【文献】
Hiroaki Uchiyama et.al.,Lithium insertion into nanometer-sized rutile type TixSn1-xO2 solid solutions,Solid State Ionics,2009年,vol.180,p.956-960
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
主な動向として、現在の電子機器、情報機器、バイオメディカル機器等には、コンパクトで小型化されていることが求められている。その要望を満たすために、それらの機器や装置で使用される電池にも、高蓄電容量・高放電容量という性能を維持しつつ、より小型化されることが期待されている。リチウムイオン電池は、こうしたニーズを満たすものとして、学術分野や産業分野で徐々に注目を集めている。
【0003】
リチウムイオン電池の主な構成要素には、正極(anode)(LiCoO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4等)、電解液、セパレータ及び負極(cathode)(炭素系材料、チタン系材料)が含まれる。リチウムイオン電池は、正極/負極間におけるリチウムイオンの酸化還元反応を利用して充放電反応を起こすというメカニズムで機能する。充放電の化学反応は以下の式でまとめられる。
正極での反応:LiMO
2⇔Li
(1−x)MO
2+xLi
++xe
−
負極での反応:C
6+xLi
++xe
−⇔Li
xC
6
全体の反応:LiMO
2+C
6⇔Li
(1−x)MO
2+Li
xC
6
(式中、MはCo、Ni又はMn;充電時は右向き、放電時は左向きの反応を示す。)
【0004】
近年の研究においては、いくつかの遷移金属酸化物(MoO
2、SnO
2、CoO
2、CuO、FeO、Li
4Ti
5O
12、TiO
2等)がリチウムイオン電池の負極として使用されている。なかでも、TiO
2やLi
4Ti
5O
12等のチタン系材料は、結晶構造が安定しており、充放電時の体積変化が少なく(0.2%未満)、サイクル寿命に優れ(1500サイクル以上)、且つ、炭素系材料の代用品としてリチウムイオン電池の負極材料に使用できる見込みがあるという特性を有するため、広く研究されている。上記チタン系材料を使用することで安全性が高まるものの、チタン系材料は導電性に劣り電気容量が低い(約180mAh/g)という欠点があり、これはリチウムイオン電池の負極として使用するために解決すべき最重要課題である。
【0005】
特許文献1には、固相反応によってTiO
2とSnO
2とを様々な比率で混合し、リチウムイオン電池の負極として使用することが開示されている。上記特許文献で教示されているTi原子とSn原子との比率は、Ti:Sn=6:5(Ti
6Sn
5)及びTi:Sn=2:1(Ti
2Sn
1)であり、それぞれ市販のTiO
2粉末及びSnO
2粉末を均一に混合し、次いで、混合物を1000℃で焼結し、平均粒径が15μmとなるように粉砕した後、その粉末を5重量%の導電性カーボン(石油コークス粉末等)及び接着剤(ポリフッ化ビニリデン等)と混ぜ合わせてから均一に混合して、作用電極を形成している。LiCoO
2を対極として使用して得られた作用電極を試験した結果、Ti
6Sn
5及びTi
2Sn
1の可逆容量は、それぞれ1130mA/cm
3及び1110mA/cm
3であることが分かった(電極密度はいずれも3.65g/cm
3)。また、LiCoO
2電池の初期動作電圧は3.5Vであり、50サイクル後には3.2Vを維持していた。
【0006】
非特許文献1には、自作のLi
4Ti
5O
12とSnとを高エネルギーボールミルで均一に混合して新規Sn/Li
4Ti
5O
12複合材を得ることが開示されている。著者は、一定量の有機リチウムと二酸化チタンとを均一に混合し、様々な温度で焼結することで、Li/Ti/O複合材を得ることを記載している。実験によれば、800℃で焼結して得られたLi
4Ti
5O
12は、より純粋な結晶相を有している。SnCl
2・2H
2OをNaBH
4溶媒と混合し、化学反応させてSnナノ粉末を得た後、Li
4Ti
5O
12をSnと様々な比率で混合して、Sn/Li
4Ti
5O
12混合物を得ている。上記文献によれば、Li
4Ti
5O
12によって充放電時のSnの過膨張の問題が改善され、SnによってLi
4Ti
5O
12の導電性が向上することによって、Sn/Li
4Ti
5O
12混合物のサイクル安定性が良好となり、容量が大きくなる。Li
4Ti
5O
12:Sn=70:30の場合、初期放電容量は321mAh/gであり、30サイクル後には300mAh/gを維持していた。
【0007】
非特許文献2には、Sn化合物をLi
4Ti
5O
12に化学的に沈着させ、熱処理することで、SnO
2で被覆されたLi
4Ti
5O
12複合材を得ることが開示されている。最初に、様々な比率でSnCl
2・xH
2Oをエタノールに溶解し、次いで、Li
4Ti
5O
12及びNH
3・H
2Oを順番に添加して、Li
4Ti
5O
12材料の表面にSnを酸化物として堆積させた後、得られた材料を500℃で3時間焼結して、Li
4Ti
5O
12/SnO
2複合材を得ている。データによれば、上記方法により、Li
4Ti
5O
12の表面をSnO
2で均一に変性でき、安定したサイクル寿命及び電気容量を有する電池が得られる。5重量%のSnO
2で表面を変性したLi
4Ti
5O
12の初期放電容量は443mAh/gであり、42サイクル後には189mAh/gを維持していた。
【0008】
非特許文献3には、ゾルゲル法によるSnO
2/Li
4Ti
5O
12複合材の調製方法が教示されている。最初に、一定量のチタン酸テトラブチルを無水エタノールに溶解し、酢酸リチウムのエタノール水溶液に添加して攪拌した後、SnO
2粉末を加え、混合物を2〜3時間超音波振盪してから、500℃で4時間乾燥及び焼結させて、SnO
2/Li
4Ti
5O
12複合材を得ている。実験結果によれば、SnO
2粉末は非晶質のLi
4Ti
5O
12層で被覆されており、コア−シェル構造を形成していることが分かった。この構造によって、充放電時のSnO
2の体積膨張が制御され、結果として材料の崩壊が防止される。上記複合材は、初期充放電時の可逆容量が688.7mAh/gであり、60サイクル後にはその可逆容量の93.4%を維持していたため、大容量且つ長寿命の負極材料であることが分かる。
【0009】
上述の文献に見られるように、近年はチタン系材料とスズ塩との組み合わせが広く研究されている。このような複合材は、それら2種類の材料の利点を併せ持つだけでなく、それらの欠点を最小限に抑えることができ、その結果、サイクル寿命が良好で、電気容量が大きく、安全性も高い負極を形成できる。しかしながら、上述の開示内容から分かるように、上記複合材の製造は非常に複雑且つ高コストであるため、商業的規模での生産は難しいことも認められており、そのため改良が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、電極材料を製造する簡便な方法を提供する。本発明により製造された電極を用いれば、高電気容量で長寿命の電池を提供できる。
【0031】
本発明の電極材料の製造方法は、酸性めっき浴を準備し、上記酸性めっき浴に二酸化チタン粉末、金属塩及び還元剤を添加して前駆体を調製し、上記前駆体を熱処理して電極材料を得る方法である。
【0032】
本発明の酸性めっき浴は、酸及び溶媒で構成され、その比率は当該分野で公知の比率でよい。上記酸性めっき浴は、市販品でもよいし、あるいは、実施者が本発明の方法を実施する際に自作してもよい。本発明において、上記酸としては、特に限定されないが、例えばギ酸、安息香酸、硫酸、塩酸、フルオロホウ酸、酢酸、硝酸又はこれらの組み合わせが挙げられる。上記酸はフルオロホウ酸であることが好ましい。
【0033】
上記溶媒としては、特に限定されないが、例えば水、アルカン(エタン、プロパン、ペンタン等)、ケトン(アセトン、ブタノン、N−メチル−2−ピロリドン等)、アルデヒド(ブチルアルデヒド等)、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、イソプロパノール等)、エーテル(ジエチルエーテル等)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、灯油(ケロシン)又はこれらの組み合わせが挙げられる。上記溶媒は水であることが好ましい。
【0034】
上記酸性めっき浴の温度としては、40℃〜100℃が好ましい。
【0035】
本発明で使用される二酸化チタンの結晶相は特に限定されないが、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型又はこれらの組み合わせであることが好ましい。なかでも、ルチル型がより好ましい。
【0036】
本発明で使用される金属塩としては、特に限定されないが、スズ塩、アンチモン塩、ゲルマニウム塩又はこれらの組み合わせが挙げられる。上記スズ塩は、二塩化スズ、四塩化スズ、硫酸スズ、ホウフッ化スズ又はこれらの組み合わせであってもよい。上記アンチモン塩は、三塩化アンチモン、硫酸アンチモン、テトラフルオロホウ酸アンチモン又はこれらの組み合わせであってもよい。上記ゲルマニウム塩は、二塩化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、臭化ゲルマニウム又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0037】
上記金属塩の添加量は、上記酸性めっき浴に上記金属塩を添加した際の金属イオン濃度が飽和濃度の範囲内である限り、特に限定されない。上記酸性めっき浴における金属イオン濃度は、0.01M〜0.40Mであることが好ましい。
【0038】
本発明を実施する際には、添加する二酸化チタン及び金属塩の相対量を調整することが重要である。したがって、酸性めっき浴の体積は限定されない。本発明の方法において、添加する二酸化チタン及び金属塩の相対量は、実施時の各種要因、例えば、二酸化チタンの種類及び/又はその表面積、製造する負極材料に望まれる性能、コスト等によって異なる。したがって、添加する二酸化チタン及び金属塩の相対量は限定されない。実施者が本発明を実施し易いように、本発明者らは以下のような相対量を推奨する。すなわち、酸性めっき浴中の金属塩由来の金属イオン量は、使用する二酸化チタン1gあたり0.35M以下が好ましく、0.10M〜0.35Mがより好ましく、0.20M〜0.25Mが更に好ましい。
【0039】
なお、酸性めっき浴中の金属塩、酸及び溶媒の種類及び添加量は、コスト、入手し易さ、取り扱い易さ、及び/又は、適用する電池に望まれる性能に応じたものとされる。したがって、種類及び添加量を特に限定する必要はない。
【0040】
本発明で使用する還元剤は、反応物中の金属イオンを還元することができ、且つ、還元された金属イオンを二酸化チタン材料の表面上に堆積できるものである限り、特に限定されない。上記還元剤は、例えばチオ尿素、硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム又はこれらの組み合わせであってもよい。好ましい実施形態において、上記還元剤は亜ジチオン酸ナトリウムである。
【0041】
本発明の方法では、更に、上記熱処理より前に乾燥を行ってもよい。だが、熱処理温度が室温より高い温度であると還元剤及び酸性めっき浴が除去され易いので、実際には、熱処理及び乾燥を同時に行ってもよい。上記乾燥は、60℃〜120℃で行うのが好ましい。得られた前駆体中の不純物含量を減らすため、本発明の方法では、更に、上記乾燥より前に、得られた前駆体を洗浄してもよい。
【0042】
一般的に、本発明における熱処理工程は200℃〜1300℃で行うことが好ましく、350℃〜700℃がより好ましく、400℃〜650℃が更に好ましい。熱処理を行う時間については、熱処理温度が高いほど必要とする時間が短くなることは当業者であれば理解できるであろう。すなわち、熱処理に必要な時間は熱処理温度によって異なる。典型的には、熱処理時間は10分〜180分が好ましく、10分〜120分がより好ましい。
【0043】
また、乾燥した前駆体が熱処理中に酸化することを防ぐため、不活性ガス雰囲気下又は希薄ガス雰囲気下(すなわち、気圧が10
−2torr未満の雰囲気下)で熱処理することが好ましい。不活性ガス雰囲気下で用いる不活性ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、二酸化窒素及びこれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。言うまでもないが、上記不活ガス雰囲気下では、水分及び酸素が存在しないようにすべきである。
【0044】
上記の通り、種々の好ましい条件を例示したが、当業者であれば、本発明の電極材料が最終的に得られる限り、熱処理の温度及び時間を特定の範囲に限定する必要がないことは理解できるであろう。したがって、実施者は、使用する機器に応じてコストや所要時間等の制限及び他の要因を考慮して熱処理の温度及び時間を調整できる。
【0045】
上記方法によって、高電気容量で長寿命の電極材料を得ることができる。したがって、本発明によれば、複数のコア−シェル型粒子を含む電極材料であって、上記コアは二酸化チタンで形成されており、上記シェルは、還元後に熱処理を施した金属塩で形成され、且つ、上記コアの表面を被覆している、電極材料も得られる。
【0046】
上述の通り、上記二酸化チタンの結晶相は特に限定されないが、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型又はこれらの組み合わせであることが好ましく、ルチル型であることがより好ましい。
【0047】
本明細書中、「還元後に熱処理を施した金属塩」とは、金属塩を還元した後に熱処理して得られるものを意味し、この得られる金属塩は、金属であってもよく、金属化合物であってもよく、これらの混合物であってもよい。上記還元後に熱処理を施した金属塩が金属であるか、金属化合物であるか、あるいは、これらの混合物であるかは、反応条件によって決定される。上記還元後に熱処理を施した金属塩としては、特に限定されないが、例えば、金属スズ、金属ゲルマニウム、硫化スズ、酸化スズ、三酸化アンチモン、酸化ゲルマニウムが挙げられる。本発明の別の実施形態によれば、上記還元後に熱処理を施した金属塩は
TixSn1−xO2(xは0〜1.0である)である。すなわち、上記シェルは
TixSn1−xO2(xは0〜1.0である)である。
【0048】
本発明の方法で得られる電極材料は、リチウムイオン二次電池に使用できるだけでなく、他の電気化学装置にも使用できる。本発明の電極材料は、通常、負極(cathode)材料として使用することが好ましい。本発明の電極材料を使用すると、安全性が高く、電気容量が大きく、電気容量減衰率が低く、寿命が長く、安定性が高いといった特徴を有する電池が得られる。
【0049】
本発明の電極材料は、以下に記載する当該分野で公知の方法により更に処理して、リチウムイオン電池用の電極板とすることができる。本発明の一例によれば、上記電極材料を負極板に適用し、他の構成要素と組み合わせることにより、リチウムイオン二次電池を形成する。
【0050】
以下にリチウムイオン二次電池の構造を詳細に説明するが、それは例示であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0051】
図1にはリチウムイオン二次電池1が示され、リチウムイオン二次電池1は、上蓋11及び底蓋12を有する。この上蓋11及び底蓋12の両方によって密閉空間が画定される(
図1には図示せず)。また、上記リチウムイオン電池1は、底蓋12側へ向かって順番に、ばね座金(スプリングワッシャー)13、ステンレス盤14、負極板15、セパレータ16及び正極(anode)板17を有し、更に、上記密閉空間を満たす電解液(
図1には図示せず)を含んでいる。
【0052】
なお、本発明において、ばね座金、ステンレス盤、負極板、セパレータ及び正極板は、当該分野で公知の種類又は材料のものを適宜使用できる。上記電池の構成要素の種類、作製方法、添加量については様々なもの又は量が当該分野で既に知られている。これらは、当業者であれば、各自の経験及び必要性に応じて調整できるため、本明細書では説明を繰り返さない。
【0053】
上記負極板は以下のようにして形成できる。本発明の負極材料を導電材、接着剤及び溶媒と均一に混合し、得られたペーストを集電体シートに塗布し(集電体シートの両面又は片面に塗布可能。本実施例においては、ペーストをシートの片面に塗布した)、乾燥することによって、表面に1層又は2層の塗膜を有する集電体が得られる。また、必要であれば、モデリングのためや、当該負極材料を備えた電池の電気容量密度を向上させたり、上記塗膜の構造及び上記塗膜と集電体との接着性を向上させたりするために、上記塗膜をプレス機で圧縮して負極板を形成してもよい。なお、二酸化チタンは比較的硬度が高いため、プレス機を傷つけないようにプレス機のローラー材料を慎重に選ぶべきである。
【0054】
当業者であれば、当該分野における知識に基づいて、上記導電材、接着剤及び集電体の種類、添加量及び形状を変更できる。例えば、上記導電材としては、カーボンブラック、カーボンナノファイバー等が実際に使用でき、その添加量は、通常、負極材料、導電材及び接着剤の総重量に対して0〜20重量%である。すなわち、導電材は必ずしも必要ではない。上記塗膜の厚さは、20〜350μmが好ましい。
【0055】
上記接着剤としては、電解液に対して化学的に安定で且つ電気化学的に安定な接着剤を使用することが好ましく、その量は、通常、負極材料に対して約1〜約10重量%である。上記接着剤は、含フッ素ポリマー(なかでも、当該分野ではポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリテトラフルオロエチレンが通常使用される)、ポリオレフィン(なかでも、当該分野ではポリエチレン(PE)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンゴム(SBR)が通常使用される)、セルロース(なかでも、当該分野ではカルボキシメチルセルロースが通常使用される)又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0056】
上記溶媒として通常使用されるのは、水、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)又はこれらの組み合わせである。水及びN−メチルピロリドン、特にN−メチルピロリドンが当該分野において最も一般的に用いられる溶媒である。上記溶媒の種類及び使用量については様々なもの又は量が当該分野で知られており、これらは、当業者であれば、各自の技術及び必要性に応じて調整できるため、本明細書では説明を繰り返さない。
【0057】
上記集電体は、銅、ニッケル等から形成できる。上記集電体の形状は限定されないが、通常、箔状又は網目状などの薄層である。上記集電体のサイズ(長さ、幅、厚さ、重量等)は、所望の負極板のサイズに従って決定されるが、厚さは5〜20μmが好ましい。
【0058】
正極板は、上記負極材料ではなく正極材料を使用する以外は、上記負極板と同様にして製造される。
【0059】
上記正極材料の原料はリチウム遷移金属酸化物であり、例えばLiM
(1−x)M’
xO
2(式中、xは1以下)又はLiM
(2−y)M’
yO
4(式中、yは2以下)が挙げられる。M及びM’は、それぞれ独立に、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al及びSnからなる群より選択される。M及びM’の少なくとも一方は遷移金属である。上記材料の製造については、中国、中南大学出版社出版の「リチウムイオン電池」(2005年5月、第1版)の第3章を参照されたい。また、電池に要求される性能を満たすため、上記正極材料の原料はリチウム遷移金属酸化物を2種以上含んでいてもよく、あるいは、炭酸リチウム等のその他の化学物質を含んでいてもよい。また、上記正極板はリチウム箔であってもよい。
【0060】
上記セパレータの主な機能は、絶縁すること、電池のショートを防いで安全性を向上させること、正極板と負極板との間でイオンを移動させることである。セパレータの構造は限定されないが、例えば、当該分野で通常使用される不織布又は多孔膜等の固体構造であってもよいし、あるいは、使用可能なゲル構造あってもよい。上記セパレータの主な材料は、ポリオレフィンであってもよく、特にポリプロピレン/ポリエチレン(PP/PE)の混合物、又は、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン(PP/PE/PP)の混合物であってもよい。PP/PE/PPが最も一般的な材料である。
【0061】
本発明に好適な電解液は非水性電解液である。非水性電解液とは、非水性溶媒及びその溶媒に分散した電解質で構成されたものをいう。上記電解質としては、当該分野で通常使用されるリチウム塩が好適であり、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF
3SO
2)
2)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)又はこれらの組み合わせが挙げられる。上記電解質は、LiPF
6、LiBF
4及びこれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。本発明で提案される上記電解質の濃度は、0.1〜2.0Mであり、好ましくは0.5〜1.2Mである。
【0062】
上記電解液の非水性溶媒は、固体状、ゲル状又は液体状のいずれであってもよい。液体状の非水性溶媒としては、炭酸エステル類(炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチル等)、フラン類(テトラヒドロフラン等)、エーテル類(ジエチルエーテル等)、チオエーテル類(メチルスルホラン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロパンニトリル等)又はこれらの組み合わせが使用できる。
【0063】
固体状の非水性溶媒は、例えば、ポリエーテル系ポリマー(ポリエチレンオキシド及びその架橋物等)、ポリメタクリレート系ポリマー、ポリアクリレート系ポリマー、含フッ素ポリマー(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)又はこれらの組み合わせから選択されるポリマーであってもよい。
【0064】
上記電解質は特に限定されないが、リチウム塩(LiPF
6、LiBF
4、LiN(CF
3SO
2)
2、LiCF
3SO
3等)であってもよい。上記電解質の濃度は、0.1〜1.5Mであり、好ましくは0.5〜1.2Mである。
【0065】
上記電解液は、電解質を液体状の非水性溶媒に溶解することにより得ることができるが、固体状の非水性溶媒を使用する場合には、電解質と固体状の非水性溶媒とを有機溶媒(アルカン、ケトン、アルデヒド、アルコール、エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、灯油又はこれらの組み合わせ等)を用いて混合した後、熱処理して上記有機溶媒を取り除くことによって、電解液が得られる。
【0066】
本明細書の実施例で使用した電解液は、濃度が1MのLiPF
6電解液である。使用した溶媒は炭酸エチレンと炭酸ジメチルとの1:1(重量比)混合物である。セパレータ16はPP/PE/PPであり、正極板17はリチウム箔である。
【0067】
本発明の技術的特徴は本明細書において明確に説明されており、その他の材料や配合は当該分野で公知である。したがって、当業者であれば上記情報に基づいて本発明を容易に実施することができる。以下に記載した実施例において、本発明の特徴及び利点を例示する。
【0068】
また、特に記載のない限り、実施例及び比較例において材料を混合した後に行った試験及び評価は、常温常圧の条件下で実施したものである。
【実施例】
【0069】
<電池用負極材料>
(1)酸:フルオロホウ酸(Panreac Applichem社製、純度35.0%)
(2)溶媒:水
(3)二酸化チタン:(Ming Yuh Scientific Instruments社製)
(4)金属塩:Sn(BF
4)
2(Acoros社製、純度50.0%)
(5)還元剤:Na
2S
2O
4(Ming Yuh Scientific Instruments社製、純度98.2%)
(6)導電材:カーボンブラック(TIMCAL社製、型番Super−S)
<負極板>
(7)溶媒:N−メチル−2−ピロリドン(NMP、C
5H
9NO)(Aldrich社製、純度99.5%)
(8)接着剤:PVDF(Solef 6020、MW=約304,000)
(9)集電体:銅箔(日本製箔社製、厚さ15μm)
<電解液>
(10)電解質:LiPF
6(Ferro社製、純度99.0%)
(11)溶媒:炭酸エチレン及び炭酸ジメチル(Ferro社製、純度99.0%)
<電池のその他の構成要素>
(12)上蓋及び底蓋:(Hao Ju社製、型番2032)
(13)ばね座金:(Hao Ju社製)
(14)ステンレス盤:(Hao Ju社製)
(15)セパレータ:(Hao Ju社製、型番Celgard2300)
(16)正極板:リチウム箔(FMC社製、純度99.9%、ディスク径1.65cm)
【0070】
[実施例1]:本発明に係る負極材料の製造
フルオロホウ酸(47.3mL)と水(485.8mL)を混合し、温度を60℃にすることで、酸性めっき浴を得た。続いて、110℃で2時間脱水したルチル型二酸化チタン(75g)、ホウフッ化スズ(49.3mL)及び亜ジチオン酸ナトリウム(17.41g)を順次添加し、30分間均一に混合して前駆体を得た。酸性めっき浴中の金属イオン量は、添加した二酸化チタン1gあたり0.0018モルであった。
【0071】
次いで、上記前駆体を取り出して数回洗浄した後、100℃のオーブンで乾燥することで、固体状の前駆体乾燥物を得た。次いで、その前駆体乾燥物をるつぼに入れ、窒素を充填した450℃の高温炉で120分間熱処理した。その後、自然冷却し、電極材料を得た。得られた電極材料は、リチウムイオン二次電池の負極材料として使用した。
【0072】
[実施例2]:本発明に係る負極材料の製造
熱処理温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0073】
[実施例3]:本発明に係る負極材料の製造
熱処理温度を600℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0074】
[実施例4]:本発明に係る負極材料の製造
二酸化チタンの添加量を37.5gに変更し、熱処理温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。酸性めっき浴中の金属イオン量は、添加した二酸化チタン1gあたり0.0036モルであった。
【0075】
[実施例5]:本発明に係る負極材料の製造
二酸化チタンの添加量を37.5gに変更し、熱処理温度を600℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。酸性めっき浴中の金属イオン量は、添加した二酸化チタン1gあたり0.0036モルであった。
【0076】
[比較例1]:従来の負極材料の製造
ルチル型二酸化チタン(75g)を110℃で2時間脱水し、従来の負極材料を得た。
【0077】
[TEM及びXRD分析]
上記の通り製造した負極材料について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察及びX線回折(XRD;リガク社(米国)製、型番ATX−E)によって試験した。結果を
図2〜5に示す。
【0078】
図2及び
図3はそれぞれ、実施例1及び比較例1の負極材料の表面形態を表すTEM写真である。得られた結果によれば、実施例1の表面形態は円柱状であるのに対して、比較例1の表面形態は針状であり、実施例1及び比較例1における表面形態は大きく異なっている。このような違いは、還元されて二酸化チタンの表面に付着した後に熱処理された金属塩の金属イオンに起因するものと考えられる。これにより、本発明の電極材料はコア−シェル構造を有しており、コアが二酸化チタンで、シェルが
TixSn1−xO2(xは0〜1.0である)で形成されていることが分かった。更に、実施例2〜5の負極材料は、
図3に示したものと同様であった。
【0079】
図4はXRDの結果であり、実施例1〜5及び比較例1の負極材料の結晶相の変化を示す。
図4に示される通り、実施例1〜5及び比較例1のXRDの結果に違いが見られた。比較例1と比較して、実施例1〜5ではピークシフトが見られた。この結果は、「Solid State Ionics,180(2009),956−960」に開示されたデータと一致する(
図5を参照)。上記文献は、参照により本願明細書に組み込まれる。上記文献には、固溶体Ti
xSn
1−xO
2(xは0〜1.0)のXRDスペクトルのピークが、変数「x」に応じてシフトすることが記載されている。Sn量が増加するとピークが小角側へ移動するが、これは
図4に示した結果と一致しており、本発明の電極材料が固溶体の複合材であることが分かる。
【0080】
[応用例]:本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造
実施例1〜5及び比較例1の各負極材料をカーボンブラック(すなわち導電材)及びPVDF(すなわち接着剤)と重量比60:20:20で混合して固体組成物を得た。続いて、上記固体組成物に対して20重量%のN−メチル−2−ピロリドンを上記固体組成物と均一に混合してペーストを得た。
【0081】
実施例及び比較例の各ペーストを銅箔の片面に塗布し、250μmのへらにより調整して、上記銅箔及び上記ペーストの厚さの合計が250μmになるようにした。その後、上記銅箔及び上記ペーストを110℃のオーブン(Wah Fu Precision社製)に入れてNMP残渣を除去した。2時間後、電極板が得られた。これをプレス機によって直径16mmのディスク状に切断したが、これが、
図1に示すリチウムイオン二次電池1の負極板15である。
【0082】
図1のように、上記の通り製造した各負極板15それぞれについて、上蓋11、底蓋12、ばね座金13、ステンレス盤14、セパレータ16、正極板17及び電解液(1MのLiPF
6電解液;使用した溶媒は重量比1:1の炭酸エチレン/炭酸ジメチル混合物)を全て準備した。グローブボックス(Unilab Mbraum社製、型番Proj−4189)中で、電池封口機(Hao Ju社製、確実に電池をきちんと封口するためのもの)を使用して上記各構成要素を
図1に示す順番に従って組み立てて、コイン型電池、すなわちリチウムイオン二次電池を得た。
【0083】
[性能]
上記実施例及び比較例の負極材料を備えたリチウムイオン二次電池の性能を以下のように試験した。
【0084】
[初期充放電試験]
充放電試験機(Acutech Systems社製、型番BAT−750B)を使用して、試験機により示される電圧が0.1Vになるまで各リチウムイオン二次電池に対して0.326mAcm
−2(約0.1C)で定電流充電を行い、各電池の初期充電容量を取得した。5分後、電圧が3.0Vになるまで各電池に対して0.326mAcm
−2で定電流放電を行い、各電池の初期放電容量を取得した。次に、以下の数式によって初期充放電効率を算出した。
初期充放電効率(%)={(初期充電容量)/(初期放電容量)}×100
【0085】
更に、各電池の初期充電容量をその負極板の二酸化チタン重量で除して、上記実施例及び比較例の負極材料1gあたりの平均充放電容量(mAh/g)を取得した。上記実施例及び比較例の初期充放電効率(%)及び充放電容量(mAh/g)を表1に列挙した。
【0086】
[充放電50回試験]
この試験では、上述の「初期充放電試験」を50回繰り返した。各試験を5分間隔で行った。このようにして、50回分の電池の充放電容量の値を取得した。注目すべきことに、充放電5回目でも二酸化チタン材料の容量は安定していた。そこで、50回目の放電容量を用いて以下の数式により各電池のサイクル特性を算出した。
サイクル特性(%)={(50回目放電容量)/(5回目放電容量)}×100
【0087】
更に、各電池の50回目の放電容量をその負極板の二酸化チタン重量で除して、上記実施例及び比較例の負極材料1gあたりの平均放電容量(mAh/g)を取得した。上記実施例及び比較例による電池の50回目の放電容量及びサイクル特性(%)を表1に列挙した。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示した各実施例及び比較例の初期放電容量(「1回目放電容量」)、5回目の放電容量(「5回目放電容量」)、50回目の放電容量(「50回目放電容量」)、放電効率及び50回目のサイクル特性(「50回目サイクル特性」)を表2に列挙した。同じ二酸化チタンを用いた比較例と比較した場合、データ中の「+」記号は、実施例の数値が比較例の数値よりも高いことを表す。
【0090】
【表2】
【0091】
上記実施例に行った試験によれば(表1及び2に示す通り)、未処理のルチル型二酸化チタンを使用した比較例と比べて、本発明の負極材料の方が初期放電容量、50回目放電容量、及び、放電効率が優れていた。更に、本発明の負極材料は50回目サイクル特性についても安定性が良好であった。
【0092】
上記電池の50回分の放電容量の値を
図6にプロットし、各電池の良い点と悪い点を評価した。
図6によれば、サイクル試験を50回行った後では、放電容量は、実施例1〜5の負極材料を使用した電池の方が比較例よりも高かった。その減衰については、実施例1〜5の方が比較例よりも多少はっきり見られたものの、各回の充放電容量は依然として一定のレベルに維持できていた。したがって、実施例1〜5による電池は性能がより安定しており、寿命も長いと考えられる。
【0093】
上記を踏まえ、本発明の負極材料を使用すれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くすることができ、長期にわたって連続的に電気を供給できる。また、上記電池は長期使用後でも放電容量を高く維持できるため、寿命が改善される。更に、上記負極材料は、安全性が高いことで知られる二酸化チタン材料で形成されている。したがって、本発明の負極材料は全ての点で市場のニーズを満たしている。
【0094】
以上より、本発明の方法は特別な装置や材料を必要としないため、実施し易い。また、得られた負極材料はそれ以上精製しなくてもすぐに使用できるので、製造コストを下げることができる。したがって、本発明によれば、実際に、好適な負極材料を製造して、安全性が高く、放電容量が大きく、且つ、寿命が長い電池を低コストで組み立てることができる。よって、当該産業に大きな利益をもたらす。