特許第6062051号(P6062051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6062051高磁束密度方向性珪素鋼及びその製造方法
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  • 特許6062051-高磁束密度方向性珪素鋼及びその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062051
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】高磁束密度方向性珪素鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170106BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20170106BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20170106BHJP
   H01F 1/18 20060101ALI20170106BHJP
   H01F 1/16 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C22C38/60
   C21D8/12 B
   H01F1/18
   H01F1/16
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-527746(P2015-527746)
(86)(22)【出願日】2012年12月11日
(65)【公表番号】特表2015-529285(P2015-529285A)
(43)【公表日】2015年10月5日
(86)【国際出願番号】CN2012001683
(87)【国際公開番号】WO2014032216
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2015年2月23日
(31)【優先権主張番号】201210315658.2
(32)【優先日】2012年8月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン, ファビン
(72)【発明者】
【氏名】リー, グォバオ
(72)【発明者】
【氏名】ルー, シージャン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ヨンジェ
(72)【発明者】
【氏名】フー, ヂュオチャオ
(72)【発明者】
【氏名】シェン, カンイー
(72)【発明者】
【氏名】ガオ, ジャチャン
(72)【発明者】
【氏名】ウー, メイホン
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−254829(JP,A)
【文献】 特開平02−294428(JP,A)
【文献】 特開2012−012661(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007817(WO,A1)
【文献】 特開平11−302730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12、 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高磁束密度方向性珪素鋼であって、
該方向性珪素鋼のスラブが、重量%で、C:0.035〜0.120%、Si:2.9〜4.5%、Mn:0.05〜0.20%、P:0.005〜0.050%、S:0.005〜0.012%、Als:0.015〜0.035%、N:0.001〜0.010%、Cr:0.05〜0.30%、Sn:0.005〜0.090%、V≦0.0100%、Ti≦0.0100%、微量元素Sb、Bi、Nb及びMoのうち少なくとも1つ:Sb+Bi+Nb+Mo=0.0015〜0.0250%を含有し、残部としてFe及び不可避的不純物を含有し、かつ、(Sb/121.8+Bi/209.0+Nb/92.9+Mo/95.9)/(Ti/47.9+V/50.9)の値が0.1〜15であり、
該方向性珪素鋼は、磁束密度Bが1.93Tよりも高い高磁束密度方向性珪素鋼。
【請求項2】
請求項1に記載の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法であって、
(1)製錬及び鋳造を行って前記スラブを得る工程と、
(2)熱間圧延工程と、
(3)焼準焼鈍工程と、
(4)冷間圧延工程と、
(5)脱炭温度がT(x,x)=ax+bx+c(式中、xはSb+Bi+Nb+Moの重量%含量(単位ppm)、xは(Sb+Bi+Nb+Mo)/(V+Ti)のモル分率比、aは0.1〜1.0の範囲の値、bは0.1〜1.0の範囲の値、cは800〜900℃の範囲の値)を満たし、脱炭時間が80〜160秒である脱炭焼鈍工程と、
(6)窒化処理工程と、
(7)鋼板にMgOコーティングを施してから高温焼鈍を行う工程と、
(8)絶縁コーティングを施し、熱延伸平坦化焼鈍を行うことにより、高磁束密度方向性珪素鋼を得る工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
一次粒径Φが30μm以下、一次再結晶率Pが90%以上となるように前記脱炭温度を制御することを特徴とする請求項2に記載の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項4】
(9)磁区細分化工程
をさらに含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項5】
前記工程(2)において、加熱温度が1250℃以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項6】
前記工程(4)において、冷間圧延の圧下率が75%以上であることを特徴とする請求項2又は3に記載の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項7】
前記工程(6)において、窒素の浸透量が50〜260ppmであることを特徴とする請求項2又は3に記載の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板及びその製造方法、具体的には珪素鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高磁束密度方向性珪素鋼は、以下の基本化学成分:Si:2.0〜4.5%、C:0.03〜0.10%、Mn:0.03〜0.2%、S:0.005〜0.050%、Als(酸可溶性アルミニウム):0.02〜0.05%、N:0.003〜0.012%を含有する。なかには、さらにCu、Mo、Sb、B、Bi等の元素のうち1以上を含有する成分系もある。
【0003】
従来の高磁束密度方向性珪素鋼の製造方法においては、まず転炉(又は電気炉)により製鋼を行い、二次精錬及び合金化処理後に連続鋳造を行ってスラブを作製し、
その後、そのスラブを特別な高温加熱炉内で約1400℃まで加熱し、45分間以上保温して好ましい介在物を充分に固溶させ、
その後、熱間圧延を施し、ラミナー冷却後に巻き取りを行い、熱延板の焼準工程で珪素鋼の母相中に第二相粒子を析出させて微細分散させることにより有効なインヒビターを得、
さらにその熱延板に冷間圧延を施して最終製品の厚さとした後、脱炭焼鈍を行って、上記鋼板中のCを最終製品の磁気特性に影響がでない程度除去し(通常、30ppm以下とすべきである)、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、
再び高温焼鈍を行って、高温焼鈍工程で鋼板を二次再結晶させて、珪酸マグネシウム底層を形成させることにより純化処理(鋼中のS、N等の磁気特性に有害な元素の除去)を完了させて、配向性が高く、鉄損が低い高磁束密度方向性珪素鋼を得、
最後に、絶縁コーティングを塗布し、延伸焼鈍を行うことにより、商業用途の形態の方向性珪素鋼製品を得る。
【0004】
従来の高磁束密度方向性珪素鋼の製造方法は以下の点で不充分である。まず、インヒビターを充分に固溶させるために最高加熱温度を1400℃にしなければならない。この温度は従来の加熱炉の限界温度である。また、加熱温度が高く、焼損が大きいため、加熱炉を頻繁に修理しなければならず、稼働率が低くなる。同時に、エネルギー消費量が大きく、熱延コイルのエッジクラックがひどいため、冷延過程での生産が困難であり、歩留まりが低く、コストが高くなる。
【0005】
上記問題を鑑み、当該技術分野において方向性珪素鋼の加熱温度を下げることに対して多くの研究がなされてきた。スラブの加熱温度範囲で分けると、主に2つの改善手法が存在する。1つは、スラブの加熱温度を1250〜1320℃とし、AlN及びCuをインヒビターとして利用する中温スラブ加熱工程であり、もう1つは、スラブの加熱温度を1100〜1250℃とし、窒化法を用いてインヒビターを導入する低温スラブ加熱工程である。
【0006】
現在、低温スラブ加熱工程が急速に発展しており、例えば、スラブを1200℃以下の温度で加熱し、最終冷間圧延を80%を超える冷延圧下率で行い、脱炭焼鈍工程でアンモニアガスを用いて連続して窒化処理を行い、高温焼鈍後に、配向性がより高い二次再結晶粒が得られる。この製造方法の利点は、高磁束密度方向性珪素鋼(HiB)をより低いコストで生産でき、該珪素鋼の典型的な磁束密度Bが1.88〜1.92Tとなることである。
【0007】
低温スラブ加熱工程のインヒビターは主に、脱炭焼鈍後の窒化処理によって窒素と鋼中に元々存在するアルミニウムとが結合して形成される、微細分散した(Al,Si)N、(Mn,Si)N粒子に由来する。また、インヒビターは、スラブ中に存在する介在物にも由来し、この介在物は製鋼・鋳造工程で形成され、スラブの加熱工程で部分的に固溶し、圧延工程で析出する。介在物の形態は焼準、焼鈍により調整でき、それにより一次再結晶に重大な影響が及ぼされ、その結果、最終製品の磁気特性にも影響が生じる。一次粒径が抑制力の大きさと適合する場合に二次再結晶は完全となり、最終製品の磁気特性は優れたものとなる。焼準工程においては、析出する窒化物インヒビターはスラブ中の介在物の形態により影響を受けるが、スラブ中の介在物の形態を制御するのはかなり困難である。例えば、鋳造工程で形成された粗大なAlNは、その後の焼鈍において固溶しにくいため、一次粒径の安定性を制御するのは非常に難しく、磁束密度Bが1.93T以上の高級HiB製品を安定して得られる可能性は低い。また、最終製品の厚さが確定している条件の下では、さらに鉄損を低減するために通常取られる措置のいくつか、例えば、Si含量を高めたり、レーザースクライビング等を施したりすることによって、磁束密度が低下してしまう。鉄損を低減するためのこれらの方法の適用範囲は、磁束密度が低下してしまうことから限られている。脱炭焼鈍工程での急速加熱などといった他の磁束密度Bを改善するための方法は、急速誘導加熱やオーム加熱などのための特別な設備を新たに追加する必要があるため、投資コストが増大する。また、急速加熱すると、最終製品の底層における欠陥、特に白点状欠陥の発生率が増加する。
【0008】
特許文献1(名称「高磁束密度低鉄損結晶粒方向性電磁鋼板及びその製造方法」)には、Si:2.5〜4.0wt%、Al:0.005〜0.06wt%を含有する電磁鋼板が開示されている。この鋼板の全結晶粒のうち、面積比で95%以上の結晶粒が直径5〜50mmの粗大な二次再結晶粒から構成されており、それらの(001)軸は鋼板の圧延方向に対して5°以内の角度をなし、該(001)軸は鋼板表面の垂直方向に対しても5°以内の角度をなす。これらの粗大な二次再結晶粒又は結晶粒界には、直径0.05〜2mmの微細な結晶粒が存在し、それらの(001)軸に対する粗大な二次再結晶粒の(001)軸の相対角度は2〜30°である。
【0009】
特許文献2(名称「方向性電磁鋼板の製造方法」)は、優れた磁気特性を有する珪素鋼板を安価に生産する製造方法に関する。この製造方法は、特定の圧延速度での冷間圧延及び焼鈍を行い、全窒素含量を特定のppmに調整して焼鈍を完了する工程を含む。この鋼板は、重量%で、C:0.001〜0.09%、Si:2〜4.5%、酸可溶性Al:0.01〜0.08%、N:0.0001〜0.0040%、S若しくはSe単独又はそれらの和:0.008〜0.06%、Cu:0.01〜1%、Mn:0.01〜0.5%、少量のBi、P、Sn、Pb、B、V、Nb等を含有し、残部としてFe及びその他の不可避的不純物を含有する。冷延珪素鋼の冷間圧延率は75〜95%、焼鈍温度は800〜1000℃、焼鈍時間は1300秒、全窒素含量は50〜1000ppmである。
【0010】
特許文献3(名称「一方向性電磁鋼板の1次再結晶焼結方法」)には、方向性電磁鋼板の製造方法が開示されている。この製造方法は、主に窒化法により方向性珪素鋼の一次粒径を制御する方法に関し、Als、N及びSiに応じて脱炭温度を調整する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】中国特許出願公開第1138107号明細書(公開日1996年12月18日)
【特許文献2】特開平8−232020号公報(公開日1996年9月10日)
【特許文献3】特開平4−337029号公報(公開日1992年11月25日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高磁束密度方向性珪素鋼及びその製造方法を提供することである。新たに設備を追加しないことを前提として、鋼種成分を設計し、脱炭焼鈍工程を制御することにより、より優れた磁気特性を有する方向性珪素鋼製品が得られ、その磁束密度が通常の方向性珪素鋼と比較して顕著に向上し、典型的にはその磁束密度Bが1.93Tより高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記本発明の目的を実現するために、本発明は、高磁束密度方向性珪素鋼であって、該方向性珪素鋼のスラブが、重量%で、C:0.035〜0.120%、Si:2.9〜4.5%、Mn:0.05〜0.20%、P:0.005〜0.050%、S:0.005〜0.012%、Als:0.015〜0.035%、N:0.001〜0.010%、Cr:0.05〜0.30%、Sn:0.005〜0.090%、V≦0.0100%、Ti≦0.0100%、微量元素Sb、Bi、Nb及びMoのうち少なくとも1つ:Sb+Bi+Nb+Mo=0.0015〜0.0250%を含有し、残部としてFe及び不可避的不純物を含有し、かつ、(Sb/121.8+Bi/209.0+Nb/92.9+Mo/95.9)/(Ti/47.9+V/50.9)の値、すなわち(Sb+Bi+Nb+Mo)/(V+Ti)のモル分率比が0.1〜15であり、該方向性珪素鋼は、磁束密度Bが1.93Tよりも高い高磁束密度方向性珪素鋼を提供する。

【0014】
さらに、本発明の高磁束密度方向性珪素鋼は、一次粒径Φが30μm以下、一次再結晶率Pが90%以上である。
【0015】
本発明の技術的解決策では、微量元素Sb、Bi、Nb又はMoを添加し、不純物元素V及びTiの含量を制御することにより、上記微量元素の炭素化合物や窒素化合物が良好に形成され、スラブにおいてTiN、TiC又はVNをコアとするMnS+AlN複合介在物の量が大幅に減少する。これらの複合介在物の大きさは粗大であるため、スラブの加熱及びその後の焼鈍工程において完全に固溶させることはできず、抑制作用は充分ではない。一方、(Sb+Bi+Nb+Mo)の合計含量を増加させて(Sb+Bi+Nb+Mo)/(V+Ti)のモル分率比を高めると、微量元素及びこれらから形成される炭素化合物や窒素化合物を補助的なインヒビターとして利用でき、抑制力を増強する効果が得られる。また、MnS+AlN複合介在物の量が減少し、微細分散したAlNの量が増加するため、二次再結晶の抑制力の大きさが増強されるだけでなく、一次結晶粒を微細で均一にし、一次再結晶の度合いを高くするのにも有利となり、さらに二次再結晶を完全なものにするのにも有利となる。その結果、最終製品の鋼板の磁束密度が顕著に向上する。
【0016】
したがって、本発明はさらに、上記高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法であって、
(1)製錬及び鋳造を行ってスラブを得る工程と、
(2)熱間圧延工程と、
(3)焼準焼鈍工程と、
(4)冷間圧延工程と、
(5)脱炭温度がT(x,x)=ax+bx+c(式中、xはSb+Bi+Nb+Moの重量%含量(単位ppm)、xは(Sb+Bi+Nb+Mo)/(V+Ti)のモル分率比(単位l)、aは0.1〜1.0の範囲の値、bは0.1〜1.0の範囲の値、cは800〜900℃の範囲の値であって微量元素を添加しない場合の脱炭温度を表す)を満たし、脱炭時間が80〜160秒である脱炭焼鈍工程と、
(6)窒化処理工程と、
(7)鋼板にMgOコーティングを施してから高温焼鈍を行う工程と、
(8)絶縁コーティングを施し、熱延伸平坦化焼鈍を行うことにより、高磁束密度方向性珪素鋼を得る工程と
を含む方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法においては、一次粒径Φが30μm以下、一次再結晶率Pが90%以上となるように上記脱炭焼鈍温度を制御する。
【0018】
さらに、本発明の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法は、(9)磁区細分化を行って、鉄損の要件がさらに低い製品を得ることができる工程をさらに含む。磁区細分化においてはレーザースクライビング法を用いることができ、レーザースクライビングによって高磁束密度方向性珪素鋼の磁気特性はより優れたものとなる。
【0019】
さらに、本発明の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法の工程(2)において、加熱温度が1250℃以下である。
【0020】
さらに、本発明の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法の工程(4)において、冷間圧延の圧下率が75%以上である。
【0021】
さらに、本発明の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法の工程(6)において、窒素の浸透量が50〜260ppmである。
【0022】
本発明の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法では、脱炭温度を制御するのが重要な点である。適切な脱炭温度に設定することは以下の2つの目的を実現するために必要である。1つは、一次粒径Φを30μm以下にすることであり、もう1つは一次再結晶の再結晶率Pを90%以上にすることである。ここで一次再結晶率Pは、脱炭焼鈍後の帯鋼で生じた一次再結晶の比率として定義される。一次粒径Φが30μm以下、再結晶率Pが90%以上の場合、帯鋼の磁気特性はより優れたものとなる。一次粒径と再結晶率とが上記必要な範囲を満たすためには、スラブ中の微量元素の含量及び比率に応じて脱炭温度を設定し、関係式:T(x,x)=ax+bx+cを満たさなければならない。本発明の技術的解決策においては、一次粒径Φ及び一次再結晶率Pは、当該技術分野における従来の測定手段を用いて測定でき、例えば、一次再結晶率Pは電子後方散乱回折(EBSD)を用いて測定できる。
【0023】
また、脱炭温度の関係式から、微量元素Sb、Bi、Nb又はMoを添加した場合の脱炭温度がこれらの元素成分系を添加しない場合よりも高くなることが分かる。これは、鋼板中のMnS+AlN複合介在物の量が減少し、微細分散したAlNの量が増加し、一次再結晶に対する抑制作用が増強されるために、脱炭温度を適切に上昇させる必要があるからである。
【0024】
通常の高磁束密度方向性珪素鋼と比較して、本発明の高磁束密度方向性珪素鋼は一次再結晶率が高く、一次粒径が微細で均一であり、二次再結晶粒が粗大化しているため、鉄損が低下しない又はわずかしか低下しない状況であっても、その磁束密度は顕著に向上し、製品の磁気特性が安定する。
【0025】
本発明の高磁束密度方向性珪素鋼を製造する方法においては、製鋼工程で微量元素を添加し、対応する不純物元素の含量を制御すると共に、その後の脱炭焼鈍工程を調節することにより、一次粒径が30μm以下、一次再結晶の再結晶率が90%以上となり、微量元素及びこれらから形成される炭素化合物や窒素化合物が補助的なインヒビターとして利用でき、スラブ中のMnS+AlN複合介在物の量が減少し、微細分散したAlNの量が増加するため、一次結晶粒を微細で均一にし、一次再結晶率を高くするのに有利であり、さらに最終製品の磁束密度を向上させるのに有利である。したがって、優れた磁気特性を有する方向性珪素鋼が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】高磁束密度方向性珪素鋼の一次粒径、再結晶率及び磁束密度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の技術的解決策における高磁束密度方向性珪素鋼の一次粒径、再結晶率及び磁束密度の関係を示す。図1から、本発明の技術的解決策では、一次粒径Φが30μm以下、一次再結晶率Pが90%以上の場合、帯鋼の磁束密度Bが1.93Tよりも高くなることが分かる。
【0028】
以下、具体的な実施例及び比較例とともに本発明の技術的解決策をさらに説明及び例証する。
【0029】
本発明の高磁束密度方向性珪素鋼は以下の工程に従って製造される。
(1)表1に示される成分組成に従って製錬及び鋳造を行ってスラブを得る工程。
(2)スラブを1150℃の温度で加熱してから熱間圧延を行って、厚さ2.3mmの熱延板を得る工程。
(3)焼準焼鈍工程。
(4)冷間圧延を行って、最終製品の厚さである0.30mmとする工程。
(5)脱炭温度が関係式:T=0.21x+0.16x+831を満たし、脱炭時間が80〜160秒である条件下、脱炭を行って、鋼板中のC含量を30ppm以下に減少させる工程。
(6)N浸透量が100〜160ppmである窒化処理工程。
(7)鋼板にMgOコーティングを施してから、100%H雰囲気、温度1200℃の条件下、高温焼鈍を20時間行う工程。
(8)巻き解いてから絶縁コーティングを施し、熱延伸平坦化焼鈍を行うことにより、高磁束密度方向性珪素鋼を得る工程。
【0030】
上記脱炭温度の関係式は以下のように求められる。最終製品の厚さまで冷間圧延し、高温焼鈍を25時間行った鋼材に対して異なる成分と異なる脱炭温度を試験的に組み合わせ、それぞれの脱炭鋼板の一次粒径Φ及び一次再結晶率Pを測定し、一次粒径Φが30μm以下、一次再結晶率Pが90%以上の鋼コイルを選択して統計分析を行い(x、xの値が同じ場合、P/Φ値の大きい鋼コイルを統計分析に使用するのが好ましい)、線形フィッティング法を用いて、脱炭温度とx、xとの関係式におけるa、b及びcを得る。フィッティングに関わるデータを表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表3は、実施例1〜12及び比較例14〜17の脱炭温度、再結晶率、一次粒径、磁束密度B及び鉄損P17/50を示す。
【0034】
【表3】
【0035】
表1及び表3から分かるように、本発明の技術的解決策を用いる鋼コイル、すなわち、微量元素の含量及び比率について本発明の成分設計要件を満たし、脱炭温度、一次粒径及び再結晶率の要件を満たす鋼コイルは、概して良好な磁気特性を示し、それらの磁束密度Bは1.93Tよりも高い。
【0036】
さらに方向性珪素鋼の鉄損特性に対する磁区細分化工程の影響を説明するために、本発明者らは、従来の低温方向性珪素鋼の成分に基づいてSb、Bi、Nb又はMo元素を添加し、V及びTiの含量を0.0020%未満に制御し、適切な脱炭温度を用いることにより、厚さ0.23mmの方向性珪素鋼製品を得、レーザースクライビング処理を施して幾つかの製品を得た。各製品の磁気特性を表4に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
表4から分かるように、最終製品の結晶粒は粗大化され、レーザースクライビングを施した後の番号1〜7の製品の鉄損改善効果は非常に顕著であり、これらのスクライビング後の製品の総合的な磁気特性は番号8〜11の製品よりも顕著に優れている。
【0039】
なお、上述した実施例は本発明の特定の実施例でしかなく、本発明が上記実施例に限定されず、多くの同様の変更を施すことができることは明らかである。当業者によりなされる本発明の開示から直接導かれる又は該開示に関係する変更点は全て、本発明の保護範囲内である。
図1