特許第6062007号(P6062007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 クニテックの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特許6062007スピニング加工方法およびスピニング加工装置
<>
  • 特許6062007-スピニング加工方法およびスピニング加工装置 図000002
  • 特許6062007-スピニング加工方法およびスピニング加工装置 図000003
  • 特許6062007-スピニング加工方法およびスピニング加工装置 図000004
  • 特許6062007-スピニング加工方法およびスピニング加工装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062007
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】スピニング加工方法およびスピニング加工装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/14 20060101AFI20170106BHJP
   B21D 53/84 20060101ALN20170106BHJP
   B21D 41/04 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
   B21D22/14 Z
   !B21D53/84 B
   !B21D41/04 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-180313(P2015-180313)
(22)【出願日】2015年9月14日
(62)【分割の表示】特願2013-77845(P2013-77845)の分割
【原出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2015-221461(P2015-221461A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】504287952
【氏名又は名称】株式会社 クニテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】国本 幸孝
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 哲
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓史
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−010935(JP,A)
【文献】 特開2000−094069(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0257588(US,A1)
【文献】 特開2003−048023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/14
B21D 41/04
B21D 53/84
B21D 19/04
F01N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のワークの支持部をワーク支持手段で支持した状態で当該ワークの加工部にスピニングヘッドの複数のローラを公転させつつ押し付けてスピニング加工を施すスピニング加工方法であって、
前記ワークのスピニング加工時に、前記複数のローラが当該ワークを抱えるように保持した状態で、これらのローラを公転させつつ当該ワークに押し付けるとともに、前記ワーク支持手段または前記スピニングヘッドのいずれか一方を他方に対して相対的に移動させて、前記加工部における管軸が当該ワークの支持部における管軸に対して傾斜させると同時に、前記スピニング加工をして、前記加工部に縮径加工を施すことにより、当該ワークの前記加工部の外形ラインが前記支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工を施すことを特徴とするスピニング加工方法。
【請求項2】
前記成形加工に際して、前記ワーク支持手段を移動させて前記ワークの支持部をその作動範囲が自在になるように移動させることにより、前記ワークの加工部を前記ワーク支持手段側に対して相対的に移動させて、この加工部における管軸が当該ワークの支持部における管軸からずれる偏心加工を施すことを特徴とする請求項1に記載のスピニング加工方法。
【請求項3】
前記成形加工に際して、前記ワークの支持部を前記ワーク支持手段で支持した状態で当該ワーク支持手段を適宜首振り動作させることにより、前記ワークの加工部における管軸を当該ワークの支持部における管軸に対して傾斜させることを特徴とする請求項1または2に記載のスピニング加工方法。
【請求項4】
前記ローラとして、前記スピニングヘッドのスピンドルの回転軸方向において互いに異なる位置に公転面が設けられた第1ローラおよび第2ローラを用い、
前記成形加工に際して、前記第1ローラと前記第2ローラとが協働して前記ワークを抱えるように保持した状態で、これらの第1ローラおよび第2ローラを公転させつつ当該ワークに押し付けるとともに、前記ワーク支持手段または前記スピニングヘッドのいずれか一方を他方に対して相対的に移動させることにより、当該ワークの前記加工部の外形ラインが前記支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工を施すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスピニング加工方法。
【請求項5】
前記第1ローラは、前記スピンドルの回転軸を中心とする円周上にほぼ等角度間隔で複数設けられ、前記第2ローラは、これらの第1ローラと前記スピンドルの回転軸方向から見て交互に配置される形で、前記スピンドルの回転軸を中心とする円周上にほぼ等角度間隔で複数設けられていることを特徴とする請求項4に記載のスピニング加工方法。
【請求項6】
筒状のワークの支持部をワーク支持手段で支持した状態で当該ワークの加工部にスピニングヘッドの複数のローラを公転させつつ押し付けてスピニング加工を施すスピニング加工装置であって、
前記複数のローラが前記ワークを抱えるように保持した状態で、これらのローラが公転しつつ当該ワークに押し付けられるとともに、前記ワーク支持手段または前記スピニングヘッドのいずれか一方を他方に対して相対的に移動させて、前記加工部における管軸が当該ワークの支持部における管軸に対して傾斜させると同時に、前記スピニング加工をして、前記加工部に縮径加工を施すことにより、当該ワークの前記加工部の外形ラインが前記支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工が施されるように構成されていることを特徴とするスピニング加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用のエキゾーストパイプ(排気管)等の3次元的に複雑な筒形状を有する筒状部材を円筒状のワークから一体成形する場合に適用するのに好適なスピニング加工方法およびスピニング加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスピニング加工方法としては、円筒状のワークをチャックやクランプ装置で支持した状態で、このワークの加工部の外周面に2〜4個程度のローラを公転させつつ押し付けることにより、この加工部を縮径する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−25826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうしたスピニング加工方法では、ワークの外側から内側(ワークの軸心方向)へ向けてローラを押し付けて加工するため、通常、このワークに対して、その外形を超えた成形(すなわち、ワークの外形(円筒状)の範囲内に制限されることなく任意の方向に成形する加工)、例えば偏心加工を行うことはできない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、ワークの外形を超えた成形を行うことが可能なスピニング加工方法を提供することを第1の目的とする。また、このようなスピニング加工方法を実施するのに適したスピニング加工装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、筒状のワークの支持部をワーク支持手段で支持した状態で当該ワークの加工部にスピニングヘッドの複数のローラを公転させつつ押し付けてスピニング加工を施すスピニング加工方法であって、前記ワークのスピニング加工時に、前記複数のローラが当該ワークを抱えるように保持した状態で、これらのローラを公転させつつ当該ワークに押し付けるとともに、前記ワーク支持手段または前記スピニングヘッドのいずれか一方を他方に対して相対的に移動させて、前記加工部における管軸が当該ワークの支持部における管軸に対して傾斜させると同時に、前記スピニング加工をして、前記加工部に縮径加工を施すことにより、当該ワークの前記加工部の外形ラインが前記支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工を施すスピニング加工方法としたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記成形加工に際して、前記ワーク支持手段を移動させて前記ワークの支持部をその作動範囲が自在になるように移動させることにより、前記ワークの加工部を前記ワーク支持手段側に対して相対的に移動させて、この加工部における管軸が当該ワークの支持部における管軸からずれる偏心加工を施すことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記成形加工に際して、前記ワークの支持部を前記ワーク支持手段で支持した状態で当該ワーク支持手段を適宜首振り動作させることにより、前記ワークの加工部における管軸を当該ワークの支持部における管軸に対して傾斜させることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記ローラとして、前記スピニングヘッドのスピンドルの回転軸方向において互いに異なる位置に公転面が設けられた第1ローラおよび第2ローラを用い、前記成形加工に際して、前記第1ローラと前記第2ローラとが協働して前記ワークを抱えるように保持した状態で、これらの第1ローラおよび第2ローラを公転させつつ当該ワークに押し付けるとともに、前記ワーク支持手段または前記スピニングヘッドのいずれか一方を他方に対して相対的に移動させることにより、当該ワークの前記加工部の外形ラインが前記支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工を施すことを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加え、前記第1ローラは、前記スピンドルの回転軸を中心とする円周上にほぼ等角度間隔で複数設けられ、前記第2ローラは、これらの第1ローラと前記スピンドルの回転軸方向から見て交互に配置される形で、前記スピンドルの回転軸を中心とする円周上にほぼ等角度間隔で複数設けられていることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項6に記載の発明は、筒状のワークの支持部をワーク支持手段で支持した状態で当該ワークの加工部にスピニングヘッドの複数のローラを公転させつつ押し付けてスピニング加工を施すスピニング加工装置であって、前記複数のローラが前記ワークを抱えるように保持した状態で、これらのローラが公転しつつ当該ワークに押し付けられるとともに、前記ワーク支持手段または前記スピニングヘッドのいずれか一方を他方に対して相対的に移動させて、前記加工部における管軸が当該ワークの支持部における管軸に対して傾斜させると同時に、前記スピニング加工をして、前記加工部に縮径加工を施すことにより、当該ワークの前記加工部の外形ラインが前記支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工が施されるように構成されているスピニング加工装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、筒状のワークのスピニング加工において、ワークの加工部の外形ラインがワークの支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工が施されることから、筒状のワークに対して、その外形を超えた成形を行うことが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、筒状のワークの成形加工に際して、ワークの加工部における管軸がワークの支持部における管軸からずれる偏心加工が施されることから、筒状のワークに対して、その外形を超えた成形を行うことが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、筒状のワークの成形加工に際して、ワークの加工部における管軸がワークの支持部における管軸に対して傾斜することから、筒状のワークに対して、その外形を超えた成形を行うことが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、第1ローラと第2ローラとが協働してワークを抱えるように保持した状態で、ワークの加工部の外形ラインがワークの支持部の外形ラインより外側に位置する成形加工が施されることから、筒状のワークに対して、その外形を超えた成形を行うことが可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、複数の第1ローラおよび複数の第2ローラがスピニングヘッドの回転軸を中心とする円周上にほぼ等角度間隔で設けられているため、筒状のワークの成形加工に際して、ワークに対する第1ローラおよび第2ローラの支持点が増えるとともに、これらの第1ローラおよび第2ローラによってワークの加工部がほぼ均等に加圧される。その結果、ワークの加工精度を向上させることが可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態1に係るスピニング加工方法のワーク準備工程およびローラ接触工程を示す図であって、(a)はスピニング加工装置の正面図、(b)はスピニングヘッドの右側面図、(c)はワークの加工前の斜視図である。
図2】同実施の形態1に係るスピニング加工方法の偏心・縮径加工工程を示す図であって、(a)はスピニング加工装置の正面図、(b)はこの偏心・縮径加工工程におけるワークの目標形状を示す斜視図である。
図3】同実施の形態1に係るスピニング加工装置のスピニングヘッドの具体的な構造を示す正断面図である。
図4】本発明の実施の形態2に係るスピニング加工装置のスピニングヘッドの具体的な構造を示す正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[発明の実施の形態1]
図1乃至図3には、本発明の実施の形態1を示す。なお、図1(a)においては、図1(b)のA−A線による断面図でローラ(第1ローラおよび第2ローラ)等を示している。
【0021】
実施の形態1に係るスピニング加工装置1は、図1に示すように、水平に設置されたテーブル2を有している。テーブル2上には、「ワーク支持手段」としてのワーク支持台3が、円筒状のワーク4を支持した状態で、3軸方向(X方向、Y方向、Z方向)に移動自在に、かつ、X方向の軸線周り(RX方向)、Y方向の軸線周り(RY方向)およびZ方向の軸線周り(RZ方向)に首振り自在に取り付けられており、このワーク支持台3は、基台5およびチャック6から構成されている。すなわち、テーブル2上には、基台5が3軸方向(X方向、Y方向、Z方向)に移動自在に支持されており、基台5上には、ワーク4を把持しうるチャック6が、X方向の軸線周り(RX方向)、Y方向の軸線周り(RY方向)およびZ方向の軸線周り(RZ方向)に首振り自在に搭載されている。
【0022】
また、ワーク支持台3の近傍(図1(a)右方)には、スピニングヘッド7が設置されており、スピニングヘッド7は、スピンドル台(図示せず)、スピンドル10、3本の第1支持軸11A、3本の第2支持軸11B、3組(6個)の第1ローラ12Aおよび3組(6個)の第2ローラ12B等から構成されている(図1(a)、(b)参照)。ここで、これら3組の第1ローラ12Aは、スピンドル10の回転軸CT1を中心とする円周C1上に等角度間隔(つまり、120°間隔)で設けられている。また、これら3組の第2ローラ12Bは、3組の第1ローラ12Aとスピンドル10の回転軸CT1方向から見て交互に(つまり、60°ずつ離れて)配置される形で、スピンドル10の回転軸CT1を中心とする円周C1上に等角度間隔(つまり、120°間隔)で設けられている。
【0023】
すなわち、テーブル2上には、スピンドル台(図示せず)が立設されており、このスピンドル台の側面には、図1(a)に示すように、チャック6に対向する位置に、円環状のスピンドル10が、駆動手段(図示せず)によって回転軸CT1を中心として回転自在に支持されている。スピンドル10には、図1(b)に示すように、6本の支持軸11(3本の第1支持軸11Aおよび3本の第2支持軸11B)が、回転軸CT1を中心とする円周C1上に等角度間隔(つまり、60°間隔)で配置されている。これらの第1支持軸11Aおよび第2支持軸11Bは、スピンドル10の回転軸CT1に対して半径方向に互いに独立して移動しうるように構成されている。各第1支持軸11Aにはそれぞれ、同じ直径を有する1組(2個)の第1ローラ12Aが第1支持軸11Aの軸心CT21を中心として回転自在に支持されており、これら2個の第1ローラ12Aは、図1(a)に示すように、スピンドル10の回転軸CT1方向において異なる位置に取り付けられている。また、各第2支持軸11Bにはそれぞれ、同じ直径を有する1組(2個)の第2ローラ12Bが第2支持軸11Bの軸心CT22を中心として回転自在に支持されており、これら2個の第2ローラ12Bは、図1(a)に示すように、スピンドル10の回転軸CT1方向において異なる位置に取り付けられている。そして、第1ローラ12Aの公転面PL1と第2ローラ12Bの公転面PL2とは、図1(a)に示すように、スピンドル10の回転軸CT1方向において異なる位置に設けられている。なお、第1ローラ12Aと第2ローラ12Bとは、図1(b)に示すように、同じ直径を有している。
【0024】
さらに詳しくは、スピニングヘッド7は、図3に示すように、スピンドル10がハウジング16および面板17から構成されているとともに、支持軸11(第1支持軸11A、第2支持軸11B)がスライダ18およびローラホルダ20から構成されている。
【0025】
すなわち、このスピニングヘッド7は、図3に示すように、水平に支持されたメインシャフト15を有しており、メインシャフト15にはハウジング16が、メインシャフト15の軸心CT7を中心として回転自在に取り付けられている。ハウジング16には円環状の面板17が、その中心がメインシャフト15の軸心CT7に一致する形で垂直に固定されており、面板17には6個のスライダ18が、面板17の中心、つまりメインシャフト15の軸心CT7を中心とする円周上に等角度間隔(つまり、60°間隔)で配置されている。各スライダ18はそれぞれ、図3に実線および想像線で示すように、ブーメラン形のスライドリンク19を駆動手段(図示せず)で揺動させることにより、面板17の半径方向に沿って移動しうるように構成されている。すなわち、各スライドリンク19はそれぞれ、所定の回転軸CT8を中心として回転自在に支持されており、その一端19aにはスライダ18が連結されているとともに、他端19bには前記駆動手段が接続されている。そして、この駆動手段によってスライドリンク19の他端19bを水平方向に移動させることにより、スライダ18を面板17の半径方向に沿って移動させることができる。また、各スライダ18にはそれぞれ、ローラホルダ20が固定されており、各ローラホルダ20にはそれぞれ、1組(2個)のローラ12(第1ローラ12Aまたは第2ローラ12B)が回転自在に支持されている。
【0026】
スピニング加工装置1は以上のような構成を有するので、このスピニング加工装置1を用いて円筒状のワーク4にスピニング加工を施す際には、次の手順による。
【0027】
まず、ワーク準備工程において、6本の支持軸11(3本の第1支持軸11Aおよび3本の第2支持軸11B)がスピンドル10の半径方向に沿ってスピンドル10の回転軸CT1から最も離れている状態で、図1(a)に示すように、ワーク支持台3のチャック6でワーク4の支持部4aを把持する。すると、ワーク4は、その軸心CT3がスピンドル10の回転軸CT1に一致した形で水平に支持された状態となる。
【0028】
次に、ローラ接触工程に移行し、6本の支持軸11をスピンドル10の半径方向に沿ってスピンドル10の回転軸CT1に近付く向きへ移動させることにより、6組のローラ12(3組の第1ローラ12Aおよび3組の第2ローラ12B)をワーク4の外周面に接触させる。すると、ワーク4は、3組の第1ローラ12Aと3組の第2ローラ12Bとが協働して抱えるように保持された状態となる。なお、6本の支持軸11は、上述したとおり、スピンドル10の回転軸CT1を中心とする円周C1上に等角度間隔で配置されているので、6組のローラ12もワーク4の周囲に等角度間隔で配置された状態となる。
【0029】
最後に、偏心・縮径加工工程に移行し、スピンドル10を回転軸CT1を中心として回転させることにより、6組のローラ12を回転軸CT1を中心として所定の回転速度で公転させる。すると、各ローラ12は、ワーク4の加工部4bの外周面に対して転がりつつワーク4の周囲を公転する。
【0030】
この状態で、図2(a)に示すように、6組のローラ12をスピンドル10の半径方向に沿って求心方向に移動させるとともに、ワーク支持台3をX方向に沿ってスピニングヘッド7から離れる向きに移動させると同時に、ワーク支持台3をZ方向に沿って上向きに移動させる。
【0031】
すると、ワーク4は、加工部4bが元の位置にとどまったまま支持部4aが斜め上方(図2(a)矢印M方向)に移動するため、ワーク4を抱えるように保持した状態で所定の回転速度で公転している6組のローラ12により、支持部4aにおける管軸CT5が加工部4bにおける管軸CT6から上にずれる偏心加工が施されると同時に、加工部4bの直径が支持部4aの直径より小さくなる縮径加工が施される。その結果、図2(b)に示すように、円筒状のワーク4に対して、加工部4bの外形ラインL2がより外側(図2(b)下側)に位置する成形、つまりワーク4の外形を超えた成形を行うことが可能となる。しかも、ワーク4の偏心加工と縮径加工とが同時に行われるため、生産性を向上させることができる。
【0032】
このとき、ワーク4の周囲には、上述したとおり、6組のローラ12が等角度間隔で配置されているので、ワーク4に対するローラ12の支持点が増えるとともに、これらのローラ12によってワーク4の加工部4bがほぼ均等に加圧される。その結果、ワーク4の加工精度を向上させることが可能となる。
【0033】
ここで、ワーク4のスピニング加工が終了する。
【0034】
このように、スピニングヘッド7においては、第1ローラ12Aの公転面PL1と第2ローラ12Bの公転面PL2とが、スピンドル10の回転軸CT1方向において異なる位置に設けられている。そのため、円筒状のワーク4のスピニング加工に際しては、スピンドル10の回転軸CT1方向、つまりワーク4の長さ方向に互いに離れた2点において、ワーク4が第1ローラ12Aおよび第2ローラ12Bによってしっかりと保持される。したがって、これらの公転面PL1、PL2がスピンドル10の回転軸CT1方向において同じ位置に設けられている場合と比べて、ワーク4の保持状態を確保してワーク4の剛性を高めることができる。その結果、円筒状のワーク4のスピニング加工において、ワーク4の加工部4bにおける管軸CT6がワーク4の支持部4aにおける管軸CT5からずれる偏心加工が施されることから、円筒状のワーク4に対して、その外形を超えた成形を行うことが可能となる。
【0035】
また、スピニングヘッド7においては、上述したとおり、各第1支持軸11Aにそれぞれ2個の第1ローラ12Aが取り付けられているとともに、各第2支持軸11Bにそれぞれ2個の第2ローラ12Bが取り付けられている。したがって、第1ローラ12A、第2ローラ12Bが1個ずつ設けられている場合に比べて、ワーク4のスピニング加工(偏心・縮径加工工程)に際して、ローラ12とワーク4との接触面積が増大するため、ワーク4のスピニング加工を短時間で高精度に行うことが可能となる。
【0036】
さらに、スピニングヘッド7においては、上述したとおり、第1ローラ12Aの公転面PL1と第2ローラ12Bの公転面PL2とがスピンドル10の回転軸CT1方向において異なる位置に設けられているため、これらの公転面PL1、PL2がスピンドル10の回転軸CT1方向において同じ位置に設けられている場合と比べて、ローラ12の直径を大きくしてもローラ12同士が干渉しにくくなり、スピニングヘッド7の設計の自由度が高くなる。
【0037】
また、ワーク支持台3は、上述したとおり、X方向の軸線周り(RX方向)、Y方向の軸線周り(RY方向)およびZ方向の軸線周り(RZ方向)に首振り自在となっている。したがって、ワーク4のスピニング加工に際して、ワーク4の支持部4aをワーク支持台3で支持した状態で、ワーク4の加工部4bの加工形状に応じてワーク支持台3を適宜首振り動作させることにより、ワーク4の加工部4bにおける管軸CT6をワーク4の支持部4aにおける管軸CT5に対して傾斜させることもできる。その結果、ワーク4を3次元方向に任意に曲げる加工を行うことが可能となる。
【0038】
また、第1支持軸11Aおよび第2支持軸11Bは、上述したとおり、スピンドル10の回転軸CT1に対して半径方向に互いに独立して移動しうるように構成されている。そのため、円筒状のワーク4の偏心加工および縮径加工に際して、ワーク4の加工形状に応じて、第1ローラ12Aおよび第2ローラ12Bをワーク4の外周面に確実に接触させることができる。したがって、ワーク4の加工形状が複雑であっても、ワーク4の加工精度を向上させることが可能となる。
【0039】
[発明の実施の形態2]
図4には、本発明の実施の形態2を示す。
【0040】
実施の形態2に係るスピニング加工装置1のスピニングヘッド7は、図4に示すように、スピンドル10に、スピンドル10の回転軸CT1上、つまりメインシャフト15の軸心CT7上に軸心CT4が位置する略鉛筆形状のワーク振れ止め用の心金(マンドレル)13が、スピンドル10の回転軸CT1方向(図4左右方向)に進退自在に取り付けられている。その他の構成については、上述した実施の形態1と同様であるので、同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。また、ワーク4のスピニング加工方法の手順も、上述した実施の形態1と同様である。
【0041】
したがって、この実施の形態2では、上述した実施の形態1と同じ作用効果を奏する。これに加えて、ワーク4のスピニング加工(偏心・縮径加工工程)に際して、ワーク4の加工部4bの内部に心金13を挿入することにより、ワーク4の剛性が低い場合であっても、ワーク4のスピニング加工に伴う振れを抑制してワーク4を高精度に加工することが可能となる。
【0042】
[発明のその他の実施の形態]
なお、上述した実施の形態1、2では、メインシャフト15にハウジング16が回転自在に取り付けられている構成のスピニングヘッド7について説明したが、メインシャフト15がハウジング16とともに回転する構成を採用してもよい。
【0043】
また、上述した実施の形態1、2では、ワーク4のスピニング加工(偏心・縮径加工工程)において、ワーク支持台3を斜め上方(X方向およびZ方向)に移動させることにより、ワーク4を加工する場合について説明した。しかし、ワーク支持台3を斜め上方に移動させる代わりに、スピニングヘッド7を斜め下方に移動させることにより、ワーク4を加工するようにしても構わない。つまり、ワーク支持台3またはスピニングヘッド7のいずれか一方を他方に対して相対的に移動させればよい。或いはまた、ワーク4の加工部4bまたはワーク支持台3のいずれか一方を他方に対して相対的にその他の方向(例えば、上下方向、水平方向など)に移動させてもよい。
【0044】
また、上述した実施の形態1、2では、6本の支持軸11(3本の第1支持軸11Aおよび3本の第2支持軸11B)を有するスピニングヘッド7について説明した。しかし、支持軸11の本数は6本に限るわけではない。
【0045】
また、上述した実施の形態1、2では、第1ローラ12Aと第2ローラ12Bとが同じ直径を有する場合について説明したが、第1ローラ12Aと第2ローラ12Bとで直径が異なるようにしても構わない。
【0046】
また、上述した実施の形態1、2では、各支持軸11(11A、11B)にローラ12(12A、12B)が2個ずつ取り付けられたスピニングヘッド7について説明した。しかし、各支持軸11に取り付けるローラ12の個数は2個に限るわけではなく、1個でも3個以上でもよいことは勿論である。ローラ12の個数が増えると、ワーク4のスピニング加工(偏心・縮径加工工程)に際して、ローラ12とワーク4との接触面積が増大するため、ワーク4のスピニング加工を短時間で高精度に行うことが可能となる。
【0047】
また、上述した実施の形態1、2では、ローラ12を支持軸11に回転自在に支持し、ワーク4のスピニング加工時に、このワーク4の外周面に対してローラ12が転がるように構成されたスピニングヘッド7について説明した。しかし、ローラ12を支持軸11に固定し、ワーク4のスピニング加工時に、このワーク4の外周面に対してローラ12が滑るように構成してもよい。
【0048】
また、上述した実施の形態1、2では、ワーク4のスピニング加工に際して、ワーク4に偏心加工を施す場合について説明した。しかし、こうした偏心加工に限らず、ワーク4の加工部4bにおける管軸CT6が任意の方向に向く成形加工を施すようにしても構わない。こうすることにより、複雑な筒形状を有する種々の筒状部材を円筒状のワーク4から一体成形することが可能となる。
【0049】
さらに、このようなワーク4の任意の方向に向く成形加工に伴い、ローラ12の公転径を適宜減少させることにより、ワーク4の加工部4bを縮径加工することもできる。この場合、ワーク4の任意の方向に向く成形加工と縮径加工とが同時に行われるため、生産性を高めることが可能となる。
【0050】
また、上述した実施の形態1、2では、第1ローラ12Aと第2ローラ12Bとが別個の支持軸11(第1支持軸11Aと第2支持軸11B)に設けられている場合について説明した。しかし、第1ローラ12Aの公転面PL1と第2ローラ12Bの公転面PL2とがスピンドル10の回転軸CT1方向において異なる位置に設けられる限り、第1ローラ12Aと第2ローラ12Bとを同一の支持軸11に設けても構わない。
【0051】
また、上述した実施の形態1、2では、第1ローラ12Aの公転面PL1と第2ローラ12Bの公転面PL2とがスピンドル10の回転軸CT1方向において異なる位置に設けられたスピニングヘッド7、つまり2段のローラ12を備えたスピニングヘッド7について説明した。しかし、3段以上のローラ12を備えたスピニングヘッド7を代用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、3次元的に複雑な筒形状を有する筒状部材、具体的には、サージタンク、ターボチャージャーの分離タンク、二輪車用マフラー、触媒コンバータ、ディーゼル排気処理装置(ディーゼルパティキュレートフィルタ)、各種の圧力容器などを筒状の素材からスピニング加工で一体成形する場合に極めて有用である。
【符号の説明】
【0053】
1……スピニング加工装置
2……テーブル
3……ワーク支持台(ワーク支持手段)
4……ワーク
4a……支持部
4b……加工部
5……基台
6……チャック
7……スピニングヘッド
10……スピンドル
11A……第1支持軸
11B……第2支持軸
12A……第1ローラ
12B……第2ローラ
L1……ワークの支持部の外形ライン
L2……ワークの加工部の外形ライン
PL1……第1ローラの公転面
PL2……第2ローラの公転面
図1
図2
図3
図4