(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062238
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】野球又はソフトボールの捕手用プロテクター
(51)【国際特許分類】
A63B 71/12 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
A63B71/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-283970(P2012-283970)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-124392(P2014-124392A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】大冢 陽右
(72)【発明者】
【氏名】西川 範浩
(72)【発明者】
【氏名】西脇 剛史
(72)【発明者】
【氏名】河本 勇真
(72)【発明者】
【氏名】水田 尚繁
【審査官】
宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05020156(US,A)
【文献】
実開昭57−054481(JP,U)
【文献】
実開昭56−113568(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 71/12
A63B 71/08
A41D 13/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捕手の胸部と腹部を覆う保護パッドに、両肩から反対側の両脇腹に向かうX字状を描く曲げ剛性が低い凹状溝を設け、この凹状溝の交叉部が、胸部の体の中心よりも送球する腕側に寄った胸部に位置し、X字状の凹状溝のうち、送球する腕側の肩からX字状の凹状溝の交叉部までが凸状に湾曲し、交叉部から送球する腕と反対側の脇腹に向かって凹状に湾曲し、送球する腕と反対側の肩からX字状の凹状溝の交叉部までが凹状に湾曲し、交叉部から送球する腕側の脇腹に向かって凸状に湾曲していることを特徴とする野球又はソフトボール捕手用プロテクター。
【請求項2】
保護パッドに形成されたX字状の凹状溝が、曲げ剛性が低い屈曲ラインである請求項1記載の野球又はソフトボール捕手用プロテクター。
【請求項3】
曲げ剛性が低い屈曲ラインが、保護パッドを分断して形成されている請求項2記載の野球又はソフトボール捕手用プロテクター。
【請求項4】
保護パッドに形成されたX字状の凹状溝によって形成された曲げ剛性が低い屈曲ラインと平行に、曲げ剛性が低い複数本の第3の屈曲ラインを設けたことを特徴とする請求項2に記載の野球又はソフトボール捕手用プロテクター。
【請求項5】
X字状の凹状溝のうち、送球する腕と反対側の肩から送球する腕側の脇腹に向かう屈曲ラインの曲げ剛性が、屈曲ラインの中で最も低く設定されている請求項4に記載の野球又はソフトボール捕手用プロテクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、野球又はソフトボールの捕手が主に胸部と腹部を保護するために装着するプロテクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
野球やソフトボールの捕手は、胸部と腹部を保護するためにプロテクターを装着することが義務付けられている。
【0003】
この捕手用のプロテクターには、フィット性、動き易さ、緩衝性、低反発、軽量性が求められる。特に、フィット性は、捕球、送球、及びフィールディングなどの捕手のパフォーマンスに直接影響を与えるため特に重要であり、単に身体にフィットするだけではなく、動作しやすいことが求められる。
【0004】
このため、従来の捕手用プロテクターは、運動動作中における胴部と保護パッド部のフィット性を向上させるために、特許文献1や特許文献2に示すように、胴部を保護する保護パッド部に、複数本の凹状溝を設け、凹状溝によって動作に追随して保護パッド部が折れ曲がり易くする工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−280426号公報
【特許文献2】特開2002−177435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、捕手は、各塁への送球以外にピッチャーへの返球、盗塁の阻止というように、送球動作が多く、送球動作の際には、胴部の上半部を捩じって、肩部を大きく回転させるという左右が非対称な動作となり、この動作により胴部には非常に大きな変形と変位が発生する。
【0007】
ところが、従来の捕手用プロテクターの保護パッド部を折れ曲がり易くするための凹状溝の配置は、左右対象に配置しているものがほとんどであり、特に、捕手の送球動作の際のフィット性を考慮したものはない。
【0008】
したがって、従来の捕手用のプロテクターを装着して、送球動作を行うと、プロテクターが、左右非対称な胴部の動きに追随できず、フィット性が欠如するという問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、送球動作の際に、左右非対称な動きに追随して、保護パッド部が折れ曲がり、フィット性が向上する機能を備えた野球又はソフトボールの捕手用プロテクターを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る野球又はソフトボールの捕手用プロテクターは、上記の課題を解決するために、捕手の胸部と腹部を覆う保護パッドに、送球する腕と反対側の肩から、胸部の体の中心よりも送球する腕側に寄った位置を経て送球する腕側の脇腹に向かう曲げ剛性が低い第1屈曲ラインを設けたことを特徴とする。
【0011】
保護パッドを曲げ易くする第1屈曲ラインは、保護パッドを構成する緩衝材に凹状溝を形成したり、緩衝材を分断したり、あるいは凹状溝の底部の緩衝材をより剛性が低い素材にすることによって形成することができる。
【0012】
ここで、この発明において、屈曲のラインを形成する手段としては、溝で分断して凹みを設ける以外にも、フラットな状態で材料を変えて剛性を変化させる等の手段でもよい。
【0013】
胸部と腹部を覆う保護パッドに、第1屈曲ライン以外に、送球する腕側の肩から胸部の体の中心よりも送球する腕側に寄った位置を経て送球する腕と反対側の脇腹に向かう曲げ剛性が低い第2屈曲ラインを設けるようにしてもよい。
【0014】
前記第1屈曲ラインと第2屈曲ラインに対してほぼ平行に、曲げ剛性が低い複数本の第3の屈曲ラインを設けるようにしてもよい。
【0015】
前記第1屈曲ラインと第2屈曲ラインと第3の屈曲ラインのうち、第1屈曲ラインの曲げ剛性を最も低く設定することが好ましい。
【0016】
また、この発明に係る野球又はソフトボールの捕手用プロテクターは、前記保護パッドを仕切る複数本の凹状溝の中に、両肩から反対側の両脇腹に向かうX字状を描く凹状溝を有し、このX字状の凹状溝の交叉部が、胸部の体の中心よりも送球する腕側に寄った胸部に位置することが好ましい。これにより、送球動作時に、捕手の胴体部に左右非対称に発生する引張及び圧縮ひずみ分布に対応したプロテクターの変形が可能となる。
【0017】
また、この発明に係る野球又はソフトボールの捕手用プロテクターは、前記X字状の凹状溝のうち、送球する腕側の肩からX字状の凹状溝の交叉部までが凸条になだらかに湾曲し、交叉部から投球する腕と反対側の脇腹に向かって凹状になだらかに湾曲し、送球する腕と反対側の肩からX字状の凹状溝の交叉部までが凹状になだらかに湾曲し、交叉部から送球する腕側の脇腹に向かって凸状になだらかに湾曲していることが好ましい。これにより、送球動作時における捕手の胴体の変形とプロテクターの変形とがより一層対応する。つまりは、着用時だけに留まらず、動作中のフィット性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
この発明においては、上記のように、捕手の胸部と腹部を覆う保護パッドに、送球する腕と反対側の肩から、胸部の体の中心よりも送球する腕側に寄った位置を経て送球する腕側の脇腹に向かう曲げ剛性が低い第1屈曲ラインを設けることにより、送球動作のように、上半部が左右非対称で大きく回転しても、保護パッドが第1屈曲ラインに沿って折れ曲がるので、捕手の胴部にプロテクターがフィットし、捕手の運動機能を阻害しないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明に係る野球又はソフトボールの捕手用プロテクターの実施形態を示す正面図である。
【
図2A】
図1のA−A’線に沿って厚み方向に切断した断面図である。
【
図2B】
図1のA−A’線に沿って厚み方向に切断した断面図である。
【
図2C】
図1のA−A’線に沿って厚み方向に切断した断面図である。
【
図2D】
図1のA−A’線に沿って厚み方向に切断した断面図である。
【
図2E】
図1のA−A’線に沿って厚み方向に切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に係る野球又はソフトボールの捕手用プロテクター1を、右投げの場合を例にして具体的に説明する。
【0021】
図1に示すこの発明に係るプロテクター1は、正面から見た状態を示している。
【0022】
捕手用プロテクター1は、身体の胸部と腹部を覆う保護パッド2を備えている。
【0023】
保護パッド2は、表皮2aと裏生地2bの間に、緩衝材2cを収容して形成されている。
【0024】
表皮2aと裏生地2bは、人工皮革、天然皮革、あるいは布素材によって形成されている。
【0025】
緩衝材2cは、ポリエチレン、ポリウレタン、EVA樹脂などの発泡体や、他のクッション材、等からなる。
【0026】
保護パッド2には、捕球、送球、及びフィールディングなどの捕手のパフォーマンスを妨げないように、捕手の動作に応じて屈曲するように多数本の屈曲ライン3を設けて、捕手の身体へのフィット性を確保している。
【0027】
保護パッド2に設けた多数本の屈曲ライン3のうち、この発明は、特に、左側の肩から、胸部の体の中心よりも右腕側に寄った位置を経て右腕側の脇腹に向かう屈曲ライン3を、曲げ剛性が低い第1屈曲ライン3aとして、投球動作の際のフィット性を確保している。
【0028】
第1屈曲ライン3aは、
図1に一点鎖線で示しており、正確には、送球動作の際に、捕手の胸部に生じる圧縮ひずみ分布における変形状態が大きく変化する境界線であり、左肩峰端近傍の点P2を通り、右乳頭近傍の点P5を経て、右第11肋骨骨端近傍の点P3に至り、P2からP5までのラインが、凹状になだらかに湾曲し、P5からP3までのラインが、凸状になだらかに湾曲している。
【0029】
また、
図1の実施形態では、第1屈曲ライン3aの他に、送球動作の際のフィット性をより向上させるために、右腕側の肩から胸部の体の中心よりも右腕側に寄った位置を経て左腕側の脇腹に向かう曲げ剛性が低い第2屈曲ライン3bを設けている。
【0030】
第2屈曲ライン3bも、
図1に二点鎖線で示しており、正確には、送球動作の際に、捕手の胸部に生じる引張ひずみ分布における変形状態が大きく変化する境界線であり、右肩峰端近傍の点P1を通り、右乳頭近傍の点P5を経て、左第11肋骨骨端近傍の点P4に至り、P1からP5までのラインが、凸状になだらかに湾曲し、P5からP4までのラインが、凹状になだらかに湾曲している。
【0031】
送球動作の際のフィット性に最も重要な屈曲ライン3は、第1屈曲ライン3aであり、屈曲ライン3の曲げ剛性は、第1屈曲ライン3aの曲げ剛性が最も低く、即ち、最も曲がり易くする構成が望ましい。
【0032】
即ち、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bとの曲げ剛性の関係は、第1屈曲ライン3a≦第2屈曲ライン3b、第1屈曲ライン3aと屈曲ライン3との曲げ剛性の関係は、第1屈曲ライン3a≦屈曲ライン3にすることが好ましい。
【0033】
第1屈曲ライン3a、第2屈曲ライン3b、他の屈曲ライン3の3者間の曲げ剛性の関係は、第1屈曲ライン3a≦第2屈曲ライン3b≦屈曲ライン3、より好ましくは、第1屈曲ライン3a<第2屈曲ライン3b<屈曲ライン3である。
【0034】
図1の実施形態では、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3b以外の他の屈曲ライン3の複数本が、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bに対してほぼ平行に沿うように設けている。
【0035】
上記第1屈曲ライン3a、第2屈曲ライン3b、屈曲ライン3は、保護パッド2をラインに沿って曲げ易くするためのものであり、例えば、表皮2aと裏生地2bの間に挿入した緩衝材2cに凹状溝を形成したり、緩衝材2cを分断したり、あるいは凹状溝の底部の緩衝材2cをより剛性が低い素材にすることによって形成することができる。
【0036】
図2A〜
図2Eは、
図1のA−A’線に沿って厚み方向に切断した断面を示している。
【0037】
図2Aは、表皮2aと裏生地2bの間に挿入した緩衝材2cに凹状溝を設けて曲げ剛性を低くした実施形態であり、第1屈曲ライン3aの凹状溝が、他の第2屈曲ライン3bと屈曲ライン3の凹状溝よりも深く形成され、第1屈曲ライン3aの曲げ剛性が最も低くなるようにしている。第2屈曲ライン3bは、第3の屈曲ライン3の凹状溝よりも深く形成され、屈曲ライン3の曲げ剛性よりも第2屈曲ライン3bの曲げ剛性が低くなるようにしている。
【0038】
図2Bは、表皮2aと裏生地2bの間に挿入した緩衝材2cを、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bで分断した実施形態であり、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bに沿ってより曲がり易くしている。
【0039】
図2Cは、表皮2aと裏生地2bの間に挿入した緩衝材2cを、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bで分断し、さらに、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bの部分の裏生地2bを低剛性素材2dで形成した実施形態であり、第1屈曲ライン3aに沿ってより曲がり易くしている。
【0040】
図2Dは、表皮2aと裏生地2bの間に挿入した緩衝材2cに凹状溝を設けて曲げ剛性を低くし、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bの凹状溝の底部と裏生地2bの間に、緩衝材2cよりも低剛性の緩衝材2eを収容し、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bの曲げ剛性を他の屈曲ライン3の曲げ剛性よりも低くした実施形態を示している。
【0041】
図2Eは、表皮2aと裏生地2bの間に挿入した緩衝材2cを、第1屈曲ライン3aに沿って分断し、第1屈曲ライン3aの表皮2aと裏生地2bの間に低剛性の緩衝材2eを収容し、さらに、第2屈曲ライン3bに沿って形成した凹状溝の底部と裏生地2bの間に、緩衝材2cよりも低剛性の緩衝材2eを収容し、第1屈曲ライン3aと第2屈曲ライン3bの曲げ剛性を他の屈曲ライン3の曲げ剛性よりも低くした実施形態を示している。
【符号の説明】
【0042】
1 捕手用プロテクター
2 保護パッド
2a 表皮
2b 裏生地
2c 緩衝材
2d 低剛性素材
2e 緩衝材
3 屈曲ライン
3a 第1屈曲ライン
3b 第2屈曲ライン