特許第6062218号(P6062218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062218
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】化学センサおよび化学センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   G01N5/02 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-249930(P2012-249930)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-98607(P2014-98607A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】楠 正暢
(72)【発明者】
【氏名】西川 博昭
(72)【発明者】
【氏名】本津 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】硲石 康裕
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2006/025358(JP,A1)
【文献】 特開2000−065708(JP,A)
【文献】 特開2000−258374(JP,A)
【文献】 特開2010−101852(JP,A)
【文献】 特開2009−174960(JP,A)
【文献】 ZhenZhen Lu, HaiYan Xu, MuDi Xin, KunWei Li, and Hao Wang,Induced Growth of (0001)-Oriented Hydroxyapatite Nanorod Arrays on ZnO-Seeded Glass Substrate,The Journal of Physical Chemistry C,米国,2009年12月28日,Vol. 114, No. 2,P. 820-825
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基板層と、
検出表面としてのリン酸塩を主成分とする薄膜結晶層と、
前記基板層と前記薄膜結晶層との間に設けた中間層を備える化学センサであって、
前記中間層のうちの少なくとも1つに酸化亜鉛を主成分とする中間層を備えることを特徴とする化学センサ。
【請求項2】
前記薄膜結晶層が、
前記酸化亜鉛を主成分とする中間層の上層に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化学センサ。
【請求項3】
前記薄膜結晶層が、
前記検査表面の略全面に形成されており、
かつ前記酸化亜鉛を主成分とする中間層の面積が、
前記薄膜結晶層の面積と略同一またはそれ以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化学センサ。
【請求項4】
前記薄膜結晶層が、
ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(TCP)、元素置換アパタイト、元素置換リン酸三カルシウムからなる群から選択されるいずれか一種以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の化学センサ。
【請求項5】
前記基板層が、
金、白金、チタンからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の化学センサ。
【請求項6】
導電性の基板層上に酸化亜鉛を主成分とする中間層を形成する工程と、
前記中間層上にリン酸カルシウム化合物を主成分とする薄膜層を形成する工程と、
前記薄膜層が形成された複合体を熱処理または焼結処理して薄膜結晶層を形成する工程とを有することを特徴とする化学センサの製造方法。
【請求項7】
前記薄膜層が、
気相法によって形成されるものであることを特徴とする請求項に記載の化学センサの製造方法
【請求項8】
前記薄膜結晶層は、
形成中または/および形成後に、
熱処理または焼結処理を行ったものであることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の化学センサの製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の化学物質や生体物質の種類や量などを検出する化学センサおよび化学センサの製造方法に係る。さらに詳しくは基板層と検出表面を形成するリン酸塩を主成分とする薄膜層との間に酸化亜鉛を主成分とする中間層を形成することによって、薄膜層に配向性を付与することができる(薄膜層の配向制御を行うことができる)化学センサおよびこの化学センサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から各種の化学物質、生体物質を検出、分析したり、温度、湿度、ガス成分を検出、計測したりする化学センサは知られており、例えば水晶振動子マイクロバランスセンサ(QCMセンサ)、表面プラズモン型センサ、表面弾性波センサ(SAWセンサ)、酸化物半導体センサ(MOSセンサ)、電界効果トランジスタセンサ(FETセンサ)などが知られている。
そしてその中でも、検出対象となる物質などとの生体親和性や吸着性などの観点から、検出部にハイドロキシアパタイト等のリン酸塩を用いたものが特許文献1〜4においては開示されている。また、本願発明者においても特許文献5、6において検出部にハイドロキシアパタイトを用いた化学センサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−289446号公報
【特許文献2】特開平10−318961号公報
【特許文献3】特開2000−266713号公報
【特許文献4】特開2007−171163号公報
【特許文献5】特開2005−283550号公報
【特許文献6】WO2006−25358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、リン酸塩の中でも六方晶系の構造をとるハイドロキシアパタイトについては、六方晶に配向した際に各配向面が特定の電荷を帯びることが知られている。具体的には、a軸面はカルシウムイオンが存在することから正電荷を帯び、c軸面はリン酸イオンや水酸化物イオンが存在することから負電荷を帯びることが知られている。そして、正電荷を帯びているa軸面には負電荷を帯びている酸性たんぱく質が吸着し、負電荷を帯びているc軸面には正電荷を帯びている塩基性たんぱく質が吸着することが知られている。
従って、検出部にハイドロキシアパタイトを使用する場合には、検出部(検出表面)をa軸面やc軸面とすることができれば、検出物質を選択的に吸着したり、検出物質をクロマトグラフィーのように分離したり、特定の検出物質のみを測定したりすることが可能となり、その結果化学センサとしての検出感度を向上させることが可能となることが予想される。
【0005】
また、特にc軸面が検出部(検出表面)となるようにハイドロキシアパタイトを配向させた場合には、歯のエナメル質と近似する構造(状態)となることから、かかる化学センサは歯質表面を模擬したものとなり、歯科分野のシミュレーション装置としてさまざまな技術開発を行う上で有用なものとなることが予想される。
【0006】
さらに、ハイドロキシアパタイト以外のリン酸塩についても、ハイドロキシアパタイトと同様に、各リン酸塩がとる結晶構造の各配向面によって帯電する電荷等、取り得る物性が異なってくることから、これらの配向性を制御して検出部(検出表面)を形成することによって特定の検出物質の吸着、分離、測定等を行うことができることが予想される。
【0007】
このように検出部(検出表面)においてリン酸塩の配向を制御することができれば様々な用途において有用なものとなるとともに検出感度の向上も予想されるが、検出対象となる物質は種々様々なものがあることから、各検出対象によって最適なリン酸塩の配向構造も異なることとなる。
従って、これら構造が種々異なる検出対象となる物質に対応するためには、検出部(特に検出表面)のリン酸塩の配向性を容易に制御できるものであることが好ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜6などに記載されているような従前の化学センサは、検出部にリン酸塩を用いたものあっても、全て、図5に示すような基板層2の上層に検出部としての薄膜層4(リン酸塩の層)が単に積層されているものにすぎないものである。
従って、従前の化学センサはリン酸塩の配向が制御されておらず、その結果、検出感度などの点において改善の余地があるものであった。
【0009】
そこで、本発明者は今回鋭意検討を重ねた結果、基板層と検出表面としての薄膜層との間に酸化亜鉛を主成分とする中間層を設けることによって、リン酸塩の配向性を制御することができるという知見を得るに至ったのである。
【0010】
本発明は上記の通り、従来の化学センサの問題点に鑑みてなされたものであって、詳しくは基板層と検出表面を形成するリン酸塩を主成分とする薄膜層との間に酸化亜鉛を主成分とする中間層を形成することによって、薄膜層に配向性を付与する(薄膜層の配向制御を行う)ことができ、従来よりも検出感度を向上させることができる化学センサの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る化学センサは、導電性の基板層と、検出表面としてのリン酸塩を主成分とする薄膜結晶層と、基板層と薄膜結晶層との間に設けた中間層を備える化学センサであって、中間層のうちの少なくとも1つに酸化亜鉛を主成分とする中間層を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る化学センサは、薄膜結晶層が、酸化亜鉛を主成分とする中間層の上層に形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る化学センサは、薄膜結晶層が、検査表面の略全面に形成されており、かつ酸化亜鉛を主成分とする中間層の面積が、薄膜結晶層の面積と略同一またはそれ以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る化学センサは、薄膜結晶層が、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(TCP)、元素置換アパタイト、元素置換リン酸三カルシウムからなる群から選択されるいずれか一種以上のものであることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る化学センサは、基板層が、金、白金、チタンからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る化学センサの製造方法は、導電性の基板層上に酸化亜鉛を主成分とする中間層を形成する工程と、中間層上にリン酸カルシウム化合物を主成分とする薄膜層を形成する工程と、薄膜層が形成された複合体を熱処理または焼結処理して薄膜結晶層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る化学センサの製造方法は、薄膜層が、気相法によって形成されるものであることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る化学センサの製造方法は、薄膜結晶層は、形成中または/および形成後に、熱処理または焼結処理を行ったものであることを特徴とする。
【0019】
まず、本発明に係る化学センサについて以下に説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明に係る化学センサ1は導電性の基板層2と、基板層と薄膜層との間に設けた中間層3と、検出表面としてのリン酸塩を主成分とする薄膜層4とを必須の構成要件するものであり、さらに、中間層の3うちの少なくとも1つが酸化亜鉛を主成分とするものであることを特徴とするものである。
【0021】
なお、本発明に係る化学センサは、基板層の下層に土台となる土台層5を設けることもできる。そして、このような土台層としては耐熱性を有するものであれば、導体、半導体、絶縁体など各種の材料を用いることができ、より具体的には石英(水晶)、各種の金属、金属酸化物、ガラス、シリコンなどを挙げることができる。
【0022】
次に、各構成要件について説明する。
【0023】
(基板層)
まず、本発明の化学センサに用いられる基板層は、後記する中間層を形成するための土台としての役目を担うものであり、特に酸化亜鉛を主成分とする中間層を所望する配向構造で形成するための土台としての役目を担うものである。
【0024】
このような基板層に用いられる材質としては、上記の目的を達成することができるものであれば特に限定されず、有機材料や無機材料など各種の材料を用いることができる。また、基板層は必要に応じて化学センサの電極としての役目を担う場合もあることから各種の金属材料や合金を用いることもできる。
【0025】
そしてこれらの中でも金、白金、チタンを用いることが好ましい。ここで、金、白金が好ましい理由としては、1)酸化亜鉛を主成分とする中間層を形成または結晶化する際の温度などの条件下において酸化することがない点、2)酸化することがないことから電極としても使用することができる点などが挙げられる。
また、チタンが好ましい理由としては、チタンはそもそも人工歯根や人工骨の母材となっていることから、チタンを基板層に用いることで歯質表面や骨表面などを模擬した化学センサを作製することができる点が挙げられる。
【0026】
このような基板層の形成方法としては、気相法、液相法、固相法等各種の方法を採用することができ、代表的なものとして真空蒸着法やメッキ法などが挙げられる。
【0027】
なお、基板層は通常、土台層の上層に設けられることになるが、必要に応じて基板層と土台層との間にクロムやニッケルなどの別の層を設けることもできる。
【0028】
(中間層)
次に、本発明の化学センサに用いられる中間層は、後記するリン酸塩を主成分とする薄膜層に配向性を付与するためのものであり、本発明において最も重要な構成要件となる。具体的には、中間層のうちの少なくとも1つに酸化亜鉛を主成分とする中間層を備えることが必要である。このような特定の組成を持つ中間層を、基板層と後記する薄膜層との間に形成することによって、後記するリン酸塩を主成分とする薄膜層を形成する際にリン酸塩の配向性を制御することができ、その結果従来よりも検出感度を向上させた化学センサを作製することができるのである。
【0029】
なお中間層については、その中の一層に酸化亜鉛を主成分とする中間層が配置されていれば、その他の中間層については特に限定されず、必要に応じて各種の組成、形態を有する中間層を採用することができる。
【0030】
ここで、「酸化亜鉛を主成分とする」との意は、薄膜層のリン酸塩の配向性制御の観点からは、酸化亜鉛のみで中間層を形成することが最も好ましいが、必要に応じてその他の成分を含有するものであっても良いとの意であり、さらに必要に応じて酸化亜鉛の一部を他の元素に置換したものを用いることもできるという意である。
【0031】
なお、酸化亜鉛を主成分とする中間層については、例えば後記するレーザーアブレーション法によってかかる中間層を形成させる場合には、形成の際の基板層の温度や酸素ガスなどの雰囲気ガスの圧力などの条件を変化させることによって所望する酸化亜鉛の配向構造を得ることができる。そして、かかる配向構造を有する中間層の上に後記するリン酸塩を主成分とする薄膜層を形成することによって、リン酸塩が酸化亜鉛の配向構造と同じ配向構造を持って形成されることになり、その結果リン酸塩の配向性をa軸配向、b軸配向、c軸配向など各種の方位に制御することができるのである。
【0032】
また、複数の中間層を形成する場合における酸化亜鉛を主成分とする中間層の配置位置についても特に限定されず、基板層と酸化亜鉛を主成分とする中間層との間に他の中間層を配置しても良いし、リン酸塩を主成分とする薄膜層と酸化亜鉛を主成分とする中間層との間に他の中間層を配置しても良い。そしてその中でも、リン酸塩を主成分とする薄膜層を形成する際のリン酸塩の配向性制御が容易であるという点から、酸化亜鉛を主成分とする中間層をリン酸塩を主成分とする薄膜層の下層に形成するように配置することが好ましい。
【0033】
このような中間層の形成方法としては、気相法、液相法、固相法等各種の方法を採用することができ、その中でも容易に中間層を形成することができる点や酸化亜鉛の一部を容易に他の元素に置換することができる点などから気相法を用いることが好ましく、例えばレーザーアブレーション法、スパッタリング法、プラズマ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、熱化学気相成長法(CVD法)、プラズマ化学気相成長法などを挙げることができる。
【0034】
さらに、本発明に用いられる中間層は、熱処理または焼結処理をすることによって中間層に配向性を発現させた状態で結晶化をすることもできる。具体的には、液相法や固相法によって中間層を形成する場合には、基板層上に配向性を持たせた状態で中間層を形成した後、熱処理または焼結処理をすることによって結晶化を行うことができる。また、気相法によって中間層を形成する場合には、形成の際に加えられる温度によっても結晶化をすることができるが、さらにその後熱処理または焼結処理をすることによってより完全に結晶化を行うことができる。
【0035】
(薄膜層)
最後に、本発明の化学センサに用いられる薄膜層は、化学センサの検出部(検出表面)としての役目を担うものであり、リン酸塩を主成分とするものであることが必要である。このような組成を持つ薄膜層を検出表面として形成することによって、配向性が制御されたリン酸塩の検出表面を作製することができ、従来よりも検出感度を向上させた化学センサを作製することができるのである。
【0036】
ここで、薄膜層の主成分となるリン酸塩としてはリン酸塩であれば特に限定されず、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸の硫酸塩など各種のリン酸塩化合物を用いることができる。なお、これらについてはいずれか一種のみを使用することもできるし、これらの中から選択される複数種の材料を併用することもできる。さらに、必要に応じて酸化亜鉛の一部を他の元素に置換したものを用いることもできる。
そしてこれらの中でも、検出対象となる物質との生体親和性や吸着性などの観点から、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(TCP)、元素置換アパタイト、元素置換リン酸三カルシウムからなる群から選択されるいずれか一種以上を用いることが好ましい。特に、元素置換アパタイトや元素置換リン酸三カルシウムを用いた場合には、薄膜層の一部を容易に元素置換することができることから、より生体の構造に近似した構造を有する化学センサを作製することができ好適である。
【0037】
なお、薄膜層は検出部(検出表面)となることから、本発明に係る化学センサの最外層に位置することになる。また薄膜層は、主成分であるリン酸塩の配向性制御が容易であるという観点から、段落[0032]にも記載した通り、酸化亜鉛を主成分とする中間層の上層に形成することが好ましい。さらに検出感度を向上させる観点から、検査表面の略全面に形成するとともに酸化亜鉛を主成分とする中間層の面積と略同一またはそれ以上の面積とすることが好ましい。
【0038】
このような薄膜層の形成方法についても中間層と同様に、気相法、液相法、固相法等各種の方法を採用することができ、さらに中間層と同様に薄膜層を容易に形成することができる点やリン酸塩の一部を容易に他の元素に置換することができる点などから気相法を用いることが好ましく、例えばレーザーアブレーション法、スパッタリング法、プラズマ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、熱化学気相成長法(CVD法)、プラズマ化学気相成長法などを挙げることができる。
【0039】
さらに、本発明に用いられる薄膜層は、熱処理または焼結処理をすることによって、薄膜層に配向性を発現させた状態で結晶化をすることができ、その結果検出感度のより高い化学センサを作製することができる。また、結晶方位(結晶の配向性)を各種制御した化学センサを作製することができる点からも好適である。
【0040】
次に、本発明に係る化学センサの製造方法(製造工程)について説明する。
【0041】
(製造方法)
本発明に係る化学センサの製造方法(製造工程)は、導電性の基板層と検出表面としてのリン酸塩を主成分とする薄膜層を形成する工程に加えて、酸化亜鉛を主成分とする中間層を形成する工程を備えることが必要である。より具体的には、以下の工程を経て本発明に係る化学センサの製造を行う。
【0042】
まず、水晶などの土台層上に導電性の基板層を気相法、液相法、固相法等各種の方法によって形成する。
【0043】
次に、導電性の基板層上に中間層を気相法、液相法、固相法等各種の方法によって形成する。また、中間層を複数層形成する場合にはそのうちの少なくとも一層に酸化亜鉛を主成分とする層を形成することになる。なお、かかる中間層を気相法によって作製する場合には、作製時の温度を100℃以上で行うことが好ましく、200℃以上で行うことがより好ましい。
【0044】
最後に、中間層上にリン酸塩を主成分とする薄膜層を気相法、液相法、固相法等各種の方法によって形成することによって、本発明の化学センサを作製することとなる。
【0045】
また、土台層、基板層、中間層、薄膜層が形成された複合体を熱処理または焼結処理することによって、薄膜層に配向性を発現させた状態で結晶化した化学センサを作製することができる。なお、この熱処理工程または焼結処理工程は最終層となる薄膜層の形成中に行って良いし、薄膜層を形成した後の複合体の状態で行っても良い。さらに、薄膜層を形成して複合体とした後、その状態で出荷や保管等を行い、ユーザーが使用する際にかかる処理を行っても良い。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る化学センサおよびこの化学センサの製造方法によれば、酸化亜鉛を主成分とする中間層を設けることによって、以下の効果を発現させることができる。また、これらの効果は特に水晶振動子マイクロバランスセンサ(QCMセンサ)や表面プラズモン型センサにおいて顕著なものとなる。
1)検出表面(薄膜層)に配向性を持たせた化学センサを作製することができる。
2)従来よりも検出感度を向上させた化学センサを作製することができる。
3)検出表面の配向性を制御することができることから、検出対象となる物質中の正電荷を帯びた物質や負電荷を帯びた物質を選択的に検出することができる。
4)検出表面の配向性を制御することができることから、液体(特に酸性を有する試薬等)に対する溶解度を低下させることができ、耐薬品性を向上させた化学センサを作製することができる。
5)リン酸塩の結晶度合や配向度合と検出対象となる物質との吸着性の関係を定量的に評価することが可能となるため、リン酸塩を利用した製品開発への応用ができるようになる。
6)様々な結晶構造を調整できることから、製品開発において最適な材料表面の結晶性をシミュレートすることができる。
7)配向性の制御が可能となることから、歯質表面や骨表面などを模擬したセンサ表面を得ることができ、生体外において治療器具、治療法、検査用機器、検査法等の開発用の試験を行うことができる。
8)特に、検査表面をc軸配向とした場合には歯質表面を模擬したセンサ表面を得ることができるため、口腔ケア用製品(歯磨き粉、マウスウォッシュ剤等)の開発用の試験材料を作製することができる、
9)外科用骨補填材料(人工物)として用いられているリン酸塩と同様な結晶構造を有するセンサを作製することが可能となり、生体材料開発用の試験に用いることができる。
【0047】
また、薄膜層にハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(TCP)、元素置換アパタイト、元素置換リン酸三カルシウムからなる群から選択されるいずれか1種以上のものを用いていることから、歯のエナメル質等、生体の構造に近似した配向を有する化学センサを作製することができる。また、生体親和性や吸着性などに優れているイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(TCP)、元素置換アパタイト、元素置換リン酸三カルシウムを用いることによって、検出感度をさらに向上させることができる。
【0048】
また、薄膜層を気相法によって形成させることから上記の効果を有する薄膜層を容易に作製することができる。また、薄膜層の一部を容易に元素置換することができることから検出対象となる物質の構造により近似した配向を有する化学センサを作製することができる。
【0049】
また、薄膜層を熱処理または/および焼結処理をすることによって薄膜層に配向性を持たせた状態で結晶化することができ、その結果検出感度のより高い化学センサを作製することができる。また、結晶方位(結晶の配向性)を各種制御した化学センサを作製することができる。
【0050】
さらに、基板に特定の金属を用いることによって、中間層を効率よく結晶化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明に係る化学センサの断面構造を示す模式図である。
図2】実施例の化学センサのX線回折の結果を示す図である。
図3】実施例の化学センサの薄膜層の結晶構造を示す模式図である。
図4】比較例の化学センサのX線回折の結果を示す図である。
図5】ハイドロキシアパタイトを用いた従来の化学センサの断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
次に、実施例と比較例とを対比させて、本発明の化学センサおよび本発明の化学センサの製造方法を説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
【実施例】
【0053】
(実施例)
まず、土台層となる石英板上に真空蒸着法によって基板層となる金の薄膜を形成した。
次に、酸化亜鉛の焼結体をターゲットとしてKrFエキシマレーザー(λ=248nm)を用いたパルスレーザ堆積(以下PLD)法により、2×10−4Pa以下にした真空容器内へOを8×10−4Pa導入し、繰返し周波数10Hz、基板温度210℃、膜厚200nmの条件で中間層となる酸化亜鉛薄膜を上記基板層上に形成した。
次に、ハイドロキシアパタイトの粉末をターゲットとしてKrFエキシマレーザー(λ=248nm)を用いたパルスレーザ堆積(以下PLD)法により、2×10−4Pa以下にした真空容器内へ水蒸気を含有したOを2Pa導入し、繰返し周波数10Hz、基板温度450℃、膜厚500〜600nmの条件で薄膜層となるハイドロキシアパタイト薄膜を上記中間層上に形成した。
最後に、上記によって作製した複合体を、水蒸気を含有したO雰囲気中において500℃の条件で10時間加熱処理することによって、実施例の化学センサを作製した。
【0054】
(比較例)
中間層を形成しなかった以外は、実施例と同様にして比較例の化学センサを作製した。
【0055】
(X線回折による解析)
次に、上記によって得た実施例および比較例の化学センサについてX線回折による解析を行った。結果を図2図4に示す。
【0056】
その結果、酸化亜鉛を主成分とする中間層を設けた実施例の化学センサは、図2に示す通りハイドロキシアパタイトがc軸方向の厚みである(002)と(004)に(のみ)形成されていることから、薄膜層が図3に示すようなc軸方向に配向性を有している構造となっていることが分かった。また、(002)と(004)のピークも高いことから、結晶状態の高いc軸配向のリン酸塩結晶が形成されていることがわかった。
これに対して、中間層を設けない比較例の化学センサのX線回折データは、図4に示す通りハイドロキシアパタイトのピークが至る所に存在しており、薄膜層が配向性を有していないことが分かった。
【0057】
以上から、本発明に係る化学センサは酸化亜鉛を主成分とする中間層を設けることによって、薄膜層に配向性を持たせた化学センサを作製することができ、その配向性についても制御をすることができることが分かった。また、このように薄膜層(検出表面)に配向性を付与することができることから、検出表面を検出対象となる物質に近い構造とすることができ、その結果、検出感度を向上させた化学センサを作製することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は各種の化学物質、生体物質を検出、分析したり、温度、湿度、ガス成分を検出、計測したりする化学センサ(特に水晶振動子マイクロバランスセンサ(QCMセンサ))に用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 化学センサ
2 基板層
3 中間層
4 薄膜層
5 土台層
図1
図2
図3
図4
図5