特許第6062214号(P6062214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062214
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】路車間通信システムおよび送受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/116 20130101AFI20170106BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20170106BHJP
   G08G 1/095 20060101ALI20170106BHJP
   B60R 1/00 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H04B10/116
   G08G1/09 F
   G08G1/095 E
   B60R1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-244073(P2012-244073)
(22)【出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2014-93700(P2014-93700A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修
(72)【発明者】
【氏名】多々良 直樹
【審査官】 前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−151448(JP,A)
【文献】 特開2007−264905(JP,A)
【文献】 特開2010−032267(JP,A)
【文献】 特開2011−004131(JP,A)
【文献】 特開2009−088704(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/036829(WO,A1)
【文献】 特開2003−179556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/116
B60R 1/00
G08G 1/09
G08G 1/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路に設置された発光体から情報を送信し、当該道路を走行する車両において当該情報を受信する路車間通信システムであって、前記発光体を発光させる発光制御手段を備え、前記発光体は複数個の発光素子を配列した構成であり、前記発光制御手段は、前記発光素子のうち所定の輝度パターン形状を構成するために特定した特定発光素子を前記情報で変調された光信号として発光し、前記車両は前記発光体を撮像した画像から得られる前記特定発光素子の輝度パターンを前記所定のパターンと比較し、両者のパターン形状が一致したときに前記特定発光体を対象発光体として認識し、かつ当該輝度パターンから得られる前記光信号を復調して前記情報を取得する受信手段を備えることを特徴とする路車間通信システム。
【請求項2】
前記受信手段は前記撮像した画像から複数の発光体からの輝度パターンが得られたときに、これら複数のパターンを相互に比較して対象とする発光体を認識することを特徴とする請求項1に記載の路車間通信システム。
【請求項3】
前記発光体は道路に設置された信号機の信号灯であることを特徴とする請求項1又は2に記載の路車間通信システム。
【請求項4】
前記発光制御手段は、光信号に基づいて前記特定発光素子を点滅するときの点滅周波数は、前記信号灯を点灯する周波数よりも高い周波数であることを特徴とする請求項に記載の路車間通信システム。
【請求項5】
道路に設置された送信装置から情報を送信し、当該道路を走行する車両に設けられた受信装置において当該情報を受信する路車間通信システムに用いられる送受信装置であって、前記送信装置は、道路に臨んで設置された複数の発光素子からなる発光体と、当該発光体の発光を制御する発光制御手段とを備え、前記発光制御手段は前記発光素子のうち所定の輝度パターンを構成するための特定発光素子を特定し、当該特定発光素子を前記情報で変調された光信号として発光する構成であり、前記受信装置は、前記発光体を撮像する撮像手段と、撮像した画像の前記特定発光素子の輝度パターンから前記送信装置を認識する手段と、当該特定発光素子の輝度パターンの輝度変化に基づいて前記情報を復調する復調手段とを備えることを特徴とする送受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は道路に設置されている信号機等の発光体と自動車等の車両との間で通信を行う路車間通信システムに関し、特に車両が発光体を認識するための認識技術を改善した路車間通信システムと、その送受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車では、道路に設置されている信号機に設置された送信機と、自動車に設置した受信機との間で通信を行い、信号機から送信される各種情報に基づいて自動車の安全性や快適性を向上させることを目的とした路車間通信システムが提案されている。例えば、特許文献1では自車の走行先に存在する信号機から送信される信号制御タイミング情報を受信して自車のエンジン制御を行う技術が提案されている。また、特許文献2では自車の走行先に存在する信号機の信号表示情報を検出し、この信号表示情報に基づいて運転者に対して自車の好適な走行を行うための情報表示を行う技術が提案されている。これら特許文献1,2の技術は、自車が最初に遭遇する信号機を対象とし、当該信号機と自動車とが無線通信方式で情報を送受しているので、自動車においては特に対象とする信号機を認識するための作業が必要とされることはない。
【0003】
一方、特許文献3の技術は、自車の走行先を撮像部で撮像し、得られた画像から通信用光源を検出し、当該通信用光源から送信される光信号を受信する技術が提案されている。例えば、撮像した画像から自車の走行先に存在する信号機を認識し、この信号機の点灯光源に重畳されている光信号、すなわち光変調された情報信号を受信する。このように撮像部で撮像した画像から信号機を認識して光信号を受信することで、自動車に構築するシステム構成を簡略化することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−210036号公報
【特許文献2】特開2008−51623号公報
【特許文献3】特開2010−183152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3の技術では、撮像部で撮像した画像に複数の信号機が撮像されているような場合には、当該画像から目的とする信号機、すなわち自車が最初に遭遇する最接近の信号機を認識し、当該認識した信号機からの光信号を受信する必要がある。そのため、特許文献3では、撮像した画像中の輝度画像のうち、全画像中に占める面積の大小や輝度の高低等に基づいて最接近の信号機を認識する手法がとられている。しかし、撮像した画像中に信号機以外の大面積輝度画像あるいは高輝度画像、例えば街路灯、対向車、光照明看板等が撮像される状況では、単に輝度画像の面積や輝度に基づく判定では最接近の信号機を正確に認識することは難しい。そのため、撮像した画像を高精度に画像認識するための複雑な構成の画像認識装置が要求されることになり、自動車に装備するシステムが大型化し、あるいは高コストになってしまう。
【0006】
本発明の目的は簡易な構成で通信対象とする信号機等の発光体を正確に認識することを可能にした路車間通信システムを提供するものである。また、本発明の他の目的は、当該路車間通信システムに適用される送信装置と受信装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、道路に設置された発光体から情報を送信し、当該道路を走行する車両において当該情報を受信する路車間通信システムであって、前記発光体を発光させる発光制御手段を備え、前記発光体は複数個の発光素子を配列した構成であり、前記発光制御手段は、前記発光素子のうち所定の輝度パターン形状を構成するために特定した特定発光素子を前記情報で変調された光信号として発光し、前記車両は前記発光体を撮像した画像から得られる前記特定発光素子の輝度パターンを前記所定のパターンと比較し、両者のパターン形状が一致したときに前記特定発光体を対象発光体として認識し、かつ当該輝度パターンから得られる前記光信号を復調して前記情報を取得する受信手段を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明において、発光制御手段は、光信号に基づいて特定発光素子を点滅するときの点滅周波数は、発光体を信号灯として点灯する周波数よりも高い周波数とすることが好ましい。
【0009】
本発明の路車間通信システムに適用される送受信装置は、道路に臨んで設置された複数の発光素子からなる発光体と、当該発光体の発光を制御する発光制御手段とを備え、前記発光制御手段は前記発光素子のうち所定の輝度パターンを構成するための特定発光素子を特定し、当該特定発光素子を前記情報で変調された光信号として発光する構成の送信装置と、前記発光体を撮像する撮像手段と、撮像した画像の前記特定発光素子の輝度パターンから前記送信装置を認識する手段と、当該特定発光素子の輝度パターンの輝度変化に基づいて前記情報を復調する復調手段とを備える受信装置で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両において発光体を撮像したときに得られる特定発光素子の輝度パターンを所定のパターンと比較することにより、当該発光体が対象とする発光体であることが認識できる。これにより、道路に設置されている多数の発光体の中から対象とする発光体を正確にかつ迅速に認識できる。しかも、車両は既存の撮像装置と画像処理装置をほぼそのまま利用して路車間通信システムに対応することができ、システム構成の簡易化が実現できる。また、本発明によれば、発光体では所定のパターンで点滅する特定発光素子を情報に基づいて変調した光信号として発光を行うので、車両では撮像した輝度パターンにより認識した対象とする発光体からの光信号を受信し、当該発光体から送信されてくる情報を取得することができる。
【0011】
本発明の送受信装置によれば、送信装置は既存の信号機における信号灯の発光体をそのまま利用し、発光制御手段の一部を変更するだけで構成できる。また、受信装置は車両に設けられている撮像システムの一部を修正するだけで認識手段と復調手段が構成できる。これにより、本発明の路車間通信システムを容易にかつ低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の路車間通信システムの概念構成図。
図2】通信システムの信号機(発光体)側のブロック構成図。
図3】信号灯の点灯、消灯状態を示す概略図。
図4】信号灯の発光素子の発光タイミング図。
図5】通信システムの車両側のブロック構成図。
図6】撮像装置で撮像した画像と各部の拡大画像。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の路車間通信システムを自動車の点灯制御システムに組み入れた実施形態の概念構成図である。この実施形態は道路を走行する自動車CARが、自車の走行先の道路に設置されている信号機SIG1〜4のうち、予め設定した一部の信号機、ここでは自車の走行に伴って最初に遭遇する最接近の信号機SIG1を対象とする信号機とし、この信号機SIG1との間で光通信を行ない、この光通信で得られた情報に基づいて自車のヘッドランプHLの点灯状態を制御する例を示している。前記信号機SIG1〜4は、交通信号表示を行うための赤色、青色、黄色等の信号灯が配設されており、この信号灯の少なくとも1つを利用して通信情報(以下、単に情報と称する)を光信号として送信することが可能とされている。また、自動車CARは、自車の前方領域を撮像装置CAMで撮像し、撮像した画像から最接近の信号機SIG1を認識し、当該信号機SIG1の信号灯での点滅に基づいて送信されてくる光信号をECU(電子制御ユニット)で受信して情報を取得することが可能とされている。そして、取得した情報に基づいて自車のヘッドランプHLの点灯を制御することが可能とされている。
【0014】
図2は前記信号機SIG1〜4の概略ブロック構成図であり、赤色、青色、黄色の3色の信号灯2(2r,2b,2y)と、これらの信号灯2を発光制御するための発光制御装置1を備えている。これら3色の信号灯2は、同図に赤色の信号灯2rを拡大図示するように、それぞれ多数の発光素子、ここではそれぞれが赤色、青色、黄色に発色する多数個のLED(発光ダイオード)21がほぼ円形の輪郭を構成するように縦横にマトリクス配列されている。前記発光制御装置1は本発明における送信装置として構成されており、情報入力部11と変調部12と発光部13を備えている。前記情報入力部11には、図外の入力端末装置を通して後述する情報が入力されるように構成され、あるいは所定の情報が予め記憶されている。前記変調部12は、情報入力部11に入力されている情報に基づいて変調処理を実行し、得られた変調信号を前記発光部13に出力する。発光部13は基本的には前記青色、黄色、赤色の信号灯を所定の順序で発光し、あるいは黄色や赤色を断続的に発光して、いわゆる交通信号として点灯ないし点滅させる機能を有する。また、前記変調部12から変調信号が入力されたときには、当該変調信号に基づいて赤色、青色、黄色の3つの信号灯、例えば赤色信号灯2rでは前記LED21のうち、予め特定した一部の特定LED21s(黒で塗り潰してあるLED)を断続的に発光して点滅させ、光信号として送信する。
【0015】
前記発光制御装置1について詳細に説明すると、発光部13は前記3色の信号灯2を交通信号として点灯するときには3つの信号灯を所定のシーケンス、例えば青色、黄色、赤色の順序でかつ所定の時間でそれぞれ発光する。この交通信号としての点灯時には、信号灯2は周波数が50Hzまたは60Hzの商用電源によって発光される。すなわち、発光部13の低コスト化を図るために、発光部3を簡単な構成の半波整流回路で構成し、この発光部3において商用電源を整流してLED21を点灯している。そのため、信号灯2は実際には50,60Hzの周波数で断続発光されているが、人間の肉眼ではその点滅状態が認識できず、連続的に点灯しているものと認識される。
【0016】
また、発光制御装置1は、情報を送信するときには情報入力部11から送信しようとする情報を変調部12に出力する。この情報は道路情報、地域情報、天候情報、その他の情報であり、例えば道路情報の場合には、当該信号機SIG1の位置情報、赤青黄色の信号灯2の点灯タイミング情報、あるいは当該信号機が存在する交差点の交通量情報や事故情報である。変調部12はこの情報に基づいて変調信号を生成し、これを発光部13に出力する。この変調信号として、例えばパルスコード変調信号が用いられる。発光部13はこの変調信号に基づいて予め特定している信号灯の特定LED21sを高速で断続発光、すなわち点滅させ、発光光を光信号として送信する。この例では3色の信号灯のうちの赤色の信号灯2rで例示しているが、この信号灯2rを構成している多数のLED21のうち、ユニークなパターン形状、ここでは菱形パターンを構成するように配列された複数のLED、すなわち図2で黒で塗り潰したLEDを特定LED21sとし、この特定LED21sを点滅する。この特定LED21sを点滅するときの基準周波数、すなわちパルス周波数は、前記した交通信号としての50または60Hzよりも高い周波数、例えば100Hz以上の周波数である。青色、黄色の信号灯2b,2yについても同様である。
【0017】
したがって、信号機SIG1においては、3色の信号灯2は信号制御装置1の発光部13によって通常の交通信号として点灯されるとともに、各信号灯2(2b,2r,2y)の特定LED21sは発光部13により高い周波数で点滅されてパルス信号からなる光信号を送信する。図3は信号灯2におけるLED2の発光状態を示す図であり、黒で塗り潰したLEDが発光されたものとして表している。同図において、(a)は信号灯2が点灯されている状態であり、LED21が商用電源で発光され、同時に特定LED21sが発光された状態である。(b)は信号灯2が消灯され、全てのLED21が消灯された状態である。(c)は信号灯2が点灯されているが、このタイミングでは特定LED21sが消灯された状態である。(d)は信号灯2が消灯されているが、このタイミングでは特定LED21sが点灯された状態である。この特定LED21sの点滅は前記したように高い周波数であり、かつ特定LED21sが発光したときの光量は少ないため、当該特定LED21sのみが点滅しても自動車の運転者はこの点滅状態を肉眼で認識することはできない。したがって、特定LED21sのみが点滅しても、各信号灯2(2b,2r,2y)が点灯していると誤認されることはない。なお、誤認を確実に防止するためには、LED21が消灯している間は特定LED21sを同時に消灯させるように発光のタイミングを制御すればよい。
【0018】
この信号灯2における点灯、消灯の時間軸上のタイミングを図4に示す。図4は赤色の信号灯2rにおける点灯、消灯状態のタイミングを示している。(a)は当該信号灯2rが交通信号として点灯、消灯が制御されるタイミングを示している。そして、この信号灯2rが点灯しているときには、(b)に示すように、LED21は商用電源の周波数で点滅されているが、肉眼ではこの点滅を認識することができず、連続点灯しているように見えることは前記したとおりである。一方、(c)に示すように、信号灯2の特定LED21sは信号灯2の交通信号としての点灯、消灯にかかわらず高い周波数でパルスコード変調された光信号として点滅されている。
【0019】
図5は前記自動車CARのブロック図であり、前記した撮像装置CAMを備えるとともに、図1に示したECUとして車両ECU3とランプECU4を備えている。撮像装置CAMは自車CARの前方領域を撮像可能であり、特に道路に沿って設置されている信号機SIG1〜4の信号灯2を撮影することが可能な撮影画角に設定されている。この撮像装置CAMは、CCDあるいはMOS等の多数の撮像素子を画素としてマトリクス配列した撮像装置として構成されている。前記車両ECU3は、ここでは説明は省略する自動車の各種制御を実行するための制御部を備えているとともに、本発明の受信装置を構成するものとして、前記撮像装置CAMで撮像した画像から対象となる信号灯を認識し、かつ当該信号灯から送信されている光信号を受信する信号認識部31と、受信した光信号から情報を復調する復調部32とを備えている。前記ランプECU4は、車両ECU3で復調された情報が入力され、当該情報に基づいて所定のアルゴリズムでの演算を行い、自車の安全走行に最適な配光となるようにヘッドランプHLの点灯状態を制御するように構成されている。
【0020】
以上の構成の信号機SIG1〜SIG4と自動車CARからなる路車間通信システムにおいては、自動車CARは撮像装置CAMによって自車の前方領域を撮像したときに、図6(a)に示すように、撮像した画像中に1つあるいは複数の信号灯、ここでは4つの信号SIG1〜SIG4が撮像されたものとする。車両ECU3の信号認識部31は、撮像した画像についてフィルタリングを実行する。このフィルタリングは撮像した撮像画像を構成している多数の画素に存在する輝点画素(輝度の高い画素)のうち、所定の周波数で点滅する輝点画素のみを輝度データとして取得するものである。この周波数は前記したように信号機において特定LED21sを光変調したときの点滅周波数に対応する周波数である。したがって、撮像されている信号機の信号灯が交通信号として商用電源の周波数で点灯されていた場合には、特定LED21s以外のLED21の輝点画素については当該輝度データとして取り込まれることはない。あるいは、対向車のヘッドランプや看板照明光等が撮像されていた場合でも、これらを撮像した輝点画素は連続点灯されている輝点画素であり、フィルタリングにより除去されるので光信号としての輝度データとして取り込まれることはない。
【0021】
次いで、信号認識部31は取り込んだ輝度データの画素座標を求める。図6(b1)〜(b4)はそれぞれ図6(a)の撮像画像のb1部〜b4部の拡大図である。図6(b1)と(b2)に示すように、b1部とb2部では、信号機SIG1,SIG2の各特定LED21sからほぼ菱形配列された輝度パターンP1,P2が検出できる。これに対し、図6(b3)と(b4)に示すように、b3部とb4部では、信号機SIG1,SIG2の撮像画像が小さいため、各特定LED21sから認識される輝度パターンP3,P4を菱形パターンとして検出することはできない。
【0022】
次いで、検出したb1部〜b4部の各菱形の輝度パターンP1〜P4を、予め信号認識部31において設定している菱形パターンと比較する。検出した輝度パターンP1〜P4と、設定している菱形パターンとが一致せず、あるいは相似でもないと判定したときには、以降の処理は停止し、車両ECU3からランプECU4に点灯制御のための信号を出力することはない。検出した輝度パターンP1〜P4と、設定している菱形パターンとが一致し、あるいは相似であると判定したときには、当該検出した輝度パターンの信号灯が認識対象候補信号灯であると判定する。この例では輝度パターンP1,P2が設定している菱形パターンと一致するので、これらの輝度パターンの信号灯を認識対象候補信号灯であると判定する。
【0023】
さらに、判定した認識対象候補信号灯が複数存在する場合、すなわち判定した菱形の輝度パターンが複数個存在する場合には、認識したそれぞれの輝度パターンを相互に比較し、各輝度パターン寸法が最も大きいと判定された輝度パターンに対応する信号機を最接近の信号灯であると認識する。この例では、b1部とb2部の各輝度パターンP1,P2を判定するが、これらの輝度パターンP1,P2のパターン寸法L1,L2を比較することによってパターン寸法L2よりも大きなパターン寸法L1のb1部の輝度パターンP1を判定し、この寸法の大きなb1部の輝度パターンP1に対応する信号灯を最接近の信号機であると認識することになる。なお、認識対象候補信号灯が多数存在する場合には、このようなパターン寸法の比較に加えて、ナビゲーション装置から得られる道路情報等を参照することによってこれら多数の信号灯と自車との距離を計測し、各信号灯の遠近関係を区別するようにしてもよい。
【0024】
次いで、車両ECU3は、最接近の信号機の信号灯、ここでは信号機SIG1の信号灯の輝度パターンP1を認識すると、当該輝度パターンP1の輝度データを復調部32に出力する。復調部32は入力された輝度データの点滅に基づく光信号を復調して情報を取得する。この復調は、ここでは図4(c)に示したように、当該輝度パターンP1を構成している特定LED21sが点滅する際の時間軸上でのパルス信号位置であるパルスコード信号をデコードすることによって得られる。車両ECU3は、復調された情報をランプECU4に出力する。
【0025】
ランプECU4は、入力された情報に基づいてヘッドランプHLの点灯制御を実行する。例えば、認識した信号灯、換言すれば最接近の信号機の位置情報に基づいて自車が当該信号機に近づいたとき、すなわち当該信号機のある交差点に近づいたときに自車のヘッドランプHLの配光をロービームからハイビームに切り替えて安全確認を行い易くする。自車がさらに近づいたときには、ハイビームからロービームに切り替えて他車や歩行者に対する眩惑を防止する。あるいは、当該信号機の赤青黄色の点灯タイミング情報に基づいて、当該信号機を青で通過する場合にはヘッドランプをハイビームのまま保持し、黄色から赤色になる場合にはロービームに切り替える。また、当該信号機が存在する交差点の交通量情報に応じて切替えを行うようにしてもよい。
【0026】
以下、図示は省略するが、自動車CARの進行に伴って図6(a)に示したb1部の信号灯が撮像範囲から外れると、今度はb2部の信号灯の菱形の輝度パターンP2が最も大きなパターン形状であると認識されるようになり、b2部の信号灯を最接近の信号灯、すなわち信号機であると認識する。そして、この信号灯の輝度パターンを構成している特定LED21sの点滅から光信号を受信し、かつ復調して情報を取得することになる。この実施形態では、b1部とb2部の信号灯は同じ交差点に設置された信号機SIF1,2の信号灯であるので、情報は同じ情報であり、ヘッドランプHLの点灯制御は特に変更されることはない。
【0027】
さらに自動車CARが進行すると、b2部の信号灯も撮像範囲から外れ、代わりにb3部とb4部の信号灯の撮像画像のサイズが大きくなり、これらの輝点画素について座標を認識することができるようになる。したがって、これらb3部やb4部の信号灯による輝点画素についても前記したb1部やb2部の信号灯の場合と同様に輝度パターンを得て対象となる信号灯の認識を行った上で、当該輝度パターンから得られる光信号について復調を行うことで、これらb3部やb4部の各信号機SIG3,4の信号灯から情報を取得することが可能になる。
【0028】
このように、信号機側では信号灯における特定LEDによる発光パターンのパターン形状を規格化した上で、この規格化されたパターン形状で特定LEDを発光すれば、自動車ではこの信号灯を撮像した画像から得られる輝度パターンに基づいて自車が最初に遭遇する最接近の信号機を認識することができる。また、実施形態のように、当該特定LEDを情報に基づいて光変調して点滅することにより光信号として送信することができ、自動車において当該光信号を復調することによって情報を取得することができる。したがって、既存の撮像装置や車両ECUを備えている自動車では、車両ECUの構成を一部変更するだけで最接近の信号機を正確にかつ高精度に認識することができる。さらに、既存の車両ECUに信号認識部と復調部を増設するだけで信号機から送信される情報を取得することが可能となり、本発明の路車間通信システムを実現することができる。これにより、自動車においては、取得した情報に基づいて自車のヘッドランプを安全走行に好適な状態に点灯制御することが可能になる。
【0029】
実施形態では信号灯のLEDで発光する可視光をそのまま利用して信号機の認識と光通信を行っているが、赤外光を利用してもよい。例えば、実施形態の赤色の信号灯の場合には、特定LED21sを赤外光を含む赤色光で発光するLEDで構成する。一方、自動車CARでは撮像装置CAMを可視光から赤外光を含む波長領域を撮像可能な撮像装置として構成し、車両ECU3の信号認識部31は撮像して得られた輝点のうち、赤外光を撮像した画素のみを輝度データとして取得するようにすればよい。あるいは、撮像装置CAMに赤外光のみを透過するフィルタを配設して赤外光を発光する特定LED21sのみを撮像するようにしてもよい。得られた輝度データに基づいて画素座標を求め、この座標配列から得られる輝度パターンを予め設定しているパターンと比較することによって信号機を認識することは同じである。また、信号機においては、特定LED21sを送信する情報に基づいて光変調して点滅させ、光信号として送信する構成とすることが可能であることも言うまでもない。
【0030】
このように特定LEDにおいて赤外光により光通信を行う構成としたときには、特定LEDのみが発光されても運転者はこの発光を視認することがないので、当該信号灯が点灯されたと誤認することがない。そのため、前記実施形態のように可視光を利用した場合に比較して特定LEDの点滅周波数や光度を自由に設定することが可能になり、特に光度を高く設定することで自動車が遠方位置にある早期時点から信号機を認識することが可能になり、かつ信号機からの光通信の送信距離を長くすることができるとともに情報伝達の信頼性を高めることができる。
【0031】
実施形態では、信号機の信号灯において特定LEDにより構成される輝度パターンの形状として菱形パターンの例を示したが、ユニークなパターン形状であれば菱形以外のパターンで発光するようにしてもよい。特に、自動車の撮像装置で複数の信号灯を撮像した場合には、これらの信号灯の輝度パターンを相互に対比させて対象とする信号機を認識する必要があるので、これらを対比させたときの違いが明確になるように、なるべく単純なパターンにすることが好ましい。さらには、認識したパターン形状を相互に比較して最接近の信号機を認識する際の処理の簡略化と迅速化を図るために、輝度パターンが小さく撮像される遠方の信号灯では輝度パターンが目潰れして座標の判定ができないようにし、この輝度パターンを対比の対象から外すようにすることが好ましい。また、輝度パターンに基づいてのみ信号機を認識するのではなく、特許文献1のような、撮像した画像中の輝度画像のうち、全画像中に占める面積の大小や輝度の高低等を参照することによってより正確に信号灯を認識するように構成してもよい。
【0032】
また、実施形態では複数の異なる信号機の信号灯における輝度パターンを全て同じ菱形のパターンに設定した例を示しているが、各信号機における輝度パターンをそれぞれ異なるパターン形状に設定してもよい。この場合には、自動車の信号認識部には予め複数の異なるパターンを記憶させておき、撮像して得られる輝度パターンと記憶しているパターンとを比較することによって、両者が一致したパターンを判定し、この判定したパターンに基づいて対象とする信号機を認識するように構成することも可能である。
【0033】
実施形態では、パルスコード変調によって特定LEDを点滅させた光信号としているが、変調方式はこれに限定されるものではなく、例えば、特定LEDの光度変化によって光信号を送信するようにしてもよい。あるいは、特定LEDを特定することなく、情報信号に基づいて選択するLEDを順次変化させながら発光させ、その発光パターンの変化によって光信号を送信するようにしてもよい。この場合には、自動車の信号認識部は撮像して得られる輝度パターンのパターン形状を判別することによって情報を取得するように復調部を構成することになる。
【0034】
実施形態では1つの信号機に設けられた3色の信号灯の1つに対して本発明を適用した例について説明したが、2色あるいは3色の信号灯の全てに本発明を適用して光通信を行うように構成してもよいことは前記したとおりである。このように、複数の信号灯を利用して光信号を送信することにより、信号機から自動車への光通信の送信容量を増大することができ、通信する情報を増大して自動車におけるより高度な制御が実現できる。
【0035】
また、実施形態では本発明にかかる発光体として信号機の信号灯に適用した例を示したが、道路に設置される各種発光体、例えば道路照明灯、標識灯、案内灯等に適用することも可能である。さらに、本発明の路車間通信システムは、実施形態に記載したヘッドランプの点灯制御に限られるものではなく、自動車の走行に伴う補助ランプ制御、車速制御、操舵制御等の種々の制御に採用できる。あるいは、自動車の制御にかかわらず自動車の乗員が安全走行を行う上で好ましいとされる情報を送受するためのシステムに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は信号機等の発光体から自動車に対して各種情報を光通信にて送信する路車間通信システムに採用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 発光制御装置(発光制御手段)
2(2r,2b,2y) 信号灯
3 車両ECU(受信手段)
4 ランプECU
11 情報入力部
12 変調部
13 発光部
21 LED
21s 特定LED
31 信号認識部
32 復調部
CAR 自動車(車両)
SIG1〜SIG4 信号機
CAM 撮像装置
P1〜P4 輝度パターン

図1
図2
図3
図4
図5
図6