特許第6061940号(P6061940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6061940-VEGFC産生促進剤 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061940
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】VEGFC産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/351 20060101AFI20170106BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20170106BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170106BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 36/61 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20170106BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20170106BHJP
【FI】
   A61K31/351
   A61P7/10
   A61P17/00
   A61P3/04
   A61K31/22
   A61K36/61
   A61K8/49
   A61K8/37
   A61Q19/08
   A61K8/97
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-538657(P2014-538657)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2013076416
(87)【国際公開番号】WO2014051113
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-218612(P2012-218612)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】中村 未央
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】土師 信一郎
【審査官】 光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−241044(JP,A)
【文献】 特開2005−298487(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/026645(WO,A1)
【文献】 BOSKABADY MH et al,Pharmacological effects of Rosa damascena.,Iran J Basic Med Sci,2011年,vol.14, no.4,p.295-307
【文献】 日本香料協会編,香りの百科,朝倉書店,1997年 9月20日,p.453-456
【文献】 SAARISTO A et al,Vascular endothelial growth factor-C gene therapy restores lymphatic flow across incision wounds,FASEB J,2004年,vol.18, no.14,p.1707-1709
【文献】 資生堂、天然のバラの香り成分の皮膚生理効果を発見,日刊工業新聞Business Line,2013年10月30日,URL,http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1020131030ceba.html
【文献】 資生堂、花の芳香成分にリンパ管の強化作用を発見,日経バイオテクONLINE,2013年10月28日,URL,https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131027/171678/
【文献】 資生堂、リンパ管の機能低下がシワ形成の原因であることを解明,FRAGRANCE JOURNAL,フレグランスジャーナル社,2008年 4月,2008-4,p.7
【文献】 加治屋健太朗他,リンパ管の機能低下が引き起こすしわ形成メカニズムの解明とその薬剤開発,FRAGRANCE JOURNAL,フレグランスジャーナル社,2009年11月,2009-11,p.91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00〜31/80
A61K 8/00〜8/97
A61P 1/00〜43/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を活性成分として含有することを特徴とする、VEGFC産生促進剤。
【請求項2】
ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を活性成分として含有することを特徴とする、リンパ管新生及び/又は機能促進剤。
【請求項3】
ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を活性成分として含有することを特徴とする、むくみ改善剤であって、前記むくみが、リンパ管の形成及び/又は機能の異常に起因する、むくみ改善剤
【請求項4】
ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を活性成分として含有することを特徴とする、リンパ浮腫改善剤であって、前記リンパ浮腫が、リンパ管の形成及び/又は機能の異常に起因する、リンパ浮腫改善剤
【請求項5】
ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を活性成分として含有することを特徴とする、しわ改善剤であって、前記しわが、リンパ管の形成及び/又は機能の異常に起因する、しわ改善剤
【請求項6】
ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を活性成分として含有することを特徴とする、肥満改善剤であって、前記肥満が、リンパ管の形成及び/又は機能の異常に起因する、肥満改善剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管内皮増殖因子C(VEGFC)発現を誘導し、リンパ管機能の活性化を促進することによる、むくみ、リンパ浮腫、しわ、または肥満改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚脈管系は真皮中に存在し、血管とリンパ管から構成される。ホメオスタシスを保つためには、血管外に移動した組織液は、再び静脈に還流しなければならない。皮膚の静脈は、中枢へ効率良く血流を送る。しかし、静脈自体が組織液を取り込む能力は乏しい。このことから、組織液を取り込む組織、すなわちリンパ管が皮膚においても必須の構造であることが理解されてきた。
【0003】
リンパ管は、皮膚中に存在する不要物や血管から恒常的に漏れ出す水分、たんぱく質の回収を行うことにより、細胞周囲の微小環境を一定の状態を保つために重要な役割を担っている。また、外界からの感染因子や外的因子に対してTリンパ球の輸送を介して抵抗する役割を担っていると考えられてきた。
【0004】
リンパ管の機能不全の病態として、むくみやリンパ浮腫などの症状が知られている(非特許文献1:Jussila, L. & Alitalo, K. (2002) Physiol Rev 82, 673-700)。また、リンパ管の機能はむくみにとどまらず、紫外線に伴う皮膚の光老化(しわ形成)にも重要な役割を担っていることがわかっている(非特許文献2:Kajiya, K. & Detmar, M. (2006) J Invest Dermatol 126, 919-21)。
【0005】
これまでの研究から、リンパ管に特異的に存在する膜貫通型受容体としてVEGFR−3が同定され、そのリガンドとしてVEGFC及びVEGFDが見つかっている。VEGFCはリンパ管に作用してリンパ管内皮細胞の増殖、遊走そして管腔形成を促進してリンパ管の機能を活性化する(非特許文献1:Jussila, L. & Alitalo, K. (2002) Physiol Rev 82, 673-700)。また、むくみの病的状態としての浮腫にVEGFCの導入による遺伝子治療の可能性が模索されている(非特許文献3:Saaristo, A., Tammela, T., Timonen, J., Yla-Herttuala, S., Tukiainen, E., Asko-Seljavaara, S. & Alitalo, K. (2004) Faseb J 18, 1707-9)。
【0006】
また最近、リンパ管の機能異常をきたす遺伝子変異マウスが成熟すると肥満を呈することが知られている。リンパ管の形成及び機能の異常が肥満を呈するメカニズムについては、リンパ管を流れるリンパ液が前駆肥満細胞の脂肪への分化を促進するという知見が得られている(非特許文献4:Harvey, N.L.等, Nat Genet 2005, 37, 1072-81)。つまり、リンパ管の機能異常により、リンパ液がリンパ管外へ漏出し、それが脂肪の分化、ひいては肥満形成へとつながることが報告されている。従って、VEGFC促進剤は、リンパ管を機能的に新生する肥満予防の治療薬としても期待される。
【0007】
VEGFファミリー遺伝子はVEGF−A〜Eが存在する。その中で、VEGFBとVEGFEは血管のみに作用する因子として同定されている。VEGFAは皮膚中に存在してリンパ管に働くが逆にリンパ管の機能を悪化させる因子であることが知られている(非特許文献5:Nagy, J. A., Vasile, E., Feng, D., Sundberg, C., Brown, L. F., Detmar, M. J., Lawitts, J. A., Benjamin, L., Tan, X., Manseau, E. J., Dvorak, A. M. & Dvorak, H. F. (2002) J Exp Med 196, 1497-506)。
【0008】
皮膚では、VEGFDは真皮中に微量存在すると報告されているが、VEGFDのノックアウトマウスが全く皮膚リンパ管の形成及び機能に異常をきたさないことからVEGFDは皮膚のリンパ管形成に不可欠の因子ではないと考えられている(非特許文献6:Baldwin, M. E., Halford, M. M., Roufail, S., Williams, R. A., Hibbs, M. L., Grail, D., Kubo, H., Stacker, S. A. & Achen, M. G. (2005) Mol Cell Biol 25, 2441-9)。一方で、皮膚中のVEGFCは表皮に強く発現している。VEGFCを表皮で高発現したマウスは真皮中に存在するリンパ管の数が増加しており(非特許文献7:Jeltsch, M., Kaipainen, A., Joukov, V., Meng, X., Lakso, M., Rauvala, H., Swartz, M., Fukumura, D., Jain, R. K. & Alitalo, K. (1997) Science 276, 1423-5)、一方でVEGFCの受容体であるVEGFR−3の中和抗体を表皮で高発現して表皮にあるVEGFCの効果をブロックしたところ、真皮のリンパ管の数が極端に減少し、浮腫が形成する知見が得られている(非特許文献8:Makinen, T., Jussila, L., Veikkola, T., Karpanen, T., Kettunen, M. I., Pulkkanen, K. J., Kauppinen, R., Jackson, D. G., Kubo, H., Nishikawa, S., Yla-Herttuala, S. & Alitalo, K. (2001) Nat Med 7, 199-205)。これらのことから、皮膚真皮内に存在するリンパ管の機能は表皮に発現するVEGFCによって制御されており、VEGFCが機能しなくなることでむくみ(浮腫)を呈することがわかっている。
【0009】
これまでに、特定のテルペノイド及びその誘導体がVEGF産生促進作用を有し、創傷治癒剤や育毛・養毛剤及び肌色の改善効果を有する皮膚外用剤として有用であること(特許文献1)や、キョウニンエキス、ニンジンエキス、カノコウソウエキス、サンザシエキス、メリロートエキス、オドリコソウエキス及びイリス根エキスといった植物エキスがVEGFC産生促進作用を有することが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−2258号公報
【特許文献2】特開2008−189609号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Physiol Rev 82, 673-700(2002).
【非特許文献2】J Invest Dermatol 126, 919-21(2006).
【非特許文献3】Faseb J 18, 1707-9(2004).
【非特許文献4】Nat Genet 37,1072-81(2005).
【非特許文献5】J Exp Med 196, 1497-506(2002).
【非特許文献6】Mol Cell Biol 25, 2441-9(2005).
【非特許文献7】Science 276, 1423-5(1997).
【非特許文献8】Nat Med 7, 199-205(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、VEGFCの発現を誘導してリンパ管機能を活性化することにより、むくみ、リンパ浮腫、しわ形成、または肥満の予防もしくは制御に有効な新規成分を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた結果、ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルといった香料成分がVEGFCの発現を誘導することを見出した。つまり、VEGFCの発現を誘導するこれらの成分は、リンパ管機能の活性化を促進し、むくみ、リンパ浮腫、紫外線を伴う皮膚の光老化によるしわの形成、または肥満を防止もしくは抑制するのに極めて有効であることを見出した。
【0014】
本発明の構成は下記の通りである。
[1] ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を含有することを特徴とする、VEGFC産生促進剤。
[2] ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を含有することを特徴とする、リンパ管新生及び/又は機能促進剤。
[3] ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を含有することを特徴とする、むくみ改善剤。
[4] ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を含有することを特徴とする、リンパ浮腫改善剤。
[5] ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を含有することを特徴とする、しわ改善剤。
[6] ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を含有することを特徴とする、肥満改善剤。
[7] むくみを防止又は抑制する、[1]に記載のVEGFC産生促進剤。
[8] むくみを防止又は抑制する、[2]に記載のリンパ管新生及び/又は機能促進剤。
[9] リンパ浮腫を防止又は抑制する、[1]に記載のVEGFC産生促進剤。
[10] リンパ浮腫を防止又は抑制する、[2]に記載のリンパ管新生及び/又は機能促進剤。
[11] しわの形成を防止又は抑制する、[1]に記載のVEGFC産生促進剤。
[12] しわの形成を防止又は抑制する、[2]に記載のリンパ管新生及び/又は機能促進剤。
[13] 肥満を防止又は抑制する、[1]に記載のVEGFC産生促進剤。
[14] 肥満を防止又は抑制する、[2]に記載のリンパ管新生及び/又は機能促進剤。
[15] むくみ、リンパ浮腫、しわの形成及び/又は肥満を防止又は抑制するための美容的又は治療的方法であって、[1]に記載のVEGFC産生促進剤を、これらの症状の防止又は抑制が必要な対象の皮膚に塗布することを含んで成る方法。
[16] むくみ、リンパ浮腫、しわの形成及び/又は肥満を防止又は抑制するための美容的又は治療的方法であって、[2]に記載のリンパ管新生及び/又は機能促進剤を、これらの症状の防止又は抑制が必要な対象の皮膚に塗布することを含んで成る方法。
[19] むくみ、リンパ浮腫、しわの形成及び/又は肥満を防止又は抑制するための、[1]に記載のVEGFC産生促進剤の使用。
[20] むくみ、リンパ浮腫、しわの形成及び/又は肥満を防止又は抑制するための、[2]に記載のリンパ管新生及び/又は機能促進剤の使用。
【発明の効果】
【0015】
ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルから成る群から選定される1又は複数種の成分を生体に適用することによって、生体内における血管内皮増殖因子C(VEGFC)の発現が誘導され、リンパ管機能の活性化が促進される。このような作用により、むくみ、リンパ浮腫、しわ、または肥満を予防・改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ローズオキサイド、シトロネリルアセテート及びニアウリオイルのVEGFC誘導活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義:
本明細書における用語、「むくみ」とは、「浮腫」と同義で用いられ、組織液又はリンパ液がなんらかの原因により細胞内、細胞間隙、又は体腔内に貯留する状態であって、皮下組織においてみられる。更に本明細書における用語、「リンパ浮腫」とは、リンパ管の閉塞により、末梢の部分に組織液が貯留する状態をいう。
【0018】
リンパ管活性化因子であるVEGFCを誘導する薬剤のスクリーニングは、下記の実施例で詳細に記載した通り、ヒト表皮由来の培養細胞であるHaCat細胞株に各種候補香料を作用させ、VEGFCの定量を行い、そのVEGFCの量をもってVEGFC誘導活性とし、VEGFC誘導活性を有する香料を有効成分として選定することで行った。
【0019】
その結果、ローズオキサイド、シトロネリルアセテート、及びニアウリオイルがVEGFCを誘導することが見出された。
【0020】
・ローズオキサイド(Rose oxide)
ローズオキサイドは、
【化1】
の化学構造を有し、分子内に2つの不斉炭素を有する有機化合物である。甘みのあるバラのような香りを有し、ピラン系・モノテルペン系香料として、化粧品や石鹸に用いられている。天然には、バラやローズオイル、アンズ、ペパーミントから得ることができ、複数の幾何・光学異性体が存在する。工業的には、シトロネロールの光酸化反応で得られるアリルヒドロペルオキシドを、亜硫酸ナトリウムで還元してジオールとし、その後硫酸で閉環することにより、シス型とトランス型が同量ずつ得られる。香料としての市販品は、シス−ラセミ体が中心である。
【0021】
・シトロネリルアセテート(Ctronellyl acetate)
シトロネリルアセテートは、
【化2】
により表され、常温で無色透明な液体として存在する有機化合物である。バラやラベンダーに似た特有の香気を有するため、食品や化粧品の香料として用いられている。天然にはシトロネラ油やゼラニウム油などの精油中に含まれており、工業的にはシトロネロールから合成されている。
【0022】
・ニアウリオイル(Niaouli oil)
ニアウリオイルは、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランドなどの太平洋地域やインド洋のマダガスカル島を原産とするフトモモ科植物であるニアウリ(学名Melaleuca virdiflora)の葉又は枝から水蒸気蒸留により採取される精油である。殺菌作用を有し、化粧品、石鹸、入浴剤などに用いられている。
【0023】
本発明に係る上記香料成分は、リンパ管の形成及び機能を促進するのに極めて有効である。リンパ管の機能不全に伴う症状としては、むくみやリンパ浮腫などだけでなく、紫外線に伴う皮膚の光老化(しわ形成など)、及び肥満にもみられる。本発明に係る薬剤は、むくみやリンパ浮腫とともに紫外線に伴う皮膚の光老化、並びに肥満の防止、抑制に有効である。更に、上記香料成分は、先天性リンパ浮腫の治療にも有効であると考えられる。
【0024】
皮膚の光老化とは、一般に日光に対する被爆が繰り返された結果として認められる皮膚の外見及び機能の変化を意味する。日光の構成要素である紫外線(UV)、特に中間UV(UVBと呼ばれる、波長290−320nm)が主として光老化を引き起こす。光老化を引き起こすのに必要なUVBの被爆量は現在のところ知られていない。しかしながら、紅斑や日焼けを引き起こすレベルでのUVBに対する繰り返しの被爆が、通常光老化に結びつく。臨床的には、光老化は肌荒れ、しわの形成、斑の着色、土色化、たるみの形成、毛細管拡張症の発症、ほくろの発生、紫斑病の発症、傷つき易くなる、萎縮、繊維症的色素除去領域の発生、前悪性腫瘍及び悪性腫瘍の発症等として特定され得る。光老化は普通、顔、耳、頭、首と手のような、日光に習慣的に曝される皮膚に起こる。
【0025】
本発明のVEGFC産生促進剤、リンパ管新生及び/又は機能促進剤、むくみ改善剤、リンパ浮腫改善剤、しわ改善剤又は肥満改善剤(以下「本剤」ともいう)は、その使用目的に合わせて用量、投与形態、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本剤中の香料成分は、薬剤全量中、典型的には0.0001〜0.1%、好適には0.001〜0.01%、最適には0.005〜0.01%配合する。本剤の投与形態は特に制限されるものではなく、経口、非経口、外用、吸入等であってよいが、吸入及び経皮の双方から働きかけることができる点で、皮膚外用剤が好ましい。剤型としては、例えば香水、コロン、シャンプー・リンス類、スキンケア、ボディシャンプー、ボディリンス、ボディパウダー類、芳香剤、消臭剤、浴剤、ローション、クリーム、石鹸、歯磨剤、エアゾール製品等の化粧料、その他の香料一般に用いられるいずれの形態であってもよい。さらに吸入薬などの医薬品にも用いることができる。
【0026】
また、本剤には、上記必須成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0027】
その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【実施例】
【0028】
ヒト表皮由来の培養細胞であるHaCaT細胞(German Cancer Research Center, Heidelberg, Germany)を10%FBS(Standard fetal bovine serum, Hyclone)含有のDMEM培地(Gibco low glucose DMEM, Life technologiesTM)で培養し、24穴プレートに1穴あたりの細胞数が15×104個になるように播種した。播種から24時間後、培地を無血清のDMEMに交換し、24時間培養した。その後、エタノールに溶解した各種香料を添加した(香料の終濃度は0.001〜0.01%)。エタノールをコントロールとして用いた。48時間培養後培地上清を回収し、ELISAキット(QuantikineR Human VEGF-C Immunoassay(R&D Systems, Minneapolis, MN)のプロトコルに従い、培養上清中のVEGFC量を定量した。また、培養上清を回収した後の細胞にアラマブルー((TREK Diagnostic Systems, Cleveland, US)を添加して、細胞量を蛍光強度(Ex 544nm, Em 590nm)として測定した。上清中のVEGFC量を蛍光強度で割り、コントロール(エタノール)を100とした細胞あたりの相対VEGFC誘導活性を図1に示す。合成香料であるローズオキサイド、シトロネリルアセテート及び天然香料のニアウリオイル(購入先:Biolandes)が、それぞれの濃度で細胞毒性を持たずに図1のようなVEGFC誘導活性を示した。
【0029】
配合例
以下、本発明のVEGFC産生促進剤の配合例を示すが、本発明の実施は以下に限定されるものではない。
【0030】
化粧水
処方 (重量%)
(1)グリセリン 2.0
(2)ジプロピレングリコール 2.0
(3)PEG−60 水添ひまし油 0.3
(4)トリメチルグリシン 0.1
(5)防腐剤 適量
(6)キレート剤 適量
(7)染料 適量
(8)本発明のVEGFC産生促進剤:ローズオキサイド 0.05
(9)精製水 残余
【0031】
化粧水
処方 (重量%)
(1)アルコール 30.0
(2)ブチレングリコール 4.0
(3)グリセリン 2.0
(4)PPG−13デシルテトラデス24 0.3
(5)オクチルメトキシシンナメート 0.1
(6)メントール 0.2
(7)酢酸トコフェロール 0.1
(8)キレート剤 適量
(9)染料 適量
(10)本発明のVEGFC産生促進剤:ニアウリオイル 0.1
(11)精製水 残余
【0032】
乳液
処方 (重量%)
(1)ステアリン酸 2.0
(2)セチルアルコール 1.5
(3)ワセリン 4.0
(4)スクワラン 5.0
(5)グリセロールトリー2−エチルヘキサン酸エステル 2.0
(6)ソルビタンモノオレイン酸エステル 2.0
(7)ジプロピレングリコール 5.0
(8)PEG1500 0.3
(9)トリエタノールアミン 0.1
(10)防腐剤 適量
(11)本発明のVEGFC産生促進剤:シトロネリルアセテート 0.01
(12)精製水 残余
【0033】
乳液
処方 (重量%)
(1)エチルアルコール 10.0
(2)シクロメチコン 0.1
(3)ブチレングリコール 5.0
(4)ジメチコン 3.0
(5)グリセン 0.1
(6)メントール 1.0
(7)トリメチルシロキシケイ酸 0.1
(8)カフェイン 1.0
(9)トリメチルグリシン 1.0
(10)キサンタンガム 0.001
(11)ヒドロキシエチルセルロース 0.1
(12)大豆発酵エキス 1.0
(13)ラウリルベタイン 0.5
(14)カルボマー 0.2
(15)キレート剤 適量
(16)パラベン 適量
(17)安息香酸 適量
(18)本発明のVEGFC産生促進剤:ローズオキサイド 0.01
(19)酸化鉄 適量
(20)苛性カリ 0.05
(21)グリチルリチン酸ジカルシウム 0.01
(22)塩酸ピリドキシン 0.01
(23)アスコルビン酸グルコシド 0.01
(24)アルブチン 3.0
(25)ユキノシタ抽出液 0.1
(26)水 残余
【0034】
乳液
処方 (重量%)
(1)ブチレングリコール 4.0
(2)プロピレングリコール 4.0
(3)カルボマー 0.2
(4)苛性カリ 0.2
(5)ベヘニン酸 0.5
(6)ステアリン酸 0.5
(7)イソステアリン酸 0.5
(8)ステアリン酸グリセリル 1.0
(9)イソステアリン酸グリセリル 1.0
(10)ベヘニルアルコール 0.5
(11)スクワラン 5.0
(12)トリオクタノイン 3.0
(13)フェニルトリメチコン 2.0
(14)バチルアルコール 0.5
(15)グリチルリチン酸ジカルシウム 0.01
(16)防腐剤 適量
(17)キレート剤 適量
(18)顔料 適量
(19)本発明のVEGFC産生促進剤:ニアウリオイル 0.15
(20)精製水 残余
【0035】
クリーム
処方 (重量%)
(1)グリセリン 10.0
(2)ブチレングリコール 5.0
(3)カルボマー 0.1
(4)苛性カリ 0.2
(5)ステアリン酸 2.0
(6)スタリン酸グリセリル 2.0
(7)イソステアリン酸グリセリル 2.0
(8)ワセリン 5.0
(9)防腐剤 適量
(10)酸化防止剤 適量
(11)本発明のVEGFC産生促進剤:シトロネリルアセテート 0.02
(12)精製水 残余
(13)キレート剤 適量
(14)顔料 適量
(15)ステアリルアルコール 2.0
(16)ベヘニルアルコール 2.0
(17)パーム硬化油 2.0
(18)スクワラン 10.0
(19)4−メトキシサリチル酸カリウム 3.0
【0036】
処方 (重量%)
クリーム
(1)グリセリン 3.0
(2)ジプロピレングリコール 7.0
(3)ポリエチレングリコール 3.0
(4)ステアリン酸グリセリル 3.0
(5)イソステアリン酸グリセリル 2.0
(6)ステアリルアルコール 2.0
(7)ベヘニルアルコール 2.0
(8)流動パラフィン 7.0
(9)シクロメチコン 3.0
(10)ジメチコン 1.0
(11)オクチルメトキシシンナメート 0.1
(12)ヒアルロン酸Na 0.05
(13)防腐剤 適量
(14)酸化防止剤 適量
(15)本発明のVEGFC産生促進剤:ローズオキサイド 0.02
(16)精製水 残余
(17)キレート剤 適量
(18)顔料 適量
【0037】
ジェル
処方 (重量%)
(1)エチルアルコール 10.0
(2)グリセリン 5.0
(3)ブチレングリコール 5.0
(4)カルボマー 0.5
(5)アミノメチルプロパノール 0.3
(6)PEG−60水添ヒマシ油 0.3
(7)メントール 0.02
(8)防腐剤 適量
(9)キレート剤 適量
(10)本発明のVEGFC産生促進剤:シトロネリルアセテート 0.01
(11)精製水 残余
【0038】
エアゾール
処方 (重量%)
(1)グリセリン 2.0
(2)ジプロピレングリコール 2.0
(3)PEG−60水添ヒマシ油 0.3
(4)HPPCD 1.0
(5)防腐剤 適量
(6)キレート剤 適量
(7)染料 適量
(8)本発明のVEGFC産生促進剤:ニアウリオイル 0.1
(9)精製水 適量
(10)LPG 残余
【0039】
エアゾール
処方 (重量%)
(1)エタノール 60.0
(2)乳酸メンチル 0.1
(3)乳酸ナトリウム 0.1
(4)酢酸トコフェロール 0.01
(5)乳酸 0.01
(6)カフェイン 0.01
(7)ウイキョウエキス 1.0
(8)ハマメリスエキス 1.0
(9)ドクダミエキス 1.0
(10)ジプロピレングリコール 1.0
(11)窒素ガス 0.9
(12)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン 1.0
デシルテトラデシルエーテル
(13)ブチレングリコール 2.0
(14)トコフェロール 0.05
(15)本発明のVEGFC産生促進剤 0.01
(16)PEG−60水添ヒマシ油 0.1
(17)水 残余
【0040】
フレグランス
処方 (重量%)
(1)アルコール 75.0
(2)精製水 残余
(3)ジプロピレングリコール 5.0
(4)本発明のVEGFC産生促進剤:シトロネリルアセテート 1.0
(5)酸化防止剤 8.0
(6)色素 適量
(7)紫外線吸収剤 適量
【0041】
入浴剤
処方 (重量%)
(1)硫酸ナトリウム 45.0
(2)炭酸水素ナトリウム 45.0
(3)ラベンダーオイル 9.0
(4)本発明のVEGFC産生促進剤: ニアウリオイル 1.0
【0042】
マッサージ用ジェル
処方 (重量%)
(1)エリスリトール 2.0
(2)カフェイン 5.0
(3)オウバク抽出物 3.0
(4)グリセリン 50.0
(5)カルボキシビニルポリマー 0.4
(6)ポリエチレングリコール400 30.0
(7)エデト3ナトリウム 0.1
(8)ポリオキシレン(10)メチルポリシロキサン共重合体 2.0
(9)スクワラン 1.0
(10)水酸化カリウム 0.15
(11)本発明のVEGFC産生促進剤:ローズオキサイド 0.01
【0043】
マッサージクリーム
処方 (重量%)
(1)固形パラフィン 5.0
(2)ミツロウ 10.0
(3)ワセリン 15.0
(4)流動パラフィン 41.0
(5)1.3−ブチレングリコール 4.0
(6)モノステアリン酸グリセリン 2.0
(7)POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 2.0
(8)ホウ砂 0.2
(9)カフェイン 2.0
(10)防腐剤 適量
(11)酸化防止剤 適量
(12)本発明のVEGFC産生促進剤:ニアウリオイル 1.0
(13)精製水 残余
図1