【実施例】
【0050】
以下の実施例1〜9は本発明における使用に適した物質の調製を例示する。
【0051】
(MA)LDI−TOF質量スペクトルは、陽イオンモードでVoyager Elite Biospectrometry Research Station(PerSeptive Biosystems、Vestec Mass Spectrometry Products)を使用して得られ;FABスペクトルは、Varian機器を使用して得られた。分析的薄層クロマトグラフィは、Kieselgel60 F
254をプレコートしたアルミニウムプレート(Merck)または酸化アルミニウム60 F
254をプレコートしたアルミニウムプレート(Merck)で実施され、スポットはUV下または規定されたとおりに可視化された。カラムクロマトグラフィはシリカゲル(Merck Kieselgel 60 0.040〜0.063mm)または酸化アルミニウム(Aldrich酸化アルミニウム、活性化された、中性、Brockmann I、150メッシュ、58Å)で実施された。
【0052】
生物学的実験のための試薬は、他に規定されない限り、Sigma Aldrichから提供された。
13C−グルコースは、SigmaおよびReakhim(ロシア)から提供された。
【0053】
商業的納入業者から入手した試薬は受領後そのまま使用した。すべての溶媒は、Aldrichから提供され;トリフルオロ酢酸はPierceから提供され;HPLCグレードの溶媒は、Chimmed(ロシア)から提供され、さらに精製することなく使用した。(S)−2−アミノ−5−シアノペンタン酸はGenolex(ロシア)から得られた。重水素ガスは、供給源として重水を使用するGC水素供給モジュール(アウトプット6atm;Himelectronika、モスクワ、ロシア)による電気分解により作り出された。重水(
2H
2O、D
2O)、NaBD
4およびNa
13CNは、Reakhim(ロシア)およびGas−Oil JSC(ロシア)から提供された。DMFは減圧下新たに蒸留し、窒素下4Å分子ふるいで貯蔵した。DCMは常に新鮮にCaH
2で蒸留し、使用した。THFはLiAlH
4で蒸留した。
【0054】
実施例1 (S)−2−アミノ−4−シアノ(
13C)酪酸(
13C−Argおよび
13C、
2H
2−Argの前駆体)
【0055】
【化6】
【0056】
2.19g(10mmol)のN−Boc−ホモ−セリン(Bachem;一晩P
2O
5で乾燥した)を、10mlのアセトニトリル/ジメチルホルムアミド(1:1)の混合物に溶解した。乾燥Na
13CN(Gas−Oil JSC、ロシア;1g、2当量)およびNaI(10mg、触媒)を添加し、この混合物を脱気した。次いで、Me
3SiCl(2.55ml、2当量)をアルゴン下、室温でシリンジを用いて添加した。この反応混合物を、アルゴン下60℃で6時間、TLC(クロロホルム/メタノール2:1、ヨウ素蒸気で可視化)でモニタリングしながら攪拌した。終了後、反応混合物を室温まで冷却して水(100ml)で希釈し、ジエチルエーテル(2×50ml)で抽出した。有機相を水(4×50ml)およびブライン(50ml)で洗浄し、乾燥させ(Na
2SO
4)、容器に移して真空で濃縮すると、無色油状物(2.07g、91%)が得られた。Boc−ニトリル構造を、マトリクスとしてHPAを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems)により確認した。実測値:229.115(MI)、230.114(MI+H
+)、252.104(MI+Na
+)。開始物質に関連するピークは検出されなかった。
【0057】
Boc保護基の除去および後処理を、標準的なペプチド合成プロトコールを使用して実施した(DCM中50%TFA、30分、室温)。このニトリル構造をマトリクスとしてHPAを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems)により確認した。実測値:129.062(MI)、130.070(MI+H
+)。開始物質に関連するシグナルは検出されなかった。
【0058】
実施例2 (S)−2−アミノ−4−シアノ−酪酸(
2H
2−Argの前駆体)
【0059】
【化7】
【0060】
4.93g(20mmol)のN−Boc−L−グルタミン(Sigma)を、30mlの無水THFに溶解し、トリフェニルホスフィン(10.49g、40mmol、Aldrich)および40mlの無水テトラクロロメタンの混合物に、攪拌しながら添加した。この反応混合物を穏やかに加熱しながら、3時間攪拌(TLC、クロロホルム/メタノール 2:1で管理下、ヨウ素蒸気で可視化)、冷却し、トリフェニルホスフィンオキシドの沈殿物を濾別した。さらに15mlのTHFを用いる蒸発および再蒸発で得られた油状物を、30mlの水で希釈した。水性画分をブラインで飽和、ジエチルエーテル(2×20ml)で洗浄し、pH3.5に硫酸で酸性化した。生成物を酢酸エチル(2×20ml)で抽出した。合わせた有機画分を乾燥(ブライン、Na
2SO
4)、デカントし、蒸発させると、3.46g(76%)の無色油状物が得られた。Boc−ニトリルの構造をマトリクスとしてHPAを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems)により確認した。実測値:228.114(MI)、229.114(MI+H
+)、251.103(MI+Na
+)。開始物質に関連するピークは検出されなかった。
【0061】
Boc保護基の除去および後処理を、標準的なペプチド合成プロトコールを使用して実施した(DCM中50%TFA、30分、室温)。このニトリル構造をマトリクスとしてHPAを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems)により確認した。実測値:128.069(MI)、129.075(MI+H
+)。開始物質に関連するシグナルは検出されなかった。
【0062】
実施例3 Lys−
2H
2
【0063】
【化8】
【0064】
(S)−2−アミノ−5−シアノペンタン酸(Genolex、ロシア;14.21g、100mmol)を100mlのメタノールに溶解した。これに(Adkins H.ら、Org.Syntheses.Coll.Vol.III、1955、p.180)に従って4gの合金(30%Ni)から調製されたラネーニッケルを添加し、この反応混合物を重水素下(100atm)90℃で24時間振盪した。(TLC:n−ブタノール−ピリジン−酢酸−水:15−10−3−12;ヨウ素蒸気およびフルオレスカミンで可視化)。この反応混合物を濾過し、真空で蒸発させた。生成物を水−エタノール(3:1;20ml)中に再溶解した後、真空で蒸発させ(×4)、次いで酢酸エチルから結晶化すると、11.55g(78%)の重水素化生成物が得られた。重水素化リシンの構造をマトリクスとしてHPAを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems)により確認した。実測値:148.088(MI)、149.089(MI+H
+)。
【0065】
実施例4 (5−
13C,5,5−
2H
2)−アルギニン
【0066】
【化9】
【0067】
(S)−2−アミノ−4−シアノ(
13C)−酪酸(182mg、1.41mmol)およびCoCl
2×6H
2O(Aldrich、670mg、2.82mmol)を、水(6ml)に溶解し、NaBD
4(Reakhim、ロシア;540mg、14.1mmol)を20分かけて2回にわけて添加した。このニトリルを30分還元した(TLC:n−ブタノール−ピリジン−酢酸−水:15−10−3−12で管理下;Boc保護したアミノ酸をフルオレスカミン/UV検出、非保護アミノ酸をヨウ素蒸気で可視化)。
【0068】
この反応混合物を、酸性化(1M HCl)に続きアセトンでクエンチし、イオン交換で精製した(Amberlite IR120P(H
+)、Aldrich)。このカラムを中性pHまで水で洗浄した。次いでNH
4OH(0.3M)でカラムを洗浄した後、蒸発させることにより生成物を回収した。生じたオルニチン−
13C,
2H
2(収率:158mg、83%;HPAマトリクスを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems)、実測値:135.071(MI)、136.068(MI+H
+)を水に溶解し、等量の0.5M O−メチルイソ尿素(Kimmel、上記参照)と混合し、NaOHでpH10.5に調整した。4〜5時間後、反応を停止させるために1%TFAを添加した(Bonettoら、上記参照)。上記化合物をRP HPLC(緩衝液は、A:0.1%TFA/H
2O;B:0.1%TFA/(80%MeCN/20%H
2O)であった)により精製し、40分にわたる0〜65%Bで140mg(68%)が得られた;HPAマトリクスを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems);実測値:177.402(MI)、178.655(MI+H
+)。
【0069】
実施例5 (5,5−
2H
2)−アルギニン
【0070】
【化10】
【0071】
表題化合物を(S)−2−アミノ−4−シアノ−酪酸(Technohim、ロシア)から始まる上記プロトコールを使用して合成した。HPAマトリクスを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems);実測値:176.377(MI)、177.453(MI+H
+)。
【0072】
実施例6 11,11−ジ−重水素化−リノール酸(18:2)
【0073】
【化11】
【0074】
リノール酸(7g、25mmol、Aldrich)を25mlの四塩化炭素に溶解し、P
2O
5で乾燥させた。N−ブロモコハク酸イミド(4.425g、25mmol、一晩P
2O
5で乾燥させた)および0.05gAIBNを添加し、逆コンデンサを備えたフラスコ中の反応混合物を、激しい煮沸に見られるように反応が開始されるまで緩やかに加熱しながら攪拌した(還流が激しすぎる場合、この加熱は低下するはずである)。コハク酸イミドの表面への堆積が停止した場合、加熱をさらに15分継続した(合計約1時間)。この反応混合物を室温まで冷却、沈殿物を濾別し、CCl
4で洗浄した(2×5ml)。合わせた有機画分を蒸発し、得られた11−ブロモリノール酸を30mlイソプロパノール中NaBD
4溶液(390mg、10mmol)に徐々に添加した。一晩攪拌した後、重水素ガスが発生しなくなるまでHClの希釈溶液をゆっくり添加した。標準的な後処理により、モノ−重水素化酸を臭素化し、再度還元すると、標的ジ−重水素化誘導体(bp230〜231℃/15mm、4.4g、63%)が得られた。MALDI−TOF MS:モノブロモ誘導体、実測値:358.202、360.191(二重項、約1:1、MI);ジ−重水素化誘導体、実測値:282.251(MI)。
【0075】
実施例7
【0076】
【化12】
【0077】
11,11−D
2−リノール酸(18:2)は、リノール酸をヘキサンに混合した等量のBuLi−tBuK(Sigma−Aldrich)で処理した後、D
2Oでクエンチすることにより合成した。収率を改善するためにはこの手順を3〜4回繰り返す必要がある。この手順はまた、検出可能量のα−重水素化生成物を生じることが見出された(FAB MS、Xeイオン、チオグリセリン:実測値:283.34(72;MI+1)
+、284.33(11;α−モノ重水素化誘導体、MI+1)
+、285.34(10;α−ジ重水素化誘導体、MI+1)
+;「284」および「285」のピークの性質をMS/MSを使用して確立した。α部位での置換は一時的なオルト−エステル保護を利用することにより阻止されうる(Corey &Raju Tetrahedron Lett.(1983)24:5571)が、このステップはこの調製をより高価なものにする。
【0078】
実施例8 デオキシグアノシンからの8−D−デオキシグアノシン
【0079】
【化13】
【0080】
デオキシグアノシン(268mg、1mmol、Aldrich)を4mlのD
2Oに溶解した。10%Pd/C(27mg、10wt%の基質、Aldrich)を添加し、この混合物を160℃で密閉チューブ中、H
2雰囲気下で24時間攪拌した。室温に冷却後、この反応混合物をメンブランフィルター(Millipore Millex(登録商標)−LG)を使用して濾過した。濾過された触媒を沸騰水(150ml)で洗浄し、合わせた水性画分を真空で蒸発させると、白色固体としてデオキシグアノシド−d(246mg、92%)が得られた。このヌクレオシドの構造をマトリクスとしてHPAを用いるMALDI−TOF(Voyager Elite、PerSeptive Biosystems)により確認した。実測値:268.112(MI)。
【0081】
実施例9 8−ブロモデオキシグアノシンからの8−D−デオキシグアノシン
【0082】
【化14】
【0083】
Chiriacら(1999)42:377〜385に記載されるとおりにPdCl
2から調製した7%Pd/C触媒を、8−ブロモデオキシグアノシン(Sigma)およびNaOHの水溶液に添加した。この混合物をD
2中(2atm)、30℃で攪拌した。触媒を濾別し、反応混合物を2N HClで中和した。この手順は約85〜90%の生成物の収率を提供する。NaBD
4のような他の還元物質が使用されうる(D,D−リノール酸の合成を参照)。
【0084】
以下の実施例10〜12は本発明の有用性を説明する。本発明に関して可能な重同位体置換の範囲を確立するため(100%軽同位体から100%重同位体、および上に示されるような化合物を使用する
図1〜4に示されるような局所的な部位保護)および生物体に起こりうる大量の重同位体の毒性を試験するために、寿命における重炭素(
13C)および特異的に「保護された」生体ポリマーの構成要素(核酸構成要素(ヌクレオシド)、脂質およびアミノ酸)の影響を線虫シノラブディスエレガンス(Caenorhabditis elegans)で試験した。
【0085】
モデル生物C.エレガンス(C.elegans)に関する以前の研究は、ほぼ例外なく細菌性飼料による培養を使用した。そのような培養は、薬物および環境毒性学研究における二次的な関心として細菌性代謝を導入する(特異的な代謝産物欠損細菌株は、線虫の生存期間における特定の必須栄養素の影響を評価するために使用されうる)。C.エレガンスの無菌培養はこれら問題を回避できるが、いくつかの以前の研究は、無菌増殖がC.エレガンスに有害であることを示唆する(Szewczykら、Journal of Experimental Biology 209、4129〜4139(2006))。本発明に関して、NGMおよび無菌飼料の両方を同位体に富んだ栄養価のある成分と組み合わせて使用した。
【0086】
実施例10
13C
6−グルコース(99%濃縮;Sigma)を大腸菌(Escherichia coli)の培養のための炭素飼料源として使用し、対照は
12C
6−グルコースを除いて同じであった。C.エレガンス(N2、野生型)を、上記のとおりに調製された大腸菌を播種した標準(ペプトン、塩およびコレステロール)培地で培養した。対応する
13C−誘導体が入手不可能であったため、大腸菌を除く唯一の炭素含有成分は、
12C−コレステロール(Sigma;C.エレガンスに必須であるホルモン前駆体)であった。したがって、線虫を15〜25℃の温度範囲で、各プール50〜100匹の蠕虫で「重」および「軽」(対照)飼料により培養した。両飼料を与えた動物は正常に成長し、すべての主要な特性は非常に類似していた。
【0087】
生存期間のデータを、確立された手順(Larsenら、Genetics 139:1567(1995))に従って、プリズムソフトウェアパッケージ(GraphPad software、USA)を使用して解析した。「重」飼料における動物は、寿命の約10%増加(典型的な実験において、25℃で
12C動物において14日対
13Cを与えた蠕虫において約15.5日)を有することが見出された。
【0088】
実施例11
使用した無菌培地の基本構成成分は(Lu & Goetsch Nematologica(1993)39:303〜311)によった。水溶性およびTEA可溶性成分(ビタミンおよび成長因子)、塩、非必須アミノ酸、核酸置換基、他の成長因子およびエネルギー源を記載のとおりに調製した(2倍の0.5L)。これに必須アミノ酸:0.98g L−(D
2)−Arg(上記参照);0.283g L−Hys;1.05g L−(D
2)−Lys(下記参照);0.184g L−Trp;0.389g L−Met;0.717g L−Thr;1.439g L−Leu;0.861g L−Ile;1.02g L−Valおよび0.623g L−Pheを含む(2倍量として0.5L)混合物を添加した。残りの成分を添加する前に、この混合物を55℃で4時間、透明な溶液が形成されるまで攪拌し、次いで室温まで冷却した。
【0089】
C.エレガンス(N2、野生型)をこの培地で培養した。対照実験として、線虫を、重水素化アナログの代わりに標準L−ArgおよびL−Lysを含有することを除いて上記のとおりに調製された培地中で、15〜25℃の温度範囲で、各プール中50〜100匹の蠕虫で培養した。生存期間のデータを、実施例10に記載したとおりにプリズムソフトウェアを使用して解析した。
【0090】
実施例12
12C−NGM飼料は5,5−ジ−重水素化−アルギニンおよび6,6−ジ−重水素化−リシン、11,11−ジ−重水素化−リノール酸(18:2)ならびに8−D−デオキシグアノシンを豊富に含んだ。C.エレガンスを、1g/Lの各重水素化化合物の総濃度になるように重水素「補強された」誘導体(上記参照)を添加した、上記のとおりに調製した大腸菌を播種した標準(ペプトン、塩およびコレステロール)培地で培養した。したがって、線虫を「重」および「軽」(対照、非重水素化L−アルギニン、L−リシン、リノール酸(18:2)およびデオキシグアノシンを1g/Lの濃度で重水素化アナログの代わりに使用した)飼料で、15〜25℃の温度範囲で、各プール中50〜100匹の蠕虫で培養した。生存期間のデータを実施例10に記載したとおりにプリズムソフトウェアパッケージを使用して解析した。