(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062228
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】スパッタ付着防止用塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20170106BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20170106BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20170106BHJP
B23K 9/32 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D7/12
C09D5/02
B23K9/32 E
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-261405(P2012-261405)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-105314(P2014-105314A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(72)【発明者】
【氏名】大窪 赳彦
(72)【発明者】
【氏名】林 宏明
(72)【発明者】
【氏名】平光 規行
(72)【発明者】
【氏名】藤原 毅
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和史
(72)【発明者】
【氏名】大原 康之
【審査官】
西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−290979(JP,A)
【文献】
特開2010−274318(JP,A)
【文献】
特開2014−024114(JP,A)
【文献】
特開2013−075324(JP,A)
【文献】
特開平09−291920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
B23K 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物へ溶接を施す際に飛散するスパッタの付着を防止するための塗膜の形成に用いる塗料であって、
合成樹脂の水溶液あるいは合成樹脂の水分散液である樹脂組成物中に、中空構造を有する無機酸化物を分散させたものであり、
前記樹脂組成物中の主たる合成樹脂成分がアクリル系樹脂であり、かつ、前記中空構造を有する無機酸化物が、粒径10〜50μmの中空ガラスであるとともに、
被塗布物との密着力が10N/m〜500N/mとなるような塗膜を形成可能なものであることを特徴とするスパッタ付着防止用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等を溶接する際に飛散するスパッタが付着することを防止するために溶接箇所の周辺部に塗装される塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接、レーザー溶接等の溶接を行う際には、スパッタが飛散して被溶接物の溶接箇所以外の部分や、溶接機および周辺機器へ付着する事態が発生する。そのように飛散したスパッタが被溶接物に付着すると、製品としての外観が損なわれるだけでなく、付着したスパッタによって他の部材との組み付けがままならなくなる事態も起こり得る。一方、飛散したスパッタが溶接機や周辺機器に付着すると、それらの機器の外観が悪くなるのみならず、機器が腐食してしまう事態も起こり得る。それゆえ、定期的に、タガネ等の工具を利用して機器の表面からスパッタを取り除く必要があった。
【0003】
かかる不具合を防止するために、近年では、被溶接物、溶接機および周辺機器にスパッタ付着防止用の組成物を塗布してそれらの被溶接物等を組成物の被膜で覆う方法が採用されている。そして、そのような被膜形成用の組成物として、主成分である炭化水素油を界面活性剤を用いて水に乳化させたもの(特許文献1)、特許文献2の如く、油に増稠剤を添加してグリース化させたもの(特許文献2)や、無機酸化物粒子をシリケート系バインダ中に分散させて凹凸の皮膜を形成可能としたもの(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−274273
【特許文献2】特開2010−023086
【特許文献3】特開2003−290979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の炭化水素油を乳化させた組成物や、油に増稠剤を添加した組成物は、形成される被膜の強度が低いため、溶接作業者が被膜に接触する度に被膜が剥がれたり破れたりしてスパッタ付着防止機能が損なわれてしまう。それゆえ、トーチノズルや溶接治具等へのスパッタの付着防止のために使用する場合には、効果を維持するために頻繁に塗り直す必要が生じるので、手間がかかる上、経済面においても好ましくない。
【0006】
一方、特許文献1の無機酸化物粒子をシリケート系バインダ中に分散させた組成物は、形成される凹凸構造を有する被膜によって、ある程度良好なスパッタの付着防止機能が発現されるものの、被膜の薄い部分(凹凸の谷間の部分)が効果的な断熱効果を奏さない上、被膜上に付着したスパッタの固化物を除去しにくい、という不具合がある。
【0007】
本発明の目的は、上記従来のスパッタ付着防止用の組成物が有する問題点を解消し、長期間に亘って安定したスパッタの付着防止機能を発現可能な被膜(塗膜)を形成することができる上、形成された被膜(塗膜)上に付着したスパッタの固化物を除去し易い実用的なスパッタ付着防止用塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、被溶接物へ溶接を施す際に飛散するスパッタの付着を防止するための塗膜の形成に用いる塗料であって、
合成樹脂の水溶液あるいは合成樹脂の水分散液である樹脂組成物中に、中空構造を有する無機酸化物を分散させた
ものであり、前記樹脂組成物中の主たる合成樹脂成分がアクリル系樹脂であり、かつ、前記中空構造を有する無機酸化物が、粒径10〜50μmの中空ガラスであるとともに、被塗布物との密着力が10N/m〜500N/mとなるような塗膜を形成可能なものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスパッタ付着防止用塗料は、被溶接物、溶接機や周辺機器の外周に塗布して乾燥させることによって、表層が無機酸化物で覆われ耐熱性、耐久性に富んだ被膜(塗膜)を形成することができる。したがって、本発明のスパッタ付着防止用塗料によれば、それらの被溶接物、溶接機や周辺機器にスパッタが付着する事態を、きわめて長期間に亘って効率的に防止することが可能となる。また、本発明のスパッタ付着防止用塗料によれば、付着したスパッタの固化物を除去し易い被膜(塗膜)を形成することができる。さらに、本発明のスパッタ付着防止用塗料は、金属や樹脂等の被着体に対して再剥離可能なバインダを使用することで、形成された塗膜を被溶接物、溶接機や周辺機器の外周等の部材から容易に剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】スパッタ付着防止用塗料による塗膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のスパッタ付着防止用塗料は、合成樹脂の溶液あるいはエマルジョン中に、中空構造の無機酸化物を分散させることによって得ることができる。当該合成樹脂とは、形成される塗膜において、主として無機酸化物を被塗布物の表面に固着させておくためのバインダとして機能するものであり、その種類は特に限定されないが、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エチレン樹脂、プロピレン樹脂、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム等を好適に用いることができる。
【0014】
また、合成樹脂としては、所謂ストリッパブルペイントの樹脂成分の如く、被塗布物から剥離可能な塗膜を形成し得るものが望ましい。すなわち、熱、ヒューム、紫外線、物理的な摩擦等によって劣化しにくい塗膜(ひび割れしにくい靱性の高い塗膜)を形成可能なものが好ましく、被塗布物との密着力が10N/m〜500N/mとなるような塗膜を形成可能なものが好ましい。そのような合成樹脂を用いることによって、長期間に亘って使用した後でも被塗布物から容易に剥がすことができる塗膜を形成することが可能となり、塗り直しの際の労力が軽減される。そのような靱性が高く剥離可能な塗膜を形成可能な合成樹脂としては、アクリル樹脂やアクリルシリコーン樹脂を挙げることができる。
【0015】
一方、中空構造を有する無機酸化物としては、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、中空シリカ、中空アルミナ、中空ガラス等を好適に用いることができる。これらの無機酸化物は、比重が軽く、乾燥段階で塗膜表面に浮き出易いため、表層が無機酸化物に覆われた塗膜を容易に形成することができる(
図1参照)。また、それらの無機酸化物は、高い耐熱性を有しており、かつ溶融金属との濡れ性が悪いため、形成された塗膜へのスパッタの付着を効果的に防止することが可能となる。
【0016】
また、中空構造を有する無機酸化物の粒径は、特に限定されないが、5μm〜200μmの範囲にあると好ましく、さらに、10μm〜50μmの範囲内にあるとより好ましい。中空構造を有する無機酸化物の粒径が5μmを下回ると、乾燥段階で塗膜表面に浮き出難くなってしまうため好ましくなく、反対に、中空構造の無機酸化物の粒径が200μmを上回ると塗膜表面が粗くなってしまうため好ましくない。
【0017】
また、本発明のスパッタ付着防止用塗料によって塗膜を形成する方法は、特に指定されないが、刷毛やローラーによって被塗布物に塗布する方法や、スパッタ付着防止用塗料をエアゾールタイプのものとしてスプレー等によって塗布する方法等を好適に用いることができる。
【0018】
また、本発明のスパッタ付着防止用塗料を塗布する際の塗布厚みは、特に限定されないが、乾燥時の厚みが0.1mm〜2.0mmの範囲内となるように塗布するのが好ましい。乾燥時の厚みが2.0mmを上回ると、乾燥が遅くなるため好ましくなく、反対に、0.1mmを下回ると、被塗布物から剥離する際に剥がし難くなる上、塗膜の断熱効果が不十分となるため好ましくない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明のスパッタ付着防止用塗料についてより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例における物性、特性の評価方法は以下の通りである。
【0020】
<スパッタの付着防止性>
SPCC鋼板上に形成されたスパッタ付着防止塗膜から約50cm離れた場所で、所定時間(約10秒間)の溶接(アーク溶接:溶接電流200A)を、所定回数(20回)繰り返して行った。そして、溶接後における塗膜へのスパッタの付着度合いを、下記の三段階で評価した。
○:飛散したスパッタがスパッタ付着防止塗膜にほとんど付着せず、塗膜上に残ったスパッタをブラシで容易に掃き取ることができた
△:スパッタの一部がスパッタ付着防止塗膜に付着(融着)した(ブラシによる掃き取り困難)
×:スパッタの付着(融着)によるスパッタ付着防止塗膜の熱劣化が著しい
【0021】
<剥離性>
上記の如くスパッタの付着防止性を評価した後のスパッタ付着防止塗膜を、SPCC鋼板から引き剥がしたときに、塗膜が綺麗に剥がれるか否かを、以下の三段階で評価した。
○:SPCC鋼板上に塗膜の残留部なし
△:SPCC鋼板上に塗膜の残留部あり
×:塗膜の千切れ等によって剥離不能
【0022】
<実施例1>
バインダ成分となる合成樹脂組成物を水中に分散させた30wt%アクリルシリコーンエマルジョン50重量部を、羽根型攪拌機で攪拌させながら、そのエマルジョン中に、平均粒径18μmの中空マイクロガラス18重量部を添加し、防錆剤として水酸化マグネシウム0.3重量部を添加し、さらに、1−プロパノール10重量部を添加した。その後、上記混合組成物の攪拌を1時間続けることによって、スパッタ付着防止塗料を調製した。
【0023】
しかる後、そのスパッタ付着防止塗料を、刷毛によってSPCC鋼板上に塗布し、室温下にて24時間乾燥させることによって、SPCC鋼板上に、厚さ約0.5mmのスパッタ付着防止塗膜を形成させた。そして、形成されたスパッタ付着防止用塗膜の「スパッタの付着防止性」および「剥離性」を、上記した方法によって評価した。評価結果を、実施例1のスパッタ付着防止用塗料の組成とともに表1に示す。また、形成されたスパッタ付着防止塗膜の写真を
図1に示す。
【0024】
<実施例2>
バインダ成分となる合成樹脂組成物を30wt%のアクリルエマルジョンに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2のスパッタ付着防止塗料を調製した。そして、そのスパッタ付着防止塗料を、実施例1と同様の方法でSPCC鋼板上に塗布して乾燥することによって、スパッタ付着防止塗膜を形成した。しかる後、実施例1と同様な方法によって、形成された塗膜の「スパッタの付着防止性」および「剥離性」を評価した。評価結果を、実施例1のスパッタ付着防止用塗料の組成とともに表1に示す。
【0025】
<実施例3>
バインダ成分となる合成樹脂組成物に加える中空構造の無機酸化物を平均粒径45μmのフライアッシュバルーンに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3のスパッタ付着防止塗料を調製した。そして、そのスパッタ付着防止塗料を、実施例1と同様の方法でSPCC鋼板上に塗布して乾燥することによって、スパッタ付着防止塗膜を形成した。しかる後、実施例1と同様な方法によって、形成された塗膜の「スパッタの付着防止性」および「剥離性」を評価した。評価結果を、実施例1のスパッタ付着防止用塗料の組成とともに表1に示す。
【0026】
<実施例4>
バインダ成分となる合成樹脂組成物に加える中空構造の無機酸化物を平均粒径200μmのフライアッシュバルーンに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4のスパッタ付着防止塗料を調製した。そして、そのスパッタ付着防止塗料を、実施例1と同様の方法でSPCC鋼板上に塗布して乾燥することによって、スパッタ付着防止塗膜を形成した。しかる後、実施例1と同様な方法によって、形成された塗膜の「スパッタの付着防止性」および「剥離性」を評価した。評価結果を、実施例1のスパッタ付着防止用塗料の組成とともに表1に示す。
【0027】
<比較例1>
市販のエアゾール型スパッタ付着防止塗料(オリック社製 製品名「ソリトンBN」、アルキッド樹脂に酸化チタン粒子等を添加したもの)をSPCC鋼板上に噴き付けて塗布し、室温で24時間乾燥することによって、スパッタ付着防止塗膜を形成した。しかる後、実施例1と同様な方法によって、形成された塗膜の「スパッタの付着防止性」および「剥離性」を評価した。評価結果を、実施例1のスパッタ付着防止用塗料の組成とともに表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から、合成樹脂のエマルジョン中に中空構造を有する無機酸化物を分散させた実施例1〜3の塗料を塗布することによって得られるスパッタ付着防止塗膜は、良好なスパッタの付着防止性を発現することが分かる。加えて、実施例1〜3の塗料を塗布することによって得られるスパッタ付着防止塗膜は、容易に剥離できることも分かる。
【0030】
これに対して、アルキッド樹脂を主成分とする比較例1の市販のスパッタ付着防止塗料を塗布することによって得られるスパッタ付着防止塗膜は、スパッタの付着防止性が不十分であることが分かる。加えて、比較例1のスパッタ付着防止塗料を塗布することによって得られるスパッタ付着防止塗膜は、剥離性が不良であることも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のスパッタ付着防止用塗料は、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、スパッタの付着防止機能を奏する塗膜を形成するための塗料として好適に用いることができる。