特許第6062283号(P6062283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062283
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】混練機
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/22 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   B29B7/22
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-33841(P2013-33841)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-162069(P2014-162069A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】312005957
【氏名又は名称】三菱重工マシナリーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】紺野 勇哉
(72)【発明者】
【氏名】岸本 寿則
(72)【発明者】
【氏名】安井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】森部 高司
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−038034(JP,A)
【文献】 特開昭60−168623(JP,A)
【文献】 特開2003−277861(JP,A)
【文献】 特開平06−145856(JP,A)
【文献】 特開昭61−241105(JP,A)
【文献】 特開2011−206748(JP,A)
【文献】 特開2001−335867(JP,A)
【文献】 特開2006−063358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00− 7/84
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練材を混練室に収容して混練ロータで混練する混練機であって、
前記混練室と外部とを区画する少なくとも一つの区画部材と、
前記区画部材の前記混練室と面する内面を覆い、前記混練材に対して耐摩耗性を有する材料で形成された硬質皮膜と、
前記区画部材の内面で、前記硬質皮膜の縁部を覆い、該硬質皮膜を形成する材料よりも高靱性の材料で形成された保護部材と、
を備え、
前記区画部材は、
前記混練室を覆い、前記混練室から上方に向って開口している上部開口と、前記混練室から下方に向って開口している下部開口とが形成されているチャンバーと、
前記上部開口を開閉するように上下動可能に設けられたフローティングウェイトと、
前記下部開口を開閉するように上下動可能に設けられたドロップドアと、
を有し、
前記保護部材は、前記チャンバー、前記フローティングウェイト、及び前記ドロップドアのそれぞれに設けられた前記硬質皮膜の全ての縁部に設けられており、
前記保護部材には、前記内面側を向く二つの面である第一面、及び第二面と、これらの間に配された前記混練ロータの周方向を向く面である段差面とが形成されており、
前記硬質皮膜の前記縁部には、前記第一面、前記第二面、前記段差面に対応して接触するような面が形成されて、前記縁部が前記保護部材と嵌め合わされるような階段形状をなしており、
前記第一面は前記硬質皮膜に接触し、前記第二面は、前記内面に接触している混練機。
【請求項2】
前記保護部材は、前記区画部材にボルトによって固定されている請求項1に記載の混練機。
【請求項3】
前記混練材として、シリカを含有する材料を混練し、
前記硬質皮膜は、前記シリカに対して耐摩耗性を有する材料で形成されている請求項1又は2に記載の混練機。
【請求項4】
前記硬質皮膜は、タングステンカーバイドを含有するサーメット皮膜である請求項1からのいずれか一項に記載の混練機。
【請求項5】
前記硬質皮膜は、自溶性合金の溶射皮膜である請求項1からのいずれか一項に記載の混練機。
【請求項6】
前記硬質皮膜は、ゾルゲル法によるセラミックスコーティングである請求項1からのいずれか一項に記載の混練機。
【請求項7】
前記保護部材は、前記高靱性の材料としてビッカース硬さHv700以下の合金材料を用いている請求項1からのいずれか一項に記載の混練機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム原料等の混練材を撹拌する混練機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、混練室内に圧入されたゴム、プラスチック等よりなるタイヤ等の原料となる混練材を、ロータ軸の回転によって撹拌する密閉式混練機が知られている。このような混練機においては混練材の混練の際に、ロータ及び混練室内面に混練材による摩耗が発生する。
【0003】
ここで、特許文献1には、混練機において表面にサーメットの溶射皮膜を積層して耐摩耗性、耐食性等を図ったロータが、また特許文献2には、表面に溶射層を形成し、耐摩耗性の向上を図ったロータが記載されている。
またこれまで、混練室の内面においては、クロムメッキや肉盛溶接を施すことで混練室に耐摩耗性を付与し、混練機の寿命の向上を図っている。
【0004】
ところで、近年の環境保護の要求から、車の燃費向上を図ることのできるタイヤ、いわゆるエコタイヤの需要が高まっている。エコタイヤとは、タイヤの耐摩耗性及びグリップ力を犠牲にすることなく転がり抵抗低減を可能としたタイヤであり、このようなエコタイヤに用いる原料にはシリカを添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4264219号
【特許文献2】特許第2638256号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シリカを添加したタイヤの原料を混練材として混練室で混練した場合には、混練室の内面が摩耗し易くなってしまい、この場合、従来のクロムメッキや肉盛溶接では十分な耐摩耗性を得ることができないなどの問題がある。ここで、特許文献1、2に記載された溶射皮膜を混練室内面に適用して耐摩耗性を向上することも可能であるが、混練室内面はロータ表面の形状と全く異なるため、そのままの適用は難しい。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、コストを抑えるとともに、混練材に対して十分に耐摩耗性を得ることのできる混練機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る混練機は、混練材を混練室に収容して混練ロータで混練する混練機であって、前記混練室と外部とを区画する少なくとも一つの区画部材と、前記区画部材の前記混練室と面する内面を覆い、前記混練材に対して耐摩耗性を有する材料で形成された硬質皮膜と、前記区画部材の内面で、前記硬質皮膜の縁部を覆い、該硬質皮膜を形成する材料よりも高靱性の材料で形成された保護部材と、を備え、前記区画部材は、前記混練室を覆い、前記混練室から上方に向って開口している上部開口と、前記混練室から下方に向って開口している下部開口とが形成されているチャンバーと、前記上部開口を開閉するように上下動可能に設けられたフローティングウェイトと、前記下部開口を開閉するように上下動可能に設けられたドロップドアと、を有し、前記保護部材は、前記チャンバー、前記フローティングウェイト、及び前記ドロップドアのそれぞれに設けられた前記硬質皮膜の全ての縁部に設けられており、前記保護部材には、前記内面側を向く二つの面である第一面、及び第二面と、これらの間に配された前記混練ロータの周方向を向く面である段差面とが形成されており、前記硬質皮膜の前記縁部には、前記第一面、前記第二面、前記段差面に対応して接触するような面が形成されて、前記縁部が前記保護部材と嵌め合わされるような階段形状をなしており、前記第一面は前記硬質皮膜に接触し、前記第二面は、前記内面に接触している。
【0009】
このような混練機によると、区画部材の内面を硬質皮膜で覆うことによって、母材となる区画部材への密着性が良好であるとともに、硬さを確保できるため、混練材による区画部材の摩耗を十分に抑制することができる。また、このような硬質皮膜を用いることで、区画部材の内面に肉盛溶接を施す場合に比べて施工が容易でありコストメリットがある。
さらに、肉盛溶接と同じ耐摩耗性を得ようとした場合には、膜厚を非常に薄くすることができるため、仮に摩耗したとしても区画部材の内面にそれほど大きな凹凸形状が形成されることがなく、このような摩耗による内面の凹凸によって混練機の性能低下が発生しにくい。一方で、このような硬質皮膜は靭性が低く、特に縁部では割れや欠けが生じ易いが、この縁部を靭性の高い材料の保護部材で覆っているため、縁部の割れや欠けを抑制することができる。さらに、チャンバー及び開閉部材の各々の内面において硬質皮膜を施して硬質皮膜の縁部に保護部材を設けることになるため、確実に混練室内の混練材からの摩耗を抑制することができる。
【0012】
さらに、前記保護部材は、前記区画部材にボルトによって固定されていてもよい。
【0013】
このように保護部材をボルト固定することで、溶接等での熱によって保護部材が変形してしまうことがないため、より精度よく保護部材を設置することができる。さらに、保護部材の交換も容易であることや、保護部材に溶接での設置が不可能な材料を用いることも可能であるため、材料の選択肢が広がる。
【0016】
さらに、前記混練材としてシリカを含有する材料を混練し、前記硬質皮膜は、前記シリカに対して耐摩耗性を有する材料で形成されていてもよい。
【0017】
このように、例えばエコタイヤに用いられるシリカを含有する混練材を混練する場合には、区画部材の内面に高い耐摩耗性を要求されるが、このような硬質皮膜を用いることで、確実に区画部材の内面の摩耗を抑制することができる。
【0018】
また、前記硬質皮膜は、タングステンカーバイドを含有するサーメット皮膜であってもよい。
【0019】
このような硬質皮膜を用いることで、区画部材の内面に非常に硬い皮膜を生成することができ、混練材による区画部材の摩耗を十分に抑制することができる。
【0020】
さらに、前記硬質皮膜は、自溶性合金の溶射皮膜であってもよい。
【0021】
このような硬質皮膜を用いることで、区画部材の内面に硬い皮膜を生成することができるとともにある程度の靭性を得ることが可能であるため、硬質皮膜自身の割れや欠け等をある程度抑制しながら、混練材による区画部材の摩耗を抑制することができる。
【0022】
また、前記硬質皮膜は、ゾルゲル法によるセラミックスコーティングであってもよい。
【0023】
このような硬質皮膜を用いることで、区画部材の内面に非常に硬い皮膜を生成することができ、混練材による区画部材の摩耗を十分に抑制することができる。
【0024】
さらに、前記保護部材は、前記高靱性の材料としてビッカース硬さHv700以下の合金材料を用いていてもよい。
【0025】
このように、保護部材がビッカース硬さHv700以下の合金を材料としていることで、区画部材の内面の硬質皮膜よりも保護部材の方が硬さの数値が小さくできるため、硬質皮膜の縁部での割れや欠けをより確実に抑制できる。
【0026】
また、本発明に係る混練機用部材は、混練材を混練室に収容して混練ロータで混練する混練機で、該混練材によって摩耗し得る部位に用いられる混練機用部材であって、基材と、前記基材の前記混練材側の面を覆い、該混練材に対して耐摩耗性を有する材料で形成された硬質皮膜と、前記基材の前記面で、前記硬質皮膜の縁部を覆い、該硬質皮膜を形成する材料よりも高靱性の材料で形成された保護部材とを備える。
【0027】
このような混練機用部材によると、母材となる基材への密着性が良好であるとともに、硬さを確保できるため、基材の摩耗を十分に抑制することができる。また、このような硬質皮膜を用いることで施工が容易でありコストメリットがあることや、膜厚を非常に薄くすることができるため、摩耗によって内面の凹凸が生じたとしてもそれ程大きな凹凸とはならず、混練機の性能低下が発生しにくい。また、この縁部を靭性の高い材料の保護部材を設けているため、硬質皮膜の縁部での割れや欠けを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の混練機及び、混練用部材によると、区画部材又は基材の内面を硬質皮膜で覆い、さらに硬質皮膜の縁部を保護部材で覆うことで、コストを抑えるとともに、混練材に対して十分な耐摩耗性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第一参考例に係る混練機を示す概略断面図である。
図2】本発明の第一参考例に係る混練機に関し、チャンバーの要部を示す図1のA部拡大断面図である。
図3】本発明の第一参考例の変形例に係る混練機に関し、チャンバーの要部の断面図である。
図4】本発明の第二参考例に係る混練機に関し、チャンバーの要部の断面図である。
図5】本発明の第三参考例に係る混練機に関し、チャンバーの要部の断面図である。
図6】本発明の第三参考例の第一変形例に係る混練機に関し、チャンバーの要部の断面図である。
図7】本発明の第三参考例の第二変形例に係る混練機に関し、チャンバーの要部の断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る混練機に関し、チャンバーの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔第一参考例
以下、本発明の第一参考例に係る混練機1について説明する。
図1に示すように、混練機1は、内部に空間が形成されたチャンバー2(区画部材、基材)と、チャンバー2の上部に設けられたフローティングウェイト11(区画部材、開閉部材)と、チャンバー2の下部に設けられたドロップドア12(区画部材、開閉部材)と、これらチャンバー2、フローティングウェイト11、ドロップドア12の各々の内面2c、11c、12cに設けられたコーティング層3とを備えている。
さらに、この混練機1は、上記空間内に配置された一対の混練ロータ4、5を備えており、いわゆる密閉式の混練機となっている。
【0031】
チャンバー2は、内部に空間が形成された部材であり、この内部の空間は混練材Wが混練される混練室Cとなっている。本参考例では、この混練材Wはエコタイヤの原料に用いられるシリカを含有するゴム原料である。
【0032】
フローティングウェイト11は、チャンバー2の上部に形成された上部開口2aを開閉可能とするように、混練材Wを投入するホッパ10によって上方から支持されて、上下動可能に設けられている。そして、このフローティングウェイト11が下降動作することで、ホッパ10から投入された混練材Wが混練室C内へ圧入される。
【0033】
ドロップドア12は、チャンバー2の下部に形成された下部開口2bを開閉可能とするように、上下動可能に設けられている。そして、このドロップドア12が下降動作することで、混練後の混練材Wが混練室Cから外部へ取り出される。
【0034】
一対の混練ロータ4、5は、同一若しくは類似した構成となっている。
そして、各々の混練ロータ4(5)は軸線P1(P2)を中心とした柱状をなす軸部4a(5a)と、軸部4a(5a)それぞれの外周面に形成された翼部4b(5b)とを有している。翼部4b(5b)は、例えば、軸線P1(P2)に対して螺旋状に形成されている。また、混練ロータ4(5)は、図示しない駆動源によって互いに逆方向に軸線P1(P2)を中心に回転可能に設けられており、回転によって混練室Cの内部の混練材Wが混練される。
ここで、混練ロータ4、5の軸線P1(P2)の延びる方向を奥行き方向とする。
【0035】
次に、図2を参照して、チャンバー2の内面2cに設けられたコーティング層3について代表して詳細を説明する。なお、詳細説明は省略するが、フローティングウェイト11の内面11c、ドロップドア12の内面12cにも同様にコーティング層3が設けられている。
【0036】
コーティング層3は混練室Cを画成するように、チャンバー2の内面2cを覆う硬質皮膜20と、硬質皮膜20の縁部20aを奥行き方向にわたって覆う保護部材21とを有している。
【0037】
硬質皮膜20は、タングステンカーバイドを含有するWC系サーメットの皮膜であり、保護部材21の設置部分を除くチャンバーの内面2cの全域を覆っている。同様に、フローティングウェイト11の内面11c、ドロップドア12の内面12cについて、保護部材21の設置部分を除く全域を覆っている。
【0038】
このWC系サーメットは、セラミックス粒子と金属粉末粒子とを成形・焼結して得られる複合材料であり、ビッカース硬さHv1000〜1200程度となっている。即ち、硬さ、耐摩耗性、耐熱性、耐酸化性を得ることができる材料であり、例えば高速フレーム溶射等の公知の溶射方法を用いて内面2cへ皮膜施工されている。また、このWCサーメットの皮膜は膜厚が0.5mm以下であって、耐摩耗性はクロムめっきと比較して40倍程度となる。なお、この耐摩耗性の数値は、ラバーホイール試験によって実際に計測した値である。
【0039】
ここで、このラバーホイール試験においては、下記の条件で試験を行った。
・ホイールの寸法:直径230mm×厚さ13mm
・ホイールの回転数:毎分200回転
・ホイールの押し付け荷重:14kg
・粉体:珪砂6号
・粉体落下量:毎分400g
【0040】
また、この硬質皮膜20は、自溶性合金の溶射皮膜であってもよい。この自溶性合金は、ホウ素、珪素を含むニッケル基合金材料、コバルト基合金材料であり、ビッカース硬さHv750〜950程度となっている。そして、さらに硬さを得るために、自溶性合金の中でもタングステンカーバイドを含有するものを用いることが好ましい。そして、例えば高速フレーム溶射等の公知の溶射方法を用いて内面2cへ皮膜施工されている。この自溶性合金の溶射皮膜は膜厚が1mm程度であって、耐摩耗性はクロムめっきと比較して10倍程度となる。この耐摩耗性の数値は、上述のラバーホイール試験によって実際に計測した値である。
【0041】
さらに、この硬質皮膜は、ゾルゲル法を用いたセラミックコーティングであってもよい。ゾルゲル法は、ゾルゲル膜形成用の溶液に内面2cを浸漬、もしくはこの溶液を内面2cへ塗布した後に熱処理することで、セラミックのコーティングを施工するものであり、ビッカース硬さHv800〜1200程度となっている。また、膜厚は0.5mm以下であって、十分な耐摩耗性を得ることが可能である。
【0042】
保護部材21は、チャンバー2とフローティングウェイト11と、及び、チャンバー2とドロップドア12とが隣接する位置で、硬質皮膜20の縁部20aに設けられている。
参考例では、軸線P2(P1)に直交する面での断面形状が四角形状をなし、硬質皮膜と同じ厚さとなるように肉盛溶接されるか、又は嵌め込まれて設けられている。
【0043】
この保護部材21は、コバルト、クロム、タングステン等を含むコバルト基合金であるステライト(登録商標)合金を材料としており、ビッカース硬さHv300〜460程度である。
【0044】
ここで、材料における硬さと靭性の関係は、高硬度であればある程、靭性値が低くなることが知られており、このようなステライト(登録商標)合金は、上述した硬質皮膜20の材料に比べて靭性値が高いものとなっている。
【0045】
また、保護部材21は、ステライト(登録商標)合金同様のコバルト基合金であるトリバロイ(登録商標)合金を材料としてもよく、この場合、ビッカース硬さHv500〜600程度であり、上述した硬質皮膜20の材料に比べて靭性値が高いものとなっている。
【0046】
さらに、保護部材21は、ニッケル基合金であるコルモノイ(登録商標)合金を材料としてもよく、この場合、ビッカース硬さHv400〜700程度であり、同様に、上述した硬質皮膜20の材料に比べて靭性値が高いものとなっている。
【0047】
また、保護部材21は、上述した硬質皮膜20よりも硬度の低い金属材料であるハイス鋼(高速度鋼)、ダイス鋼、高クロム鉄、タングステン炭化物等を材料とすることができるが、特にビッカース硬さHv700以下の合金材料が好ましい。
【0048】
このような混練機1においては、チャンバー2の内面2c(フローティングウェイト11の内面11c、ドロップドア12の内面12cも同様)を硬質皮膜20で覆うことによって、クロムめっきによる皮膜に比べて緻密に、かつ高密着状態の皮膜を得ることができるとともに、硬度が高いため、混練材Wによる摩耗を十分に抑制することができる。
【0049】
また、このような硬質皮膜20を用いることで、内面2cに肉盛溶接を施す場合に比べて施工が容易であり、大きなコストメリットがある。また、肉盛溶接と同じ耐摩耗性を得ようとした場合、膜厚を非常に薄くすることができる。具体的にはステライト(登録商標)を肉盛溶接した場合の肉厚は、硬質皮膜20に比べ20倍程度となる。
【0050】
このため、仮に硬質皮膜20が摩耗したとしても、内面2cにそれ程大きな凹凸形状が形成されることがなく、このような摩耗による内面2cの凹凸によって混練機1の性能低下が発生しにくい。
【0051】
一方で、このような硬質皮膜20は高硬度であるが故に靭性値が低く、特に縁部20aでは割れや欠けが発生し易いものの、この縁部20aに低硬度(高靭性)の材料を用いた保護部材21を設けているため、このような割れや欠けを抑制することが可能となる。
【0052】
参考例の混練機1によると、内面2cを硬質皮膜20で覆い、さらに硬質皮膜20の縁部20aを保護部材21で覆うことで、コストを抑えるとともに混練材Wに対して十分な耐摩耗性を得ることができ、製品の長寿命化が可能となる。特に、本参考例のように混練材Wがシリカを含有している場合において、大きな耐摩耗性の効果を期待できる。
【0053】
なお、図1に示すように、保護部材21は、フローティングウェイト11及びドロップドア12においては、チャンバー2と隣接する縁部20aA、20aBに適用されている。即ち、この保護部材21は、これらチャンバー2、フローティングウェイト11、ドロップドア12に硬質皮膜20を設けた際に、硬質皮膜20の縁部となるすべての位置に適用することが好ましい。
【0054】
ここで、図3に示すように、保護部材31が硬質皮膜20の厚さ寸法よりも大きくなっていてもよい。具体的には、硬質皮膜20の縁部20aの位置で、硬質皮膜20が設けられた内面2cと比べて、内面2cが混練室Cとは反対側に凹むように凹部32を形成し、この凹部32に嵌り込むように保護部材31を設ける。このようにすることで、硬質皮膜20と保護部材31とで、混練室C側を向く面を面一としながら、保護部材31の厚さ寸法を大きくすることができるため、靭性値の小さい保護部材31であっても、内面2cの摩耗を抑制することが可能である。
【0055】
〔第二参考例
次に、本発明の第二参考例係る混練機40について説明する。
なお、第一参考例と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
参考例では、保護部材41、硬質皮膜42の縁部42aの形状が第一参考例と異なっている。
図4に示すように、硬質皮膜42は、縁部42aにおいて、混練室C側から内面2cに向かって傾斜するとともに、内面2c側を向く第一傾斜面42bを有している。ここで、この第一傾斜面42bは、例えば機械加工等で形成される。
【0056】
保護部材41は、軸線P2(P1)に直交する面での断面が三角形状をなしている。具体的には、混練室C側から内面2cに向かって傾斜するとともに、混練室C側を向く第二傾斜面41bを有している。そして、この第二傾斜面41bが硬質皮膜42の第一傾斜面42bに接触するようにして、保護部材41が硬質皮膜42の縁部42aに、肉盛溶接、または、別体で嵌め込まれて設置されている。ここで、保護部材41が別体である場合には、第二傾斜面41bは、例えば機械加工等で形成される。
【0057】
参考例の混練機40によると、硬質皮膜42の縁部42aで第一傾斜面42bを形成したことで、保護部材41と硬質皮膜42との接触面積を大きくすることができるため、保護部材41をより確実に設置することができる。
【0058】
〔第三参考例
次に、本発明の第三参考例係る混練機50について説明する。
なお、第一参考例及び第二参考例と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
参考例では、保護部材51、硬質皮膜52の縁部52aの形状、及び保護部材51の設置方法が第一参考例及び第二参考例と異なっている。
【0059】
図5に示すように、硬質皮膜52は、縁部52aにおいて、混練室C側から内面2cに向かって傾斜するとともに、内面2c側を向き、かつ混練室C側に凹となるように湾曲する第一湾曲面52bを有している。ここで、この第一湾曲面52bは、例えば機械加工等で形成される。
【0060】
保護部材51は、混練室C側から内面2cに向かって傾斜するとともに、混練室C側を向き、かつ混練室C側に凸となるように湾曲する第二湾曲面51bを有している。そして、この第二湾曲面51bが硬質皮膜52の第一湾曲面52bに接触するようにして、保護部材51が硬質皮膜52の縁部52aに、別体で設置され、ボルト55が混練室C側から保護部材51を貫通するとともにこのボルト55がチャンバー2に螺合されることで、保護部材51が固定されている。ここで、第二湾曲面51bは、例えば機械加工等で形成される。
なお、硬質皮膜52の縁部52aの形状、保護部材51の形状は、本参考例のものに代えて、例えば第一参考例及び第二参考例で説明したものであってもよい。
【0061】
参考例の混練機50によると、保護部材51を別体で製造して設置することができるので、仮に肉盛溶接によって設置する場合と比較して、熱による保護部材51の変形がないため、より精度よく設置することができる。さらに、肉盛溶接に比べて施工工数の低減が可能となることや、交換も容易である。そして、保護部材51に肉盛溶接での設置が不可能な材料を用いることも可能であるため、材料の選択肢が広がる。
【0062】
ここで、図6に示すように、保護部材61は、硬質皮膜62の縁部62a及び、チャンバー2に対して、軸線P2(P1)における周方向から接触するように設けられて、ボルト55が周方向から保護部材61を貫通し、チャンバー2に螺合されることで、保護部材61が固定されていてもよい。なお本変形例では、硬質皮膜62は、縁部62aにおいて内面2c側の表面が内面2cと同じ周方向の位置まで形成されて完全に内面2cを覆うとともに、混練室C側の表面では上記周方向にチャンバー2から突出するように形成されている。即ち、保護部材61に接触する硬質皮膜62の周方向の端面は、混練室C側から内面2c側に向かうに従って周方向に傾斜する第一傾斜面62bとなっている。そして保護部材61においても、この第一傾斜面62bに接触するように第二傾斜面61bが形成されている。
【0063】
そして、このような保護部材61を用いることで、保護部材61の寸法を上記周方向に大きくしなくとも、厚さ方向の寸法を大きくすることで、ボルト55の設置本数を増やすことが可能となり、硬質皮膜62による耐摩耗性を十分に得ることができるとともに保護部材61の脱落をより確実に防止することができるため、硬質皮膜62の縁部62aでの割れや欠けのさらなる抑制が可能となる。
【0064】
また、図7に示すように、保護部材71は、軸線P2(P1)に直交する面での断面が三角形状をなしていてもよい。具体的には、混練室C側から内面2cに向かって傾斜するとともに、内面2c側を向く第一傾斜面71bを有している。そして、硬質皮膜72においても、この第一傾斜面71bに接触する第二傾斜面72bが形成されており、ボルト55が混練室C側から保護部材71、硬質皮膜72を貫通するとともにチャンバー2に螺合されることで、保護部材71が固定されている。
【0065】
このような保護部材71を用いることで、ボルト55が保護部材71及び硬質皮膜72の両方を貫通するようにして保護部材71を設置することができるため、保護部材71の脱落だけでなく、硬質皮膜72の剥離を抑制することも可能となる。
【0066】
さらに、図8に示すように、本発明の第一実施形態では、保護部材81は、軸線P2(P1)に直交する面での断面が階段形状をなしてい。具体的には、保護部材81は、硬質皮膜82を覆う側で厚さ寸法が小さくなっている。即ち、保護部材81には、内面2c側を向く二つの面である第一面81a、第二面81bと、これらの間に配された上記周方向を向く面である段差面81cとが形成されており、第一面81aは硬質皮膜82に接触し、第二面81bは、内面2cに接触している。よって、硬質皮膜82の縁部82aには、これら第一面81a、第二面81b、段差面81cに対応して接触するような面が形成されて、縁部82aが保護部材81と嵌め合わされるような階段形状をなしている。
【0067】
このような保護部材81を用いることで、ボルト55が保護部材81及び硬質皮膜82の両方を貫通するようにして保護部材81を設置することができ、さらに、保護部材81と硬質皮膜82との接触面積を大きくすることができるため、さらに、保護部材81の脱落、硬質皮膜82の剥離を抑制することが可能となる。
【0068】
以上、本発明の参考例、及び実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、多少の設計変更も可能である。
例えば、保護部材、及び、これに対応する硬質皮膜の縁部の形状は上述したものに限定されず、その他、様々な形状とすることが可能となる。
【0069】
また、上述した硬質皮膜20(42、52、62、72、82)、保護部材21(31、41、51、61、71、81)は、チャンバー2、フローティングウェイト11、ドロップドア12のうちのいずれか一つ以上に適用し、これを混練機1(40、50)用の部材としてもよい。
【0070】
さらに、混練材Wはシリカを含有するものに限られない。
【符号の説明】
【0071】
1…混練機 2…チャンバー 2a…上部開口 2b…下部開口 2c…内面 3…コーティング層 4、5…混練機ロータ 4a、5a…軸部 4b、5b…翼部 10…ホッパ 11…フローティングウェイト 11c…内面 12…ドロップドア 12c…内面 20…硬質皮膜 20a、20aA、20aB…縁部 21…保護部材 C…混練室 W…混練材 31…保護部材 32…凹部 40…混練機 41…保護部材 41b…第二傾斜面 42…硬質皮膜 42a…縁部 42b…第一傾斜面 50…混練機 51…保護部材 51b…第二湾曲面 52…硬質皮膜 52a…縁部 52b…第一湾曲面
55…ボルト 61…保護部材 61b…第二傾斜面 62…硬質皮膜 62a…縁部 62b…第一傾斜面 71…保護部材 71b…第一傾斜面 72…硬質皮膜 72a…縁部 72b…第二傾斜面 81…保護部材 81a…第一面 81b…第二面 81c…段差面 82…硬質皮膜 82a…縁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8