特許第6062365号(P6062365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6062365マルチ凸面メニスカス壁を具備するレンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062365
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】マルチ凸面メニスカス壁を具備するレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/14 20060101AFI20170106BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   G02B3/14
   G02B26/08 H
【請求項の数】28
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-528259(P2013-528259)
(86)(22)【出願日】2011年9月7日
(65)【公表番号】特表2013-543597(P2013-543597A)
(43)【公表日】2013年12月5日
(86)【国際出願番号】US2011050624
(87)【国際公開番号】WO2012033795
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2014年8月7日
(31)【優先権主張番号】13/214,617
(32)【優先日】2011年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/380,745
(32)【優先日】2010年9月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ピュー・ランドール・ビー
(72)【発明者】
【氏名】オッツ・ダニエル・ビー
(72)【発明者】
【氏名】トナー・アダム
(72)【発明者】
【氏名】カーニック・エドワード・アール
(72)【発明者】
【氏名】リオール・ジェームズ・ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】スヌーク・シャリカ
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−178469(JP,A)
【文献】 特表2007−526517(JP,A)
【文献】 特開2006−053274(JP,A)
【文献】 特表2004−517345(JP,A)
【文献】 特開2003−302578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
G02B 3/00 − 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズであって、
前方レンズ外面と前方レンズ内面とを含む前方レンズと、
後方レンズ内面と後方レンズ外面とを含む後方レンズであって、前記前方レンズ内面と前記後方レンズ内面との間に空洞が形成されるように、前記前方レンズに近接して位置決めされている前記後方レンズと、
前記前方レンズ内面と前記後方レンズ内面との間に形成された前記空洞内に収容される生理食塩水溶液及び油であって、メニスカスを間に介在させてなる前記生理食塩水溶液及び油と、
前記前方レンズ及び後方レンズのうちの一方又は両方に形成された光学軸に向かって凸面をなしている円環体の複数のセグメントを含むメニスカス壁であって、前記生理食塩水溶液と油との間に形成された前記メニスカスとの境界をなし、前記複数のセグメント間に接線角度の不連続部を有する、前記メニスカス壁と、を具備する光学レンズ。
【請求項2】
前記前方レンズ及び前記後方レンズの少なくとも一方が本質的に平坦である、請求項1に記載の光学レンズ。
【請求項3】
前記前方レンズ及び前記後方レンズが弓形レンズを含む、請求項1に記載の光学レンズ。
【請求項4】
前記メニスカス壁の少なくとも一部分上に導電性コーティングを更に備える、請求項3に記載の光学レンズ。
【請求項5】
前記油の体積が、前記空洞内に収容される生理食塩水溶液の体積より少ない、請求項4に記載の光学レンズ。
【請求項6】
前記油が、生理食塩水溶液の量と比較して、66体積%以上を構成する、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項7】
前記油が、生理食塩水溶液の量と比較して、90体積%以下を構成する、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項8】
前記油が前記生理食塩水溶液の密度と等しい密度を備える、請求項4に記載の光学レンズ。
【請求項9】
前記油が前記生理食塩水溶液の密度の10%以内の密度を備える、請求項4に記載の光学レンズ。
【請求項10】
前記油が前記生理食塩水溶液の密度の5%以内の密度を備える、請求項4に記載の光学レンズ。
【請求項11】
前記導電性コーティングが前記空洞の内側の区域から前記空洞の外側の区域に延在する、請求項4に記載の光学レンズ。
【請求項12】
前記空洞の外側の前記導電性コーティングの区域が、前記導電性コーティングに電位を提供するための電気端子を形成する、請求項11に記載の光学レンズ。
【請求項13】
前記生理食塩水溶液及び前記油がメニスカスを形成し、前記空洞の外側の前記導電性コーティングの区域に電位を印加することにより、前記メニスカス壁に沿った前記メニスカスの接触位置に変化をもたらす、請求項11に記載の光学レンズ。
【請求項14】
前記電位が直流を構成する、請求項12または13に記載の光学レンズ。
【請求項15】
前記電位が5.0ボルト〜60.0ボルトを含む、請求項12または13に記載の光学レンズ。
【請求項16】
前記電位が20.0ボルトを含む、請求項15に記載の光学レンズ。
【請求項17】
前記電位が5.0ボルトを含む、請求項15に記載の光学レンズ。
【請求項18】
前記電位が3.5ボルト〜7.5ボルトを含む、請求項12または13に記載の光学レンズ。
【請求項19】
前記前方レンズ外面が0以外の屈折力を備える、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項20】
前記前方レンズ内面が0以外の屈折力を備える、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項21】
前記後方レンズ外面が0以外の屈折力を備える、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項22】
前記後方レンズ内面が0以外の屈折力を備える、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項23】
前記前方レンズ及び前記後方レンズのうちの一方又は両方を通るチャネルと、前記チャネルを充填する導電材料と、を更に備える、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項24】
前記チャネルを充填する前記導電材料と電気的に連通している端子を更に備える、請求項23に記載の光学レンズ。
【請求項25】
前記端子に電位を印加することにより前記メニスカスの形状に変化をもたらす、請求項24に記載の光学レンズ。
【請求項26】
前記前方レンズの前記内面の少なくとも一部分に沿って絶縁体コーティングを更に備え、前記絶縁体コーティングが電気絶縁体を備える、請求項5に記載の光学レンズ。
【請求項27】
前記絶縁体が、パリレンC(Parylene C)(商標)及びテフロンAF(Teflon AF)の一方を含む、請求項26に記載の光学レンズ。
【請求項28】
前記絶縁体が、前記前方レンズと前記後方レンズとの間の前記空洞に収容された生理食塩水溶液と前記導電性コーティングとの分離を維持するための境界区域を具備する、請求項26に記載の光学レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2011年8月22日に出願された米国特許出願第13/214,617号及び2010年9月8日に出願された米国特許仮出願第61/380,745号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、液体メニスカスレンズに関し、より具体的には、マルチ凸面セグメントを含むメニスカス壁を備える弓形液体メニスカスレンズを含む。
【背景技術】
【0003】
液体メニスカスレンズは、様々な産業において公知である。図1A及び1Bを参照しながら以下により詳細に説明されるように、既知の液体メニスカスレンズは、直線である軸線から固定された距離の点により形成される周囲表面によって円柱形状に設計されていた。既知の液体メニスカスレンズは、一般に第2の内面に概ね平行であり、かつそれぞれが円柱軸線に対して垂直である第1の内面を有する設計のものだけに制限されてきた。液体メニスカスレンズの使用の既知の例としては、電子カメラ等の装置が挙げられる。
【0004】
従来、コンタクトレンズ及び眼内レンズ等の眼科用装置には、矯正、美容又は治療的性質を有する生体適合性装置が挙げられている。例えば、コンタクトレンズは、視力矯正機能、美容改善、及び治療効果のうちの1つ以上を提供することができる。それぞれの機能は、レンズの物理的特性によって提供される。レンズに屈折性質を組み込む設計は、視力矯正機能を提供することができる。レンズに組み込まれる顔料は、美容強化を提供することができる。レンズに組み込まれる活性薬剤は、治療的機能を提供することができる。
【0005】
最近では、電子成分がコンタクトレンズの中に組み込まれている。いくつかの成分は、半導体装置を含むことができる。しかしながら、液体メニスカスレンズの大きさ、形状及び制御態様を含む物理的制約が、眼科用レンズにおけるそれらの使用を不可能にしてきた。一般に、「ホッケーパック」形状と呼ばれることもある、液体メニスカスレンズの円柱形状は、ヒトの眼で機能し得るものとして役立ってこなかった。
【0006】
加えて、湾曲した液体メニスカスレンズは、平行側面及び/又は光学窓を有する液体メニスカスレンズの従来の設計では必ずしも提示されない物理的課題を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、弓形前方湾曲レンズと弓形後方湾曲レンズとを含む液体メニスカスレンズを提供する。レンズ内に収容される液体を引き寄せる、及び退ける、のうちの一方又はその両方を助長し、別の液体とメニスカスを形成する物理的特色を有するメニスカス壁が、本発明に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、第1の弓形形状の光学部品は、第2の弓形形状の光学部品に隣接し、それらの間に空洞を形成する。生理食塩水溶液及び油は、空洞内に維持される。第1の弓形光学部品及び第2の弓形光学部品の一方又はその両方の周囲区域に概ね位置するメニスカス壁に電圧を印加することにより、空洞内に維持される生理食塩水溶液と油との間に形成されるメニスカスの物理的形状が変化する。
【0009】
本発明は、複合形状に形成されたメニスカス壁を含む。このメニスカス壁は本質的にマルチ凸面セグメントを具備し、その断面は互いに機械的に連通した複数の円環体セグメントを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】第1状態における従来の円柱形液体メニスカスレンズの例を示す図。
図1B】第2状態における従来の円柱形液体メニスカスレンズの例を示す図。
図2】本発明のいくつかの実施形態による、代表的な液体メニスカスレンズのプロファイル切り出し断面を示す図。
図3】本発明のいくつかの実施形態による、代表的な弓形液体メニスカスレンズの一部分の断面を示す図。
図4】弓形液体メニスカスレンズの更なる代表的な態様を示す図。
図5】本発明のいくつかの実施形態による、弓形液体メニスカスレンズ内のメニスカス壁の要素を示す図。
図6A】その非屈折状態の液体メニスカス境界を示す、液体メニスカスレンズ内のマルチ凸面メニスカス壁を示す図。
図6B】その屈折状態の液体メニスカス境界を示す、液体メニスカスレンズ内のマルチ凸面メニスカス壁を示す図。
図6C】比較のために、1つの図で液体メニスカス境界の屈折状態及び非屈折状態を示す、液体メニスカスレンズ内のマルチ凸面メニスカス壁を示す図。
図7A】弓形液体メニスカスレンズの残部とは別個に見たマルチ凸面メニスカス壁の断面を示す図。
図7B】レンズ内に形成された光学軸に向かって凸面をなしているメニスカス壁の1セグメントの断面を示す図。ここで、弓形液体メニスカスレンズの残部から別個に見たときに、結果として得られた形状は円環体のセグメントを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、液体メニスカスレンズのメニスカス空洞を画定する前方湾曲レンズ及び後方湾曲レンズのうちの少なくとも一方を有する液体メニスカスレンズを提供する。
【0012】
用語
本発明を目的とする本説明及び特許請求の範囲において、以下の定義が適用される、様々な用語が使用され得る。
【0013】
接触角:液体メニスカス境界とも呼ばれる油/生理食塩水溶液の界面がメニスカス壁と接触する角度。線形メニスカス壁の場合、接触角は、メニスカス壁と、液体メニスカス境界がメニスカス壁と接触する点の液体メニスカス境界に接する線との間の角度として測定される。湾曲したメニスカス壁の場合、接触角は、メニスカス壁に接する線と、それらが接触する点の液体メニスカス境界との間の角度として測定される。
【0014】
レンズ:本明細書においてレンズは、放射線(例として、可視光など)の波長の所定の範囲に光学的に伝達する、前面と後面とを備えた物品を意味する。レンズは、本質的に平坦な前面及び後面の一方若しくは両方、又は弓形状の前面及び後面の一方若しくは両方を含み得る。
【0015】
液体メニスカス境界:生理食塩水溶液と油との間の弓形表面界面。一般に、表面は、片側が凹面であり、もう一方が凸面であるレンズを形成する。
【0016】
メニスカス空洞:油及び生理食塩水溶液が維持される前方湾曲レンズと後方湾曲レンズとの間の弓形液体メニスカスレンズの空間。
【0017】
メニスカス壁:前方湾曲レンズの内側の特定区域であり、そのためメニスカス空洞内にあり、それに沿って液体メニスカス境界が移動する。
【0018】
光学ゾーン:本明細書で使用する場合、眼科用レンズの装用者がそこを通して見ることになる、眼科用レンズの区域を指す。
【0019】
角部:光学部品上の2つの予め画定された液体の接触線の位置を含むのに十分な前方湾曲レンズ又は後方湾曲レンズの片のいずれかの内面の幾何学的特色。角部は、通常、入隅よりも出隅である。液体の観点から、それは、180°より大きい角度である。
【0020】
ここで図1Aを参照すると、シリンダ110内に収容される油101及び生理食塩水溶液102を有する従来のレンズ100の断面図が図示される。シリンダ110は、2つの光学材料106のプレートを含む。各プレート106は、本質的に平坦な内面113〜114を含む。シリンダ110は、本質的に回転対称である内面を含む。いくつかの従来の実施形態では、1つ以上の表面は、疎水性コーティングを含むことができる。電極105も、シリンダの周囲上又はその周りに含まれる。電気絶縁体もまた、電極105に隣接して使用され得る。
【0021】
従来技術によると、内面113〜114のそれぞれは、本質的に平坦又は平面的である。界面表面112Aは、生理食塩水溶液102Aと油101との間で画定される。図1Aに示すように、界面112Aの形状は、生理食塩水溶液102A及び油101の屈折率特性と組み合わされて、第1の内面113を通して入射光108を受容し、第2の内面114を通して発散光109を提供する。油101と生理食塩水溶液102との間の界面表面の形状は、電極105に電位を印加することにより変化し得る。
【0022】
図100Aは、100で図示される従来のレンズの斜視図を図示する。
【0023】
ここで図1Bを参照すると、従来のレンズ100は、通電された状態で図示される。通電状態は、電極115に電圧114を印加することによって達成される。油101と生理食塩水溶液102Bとの間の界面表面112Bの形状は、電極115に電位を印加することにより変化する。図1Bに示すように、油101及び生理食塩水溶液102Bを通過する入射光108Bは、集束された光パターン111に集束される。
【0024】
ここで図2を参照すると、液体メニスカスレンズ200の断面図は、前方湾曲レンズ201及び後方湾曲レンズ202を有する。様々な実施形態において、前方湾曲レンズ201及び後方湾曲レンズ202は、弓形レンズ又は本質的に平坦なレンズを含み得る。いくつかの好ましい実施形態において、前方湾曲レンズ201と後方湾曲レンズ202は、相互に隣接して位置し、それらの間に空洞210を形成する。前方湾曲レンズ201は、凹状弓形内側レンズ表面203と、凸状弓形外側レンズ表面204とを含む。凹状弓形内側レンズ表面203は、1つ以上のコーティング(図2に図示せず)を有することができる。コーティングは、例えば、導電性の材料又は電気的に絶縁性の材料、疎水性材料又は親水性材料のうちの1つ以上を含むことができる。凹状弓形内側レンズ表面203及びコーティングの一方又はその両方は、空洞210内に収容される油208と液体連通及び光学連通している。
【0025】
後方湾曲レンズ202は、凸状弓形内側レンズ表面205と、凹状弓形外側レンズ表面206とを含む。凸状弓形内側レンズ表面205は、1つ以上のコーティング(図2に図示せず)を有することができる。コーティングは、例えば、導電性の材料又は電気的に絶縁性の材料、疎水性材料又は親水性材料のうちの1つ以上を含むことができる。凸状弓形内側レンズ表面205及びコーティングのうちの少なくとも一方は、空洞210内に収容される生理食塩水溶液207と液体連通及び光学連通している。生理食塩水溶液207は、イオン伝導性である1つ以上の塩又は他の成分を含み、そのため、電荷に引かれるか、又は電荷によって退けられるかのいずれかであり得る。
【0026】
本発明によると、導電性のコーティング209は、前方湾曲レンズ201及び後方湾曲レンズ202のうちの一方又はその両方の周辺部の少なくとも一部分に沿って位置する。導電性のコーティング209は、金又は銀を含むことができ、好ましくは生体適合性である。導電性のコーティング209に電圧を印加することにより、生理食塩水溶液207中のイオン伝導性の塩又は他の成分を引き寄せるか、又は退けるかのいずれかを生じさせる。
【0027】
前方湾曲レンズ201は、凹状弓形内側レンズ表面203及び凸状弓形外側レンズ表面204を通過する光に関して屈折力を有する。屈折力は、0であるか、又は正若しくは負の力であってもよい。いくつかの好ましい実施形態では、屈折力は、非限定的な例として、−8.0〜+8.0ジオプターの力等の矯正コンタクトレンズに典型的に見られる力である。
【0028】
後方湾曲レンズ202は、凸状弓形内側レンズ表面205及び凹状弓形外側レンズ表面206を通過する光に関して屈折力を有する。屈折力は、0であるか、又は正若しくは負の力であってもよい。いくつかの実施形態では、屈折力は、非限定的な例として、−8.0〜+8.0ジオプターの力等の矯正コンタクトレンズに典型的に見られる力である。光学軸212は、後方湾曲レンズ202及び前方湾曲レンズ201を貫通して形成される。
【0029】
様々な実施形態はまた、生理食塩水溶液207と油208との間に形成される液体メニスカス211の形状の変化に関連する屈折力の変化も含み得る。いくつかの実施形態では、屈折力の変化は、例えば、0〜2.0ジオプターの変化のように、比較的小さくてよい。他の実施形態では、液体メニスカスの形状の変化に関連する屈折力の変化は、最大約30又はそれ以上のジオプターの変化であってよい。一般に、液体メニスカス211の形状の変化に関連する屈折力の変化の増大は、比較的厚みを増したレンズ厚213に関連する。
【0030】
コンタクトレンズ等の眼科用レンズに含まれ得るそれらの実施形態等の本発明のいくつかの実施形態によると、弓形液体メニスカスレンズ200の横断レンズ厚210は、最大約1,000マイクロメートルの厚さである。比較的薄いレンズ200の代表的なレンズ厚210は、最大約200マイクロメートルの厚さである。好ましい実施形態は、約600マイクロメートルの厚さのレンズ厚210の液体メニスカスレンズ200を含むことができる。一般に、前方湾曲レンズ201の横断厚は、約35マイクロメートル〜約200マイクロメートルであってよく、後方湾曲レンズ202の横断厚はまた、約35マイクロメートル〜約200マイクロメートルであってもよい。断面プロファイルは典型的に、レンズ200内のそれぞれの位置における厚さの定義済み差異を含む。
【0031】
本発明によると、集合屈折力は、前方湾曲レンズ201、後方湾曲レンズ202、及び油208と生理食塩水溶液207との間に形成される液体メニスカス211の屈折力の集合である。いくつかの実施形態では、レンズ200の屈折力は、前方湾曲レンズ201、後方湾曲レンズ202、油208、及び生理食塩水溶液207のうちの1つ以上の間での屈折率の差も含む。
【0032】
コンタクトレンズに組み込まれる弓形液体メニスカスレンズ200を含む実施形態では、コンタクト着用者が動くため、生理食塩水207及び油208にとって、弓形液体メニスカスレンズ200内のそれらの相対位置で安定した状態を保つことが、更に望ましい。一般的に、着用者が動いたときに油208が浮動して生理食塩水207に対して移動するのを阻止することが好ましい。したがって、同じ又は同様の密度の油208及び生理食塩水溶液207の組み合わせを選択することが好ましい。加えて、油208及び生理食塩水溶液207は、生理食塩水溶液207と油208とが混合しないように、好ましくは、比較的低い混和性を有する。
【0033】
いくつかの好ましい実施形態では、空洞210内に収容される生理食塩水溶液207の体積が空洞210内に収容される油208の体積を超える。加えて、いくつかの好ましい実施形態は、後方湾曲レンズ202の内面205の全体と本質的に接触する生理食塩水溶液207を含む。いくつかの実施形態は、生理食塩水溶液207の量と比較して、約66体積%以上である体積の油208を含むことができる。いくつかの更なる実施形態は、油208の体積が生理食塩水溶液207の量と比較して約90体積%以下である、弓形液体メニスカスレンズを含むことができる。
【0034】
ここで図3を参照すると、弓形液体メニスカスレンズ300の端部分の断面が図示されている。上述のように、弓形液体メニスカスレンズ300は、組み合わされた前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302成分を含む。前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302は、少なくとも部分的に透明である1つ以上の材料で形成され得る。いくつかの実施形態では、前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方は、例えば、PMMA、ゼオノア(Zeonor)及びTPX等のうちの1つ以上の一般に光学的に明澄なプラスチックを含む。
【0035】
前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方は、単刃ダイヤモンド旋削旋盤加工、射出成形、デジタルミラー装置自由形成等のうちの1つ以上のプロセスによって成形され得る。
【0036】
前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方は、図示される導電性コーティング303を含むことができ、導電性コーティング303は、309から310までの周囲部分に沿って延在する。いくつかの好ましい実施形態では、導電性コーティング303は、金を含む。金は、スパッタプロセス、蒸着又は他の公知のプロセスによって適用され得る。代替的な導電性コーティング303は、非限定的な例として、アルミニウム、ニッケル、及びインジウムとスズの酸化物を含むことができる。一般に、導電性コーティング303は、前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方の周囲区域に適用される。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態において、後方湾曲レンズ302は、特定の区域に適用される導電性コーティング304を有する。例えば、後方湾曲レンズ302の周辺部分は、第1の境界304−1から第2の境界304−2まで被覆され得る。金コーティングは、例えば、スパッタプロセス又は蒸着によって適用され得る。いくつかの実施形態では、前方湾曲レンズ301又は後方湾曲レンズ302の1つ以上の周囲部分の周りに、所定のパターンで、金又は他の導電材料を適用するために、マスクが使用され得る。代替の導電材料は、様々な方法を使用し、かつ後方湾曲レンズ302の様々な区域を被覆することにより適用され得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、例えば後方湾曲レンズ302の1つ以上の穴又はスロット等を貫通する導電性通路は、例えば、導電性エポキシ等の導電性充填剤材料で充填され得る。導電性充填剤は、前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方の内面上の導電性コーティングとの電気的導通を提供することができる。
【0039】
本発明の別の態様において、前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方は、前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302(図示せず)の一般に中央区域の光学ゾーンが光学的に透明な材料を含むことができ、周辺部ゾーンが導電性の材料を含む光学的に不透明な区域を含むことができる、複数の異なる材料から作製され得る。光学的に不透明な区域はまた、制御回路及びエネルギー源のうちの1つ以上を含むこともできる。
【0040】
更に別の態様において、いくつかの実施形態では、絶縁体コーティング305が前方湾曲レンズ301に適用される。非限定的な例として、絶縁体コーティング305は、第1の領域305−1から第2の領域305−2に延在する区域に適用される。絶縁体としては、例えば、パリレンC(Parylene C)(商標)、テフロンAF(Teflon AF)、又は様々な電気的及び機械的特性並びに電気抵抗を有するその他の材料を挙げることができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、絶縁体コーティング305は、導電性コーティング303と、前方湾曲レンズ301と後方湾曲レンズ302との間の空洞内に収容される生理食塩水溶液306との間の分離を維持するための境界区域を作り出す。したがって、いくつかの実施形態は、正に帯電した導体303と負に帯電した生理食塩水溶液306が接触するのを防止するために、前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方の1つ以上の区域でパターン化され、かつそこに位置決めされる絶縁体コーティング305を含む。導体303と生理食塩水溶液306との接触により電気的短絡が生じる。実施形態は、正に帯電した生理食塩水溶液306と負に帯電した導体303を含むことができる。
【0042】
更に他の実施形態では、レンズ300の操作に関連する回路のリセット機能として、導体303と生理食塩水溶液306との間で短絡を生じ得る。例えば、短絡状態では、レンズに印加された電位が均一化され、生理食塩水溶液306及び油307がデフォルト位置に回復し得る。
【0043】
いくつかの好ましい実施形態は、空洞311の内側上の区域309から空洞311の外側の区域310に延在する導体303を含む。他の実施形態は、例えば、防水導電性エポキシ等の導電材料313で充填され得る、前方湾曲レンズ又は後方湾曲レンズを通るチャネル312を含むことができる。導電材料313は、空洞の外側に電気端子を形成するか、又はそれに接続され得る。電位は端子に印加され、チャネル312内の導電材料313を介してコーティングに伝導され得る。
【0044】
絶縁体コーティング305の厚さは、レンズ性能のパラメータとして変化し得る。本発明によると、生理食塩水溶液306及び導体303を含む帯電した成分は、一般に、絶縁体コーティング305のいずれかの側に維持される。本発明は、絶縁体コーティング305の厚さと、生理食塩水溶液306と導体303との間の電場との間に間接的関係を提供し、生理食塩水溶液306及び導体303がより遠く離れて維持されるほど、電場は弱くなる。
【0045】
一般に、本発明は、絶縁体コーティング305の厚さが増すと、電場の強さが劇的に落ちることを提供する。場がより近ければ、一般に球状液体メニスカス境界308を移動するためのエネルギーがより利用可能になる。生理食塩水溶液306と導体303との間の距離が増すと、生理食塩水溶液306と導体コーティング303の静電荷がより遠くに離れ、その結果、球状液体メニスカス境界308を移動させることがより困難になる。逆に、絶縁体コーティング305が薄いほど、レンズの絶縁体コーティング305が欠損を被りやすくなる。一般的に、絶縁体コーティング305内の比較的小さい穴でさえ電気的な短絡を生じ、レンズがエレクトロウェッティング方式では機能しなくなる。
【0046】
いくつかの実施形態では、同様にレンズ300内に収容される油307の密度と概ね同じ密度で生理食塩水溶液306を含むことが望ましい。例えば、生理食塩水溶液306は、好ましくは、油307の密度の10%以内である密度を含み、より好ましくは、生理食塩水溶液306は、油の密度の5%以内の密度、最も好ましくは約1%以内又はそれ未満の密度を含む。いくつかの実施形態では、生理食塩水溶液306内の塩又は他の成分の濃度は、生理食塩水溶液306の密度を調節するように調節され得る。
【0047】
本発明によると、弓形液体メニスカスレンズ300は、前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302に関して油307の移動を制限することにより、より安定した光学品質を提供する。弓形前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの一方又はその両方に関して油307の移動の安定性を維持する1つの方法は、油307と生理食塩水溶液306の相対的に一致する密度を維持することである。加えて、前方湾曲レンズ301と後方湾曲レンズ302の両方の内面の湾曲設計により、生理食塩水溶液306の層の相対的な深度又は厚さは、従来の円柱レンズ設計と比較して減少する。このシナリオにおいて、空洞内の液体に作用する界面力は、平静な液体メニスカス境界308を維持するために比較的大きな貢献を有し得る。したがって、そのような場合、密度合致要件を緩和してもよい。いくつかの実施形態において、流体層の相対的な薄さは、液体レンズ境界308を更に支持する。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態では、生理食塩水溶液306は、比較的高い屈折率を提供する油307と比較して、低い屈折率を提供する。しかしながら、いくつかの実施形態では、油307と比較して高い屈折率を有する生理食塩水溶液306を含むことが可能であるが、そのような場合、油は、比較的低い屈折率を提供する。
【0049】
前方湾曲レンズ301と後方湾曲レンズ302を相互に隣接した位置に固定するために接着剤314を使用してもよく、それによって、油307及び生理食塩水溶液306をそれらの間に保持する。接着剤314は、湾曲液体メニスカスレンズ300から生理食塩水溶液306又は油307の漏れがないように、シールとしての機能を果たす。
【0050】
ここで図4を参照すると、生理食塩水溶液406と油407との間の液体メニスカス境界401を備える湾曲した液体メニスカスレンズ400が図示されている。いくつかの好ましい実施形態によると、メニスカス壁405は、402と403との間に延在する弓形壁の第1の角度の急な変化によって前方湾曲レンズ404に画定される。液体メニスカス境界401は、電位が1つ以上の導電体コーティング又は導電材料408に沿って印加されたり除去されさりすると、メニスカス壁405を上下に移動させる。
【0051】
いくつかの好ましい実施形態では、導電性コーティング408は、生理食塩水溶液406及び油407を保有する空洞409の内側の区域から生理食塩水溶液406及び油407を収容する空洞409の外側の区域に延在する。そのような実施形態では、導電性コーティング408は、空洞409の外側の点の導電性コーティング408に印加された電位の、空洞409内の導電性コーティング408の区域への管路であり、生理食塩水溶液406と接触してもよい。
【0052】
ここで図5を参照すると、前方湾曲レンズ501及び後方湾曲レンズ502を有する弓形液体メニスカスレンズ500の端部分の断面が示される。弓形液体メニスカスレンズ500は、生理食塩水溶液503及び油504を収容し得る。弓形液体メニスカスレンズ500の幾何学構造並びに生理食塩水溶液503及び油504の特性は、生理食塩水溶液503と油504との間に液体メニスカス境界505が形成されやすくする。
【0053】
一般に、液体メニスカスレンズは、前方湾曲レンズ501及び後方湾曲レンズ502上に存在する、又はそれらを通る導電性コーティング、絶縁体コーティング、経路、及び材料のうちの1つ以上を有するコンデンサと見なすことができる。本発明によると、液体メニスカス境界505の形状、したがって、液体メニスカス境界505と前方湾曲レンズ501との間の接触角は、前方湾曲レンズ501及び後方湾曲レンズ502のうちの一方又はその両方の少なくとも一部分の表面に印加された電位に応じて変化する。
【0054】
本発明によると、導電性コーティング又は材料によって生理食塩水溶液503に印加された電位の変化は、メニスカス壁506に沿った液体メニスカス境界505の位置を変更する。移動は、第1の角部506−1と第2の角部506−2との間で生じる。
【0055】
好ましい実施形態では、液体メニスカス境界505は、電位の第1の大きさがレンズに印加されるとき、例えば、電圧及び電流が非屈折状態又は静止状態と相関するとき等、第1の角部506−1にある、又はその付近にある。
【0056】
第1の屈折状態とも呼ばれることのある電位の第2の大きさの印加は、概ね第2の角部506−2の方向へのメニスカス壁506に沿った液体メニスカス境界505の移動と相関し、液体メニスカス境界の形状を変化させ得る。更に後述するように、本発明によれば、メニスカス壁に沿って含まれている複数の各角部は、それぞれの屈折状態に関連し得る。
【0057】
第1の屈折状態と第2の屈折状態との間を移行するために印加された電圧は、例えば、約5ボルト〜約60ボルトの直流電圧を含み得る。他の実施形態では、交流電圧もまた利用され得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、メニスカス壁506は、絶縁体コーティングの厚さに関して平滑な表面である。平滑なメニスカス壁506の表面は、絶縁体コーティングの欠陥を最小にすることができる。加えて、表面の構造の無作為な不規則性は、不均等な液体運動をもたらし、したがって、レンズに通電したとき、又は非通電にしたときに、不均等な、又は予測不可能なメニスカス運動を生じる場合があるため、平滑なメニスカス壁506が好ましい。いくつかの好ましい実施形態において、平滑なメニスカス壁は、メニスカス壁506に沿った尖端から谷までの測定値(約1.25ナノメートル〜5.00ナノメートルの範囲)を含む。
【0059】
別の態様において、いくつかの実施形態では、メニスカス壁506が疎水性であることが望ましく、この場合、ナノ構造等の定義された構造は弓形液体メニスカスレンズの設計に組み込まれ得る。
【0060】
更に別の態様において、いくつかの実施形態では、メニスカス壁506は、レンズの光学軸に対して角度をなしてよい。角度は、0°(又は光学軸に平行)〜90°付近(光学軸に対して垂直)の範囲であることができる。図示されるように、いくつかの好ましい実施形態では、メニスカス壁506の角度は、弓形液体メニスカスレンズが液体メニスカス境界505と絶縁体で被覆されたメニスカス壁506との間の所与の電流接触角で機能するために、一般に、約30°〜50°である。異なる材料を使用することにより、又は望遠視覚等の異なる光対物レンズにより、メニスカス壁506の角度は、0°又は90°に近くてよい。
【0061】
本発明によると、メニスカス壁506の角度は、特定の電圧の印加時にメニスカス壁506に沿った移動の大きさに適応するように設計され得る。いくつかの実施形態では、メニスカス壁506の角度が増加すると、レンズの屈折を変更する能力は、一般に、所与のレンズの大きさ及び電圧パラメータ内で減少する。加えて、メニスカス壁506が光学軸に対して0°であるか又はその付近である場合、液体メニスカス境界505は、前方光学部品上にほぼ直線に導かれる。メニスカス壁の角度は、レンズ性能に様々な成果を提供するように調整され得るいくつかのパラメータのうちの1つである。
【0062】
いくつかの好ましい実施形態では、メニスカス壁506は、長さが約0.265mmである。しかしながら、全体的なレンズの大きさとともに、メニスカス壁506の角度は、様々な設計でメニスカス壁506の長さに自然と影響を及ぼす。
【0063】
一般に、油504が後方湾曲レンズ502に接触すると、弓形液体メニスカスレンズ500は機能しないと考えられ得る。したがって、好ましい実施形態では、メニスカス壁506は、その最も近い点で、第1の角部506−1と後方湾曲レンズ502との間に50マイクロメートルの最小隙間を持たせるように設計される。他の実施形態では、隙間が減少すると、レンズが機能しないリスクは増加するが、最小隙間は、50マイクロメートル未満であり得る。更に他の実施形態では、隙間は、レンズが機能しないリスクを軽減するように増加され得るが、全体的なレンズの厚さも増加し、これは望ましくない可能性がある。
【0064】
本発明のいくつかの好ましい実施形態の更に別の態様では、メニスカス壁506に沿って移動するとき、液体メニスカス境界505の挙動は、ヤングの式を使用して推定され得る。ヤングの式は、乾燥表面上への水分の滴下により生じる力の平衡を定義し、完全に平坦な表面を仮定するが、基本的な性質が、弓形液体メニスカスレンズ500内に作り出される電気湿潤レンズ環境に適用され得る。
【0065】
例えば、レンズが非屈折状態にあるときには、電気エネルギーの第1の大きさをレンズに印加し得る。電気エネルギーの第1の大きさの印加時には、油504と生理食塩水溶液503との間で界面エネルギーの平衡が達成される。そのような状態は、本明細書中で液体メニスカス境界505と呼ばれ得る。油504とメニスカス壁506、及び生理食塩水溶液503とメニスカス壁506は、液体メニスカス境界505とメニスカス壁506との間の平衡接触角を形成する。電圧の大きさの変化が弓形液体メニスカスレンズ500に適用されるとき、界面エネルギーの平衡が変化し、液体メニスカス境界505とメニスカス壁506との間の接触角の対応する変化が得られる。
【0066】
絶縁体で被覆されたメニスカス壁506を有する液体メニスカス境界505の接触角は、液体メニスカス境界505の移動におけるヤングの式でのその役割だけでなく、接触角がメニスカスの移動を制限するために弓形液体メニスカスレンズ500の他の特色と組み合わせて使用されるため、弓形液体メニスカスレンズ500の設計及び機能において重要な要素である。
【0067】
角部のうちの1つを超えて液体メニスカス境界505を移動させる程十分に液体メニスカス接触角を大きく変化させるには、印加された電位の顕著な変化を必要とするため、角部506−1及び506−2等の、メニスカス壁506の両端での不連続は、液体メニスカス505の移動において境界として機能する。非限定的な例として、いくつかの実施形態では、液体メニスカス境界505のメニスカス壁506との接触角は15°〜40°の範囲であり、一方、液体メニスカス境界505の、第2の角部506−2を越えるステップ507との接触角は、おそらく90°〜130°の範囲であり、いくつかの好ましい実施形態では約110°である。
【0068】
レンズに電圧を印加すると、液体メニスカス境界505がメニスカス壁506に沿って第2の角部506−2の方へ移動し得る。電圧供給量が有意に増えない限り、絶縁体コーティング付きメニスカス壁506を備える液体メニスカス境界505の自然接触角によって、液体メニスカス境界505が第2の角部506−2で停止する。
【0069】
メニスカス壁506の一端で、第1の角部506−1は、一般に、液体メニスカス境界505が典型的に超えて移動しない限度を1つ画定する。いくつかの実施形態では、第1の角部506−1は、鋭い縁として構築される。他の好ましい実施形態では、第1の角部506−1は、欠陥の可能性があまりないように作製され得る画定された小さい半径を持つ面を有する。導電性、絶縁体、及び他の可能な所望のコーティングは、鋭い縁上に均一かつ予測可能に堆積されない場合があり、一方、画定された半径を持つ面の半径を持つ縁は、より確実に被覆され得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、第1の角部506−1は、約10マイクロメートルの画定された半径を有する約90°の角度で構築される。角部はまた、90°未満の角度で作製されてもよい。いくつかの実施形態では、90°より大きい角度の角部は、角部の頑丈さを増加させるために使用され得るが、設計は、より大きいレンズ空間を取る。
【0071】
様々な実施形態では、角部506−1及び/又は506−2の画定された半径は、5マイクロメートル〜50マイクロメートルの範囲であり得る。より大きい画定された半径は、コーティングの確実度を向上させるが、レンズ設計の厳しい制約の範囲内でより大きい空間を使用するという代償を払って使用され得る。これにおいて、他の多くのレンズ設計の区域のように、構成の容易さ、レンズ機能の最適化、及び大きさの最小化の間で、トレードオフが存在する。機能的で、確実な弓形液体メニスカスレンズ500は、広範な変動要素を使用して作製され得る。
【0072】
いくつかの実施形態においては、2つの隣接する角部間の側壁に対して表面仕上げの改良と角部半径の増大とを併用できる。いくつかの実施形態において、同じ工具で角部を形作るときに用いられる型枠を切断することが役立つという状況では、第1の半径(角部)から第2の半径(角部)までの表面が平滑でしかも不連続のないことが望ましい場合があり得る。型枠工具の表面半径が角部半径に比べて大きいという状況では、角部に含まれる半径を型枠工具表面に切削し得る。ここで、型枠工具の表面は、1つ以上の角部及び側壁を含む連続した表面である。工具半径を増大すると、一般に、対応する切片の表面仕上げの平滑化に結び付き得る。
【0073】
第2の角部506−2は、電圧が弓形液体メニスカスレンズ500に印加される際、油の移動を制限するように設計された特色を含む。第2の角部506−2はまた、いくつかの実施形態では概ね先細の端部を含むこともでき、又は他の実施形態では第2の角部506−2 5〜25マイクロメートル、最も好ましくは10マイクロメートルの画定された半径を含むことができる。10マイクロメートルの半径は、角部として良好に機能し、単刃ダイヤモンド旋削旋盤又は射出成形プロセスを使用して作製され得る。
【0074】
垂直な又はほぼ垂直なステップ507は、前方湾曲レンズ501の光学区域508の開始位置まで延在しており、メニスカス壁506に対向した第2の角部506−2の側部上に含まれ得る。いくつかの実施形態において、ステップ507は、高さが120マイクロメートルであるが、50〜200マイクロメートルの範囲内であってもよい。
【0075】
いくつかの実施形態では、ステップ507は、光学軸から約5°の角度をなしてよい。他の実施形態では、ステップ507の角度は、1°若しくは2°程度であるか、又は5°を超える角度であってもよい。メニスカス壁506からステップ507上に移動するには、液体メニスカス境界505の接触角のより大きな変化を必要とするため、光学軸からより小さい角度をなすステップ507は、一般に、メニスカス移動のより効果的なリミッタとして機能する。ステップ507から光学区域508の開始部分への遷移は、25マイクロメートルの半径である。より大きい半径は、レンズ設計内の空間を不必要により多く消費する。より小さい半径が可能であり、空間の増加が必要ならば、より小さい半径にされ得る。この区域並びにレンズの他の区域に理論的角部よりも画定された半径を使用するという決定は、一部、レンズ要素の射出成形プロセスへの潜在的な移行に基づく。ステップ507と光学区域508の開始部分との間の湾曲は、射出成形プロセス中の塑性流を向上させ、最適な強度及び応力対処特性を備えたレンズをもたらす。
【0076】
ここで、図6Aを参照すると、いくつかの実施形態において液体メニスカスレンズに含まれ得るマルチ凸面メニスカス壁601が描かれている。マルチ凸面メニスカス壁601は、液体メニスカスレンズを通して形成される光学軸に対して凸面をなす複数のセグメントを具備する。光学軸に対して凸面をなす複数のセグメントは、光学軸に関連した他の形状(例えば、直線形状、凹形状、又は段形状)を含むメニスカス壁のセグメントを点在させている場合もあれば点在させていない場合もあり得る。また、他の形状の特色及びセグメントも点在し得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、マルチ凸面メニスカス壁601は、油602及び生理食塩水溶液603を含有する弓形液体メニスカスレンズ内の光学軸から約45°の角度に配置され得る。いくつかの実施形態では、液体メニスカス境界604Aは、605Aにおいてマルチ凸面壁601に印加された電位の第1の状態で(例えば、非屈折状態で)マルチ凸面メニスカス壁601に接触する。一般的に、いくつかの典型的な実施形態において、第1の屈折状態は、第1の角部607に最も近いマルチ凸面メニスカス壁601の端部付近の液体メニスカス境界を含む。
【0078】
図6Bは、第2の屈折状態(例えば、メニスカス壁601に電圧が印加された屈折状態)にある液体メニスカス境界604Bの位置を示す。第1の状態(非屈折状態を含む)に比べて、液体メニスカス境界604Bが一般に、マルチ凸面メニスカス壁601に沿って前方湾曲レンズ606の方へ移動した。この屈折状態は、マルチ凸面メニスカス壁601内の凸面セグメントの間の不連続609に概してより近い液体メニスカス境界604Bも含み得る。
【0079】
ここで、図7Aを参照すると、弓形液体メニスカスレンズのマルチ凸面メニスカス壁701構成要素の斜視図が、弓形液体メニスカスレンズの他の部分とは別個に示されている。図示されている実施形態において、マルチ凸面メニスカス壁701は4つの凸面メニスカス壁セグメント701−1から701−4を含む。凸面壁セグメントは、レンズを貫通する光学軸703に対して略凸面である。他の実施形態は、多かれ少なかれ凸面メニスカス壁セグメント701−1から701−4を含み得る。いくつかの壁セグメントは、例えば、液体メニスカスレンズ物理的寸法、レンズの配置先として予期されるメニスカスのいくつかの設定位置、又は他の懸念事項に基づくものである場合もあり得る。
【0080】
マルチ凸面メニスカス壁701は、レンズ全体の周囲の第1の角部702−1と第2の角部702−2との間の一貫した長さである。1つの凸面メニスカス壁セグメント701−1の斜視図は、図7Bに示されているとおりである。その形状は円環体のセグメントを含んで構成されている。
【0081】
いくつかの実施形態において、マルチ凸面メニスカス壁は、メニスカスレンズ壁上の1つ以上の螺旋形工具パスによって形成される不連続を含む。例えば、旋盤を利用して、メニスカスレンズ壁内に、又はメニスカスレンズ壁を形成する際に利用される型枠ツーリングで、本質的に渦巻状又は螺旋状のパターンを形成できる。
【0082】
図6C図6A及び6Bを組み合わせた図であり、非屈折状態604A及び屈折状態604Bの両方における液体メニスカス境界の位置を示している。本発明によると、図6Cに示すようなマルチ凸面メニスカス壁601を光学軸から相対的な所定の角度に配置した液体メニスカスレンズは、メニスカス壁部分に電位を印加した結果として生じる液体メニスカス移動に対して、光学軸から相対的な同様の角度に配置された直線メニスカス壁を有する液体メニスカスレンズよりも一貫性及び反復性の高い制御をもたらす。直線メニスカス壁を含むレンズの例は、本願明細書において参照により援用されている2010年6月29日に出願された米国特許出願第61,359,548号「LENS WITH CONICAL FRUSTUM MENISCUS WALL」に記載されている。
【0083】
いくつかの好ましい実施形態では、液体メニスカス壁に電圧が印加され、対応する液体メニスカス境界がマルチ凸面メニスカス壁601に沿って前方湾曲レンズ606の方へ移動する。凸面メニスカス壁セグメント同士の間の不連続609は、所定のゾーンにおける液体メニスカス移動を減速させるか中断させ、特定の付加電力の変更又はその他の望ましい液体メニスカス境界の動作を達成すべく作用する。液体メニスカス境界は、それぞれの凸面セグメントに沿って進むにつれて減速し、不連続609の両側での液体メニスカス境界接触角の変化により、それぞれの不連続609付近で停止しやすくなる。本発明によれば、液体メニスカス境界604A〜604Bの移動が不連続609付近で停止した場合、液体メニスカス境界604A〜604B上の不連続609のチャネル効果により、液体メニスカス境界604A〜604Bはわずかに移動して不連続609の第2の角部608側部で定着する。
【0084】
いくつかの実施形態において、本発明の正味効果としては、小さな電圧変動にもかかわらず液体メニスカス境界の配置を安定させる助けになる予測可能な小接触角ヒステリシスが挙げられる。その上、印加された電圧によって液体メニスカス境界の配置の変化が引き起こされたとしても、チャネル構造によって油滴を保持し得る。レンズを除電すると、油滴が液体メニスカス境界の収縮を助けるため、回復時間が迅速になりかつ予測しやすくなる。
【0085】
本発明は、特定の実地形態を参照して説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更が行われ、その要素が同等のものと置き換えられることがあり得ることは、当業者によって理解されるであろう。更に、発明の範囲から逸脱することなく、本発明の教示に対し、特定の状況又は材料を適合するように、多くの修正が行われ得る。
【0086】
したがって、本発明は、本発明を実施するうえで考えられる最良の態様として開示される特定の実施形態に限定されるものではなく、付属の請求項の範囲及び趣旨に包含されるすべての実施形態を含むものである。
【0087】
〔実施の態様〕
(1) 光学レンズであって、
前方レンズ外面と前方レンズ内面とを含む前方レンズと、
後方レンズ内面と後方レンズ外面とを含む後方レンズであって、前記前方レンズ内面と前記後方レンズ内面との間に空洞が形成されるように、前記前方レンズに近接して位置決めされている前記後方レンズと、
前記前方レンズ内面と前記後方レンズ内面との間に形成された前記空洞内に収容されるある体積の生理食塩水溶液及び油であって、メニスカスを間に介在させてなる前記ある体積の生理食塩水溶液及び油と、
前記前方レンズ及び後方レンズのうちの一方又は両方に形成された光学軸に向かって凸面をなしている円環体の複数のセグメントの一般形状を含むメニスカス壁であって、前記生理食塩水溶液と油との間に形成された前記メニスカスとの境界をなす前記メニスカス壁と、を具備する光学レンズ。
(2) 前記前方レンズ及び前記後方レンズの少なくとも一方が本質的に平坦である、実施態様1に記載の光学レンズ。
(3) 前記前方レンズ及び前記後方レンズが弓形レンズを含む、実施態様1に記載の光学レンズ。
(4) 前記メニスカス壁の少なくとも一部分上に導電性コーティングを更に備える、実施態様3に記載の光学レンズ。
(5) 前記油の体積が、前記空洞内に収容される生理食塩水溶液の体積より少ない、実施態様4に記載の光学レンズ。
【0088】
(6) 前記油の体積が、生理食塩水溶液の量と比較して、約66体積%以上を構成する、実施態様5に記載の光学レンズ。
(7) 前記油の体積が、生理食塩水溶液の量と比較して、約90体積%以下を構成する、実施態様5に記載の光学レンズ。
(8) 前記ある体積の油が前記生理食塩水溶液の密度とほぼ等しい密度を備える、実施態様4に記載の光学レンズ。
(9) 前記ある体積の油が前記生理食塩水溶液の密度の約10%以内の密度を備える、実施態様4に記載の光学レンズ。
(10) 前記ある体積の油が前記生理食塩水溶液の密度の約5%以内の密度を備える、実施態様4に記載の光学レンズ。
【0089】
(11) 前記導電性コーティングが前記空洞の内側の区域から前記空洞の外側の区域に延在する、実施態様4に記載の光学レンズ。
(12) 前記空洞の外側の前記導電性コーティングの区域が、前記液体メニスカスレンズに電位を提供するための電気端子を形成する、実施態様11に記載の光学レンズ。
(13) 前記生理食塩水溶液及び前記油がメニスカスを形成し、前記空洞の外側の前記導電性コーティングの区域に電位を印加することにより、前記メニスカス壁に沿った前記メニスカスの接触位置に変化をもたらす、実施態様11に記載の光学レンズ。
(14) 前記電位が直流を構成する、実施態様11に記載の光学レンズ。
(15) 前記電位が約5.0ボルト〜60.0ボルトを含む、実施態様11に記載の光学レンズ。
【0090】
(16) 前記電位が約20.0ボルトを含む、実施態様15に記載の光学レンズ。
(17) 前記電位が約5.0ボルトを含む、実施態様15に記載の光学レンズ。
(18) 前記電位が約3.5ボルト〜約7.5ボルトを含む、実施態様11に記載の光学レンズ。
(19) 前記前方湾曲レンズ外面が約0以外の屈折力を備える、実施態様5に記載の光学レンズ。
(20) 前記前方湾曲レンズ内面が約0以外の屈折力を備える、実施態様5に記載の光学レンズ。
【0091】
(21) 前記後方湾曲レンズ外面が約0以外の屈折力を備える、実施態様5に記載の光学レンズ。
(22) 前記後方湾曲レンズ内面が約0以外の屈折力を備える、実施態様5に記載の光学レンズ。
(23) 前記前方湾曲レンズ及び前記後方湾曲レンズのうちの一方又は両方を通るチャネルと、前記チャネルを充填する導電材料と、を更に備える、実施態様5に記載の光学レンズ。
(24) 前記チャネルを充填する前記導電材料と電気的に連通している端子を更に備える、実施態様23に記載の光学レンズ。
(25) 前記端子に電位を印加することにより前記メニスカスの形状に変化をもたらす、実施態様24に記載の光学レンズ。
【0092】
(26) 前記前方湾曲レンズの前記内面の少なくとも一部分に沿って絶縁体コーティングを更に備え、前記絶縁体コーティングが電気絶縁体を備える、実施態様5に記載の光学レンズ。
(27) 前記絶縁体が、パリレンC(Parylene C)(商標)及びテフロンAF(Teflon AF)の一方を含む、実施態様26に記載の光学レンズ。
(28) 前記絶縁体が、前記前方湾曲レンズと前記後方湾曲レンズとの間の前記空洞に収容された生理食塩水溶液と前記導電性コーティングとの分離を維持するための境界区域を具備する、実施態様26に記載の光学レンズ。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B