(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062150
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】骨欠損部充填材料
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20170106BHJP
A61B 17/58 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
A61F2/28
A61B17/58
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-29380(P2012-29380)
(22)【出願日】2012年2月14日
(65)【公開番号】特開2013-165761(P2013-165761A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飴谷 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】吉野 和卓
(72)【発明者】
【氏名】島 孝樹
(72)【発明者】
【氏名】野一色 泰晴
【審査官】
川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−022387(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0070043(US,A1)
【文献】
特開2010−046283(JP,A)
【文献】
特開2012−095815(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/092417(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/050891(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第00950389(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
A61B 17/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端と他端とを有する可撓性の筒部と、前記筒部の前記一端および前記他端の各々に設けられた開口部と、前記筒部に囲まれる中空部と、を有し、一端側の開口部と他端側の開口部とが前記中空部により繋がる筒状形状を有し、
長管骨の2つの破断部間に形成された骨欠損部に、前記一端と前記他端とが前記破断部の各々に対して前記骨欠損部から前記長管骨が延在する方向に押圧力を与える骨欠損部充填材料であって、
前記筒部の外径は、前記長管骨の外径と略同一であり、
前記筒部の前記一端は、前記長管骨の一つの破断部に接続され、
前記筒部の前記他端は、前記長管骨の他の一つの破断部に接続され、
前記骨欠損部に所定の長さとして渡されることで、前記破断部に前記押圧力を持続的に与え、
前記筒部が、組織修復材料が前記筒部の外部から前記中空部へ侵入可能な連通部を有し、
前記一端と前記他端との少なくとも一方から受けた応力を、前記筒部が撓むことで前記骨欠損部への応力集中を緩和する、骨欠損部充填材料。
【請求項2】
前記筒部が、螺旋状に形成される請求項1に記載の骨欠損部充填材料。
【請求項3】
骨形成因子およびグロスファクターを含む因子、骨親和性物質、結合組織親和性物質、及び生体細胞からなる群より選ばれたいずれか1種以上が被覆、及び/又は、含有される請求項1または請求項2に記載の骨欠損部充填材料。
【請求項4】
前記骨欠損部充填材料を前記破断部に固定するための、棒、ネジ、プレート及びワイヤーからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の固定材を備える請求項1〜請求項3のいずれかに記載の骨欠損部充填材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨欠損部を補強して骨修復を促進するための骨欠損部充填材料に関する。
【背景技術】
【0002】
骨欠損部充填材料について、以下の技術が知られている。特許文献1には、中実の支柱ロッドを骨欠損部充填材料として用いて、その上下にコイルからなる導入層を設け、残存している長管骨の両端部に繋ぎ合わせることが記載されている(段落番号[0039]〜[0041]および
図6)。その支柱ロッドは、素材として、チタン等の金属、アルミナ等のセラミックス、ポリプロピレン等の合成樹脂などを用いることが記載(段落番号[0040])されているため、骨と比べて高い剛性を有するものである。また、これらが、生体骨の破断部に押圧力を与えることは記載されていない。
【0003】
特許文献2には、人工椎間板や骨欠損部再建用の骨充填材などの中実のインプラント材料を骨欠損部充填材料として用いて、コイルばねによって本インプラント材料を骨欠損部等に固定することが記載されている(段落番号[0004]、
図4および5)。この骨充填材は、素材として、生体内分解吸収性ポリマーの複合多孔体、ハイドロキシアパタイトやトリカルシウムホスフェート等の非多孔質又は多孔質のバイオセラミックス焼結体、チタンやタンタル等の金属多孔体等を用いることが記載(段落番号[0037])されているため、骨と比べて高い剛性を有するものである。また、これらが、生体骨の破断部に押圧力を与えることは記載されていない。
【0004】
特許文献3および非特許文献1には、鉄鋼とアルミニウムの組み合わせで製造され、骨と似た弾性を持つ金属発泡材による模擬骨(生体適合性インプラント)が記載され、具体的には骨と同程度の縦弾性係数を有する中実の骨欠損部充填材料が記載されている。また、これらが、生体骨の破断部に押圧力を与えることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−15959号公報
【特許文献2】特開2010−22387号公報
【特許文献3】WO2006/083375号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ラブスペース(LabSpace)のプレスリリース(2010年2月16日):"New material mimics bone to create better biomedical implants" http://www.labspaces.net/102021/New_material_mimics_bone_to_create_better_biomedical_implants
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載の骨欠損部充填材料は骨よりも剛性が高く、また特許文献3および非特許文献1に記載の骨欠損充填材料は骨と同程度の縦弾性係数を有する骨欠損部充填材料が記載されているが、これらが、生体骨の破断部に押圧力を与えることは記載されていない。
【0008】
さらに、特許文献1〜3および非特許文献1に記載の骨欠損部充填材料は、中実であったため、骨欠損部充填材料の内側に骨断面構造を再現することができず、それに伴って早期の組織修復を促進することができなかった。
本発明は、前記課題を解決した骨欠損部充填材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生体骨の破断部に押圧力を与える骨欠損部充填材料を用いることで、痛み、違和感が遥かに改善され、また短期間で骨修復が完結されて、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、生体骨の破断部間に形成された骨欠損部に充填され、前記破断部に対して欠損部から生体骨が延在する方向に押圧力を与えることを特徴とする骨欠損部充填材料である。さらに、本骨欠損部充填材料としては、前記骨欠損部に所定の長さとして渡され、且つ前記破断部に前記押圧力を持続的に与えるものが好ましい。
【0010】
本骨欠損部充填材料の形状としては、蛇腹状、螺旋状、網状、または多孔質状に形成されたものが挙げられる。本発明の骨欠損部充填材料として、中空のものを使用した場合、その当該中空部分で骨髄や血管が進入して成育し、健全な組織の修復が速やかに図られる。
【0011】
本発明の骨欠損部充填材料は、骨形成因子およびグロスファクターを含む因子、骨親和性物質、結合組織親和性物質、並びに生体細胞のうち少なくとも1種以上を含有していてもよい。また、これらは、骨欠損部充填材料の表面に被覆されていてもよい。なお、被覆は常法に従って実施することができる。増殖因子、骨親和性物質、結合組織親和性物質および生体細胞等によって、本骨欠損部充填材料の表面近傍で、骨組織、結合組織および骨膜の成育が促され、組織修復をより短期間に完結させることができる。適用することができる増殖因子としては、例えば骨形成因子(BMP)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、インスリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、肝細胞増殖因子(HGF)等が挙げられる。
【0012】
骨親和性物質および結合組織親和性物質としては、ヒドロキシアパタイト、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)、オステオネクチン、オステオカルシン、骨シアロ・タンパク質(BSP)、細胞外マトリックス、コラーゲン、デコリン、ビグリカン、コンドロアドヘリン、オステオアドヘリン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸等が挙げられる。これらの骨親和性物質および結合組織親和性物質は、骨親和性物質または結合組織親和性物質についての機能を有していればよく、両方の機能を有していてもよい。また、生体細胞としては、例えば骨形成細胞等が挙げられる。すなわち、本発明の骨欠損部充填材料は、さらに骨形成細胞を付着させることもできる。例えば、骨髄液を本骨欠損部充填材料の表面に塗布することで、付着させることができる。あるいは骨髄液から単離した間葉系幹細胞を生体外で培養して、本骨欠損部充填材料の表面に播種・培養することで、分化した骨芽細胞を付着した本骨欠損部充填材料を調整することができる。
【0013】
前記骨欠損部充填材料を前記破断部に固定するための、棒、ネジ、プレート及びワイヤーからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の固定材を備えてもよい。例えば、棒は、長管骨の中央部が欠損している場合に、長管骨の両端の海綿質に当該棒を挿入することで骨欠損部充填材料を長管骨の両端部と締結することができる。これら固定具の素材としては、前記の骨欠損部充填材料に用いられる素材等が好適に使用しうる。また、充填材と固定材とが一体でも別体でも良く、前記骨欠損部充填材料が線状部材により構成されてもよい。
【0014】
本発明の骨欠損部充填材料に用いる素材としては、例えばチタン、ステンレス、超弾性合金、形状記憶合金および生分解性ポリマー等を用いることができる。これらの素材は従来公知であるものあるいは市販されているものを用いることができる。例えば生体内分解吸収性ポリマーとしては、生体に対して安全なポリ−L−乳酸、ポリ−D,L−乳酸、L−乳酸とD,L−乳酸の共重合体、乳酸とグリコール酸の共重合体、乳酸とp−ジオキサノンの共重合体、乳酸とエチレングリコールの共重合体、乳酸とカプロラクトンの共重合体またはこれらの混合物等を用いることができる。好ましい素材は、生体親和性があり、その表面に沿って骨細胞が成長して骨組織、結合組織および骨膜が成育しうるものである。より好ましくは、チタンが挙げられる。
【0015】
長管骨の骨欠損部の場合、骨欠損部充填材料は、さらに可撓性を合わせ持つものが好ましい。ここで、可撓性とは、骨に作用しうる垂直応力(圧縮応力、引張り応力等)、曲げ応力、ねじれ応力等のうち、曲げ応力に対するものを指しており、弾性限界以下の横からの曲げ応力を受けた際に撓んで、その応力が消滅した際、元の形状を取り戻す性質を言い、可撓性の度合いはその撓みの程度で測定される。なお、従来の骨欠損部充填材料では、曲げ応力についてはあまり考慮されていなかった。この可撓性によって、骨欠損部充填材料と骨との接合部分に剥離する力等を減らすことができ、それによって痛み、違和感を抑えて、短期間に骨修復を達成することができる。本発明の適用部位における骨に対して5〜25%の可撓性を有する骨欠損部充填材料が好ましい。本発明の骨欠損部充填材料の可撓性は、用いる素材とその構造とをその組合わせに応じてそれぞれ調整することで目的の範囲のものを得ることができる。本発明の骨欠損部充填材料の構造としては、例えば螺旋状とすることができる。螺旋状の構造を用いる場合は、例えば、ばね指数(平均コイル径D/線径d)およびピッチ角を調整することで目的の可撓性を得ることができる。各々用いる素材自体の特性に応じて適宜調整が必要であるが、ばね指数(平均コイル径D/線径d)としては通常4〜30の範囲、好ましくは8〜14の範囲から選択することができ、ピッチ角としては10°以下が好ましい。螺旋状の骨欠損部充填材料を用いる場合は、医療の場において、医師が骨欠損部の長さに合わせて骨欠損部充填材料のコイルを切断して使用することができる。
【0016】
本発明の骨欠損部充填材料は、ヒトおよび動物の骨の欠損部に対して適用することができる。具体的には、骨欠損部とほぼ同様の外形を有する骨欠損部充填材料を準備し、それを当該骨欠損部にあてがい、固定する。その後、レントゲン撮影等の測定を定期的に行うことで骨修復の経過を観察して、骨損傷の完治を確認する。本骨欠損部充填材料は、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ゾウ、トラ等の哺乳動物の他、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等の骨欠損に対して適用することができる。また、これら動物における、大腿骨、上腕骨、尺骨、鎖骨、肋骨等の長管骨、および肩甲骨、頭蓋骨、骨盤骨、胸骨等のその他の骨の骨欠損に対して、本骨欠損部充填材料を適用することができる。骨欠損の形態として、骨の中間部が完全に欠損して2つの部分に分かれた状態、骨全体の形状を保ったまた骨の一部が欠損している状態等のいかなる形態であっても本骨欠損部充填材料を適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、痛み、違和感を低減し、また短期間の骨修復を促進する骨欠損部充填材料が提供される。さらに、充填材料内で骨断面構造を再現することが可能な骨欠損部充填材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】棒状の固定材を用いて螺旋状の骨欠損部充填材料を適用部位の骨に締結した状態を示す模式図である。
【
図2】ビーグル犬を用いた実験を示す写真である。写真Aは、ビーグル犬の胸部を切開して肋骨を露出させた状態を示す。写真Bは、肋骨3本に約30mmの欠損部を調整した状態(ただし、写真では胸部の収縮に伴って欠損部が約20mmになっている)を示す。
【
図3】ビーグル犬を用いた実験を示す写真である。写真Cは、棒状の固定材を用いて骨欠損部に螺旋状の骨欠損部充填材料を締結した状態を示す。写真Dは、写真Cの処置から41日後の状態を示す。
【
図4】
図3の写真Cの処置から115日後の骨欠損部の写真である。写真Eは、コイル近傍の拡大写真である。写真Fは骨欠損部の全様を示す。
【
図6】(a)は蛇腹状の骨欠損部充填材料の模式的な斜視図であり、(b)は(a)の骨欠損部充填材料の正面図である。
【
図7】一部が欠損して生じた凹部に骨欠損部充填材料を装着している状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等に基づき、本発明をさらに説明する。
本発明の骨欠損部充填材料1について、長管骨4の中間部が完全に欠損して2つの部分に分かれている場合で、螺旋状の骨欠損部充填材料1を用いて、骨欠損を修復する例を、
図1に示す。本例では、棒状の固定材2を用いて、当該螺旋状の骨欠損部充填材料1を適用部位の骨に締結する。前記の通り、骨欠損部5とほぼ同程度の外径を有する螺旋状の骨欠損部充填材料1において、その素材、ばね指数およびピッチ角を設定することで、欠損した骨の可撓性より5〜25%高い可撓性を有するように調整する。その螺旋状の骨欠損部充填材料1を固定するために、棒状の固定材2を長管骨4の両端の海綿質部分に挿入して、当該螺旋状の骨欠損部充填材料を骨欠損部5にあてがう。ここで、
図1に示すように、螺旋状の骨欠損部充填材料1が嵌まり込むように、長管骨4の両端の端の外縁部分を削ることも好ましい。
【0020】
図1に示すチタンコイルの骨欠損部充填材料を用いて、ビーグル犬の肋骨の骨欠損を修復を促進する実験の概要を、
図2〜4に示す。
図2の写真Aでは、ビーグル犬の胸部を切開して肋骨を露出させている。写真Bでは、その露出した肋骨B3本に約30mmの欠損部5’を調整しているが、写真では胸部の収縮に伴って欠損部5’が約20mmになっている。続いて、
図3の写真Cでは、骨欠損部に
図1に示すチタンコイル6の骨欠損部充填材料およびチタン合金製の棒状固定材を用いて肋骨の両端と当該チタンコイル6を締結している。写真Dでは、その処置から41日後の状態を示しているが、チタンコイル6の近傍で炎症が発生しておらず、チタンコイル6が組織に覆われていることが分かる。
【0021】
図4の写真EおよびFは、前記処置から115日後の骨欠損部の写真である。写真Eは、コイル近傍の拡大写真であるが、白色の部分は結合組織であり、濃い色の部分は骨組織である。結合組織がチタンコイル6の周りを覆っており、クッションの役割をしており、骨組織もしっかりと成長していることが分かる。写真Fはチタンコイル6の全様を示している。チタンコイル6の外側の結合組織の上部に骨組織が広がり、その外側(白色部分)には骨膜が広がっている。また、チタンコイル6の内側には、非常に多くの血管が入り込み、組織形成が活発になっていることが分かる。さらに、本実験から、チタンコイル6を用いることで、無理な力が加わっても、コイルが柔軟に曲がることで応力集中をさけることができ、骨欠損端部への応力集中が緩和されていることが確認された。
【0022】
本発明の骨欠損部充填材料の他の形態として、例えば
図5〜7に示すものを挙げることができる。
【0023】
図5は、メリヤス編みで作成された網目状の骨欠損部充填材料1の模式図である。骨欠損部充填材料1である編み状体としては、メリヤス編みで2つの線が接触している部分が固定された編み状体7であることが好ましい。この網目状の骨欠損部充填材料は、上記の螺旋状の骨欠損部充填材料と同様に、生体骨の破断部に対して欠損部から生体骨が延在する方向に押圧力を与えることができる。
【0024】
図6は、蛇腹状の骨欠損部充填材料の模式図である。骨欠損部充填材料として、
図8(a)に示す蛇腹状体8を用いることができる。蛇腹状体8は、
図8(a)に示すように筒状であり、縦線と横線との網状に形成されている。このような網状の蛇腹状体として、例えば、
図8(b)に示すように、ジグザグ状の縦線81の谷部811と山部812との頂点にそれぞれ、リング状の横線82が接続されることで、縦線同士が横線に固定されることで、蛇腹状の網状を形成することができる。縦線81と横線82との接続は特に限定されるものではなく、谷部811において横線82が筒状外側となるように配置され、山部812において横線82が内側となるように縦線81と横線82とを配置して、縦線の端部同士が所定の間隔となるように固定することで、網状体を形成することができる。このような骨欠損部充填材料として用いることができる蛇腹状体は、このような網状体に限定されるものではなく、蛇腹状であって押圧力を発揮できるものであれば特に限定されるものではない。押圧力を生じることのできるような蛇腹状体であれば、上記の螺旋状の骨欠損部充填材料と同様に、生体骨の破断部に対して欠損部から生体骨が延在する方向に押圧力を与えることができる。
【0025】
図7は、骨の一部が欠損して生じた凹部9に、螺旋状の骨欠損部充填材料1を装着しているところを示している。凹部9としては、例えば、事故等によって生じたものが挙げられるが、その他、自己骨移植を実施するために、頤、腸骨(腰骨)等から採取した際に生じるもの等が挙げられる。このような凹部の骨欠損に対して、骨欠損部充填材料によって、生体骨の破断部に対して欠損部から生体骨が延在する方向に押圧力を与えることができる。これによって、速やかな骨修復が促進される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
[骨欠損部充填材料]
素材:純チタン(品名TW340,神戸製鋼所製)
平均コイル径D:5.8mm
線径d:0.7mm
ピッチ角:7.8°
[固定材]
素材:チタン合金(Ti−6Al−4V,神戸製鋼所製)
外径:1.0mm
[実験動物]
ビーグル犬:雌、1.5〜2.5才、6匹(体重10〜12kg)
【0027】
[実験手順]
上記ビーグル犬6頭、を使用し、全身麻酔下に清潔操作で右の第5,6,7肋骨を露出させ、骨膜を剥離し、それぞれの肋骨の一部を2.5cmにわたり切除した。次に、それぞれの肋骨の切断端において、切断端の肋骨内にチタン棒を約5mm挿入し、人工肋骨となるべきチタンコイルの固定用チタン棒が収まるかどうかを確認した後に、チタンコイルの内側にチタン棒を挿入し、その一端を一つの肋骨の切断端の肋骨内に挿入し、ついでチタン棒他端を切断した他方の肋骨切断端に挿入して、チタン棒で切断した肋骨をつなぐような形にして、切断部にチタンコイルが固定される状態とした。このようにした後に、チタンコイル内に骨髄液、β−TCP、骨細切片、などを注入した。最後に抗生物質をふりかけ、筋肉層で創部を覆い、皮膚縫合を行って手術を終えた。
【0028】
手術後、チタンコイルは付着した周囲組織と肋骨とともに、41、115、148、151日目に採取した。採取した試料はホルマリン固定後、軟性X線撮影を行った後に、樹脂包埋し、厚み30ミクロンの切片を作成し、骨特殊染色を行い、光学顕微鏡で観察した。
[経過観察]
術後の観察では顕著な苦痛の表情が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によって、痛み、違和感を低減し、また短期間の骨修復を促進する骨欠損部充填材料が提供される。さらに、充填材料内で骨断面構造を再現することができる骨欠損部充填材料が提供される。
【符号の説明】
【0030】
1 チタンコイルの骨欠損部充填材料
2 固定用チタン棒(固定材)
3 骨
4 長管骨
5 骨欠損部
B 肋骨
5’ 欠損部
6 チタンコイル
7 編み状体
8 蛇腹状体
81 縦線
811 谷部
812 山部
82 横線
9 凹部