じ得る可能性を排除するために、cDNAを、Superscript III RT(逆転写酵素)及びオリゴ(dT)プライマーを用いて各検体について総RNAの5ugから作製する。以下の配列をヒトP−11 mRNA分析に使用する:配列番号1及び2のプライマー。ラットP−11 mRNA分析に使用される配列は:順方向プライマー5‘−TGCTCATGGAAAG GGAGTTC−3’(配列番号7)及び逆方向プライマー5‘−CCCCGCCACTAGTGATAGAA−3’(配列番号8)である。ベータ−アクチン mRNAレベルを、実施例3の配列番号5及び6で対照及び実験検体中のP−11 mRNAレベルを正規化するための内部対照として使用する。希釈曲線は、鋳型RNAの濃度への閾値サイクル数の依存性を確認する。対照及び実験検体中のP−11 mRNAの測定値を、標準曲線法を用いて取得する。
【0140】
本明細書で詳説されるmRNAレベルにおける傾向は、被験体から採取されたその他の検体に相関することが見出され、その他の検体は、全血、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、及び唾液を含む。P−11タンパク質及びP2RX7タンパク質レベルはまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートでのELISAによるタンパク質レベルの測定によって、mRNAに関して上記で詳説されたような傾向に準拠する。
【0141】
PTSD及び対照群についてのラットのデータは、実施例1のヒトについてのものと相関し、ヒトの非希死念慮PTSDについての動物モデルとしてのプロトコールを確証している。
【0142】
本発明は、その詳細な説明と併せて説明されたが、前述の説明は例示を意図するものであり、添付の請求項の範囲によって定義される、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0143】
前述の詳細な説明において、少なくとも1つの例示的な実施形態が提示されてきたが、多数のバリエーションが存在することが理解されるべきである。少なくとも1つの例示的なの実施形態は例に過ぎず、説明された実施形態の範囲、適応性、又は構成を多少なりとも限定するよう意図していないことも理解されるべきである。むしろ、前述の詳細な説明は、少なくとも1つの例示的なの実施形態を実施するための都合のよいロードマップを当業者に提供するであろう。添付の請求項及びその法的等価物で記載されるような範囲から逸脱することなく、機能及び構成要素の配置において様々な変更がなされ得ることが理解されるべきである。
【0144】
本明細書で言及された特許文献及び刊行物は、本発明が関連する分野における熟練者の技能レベルを表している。これら文献及び刊行物は、あたかも各々の個々の文献又は刊行物が参照により本明細書に具体的かつ個別に組み込まれるかのような同程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。