特許第6061935号(P6061935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ヘンリー エム. ジャクソン ファウンデーション フォー ザ アドバンスメント オブ ミリタリー メディシン,インコーポレーテッドの特許一覧 ▶ バンヤン・バイオマーカーズ・インコーポレイテッドの特許一覧

特許6061935心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット
<>
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000011
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000012
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000013
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000014
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000015
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000016
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000017
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000018
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000019
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000020
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000021
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000022
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000023
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000024
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000025
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000026
  • 特許6061935-心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット 図000027
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061935
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】心的外傷後ストレス障害(PTSD)のための診断用バイオマーカーを検出及び監視するため、並びに同障害の自殺型と非自殺型とを識別するためのプロセス及びキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20170106BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170106BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
   G01N33/53 DZNA
   C12Q1/68 A
   !C12N15/00 A
【請求項の数】18
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2014-530910(P2014-530910)
(86)(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公表番号】特表2014-531585(P2014-531585A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】US2012055639
(87)【国際公開番号】WO2013040502
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年5月7日
(31)【優先権主張番号】61/569,047
(32)【優先日】2011年12月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/534,560
(32)【優先日】2011年9月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514055369
【氏名又は名称】ザ ヘンリー エム. ジャクソン ファウンデーション フォー ザ アドバンスメント オブ ミリタリー メディシン,インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】510212823
【氏名又は名称】バンヤン・バイオマーカーズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ポラード,ハーヴェイ
(72)【発明者】
【氏名】シャン,レイ
(72)【発明者】
【氏名】エイデルマン,オフェル
(72)【発明者】
【氏名】ウルサノ,ロバート,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】リ,ヘ
(72)【発明者】
【氏名】スー,トン−ピン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ケヴィン,カ−ワン
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズ,ロナルド,エル.
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−532915(JP,A)
【文献】 LEI ZHANG ET AL.,P11(S100A10) as a potential biomarker of psychiatric patients at risk of suicide,Journal of Psychiatric Research,2010年 9月22日,vol. 45,435-436
【文献】 TUNG-PING SU ET AL.,Levels of the potential biomarker p11 in peripheral blood cells distinguish patients with PTSD from those with other major psychiatric disorders,Journal of Psychiatric Research,2009年 9月,vol. 43,1078-1085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C12Q 1/68
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の存在を判定するためのプロセスであって、
PTSDに関連するマーカーの量について、PTSDの疑いのある罹患対象由来の生物学的検体を測定することであって、前記マーカーがシナプトタグミン1(STY1)である、測定することと、
記マーカーの前記量を、PTSDを有さない正常な対象における前記マーカーの正常量、又は前記罹患対象の前記マーカーの過去の量と比較することと、
を含み、
前記量と、前記正常量又は前記過去の量との差が、前記罹患対象におけるPTSDの指標である、プロセス。
【請求項2】
(i)ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(UBE3A);(ii)ポリメラーゼ、デルタ1触媒サブユニット125kDa、(iii)小誘導性サイトカインサブファミリーE、メンバー1(SCYE1);(iv)非転移性細胞1タンパク質(NM23A);(v)タンパク質キナーゼC様1;(vi)核タンパク質、毛細血管拡張性運動失調症遺伝子座;(vii)モノクローナル抗体Ki−67によって特定される抗原;(viii)ホスホリパーゼCベータ1(ホスホイノシチド特異的);(ix)カリウム電位依存性チャネル、サブファミリーH(eag関連)、メンバー6;(x)内皮単球活性化ポリペプチド(EMAP−II);(xi)生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質(SIP1);(xii)複製開始点認識複合体サブユニット5様タンパク質(ORC5L);(xiii)ダブルコルテックス;X染色体連鎖性滑脳症(DCX);(xiv)ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼL−1(UCH−L1);(xv)グリア筋原繊維酸性タンパク質(GFAP);(xvi)α2−スペクトリン;(xvii)シナプトフィシン、(xviii)α−シヌクレイン、(xix)ニューログラニン、(xx)S−100β、(xxi)ニューロフィラメントタンパク質F、H及びN、(xxii)マイクロチューブリンタンパク質、(xxiii)ミエリン塩基性タンパク質、(xxiv)コラプシン応答仲介タンパク質(CRMP)、及び(xxv)P−11、(xxxvi)P2RX7、或いはこれらの組み合わせから選択されるさらなるマーカーの量について、前記検体を測定することと、
前記さらなるマーカーの前記量を、PTSDを有さない正常な対象における前記さらなるマーカーの正常量、又は前記罹患対象の前記さらなるマーカーの過去の量と比較することと、
をさらに含み、
前記量と、前記正常量又は前記過去の量との差が、前記罹患対象におけるPTSDの指標である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
的外傷後ストレス障害(PTSD)を有する疑いのある男性患者を選択することと、
PTSDを有する疑いのある対象由来の生物学的検体中のPTSDに関連する少なくとも1つのPTSDマーカーの量について前記検体を測定することであって、前記少なくとも1つのPTSDマーカーが、ユビキチン結合酵素E2L 3;Fas(TNFRSF6)結合デスドメインタンパク質;タンパク質キナーゼAMP活性化ベータ1非触媒サブユニット;カリクレイン10;マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ4;TAF6 RNAポリメラーゼII、TATAボックス結合タンパク質(TBP)関連因子80kDa;タンパク質キナーゼCアルファ;DNA断片化因子45kDaアルファポリペプチド;テトラトリコペプチド反復配列4を有するインターフェロン誘導性タンパク質;ストリアチン・カルモジュリン結合タンパク質;ホスホイノシチド−3−キナーゼ触媒性アルファポリペプチド;腫瘍壊死因子受容体・スーパーファミリーメンバー6;核自己抗原性精子タンパク質(ヒストン結合);rasホモログ遺伝子ファミリー、メンバーA;NIMA(never in mitosis gene a)関連キナーゼ2;クロマチンのSWI/SNF関連マトリックス結合アクチン依存性レギュレータサブファミリーaメンバー2;アリール炭化水素受容体核トランスロケータ;シナプトソーム結合タンパク質91kDaホモログ(マウス);G1〜S期移行2;インテグリンアルファ2(CD49B、VLA−2受容体のアルファ2サブユニット);またはこれらの組み合わせである、前記検体を測定することと、
前記少なくとも1つのPTSDマーカー前記量を、PTSD又はその他の精神障害を有さない正常な対象における前記少なくとも1つのPTSDマーカーの正常量又は前記PTSDを有する疑いのある対象の前記少なくとも1つのPTSDマーカーの過去の量と比較することと、
を更に含み、
前記量と、前記正常量又は前記過去の量との差が、前記罹患対象におけるPTSDの指標である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
的外傷後ストレス障害(PTSD)を有する疑いのある女性患者を選択することと、
PTSDを有する疑いのある対象由来の生物学的検体中のPTSDに関連する少なくとも1つのPTSDマーカーの量について前記検体を測定することであって、前記少なくとも1つのPTSDマーカーが、生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質1(SIP1);プラコフィリン2;分泌タンパク質SEC8;上皮細胞増殖因子受容体経路基質8;ジアシルグリセロールキナーゼシータ110kDa;セントロソームタンパク質2;一般転写因子IIFポリペプチド2 30kDa;ニューロゲニン3;ADP−リボシルトランスフェラーゼ;またはこれらの組み合わせである、前記検体を測定することと、
前記少なくとも1つのPTSDマーカー前記量を、PTSD又はその他の精神障害を有さない正常な対象における前記少なくとも1つのPTSDマーカーの正常量又は前記PTSDを有する疑いのある対象の前記少なくとも1つのPTSDマーカーの過去の量と比較することと、
を更に含み、
前記量と、前記正常量又は前記過去の量との差は、前記罹患対象におけるPTSDの指標である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項5】
殺型の疑いのある患者を選択することと、
自殺型の疑いのある対象由来の生物学的検体中の自殺型に関連する少なくとも1つの自殺マーカーの量について前記検体を測定することであって、前記少なくとも1つの自殺マーカーがP−11および/又はP2RX7である、前記検体を測定することと、
前記少なくとも1つの自殺マーカーの前記量を、自殺型ではない正常な対象又はその他の精神障害を有さない正常な対象における前記少なくとも1つの自殺マーカーの正常量、若しくは前記自殺型の疑いのある対象の前記少なくとも1つの自殺マーカーの過去の量と比較することと、を更に含み、
前記量と、前記正常量又は前記過去の量との差が、前記罹患対象における自殺の指標である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記生物学的検体が、全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液、汗、前頭前皮質組織、海馬組織、又は同側性皮質組織である、請求項1のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記罹患対象から逐次的に採取された生物学的検体中のシナプトタグミン1(STY1)の量を測定することによってシナプトタグミン1(STY1)の量の経時変化を監視することを更に含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
PTSDに対する治療薬を投与された罹患対象から逐次的に採取された生物学的検体中のシナプトタグミン1(STY1)の量を測定することによってシナプトタグミン1(STY1)の量の経時変化を監視することを更に含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロセスを使用するキットであって、
ヒト対象から単離された生物学的検体を保持するための基材と、
シナプトタグミン1(STY1)と特異的に相互作用する薬剤と、
対象においてPTSDを診断するために、前記薬剤を前記検体又は前記検体の一部分と反応させて、前記マーカーの存在又は量を検出するための印刷された説明書と、
を含むキット。
【請求項10】
前記薬剤が、シナプトタグミン1(STY1)に対する自己抗体に特異的結合する抗原である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記薬剤が、シナプトタグミン1(STY1)に特異的結合する抗体である、請求項9に記載のキット。
【請求項12】
前記薬剤とシナプトタグミン1(STY1)との相互作用が、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって判定される、請求項9に記載のキット。
【請求項13】
対象におけるPTSDを検出するための体外診断装置であって、
前記対象から採取された第1の生物学的検体を保持するための検体チャンバと、
前記検体チャンバと流体連通しており、請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロセスを使用するアッセイモジュールと、
電源と、
前記電源および前記アッセイモジュール動作可能に通信するデータ処理モジュールと、
を備え、
前記アッセイモジュールが、前記第1の生物学的検体を分析し、前記生物学的検体中に存在するシナプトタグミン1(STY1)を検出し、前記第1の生物学的検体中検出されたシナプトタグミン1(STY1)の存在を前記データ処理モジュールに電気的に通信し、
前記データ処理モジュールが、前記対象におけるPTSDを検出することに関連する出力を有し前記出力は、測定されたシナプトタグミン1(STY1)の量、PTSDの存在又は不在、或いはPTSDの重症度である、装置。
【請求項14】
記第1の検体が採取された後のある時点において前記対象から得られた第2の生物学的検体を分析することを更に含み、前記装置が、前記第1の検体と比較して、前記第2の検体中測定されたシナプトタグミン1(STY1)の異なる量を検出した場合に、前記データ処理モジュールによって、経時変化を表す出力が提供される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
データ処理モジュールと電気的に通信し、精神医学的マーカーの量、前記精神医学的マーカーの量と対照との間の比較、精神障害の存在、又は精神障害の重症度のうちの少なくとも1つとして前記出力を表示するディスプレイを更に含む、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記出力を遠隔地に通信するための送信器を更に含む、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
前記出力がディジタルである、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
対象におけるPTSDを検出するための体外診断装置であって、
前記対象から得られた第1の生物学的検体を保持するためのハンドヘルド検体チャンバと、
前記検体チャンバと流体連通しており、請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロセスを使用するアッセイモジュールと、
前記第1の生物学的検体中に存在する少なくとも1つの測定された精神医学的マーカーに応答して比色変化を提供する染料と、
を含む装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年9月14日に出願された米国特許仮出願第61/534,560号及び2011年12月11日に出願された米国特許仮出願第61/569,047号の優先権を主張する。各関連出願は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
米国政府支援
【0002】
本発明は、米国軍隊により与えられる助成金第#DAMD17−00−1−0110号による並びに国立衛生保健研究所により与えられる助成金第#02−M−0317号による米国政府の援助を受けて行われたものである。政府は本発明において特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、一般に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を有する対象で産生されるマーカーの信頼性の高い検出及び同定に関し、同障害を有する対象における神経病理の自殺型と非自殺型とを識別するための信頼性の高い基準値を提供する。特に、本発明は、同障害の患者のための治療及び治療薬の投与のプロセスに加えて、PTSD及び自殺の検出のためのプロセス及びキットに関する。また、本発明は、PTSD及び自殺の診断及び予後に重要であるマーカーの信頼性の高い検出及び同定を可能にする体外診断装置を提供する。
【背景技術】
【0004】
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、米国において、一般人では7〜8%、戦闘地域から帰還した退役軍人では約15%に発症する。症状は、数ヶ月又は数十年にわたって持続する。残念なことに、PTSDの多くは誤診され、PTSDを発症している一般市民及び軍人は治療されないままであり、このような患者の生活の質、家族及び子供、並びに我々の健康管理システムを混乱に陥れる。診断される場合であっても、PTSD進行の重症度は、依然として治療することが困難であるままである。この病態の細胞的及び分子的な機序は、基礎となる病理を理解するための努力と共に、この障害の神経生物学的相関物の広範囲な研究に関わらず、未だ十分には理解されていない。
【0005】
PTSDは、対象が傷害又は死の恐怖を伴う外傷事象を目撃又は経験した後に発症し得る重度の身体障害性の不安障害であり、臨床において急性型又は慢性型で見出され得る。関連する心的外傷経験としては、小児虐待、交通事故、医学的合併症、身体的暴行、自然災害、留置、又は戦争の経験又は目撃が挙げられる。PTSDの症状としては、高度の不安症に特徴がある周期的な悪夢又は昼間のフラッシュバック、闘争又は逃避のために恒常的に過敏に準備することを意味する過覚醒、及び患者に外傷のことを思い出させる可能性がある何か又は誰かとの接触の回避が挙げられる。急性PTSDは、3〜6ヶ月以内に解消するが、慢性PTSDは、数ヶ月、数年又は数十年間にわたって持続する漸増−漸減の障害である。PTSDは、多くはその他の神経障害、特にうつ病、薬物乱用、及び自殺念慮を併発する。したがって、PTSDは実質的な身体障害を発症する。
【0006】
PTSDの現行の診断は、臨床的に構成された面接、症状チェックリスト、又は患者の自己報告を使用する、病歴及び主観的精神状態検査に基づいて行われる。しかしながら、これら主観的テストでは、PTSDをその他の精神障害から識別することが困難なままであり、治療介入及び病因のより明確な理解の双方に関して、困難である治療の判断をもたらす。現行の臨床的評価の既存の制限は、PTSD患者を特定するための能力を改善するためのより客観的な手段から実質的に有益であると考えられ、したがって、PTSDを他の神経障害から識別することが可能であると考えられる。
【0007】
自殺は、全世代における10の主要死因の1つであり、15〜34歳の人々の死因の上位の1つでもある。自殺傾向は、その診断、並びにその傾向の進行の診断が極めて困難である。通常、自殺傾向は、精神状態検査によって予防的に診断され得るにすぎないが、より一般的には、自殺未遂後に行われる。全ての主な精神障害が自殺のリスクを保有するために、自殺は、深刻な精神衛生的な問題である。BP、MDD、SCZ又はPTSDなどの精神障害は、自殺を遂行する人々並びに自殺のリスクがある大部分の集団に寄与する人々の約90%で存在する。自殺犠牲者の死亡時点におけるこれら精神障害の発生率は、87.3%〜98%の範囲である。
【0008】
PTSD患者の自殺未遂を増加させる危険因子は数多く存在し、そのような因子としては、1)複数回の入院、2)うつ病、3)PTSD発病前のストレスの多い生活上の出来事、4)PTSD発病の若年齢、5)PTSD症状のエピソード間の無病期間の欠失、6)女性、7)性的活動、8)PTSD症状のより多くの以前のエピソード、及び9)循環気質が挙げられる。これらの特徴は、過程全体を通して自殺に対するリスクの高い患者を特定するために従来使用されてきた。
【0009】
自殺予防は、軍隊組織の別の主な問題点になりつつある。米軍単独で、自殺の発生率は、現在の経済危機並びにイラク及びアフガニスタン戦争の間に着実に増加した。自殺のリスクを増加させ得る生物学的因子を理解するための並びに自傷行為に向かう性癖によるもので起こる客観的な生物学的変化を特定するための努力に多大な労力が費やされてきたが、現時点で、自殺を予防するための客観的な生物学的マーカーは存在しない。PTSDの最近の研究は、PTSD患者における実質的に増加した自殺及び自殺未遂のリスクを見出した。PTSDと診断された個人の62%が、人の自殺のリスクを一般的に増大させる外傷的事象で、自殺念慮を有すると診断された。PTSDを有する個人の自殺未遂の可能性は、PTSDを有さない個人の約15倍である。したがって、PTSDに冒された患者の自殺の危険性を判定する必要性が存在する。
【0010】
PTSDのための治療は、精神療法、特に認知行動療法と、主にセロトニン特異的再吸収阻害薬(SSRI)による補助的薬物療法とを含む。多くの異なる薬理学的アプローチが検討されている。1つのアプローチは、大うつ病性障害(MDD)及びPTSDが共通して多くのものを有するという臨床的仮説に基づいている。例えば、これら実体は、一般的な危険因子を共有し、症状の重複があり、多くの場合併発する。このため、SSRI薬剤のフルオキセチン(プロザック)及びパロキセチン(パキシル)などの抗うつ剤が、PTSDの一部の症状の治療に有効であると広く考えられている。他の一般的に投与されるSSRI抗うつ剤としては、ベンラファキシン(エフェキソール)、及びセルトラリン(ゾロフト)が挙げられる。
【0011】
しかしながら、PTSDを有する患者は、他の共存する又は合併性の臨床的問題も有する。これらの合併性状態により、医療設備に他のタイプの薬剤が追加で用意されるようになった。一般的に投与される抗精神病剤としては、ミルタザピン(レメロン)、オランザピン(ジプレキサ)、及びクエチアピン(セロクエル)が挙げられる。また、ベータブロッカープロプラノロールも、PTSD患者の記憶形成を遮断するために使用されてきた。α1選択性アドレナリン作動性受容体拮抗薬であるプラゾシンは、外傷に関連する悪夢及びPTSDに関連する睡眠障害を低減することが報告されている。したがって、合併症は、原因的又は補償的のいずれかであっても、PTSD薬物療法への可能なアプローチを複雑化し得る。これら問題は、PTSDのためのより客観的な生物学的ベースの基準が必要であり得ることを示唆している。
【0012】
PTSDを有する患者を特定するための臨床的戦略を開発するための努力がなされてきたが、患者のこのようなリスクを検出するための生物学的アッセイは現時点では存在しない。したがって、PTSDを有する患者の診断は、多くの場合臨床的に構成された面接、症状チェックリスト及び患者の自己報告を使用する、病歴及び精神状態検査に基づいて確立されているにすぎない。現行の臨床的評価は、より客観的なテストから利益を受けるであろう。
【0013】
バイオマーカーは、迅速かつ正確に疾患を診断するために、並びに臨床症状が起こる前に特定の状態及び傾向性に関する高リスクにある個人を特定するために使用が増加している。現時点では、診断を検証するための又はPTSDのための療法についての客観的な代用エンドポイントとして役立つための客観的マーカーは存在しない。PTSDを有する患者のための臨床的に使用されるマーカーの不在下では、診断は、主観的臨床評価、又は精神科医による無症候性診断に依存してきた。PTSDは、患者の個人面接によって診断され得るにすぎないために、ここでは、患者は、彼らが正しいと知っていることを答えるよう認識している場合があり、現行法は、これら障害を有する対象を診断することを依然として困難にしている。結果的に、大部分のPTSDの症例は、数千人の患者のうち、多くが見落とされるか、誤診されるか、又は治療されないままである。これら障害が見落とされている一部の症例では、一般市民の安全が脅かされることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
マーカー分析による今日の技術にも関わらず、PTSD、MDD、SCZ及びBPなどの精神障害の客観的検出において補助し得る予後指標への未達成の問題がいまだ存在する。更に、自殺のリスクがあるこのような患者を診断する上で、精神障害を有するこれら患者を特定することを補助する基準を提供することに対するニーズも存在する。また、PTSDを客観的に診断するプロセスに対するニーズ、PTSD進行及び自殺予防を客観的に監視することに対するニーズ、臨床症状に先立ってPTSDを検出するためのプロセスに対するニーズ、並びに適切な治療過程へと向かわせる神経化学的マーカーを特定するための体外診断装置の使用による臨床介入に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
心的外傷後ストレス障害(PTSD)及び/又は自殺の臨床評価のための診断ツールが、単独で、或いは、面接に基づく評価又はMDD、SCZ及びBPなどの他の障害に関する他の生物学的マーカーレベルと組み合わせて提供される。更に、マーカーの使用によるPTSD及び自殺のリスク評価を向上させるための客観的基準が提供される。反復試験により、ライフスタイル又は治療法計画の有効性に関して、フィードバックが提供される。
【0016】
本発明は、PTSD、MDD、SCZ、BP及び自殺などの精神障害の患者の検体中に選別的に存在するニューロンタンパク質マーカーを検出するために特別に設計されかつ校正された体外診断装置を更に提供する。これら装置は、精神障害の指標であるマーカーの量を検出かつ判定することによって、精神障害の診断において補助するための高感度で、迅速かつ非侵襲的方法を提示する。患者検体中のこれらマーカーの測定は、単独で又は患者面接と組み合わせて、診断医が特定の精神障害の程度の推定診断に相関させ得る情報を提供する。
【0017】
本発明は、PTSDの検出のために、性別特異的及び非性別特異的の両方のタンパク質を検出する方法を更に提供する。代表的なPTSDマーカーは、PTSDに特異的な、少なくとも1つ、複数、又は全ての性中立的タンパク質、ペプチド、その変異体又は断片であり、これは、シナプトタグミン1、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A、ポリメラーゼ(DNA指向性)・デルタ1触媒サブユニット125kDa、小誘導性サイトカインサブファミリーEメンバー1(内皮単球活性化)、非転移性細胞1タンパク質(Nm23A)、タンパク質キナーゼC様1、核タンパク質、毛細血管拡張性運動失調症遺伝子座、モノクローナル抗体KI−87によって特定される抗原、ホスホリパーゼCベータ1(ホスホイノシチド特異的)、カリウム電位依存性チャネル、及びサブファミリーH(eag関連)メンバー6、P−11並びにP2RX7から選択される。P−1及びP2RX&のマーカーもまた、自殺型患者を判定するために同様に使用される。
【0018】
代表的な男性特異的PTSDマーカーは、PTSDに特異的な少なくとも1つ、複数、又は全ての男性特異的タンパク質、ペプチド、その変異体又は断片であり、これは、ユビキチン結合酵素E2L3、Fas(TNFRSF6)結合デスドメインタンパク質、タンパク質キナーゼ、AMP活性化ベータ1非触媒サブユニット、カリクレイン10、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ4、TAF6 RNAポリメラーゼII、TATAボックス結合タンパク質(TBP)関連因子(80kDa)、タンパク質キナーゼCα、DNA断片化因子45kDa・αポリペプチド、テトラトリコペプチド反復配列4を有するインターフェロン誘導性タンパク質、ストリアチン・カルモジュリン結合タンパク質、ホスホイノシチド−3−キナーゼ・触媒性アルファポリペプチド、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー6、核自己抗原性精子タンパク質(ヒストン結合)、rasホモログ遺伝子ファミリーメンバーA、NIMA(never in mitosis gene a)関連キナーゼ2、クロマチンのSWI/SNF関連マトリックス結合アクチン依存性レギュレータサブファミリーaメンバー2、アリール炭化水素受容体核トランスロケータ、シナプトソーム結合タンパク質(91kDaホモログ(マウス)、G1〜S期移行2、及びインテグリンアルファ2(CD49B、VLA−2受容体のアルファ2サブユニット)から選択される。
【0019】
代表的な女性特異的PTSDマーカーは、PTSDに特異的な少なくとも1つ、複数、又は全ての女性特異的タンパク質、ペプチド、その変異体又は断片であり、これは、生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質1、プラコフィリン2、分泌タンパク質SEC8、上皮細胞増殖因子受容体経路基質8、ジアシルグリセロールキナーゼシータ110kDa、セントロソームタンパク質2、一般転写因子IIFポリペプチド2 30kDa、ニューロゲニン3、及びADP−リボシルトランスフェラーゼ(NAD+;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ)から選択される。
【0020】
全血、CNS組織、血清、血漿、CSF、唾液、汗、涙液、尿、頬の検体又はこれらの組み合わせ中の、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(UBE3A)、シナプトタグミン(STY1)、内皮単球活性化ポリペプチド(EMAP−II)、生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質(SIP1)、複製開始点認識複合体・サブユニット5様タンパク質(ORC5L)及びダブルコルテックス;X染色体連鎖性滑脳症(ダブルコルコルチン)(DCX)のレベルを検出し、タンパク質の測定されたレベルを、これらマーカーが状態の指標である任意の精神障害又はニューロン障害に冒されていない健常で正常な対象のものと、あるいは比較を提供する個人から得た過去のレベルとを比較するために、プロセスが更に提供される。PTSD、自殺又は上記引用の障害のその他のものの診断は、対象から採取した検体における選択されたマーカーのレベルが、予め選択された正常の範囲外にある場合である。所与の対象についての正常範囲は、年齢、性別、投薬負荷、及び面接に基づく診断を例示的に含む患者に特異的な変数を基準として選択される。性別特異的である更なるマーカーが記述される。
【0021】
これらタンパク質の検出のプロセスは、ウェスタンブロット又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの従来の免疫アッセイ技術により実行されるが、サンドイッチELISAの使用により行われることが好ましい。タンパク質抗原又はタンパク質の分解生成物を検出するための抗体などの更なる試薬が使用される。
【0022】
前述のマーカーに対する抗原が、身体の自己抗体応答を検出するようにも使用されることが理解される。いずれかの薬剤の使用は、PTSDの存在を検出し、PTSD誘発自殺への患者の性癖を判定するよう使用される測定基準を提供して、対象における測定されたマーカーの量の検出を可能にする。
【0023】
末梢血単核細胞(PBMC)中のP11 mRNAはまた、精神障害の進行を完全にマップするために、PTSD及びMDDなどのその他の精神障害を検出するために使用される。ここでは、検出の好ましいプロセスが、PTSD、MDD及び自殺対象者から得たPBMC中のマーカーのmRNAレベルを測定する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(Q−PCR)によって実行される。このプロセスは、対象のPBMC中のp−11のmRNAレベルを測定すること、及び健常な個人又は非精神障害患者、並びにPTSD又はMDDを有する非自殺型患者から得た検体中のP−11 mRNAの発現レベルと比較することを伴う。
【0024】
患者検体中のP−11タンパク質レベルは、院内又は現場で大部分はリアルタイムで、ハンドヘルド又はポイントオブケアプラットフォームで容易に検出される。P−11 mRNAは、個別に、又はP−11タンパク質と一緒に組み合わせマーカー中で測定されることが認識される。これら技術のいずれかの使用による、患者の正常値よりも有意に低く検出されたp−11レベル(mRNA又はタンパク質)は、PTSDの自殺型に冒される患者の指標である。P−11の検出レベルが正常値よりも高い場合は、このレベルは、PTSD、BP、MDD又はSCZの非自殺型の指標である。対象に好適な治療方法に関する評価は、対象から得た生物学的検体中のP−11の測定レベルに基づいて選択される。診療報酬は、P−11タンパク質レベル又はその他の本発明のマーカーの測定と引き換えに請求し得る。記載されたマーカーの少なくとも1つが、個別に、又は本明細書に記載の他のPTSDマーカーと組み合わせて測定される。
【0025】
精神障害のタイプは、相補的精神鑑定によって主観的に、又はその他のマーカーの使用によって客観的に、問題となっている特定の障害に更に細分化される。例として、P2RX7タンパク質、P2RX mRNAレベル又はUBE3Aが、PTSDの他の精神障害からの識別において更に補助的に、患者のPTSD及び自殺における追加的な指標予知因子を提供する診断の細分化として使用されてもよい。特定された2つ又はそれ以上のマーカーの使用は、対象における自殺及び/又はPTSDの検出で正確に補助するために相乗的診断テストを提供することが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】男性患者及び女性患者の双方についての、AUCが100%である場合の、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(UBE3A)の受信者動作特性(ROC)曲線を示す。
図2】AUCが男性では95%であり、女性では98.1%である場合の、シナプトタグミン1(STY1)のROC曲線を示す。
図3】AUCが男性では98.1%であり、女性では97.9%である場合の、小誘導性サイトカインサブファミリーE(SCYE1)のROC曲線を示す。
図4】AUCが検体統計学的データについて88%である場合、対照とPTSD患者との間で画定された本発明のマーカーのROC曲線を示す。
図5】PTSD(n=13)と対照被験者(n=11)との間で血漿コルチゾールの基底レベルの有意差が認められない(p>0.05)ことを示す。
図6】グリココルチコイド受容体(GR)のmRNAレベルが、対照被験者よりもPTSDのPBMC中で有意に低いことを示す。
図7】対照(n=14)に比較してPTSDを有する患者(n=13)においてP−11 mRNAレベルが有意に低いことを示す(p<0.05)。双極型障害、BP(n=24)、大うつ病性障害、MDD(n=12)、精神分裂症、SCZ(n=12)のPBMC P−11 mRNAレベルが、対照被験者(n=14)よりも有意に高いことを示す(p<0.001)。
図8A】P−11 mRNAレベルが、対照被験者と比べてPTSDを有する自殺未遂者で有意に増加したことを示す(p<0.05)、定量的リアルタイムPCR分析からの結果を示す。非自殺型患者と対照被験者との間でPBMC P−11 mRNA発現レベルで有意差は認められない。
図8B】P−11 mRNAレベルが、対照被験者に比べてBPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の双方で有意に増加することを示す(p<0.05)。BPを有する自殺未遂者と非自殺型患者との間でPBMC P−11 mRNA発現レベルの有意差は認められない。***p<0.001。
図9】PTSDを有する自殺未遂者と非自殺型投薬患者のPBMC P−11 mRNA発現レベルと症状との関係が不十分であることを示す。図9A及び9Bは、PTSDを有する自殺未遂者におけるPBMC P−11 mRNA発現レベル及びハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)又はハミルトン不安症評価尺度(HARS)スコアを比較する。図9C及び9Dは、PTSDを有する非自殺型患者におけるPBMC P−11 mRNA発現レベル及びHAMD又はHARSスコアを比較する。全てのテスト群で、HAMD又はHARSスコアとP−11 mRNAレベルとの間に有意な相関性は認められない。
図10】BPを有する自殺未遂者と非自殺型患者のPBMC P−11 mRNA発現レベルと症状との関係が不十分であることを示す。図10A及び10Bは、BPを有する自殺未遂者におけるPBMC P−11 mRNA発現及びHAMD又はHARSスコアを比較する。図10C及び10Dは、BPを有する非自殺型患者におけるPBMC P−11 mRNA発現及びHAMD又はHARSスコアを比較する。全てのテストされた群において、HAMD又はHARSスコアとP−11 mRNAレベルとの間の有意な相関は認められない。
図11】対照被験者、PTSD又はBPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の間で、PBMC中のP2RX7 mRNAレベルが異なることを示す。図11Aは、P2RX7 mRNAレベルが、対照被験者に比べて、PTSDを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の双方で有意に減少する(p<0.05)ことを示す、定量的リアルタイムPCR分析からの結果を示す。図11Bは、P2RX7 mRNAレベルが、対照被験者又はBPを有する自殺未遂者に比べ、BPを有する非自殺型患者で有意に低い(p<0.05)ことを示す。対照被験者に比べて、BPを有する自殺未遂者で見出されたPBMC P2RX7 mRNA発現レベルにおける有意差は認められない。**p<0.01;***p<0.001。
図12】PTSDを有する非自殺型患者においてPBMC P2RX7 mRNA発現レベル間の関係がHAMD又はHARSスコアと高い相関関係にあることを示す。HAMD又はHARSスコアを、PTSDを有する自殺未遂者及び非自殺型患者におけるPBMC P2RX7 mRNA発現レベルに対してプロットする。このスコアは、自殺未遂者におけるP2RX7 mRNAレベルに相関が認められないが、非自殺型患者におけるP2RX7 mRNAレベルには相関が認められる(p<0.05)。
図13】BPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者におけるPBMC P2RX7 mRNA発現レベル間の関係が、HAMD又はHARSスコアと相関しないということを示す。HAMD又はHARSスコアを、BPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者におけるPBMC P2RX7 mRNA発現レベルに対してプロットする。全てのテストされた群において、P2RX7 mRNAレベルとHAMD又はHARSスコアとの間で有意な相関は認められない。
図14】P−11 mRNAレベルが、正常な対照被験者(C)に比べて、自殺未遂者(S)で有意に低く、非自殺未遂者(NS)で高いことを示す、定量的リアルタイムPCR分析の結果を示す。
図15】対照被験者、自殺未遂者及び非自殺未遂者のPBMC中のP2RX7 mRNAレベルの差を示し、定量的リアルタイムPCR分析は、P2RX7 mRNAレベルが、正常対照(C)に比べて、自殺未遂者(S)及び非自殺未遂者(NS)の双方で有意に低いことを示している。
図16】体外診断装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、PTSD及び自殺などの精神障害をテストするための装置及びマーカーとしての有用性を有し、これによって、臨床介入を可能にする。本発明は、提供された神経タンパク質マーカーが併用され得る神経損傷又はニューロン障害を検出するために更に使用され得る。
【0028】
以下の詳細な説明は、本質的に例示的なものにすぎず、変更する場合がある本発明の範囲、その用途、又は使用を決して限定するよう意図するものではない。本発明は、本明細書に含まれる非限定的定義及び専門用語に関して説明される。これら定義及び専門用語は、本発明の範囲又は実行への制限として機能するようデザインされておらず、単に例示的及び説明的目的で提示されている。本明細書及び特許請求の範囲にわたって使用される様々な用語は、これが本発明を理解する上で有用であり得るために、以下に記載されるように定義される。
【0029】
本発明の文脈において、「マーカー」とは、mRNA、タンパク質又は分解生成物(BDP)又は上記の1つに対する抗体で、対照被験者(例えば、陰性診断を有する人、正常又は健常な対象)から採取した比較可能な検体若しくはその患者の過去のマーカーの値から採取した比較可能な検体と比較した場合に、神経創傷及び/又は精神障害を有する患者から採取した検体中で選別的に存在するものを指す。
【0030】
「分解生成物」は、検出可能であり、ベースmRNA又はタンパク質と相関させるために十分なサイズを有するmRNA又はタンパク質の断片として定義される。
【0031】
用語「精神障害」は、本明細書において広義に使用され、人が行動し、他人と関わり、日常生活で機能する方法で妨害する心の障害を指す。アメリカ精神医学会によって発表された「精神疾患診断統計マニュアル」(DSM)は、PTSD、MDD、BP及びSCZなどの精神障害を分類している。
【0032】
用語「患者」、「個人」又は「対象、被験体」は、本明細書では互換的に使用され、治療される哺乳類対象を意味し、ここではヒトが好ましい。場合によっては、本発明のプロセスは、実験動物における、獣医学的用途における、並びに疾患に関する脊椎動物モデルの開発における使用を見出し、これらは、限定するものではないが、マウス、ラット、及びハムスターを含む齧歯類、鳥類、魚類、爬虫類、及び霊長類を挙げられる。
【0033】
用語「正常被験体」とは、精神病的期間に顕在化する神経損傷に冒されていない又は冒されたことがなく、並びに過去の神経損傷又はいずれかの精神障害の病歴を有さない哺乳類対象を指し、ここではヒトが好ましい。
【0034】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書で互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。この用語は、その中で1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然型アミノ酸の類似体又は模倣体であるポリマー、並びに天然型アミノ酸ポリマーでマーカーに相関させるために十分なサイズを有するものに適用する。ポリペプチドは、例えば、糖タンパク質を形成するために炭水化物残基の付加によって修飾され得る。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、糖タンパク質、並びに非糖タンパク質を含む。
【0035】
「抗体」とは、少なくとも1つの免疫グロブリン遺伝子によって実質的にエンコードされるポリペプチドリガンド、又はその断片を指し、これはエピトープ(例えば、抗原)に特異的に結合し、これを認識する。認識される免疫グロブリン遺伝子としては、カッパ及びラムダ軽鎖定常領域遺伝子、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミュー重鎖定常領域遺伝子、及び無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。抗体は、例えば、完全な免疫グロブリンとして、又は様々なペプチダーゼによる消化で生成された多数の明確な特徴を有する断片として存在する。これは、例えば、Fab’及びF(ab)’2断片を含む。また、本明細書で使用される用語「抗体」は、全抗体の修飾によって生成された抗体又は組換えDNAの技術的方法を使用して、デノボで合成されたもののいずれも包含する。これはまた、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は単鎖抗体も包含する。抗体の「Fc」部分は、1つ以上の重鎖定常領域ドメインCH1、CH2及びCH3を備える免疫グロブリン重鎖の部分ではあるが、重鎖可変領域を含まないものを指す。
【0036】
本明細書で使用される「生物学的検体」とは、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチド、抗体の断片及び相互関連性のある分解生成物が挙げられ、これは、体液;細胞調製物の可溶性画分、又はその中で細胞が増殖される培地;細胞から単離又は抽出された染色体、オルガネラ、又は膜;溶液中の又は基材に結合されたゲノムDNA、RNA、又はcDNA、ポリペプチド、若しくはペプチド;細胞;組織;組織プリント;フィンガープリント;皮膚;若しくは毛髪;並びに前述の断片である。
【0037】
「基材」とは、核酸分子又はタンパク質が結合される任意の剛性又は半剛性の支持体を指し、ウェル、溝、ピン、チャネル及び孔を含む様々な表面形状を備えた膜、フィルタ、チップ、スライド、ウェハ、ファイバ、磁気又は非磁気ビーズ、ゲル、毛管又はその他のチューブ、プレート、ポリマー、及び微小粒子が挙げられる。
【0038】
「免疫アッセイ」とは、抗原に特異的に結合する抗体又は抗体(例えば、マーカー)に結合する抗原を使用するアッセイである。免疫アッセイは、抗原を単離する、標的化する、及び/又は定量化するために、特定の抗体の特異的結合特性の使用に特徴がある。多くの免疫アッセイが存在し、本発明で互換的に使用され得ることが理解されるべきである。
【0039】
本明細書で使用される用語「外傷性脳損傷」又は「TBI」とは、当業者に周知であり、その中で、多くは頭蓋部を貫通することなく、頭部への外傷的打撃が、脳への損傷を引き起こす状態を含むことを意図する。通常は、初期外傷が血腫の拡大、くも膜下出血、脳浮腫、頭蓋内圧(ICP)上昇、及び脳低酸素症をもたらし、これが、今度は、低大脳血流(CBF)に起因する重篤な二次的事象に繋がる。重症度に応じて、TBIはまた、重度、軽度又は中等度として分類され得る。
【0040】
タンパク質又はペプチドに言及する場合、抗体に「特異的に(又は選択的に)結合する」又は「特異的に(又は選択的に)免疫反応性を有する」との用語とは、タンパク質及びその他の生物製剤の異種集団中のタンパク質の存在の決定要因である結合反応を指す。したがって、指定された免疫アッセイ条件下で、特定された抗体は、バックグラウンドの少なくとも2倍の特定のタンパク質と結合し、検体中に存在するその他のタンパク質にかなりの量では実質的に結合することはない。かかる条件下における抗体への特異的結合は、特定のタンパク質に対するその特異性について選択される抗体を必要とする場合がある。例えば、ラット、マウス、又はヒトなどの特異的種から得たマーカーNF−200に対するポリクローナル抗体は、マーカーNF−200に特異的に免疫反応し、マーカーNF−200の多型変異体及び対立遺伝子を除き、その他のタンパク質とは免疫反応しないポリクローナル抗体のみを得るよう選択され得る。この選択は、その他の種からマーカーNF−200分子と交叉反応する抗体を除去することによって達成され得る。様々な免疫アッセイフォーマットが、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために使用されてもよい。例えば、固相ELISA免疫アッセイは、タンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために日常的に使用されている(特異的免疫反応性を決定するために使用され得る免疫アッセイフォーマット及び条件の説明のために、例えば、Harlow & Lane、Antibodies、A Laboratory Manual(1988年)を参照されたい)。典型的には、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍であり、より典型的には、バックグランドの10〜100倍以上であるだろう。
【0041】
本明細書で使用される用語「体外診断薬」とは、限定するものではないが、FDAによる認可又は承認を受けたIn Vitoro Diagnostic(IVD、体外診断薬)、Laboratory Developed Test(LDT、各研究室で独自開発された検査)、ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC、消費者向け医薬品)を含む診断試験医薬品又は試験サービスの任意の形態を意味し、これは検体をアッセイし、疾患、障害、状態、感染及び/又は治療反応に対する素因、又はリスクの存在を検出又は指示するために使用され得る。一実施形態では、体外診断薬は、研究室又はその他の医療従事施設で使用され得る。別の実施形態では、体外診断薬は、家庭で消費者によって使用されてもよい。体外診断試験は、疾患又はその後遺症を治癒し、緩和し、治療し又は予防するために、健康状態の判定を含む疾患又はその他の状態の体外診断における使用を意図するこれら試薬、機器、及びシステムを含む。一実施形態では、体外診断用医薬品は、ヒトの身体から採取される検体の採取、調製、及び検査で使用するよう意図されてもよい。特定の実施形態では、体外診断試験及び医薬品は、1つ以上の体外診断試験などの1つ以上の研究室試験を含んでもよい。本明細書で使用される用語「研究室試験」とは、血液、血清、血漿、CSF、汗、唾液又は尿、頬の検体若しくはその他のヒト組織又は物質の検体を試験することを伴う1つ以上の医療手順又は研究室手順を意味する。
【0042】
核酸プローブ又はプライマーは、標的マーカーmRNAにハイブリダイズすることができ、PTSDに関するマーカータンパク質をエンコードするmRNAを検出する及び/又は定量化するために使用される。核酸プローブは、長さが少なくとも10、15、30、50又は100ヌクレオチドであり、ストリンジェントな条件下でマーカータンパク質mRNA又はその相補的配列に特異的にハイブリダイズするのに十分なオリゴヌクレオチドであり得る。核酸プライマーは、長さが少なくとも10、15又は20ヌクレオチドであり、ストリンジェントな条件下でmRNA又はその相補的配列にハイブリダイズするのに十分なオリゴヌクレオチドであり得る。
【0043】
「相補体」及び「相補的」とは、ヌクレオチド間のワトソン−クリック型塩基対形成を指し、具体的には、2つの水素結合によってアデニン残基に結合されたチミン又はウラシル残基並びに3つの水素結合によって結合されたシトシン及びグアニン残基で、互いに水素結合されたヌクレオチドを指す。広義では、核酸は、特定の第2のヌクレオチド配列に対して「相補性パーセント」を有するとして説明されるヌクレオチド配列を含む。例えば、あるヌクレオチド配列は、特定の第2のヌクレオチド配列に対して80%、90%、又は100%の相補性を有することができ、これは配列の10ヌクレオチドのうち8ヌクレオチド、10のうち9ヌクレオチド、10のうち10ヌクレオチドが、特定の第2のヌクレオチド配列に対して相補的であることを示唆する。例えば、ヌクレオチド配列3’−TCGA−5’は、ヌクレオチド配列5’−AGCT−3’に対して100%の相補性を有する。更に、ヌクレオチド配列3’−TCGA−は、ヌクレオチド配列5’−TTAGCTGG−3’の領域に対して100%相補的である。
【0044】
「ハイブリダイゼーション」及び「ハイブリダイズ」とは、相補的核酸の対形成及び結合を指す。ハイブリダイゼーションは、当業界で公知のように、核酸の相補性の程度、核酸の融解温度Tm、及びハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーなどの因子に依存して2つの核酸間の程度を変えることによって生じる。
【0045】
「ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシー」とは、温度、イオン強度、並びにホルムアミド及びデンハート溶液などの特定の一般的な添加剤に対するハイブリダイゼーション培地の組成の条件を指す。指定された核酸に関する特定のハイブリダイゼーション条件の決定は、例えば、J.Sambrook及びD.W.Russell著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press;第3版、2011年;及びP.M.Ausubel編集、Short Protocols in Molecular Biology,Current Protocols;第5版、2002年に記載されるように、当業界で公知である。高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、実質的に相補的な核酸のハイブリダイゼーションのみを可能にするものである。典型的には、約85〜100%の相補性を有する核酸は、高相補性であると考えられ、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。中間ストリンジェンシー条件は、その下で約50〜84%の相補性の中間的相補性を有する核酸、並びに高程度の相補性を有する核酸がハイブリダイズする条件によって例示される。これとは対照的に、低ストリンジェントの条件とは、その中で低程度の相補性を有する核酸がハイブリダイズするものである。
【0046】
「特異的ハイブリダイゼーション」及び「特異的にハイブリダイズする」とは、検体中の標的核酸以外の核酸への実質的なハイブリダイゼーションがなく、標的核酸への特定の核酸のハイブリダイゼーションを指す。
【0047】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー及び洗浄条件は、当業者に周知であるように、プローブ及び標的のTm並びにハイブリダイゼーション及び洗浄条件のイオン強度を含むいくつかの因子に依存する。所望のハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを達成するためのハイブリダイゼーション及び条件は、例えば、Sambrookら著、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年;及びAusubel F.ら編集、Short Protocols in Molecular Biology、Wiley、2002年に記載されている。
【0048】
高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の例は、37℃で一晩インキュベートされ、その後従来の洗浄が行われる、デンハート溶液及び30%のホルムアミドなどの関連化学物質を含有する溶液中の長さが約100ヌクレオチドにわたる核酸のハイブリダイゼーションである。
体外診断装置
【0049】
図16は、本発明の体外診断装置を概略的に図示する。本発明の体外診断装置は、少なくとも検体採取チャンバ1603と、精神障害のマーカーを検出するために使用されるアッセイモジュール1602とからなる。体外診断装置は、ハンドヘルド装置、ベンチトップ装置、又はポイントオブケア装置から構成されてもよい。
【0050】
検体チャンバ1603は、生物学的液体を保持するための当該技術分野で既知の任意の検体採取装置であることができる。一実施形態では、検体採取チャンバは、全血、血漿、血清、尿、汗、唾液又は頬の検体などの本明細書中で用いられる生物学的液体の1つを収容することができる。
【0051】
アッセイモジュール1602は、例えば、免疫アッセイにおける抗体の使用による、生物学的検体中のタンパク質抗原を検出するために使用され得るアッセイから構成されることが好ましい。アッセイモジュール1602は、当該技術分野において現時点で既知である任意のアッセイから構成され得るが、このアッセイは、対象の神経損傷、神経障害又は精神障害を検出するために使用される神経マーカーの検出用に最適化されねばならない。アッセイモジュール1602は、検体採取チャンバ1603と流体連通している。一実施形態では、アッセイモジュール1602は免疫アッセイから構成され、ここでは免疫アッセイは、放射線免疫アッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、蛍光免疫アッセイ、化学発光免疫アッセイ、リン光免疫アッセイ、又は陽極溶出ボルタンメトリー免疫アッセイのいずれか1つであってもよい。一実施形態では、比色アッセイが使用されてもよく、これは、検体採取チャンバ1603とアッセイのアッセイモジュール1602のみを備える場合がある。具体的には示さないが、これら構成部品は、1つの組立品1607内に収納されていることが好ましい。一実施形態ではアッセイモジュール1602は、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(UBE3A)、シナプトタグミン(STY1)、内皮単球活性化ポリペプチド(EMAP−II)、生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質(SIP1)、複製開始点認識複合体・サブユニット5様タンパク質(ORC5L)及びダブルコルテックス;X染色体連鎖性滑脳症(ダブルコルチン)(DCX)、P−11、P2RX7若しくはこれらの任意の組み合わせ断片又は分解生成物を検出するために特異的な薬剤を具備する。アッセイモジュール1602は、本明細書に記載されるような追加のマーカーを検出するための追加の薬剤を具備してもよい。外傷性脳損傷(TBI)を伴う精神障害の共存症のために、本発明のIVDはまた、TBIの存在及び重症度とマーカーの存在又は量を相関させるよう同一のマーカーを測定することも可能である。
【0052】
別の好ましい実施形態では、本発明の体外診断装置は、電源1601と、アッセイモジュール1602と、検体チャンバ1603と、データ処理モジュール1605とを具備する。電源1601は、アッセイモジュール及びデータ処理モジュールに電気的に接続されている。アッセイモジュール1602及びデータ処理モジュール1605は、互いに電気的に接続されている。上述したように、アッセイモジュール1602は、当該技術分野において現時点で既知である任意のアッセイから構成され得るが、このアッセイは、対象の神経損傷、ニューロン障害又は精神障害を検出するために使用される神経マーカーの検出用に最適化されねばならない。アッセイモジュール1602は、検体採取チャンバ1603と流体連通している。アッセイモジュール1602は免疫アッセイから構成され、ここでは免疫アッセイは、放射線免疫アッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、蛍光免疫アッセイ、化学発光免疫アッセイ、リン光免疫アッセイ、又は陽極溶出ボルタンメトリー免疫アッセイのいずれか1つであってもよい。生物学的検体が、検体チャンバ1603内に配置され、精神障害のマーカーを検出するアッセイモジュール1602によってアッセイされる。アッセイモジュール1602による測定されたマーカーの量は、次いでデータ処理モジュール1604に電気的に通信される。データ処理モジュール1604は、当該技術分野で既知の任意の既知のデータ処理要素から構成され得、チップ、中央演算処理ユニット(CPU)、又はアッセイモジュール1602から供給された情報を処理するソフトウェアパッケージから構成され得る。
【0053】
一実施形態では、データ処理モジュール1604は、ディスプレイ1605、メモリ装置1606、若しくは外部装置1608又はソフトウェアパッケージ(研究室及び情報管理ソフトウェア(LIMS)など)と電気的通信状態にある。一実施形態では、データ処理モジュール1604は、データをユーザー定義の使用可能なフォーマットに処理するために使用される。このフォーマットは、検体中で検出された神経マーカーの測定量、神経損傷、神経障害、又は精神障害が存在することの表示、若しくは神経損傷、ニューロン障害、又は精神障害の重症度の表示からなる。データ処理モジュール1604からの情報は、ディスプレイ1605上に表示され、機械読み取り可能なフォーマットでメモリ装置内に保存され、又は更なる処理又は表示のための外部装置1608に電気通信され得る。具体的には示してはいないが、これら構成部品は、組立品1607内に収納されることが好ましい。一実施形態では、データ処理モジュール1604は、アッセイモジュール1602から送信されたマーカーの検出量を比較器アルゴリズムと比較するようプログラムされてもよい。比較器アルゴリズムは、測定量を、ユーザーによって有用な任意の限度値であり得るユーザー定義の閾値と比較することができる。一実施形態では、ユーザー定義の閾値は、対照被験者で測定されたマーカーの量に設定されるか、又は対照集団の統計的に有意な平均値に設定される。
【0054】
本明細書に記載の方法及び体外診断試験は、診断情報が、神経損傷、ニューロン障害又は精神障害を有する疑いのある患者における現行の診断的評価に含まれることを示唆することができる。別の実施形態では、本明細書に記載の方法及び体外診断試験は、精神障害に関連する可能性がある危険な非特異的症状からの進行のリスク、及び/又は完全に診断された精神障害をスクリーニングするために使用され得る。特定の実施形態では、本明細書に記載の方法及び体外診断試験は、精神障害と症状を共有する疾患及び障害のスクリーニングを除外するために使用され得る。
【0055】
一実施形態では、体外診断試験は、個人から得た生物学的検体を保持し又は採取するよう構成された1つ以上の装置、ツール、及び器具を含む。体外診断試験の一実施形態では、生物学的検体を採取するためのツールは、生物学的検体の採取、保管、及び輸送を容易にするよう設計された綿棒、解剖用メス、注射器、スクレーパ、容器、並びにその他の装置及び試薬を含んでもよい。一実施形態では、体外診断試験は、生物学的検体を採取し、安定化させ、保管し、かつ処理するための試薬又は溶液を含んでもよい。ヌクレオチド採取、安定化、保管、並びに処理のためのこのような試薬及び溶液は、当業者に周知であり、本明細書に記載されるような体外診断試験によって使用される特定の方法により指示され得る。別の実施形態では、本明細書で開示するような体外診断試験は、マイクロアレイ装置及び試薬、フローセル装置及び試薬、マルチプルヌクレオチド配列決定装置及び試薬、並びに遺伝子検体を特定の遺伝子マーカーについてアッセイするために、更に特定の生物学的マーカーを検出しかつ可視化するために必要な追加的ハードウェア及びソフトウェアを備えてもよい。
タンパク質バイオマーカー
【0056】
本発明は、精神障害、例えばPTSD及び自殺の検出のための、性別特異的及び非性別特異的の双方のタンパク質を検出するプロセスを提供する。これら同一の神経タンパク質はまた、多くの精神障害と併発することが多い、TBIなどの神経損傷及びニューロン障害を検出するために使用され得る。好ましい実施形態では、PTSDに特異的な、少なくとも1つ、複数の、又は全ての無性タンパク質、ペプチド、これらの変異体又は断片が検出され、これは、シナプトタグミン1、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A、ポリメラーゼ(DNA指向性)・デルタ1触媒サブユニット125kDa、小誘導性サイトカインサブファミリーE・メンバー1(内皮単球活性化)、非転移性細胞1タンパク質(Nm23A)、タンパク質キナーゼC様1、核タンパク質(毛細血管拡張性運動失調症遺伝子座)、モノクローナル抗体KI−87によって特定される抗原、ホスホリパーゼCベータ1(ホスホイノシチド特異的)、カリウム電位依存性チャネル、及びサブファミリーH(eag関連)・メンバー6、ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼL−1(UCH−L1)、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)、アルファ2−スペクチン分解生成物、シナプトフィシン、α−シヌクレイン、ニューログラニン、S−100ベータ、ニューロフィラメントタンパク質−F、H及びN、マイクロチューブリンタンパク質、ミエリン塩基性タンパク質、コラプシン応答仲介タンパク質(CRMP)、P−11並びにP2RX7から選択される。
【0057】
男性特異的PTSDマーカーもまた、本発明のプロセスで提供され、このマーカーは、PTSDに特異的な少なくとも1つ、複数、又は全ての男性特異的タンパク質、ペプチド、その変異体又は断片であり、これは、ユビキチン結合酵素E2L3、Fas(TNFRSF6)結合デスドメインタンパク質、タンパク質キナーゼ(AMP活性化)・ベータ1・非触媒サブユニット、カリクレイン10、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ4、TAF6 RNAポリメラーゼII、TATAボックス結合タンパク質(TBP)関連因子(80kDa)、タンパク質キナーゼCα、DNA断片化因子(45kDa)・αポリペプチド、テトラトリコペプチド反復配列4を有するインターフェロン誘導性タンパク質、ストリアチン・カルモジュリン結合タンパク質、ホスホイノシチド−3−キナーゼ・触媒性アルファポリペプチド、腫瘍壊死因子受容体・スーパーファミリー・メンバー6、核自己抗原性精子タンパク質(ヒストン結合)、rasホモログ遺伝子ファミリー・メンバーA、NIMA(never in mitosis gene a)関連キナーゼ2、クロマチンのSWI/SNF関連マトリックス結合アクチン依存性レギュレータ・サブファミリーa・メンバー2、アリール炭化水素受容体核トランスロケータ、シナプトソーム結合タンパク質(91kDaホモログ(マウス)、G1〜S期移行2、及びインテグリン・アルファ2(CD49B、VLA−2受容体のアルファ2サブユニット)から選択される。
【0058】
女性特異的PTSDマーカーもまた、本発明のプロセスで提供され、このマーカーは、PTSDに特異的な少なくとも1つ、複数、又は全ての女性特異的タンパク質、ペプチド、その変異体又は断片であり、これは、生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質1、プラコフィリン2、分泌タンパク質SEC8、上皮細胞増殖因子受容体経路基質8、ジアシルグリセロールキナーゼ・シータ・110kDa、セントロソームタンパク質2、一般転写因子IIF、ポリペプチド2・30kDa、ニューロゲニン3、及びADP−リボシルトランスフェラーゼ(NAD+;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ)から選択される。
【0059】
PTSDについての更に他のマーカーとしては、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(UBE3A)、シナプトタグミン(STY1)、内皮単球活性化ポリペプチド(EMAP−II)、生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質(SIP1)、複製開始点認識複合体・サブユニット5様タンパク質(ORC5L)及びダブルコルテックス;X染色体連鎖性滑脳症(ダブルコルコルチン)(DCX)が挙げられる。
【0060】
ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(UBE3A)は、脳に刷り込まれた(インプリントされた)母体由来の対立遺伝子中の突然変異が、精神遅滞及びアンジェルマン症候群に関連するその他の症状へと導くために、ヒトの脳についての高度関連遺伝子である。これとは対照的に、野生型UBE3A遺伝子の複写物は、ヒトの自閉症に関連し、マウスの脳におけるヒトUBE3Aの遺伝子導入過発現は、樹状突起棘の数及び長さの減少に関連する。一貫して、脳内でのUBE3A(dUBE3A)についての高度に保存されるショウジョウバエ相同体の過発現は、樹状分岐の減少を引き起こす。また、刷り込まれたUBE3A遺伝子の発現は、主として海馬で検出され、小脳プルキンエ細胞及び嗅球においても検出される。故に、最適以下の機能が明らかになる上か下に、UBE3A発現に関する最適な設定ポイントがあるように思える。したがって、PTSDのCSF、血液、尿、唾液又は組織中のUBE3Aの高レベルは、異常な中心プロセスの徴候である。機能障害は、UBE3A発現が脳内で常に最高である海馬に焦点が当てられる。本発明は、正常対照又は患者の過去のレベルと比較するとき、PTSDの患者における全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液、及び脳組織(海馬又は同側性皮質など)でUBE3Aのレベルの上昇を特定している。
【0061】
シナプトタグミン−1は、タンパク質キナーゼCに関連する2つのC2ドメインと、パルミトイル化並びに酸性リン脂質、カルシウム及びカルモジュリンの結合のための部位とを含有する57kDaの糖タンパク質である。シナプトタグミン−1は、細胞膜の局所的Ca2+依存性バックリングを誘導することによって、小胞輸送及び開口放出に関与する。シナプトタグミン−1は、シナプス小胞の膜貫通成分であり、これは、開口放出神経伝達の間に生じるカルシウム依存性膜融合に関与している。完全な65kDaのシナプトタグミン−1タンパク質は、ヒトの脳脊髄液中で同定されていて(Davidssonら、1996年)、これは、早期発症型アルツハイマー病(EAD)を有する患者から得たCSF中で減少することが見出されている。同時に、EAD患者の海馬及び前頭皮質の死後解剖で、シナプトタグミン−1の低減したレベルが報告されている。本発明は、正常対照又は患者の過去のレベルと比較するとき、PTSDの患者における全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液、及び脳組織(海馬又は同側性皮質など)でSYT1タンパク質のレベルの減少を特定し、PTSD患者の脳の海馬で発生する部分的な保護機能を表している。
【0062】
内皮単球活性化タンパク質(EMAP−II)は、炎症性サイトカインである。このプロEMAP−II前駆体は、アミノアシル−tRNAシンセターゼ複合体の補助的p43構成成分と同一である。p43のEMAP−IIドメインは、カスパーセ7による対外診断後に複合体から容易に放出され、ヒトの単球食細胞の移動を誘発することができる。p43は、アポトーシス条件下で誘発される不可逆的細胞増殖/細胞死を惹起する分子融合に十分に匹敵する。EMAPサイトカインは、そのp43/プロEMAP−II成分の切断後に哺乳類マルチシンセターゼ複合体から放出される。
【0063】
また、EMAP−IIは、小誘導性サイトカインサブファミリーE・メンバー1(SCYE1)としても知られ、アミノアシル−tRNAシンターゼ複合体の一部分としてのその最初の発見に基づいて、複数の名称及び機能を有し、この場合、後者はアポトーシスによって誘発されるタンパク質として機能し、血管新生、炎症及び創傷治癒を制御する。中枢神経系における機能に関しては、SCYE1は、ヒト小グリア細胞に対するトール様受容体4(TLR4)依存性化学誘因物質であり、このようにして神経損傷を仲介する。ラットの脊髄損傷は、損傷部位におけるSCYE1の蓄積に関連し、ここでは長期にわたる蓄積が二次的損傷の病態生理に繋がる。したがって、我々の認識は、CSF中のSCYE1タンパク質が脳の物質中で釣り合った発現を呈する限り、SCYE1発現における減少は、補償的又は保護的分類に入るように思われるというものである。本発明は、正常対照と比較するとき、PTSDの患者における全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液、及び脳組織(海馬又は同側性皮質)でSCYE1又はEMAP−IIタンパク質のレベルの減少を特定している。
【0064】
生存運動ニューロンタンパク質結合タンパク質(SIP1、ゲミン2)は、脊髄性筋委縮症を引き起こし、運動ニューロンの変性とも関連する。生存運動ニューロンタンパク質(SMA)及びSIP1の両者の生化学的機能は、プレmRNAのスプライシングで補助することである。本発明は、正常対照と比較するとき、PTSDの患者における全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液、及び脳組織(海馬又は同側性皮質)でSIP1タンパク質のレベルの減少を特定している。
【0065】
複製開始点認識複合体・サブユニット5様(ORC5L)タンパク質の機能は、DNA複製を開始する5つのその他のタンパク質と複合体を形成することである。このタンパク質は、遺伝子サイレンシング及びヘテロクロマチン形成における役割を含む、多くのその他の機能を有する。このタンパク質が脳においてなぜ特異的な機能を有するかの理由は、染色体7q22上のリーリン(RELN)にすぐ近くに並置しているというその遺伝子の位置に関連する。RELN中の突然変異は、自閉症に関する遺伝的危険因子である。しかしながら、本研究者らは、ORC5Lが一方側に、かつ第3の遺伝子が他方側に隣接したRELNについての一塩基多型(SNP)は、自閉症のリスクを有する連鎖不均衡におけるハプロタイプとして遺伝的に受け継がれることを示している。また、ORC5L遺伝子それ自体におけるSNPはまた、自閉症のリスクを有する連鎖不均衡にある。リーリンSNPと自閉症リスクとの間の関係は、立証されている。自閉症のUBE3Aへの関連と合わせて考えると、ORC5L及びUBE3A双方の並行的欠陥は、PTSDの優れた単独及び組み合わせ指標である。本発明は、正常対照と比較するとき、PTSDの患者における全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液、及び脳組織(海馬又は同側性皮質)でORC5Lタンパク質のレベルの減少を特定している。
【0066】
ダブルコルテックス;X染色体連鎖性滑脳症(ダブルコルチン)(DCX)DCXは、ニューロンが長距離にわたって移動し、それらの最終的分化の部位に到達すると同時に皮質を発生させることでニューロンを導く役割を果たす。この遺伝子中の突然変異は、X染色体連鎖性滑脳症の原因となる。DCX中の突然変異によって発症する滑脳症は、平滑な大脳面、精神遅滞及び難治性癲癇に特徴がある重篤なヒトニューロン移動欠陥である。PTSDの睡眠関連症状との可能な関連性は、成体ラットの視交さ上核中の高レベルのDCXの所見であり、視交さ上核には、生物時計機能が局在化している。外傷的脳損傷後のDCXのアップレギュレーションもまた、ラット及び小児での転帰の改善に相関することが示されている。したがって、DCXは、その発現の低レベルがCNS機能に対して好ましくない、SIP1/ゲミン2のようなこれらタンパク質のうちの別のものである。本発明は、正常対照又は患者の過去のレベルと比較するとき、PTSDの患者における全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液、及び脳組織(海馬又は同側性皮質など)でDCXタンパク質のレベルの減少を特定している。
【0067】
P−11(アネキシンII軽鎖)は、S−100カルシウム結合タンパク質族の一員である。P2RX7は、ヒトプリン受容体であり、これは大型分子に透過性である細胞膜孔の形成によって、マクロファージのATP−依存性溶解を惹起するリガンドゲート化イオンチャネルとして機能する。この受容体のATP−誘導性活性化は、遺伝子発現における変化に関連し得る。現在まで、P−11又はP2RX7タンパク質のいずれも、PTSD、BP又は自殺のための新規マーカーとして特定されていない。本発明以前には、自殺の生物的マーカーは、臨床現場では使用されたことはなかった。ストレスホルモン、グルココルチコイドの発現を強いるPTSDにおけるP−11の役割(これは検査結果に限定されていた)は、P−11遺伝子のプロモータ領域中のグルココルチコイド結合部位を通して、ストレスを与えた動物の脳でアップレギュレートされる。一方、ストレス誘発性のP−11 mRNA発現は、グルココルチコイド受容体拮抗薬のRU486によって減衰が生じ、このことは、ストレス誘発性P−11の過発現は、グルココルチコイド受容体によって仲介されることを立証している。ストレスにおけるP−11の分子機序のこれら発見は、PTSDにおけるP−11タンパク質の役割の理解並びに診断ツールの開発へと導いた。本発明は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)についてのマーカーとして、並びにPTSD及びMDDを有する対象における希死念慮の診断として、生物学的検体中のP−11タンパク質又はmRNAのレベルを特定する。P2RX7タンパク質又はmRNAは、必要に応じて、双極型障害(BP)を決定するために、並びに患者の精神状態を別途客観的に細分化するために使用される。本発明のプロセスは、このタンパク質、mRNA又はそれに対する相補的配列に特異的かつ独立して結合する薬剤を使用して、P−11レベル、必要に応じてP2RX7レベルを測定する。
【0068】
検出のプロセスは、ウェスタンブロット分析又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して、必要に応じて実行される。ELISAが使用される場合、サンドイッチELISAが使用されることが好ましい。P−11タンパク質レベルは、健常者又は非精神病患者、並びにPTSD及びBPを有する非自殺未遂者におけるタンパク質又はmRNAのレベルと、又は同一患者に関する過去のレベルと比較される。本発明はまた、MDD及びSCZなどのPTSD又はBP以外の精神障害又は不安障害を検出するために使用されてもよい。P2RX7などのその他のマーカーのレベルと共にP−11マーカーのレベルは、これら異なる精神障害を識別するために使用される。
【0069】
mRNAは、必要に応じて、タンパク質との組み合わせマーカーとして使用される。この実施形態では、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が、P−11及びP2RX7の双方について、精神障害を有する自殺未遂者から得た末梢血単核細胞(PBMC)中のマーカーのmRNAレベルを測定し、これを健常者又は非精神病患者、並びに非自殺未遂者から得た検体中のmRNAレベルと比較する。
キット
【0070】
精神障害を診断するプロセスはまた、PTSD、自殺又はその他の精神障害を診断するためのELISA又はウェスタンブロット、ベンチトッププラットフォーム、ポイントオブケア装置、若しくはハンドヘルド装置で使用するためのキットの部品として含まれてもよい。PTSDマーカーはまた、PTSDを治療するための治療標的をスクリーニングするために、並びに患者の進行又はPTSDからの回復を監視するために使用され得る。
【0071】
特定の実施形態では、診断用プロセス及びキットは、PTSD又は自殺者群に特異的であるとして特定されたタンパク質に結合する1つ以上の抗体を含有する。診断用プロセス及びキットはまた、患者のPTSDを診断するために、PTSD群に特異的であるとして特定されたタンパク質に結合する2以上、3以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上の又は10以上の薬剤又は抗体を含んでもよい。
【0072】
血液及びCSFが以下の実施例で示され、PTSDについての本発明のマーカーは、特定された同一の手順を使用して同様に検出され得るが、当業者であれば容易に認識するに違いないように、異なる生物学的検体が採取のための異なる方法を有するために、検体がどのように採取されるかで差異が存在するに過ぎないことが理解されるべきである。
【0073】
本発明のキットはまた、精神障害の診断を補助するために提供され、ここではキットは、本発明の多くの診断用タンパク質を検出するために使用され得る。例えば、キットは、診断用タンパク質マーカーが患者の検体及び正常な対象の検体中に存在するかどうかを検出するために使用され得る。本発明のキットは、治療の効果を判定するために、インビトロ又はインビボ動物モデルを使用して、マーカーの1つ以上の発現を調整する化合物を特定するよう使用される。本発明のキットは、(a)マーカーの組成物又はパネルと、(b)タンパク質基質と、(c)検出試薬とを含む。このようなキットは、上記の材料から調製され、この材料(例えば、抗体、検出試薬、固定された支持体等)に関する以前の説明は、このセクションに完全に適用することが可能であり、繰り返されない。必要に応じて、キットは、プレ分画スピンカラムを含有する。一部の実施形態では、キットは、必要に応じて、薬剤を生物学的検体、及びその他の動作パラメータと反応させて、状態の診断を与える説明書を更に含む。この説明書は、ラベル又は別個の添付文書の形態である。
【0074】
本発明の診断用キットは、本発明のポリペプチドの抗原を含有する血清のスクリーニングで使用するためのものである。診断用キットは、ポリペプチド又はポリヌクレオチド抗原と特異的に免疫反応性の単離された抗体と、ポリヌクレオチド又はポリペプチド抗原の抗体への結合を特定するための検出用化合物を含む。「単離された」とは、標的結合を妨害しない不純物又はスペクテータ種の量を含有することが理解される。抗体が固体支持体に付着されているものと認識される。抗体は必要に応じてモノクローナル抗体であると理解される。キットの検出用化合物は、必要に応じて、二次的、標識付けモノクローナル抗体である。あるいは、又はさらに、検出用化合物は、必要に応じて、標識付けされた競合抗原を含む。
【0075】
1つの診断用構成では、試験血清が、本発明のプロセスから取得した表面結合抗原を有する固相試薬と反応する。試薬に対する特異的抗原抗体との結合及び洗浄による未結合血清成分の除去の後に、試薬は、リポータ標識付け抗−ヒト抗体と反応し、固体支持体上の結合した標識付け抗体の量に比例して、リポータを試薬に結合させる。試薬は再度洗浄され、未結合の抗体を除去し、試薬に結合したリポータの量が決定される。典型的には、リポータは、好適な蛍光、発光又は比色基質(Sigma、ミズーリ州セントルイス)の存在下で固相をインキュベートすることによって検出される酵素である。
【0076】
上記アッセイにおける固体表面試薬は、ポリマービーズ、ディップスティック、96−ウェルプレート又はフィルタ材料などの固体支持材料にタンパク質を付着させるための既知の技術によって調製される。このような付着プロセスとしては、一般的に、タンパク質の支持体への非特異的吸着、若しくは典型的には遊離アミン基を介した固体支持体上の活性化カルボキシル、ヒドロキシル、又はアルデヒド基などの化学的反応性基へのタンパク質の共有結合が挙げられる。あるいは、必要に応じて、ストレプトアビジンでコーティングされたプレートが、ビオチニル化抗原と併せて使用される。
【0077】
また、(a)その上に吸着材を含む基材(この吸着材は、マーカーを結合させるために好適である)と、(b)試験される本発明のいずれかのマーカーと、(c)検体を吸着材と接触させて、吸着材によって保持された少なくとも1つのマーカーを検出することによって、少なくとも1つのマーカーを検出するための説明書とを含むキットが提供される。一部の実施形態では、キットは、溶離液(説明書の代わりに、又はこれと組み合わせて)又は溶離液を生成するための説明書を含み、ここでは吸着材及び溶離液の組み合わせは、気相イオン吸光分析を使用するマーカーの検出を可能にする。このようなキットは、上記の材料から調製され、これら材料(例えば、プローブ基材、吸着材、洗浄溶液等)の以前の説明は、このセクションに完全に適用可能であり、説明は重複されない。
【0078】
キットはまた、気相イオン分光光度計に対して取り外し可能かつ挿入可能であるプローブを形成するために、吸着材で官能化された粒子などの吸着材をその上に有する第1の基材と、その上に第1の基材が配置される第2の基材とを含むよう提供される。キットは、必要に応じて、基材上の吸着材を有する取り外し可能かつ挿入可能なプローブの形態である単一の基材を含む。キットはまた、必要に応じて、プレ分画スピンカラム(例えば、シバクロンブルーアガロースカラム、抗−HSAアガロースカラム、サイズ排除カラム、Q−アニオン交換スピンカラム、単鎖DNAカラム、レクチンカラム等)を含む。
【0079】
必要に応じて、キットは、場合によっては、ラベル又は別個の添付文書の形態で、好適な動作パラメータに関する説明書を含む。例えば、キットは、検体がプローブに接触された後に、消費者がプローブをどのように洗浄するかを伝える標準説明書を有してもよい。別の例では、キットは、検体中のタンパク質の複雑性を低減するために、検体をプレ分画するための説明書を有してもよい。別の例では、キットは、分画を自動で行うための又は他のプロセスに関する説明書を有してもよい。
【実施例】
【0080】
ここで、本発明の例示的な実施形態に対して詳細に参照が行われる。これら実施形態は、当業者が本発明を実行することができるよう十分に詳細に説明されるが、その他の実施形態が利用され得ること並びに本発明の範囲から逸脱することなく変更がなされ得ることが理解されるべきである。したがって、以下の説明は、単に例示的なものである。
実施例1
【0081】
PTSD(n=13)、BP(n=23)、MDD(n=12)、SCZ(n=12)を有する被験者及び対照(n=14)を、「精神障害の診断と統計の手引き第4版 DSM−IVを使用して、2人の精神科医により診断する。CSF、全血、血漿、血清、唾液及び尿の生物学的検体を、各患者から得る。
患者
【0082】
14人の投薬を受けていない、慢性PTSDの一般人(非戦闘員)の外来患者(34.9±10.4歳、女性10人)と10人の外傷曝露がない健常な被験者(35.3±13.1歳、女性7人)とを選択する。健常被験者は、PTSD患者と、年齢、性別及びBMIに関して可能な限り近いように選択される。前駆型PTSD外傷は、5人の被験者では思春期前で、9人の被験者では成人期である。外傷曝露からの経過時間は、思春期前の外傷で26±4年であり、成人期の曝露では10.1±8.8年であった。患者は、腰椎穿刺前に少なくとも3週間にわたって向精神薬の投与がない状態で、その他の点では身体的に健常であり、少なくとも6ヶ月前の期間で、アルコール又は薬物乱用、若しくは依存症に関する基準を満たさない。しかしながら、PTSD患者について必要とされる無投薬期間は、パラキセチンに関しては、患者のために6週間まで延長される。また、4人の患者(女性3人及び男性1人)は、過去の外傷を有するが、PTSDの継続する病歴がない患者に含まれる。PTSD患者及び健常対照群に関する完全な統計的データ情報を、表1に概説する。
【表1】

精神医学的診断
【0083】
精神医学的診断を、構造的臨床面積基準DSM−IV(SCID)を用いて立証し、PTSDの重症度を臨床医の投与PTSD尺度(CAPS)を用いて判定する。うつ病、不安症及び全体の症状の重症度を、それぞれ簡易抑うつ症状尺度(IDS)、ハミルトン不安評価尺度(HAMA)及び臨床上の医師の印象による重症度(DGI−S)を用いて評価する。PTSDを有する患者群及び対照群は、年齢、性別分布、人種、又は肥満度指数(BMI)に関して差異がない。PTSDの重症度は、73±10.3のCAPSスコアで、中等度であった。抑うつ症状尺度(IDS 16.4±8.2)、不安評価尺度(HAMA 13.1±6.8)及び全体的な症状重症度レベル(CGI−S 4±1.2)も同様に中等度であった。
生物学的検体採取
【0084】
CSF、血液、尿及び唾液の生物学的検体を、通常の採取技術を用いて採取する。CSFについては、経験豊富な医師によって、腰椎穿刺(LP)を、午前8:00から9:00の間に実施した。20ゲージの導入器針を挿入し、約15ccのCSFを回収し、後のアッセイのために、アリコートで−80℃にて凍結した。血液については、検体(各々10mL)を、静脈穿刺によって真空チューブ内に吸引回収し、一部は遠心沈殿させ、血清及び血漿に分離した。全ての全血、血漿、血清は、後のアッセイ用に、アリコートで−80℃にて凍結した。尿及び唾液については、好ましくは汚染物質の検体への侵入を回避して、検体を採取する。8〜15mLの検尿管を使用して、後の使用のために、検体を−80℃の冷凍機で保管する。
生物学的検体中のタンパク質
【0085】
生物学的検体中のタンパク質を、Cy3蛍光染料で標識付けし、実験全体にわたって共通の標準を提供するために、標準試料の検体を、Cy5で標識付けする。混合物を、507−二重特性の抗体マイクロアレイでインキュベートし、Perkin−Elmer ScanArray2蛍光スライドリーダー上に画像化する。生物学的検体はまた、逆捕捉タンパク質マイクロアレイプラットフォームで分析する。有意性は、t−検定(p<0.05)及び<10%の局所的偽検出率に基づく。
結果
【0086】
性別とは無関係に、全てのPTSD患者の分析に基づいて、対照と比較してアップレギュレート又はダウンレギュレートされるこれらタンパク質を特定することが可能である。表2は、t−検定が>10〜4で、<10%の偽検出率の統計的分類中に入るトップの10個の候補マーカータンパク質を列挙している。重要なことは、これによって、これらタンパク質が、アレイデータに関するp値に対するボンフェローニ補正(0.05/507=10〜4)及び上述したSAMアルゴリズムの双方を満たすことである。UBE3A、STY1、EMAP−II、SIP1、ORC5L、DCX、SCYEマーカーはまた、PTSDについての非性別特異的マーカーであると見出さていることに留意するべきである。
【表2】
【0087】
本発明は、精神障害、例えばPTSD及び自殺の検出のための、性別特異的及び非性別特異的の双方のタンパク質を検出するプロセスを提供する。これら同一の神経タンパク質はまた、多くの精神障害と併発することが多い、TBIなどの神経損傷及びニューロン障害を検出するために使用され得る。好ましい実施形態では、PTSDに特異的な、少なくとも1つ、複数の、又は全ての無性タンパク質、ペプチド、これらの変異体又は断片が検出され、これは、シナプトタグミン1、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A、ポリメラーゼ(DNA指向性)・デルタ1触媒サブユニット125kDa、小誘導性サイトカインサブファミリーE・メンバー1(内皮単球活性化)、非転移性細胞1タンパク質(Nm23A)、タンパク質キナーゼC様1、核タンパク質(毛細血管拡張性運動失調症遺伝子座)、モノクローナル抗体KI−87によって特定される抗原、ホスホリパーゼCベータ1(ホスホイノシチド特異的)、カリウム電位依存性チャネル、及びサブファミリーH(eag関連)・メンバー6、ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼL−1(UCH−L1)、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)、アルファ2−スペクチン分解生成物、シナプトフィシン、α−シヌクレイン、ニューログラニン、S−100ベータ、ニューロフィラメントタンパク質−F、H及びN、マイクロチューブリンタンパク質、ミエリン塩基性タンパク質、コラプシン応答仲介タンパク質(CRMP)、P−11並びにP2RX7から選択される。
【表3】
【表4】
【0088】
受信者動作特性(ROC)分析は、偽陽性と偽陰性の分析値の間を判別することに基づく生物学的アッセイの妥当性を確認する通常の「ゴールドスタンダード」法である。アッセイの品質は、曲線下面積(AUC)に基づき、ここでは、100%の値は優れ、50%の値は、ランダム分布を示唆する。性別非依存的PTSDについてのトップ3の候補タンパク質マーカーは、(i)図1:ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(このAUCは、男性及び女性患者の双方について100%である)、(ii)図2:シナプトタグミン1(このAUCは、男性で95%であり、女性では88.8%である)、並びに(iii)図3:小誘導性サイトカインサブファミリーE(このAUCは、男性では98.1%であり、女性では97.9%である)である。図4は、対照とPTSD患者との間で規定された本発明のマーカーについての複合型ROC曲線を示し、このAUCは、検体統計的データについて88%である。
【0089】
性別とは無関係に、PTSD患者と健常対照群との間を有意に識別するいくつかのタンパク質が発見されている。これらは、見出されたトップタンパク質の中では、(i)カルシウム依存的神経伝達物質開口放出に関連するタンパク質であるシナプトタグミン(SwissProt P21579)[p=6EXP(−9)]である。STY1は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約33%(p=6×10−9)減少する;(ii)その突然変異が精神遅滞の型に関連するタンパク質であるユビキチンE3リガーゼ(SwissProt Q05086)[p=2EXP(−7)]である。UBE3Aは、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約3倍(p=6×10−9)上昇する(p=2×10−7);(iii)小グリア細胞に関するタンパク質化学誘因物質であり、脊髄損傷において上昇することが見出されている、タンパク質小誘導性サイトカインサブファミリーE、メンバー1(SCYE1/EMAPII;SwissProt Q12904)[p=2EXP(−6)]である。SCYE1は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約55%減少する(p=約5×10−13);(v)SIP1は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約52%まで減少する(p=約2×10−11);並びに(vi)ダブルコルテックス(DCX)は、健常な対照群と比較して、PTSD患者の生物学的検体中で約50%まで減少する(p=約9×10−6)。
【0090】
また、男性及び女性PTSD患者の間を有意に識別するタンパク質の異なるセットを特定した。男性PTSD患者から得た生物学的検体は、炎症誘発性シグナル伝達経路に関連する多くのタンパク質で有意に特徴付けられる。重要なことは、これらタンパク質が、男性及び女性の健常対照群の間を識別しないことである。
【0091】
これらの結果は、リアルタイムRT−PCRによるmRNAの定量化で確認される。約1.5μgの総mRNAを、被験者の血液検体から単離し、Omniscript RTキット及びランダムプライマーを用いて20μlの反応容量中で逆転写する。生成物を150μlの容量まで希釈し、6μlのアリコートを、通常のPCR試薬キット成分及び遺伝子特異的プライマーを用いて、増幅のための鋳型として使用する。mRNAの検出を、PTSD判定用の対応するタンパク質の検出と相関させる。
実施例2
【0092】
自殺未遂を起こした11人の患者、自殺行為を呈さない15人の患者からなる、心的外傷後ストレス障害(PTSD)及び大うつ病性障害(MDD)を有する26人の精神疾患患者と、PTSDを有さない14人の正常な対照群とから血液検体を得る。これらの被験者は、抗精神病薬治療薬を飲んでいない。定量的リアルタイムPCRを用いて、末梢血単核細胞(PBMC)中のP−11のmRNA及びP2RX7のmRNAについて、検体を順次分析する。自殺した患者(n=56)の剖検の前頭前皮質から得た又は希死念慮対照群(n=61)から得たP−11、P2RX7及びS100βのマイクロアレイデータのメタ分析も試験する。
【0093】
PBMC P−11 mRNAレベルは、正常被験者群と比較する場合、自殺未遂者で有意に低く、非自殺未遂者でより高い。自殺完遂者におけるPFC P−11 mRNAレベルはまた、非希死念慮対照群よりも低い。P−11とは異なり、P2RX7 mRNAレベルは、PBMC及びPFCの双方で測定されるように、自殺未遂者、非自殺未遂者、及び自殺完遂者を含む全ての患者で正常な対照群よりも有意に低い。加えてPFC中のS100β発現レベルは、PFCで測定されるように、自殺完遂者と非希死念慮対照群との間で差異がなかった。本明細書で詳説されるmRNAレベルにおけるこれらの傾向は、被験者から採取した他の検体に相関することが見出され、他の検体には、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、及び唾液が含まれる。P−11タンパク質及びP2RX7タンパク質のレベルもまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートで、ELISAによりタンパク質レベルを測定することによって、mRNAに関する上記のような傾向にあることを確認している。
【表5】
【0094】
表5中、ADは標準偏差であり、AUCは曲線下面積で、1日目及び2日目のAUCの平均である。対照及びPTSDの血漿コルチゾールレベルの平均濃度は、それぞれ3.86+2.33ng/ml、2.96+1.88ng/mlであり、各AUCは、唾液コルチゾールレベルを4回計算した(午前8時、午前10時、午後4時、午後10時)。
【0095】
mRNAマーカーについては、全血検体を用いて定量的リアルタイムPCR分析を使用する。PBMC mRNAの精製、cDNAの合成及び定量的リアルタイムPCRは、製造元のプロトコールに従って実行する。P−11 mRNA、GR mRNA及びコルチゾールのレベルにおける差を、二元配置ANOVA(分散分析)によって評価する。有意差は、0.05以下のP値として定義する。全血(2.5mL)を、6.9mLの安定化剤試薬を含有するPAXgeneチューブに移し、赤血球を溶血させる2時間の休止後に、いずれも−70℃で保存する。総RNAの量は、Nano Drop分光光度計を用いて定量化する。RNA 6000 Picoアッセイを用いてAgilent BioAnalyzerで電気泳動的に品質を制御する。RNA比率値(28S/18S)を推定し、全ての検体から取得する。次いで、総RNA(2.5μg)を、45μLの最終反応容量中で、ランダムヘキサマー(Eurogentec)及びSuperScript RT RNアーゼ H−逆転写酵素(Life Technologies)で逆転写する。データを、平均値±SEM、p<0.05(対照対PTSD)として示し、分析する。
【0096】
PTSD患者及び対照群中の血漿及び唾液コルチゾールの基底レベル、並びにPTSDを有する患者及び対照群のPBMC中のP−11及びGR mRNAのレベルを、検体中で測定する。
【0097】
図5は、血漿コルチゾールの基底レベルが、PTSD(n=13)と対照被験者(n=11)間で有意差は認められないことを示す(p>0.05)。
【0098】
図6は、GR mRNAレベルが、対照被験者よりもPTSDのPMMC中で有意に低いことを示す。
【0099】
図7は、対照(n=14)に比べてPTSDを有する患者(n=13)における有意に低いP−11 mRNAレベルを示す(p<0.05)。双極型障害、BP(n=24)、大うつ病性障害、MDD(n=12)、精神分裂症、SCZ(n=12)のPBMC P−11 mRNAレベルは、対照被験者(n=14)よりも有意に高いことを示す(p<0.001)。
【0100】
本明細書で詳説されるmRNAレベルにおけるこれら傾向は、被験者から採取されたその他の検体に相関することが見出され、その他の検体としては、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿及び唾液が挙げられる。P−11タンパク質及びP2RX7タンパク質レベルはまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートで、ELISAによりタンパク質レベルの測定を行うことによって、mRNAに関する上記詳説したような傾向があることが確認される。
実施例3
【0101】
化学的及び治療薬介入の有効性に関してのフィードバックを提供するための本発明の能力が、生物学的検体が合計で49人の被験者から得られる本実施例で提供される。14人の被験者を、PTSDを有すると判定し、そのうち9人が自殺型であり、残りの5人が非自殺型である。21人の被験者を、BPを有すると判定し、そのうち7人が自殺型であり、残りの14人が非自殺型である。残りの14人の被験者は、健常な対照被験者である。性別については、有意な群差は存在しない(表6を参照)。年齢、性別比、教育水準又は結婚歴に関して、BP又はPTSD患者と対照被験者の間で統計的有意差は存在しない。表6は、BP及びPTSD患者は、自殺未遂が有り無しの両方で、それぞれ同様な発症の平均年齢を有することを示す。
【0102】
全てのPTSD被験者は、PTSDを有する自殺未遂者の66%がリボトリール(クロナゼパム、ベンゾジアゼピン)を服用し、一方55%がデパキンを服用して、投薬を受けている。22%がサインバルタ、レンドルミン、モディパノール、セミナックス又はセロキサットのいずれかを服用している。11%が、セロキサット、エビリファイ、アチバン、エフェキソール、ロドピン、nil、オランザピン、レメロン、シネクアン、スティルノックス、トリプタノール、ウェルブトリン又はザナックスのいずれかを服用している。
【0103】
PTSDを有する非自殺型患者の60%が、エリスパンを服用し、一方40%が、エフェキソール又はスティルノックスのいずれかを服用している。20%が、エビリファイ、デパキン、インデラル、レンドルム、メシレル、nil、リボトリール又はセロキサットのいずれかを服用している。BP患者はいずれも投薬を受けていない。
【表6】
【0104】
被験者の診断は、全試験被験者について、精神疾患簡易構造化面接法(MINI)及びDSM−IVを用いて2人の精神科医によって行われる。全ての患者は、BP又はPTSDに関するDSM−IV診断基準を満たすものとする。除外基準は、現状の医学的な問題、重大な肉体的疾患、神経疾患、意識喪失を伴う頭部外傷の病歴、並びに薬物乱用歴及び現在のアルコール乱用(6ヶ月以内)である。非精神疾患対照被験者は、年齢、性別、教育、及び人種に関してPTSD及びBP患者と一致する。半構造的面接を用いて、並びに医療記録の再調査を組み合わせることによって、自殺未遂の生涯の既往歴を評価する。
【0105】
気分症状及び不安症状の臨床転帰を定量的に測定するために、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、及びハミルトン不安症尺度(HARS)をそれぞれ用いる。
【0106】
ヘパリン添加血液検体及びヘパリン非添加血液検体(それぞれ10mL)を、真空チューブ中に静脈穿刺によって採取する。末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll−Hypaque(Invitrogen)密度勾配上で遠心分離によって分離する。血液検体を−80℃で保存する。
【0107】
全血検体を、4℃にて1300×gで遠心分離する。次いで、血漿をラベルが貼付された新しいエッペンドルフチューブに移し、−80℃で保存する。P−11の血漿レベルを、高感度ELISAによって決定する。モノクローナル抗−ヒト−P−11抗体を使用する。P−11濃度を、各アッセイで同様な条件下で行われたP−11標準曲線についての回帰直線から決定する。
【0108】
RNAを、PAXgen血液RNA妥当性確認キット(PreAnalytiX a Qiagen/BD company、カリフォルニア州バレンシア)を用いて、ヒト血液溶解物から抽出する。cDNAを、Superscript III RT(逆転写酵素)及びオリゴ(dT)プライマー(Invitrogen)を用いて、3mgの総RNAから作製する。SYBR Green(Bio−Rad)を使用するIQ5配列検出システム中で、作製したcDNA生成物にリアルタイムPCRを実施する。ヒトP−11 mRNA分析に、順方向プライマー5’AAATTCGCTGGGGATAAAGG−3’(配列番号1)及び逆方向プライマー5‘AGCCCACTTTGCCATCTCTA−3’(配列番号2)の配列を使用する。P2RX7 mRNA分析用の配列は、順方向プライマー5‘AGATCGTGGAGAATGGAGTG−3’(配列番号3)及び逆方向プライマー5‘− TTCTCGTGGTGTAGTTGTGG−3’(配列番号4)である。β−アクチンのmRNAレベルを、対照検体及び実験検体中のP−11又はP2RX7 mRNAレベルを正規化するための内部標準として使用する。ベータ−アクチンプライマーについての配列は5‘− ACCTGTACGCCAACACAGTG−3’(配列番号5)及び5‘−ACACGGAGTACTTGCGCTCA−3’(配列番号6)(Applied Biosystems)である。希釈曲線を使用して、鋳型RNAの濃度への閾値サイクル数の線形依存性を確認する。
【0109】
対照及び実験検体中のP−11又はP2RX7 mRNAの相対的定量を、標準曲線法を用いて得る。
【0110】
全てのデータを、平均値±S.D.として表す。PTSD、BPを有する自殺未遂者及び非自殺患者並びに対照被験者の間のPBMC P−11又はP2RX7発現における差を、一元配置ANOVAにより分析する。相関係数及びP−値の分析も実行する。GraphPad Prism(GraphPad Software,Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)、SPSS(SPSS Inc.イリノイ州シカゴ)及びマイクロソフトエクセルを用いて、統計を実行する。
【0111】
PBMC P−11 mRNA及びP2RX7 mRNAの発現レベルを各検体について測定し、その結果を比較する。
【0112】
図8Aは、対照、PTSDを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の間のPBMC P−11 mRNA発現レベルの差を示す。リアルタイムPCRデータは、BPを有する群間でPBMC中のP−11 mRNAレベルに関して有意差があることを明らかにする。PTSDを有する自殺未遂者は、対照被験者及び非自殺型患者よりも、PBMC中の有意に低いレベルのP−11 mRNAを有する。
【0113】
図8Bは、対照、BPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の間のPBMC P−11発現レベルの差を示す。リアルタイムPCRデータは、PBMC中のP−11 mRNAレベルに関して群間で有意差があることを明らかにする。自殺未遂者及び非自殺型患者の双方は、対照被験者よりも、PBMC中の有意に高いレベルのP−11 mRNAを呈するが、一方自殺未遂者及び非自殺型患者との間で、P−11 mRNAレベルにおいて有意差は認められない。
【0114】
PBMC P−11 mRNAの発現レベルは、治療の有効性を示唆する投薬コホートにおいて、自殺未遂が有る無しの両方で、患者のPTSDの症状にもはや相関しない。P−11レベルに関する相関的分析を、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、及びハミルトン不安症尺度(HARS)により測定されるように、うつ病及び不安症を有するPTSD患者で実行する。PBMC P−11 mRNA発現は、自殺未遂者におけるHAMD又はHARSスコアのいずれとも相関せず(図9A〜B)、PTSDを有する非自殺型患者のものとも相関しない(図9C〜D)。
【0115】
PBMC P−11 mRNA発現レベルは、投薬コホートにおいて、自殺未遂が有る無しの両方で、患者のBPの症状にもはや相関しない。P−11レベルに関する相関的分析を、HAMD及びHARSにより測定されるように、うつ病及び不安症を有するBP患者で実行する。PBMC P−11 mRNA発現は、自殺未遂者におけるHAMD又はHARSスコアのいずれとももはや相関せず(図10A〜B)、BPを有する非自殺型患者のものとも相関しない(図10C〜D)。
【0116】
自殺未遂の有る無しの両方のPTSD患者並びに自殺未遂がないBP患者のPBMC P2RX7 mRNA発現レベルは、対照被験者のものよりも有意に低い。図11Aは、対照被験者及び自殺未遂の有る無しの両方のPTSD患者の間のPBMC P2RX7発現レベルでの差を示している。リアルタイムPCRデータは、PBMC中のP2RX7 mRNAレベルについて、群間の有意差を明らかにしている。PTSDを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の双方は、対照群よりもPBMC中の有意に低いレベルのP2RX7 mRNAを有した。
【0117】
図11Bは、対照被験者、BPを有する自殺未遂者及び非自殺型患者の間のPBMCのP2RX7発現レベルにおける差を示している。リアルタイムPCRデータは、自殺未遂無しのBP患者が、対照被験者及び自殺未遂を有するBP患者と比較して、PBMC中の有意に低いレベルのP2RX7 mRNAを有したことを明らかにしている。
【0118】
PBMCのP2RX7 mRNA発現レベルとPTSDを有する非自殺型患者の症状とは高い相関が認められ(図12A〜B)が、PTSDを有する自殺未遂者とは高い相関が認められない。
【0119】
PBMC P2RX7 mRNA発現レベルは、自殺未遂が有る無しの両方のBP患者の症状とは相関がない。自殺未遂が有る無しの両方のBP患者のPBMC中のP2RX7 mRNAレベルは、HAMD又はHARSスコアのいずれとも有意な相関が認められない(図13)。
【0120】
本明細書に詳説されたmRNAレベルにおけるこれら傾向は、被験者から採取されたその他の検体とも相関することが見出され、その他の検体としては、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、及び唾液が挙げられる。P−11タンパク質及びP23RX7タンパク質のレベルはまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートでELISAを行うことによるタンパク質レベルの測定によって、mRNAについて上記詳説されたような傾向性を確認する。
実施例4
【0121】
生物学的検体を、PTSD(n=14)又はMDD(n=12)と診断された40人の被験者、並びに14人の正常対照群から得る。精神病患者の11人は、自殺を図ろうとした。入院患者及び外来患者を含む入手可能な診療記録を見直し、全ての被験者を、精神病歴、精神障害の家族歴、及び薬物乱用歴について入念に面接する。診断は、全試験被験者について、精神疾患簡易構造化面接法(MINI)及びDSM−IVを用いて2人の精神科医によって画定される。全ての患者は、PTSD又はMDDに関するDSM−IV診断基準を満たす。除外基準は、現状の医学的な問題、重大な肉体的疾患、神経疾患、意識喪失を伴う頭部外傷の病歴、並びに薬物乱用歴及び現在のアルコール乱用(6ヶ月以内)である。正常な対照群は、年齢、性別、教育、及び人種に関してPTSD及びMDD患者と一致する。
【0122】
全被験者が、試験計画が完全に説明された後に、並びに精神医学的評価及び血液採取を受ける前に、書面によるインフォームドコンセントを提出した。自殺未遂の生涯の既往歴を、半構造的面接を用いて、並びに医療記録の再調査を組み合わせることによって評価する。各群についての臨床診断を表7に示す。自殺未遂したことがある患者(n=11)の年齢と自殺を図ったことがない患者(n=15)の年齢の間に有意差は認められない。全ての群により使用された投薬を表8に示す。
【表7】
【表8】
【0123】
神経病理学協会、Array Collection、及びDepression Cohortを含むスタンリー医学研究所(SMRI)から取得した3人の死体解剖脳採取物を用いる。被験者は、年齢、性別、人種、脳pH(表9)、死後経過時間(PMI)、脳の左右側及びmRNA品質に関して一致する。背側方前頭前皮質(PFC)を、全てのマイクロアレイ試験用に用いる。RNA処理プロトコールは、マイクロアレイ製造元のAffymetrix社によって推奨されるものである。自殺者分析については、被験者を、自殺を遂行した精神障害を有する患者(n=56)及び精神障害を有さない正常対照(n=61)を含む2つの群に分割する。精神障害及び投薬効果を、多重回帰モデルを用いて、個別の試験分析で調整する。
【表9】
【0124】
全てのマイクロアレイの生データを、MAS5.0正規化アルゴリズムを用いて変換する。一連の品質管理分析を実行し、統計的分析を行う前にマイクロアレイ異常値を特定する。簡単に言うと、各マイクロアレイチップを、尺度因子、プローブの完全一致/不一致の差の計数、パーセントプレゼントコール(マイクロアレイ上の検体で存在することが検出される遺伝子のパーセンテージ)、対照遺伝子(GAPDH及びb−アクチン)50/30比、及びアレイ全体のこれらパラメータについての参照分布に関する平均的相関性などのチップ−レベルパラメータについて、Affimetrix QCメトリクスにかける。
【0125】
個別の試験分析については、人口統計的変数及び臨床変数を、各試験内の線形モデルを使用して評価し、潜在的交絡因子を特定する。これら人口統計的分析の後に、自殺群を分析し、交絡変数に関して補正した識別遺伝子のリストを特定する。多重回帰分析が、各試験における各遺伝子についての調整後ホールド変化、標準誤差(SE)、及びp−値を提供した。交差試験分析については、Affimetrixマイクロアレイ試験(試験番号:1、2、3、4、5、7、14、15及び21)を含む。交差試験比較は、生物学的パターン及び関係を抽出するために、試験全体にわたる個々の試験レベル分析の計測表示に基づく。コンセンサスホールド変化を、個々のホールド変化の重み付き組み合わせ並びに試験全体にわたって各遺伝子に対してマップするAffymetrixプローブセットについてのSEに基づいて、各遺伝子について計算する。プラットホームにわたって所定の遺伝子に対してマップする各プローブセットに関連する異なるレベルの精度を考慮に入れるために、重み付けをプローブセットに特異的様式で決定する。重み付けは、1SEiに等しく、このSEiは、全ての試験にわたる遺伝子に対するi番目のプローブセットの標準誤差である。
【0126】
気分症状及び不安症状の臨床発現を定量化するために、それぞれハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)、及びハミルトン不安症尺度(HARS)を用いる。
【0127】
ヘパリン添加及びヘパリン非添加血液検体(各10mL)を、真空チューブ内に静脈位穿刺によって採取する。末梢血単核細胞を、Ficoll−Hypaque(Invitrogen)密度勾配上の遠心分離によって分離する。血液検体を、−80℃で保存する。
【0128】
P−11又はP2RX7遺伝子発現のリアルタイムPCR分析用に、PAXgen血液RNA妥当性確認キット(PreAnalytiX a Qiagen/BD company、カリフォルニア州バレンシア)を用いて、ヒト血液溶解物からRNAを抽出する。cDNAを、Superscript III RT(逆転写酵素)及びオリゴ(dT)プライマー(Invitrogen)を用いて、3mgの総RNAから作製する。リアルタイムPCRを、SYBR Green(Bio−Rad)を使用するIQ5配列検出システム中で、作製したcDNA生成物で実行する。配列番号1〜6を、鋳型RNAの濃度への閾値サイクル数の線形依存性を確認した実施例3の希釈曲線毎の分析に使用する。対照及び実験検体中のP−11又はP2RX7 mRNAの相対的定量を、標準曲線法を用いて取得する。
【0129】
全てのデータは平均値S.D又はS.Eとして表す。自殺を企図した患者、自殺を企図したことがない患者、及び対照被験者の間のPBMCのP−11又はP2RX7発現レベルにおける差を、一元配置ANOVAによって分析する。相関係数及びP−値の分析も、マイクロソフトエクセルを使用して実行する。GraphPad Prism(GraphPad Softoware,Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて、統計を実行する。
【0130】
自殺未遂者のPBMC中及び自殺完遂者のPFC中のP−11 mRNA発現レベル、並びに対照被験者、自殺未遂者及び非自殺未遂者のPBMC中のP−11 mRNAレベルを、図10に示す。P−11 mRNAレベルは、対照被験者に比べて自殺未遂者で有意に減少し、一方非自殺未遂者のP−11 mRNAレベルは、対照被験者又は自殺未遂者のいずれかよりも有意に高い。
【0131】
HAMD及びHARSスコア並びに自殺未遂者及び非自殺未遂者のP−11 mRNAレベルの相関性を検討する。HAMD又はHARS並びに投薬された自殺未遂者のP−11 mRNAレベルの間に有意差は認められない。しかしながら、投薬を受けた自殺未遂者及び非自殺未遂者の間のHARSスコアでは、有意差が認められる。最終的に、投薬を受けた自殺未遂者投薬を受けた非自殺未遂者との間のHAMDの3項目のスコアで有意差が認められる。これらの結果は、投薬を受けていないPTSD被験者に対するマーカーレベルの変更において、全体として治療の効力に関するフィードバックを提示する。
【0132】
PBMCのP3RX7 mRNAレベルは、対照被験者に比べて、自殺未遂者及び非自殺未遂者の双方で有意に減少する(図11)。9つのAffymetrix遺伝子発現マイクロアレイ試験の組み合わせは、P2RX7 mRNAレベルが、非自殺対照と比較する場合、自殺症例のPFCで一貫して減少することを示した(p=0.03に調整)。
【0133】
PTSD及びMDDの自殺未遂者及び非自殺未遂者のHAMD又はHARSスコア並びにP2RX7 mRNAレベルの間で有意な相関は認められない。
実施例5
【0134】
それぞれが150〜200gの重量の成体雄Sprague−Dawleyラットを選択する。幾匹かのラットをそれらのホームケージ内で平静に保ち、同時に同数のラットを不可避の尾部ショック(ストレス)に曝す。
【0135】
ストレスプロトコールは、ラットの試験群をPlexiglas拘束チューブ(長さ23.4cm及び直径7cm)内に配置することと、これらを、60秒の試行間間隔を伴い、各5秒間の100回の不可避の電気ショック(2.0mA)に曝すことを伴う。ショックは、尾部にテープで固定した電極によって加える。ショックの長さ及び強さは、行動における変化によって並びに上昇した血漿コルチコステロンレベルによって測定されるような不可避ストレスのモデルを与えるよう最適化される。使用される動物の数及びそれらの苦痛は最小限に留める。全ストレスセッションは約100分間持続する。ストレスへの曝露後又は終了後に、全ての動物をそれらのホームケージに戻す。
【0136】
不可避尾部ショック直後又はその48時間後に、全てのラットを、イソフルランへの短時間曝露で麻酔処理する。動物の脳を、骨頭切除術後に直ちに除去する。全ての解剖は、砕氷の上部に配置されたすりガラス板上で実行する。前頭前皮質、海馬、小脳扁桃及び小脳などの脳検体をドライアイスで迅速に凍結し、使用時まで−70℃で保存する。血液を採取し、凍結させる。
【0137】
非ストレス負荷対照又はストレス負荷群の血漿コルチコステロンを、DSL−10−81100 ACTIVE RAT Corticosterone(Diagnostic System Laboratories,Inc.、米国テキサス州ウェブスター)などの適切な酵素免疫アッセイキットを使用して測定する。
【0138】
血漿p−11タンパク質を、ヤギ抗−マウスIgGマイクロプレート(R&D systems)を用いて測定する。プレートを調製するために、まず初めに、1:1000で希釈されたマウス抗−ヒトS100A10(P−11)モノクローナル抗体(Abcam、Ab52272)の100ulをELISAプレートの各ウェルに移す。プレートをフィルムで密封し、室温で一晩インキュベートする。第二段階では、未知試料及び基準物の100ulをプレートに加え、室温で2時間インキュベートする。第三段階では、ウサギ抗−ヒトP−11抗体(1:1000で希釈された)(Proteintech Group、カタログ番号#:11250−1−AP)の100ulをプレートに加え、4℃で一晩インキュベートする。第四段階では、100ulのストレプトアビジン−HRP(抗−ヤギIgG、R&D Systems、カタログ番号#:DY998)を室温で20分間インキュベートする。上記工程の間に、プレートを3回洗浄する。第5段階で、100ulの基質溶液(R&D Systems、カタログ番号#:DY999)を各ウェルに加え、室温で20分間インキュベートする。第6段階では、停止溶液50ulを加え、各ウェルの光学密度(OD)を、マイクロプレートリーダーで30分以内に決定する。
【0139】
TRIzolを用いて、RNAを組織又は血液細胞溶解物から抽出する。RNA含量の差が検体重量における差からも生じ得る可能性を排除するために、cDNAを、Superscript III RT(逆転写酵素)及びオリゴ(dT)プライマーを用いて各検体について総RNAの5ugから作製する。以下の配列をヒトP−11 mRNA分析に使用する:配列番号1及び2のプライマー。ラットP−11 mRNA分析に使用される配列は:順方向プライマー5‘−TGCTCATGGAAAG GGAGTTC−3’(配列番号7)及び逆方向プライマー5‘−CCCCGCCACTAGTGATAGAA−3’(配列番号8)である。ベータ−アクチン mRNAレベルを、実施例3の配列番号5及び6で対照及び実験検体中のP−11 mRNAレベルを正規化するための内部対照として使用する。希釈曲線は、鋳型RNAの濃度への閾値サイクル数の依存性を確認する。対照及び実験検体中のP−11 mRNAの測定値を、標準曲線法を用いて取得する。
【0140】
本明細書で詳説されるmRNAレベルにおける傾向は、被験体から採取されたその他の検体に相関することが見出され、その他の検体は、全血、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、及び唾液を含む。P−11タンパク質及びP2RX7タンパク質レベルはまた、mRNAレベルを試験するために使用された検体のアリコートでのELISAによるタンパク質レベルの測定によって、mRNAに関して上記で詳説されたような傾向に準拠する。
【0141】
PTSD及び対照群についてのラットのデータは、実施例1のヒトについてのものと相関し、ヒトの非希死念慮PTSDについての動物モデルとしてのプロトコールを確証している。
【0142】
本発明は、その詳細な説明と併せて説明されたが、前述の説明は例示を意図するものであり、添付の請求項の範囲によって定義される、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0143】
前述の詳細な説明において、少なくとも1つの例示的な実施形態が提示されてきたが、多数のバリエーションが存在することが理解されるべきである。少なくとも1つの例示的なの実施形態は例に過ぎず、説明された実施形態の範囲、適応性、又は構成を多少なりとも限定するよう意図していないことも理解されるべきである。むしろ、前述の詳細な説明は、少なくとも1つの例示的なの実施形態を実施するための都合のよいロードマップを当業者に提供するであろう。添付の請求項及びその法的等価物で記載されるような範囲から逸脱することなく、機能及び構成要素の配置において様々な変更がなされ得ることが理解されるべきである。
【0144】
本明細書で言及された特許文献及び刊行物は、本発明が関連する分野における熟練者の技能レベルを表している。これら文献及び刊行物は、あたかも各々の個々の文献又は刊行物が参照により本明細書に具体的かつ個別に組み込まれるかのような同程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16