(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062276
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ローラチェーン
(51)【国際特許分類】
F16G 13/02 20060101AFI20170106BHJP
F16G 13/06 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
F16G13/02 B
F16G13/06 C
F16G13/06 E
F16G13/02 G
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-25379(P2013-25379)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-152908(P2014-152908A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】591108905
【氏名又は名称】オリエンタルチエン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090712
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 忠秋
(72)【発明者】
【氏名】津川 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】吉本 和生
【審査官】
前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】
実開平01−149048(JP,U)
【文献】
特開2011−149071(JP,A)
【文献】
特開2001−200849(JP,A)
【文献】
特開平11−100654(JP,A)
【文献】
特開2006−225730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内プレートの両端部のブシュと外プレートの両端部のピンとを介して前記内プレート、外プレートを交互に屈曲自在に連結するとともに、前記各ブシュにローラを回転自在に装着してなり、前記ブシュは、焼結金属に潤滑油を含浸させ、前記ピンは、ダイヤモンド粒子が均一に分散する無電解Ni めっきの複合めっき皮膜を表面に形成し、前記ダイヤモンド粒子は、平均粒径10〜200nmとし、前記複合めっき皮膜は、前記ダイヤモンド粒子の含有率1〜10vol %とすることを特徴とするローラチェーン。
【請求項2】
前記複合めっき皮膜は、少なくとも膜厚2μm とすることを特徴とする請求項1記載のローラチェーン。
【請求項3】
前記ピンは、炭素鋼材製であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のローラチェーン。
【請求項4】
前記ピンは、ステンレス材製であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のローラチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、長期の無給油運転が可能な長寿命のローラチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
長期の無給油運転が可能なローラチェーンが知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
従来のローラチェーンは、あらかじめ潤滑油を含浸させた焼結金属のブシュと、表面に電気Ni めっきを施したピンとを介して内プレート、外プレートを交互に屈曲自在に連結するとともに、内プレート、外プレートの対向面の間にフェルト製の吸湿材を介在させ、吸湿材にも潤滑油を含浸させて構成されている。吸湿材は、大量の潤滑油を吸収して保持することができるため、長期に亘って潤滑油の供給機能を維持することができ、チェーン全体としての耐摩耗性能を向上させて長期の無給油運転をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3280312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、ローラチェーンは、組立の際に、フェルト製の吸湿材をリンクごとに組み込む必要があるため、組立作業が煩雑であり、製造コストが過大になりがちであるという問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、ダイヤモンド粒子を分散させた無電解Ni めっきをピンの表面に施すことによって、耐摩耗性を向上させ、煩雑な吸湿材を使用しなくて済む長寿命のローラチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、内プレートの両端部のブシュと外プレートの両端部のピンとを介して内プレート、外プレートを交互に屈曲自在に連結するとともに、各ブシュにローラを回転自在に装着してなり、ブシュは、焼結金属に潤滑油を含浸させ、ピンは、ダイヤモンド粒子が均一に分散する無電解Ni めっきの複合めっき皮膜を表面に形成し、ダイヤモンド粒子は、平均粒径10〜200nmとし、複合めっき皮膜は、ダイヤモンド粒子の含有率1〜10vol %とすることをその要旨とする。
【0009】
また、複合めっき皮膜は、少なくとも膜厚2μm としてもよい。
【0010】
さらに、ピンは、炭素鋼材製としてもよく、ステンレス材製としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
かかる発明の構成によるときは、複合めっき皮膜中のダイヤモンド粒子は、無電解Ni めっきのNi と同時に共析することにより、複合めっき皮膜の耐摩耗性を向上させ、煩雑な吸湿材を使用することなく、ローラチェーンの耐久寿命を必要十分に向上させることができる。なお、複合めっき皮膜は、複合めっき液を調整する際の還元剤として次亜リン酸ナトリウムを使用してNi −Pとすることが好ましいが、還元剤としてジメチルアミンボランを使用してNi −Bとしてもよく、還元剤としてヒドラジンを使用してもよい。また、ダイヤモンド粒子は、凝集を防止して複合めっき液中に均一に、しかも安定に分散させるために、親水性ポリマーまたはイオン性官能基を表面に導入し、イオン性または非イオン性の界面活性剤を添加して水性分散液に調整し、Ni イオンの金属めっき液に混合して無電解Ni めっき処理用の複合めっき液として調整することができる。
【0012】
ダイヤモンド粒子は、平均粒径10〜200nmのナノダイヤモンドとすることにより、良好な耐摩耗性を実現することができる。平均粒径10nm未満であると、取扱いが難しくなる一方、平均粒径200nm超では、摺動の相手方のブシュに対する攻撃性が過大になりがちである。なお、ダイヤモンド粒子は、球状構造の多結晶タイプのナノダイヤモンドが好適であるが、単結晶タイプやクラスタタイプであってもよい。
【0013】
ダイヤモンド粒子は、複合めっき皮膜中において、含有率1〜10vol %とするのがよく、より好ましくは2〜8vol %とするのがよい。これらの数値範囲を外れると、チェーンの耐久性能が低下することが確認されている。
【0014】
複合めっき皮膜は、少なくとも膜厚2μm とするのがよい。膜厚2μm未満では、十分なチェーンの耐久性能が期待できないからである。
【0015】
なお、ピンは、炭素鋼材製、ステンレス材製のいずれであってもよい。ただし、内プレート、外プレートは、それぞれピンと同系の材料製とすることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0018】
ローラチェーンは、内プレート11、11…、外プレート13、13…を交互に連結してなる(
図1)。ただし、
図1(A)、(B)は、それぞれ一部破断要部平面図、要部正面図である。
【0019】
ローラチェーンは、内プレート11、11の両端部のブシュ12、12と外プレート13、13の両端部のピン14、14とを介し、各一対の内プレート11、11…、外プレート13、13…を交互に屈曲自在に連結して構成されている。なお、各ブシュ12、各ピン14は、それぞれ対応する内プレート11、11、外プレート13、13に対して相対回転不能に組み合わされ、各ピン14は、対応する各ブシュ12に相対回転自在に挿通されている。また、各ブシュ12には、ローラ15が回転自在に装着されている。
【0020】
各ブシュ12は、多孔質の焼結金属に潤滑油を含浸させ、いわゆる含油焼結ブシュとして形成されている。また、各ピン14は、炭素鋼材製またはステンレス材製の素材に対し、ナノダイヤモンドのダイヤモンド粒子が均一に分散する無電解Ni めっきの複合めっき皮膜が表面に形成されている。ただし、ピン14上の複合めっき皮膜は、少なくともブシュ12と接触する部位に形成すればよく、ブシュ12と接触しない部位は、複合めっき皮膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。
【0021】
ピン14に施す無電解Ni めっきの複合めっき皮膜の種類によるローラチェーンの連続運転試験データ例を
図2以下に示す。
図2において、実施例1〜6の複合めっき皮膜は、ダイヤモンド粒子NDを均一に分散したNi −Pである。また、実施例1〜6は、複合めっき皮膜の膜厚(μm )、ダイヤモンド粒子NDの含有率(vol %)、平均粒径(nm)、めっき皮膜硬さ(Hv )の各パラメータによって区分されている。比較例1の複合めっき皮膜は、ダイヤモンド粒子NDを含まないNi −Pであり、比較例2のめっき皮膜は、従来の電気Ni めっきによるNi 皮膜である。なお、実施例1〜6、比較例1、2に共通の主な試験条件は、供試ローラチェーンのサイズ#40、張力184kgf 、走行スピード53m/分による連続無給油常温運転とした。
【0022】
実施例1〜6、比較例1、2の連続運転試験結果データを
図3にまとめて示す。なお、
図3の横軸、縦軸は、それぞれローラチェーンの運転時間(H)、摩耗伸び率(%)である。
図3において、ピン14の耐摩耗性に基づく供試ローラチェーンの寿命として、摩耗伸び率0.3%に達する運転時間(H)を定義すると、実施例3、4は、いずれも寿命2400H超であって最良であり、つづいて、実施例2の寿命約2400H、実施例5、1の寿命約1750〜1800H、実施例6の寿命約1500Hの順となり、次いで、比較例1の寿命約1000H、比較例2の寿命約600Hとなっている。
【0023】
次に、
図3から、複合めっき皮膜中のダイヤモンド粒子NDの平均粒径に着目して実施例2、4のデータを抽出すると、
図4のとおりである。すなわち、平均粒径50nmの実施例4の方が平均粒径100nmの実施例2より寿命が長く、耐久性が良好であることが分かる。
【0024】
また、
図3から、複合めっき皮膜の膜厚に着目して実施例1、3のデータを抽出すると、
図5のとおりである。そこで、
図5において、実施例1(膜厚5μm )の寿命1800Hに対して実施例3(膜厚12μm )の寿命2700H=1.5×1800Hと推定すると、膜厚5μm を基準とする膜厚の違いによる寿命比(倍)は、たとえば
図6のように想定することができ、複合めっき皮膜の膜厚に応じて寿命の向上を図ることができる。なお、
図6によれば、膜厚2μm 以上であれば、比較例1、2より格段に良好な耐摩耗性能を期待できることが分かる。
【0025】
同様に、
図3から、複合めっき皮膜中のダイヤモンド粒子NDの含有率に着目して実施例1、4〜6、比較例1のデータを抽出すると、
図7、
図8のとおりである。ただし、
図7、
図8において、含有率5vol %に相当する実施例4の寿命2700Hと推定することとし、含有率10vol %、20vol %にそれぞれ相当する実施例5、6の寿命1750H、1500Hは、実施例1、4の膜厚5μm に対して実施例5、6の膜厚8μm であるため寿命が1.25倍に増大していると考えて(
図6)、それぞれ1/1.25=0.8倍して、1750×0.8=1400H、1500×0.8=1200Hに修正されている。
【0026】
図8によれば、複合めっき皮膜中のダイヤモンド粒子NDの含有量は、約5vol %が最良であり、1〜10vol %が好ましく、より好ましくは2〜8vol %とするのがよく、一層好ましくは3〜7vol %とするのがよい。
【0027】
以上の説明において、ローラチェーンは、2列以上の複列に構成してもよい。また、ローラチェーンは、動力伝導用、物品搬送用を含む任意の用途に使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は、あらゆる用途のローラチェーンに対し、広く好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
ND…ダイヤモンド粒子
11…内プレート
12…ブシュ
13…外プレート
14…ピン
15…ローラ
特許出願人 オリエンタルチエン工業株式会社