特許第6062061号(P6062061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッドの特許一覧

<>
  • 特許6062061-低GWPの熱伝達組成物 図000017
  • 特許6062061-低GWPの熱伝達組成物 図000018
  • 特許6062061-低GWPの熱伝達組成物 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062061
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】低GWPの熱伝達組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20170106BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C09K5/04 E
   C09K5/04 F
   C09K5/04 B
   F25B1/00 396Z
   F25B1/00 396T
【請求項の数】26
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-545621(P2015-545621)
(86)(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公表番号】特表2016-505662(P2016-505662A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】CN2012085802
(87)【国際公開番号】WO2014085973
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】シートン,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ニウ,ヨーンミーン
(72)【発明者】
【氏名】ハルス,ライアン
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−531836(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0069177(US,A1)
【文献】 特表2007−535611(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0256594(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
F25B 1/00− 7/00
F25B 15/00− 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)60重量%〜70重量%のHFC−32;
(b)20重量%乃至40重量%未満のトランスHFO−1234zeから実質的に構成される化合物;並びに;
(c)0重量%より多く10重量%までの、n−ブタン、イソブタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物;
を含み;
但し、成分(c)の量は、組成物の勾配;加熱能力;冷却能力;加熱効率;冷却効率;及び/又は放出温度の1以上を、成分(c)を含まない組成物と比べて向上させるのに有効なものである熱伝達組成物。
【請求項2】
63重量%〜69重量%のHFC−32を含む、請求項1に記載の熱伝達組成物。
【請求項3】
68重量%のHFC−32を含む、請求項1に記載の熱伝達組成物。
【請求項4】
25重量%〜37重量%のトランスHFO−1234zeを含む、請求項1から3のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項5】
27重量%のトランスHFO−1234zeを含む、請求項1から3のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項6】
0重量%を超えて6重量%以下の成分(c)を含む、請求項1から5のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項7】
成分(c)がイソブタンであり、イソブタンが組成物の1重量%〜6重量%の量で存在する、請求項1から5のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項8】
成分(c)がイソブタンであり、イソブタンが組成物の2重量%〜6重量%の量で存在する、請求項1から5のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項9】
成分(c)がイソブタンであり、イソブタンが組成物の3重量%〜6重量%の量で存在する、請求項1から5のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項10】
成分(a)から成分(c)によって実質的に構成される、請求項1から9のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項11】
地球温暖化係数(GWP)が500以下である、請求項1から10のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項12】
ASHRAE規格34−2010で規定するところにより測定したASHRAEクラス2Lを有する請求項1から11のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項13】
潤滑剤との組み合わせによって提供される、請求項1から12のいずれかに記載の熱伝達組成物。
【請求項14】
潤滑剤がポリオールエステル(POE)又はポリビニルエーテル(PVE)である、請求項13に記載の熱伝達組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の組成物を含む冷却システム。
【請求項16】
自動車用空調システム、住宅用空調システム、商業用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、商業用冷蔵庫システム、商業用冷凍庫システム、チラー空調システム、チラー冷却システム、ヒートポンプシステム、及びこれらの2以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項15に記載の冷却システム。
【請求項17】
チラー空調システムである、請求項15に記載の冷却システム。
【請求項18】
商業用空調システムである、請求項15に記載の冷却システム。
【請求項19】
熱伝達システムに含まれる、R410Aである既存の冷媒を置換する方法であって、前記既存の冷媒の少なくとも一部を除去し、請求項1から14のいずれかに記載の組成物を前記システムに導入することを含む方法。
【請求項20】
熱伝達システムが、自動車用空調システム、住宅用空調システム、商業用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、商業用冷蔵庫システム、商業用冷凍庫システム、チラー空調システム、チラー冷却システム、及びヒートポンプシステムからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
熱伝達システムがチラー空調システムである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
熱伝達システムが商業用空調システムである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から14のいずれかに記載の組成物の、R410Aの代替物としての使用。
【請求項24】
自動車用空調システム、住宅用空調システム、商業用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、商業用冷蔵庫システム、商業用冷凍庫システム、チラー空調システム、チラー冷却システム、及びヒートポンプシステムからなる群から選択される熱伝達システムにおける、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
チラー空調システムである熱伝達システムにおける、請求項23に記載の使用。
【請求項26】
商業用空調システムである熱伝達システムにおける、請求項23に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に冷却用途において有用性を有する組成物、方法、及びシステム、並びに特定の形態においては、通常は冷媒のR−410A及び/又はR−32を用いる加熱及び冷却用途のためのシステムにおいて有用な冷媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロカーボンベースの流体は、空調、ヒートポンプ、及び冷却システムのようなシステムにおける作動流体などとして多くの商業用途及び工業用途における広範な使用、とりわけエアゾール噴射剤、発泡剤、及び気体状誘電体などとしての使用が見出されている。
【0003】
熱伝達流体は、商業的に実用可能であるためには、物理的、化学的、及び経済的な複数の特性の、幾つかの非常に特異で、幾つかの場合においては非常に厳しい組み合わせを満足しなければならない。更に、多くの異なるタイプの熱伝達システム及び熱伝達装置が存在し、多くの場合においては、かかるシステムにおいて用いる熱伝達流体は、個々のシステムの必要性に適合する複数の特性の特定の組み合わせを有することが重要である。例えば、蒸気圧縮サイクルに基づくシステムは、通常は、比較的低い圧力における熱吸収によって液体から蒸気相へ冷媒を相変化させ、蒸気を比較的上昇した圧力に圧縮し、この比較的上昇した圧力及び温度において熱を除去することによって蒸気を液相に凝縮させ、次に圧力を減少させてサイクルを繰り返し開始することを伴う。
【0004】
例えば、幾つかのフルオロカーボンは、多くの用途において長年の間、冷媒のような多くの熱交換流体における好ましい成分である。クロロフルオロメタン類及びクロロフルオロエタン類のようなフルオロアルカンは、熱容量、可燃性、運転条件下における安定性、及び(存在する場合には)システム内で用いられる潤滑剤との混和性のような複数の化学的及び物理的特性のそれらの独特の組み合わせのために、空調及びヒートポンプ用途などの用途において冷媒として広範な使用を獲得している。更に、蒸気圧縮システムにおいて通常用いられている冷媒の多くは、単一成分の流体か、又は非共沸性、共沸性の混合物のいずれかである。
【0005】
近年において、地球の大気及び気象に対する損傷の可能性に関する懸念が増加しており、幾つかの塩素ベースの化合物はこの点に関して特に問題があると確認されている。空調及び冷却システムにおいて冷媒として塩素含有組成物(例えば、クロロフルオロカーボン(CFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)など)を用いることは、かかる化合物の多くに関係するオゾン層破壊性のために嫌われるようになっている。而して、冷却及びヒートポンプ用途に関する代替物を与える新規なフルオロカーボン及びヒドロフルオロカーボン化合物に関する増加する必要性が存在する。例として、幾つかの形態においては、塩素含有冷媒を、ヒドロフルオロカーボン(HFC)のようなオゾン層を破壊しない非塩素含有冷媒化合物で置き換えることによって塩素含有冷却システムを改造することが望ましくなっている。
【0006】
多くの既存の冷媒を取り巻く他の懸念事項は、多くのかかる製品が地球温暖化を引き起こす傾向である。この特徴は、通常は地球温暖化係数(GWP)として測られる。化合物のGWPは、公知の参照分子、即ちGWP=1を有するCOに対する化学物質の温室効果への潜在的寄与の指標である。例えば、以下の公知の冷媒は次の地球温暖化係数を有する。
【0007】
【表1-1】
【0008】
上述の冷媒のそれぞれは多くの点で有効であると判明しているが、約1000より大きいGWPを有する材料を用いることはしばしば望ましくないので、これらの材料は次第にあまり好ましくなくなっている。したがって、これら及び望ましくないGWPを有する他の既存の冷媒に対する代替物に関する必要性が存在する。
【0009】
これら及び他の用途においてこれまで用いられていた組成物に対する魅力的な代替物である新規なフルオロカーボン及びヒドロフルオロカーボン化合物及び組成物に対する必要性が増加している。例えば、オゾン層を破壊せず、望ましくないレベルの地球温暖化を引き起こさず、同時に熱伝達材料として用いられる材料に関するかかるシステムの他の厳しい要求の全てを満足する冷媒組成物で既存の冷媒を置き換えることによって、塩素含有及び幾つかのHFC含有冷却システムなどの幾つかのシステムを改造することが望ましくなっている。
【0010】
性能特性に関しては、本出願人らは、潜在的な代替冷媒はまた、とりわけ優れた熱伝達特性、化学的安定性、低いか又はゼロの毒性、低いか又はゼロの可燃性、及び潤滑剤適合性のような最も広く用いられている流体の多くにおいて存在する特性も有していなければならないことを認識するに至った。
【0011】
使用効率に関しては、冷媒の熱力学的性能又はエネルギー効率の損失は、電気エネルギーに関する増加する需要から生じる増加する化石燃料の使用量によって二次的な環境影響を与える可能性があることを留意することは重要である。
【0012】
更に、冷媒代替物は、CFC含有冷媒のような既存の冷媒と共に現在用いられている通常の蒸気圧縮技術に対して大きな設計変更を行うことなく有効であることが望ましいと一般に考えられる。
【0013】
可燃性は、多くの用途に関する他の重要な特性である。即ち、特に熱伝達用途などの多くの用途においては、不燃性であるか又は比較的低い可燃性の組成物を用いることが重要又は必須であると考えられる。本明細書において用いる「不燃性」という用語は、2002年のASTM標準規格E−681(参照として本明細書中に包含する)にしたがって測定して不燃性であると求められる化合物又は組成物を指す。残念なことに、そうでなければ冷媒組成物中において用いるのに望ましい可能性がある多くのHFC及びHFOは可燃性である。例えば、フルオロアルカンのジフルオロエタン(HFC−152a)及びフルオロアルケンの1,1,1−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)はそれぞれ可燃性であり、したがって多くの用途において単独で用いることはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】ASTM標準規格E−681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
而して本出願人らは、上述の欠点の1以上を回避しながら、蒸気圧縮加熱/冷却システム及び方法などの数多くの用途において有用な可能性がある組成物、特に熱伝達組成物に対する必要性を認識するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0016】
幾つかの形態においては、本発明は、(a)約60重量%〜約70重量%のHFC−32;(b)約20重量%乃至約40重量%未満の、不飽和−CF末端プロペン類、不飽和−CF末端ブテン類、及びこれらの組み合わせから選択される化合物;及び(c)約0重量%より多く約10重量%までのn−ブタン、イソブタン、及びこれらの組み合わせ;を含み;但し、成分(c)の量は、組成物の勾配:加熱能力;冷却能力;加熱効率;冷却効率;及び/又は放出温度の1以上を、成分(c)を含まない組成物と比べて向上させるのに有効なものである多成分混合物を含むか又はこれを用いる組成物、方法、使用、及びシステムに関する。
【0017】
別の形態においては、本組成物は、(a)約63重量%〜約69重量%のHFC−32;(b)約25重量%乃至約37重量%未満の、不飽和−CF末端プロペン類、不飽和−CF末端ブテン類、及びこれらの組み合わせから選択される化合物;及び(c)約0重量%より多く約6重量%までのn−ブタン、イソブタン、及びこれらの組み合わせ;を含み;但しここでも、成分(c)の量は、組成物の勾配:加熱能力;冷却能力;加熱効率;冷却効率;及び/又は放出温度の1以上を、成分(c)を含まない組成物と比べて向上させるのに有効なものである。
【0018】
幾つかの好ましい態様においては、本発明の成分(b)は、HFO−1234zeを含むか、これから実質的に構成されるか、又はこれから構成される。HFO−1234zeという用語は、本発明においては、シス又はトランス形態であるかどうかに関係なく1,1,1,3−テトラフルオロプロペンを包括的に指すように用いる。「シス−HFO−1234ze」及び「トランス−HFO−1234ze」という用語は、本発明において、それぞれ1,1,1,3−テトラフルオロプロペンのシス及びトランス形態を示すように用いる。したがって、「HFO−1234ze」という用語は、シス−HFO−1234ze、トランス−HFO−1234ze、並びにこれらの全ての組み合わせ及び混合物をその範囲内に包含する。幾つかの好ましい形態においては、HFO−1234zeは、トランス−HFO−1234zeを含むか、これから実質的に構成されるか、又はこれから構成される。
【0019】
上記の更なる形態、及び成分(b)がHFO−1234zeを含む本発明の特定の態様においては、成分(a)、(b)、及び/又は(c)は、共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与えることができる。即ち幾つかの形態においては、ブタン又はイソブタンとHFO−1234zeは、共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与える。更なる形態においては、ブタン又はイソブタンとHFC−32は共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与え、更なる形態においては、ブタン又はイソブタン、HFC−32、及びHFO−1234zeは、共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与える。
【0020】
本発明はまた、熱を伝達するための方法及びシステム、既存の熱伝達システムにおいて既存の熱伝達流体を置き換えるための方法及びシステム、並びに1以上の既存の熱伝達流体を置き換えるための本発明による熱伝達流体を選択する方法などの、本発明の組成物を使用する方法及びシステムも提供する。幾つかの態様においては、本発明の組成物、方法、及びシステムを用いて任意の公知の熱伝達流体を置き換えることができるが、更なる態様、及び幾つかの場合には好ましい態様においては、本出願の組成物はR−410A及び/又はR−32に対する代替品として用いることができる。
【0021】
本発明にしたがって意図される冷却システムとしては、自動車用空調システム、住宅用空調システム、商業用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、商業用冷蔵庫システム、商業用冷凍庫システム、チラー空調システム、チラー冷却システム、ヒートポンプシステム、及びこれらの2以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの好ましい態様においては、冷却システムとしては、据置型冷却システム及びヒートポンプシステム、或いはR−410A及び/又はR−32を冷媒として用いる任意のシステムが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、冷媒蒸気相リークの進行に伴うR32/R1234ze/ブタンの組成に対する変化を示す。
図2図2は、冷媒蒸気相リークの進行に伴うR32/R1234ze/イソブタンの組成に対する変化を示す。
図3図3は、R32/R1234ze/ブタン(67/28/5)の燃焼速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
R−410Aは、空調システム、特に据置型空調ユニット及びヒートポンプシステムにおいて通常的に用いられている。これは、望ましいか又は必要な値よりも遙かに高い2088の概算地球温暖化係数(GWP)を有する。本出願人らは、本発明の組成物は、能力、効率、可燃性、及び毒性(しかしながらこれらに限定されない)のような他の重要な性能特性を同時に与えながら環境影響に関する向上した性能を有する、かかる用途のため、排他的ではないが特には空調及びヒートポンプシステムのための新規な組成物に対する必要性を非常に優れ且つ予期しなかった方法で満足することを見出した。好ましい態様においては、本組成物は、同時により低いGWP値を有し、かかるシステムにおいてR−410Aと加熱及び冷却能力において互角の、かかる用途において現在用いられている冷媒、特に及び好ましくはR−410Aに対する代替物及び/又は代用品を与える。
【0024】
熱伝達組成物:
本発明の組成物は、一般に熱伝達用途、即ち加熱及び/又は冷却媒体として用いるように適合させることができるが、上述したようにこれまでR−410A及び/又はR−32を用いていたAC及びヒートポンプシステムにおいて用いるのに特によく適している。本出願人らは、規定されている範囲内の本発明の成分を用いることは、特に好ましいシステム及び方法において本組成物によって示される重要であるが達成するのが困難な複数の特性の組合せを達成するために重要であることを見出した。
【0025】
幾つかの態様においては、HFC−32は、組成物の重量基準で約60重量%〜約70重量%の量で本発明の組成物中に存在する。幾つかの好ましい態様においては、HFC−32は、重量基準で約63重量%〜約69重量%の量で本発明の組成物中に存在する。
【0026】
更なる態様においては、不飽和CF末端プロペン類、不飽和CF末端ブテン類、及びこれらの組み合わせから選択される化合物はHFO−1234zeを含み、ここで好ましくは、かかる化合物は、約20重量%乃至約40重量%以下の量で組成物中に存在する。更なる態様においては、この成分は、約25重量%乃至約37重量%以下の量で与える。幾つかの態様においては、第2の成分は、HFO−1234zeから実質的に構成されるか又はこれから構成され、幾つかの好ましい態様においては、第2の成分は、トランス−HFO−1234zeを含むか、これから実質的に構成されるか、又はこれから構成される。
【0027】
幾つかの態様においては、本発明の組成物は、少なくとも、約0重量%より多く約10重量%までの量のn−ブタンを含む。更なる態様においては、n−ブタンは約0重量%より多く約6重量%までの量で与える。更なる態様においては、本発明の組成物は、約1重量%〜約8重量%のn−ブタン;約1重量%〜約6重量%のn−ブタン;約2重量%〜約8重量%のn−ブタン;約2重量%〜約6重量%のn−ブタン;約3重量%〜約8重量%のn−ブタン;約3重量%〜約6重量%のn−ブタン;約4重量%〜約8重量%のn−ブタン;約4重量%〜約6重量%のn−ブタン;又は約5重量%のn−ブタン;を含んでいてよい。
【0028】
更なる態様においては、本発明の組成物は、少なくとも、約0重量%より多く約10重量%までの量のイソブタンを含む。更なる態様においては、イソブタンは約0重量%より多く約6重量%までの量で与える。更なる態様においては、本発明の組成物は、約1重量%〜約6重量%のイソブタン;約2重量%〜約6重量%のイソブタン;約3重量%〜約6重量%のイソブタン;約4重量%〜約6重量%のイソブタン;又は約5重量%のイソブタン;を含んでいてよい。
【0029】
更なる形態においては、HFO−1234ze(特にトランス−HFO−1234ze)、HFC−32、及びブタン類(イソブタン又はn−ブタンのいずれかを包含する)の2以上の量は、それぞれ共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で組成物中に与える。本明細書において用いる「共沸混合物様」という用語は、その広い意味においては、厳密に共沸性である組成物、及び共沸性混合物のように挙動する組成物の両方を包含することを意図する。基本原理に基づくと、流体の熱力学的状態は、圧力、温度、液体の組成、及び蒸気の組成によって規定される。共沸性混合物は、液体の組成及び蒸気の組成が規定の圧力及び温度において同等である2以上の成分の系である。実施においては、これは、共沸性混合物の成分が一定の沸点を有し、相変化中に分離させることができないことを意味する。
【0030】
共沸混合物様の組成物は一定の沸点又は実質的に一定の沸点の組成物である。言い換えれば、共沸混合物様の組成物に関しては、沸騰又は蒸発中に形成される蒸気の組成は、元の液体の組成と同一であるか又は実質的に同一である。したがって、沸騰又は蒸発に伴って、液体の組成は、あったとしても最小又は無視できる程度までしか変化しない。これは、沸騰又は蒸発中に液体の組成が相当程度まで変化する非共沸混合物様の組成物とは対照的である。
【0031】
これから判断すると、共沸混合物様の組成物の他の特徴は、共沸混合物様か又は一定の沸点を有する、同じ成分を種々の割合で含む一定範囲の組成が存在することである。かかる組成は全て、「共沸混合物様」及び「一定の沸点」という用語によってカバーされると意図される。一例として、異なる圧力においては、与えられた共沸混合物の組成は少なくとも僅かに変動し、組成物の沸点についても同様であることが周知である。したがって、A及びBの共沸混合物は唯一のタイプの関係を示すが、温度及び/又は圧力によって変動しうる組成を有する。これから判断すると、共沸混合物様の組成物に関しては、同じ成分を種々の割合で含む共沸混合物様である一定範囲の組成が存在する。かかる組成は全て、本明細書において用いる共沸混合物様という用語によってカバーされると意図される。
【0032】
本明細書において共沸混合物様及び共沸性の組成物に関して用いる「有効量」という用語は、他の成分と組み合わせることによって本発明の共沸混合物様の組成物を形成するそれぞれの成分の量を指す。必ずしも共沸混合物様の組成物ではない組成物に関しては、「有効量」という用語は、特定の用途のための所望の特性を達成する量を意味する。
【0033】
本発明の幾つかの形態においては、本出願人らは、驚くべきことに且つ予期しなかったことに、1234/32ベースの組成物中にn−ブタン及び/又はイソブタンを含ませることによって、加熱又は冷却用途の一方又は両方において(特に極限運転条件において)得られる勾配が減少し;加熱能力及び効率が向上し;冷却能力及び効率が向上し;及び/又は放出温度が向上することを見出した。本明細書において用いる「勾配」とは、冷却システム内の冷媒による相変化プロセスの開始温度と終了温度との間の差を指す。勾配が増加すると、通常はシステムがより低い吸引圧において運転されるようになり、これによって性能の低下がもたらされる。しかしながら、ここで本出願人らは、HFO−1234及びHFC−32を含む組成物にn−ブタン及び/又はイソブタンを加えると、驚くべきことに且つ予期しなかったことに、組成物の勾配が減少し、したがってシステムの能力、効率、及び/又は放出温度が向上することを示す。理論によって縛られることは意図しないが、これらの特徴は、成分(a)〜(c)の量が、1以上の共沸混合物又は共沸混合物様の組成物、特に(排他的ではないが)次の共沸混合物又は共沸混合物様の組成物:HFC−32及びn−ブタン;HFC−32及びイソブタン;HFO−1234ze及びn−ブタン;並びにHFO−1234ze及びイソブタン;の1以上を形成するのに有効であるために与えられると考えられる。
【0034】
本発明の組成物はまた、低いGWPを有しているので有利である。非限定的な例として、2088のGWPを有するR−410AのGWPと比較した、それぞれの成分の重量分率に関してカッコ内に示す本発明の幾つかの組成物の実質的なGWPの優位性を下表Aに示す。
【0035】
【表1-2】
【0036】
本発明の組成物には、幾つかの機能性を向上させるか又はそれを組成物に与え、或いは幾つかの場合においては組成物のコストを減少させる目的で他の成分を含ませることができる。例えば、本発明による冷媒組成物、特に蒸気圧縮システムにおいて用いるものは、一般に組成物の約30〜約50重量%の量、幾つかの場合にはひょっとすると約50%より多い量、及び他の場合においては約5%程度の少ない量の潤滑剤を含む。
【0037】
ヒドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機械において用いられているポリオールエステル(POE)及びポリビニルエーテル(PVE)、PAGオイル、鉱油、アルキルベンゼン、ポリα−オレフィン(PAO)、及びシリコーンオイルのような通常用いられている冷却潤滑剤を、本発明の冷媒組成物と共に用いることができる。商業的に入手できるエステルとしては、Emery 2917(登録商標)及びHatcol 2370(登録商標)として入手できるネオペンチルグリコールジペラルゴネートが挙げられる。他の有用なエステルとしては、ホスフェートエステル、二塩基酸エステル、及びフルオロエステルが挙げられる。好ましい潤滑剤としては、POE及びPVEが挙げられる。勿論、異なるタイプの潤滑剤の異なる混合物を用いることができる。
【0038】
熱伝達方法及びシステム:
而して、本方法、システム、及び組成物は、一般に広範囲の熱伝達システム、特に空調(据付型及び可動型空調システムの両方を含む)、冷却、ヒートポンプシステムなどのような冷却システムに関して用いるように適合させることができる。一般的に言えば、本発明にしたがって意図されるかかる冷却システムとしては、自動車用空調システム、住宅用空調システム、商業用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、商業用冷蔵庫システム、商業用冷凍庫システム、チラー空調システム、チラー冷却システム、ヒートポンプシステム、及びこれらの2以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
幾つかの好ましい態様においては、本発明の組成物は、元々は例えばR−410AのようなHCFC冷媒及び/又はR−32と共に用いるように設計されている冷却システムにおいて用いる。かかる冷却システムとしては、据置型冷却システム及びヒートポンプシステム、或いは冷媒としてR−410A及び/又はR−32を用いる任意のシステムを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明の好ましい組成物は、R−410A及び/又はR−32の望ましい特性の多くを示すが、R−410A及び/又はR−32のものよりも実質的に低いGWPを有し、同時にR−410A及び/又はR−32と実質的に同等であるか又は実質的にこれに匹敵し、好ましくはこれと同じ程度に高いか又はより高い能力を有する傾向がある。特に、本出願人らは、本組成物の幾つかの好ましい態様は、好ましくは約1500未満、好ましくは1000以下、より好ましくは約700以下、より好ましくは約500以下の比較的低い地球温暖化係数(GWP)を示す傾向があることを認識した。本出願人らはまた、驚くべきことに且つ予期しなかったことに、かかる組成物は大きく減少した可燃性及び危険値を有することも認識した。
【0041】
幾つかの態様においては、本発明は、システムを実質的に修正することなく、既存のシステムにおけるニートの伝達流体(例えば冷媒)を本発明の組成物で置き換えることを含む改造方法を提供する。幾つかの好ましい態様においては、置換工程は、熱伝達流体として本発明の組成物を適合させるためにシステムの実質的な再設計を必要とせず、装置の主要な部品を取り替える必要がないという意味でドロップイン置換である。幾つかの好ましい態様においては、本方法は、システムの能力が置換前のシステム能力の少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約85%、更により好ましくは少なくとも約90%、更により好ましくは少なくとも約95%であり、好ましくは約130%以下、更により好ましくは約115%未満、更により好ましくは約110%未満、更により好ましくは約105%未満であるドロップイン置換を含む。幾つかの好ましい態様においては、本方法は、システムの吸引圧及び/又は放出圧、更により好ましくは両方が、置換前の吸引圧及び/又は放出圧の少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約90%、更により好ましくは少なくとも約95%であり、好ましくは約130%以下、更により好ましくは約115未満、更により好ましくは約110%未満、更により好ましくは約105%未満であるドロップイン置換を含む。幾つかの好ましい態様においては、本方法は、システムの質量流量が置換前の質量流量の少なくとも約80%、更により好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%であり、好ましくは約130%以下、更により好ましくは約115未満、更により好ましくは約110%未満、更により好ましくは約105%未満であるドロップイン置換を含む。
【0042】
幾つかの他の好ましい態様においては、本発明の冷却組成物は、ポリオールエステルオイルなどのような従来R−410A及び/又はR−32と共に用いられている潤滑剤を含む冷却システムにおいて用いることができ、或いは上記においてより詳細に議論した、ポリビニルエーテル(PVE)、PAGオイル、鉱油、アルキルベンゼン、ポリα−オレフィン(PAO)、及びシリコーンオイルなど(しかしながら、これらに限定されない)の伝統的にHFC冷媒と共に用いられている他の潤滑剤と共に用いることができる。本明細書において用いる「冷却システム」という用語は、一般に、冷媒を用いて加熱又は冷却を与える任意のシステム又は装置、或いはかかるシステム又は装置の任意の一部又は部分を指す。かかる空気冷却システムとしては、例えば、空調機、電気冷蔵庫、冷凍機、又は本発明において規定する任意のシステム、或いは当該技術において公知の他のものが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例は本発明を例示する目的で与えるが、その範囲を限定しない。
実施例1:R32/HFO−1234ze(E)/ブタンブレンドのヒートポンプ性能:
R410A用に設計されている代表的な空気対空気可逆ヒートポンプを試験した。このダクト内ユニットを、HoneywellのBuffaro, New Yorkの応用技術研究所において試験した。ダクト内ユニットは、スクロール圧縮機を装備した10.1kWの加熱能力及び8.5のHSPF(約2.5の定格加熱SPF)を有する3トン(10.5kWの冷却能力)の13SEER(3.8の冷却季節性能因子(SPF))であった。このシステムは、フィンチューブ式熱交換器、それぞれの運転モードのための逆転弁及び温度自動調節膨張弁を有していた。試験した異なる圧力及び冷媒の密度のために、試験の幾つかは、元の冷媒を用いて観察されたものと同程度の過熱を再現するために電子膨張弁(EEV)を用いることが必要であった。
【0044】
表1及び2に示す試験は、標準規格(AHRI、2008)の運転条件を用いて行った。全ての試験は、空気側及び冷媒側のパラメーターの両方を測定する機器を取り付けた環境室の内部で行った。コリオリ流量計を用いて冷媒流を測定し、一方、工業規格(ASHRAE、1992)にしたがって設計されている空気エンタルピートンネルを用いて空気流及び能力を測定した。全ての一次測定センサーは、温度に関して±0.25℃、圧力に関して±0.25psiに較正した。能力及び効率に関する実験誤差は平均で±5%であった。能力値は、基準流体(R−410A)を用いて注意深く較正した空気側の測定値を表す。開発ブレンドのHDR−90(R32/R1234ze/ブタン:27/68/5)を、このヒートポンプ内において、基準冷媒R−410Aと共に冷却及び加熱モードの両方で試験した。
【0045】
【表1-3】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表3、4、及び5において、(*)で印を付けた冷媒は、より大きい容積型圧縮器(11%)を用いた試験を表す。R32の量がより低いと勾配が増加し、これは特に低温条件で運転した際の加熱モード(H3)における性能に影響を与える。これは、H3条件において90%であったHDR−89の能力においてはっきりと見られる。
【0049】
ブタンを加えると、より低能力の成分を混合物中に加えているので能力はより低いと予測される。また、混合物中により低圧の成分を加えるので勾配が増加することも予測される。ところが、本発明者らは全ての運転条件において能力の増加(2%から5%)及び勾配の僅かな減少を観察した。
【0050】
ブタンを加えることの利益はまた、性能の不利益を起こさないで標準的な運転条件(A及びH1)において能力を全回復させた後にも示される。
【0051】
【表4】
【0052】
全ての冷媒は能力回復後に効率を維持した。
【0053】
【表5】
【0054】
AHRI−MOC条件は、全てのパラメーターが装置に関する設計限界を超えないことを実証するために極限周囲温度において装置を試験する。重要なパラメーターの1つは放出温度であり、これは現在の圧縮機技術を用いる場合には115℃より低くなければならない。表5は、より少ない量のR32を含む組成物(例えば68%±2%を有するHDR90)は、このパラメーターを許容範囲内に維持することを明確に示す。
【0055】
実施例2:R32/HFO−1234ze(E)/イソブタンブレンドのヒートポンプ性能:
A.冷却モード:
下記の表6において、冷却モードで運転する一例のヒートポンプシステムに関するデータを報告する。凝縮器温度は45.0℃に設定し、これは概して約35.0℃の屋外温度に対応する。膨張装置入口における過冷却度は5.55℃に設定した。蒸発温度は7.0℃に設定し、これは約20.0℃の室内周囲温度に対応する。蒸発温度出口における過熱度は5.55℃に設定した。圧縮器効率は70%に設定し、体積効率は100%に設定した。接続ライン(吸引及び液体ライン)内の圧力降下及び熱伝達は無視しうるものとみなし、圧縮器シェルを通る熱放散は無視した。本発明による上記に規定する組成物に関して幾つかの運転パラメーターを求め、これらの運転パラメーターを下記に報告する。これらは、1.00のCOP値及び1.00の能力値を有するR410Aを基準としている。
【0056】
【表6】
【0057】
示されるように、R32及びR1234zeの二元混合物にイソブタン(R600a)を加えると勾配が減少し、これにより能力が向上した。イソブタンは同様の条件下においてR1234zeよりも低い能力を有しているので、この結果は予期しなかったことである。イソブタンを加えるとまた、放出温度も低下した。
【0058】
理論によって縛られることは意図しないが、低いレベルのイソブタンをR32及びR1234zeに加えることによって観察されたこの勾配の減少、向上した能力及び放出温度は、少なくとも部分的にイソブタンとR1234zeとの間の共沸混合物又は共沸混合物様が形成されることによるものであると考えられる。
【0059】
B.加熱モード:
加熱で運転する同じシステムに関し、凝縮器温度を40.0℃に設定し、これは概して約21.1℃の室内温度に対応する。膨張装置入口における過冷却度は5.5℃に設定した。蒸発温度は2.0℃に設定し、これは約8.3℃の屋外周囲温度に対応する。蒸発器出口における過熱度は5.55℃に設定した。圧縮器の等エントロピー効率は70%に設定し、体積効率は100%に設定した。接続ライン(吸引及び液体ライン)内の圧力降下及び熱伝達は無視しうるものとみなし、圧縮器シェルを通る熱放散は無視した。本発明による上記に規定の組成物に関して幾つかの運転パラメーターを求め、これらの運転パラメーターを下記に報告する。これらは、1.00のCOP値及び1.00の能力値を有するR410Aを基準としている。
【0060】
【表7】
【0061】
表7に示すように、冷却モードの結果と同様に、R32及びR1234zeの二元混合物にイソブタン(R600a)を加えると勾配が増加し、これにより能力が向上し、放出温度が低下した。
【0062】
ここでも理論によって縛られることは意図しないが、低いレベルのイソブタンをR32及びR1234zeに加えることによって観察されたこの勾配の減少、並びに向上した能力及び放出温度は、イソブタンとR1234zeとの間の共沸混合物又は共沸混合物様が形成されることによるものであると考えられる。
【0063】
C.極限運転条件:
極限周囲温度において運転する同じシステムに関して、凝縮器温度を57.0℃に設定し、これは概して約46.0℃の屋外周囲温度に対応する。膨張装置入口における過冷却度は5.5℃に設定した。蒸発温度は7.0℃に設定し、これは約20.0℃の室内温度に対応する。蒸発器出口における過熱度は5.55℃に設定した。圧縮器の等エントロピー効率は70%に設定し、体積効率は100%に設定した。接続ライン(吸引及び液体ライン)内の圧力降下及び熱伝達は無視しうるものとみなし、圧縮器シェルを通る熱放散は無視した。これらの条件における重要なパラメーターの1つは放出温度であり、これは現在の圧縮器技術を用いる場合には115℃より低くなければならない。
【0064】
【表8】
【0065】
表8における結果は、イソブタンを含むブレンドがこのパラメーターを許容しうる範囲の内側に維持することを明確に示す。
実施例3:据付型冷却(商業用冷却)における性能−中温用途:
幾つかの好ましい組成物の性能を、中温冷却に特有の条件において、他の冷媒組成物に対して評価した。この用途は新鮮な食品の冷却をカバーする。組成物を評価した条件を表9に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
表10は、通常の中温用途において、対象の組成物を基準冷媒のR−410A(R−32とR−125の50/50疑似共沸性ブレンド)と比較している。
【0068】
【表10】
【0069】
示されるように、本組成物は基準冷媒のR−410Aの効率を超え、能力の10%以内であった。更に、圧縮機の押しのけ量における適度な12%の増加と共に、同等の能力に達した。
【0070】
実施例4:据置型冷却(商業用冷却)における性能−低温用途:
幾つかの好ましい組成物の性能を、低温冷却に特有の条件において他の冷媒組成物に対して評価した。この用途は、冷凍食品の冷却をカバーする。組成物を評価した条件を表11に示す。
【0071】
【表11】
【0072】
表12は、通常の中温用途において、対象の組成物を基準冷媒のR−410A(R−32とR−125の50/50疑似共沸性ブレンド)と比較している。
【0073】
【表12】
【0074】
示されるように、本組成物はここでも基準冷媒のR−410Aの効率を超え、能力の11%以内であった。更に、圧縮機の押しのけ量における適度な12%の増加と共に、低温条件において同等の能力に達した。
【0075】
実施例5:通常の圧縮機潤滑剤との混和性:
対象の組成物の1つであるHDR−90(68%のR−32/27%のR−1234ze(E)/5%のn−ブタン)を実験で評価して、40℃において22cStの粘度を有する「Ultra 22」POE潤滑剤という名称のEmersonのCopelandディビジョンによって供給されている潤滑剤とのその混和性を求めた。これは、冷媒が少量である場合を除いて(オイル中<5%の冷媒は12℃〜62℃の間)、試験したこの範囲(−40℃〜70℃)にわたって非混和性であった純粋なR−32を凌ぐ著しい向上を示した。73%のR−32/27%の1234ze(E)のブレンドは−5℃〜65℃の間で混和性であったが、HDR−90は全ての濃度に関して、下は−26℃まで及び上は76℃までにおいて混和性を示し、オイル中5%の冷媒に関しては、下は−40℃まで混和性を示した。この低温における向上した混和性は、ヒートポンプ及び冷却用途のために特に重要である。
【0076】
実施例6:冷媒漏出物からの分別(組成変化):
冷媒ブレンドの安全性を認めるためには、不燃性であるか、又はASHRAEクラス2L(19,000kJ/kg未満の燃焼熱、及び10cm/秒未満の燃焼速度)を維持することが望ましい。ブタン又はイソブタンを加えても、材料は、材料をより可燃性の分類クラス(ブタン及びイソブタンは、いずれもクラス3の可燃材料(19,000kJ/kgより大きい燃焼熱)である)に変化させる組成物で液相又は蒸気相のいずれかが富化されないことは驚くべきことである。
【0077】
【表13】
【0078】
図1及び図2は、R32/R1234ze/ブタン又はR32/R1234ze/イソブタンのブレンドによる蒸気相のリークが進行するのにつれて、炭化水素の濃度は同等に維持され、一方、R32は減少し、R1234zeの濃度は富化されたことを示す。リークが進行するのにつれて、液相のブタン又はイソブタン濃度は増加せず、またR1234zeは室温において炎焼限界を示さないのでこれにより可燃性も操作され、最悪の場合の可燃性は当初のブレンド組成物として規定することができるので、これは重要且つ予期しなかったことである。
【0079】
ASHRAE−2Lの規定冷媒であり、穏やかな可燃性を有すると特徴付けられるためには、燃焼速度は10cm/秒より低く維持されなければならない。ブタン及びイソブタンはR32及びR1234zeの両方よりも非常に高い沸点を有しているが、蒸気相のリークが進行するのにつれて液相は富化されず、これは通常の流体混合に基づいては予測されない。燃焼速度を測定したところ、最悪の場合の分別された組成物に関して図3に示すように8.8cm/秒であった。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
(a)約60重量%〜約70重量%のHFC−32;
(b)約20重量%乃至約40重量%未満の、不飽和CF末端プロペン類、不飽和CF末端ブテン類、及びこれらの組み合わせから選択される化合物;並びに;
(c)約0重量%より多く約10重量%までの、n−ブタン、イソブタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物;
を含み;
但し、成分(c)の量は、組成物の勾配;加熱能力;冷却能力;加熱効率;冷却効率;及び/又は放出温度の1以上を、成分(c)を含まない組成物と比べて向上させるのに有効なものである熱伝達組成物。
[2]
成分(b)がHFO−1234zeを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[3]
成分(b)がHFO−1234zeから実質的に構成される、[2]に記載の熱伝達組成物。
[4]
成分(b)がHFO−1234zeから構成される、[2]に記載の熱伝達組成物。
[5]
HFO−1234zeと成分(c)が、共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与えられている、[2]に記載の熱伝達組成物。
[6]
HFC−32と成分(c)が、共沸混合物又は共沸混合物様の組成物を形成するのに有効な量で与えられている、[2]に記載の熱伝達組成物。
[7]
(a)が約63重量%〜約69重量%の量で与えられており;成分(b)が約25重量%乃至約37重量%未満の量で与えられており;成分(c)が約0重量%より多く約6重量%までの量で与えられている、[1]に記載の熱伝達組成物。
[8]
成分(c)が約1重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[9]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[10]
成分(c)が約2重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[11]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[12]
成分(c)が約3重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[13]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[14]
成分(c)が約4重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[15]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[16]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[17]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[18]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[19]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[1]に記載の熱伝達組成物。
[20]
(a)約60重量%〜約70重量%のHFC−32;
(b)約20重量%乃至約40重量%未満のHFO−1234ze;及び
(c)約0重量%より多く約10重量%までの、n−ブタン、イソブタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物;
を含み;
但し、成分(c)の量は、組成物の勾配;加熱能力;冷却能力;加熱効率;冷却効率;及び/又は放出温度の1以上を、成分(c)を含まない組成物と比べて向上させるのに有効なものである熱伝達組成物。
[21]
(a)が約63重量%〜約69重量%の量で与えられており;成分(b)が約25重量%乃至約37重量%未満の量で与えられており;成分(c)が約0重量%より多く約6重量%までの量で与えられている、[20]に記載の熱伝達組成物。
[22]
成分(c)が約1重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[23]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[24]
成分(c)が約2重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[25]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[26]
成分(c)が約3重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[27]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[28]
成分(c)が約4重量%〜約8重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[29]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のn−ブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[30]
成分(c)が約1重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[31]
成分(c)が約2重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[32]
成分(c)が約3重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[33]
成分(c)が約4重量%〜約6重量%のイソブタンを含む、[20]に記載の熱伝達組成物。
[34]
[1]〜[33]のいずれかに記載の組成物において相変化を引き起こし、相変化中において熱を流体又は物体と交換することを含む、流体又は物体へ又はそれから熱を伝達する方法。
[35]
自動車用空調システム、住宅用空調システム、商業用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、商業用冷蔵庫システム、商業用冷凍庫システム、チラー空調システム、チラー冷却システム、ヒートポンプシステム、及びこれらの2以上の組み合わせからなる群から選択される、[1]〜[33]のいずれかに記載の組成物を含む冷却システム。
図1
図2
図3