【実施例】
【0043】
以下の実施例は本発明を例示する目的で与えるが、その範囲を限定しない。
実施例1:R32/HFO−1234ze(E)/ブタンブレンドのヒートポンプ性能:
R410A用に設計されている代表的な空気対空気可逆ヒートポンプを試験した。このダクト内ユニットを、HoneywellのBuffaro, New Yorkの応用技術研究所において試験した。ダクト内ユニットは、スクロール圧縮機を装備した10.1kWの加熱能力及び8.5のHSPF(約2.5の定格加熱SPF)を有する3トン(10.5kWの冷却能力)の13SEER(3.8の冷却季節性能因子(SPF))であった。このシステムは、フィンチューブ式熱交換器、それぞれの運転モードのための逆転弁及び温度自動調節膨張弁を有していた。試験した異なる圧力及び冷媒の密度のために、試験の幾つかは、元の冷媒を用いて観察されたものと同程度の過熱を再現するために電子膨張弁(EEV)を用いることが必要であった。
【0044】
表1及び2に示す試験は、標準規格(AHRI、2008)の運転条件を用いて行った。全ての試験は、空気側及び冷媒側のパラメーターの両方を測定する機器を取り付けた環境室の内部で行った。コリオリ流量計を用いて冷媒流を測定し、一方、工業規格(ASHRAE、1992)にしたがって設計されている空気エンタルピートンネルを用いて空気流及び能力を測定した。全ての一次測定センサーは、温度に関して±0.25℃、圧力に関して±0.25psiに較正した。能力及び効率に関する実験誤差は平均で±5%であった。能力値は、基準流体(R−410A)を用いて注意深く較正した空気側の測定値を表す。開発ブレンドのHDR−90(R32/R1234ze/ブタン:27/68/5)を、このヒートポンプ内において、基準冷媒R−410Aと共に冷却及び加熱モードの両方で試験した。
【0045】
【表1-3】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表3、4、及び5において、(*)で印を付けた冷媒は、より大きい容積型圧縮器(11%)を用いた試験を表す。R32の量がより低いと勾配が増加し、これは特に低温条件で運転した際の加熱モード(H3)における性能に影響を与える。これは、H3条件において90%であったHDR−89の能力においてはっきりと見られる。
【0049】
ブタンを加えると、より低能力の成分を混合物中に加えているので能力はより低いと予測される。また、混合物中により低圧の成分を加えるので勾配が増加することも予測される。ところが、本発明者らは全ての運転条件において能力の増加(2%から5%)及び勾配の僅かな減少を観察した。
【0050】
ブタンを加えることの利益はまた、性能の不利益を起こさないで標準的な運転条件(A及びH1)において能力を全回復させた後にも示される。
【0051】
【表4】
【0052】
全ての冷媒は能力回復後に効率を維持した。
【0053】
【表5】
【0054】
AHRI−MOC条件は、全てのパラメーターが装置に関する設計限界を超えないことを実証するために極限周囲温度において装置を試験する。重要なパラメーターの1つは放出温度であり、これは現在の圧縮機技術を用いる場合には115℃より低くなければならない。表5は、より少ない量のR32を含む組成物(例えば68%±2%を有するHDR90)は、このパラメーターを許容範囲内に維持することを明確に示す。
【0055】
実施例2:R32/HFO−1234ze(E)/イソブタンブレンドのヒートポンプ性能:
A.冷却モード:
下記の表6において、冷却モードで運転する一例のヒートポンプシステムに関するデータを報告する。凝縮器温度は45.0℃に設定し、これは概して約35.0℃の屋外温度に対応する。膨張装置入口における過冷却度は5.55℃に設定した。蒸発温度は7.0℃に設定し、これは約20.0℃の室内周囲温度に対応する。蒸発温度出口における過熱度は5.55℃に設定した。圧縮器効率は70%に設定し、体積効率は100%に設定した。接続ライン(吸引及び液体ライン)内の圧力降下及び熱伝達は無視しうるものとみなし、圧縮器シェルを通る熱放散は無視した。本発明による上記に規定する組成物に関して幾つかの運転パラメーターを求め、これらの運転パラメーターを下記に報告する。これらは、1.00のCOP値及び1.00の能力値を有するR410Aを基準としている。
【0056】
【表6】
【0057】
示されるように、R32及びR1234zeの二元混合物にイソブタン(R600a)を加えると勾配が減少し、これにより能力が向上した。イソブタンは同様の条件下においてR1234zeよりも低い能力を有しているので、この結果は予期しなかったことである。イソブタンを加えるとまた、放出温度も低下した。
【0058】
理論によって縛られることは意図しないが、低いレベルのイソブタンをR32及びR1234zeに加えることによって観察されたこの勾配の減少、向上した能力及び放出温度は、少なくとも部分的にイソブタンとR1234zeとの間の共沸混合物又は共沸混合物様が形成されることによるものであると考えられる。
【0059】
B.加熱モード:
加熱で運転する同じシステムに関し、凝縮器温度を40.0℃に設定し、これは概して約21.1℃の室内温度に対応する。膨張装置入口における過冷却度は5.5℃に設定した。蒸発温度は2.0℃に設定し、これは約8.3℃の屋外周囲温度に対応する。蒸発器出口における過熱度は5.55℃に設定した。圧縮器の等エントロピー効率は70%に設定し、体積効率は100%に設定した。接続ライン(吸引及び液体ライン)内の圧力降下及び熱伝達は無視しうるものとみなし、圧縮器シェルを通る熱放散は無視した。本発明による上記に規定の組成物に関して幾つかの運転パラメーターを求め、これらの運転パラメーターを下記に報告する。これらは、1.00のCOP値及び1.00の能力値を有するR410Aを基準としている。
【0060】
【表7】
【0061】
表7に示すように、冷却モードの結果と同様に、R32及びR1234zeの二元混合物にイソブタン(R600a)を加えると勾配が増加し、これにより能力が向上し、放出温度が低下した。
【0062】
ここでも理論によって縛られることは意図しないが、低いレベルのイソブタンをR32及びR1234zeに加えることによって観察されたこの勾配の減少、並びに向上した能力及び放出温度は、イソブタンとR1234zeとの間の共沸混合物又は共沸混合物様が形成されることによるものであると考えられる。
【0063】
C.極限運転条件:
極限周囲温度において運転する同じシステムに関して、凝縮器温度を57.0℃に設定し、これは概して約46.0℃の屋外周囲温度に対応する。膨張装置入口における過冷却度は5.5℃に設定した。蒸発温度は7.0℃に設定し、これは約20.0℃の室内温度に対応する。蒸発器出口における過熱度は5.55℃に設定した。圧縮器の等エントロピー効率は70%に設定し、体積効率は100%に設定した。接続ライン(吸引及び液体ライン)内の圧力降下及び熱伝達は無視しうるものとみなし、圧縮器シェルを通る熱放散は無視した。これらの条件における重要なパラメーターの1つは放出温度であり、これは現在の圧縮器技術を用いる場合には115℃より低くなければならない。
【0064】
【表8】
【0065】
表8における結果は、イソブタンを含むブレンドがこのパラメーターを許容しうる範囲の内側に維持することを明確に示す。
実施例3:据付型冷却(商業用冷却)における性能−中温用途:
幾つかの好ましい組成物の性能を、中温冷却に特有の条件において、他の冷媒組成物に対して評価した。この用途は新鮮な食品の冷却をカバーする。組成物を評価した条件を表9に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
表10は、通常の中温用途において、対象の組成物を基準冷媒のR−410A(R−32とR−125の50/50疑似共沸性ブレンド)と比較している。
【0068】
【表10】
【0069】
示されるように、本組成物は基準冷媒のR−410Aの効率を超え、能力の10%以内であった。更に、圧縮機の押しのけ量における適度な12%の増加と共に、同等の能力に達した。
【0070】
実施例4:据置型冷却(商業用冷却)における性能−低温用途:
幾つかの好ましい組成物の性能を、低温冷却に特有の条件において他の冷媒組成物に対して評価した。この用途は、冷凍食品の冷却をカバーする。組成物を評価した条件を表11に示す。
【0071】
【表11】
【0072】
表12は、通常の中温用途において、対象の組成物を基準冷媒のR−410A(R−32とR−125の50/50疑似共沸性ブレンド)と比較している。
【0073】
【表12】
【0074】
示されるように、本組成物はここでも基準冷媒のR−410Aの効率を超え、能力の11%以内であった。更に、圧縮機の押しのけ量における適度な12%の増加と共に、低温条件において同等の能力に達した。
【0075】
実施例5:通常の圧縮機潤滑剤との混和性:
対象の組成物の1つであるHDR−90(68%のR−32/27%のR−1234ze(E)/5%のn−ブタン)を実験で評価して、40℃において22cStの粘度を有する「Ultra 22」POE潤滑剤という名称のEmersonのCopelandディビジョンによって供給されている潤滑剤とのその混和性を求めた。これは、冷媒が少量である場合を除いて(オイル中<5%の冷媒は12℃〜62℃の間)、試験したこの範囲(−40℃〜70℃)にわたって非混和性であった純粋なR−32を凌ぐ著しい向上を示した。73%のR−32/27%の1234ze(E)のブレンドは−5℃〜65℃の間で混和性であったが、HDR−90は全ての濃度に関して、下は−26℃まで及び上は76℃までにおいて混和性を示し、オイル中5%の冷媒に関しては、下は−40℃まで混和性を示した。この低温における向上した混和性は、ヒートポンプ及び冷却用途のために特に重要である。
【0076】
実施例6:冷媒漏出物からの分別(組成変化):
冷媒ブレンドの安全性を認めるためには、不燃性であるか、又はASHRAEクラス2L(19,000kJ/kg未満の燃焼熱、及び10cm/秒未満の燃焼速度)を維持することが望ましい。ブタン又はイソブタンを加えても、材料は、材料をより可燃性の分類クラス(ブタン及びイソブタンは、いずれもクラス3の可燃材料(19,000kJ/kgより大きい燃焼熱)である)に変化させる組成物で液相又は蒸気相のいずれかが富化されないことは驚くべきことである。
【0077】
【表13】
【0078】
図1及び
図2は、R32/R1234ze/ブタン又はR32/R1234ze/イソブタンのブレンドによる蒸気相のリークが進行するのにつれて、炭化水素の濃度は同等に維持され、一方、R32は減少し、R1234zeの濃度は富化されたことを示す。リークが進行するのにつれて、液相のブタン又はイソブタン濃度は増加せず、またR1234zeは室温において炎焼限界を示さないのでこれにより可燃性も操作され、最悪の場合の可燃性は当初のブレンド組成物として規定することができるので、これは重要且つ予期しなかったことである。
【0079】
ASHRAE−2Lの規定冷媒であり、穏やかな可燃性を有すると特徴付けられるためには、燃焼速度は10cm/秒より低く維持されなければならない。ブタン及びイソブタンはR32及びR1234zeの両方よりも非常に高い沸点を有しているが、蒸気相のリークが進行するのにつれて液相は富化されず、これは通常の流体混合に基づいては予測されない。燃焼速度を測定したところ、最悪の場合の分別された組成物に関して
図3に示すように8.8cm/秒であった。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
(a)約60重量%〜約70重量%のHFC−32;
(b)約20重量%乃至約40重量%未満の、不飽和CF
3末端プロペン類、不飽和CF
3末端ブテン類、及びこれらの組み合わせから選択される化合物;並びに;
(c)約0重量%より多く約10重量%までの、n−ブタン、イソブタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物;
を含み;
但し、成分(c)の量は、組成物の勾配;加熱能力;冷却能力;加熱効率;冷却効率;及び/又は放出温度の1以上を、成分(c)を含まない組成物と比べて向上させるのに有効なものである熱伝達組成物。
[2]
成分(b)がHFO−1234zeを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[3]
成分(b)がHFO−1234zeから実質的に構成される、[2]に記載の熱伝達組成物。
[4]
成分(b)がHFO−1234zeから構成される、[2]に記載の熱伝達組成物。
[5]
HFO−1234zeと成分(c)が、共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与えられている、[2]に記載の熱伝達組成物。
[6]
HFC−32と成分(c)が、共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与えられている、[2]に記載の熱伝達組成物。
[7]
(a)が約63重量%〜約69重量%の量で与えられており;成分(b)が約25重量%乃至約37重量%未満の量で与えられており;成分(c)が約0重量%より多く約6重量%までの量で与えられている、[1]に記載の熱伝達組成物。
[8]
成分(c)が約1重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[9]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[10]
成分(c)が約2重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[11]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[12]
成分(c)が約3重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[13]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[14]
成分(c)が約4重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[15]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[16]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[17]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[18]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[19]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[20]
(a)約60重量%〜約70重量%のHFC−32;
(b)約20重量%乃至約40重量%未満のHFO−1234ze;及び
(c)約0重量%より多く約10重量%までの、n−ブタン、イソブタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物;
を含み;
但し、成分(c)の量は、組成物の勾配;加熱能力;冷却能力;加熱効率;冷却効率;及び/又は放出温度の1以上を、成分(c)を含まない組成物と比べて向上させるのに有効なものである熱伝達組成物。
[21]
(a)が約63重量%〜約69重量%の量で与えられており;成分(b)が約25重量%乃至約37重量%未満の量で与えられており;成分(c)が約0重量%より多く約6重量%までの量で与えられている、[20]に記載の熱伝達組成物。
[22]
成分(c)が約1重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[23]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[24]
成分(c)が約2重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[25]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[26]
成分(c)が約3重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[27]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[28]
成分(c)が約4重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[29]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[30]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[31]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[32]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[33]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[34]
[1]〜[33]のいずれかに記載の組成物において相変化を引き起こし、相変化中において熱を流体又は物体と交換することを含む、流体又は物体へ又はそれから熱を伝達する方法。
[35]
自動車用空調システム、住宅用空調システム、商業用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、商業用冷蔵庫システム、商業用冷凍庫システム、チラー空調システム、チラー冷却システム、ヒートポンプシステム、及びこれらの2以上の組み合わせからなる群から選択される、[1]〜[33]のいずれかに記載の組成物を含む冷却システム。