(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062464
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】放射性セシウム除去方法及び放射性セシウム除去システム
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20170106BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20170106BHJP
G21F 9/32 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
G21F9/28 B
G21F9/28 Z
G21F9/30 531M
G21F9/32 Z
G21F9/30 101
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-36301(P2015-36301)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-156767(P2016-156767A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2015年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】竹田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正裕
【審査官】
後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−036883(JP,A)
【文献】
特開昭63−255699(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/002843(WO,A1)
【文献】
特開2014−153153(JP,A)
【文献】
特開2013−213700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/30
G21F 9/32
F23G 7/00
B09B 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を粉砕する粉砕処理と、当該粉砕処理後の処理対象物にセシウム揮発促進剤を添加する添加処理と、当該添加処理後の処理対象物を加熱する加熱処理とを実行する放射性セシウム除去方法であって、
前記粉砕処理後の処理対象物を気流搬送路に払い出して、当該気流搬送路を通じて気流搬送し、
前記添加処理が、前記気流搬送路にセシウム揮発促進剤を供給する形態で、前記気流搬送路を通流する搬送気流中にセシウム揮発促進剤を前記処理対象物とは別に投入する処理であると共に、
前記添加処理後の搬送気流から処理対象物を分離して前記加熱処理に供する分離処理を実行する放射性セシウム除去方法。
【請求項2】
前記添加処理前の処理対象物を乾燥させる乾燥処理を実行する請求項1に記載の放射性セシウム除去方法。
【請求項3】
前記乾燥処理の熱源として、前記加熱処理の排熱を利用する請求項2に記載の放射性セシウム除去方法。
【請求項4】
前記添加処理前の搬送気流から処理対象物の粗粒分を分離して前記粉砕処理に戻す回収処理を実行する請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射性セシウム除去方法。
【請求項5】
処理対象物を粉砕する粉砕処理を実行する粉砕処理部と、当該粉砕処理後の処理対象物にセシウム揮発促進剤を添加する添加処理を実行する添加処理部と、当該添加処理後の処理対象物を加熱する加熱処理を実行する加熱処理部とを備えた放射性セシウム除去システムであって、
前記粉砕処理後の処理対象物が払い出されて当該払い出された処理対象物を気流搬送する気流搬送路を備え、
前記添加処理部が、前記気流搬送路にセシウム揮発促進剤を供給する形態で、前記気流搬送路を通流する搬送気流中にセシウム揮発促進剤を前記処理対象物とは別に投入する処理部であると共に、
前記添加処理後の搬送気流から処理対象物を分離して前記加熱処理部に供給する分離処理を実行する分離処理部を備えた放射性セシウム除去システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の焼却に伴って発生する焼却灰や土壌などの処理対象物を粉砕する粉砕処理と、当該粉砕処理後の処理対象物にセシウム揮発促進剤を添加する添加処理と、当該添加処理後の処理対象物を加熱する加熱処理とを実行する放射性セシウム除去方法及び放射性セシウム除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」(平成23年6月23日、環境省)では、放射性物質を含む災害廃棄物の焼却に伴って発生する焼却灰の取り扱いについて、放射性セシウム濃度(セシウム134とセシウム137の合計値。以下「放射能濃度」という。)が8,000Bq/kgの基準値を超える場合には中間貯蔵施設等での保管が必要であるが、上記基準値以下である場合には一般廃棄物最終処分場(管理型最終処分場)で埋め立て可能という方針が示されている。しかしながら、埋め立て処分を促進させるためには、このような焼却灰から放射性セシウムを除去して、焼却灰の放射能濃度を一層低減させることが求められる。
【0003】
また、廃棄物の焼却過程において、廃棄物中の放射性セシウムの多くは排ガスへ移行して飛灰に付着するため、主灰の放射能濃度は、飛灰と比べて小さくなり、上記基準値以下となることが多い。しかしながら、今後、除染特別地域などの高線量地域における除染廃棄物の焼却による減容化が進められるにあたり、上記基準値を超える主灰の量が増加する可能性がある。そこで、貯蔵容量に制限がある中間貯蔵施設等への主灰の搬入量を減らすためにも、このような主灰から放射性セシウムを除去して、主灰の放射能濃度を低減させることが求められる。
【0004】
このような焼却灰や土壌などの処理対象物から放射性セシウムを除去する従来の放射性セシウム除去技術として、焼却灰を塩化化合物などのセシウム揮発促進剤を添加した上で加熱することで、焼却灰から放射性セシウムを揮発除去するものが知られている(例えば、特許文献1〜4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−174090号公報
【特許文献2】特開2013−120146号公報
【特許文献3】特開2013−122440号公報
【特許文献4】特開2014−014802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の放射性セシウム除去技術では、処理対象物を非常に高温(例えば1200℃超)に加熱する必要があったが、この場合、大量のエネルギが必要となり、更には、処理対象物がスラグ化して元の性状とは大きく変化して取り扱い難いものとなるという問題もあった。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、処理対象物に対しセシウム揮発促進剤を添加した上で加熱することで、処理対象物から放射性セシウムを揮発除去する放射性セシウム除去技術において、システムの小規模化や省エネルギ化を図りながら、処理対象物から効率良く放射性セシウムを揮発除去することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、処理対象物を粉砕する粉砕処理と、当該粉砕処理後の処理対象物にセシウム揮発促進剤を添加する添加処理と、当該添加処理後の処理対象物を加熱する加熱処理とを実行する放射性セシウム除去方法であって、
前記粉砕処理後の処理対象物を気流搬送路に払い出して、当該気流搬送路を通じて気流搬送し、
前記添加処理が、
前記気流搬送路にセシウム揮発促進剤を供給する形態で、前記気流搬送路を通流する搬送気流中にセシウム揮発促進剤を
前記処理対象物とは別に投入する処理であると共に、
前記添加処理後の搬送気流から処理対象物を分離して前記加熱処理に供する分離処理を実行する点にある。
【0009】
上記粉砕処理により粉砕された処理対象物を上記加熱処理により加熱する放射性セシウム除去方法において、処理対象物から効率良く放射性セシウムを揮発除去するためには、処理対象物に対してセシウム揮発促進剤を良好に混合しておく必要がある。しかし、処理対象物に対するセシウム揮発促進剤の混合を促進させるために、上記粉砕処理の処理能力を大きくして上記粉砕処理中の処理対象物にセシウム揮発促進剤を添加したり、セシウム揮発促進剤が添加された処理対象物を撹拌する撹拌装置を別途設けたりなどの対策を施すと、システムの大規模化やエネルギ効率の低下が問題となる。
【0010】
そこで、本特徴構成によれば、上記添加処理により、処理対象物が略均一に分散されている搬送気流中にセシウム揮発促進剤が投入されるので、その投入されたセシウム揮発促進剤についても、処理対象物と同様に、搬送気流を利用して略均一に分散されることになる。更にセシウム揮発促進剤が投入された後の搬送気流では、当該気流中に発生する乱流により処理対象物とセシウム揮発促進剤との混合が促進される。よって、その搬送気流から上記分離処理により処理対象物を分離すると、処理対象物だけでなくセシウム揮発促進剤も一緒に略均一に分散された状態で搬送気流から分離できると共に、分離される処理対象物とセシウム揮発促進剤との混合が促進されているので、その分離後に加熱処理に供される処理対象物ではセシウム揮発促進剤が均一に混合された状態となる。このことから、セシウム揮発促進剤の混合を促進させるための上記粉砕処理の処理能力の拡大や別途撹拌装置の設置等が不要となり、システムの小規模化や省エネルギ化を図ることができる。
しかも、上記粉砕処理により処理対象物を粉砕することで当該処理対象物の好適な気流搬送が可能となるので、セシウム揮発促進剤の搬送気流中への投入による処理対象物への混合促進が実現し易くなる。
【0011】
更に、上記分離処理により分離された処理対象物は、上記粉砕処理により粉砕されることで内部に取り込まれていた放射性セシウムの多くが露出した状態となっている。よって、その露出した放射性セシウムに対し、均一に混合されたセシウム揮発促進剤が良好に接触することになる。このことから、上記加熱処理により、この処理対象物を比較的低温又は短時間で加熱してエネルギ消費量の増加を抑制した場合であっても、放射性セシウムを効率良く処理対象物から揮発除去することができる。
【0012】
本発明の第2特徴構成は、前記添加処理前の処理対象物を乾燥させる乾燥処理を実行する点にある。
【0013】
本特徴構成によれば、上記乾燥処理により上記添加処理前の処理対象物を乾燥させることで、処理対象物の含水率の低下は勿論のこと、当該添加処理によりセシウム揮発促進剤が投入される搬送気流の湿度を低く保つことができる。よって、その搬送気流中においては、粉砕された処理対象物の水分による処理対象物自体の凝集が抑制されると共に、投入されたセシウム揮発促進剤についても吸湿や潮解による凝集が抑制された状態となる。このことで、例え含水率が高い処理対象物を処理する場合や潮解性を有するセシウム揮発促進剤を利用する場合であっても、上記添加処理後の搬送気流において、上記粉砕処理により粉砕された処理対象物と上記添加処理により投入されたセシウム揮発促進剤とが共に、凝集が抑制された状態で一層均一に分散された状態となり、結果、上記分離処理で分離され上記加熱処理に供される処理対象物において、セシウム揮発促進剤が一層均一に混合された状態とすることができる。
【0014】
本発明の第3特徴構成は、前記乾燥処理の熱源として、前記加熱処理の排熱を利用する点にある。
【0015】
本特徴構成によれば、上記乾燥処理の熱源として上記加熱処理の排熱を利用するので、上記乾燥処理を追加することによるエネルギ効率の悪化を抑制することができる。
【0016】
本発明の第4特徴構成は、前記添加処理前の搬送気流から処理対象物の粗粒分を分離して前記粉砕処理に戻す回収処理を実行する点にある。
【0017】
本特徴構成によれば、上記回収処理により、処理対象物のうちの粉砕処理後の粒子径が比較的大きいものである粗粒分を搬送気流から分離して上記粉砕処理に戻すので、上記加熱処理に供される処理対象物を、確実且つ十分に細かく粉砕されたものとすることができる。このことで、上記加熱処理に供される処理対象物に粉砕が不十分な粗粒分の処理対象物が残存していることによる放射性セシウムの除去効率の低下を抑制することができる。
【0018】
本発明の第5特徴構成は、処理対象物を粉砕する粉砕処理を実行する粉砕処理部と、当該粉砕処理後の処理対象物にセシウム揮発促進剤を添加する添加処理を実行する添加処理部と、当該添加処理後の処理対象物を加熱する加熱処理を実行する加熱処理部とを備えた放射性セシウム除去システムであって、
前記粉砕処理後の処理対象物が払い出されて当該払い出された処理対象物を気流搬送する気流搬送路を備え、
前記添加処理部が、
前記気流搬送路にセシウム揮発促進剤を供給する形態で、前記気流搬送路を通流する搬送気流中にセシウム揮発促進剤を
前記処理対象物とは別に投入する処理部であると共に、
前記添加処理後の搬送気流から処理対象物を分離して前記加熱処理部に供給する分離処理を実行する分離処理部を備えた点にある。
【0019】
本特徴構成によれば、前述の第1特徴構成を有する放射性セシウム除去方法が有する各処理を実行するための各処理部を備えているので、当該放射性セシウム除去方法と同様の作用効果を奏し、システムの小規模化や省エネルギ化を図りながら、処理対象物から効率良く放射性セシウムを揮発除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、
図1に基づいて説明する。
図1に示す本実施形態の焼却灰(処理対象物の一例)の処理システム10(放射性セシウム除去システムの一例)は、放射性物質を含む廃棄物の焼却に伴って発生する主灰(焼却灰の一例)が原料として焼却炉1aや主灰保管場1b等から供給され、当該主灰から放射性セシウムを除去するものとして構成されている。このため、この処理システム10には、主灰にセシウム揮発促進剤を添加する添加処理を実行する添加処理部5と、当該セシウム揮発促進剤が添加された主灰を加熱する加熱処理を実行する加熱処理部7とが設けられている。
【0022】
ここで、「焼却灰」とは、都市ごみ、農林業系副産物(例えば、稲藁又は麦藁)、製材廃材、下水汚泥の脱水ケーキ、剪定枝、枯葉、草、紙類、プラスチック類、除染作業に用いられたタイベック又は衣類のような可燃性廃棄物、災害がれき等の災害廃棄物等の各種廃棄物の焼却によって生じる灰を意味する。
【0023】
セシウム揮発促進剤の種類や加熱条件等については、公知技術を採用できるが、例えば、主灰に無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物と塩化化合物をセシウム揮発促進剤として添加すれば、加熱処理において比較的低温の900℃〜1200℃且つ比較的短時間の120分以下、好ましくは10分以上60分以下の加熱により、主灰中の放射性セシウムを良好に揮発させることができる。
【0024】
具体的に、セシウム揮発促進剤として、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、カルシウムシアナミド、硫酸カルシウム及び硝酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類の無機カルシウム化合物、又は500℃以上の酸化雰囲気下で酸化カルシウムを生成する有機カルシウム化合物と塩化ナトリウムを、焼却灰に添加する。
【0025】
無機化合物又は有機カルシウム化合物の添加量は、焼却灰と無機化合物又は有機カルシウム化合物との混合物中における無機化合物又は有機カルシウム化合物の割合が3質量%以上50質量%以下となるように調整される。次に、無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物を添加した焼却灰に、放射性セシウム含有焼却灰と無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物との混合物の合計量に対して0.5質量%を超え10質量%以下となるように塩化ナトリウムを添加する。
【0026】
塩化ナトリウム由来の塩化水素発生量を低減する観点から、塩化ナトリウムの添加量を放射性セシウム含有焼却灰と無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物との混合物の合計量に対して10質量%以下とすることが好ましい。また、確実に放射性セシウムを焼却灰から揮発させる観点から、塩化ナトリウムの添加量を、放射性セシウム含有焼却灰と無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物との混合物の合計量に対して1質量%以上とすることが好ましく、3質量%以上とすることがより好ましく、5質量%以上とすることがさらにより好ましい。尚、塩化ナトリウムの代わりに、塩化カルシウムや塩化カリウムなども利用することができる。
【0027】
主灰を加熱する加熱処理部7は、特に限定されないが、ロータリーキルンなどの公知の加熱炉で構成されている。そして、この加熱処理部7は、加熱処理により放射性セシウムが揮発除去された主灰を処理済主灰として排出すると共に、揮発した放射性セシウムを含む燃焼排ガスを排出する。
【0028】
このように加熱処理部7から排出された処理済主灰は、放射線濃度が十分に低減されたものとなるため、放射性セシウムで汚染された汚染主灰の大幅な減容化が可能となると考えられる。
【0029】
以上が焼却灰の処理システム10の基本構成であるが、本実施形態の焼却灰の処理システム10及びそれにより実行される放射性セシウム除去方法は、システムの小規模化や省エネルギ化を図りながら、主灰の非晶質中に取り込まれた大部分の放射性セシウムであっても、焼却灰から効率良く揮発除去することができるものとして構成されており、その詳細構成について以下に説明を加える。
【0030】
処理システム10には、焼却炉1aや主灰保管場1b等から供給された主灰を粉砕する粉砕処理を実行する粉砕処理部3が設けられている。この粉砕処理部3は、特に限定されないが、転動ボールミル粉砕装置、竪型ローラミル粉砕装置、ジェットミル粉砕装置、グライディング粉砕装置などの公知の乾式粉砕装置で構成されている。尚、この粉砕処理部3の運転条件等については、粉砕後の主灰の粒子径が例えば10μm程度の所望の粒子径となるように適宜設定することができる。そして、粉砕処理部3による粉砕処理が実行されることで、主灰中の非晶質が好適に粉砕され、その非晶質中に取り込まれている放射性セシウムの多くが露出した状態となる。そして、粉砕処理部3による粉砕処理後の主灰は、送風機8の吸引力により供給された給気と共に気流搬送路9に払い出されて、気流搬送路9を通じて気流搬送される。尚、気流搬送路9における搬送気流の流速については、一般的に10m/s〜30m/sの範囲内、好ましくは20m/s〜30m/sの範囲内に設定される。
【0031】
処理システム10に設けられた添加処理部5は、粉砕処理部3による粉砕処理後の焼却灰にセシウム揮発促進剤を添加する添加処理として、気流搬送路9を通流する搬送気流中にセシウム揮発促進剤を投入する処理を実行する。この添加処理部3は、特に限定されないが、気流搬送路9にセシウム揮発促進剤を定量供給する定量供給装置等で構成することができる。また、セシウム揮発促進剤の投入方法については、圧縮空気等を利用した噴射や重力落下等の各種投入方法を採用することができる。更に、添加処理部5により搬送気流中に投入されるセシウム揮発促進剤の粒子径については、焼却灰と共に搬送気流により搬送可能な範囲内に設定することが望ましく、例えば10μm〜1000μmの範囲内、好ましくは50μm〜500μmの範囲内に設定することができる。尚、本実施形態では、セシウム揮発促進剤として投入する炭酸カルシウムについてその粒子径を80μm程度に設定し、セシウム揮発促進剤として投入する塩化ナトリウムについてはその粒子径を400μm程度に設定している。
【0032】
更に、この気流搬送路9の上記添加処理部5よりも下流側には、当該搬送気流から主灰を分離する分離処理を実行する分離処理部6が設けられている。この分離処理部6は、特に限定されないが、気流から粉体を分離する公知の粉体分離装置で構成することができ、本実施形態では、比較的粒径が小さい主灰を搬送気流から分離可能なバグフィルタ式分離装置等で構成されている。そして、分離処理部6で分離された主灰が、加熱対象主灰として加熱処理部7による加熱処理に供される。
【0033】
このように、上記添加処理部5によりセシウム揮発促進剤が搬送気流に投入されるので、その搬送気流中においては、粉砕された主灰と投入されたセシウム揮発促進剤とが共に均一に分散された状態となる。よって、その下流側の分離処理部6で分離された加熱対象主灰は、セシウム揮発促進剤が均一に混合された状態となる。このことから、セシウム揮発促進剤の混合を促進させるための上記粉砕処理の処理能力の拡大や別途撹拌装置の設置等が不要となり、結果、システムの小規模化や省エネルギ化が図られることになる。
【0034】
上記加熱対象主灰は、上記粉砕処理部3で粉砕された主灰であるので、内部に取り込んでいた放射性セシウムの多くが露出した状態となる。その露出した放射性セシウムに対し、均一に混合されたセシウム揮発促進剤が良好に接触することになるので、上記加熱処理部7の加熱処理により、この主灰を比較的低温又は短時間で加熱してエネルギ消費量の増加を抑制した場合であっても、放射性セシウムが効率良く主灰から揮発除去される。
【0035】
処理システム10には、粉砕処理部3に投入される原料の主灰を乾燥させる乾燥処理を実行する乾燥処理部2が設けられている。この乾燥処理部2は、特に限定されないが、公知の乾燥装置で構成することができ、本実施形態では、主灰を熱風に晒して乾燥させるように構成されている。更に、この乾燥処理部2の熱源としては、加熱処理部7の排熱が利用されており、これにより乾燥処理によるエネルギ効率の悪化が抑制されている。
【0036】
この乾燥処理部2による乾燥処理により、添加処理部5による添加処理前の主灰が乾燥されることになるので、主灰の含水率の低下は勿論のこと、気流搬送路9において添加処理部5を通流する搬送気流の湿度が低く保たれる。よって、その搬送気流では、粉砕処理部3で粉砕された主灰の水分による主灰自体の凝集が抑制されると共に、添加処理部5で投入されたセシウム揮発促進剤についても吸湿や潮解による凝集が抑制されることになる。このことで、気流搬送路9の上記添加処理部5よりも下流側の搬送気流において、主灰とセシウム揮発促進剤とが共に、凝集が抑制された状態で一層均一に分散された状態となり、結果、上記分離処理部6で分離された加熱対象主灰においてセシウム揮発促進剤が一層均一に混合された状態となる。
【0037】
気流搬送路9の添加処理部5よりも上流側には、添加処理部5でセシウム揮発促進剤が投入される前の搬送気流から主灰の粗粒分を分離して粉砕処理部3に戻す回収処理を実行する回収処理部4が設けられている。具体的に、この回収処理部4は、特に限定されないが、気流から粉体を分離する公知の粉体分離装置で構成することができ、本実施形態では、比較的粒径が大きい主灰を搬送気流から分離可能なサイクロン式分離装置等で構成されている。
【0038】
即ち、粉砕処理部3で粉砕され気流搬送路9で気流搬送される主灰には、粉砕が不十分な数十〜数百μm程度の粗粒分の主灰が残留している場合がある。このように粉砕が不十分な粗粒分の主灰については、回収処理部4により回収主灰として分離され、更に粉砕処理部3に戻されて再度粉砕される。尚、回収処理部4において、回収主灰の分離粒度は適宜設定可能であるが、例えば30μm、好ましくは15μm、更に好ましくは10μmを超える主灰を回収主灰として分離して再度粉砕することが望ましい。
【0039】
よって、下流側の分離処理部6で分離された加熱対象主灰の殆どは、確実且つ十分に細かく粉砕された細粒分の主灰となり、結果、粉砕が不十分な粗粒分の主灰の残留による放射性セシウムの除去効率の低下が抑制されることになる。また、回収処理部4を通流する搬送気流中の主灰は、乾燥処理部2で乾燥されることで凝集が抑制されているので、細粒分の主灰が凝集により誤って回収処理部4で粗粒分として回収されて再度粉砕されることが抑制されており、このような余分な主灰の回収による粉砕処理部3の大規模化が回避されている。
【0040】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、放射性セシウムの揮発除去処理の対象となる焼却灰を主灰(燃え殻)とした例を説明したが、主灰以外の飛灰(煤塵)などの焼却灰を処理対象としても構わない。また、本願において、焼却灰の元となる廃棄物の種類(都市ごみ、農林業系副産物等)や当該焼却炉の種類(ストーカ炉、流動床炉、キルン炉等)については、特に限定されるものではない。
【0041】
(2)上記実施形態では、乾燥処理部2を粉砕処理部3の前段側に設けて、粉砕処理部3に投入される原料の主灰を乾燥させるように構成したが、例えば、気流搬送路9に供給される給気を低湿度の乾燥空気とするなどして、粉体処理後の主灰を乾燥させるように構成しても構わない。また、かかる乾燥処理部による乾燥処理は、適宜省略して構わない。
【0042】
(3)上記実施形態では、乾燥処理部2による乾燥処理の熱源として、加熱処理部7による加熱処理の排熱を利用するように構成したが、当然、乾燥処理の熱源として別の熱源を利用しても構わない。
【0043】
(4)上記実施形態では、主灰の粗粒分を分離して粉砕処理部3に戻す回収処理部4を、サイクロン式分離装置等により、主灰を搬送する搬送気流から主灰の粗粒分を分離するように構成したが、例えば気流搬送前の主灰から篩装置等により粗粒分を分離して粉砕処理部3に戻すように構成しても構わない。また、上記実施形態では、このような回収処理部4を気流搬送路9における添加処理部5よりも上流側に設けて、セシウム揮発促進剤が投入される前の搬送気流から主灰の粗粒分を分離して粉砕処理部3に戻すように構成したが、かかる回収処理部4を省略して、全主灰に対してセシウム揮発促進剤を添加し、加熱処理を施しても構わない。
【0044】
(5)上記実施形態では、放射性セシウムを除去する処理対象物を焼却灰とした例を説明したが、焼却灰以外に、建設残土などの各種土壌や他の放射性セシウムを含有する各種物質を処理対象物としても構わない。
【符号の説明】
【0045】
2 乾燥処理部
3 粉砕処理部
4 回収処理部
5 添加処理部
6 分離処理部
7 加熱処理部
9 気流搬送路
10 処理システム(放射性セシウム除去システム)