【実施例】
【0042】
(1)微粒子状態の金の定量分析
図2に示す手法によって、金ナノ粒子の定量を行った。
【0043】
金ナノ粒子原液(市販品:BBI社製、粒子径20nm)を目的値(Xng/L)になるように超純水で希釈した。この際、一定量の硝酸と塩酸の混合溶液を添加し、混合するために数分間超音波を照射した。この硝酸と塩酸の混合溶液を含む金ナノ粒子希釈溶液(測定溶液)に含まれる金の濃度をICP−MS(横川アナリティカルシステムズ株式会社製、HP−4500)で定量した。測定結果の濃度をYng/Lとする。比較例として、金ナノ粒子原液に硝酸と塩酸の混合溶液を加えず超純水のみで希釈し、それ以外は上述と同様にして分析を行った。結果を表1,2に示す。
【0044】
なお、硝酸と塩酸の混合溶液については、硝酸(市販品:関東化学社製 Ultrapur、61wt%(asHNO
3))と、塩酸(市販品:関東化学社製 Ultrapur、31wt%(asHCl))を体積比で1:3で混合したものを原液として用いた。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1より、本実施例では、目的濃度X:28ng/Lに対して、測定値Y:25.1ng/L、ばらつき(標準偏差σ)3σ:1.5ng/Lとなり、精度よく分析されていることがわかる。一方、比較例では、目的濃度X:40ng/Lに対して、測定値Y:35.5ng/L、ばらつき(標準偏差σ)3σ:23.9ng/Lとなり、精度が実施例と比較して劣ることがわかった。
【0048】
また、表2より、各測定溶液における均一分散性を表すカウント値(CPS)を見ても、本実施例では、5回の測定の全てにおいて安定した値であるの対して、比較例では5回測定の内、3回目と4回目の測定溶液ではCPSがばらついてしまっていることがわかる。これは、測定溶液中に含まれる金ナノ粒子の分散状態が均一でなかったためと考えられる。
【0049】
(2)金ナノ粒子の表面状態による回収率比較
図3に示す手法によって、金ナノ粒子の定量を行った。
【0050】
金ナノ粒子原液(市販品:BBI社製、粒子径30nm)を一旦加熱乾固させた後、金ナノ粒子を含む残渣物を硝酸と塩酸の混合溶液で溶解し、得られた測定溶液をICP−MSによって定量した。なお、ここで使用した硝酸と塩酸の混合溶液原液は、(1)で使用したものと同じものを用いた。
【0051】
具体的には、まず超純水中に種々の金ナノ粒子(30nm)を0.5ng/Lになるように添加した金ナノ粒子溶液を調整した。この際、異なる保護配位子によって表面を修飾した。具体的には、上記市販の金ナノ粒子自体は、すでに親水性の保護配位子によって表面修飾されているため、それを2つの疎水性の保護配位子によって表面修飾し、合計3つの表面状態に調整した。
【0052】
本実施例では、保護配位子としては、(i)クエン酸(Citric acid)、(ii)チオクト酸(thioctic acid)、(iii)10−カルボキシ−1−デカンチオール(10-Carboxy-1-decanethiol or 11-Mercaptoundecanoic acid)を利用した。
【0053】
ここで、前述した通り、上記の金ナノ粒子原液(市販品:BBI社製、粒子径30nm)については、すでに親水性の(i)クエン酸(Citric acid)で表面修飾されている。そこで、本実施例における親水性の保護配位子で表面修飾された金ナノ粒子としては、上記市販品をそのまま用いた。
【0054】
また、上記の疎水性の保護配位子(ii),(iii)による金ナノ粒子の表面修飾については、具体的に以下の方法で行った。
(ii)チオクト酸(thioctic acid)による表面修飾方法
[1]BBI社製金コロイド(30nm,0.1wt%)を5ml分取する。
[2]金のモル数に対して10倍モルとなるように調整したチオクト酸を45ml添加する。
[3]1NのNaOHにてpH11に調整する。
[4]16時間攪拌する。
[5]遠心分離(11800rpm,10℃,10分)により上澄み液を除く。
上記方法により、チオクト酸で表面修飾した金コロイド濃縮液約1wt%を得た。
(iii)10−カルボキシ−1−デカンチオール(10-Carboxy-1-decanethiol or 11-Mercaptoundecanoic acid)による表面修飾方法
[1]上記(ii)により得られた金コロイド濃縮液について、さらに下記の操作を実施。
[2]金のモル数に対して25倍モルとなるように調整した10−カルボキシ−1−デカンチオールを45ml添加する。
[3]1NのNaOHにてpH11に調整する。
[4]16時間攪拌する。
[5]遠心分離(11800rpm,10℃,10分)により上澄み液を除く。
上記方法により、10−カルボキシ−1−デカンチオールで表面修飾した金コロイド濃縮液約1wt%を得た。
【0055】
(i)は親水性であり、溶液(液性)として超純水を利用した。配位子(ii),(iii)は比較的疎水性であり、溶液としてIPA(イソプロピルアルコール)を利用した。
【0056】
保護配位子で金ナノ粒子表面を修飾した金ナノ粒子を含む試料液を、加熱乾固し、金ナノ粒子を含む残渣物を析出させた。その後残渣物に所定量の硝酸と塩酸の混合溶液を加えてこれを溶解し、これに超純水を加えて希釈し、所定濃度として、ICP−MSで定量した。
【0057】
ここで、硝酸と塩酸の混合溶液の添加量と、超音波の照射時間を変化させて、回収率への寄与を評価した。その結果を
図4に示す。ここで、回収条件1は、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度として、硝酸濃度(asHNO
3)1.5wt%、塩酸濃度(asHCl)2.3wt%、超音波照射時間5分、回収条件2は、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度として、硝酸濃度(asHNO
3)3.0wt%、塩酸濃度(asHCl)4.5wt%、超音波照射時間10分、回収条件3は、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度として、硝酸濃度(asHNO
3)4.5wt%、塩酸濃度(asHCl)6.8wt%、超音波照射時間10分である。なお、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度は、超純水に(1)の硝酸と塩酸の混合溶液原液を2,4,6mL添加して、添加後の水量を20mLに調整することで行った。
【0058】
このように、配位子としてクエン酸(親水性の保護配位子)を用い液性として超純水を用いた上記(i)の例では、回収条件1〜3のいずれにおいても、高い回収率を示しており、加熱乾固後の硝酸と塩酸の混合溶液の添加による溶解について保護配位子の影響がほとんどないことがわかる。一方、配位子としてチオクト酸、10−カルボキシ−1−デカンチオール(疎水性官能基を有する保護配位子)を用い液性としてIPAを用いた上記(ii),(iii)の例では、回収条件において、大きな変化がある。すなわち、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度がある程度高い必要がある。また、超音波照射時間も長い方がよい。具体的には、回収条件3のように、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度として、硝酸濃度(asHNO
3)4.5wt%、塩酸濃度(asHCl)6.8wt%以上で、超音波照射時間10分以上の場合、回収率が非常に高くなることが分かる。
【0059】
このように、比較的疎水性の保護配位子を用いて金ナノ粒子の表面を修飾して、アルコール中に分散させた試料液を用いた場合には、加熱乾固後に硝酸と塩酸の混合溶液で金ナノ粒子を溶解することは可能であるが、高濃度の硝酸と塩酸の混合溶液を用いることが必要であり、超音波照射を行うことが好適であることがわかった。
【0060】
(3)フィルターの除粒子性能評価
図1に示すシステムを用い、試料液をろ過処理し、フィルターの除粒子性能を評価した。
【0061】
粒子径30nmの金ナノ粒子を超純水で希釈した原水をフィルター:PES(ポリエーテルサルフォン)製UF膜(分画分子量:150,000)に通水させた。この際、UF膜の通水条件は、通水方式:デッドエンド、ろ過流速:5.0m/day、ろ過流量:27L/h(450ml/min)とした。フィルター前後の原水(S1)およびろ過液(S2)をサンプリングした。サンプリングした原水はそのまま硝酸と塩酸の混合溶液原液を添加して、金ナノ粒子を溶解し、その後超純水で所定濃度に希釈して、ICP−MSで定量した。一方、サンプリングしたろ過液は、一旦加熱乾固した後、硝酸と塩酸の混合溶液原液で溶解し、超純水で所定濃度に調整してICP−MSで定量した。なお、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度は、硝酸濃度(asHNO
3)1.5wt%、塩酸濃度(asHCl)2.3wt%、超音波照射時間は10分とした。
【0062】
この結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
このように、除粒子性能(LRV)は、6.5以下となった。従って、このフィルターの微粒子捕捉率は、99.9999%以上であることがわかった。
【0064】
(4)フィルターの除粒子性能評価(IPA)
図1に示すシステムに対応する実験装置を用い、IPA中に金ナノ粒子を分散させた試料液(原水)をろ過処理し、フィルターの除粒子性能を評価した。すなわち、貯槽10に所定量の原水を貯留し、ここに窒素ガスを圧送して、全量をフィルター18に供給してろ過処理した。そして、原水(S1)を予めサンプリングすると共に、ろ過液をサンプリングした。
【0065】
粒子径20nmの金ナノ粒子(BBI社製)をIPA((株)徳山製、トクソーIPA SE(商品名))で希釈するとともに、金ナノ粒子の表面を保護配位子で修飾して得た原水をフィルター18に通水させた。
【0066】
なお、保護配位子としては、上述した(iii)10−カルボキシ−1−デカンチオールを利用した。
【0067】
また、フィルター18としては、膜種:MF膜、材質:UPE(超高分子量ポリエチレン)、除粒子径:5nmの、日本インテグリス(株)製、オプチマイザーDLE ディスポーザブルフィルター(商品名)を利用した。
【0068】
この際、MF膜の通水条件は、通水方式:全量ろ過、通水圧力:0.1MPa、ろ過流量:67mL/minとした。フィルター前後の原水(S1)およびろ過液(S2)をサンプリングした。サンプリングした原水は、加熱乾固し、金ナノ粒子を含む残渣物を析出させ、その後残渣物に所定量の硝酸と塩酸の混合溶液を加えてこれを溶解し、これに超純水を加えて希釈し、所定濃度として、ICP−MSで定量した。一方、サンプリングしたろ過液は、一旦加熱乾固した後、硝酸と塩酸の混合溶液原液で溶解し、超純水で所定濃度に調整してICP−MSで定量した。なお、回収条件としては、上述の回収条件3を採用した。また、硝酸と塩酸の混合溶液の濃度は、硝酸濃度(asHNO
3)4.5wt%、塩酸濃度(asHCl)6.8wt%、超音波照射時間は10分とした。
【0069】
この結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
このように、このフィルターの微粒子捕捉率は、99.98%であることがわかった。従って、本実施例により、ITRSにおける20nm粒子の管理指標(1.0E+04個/mL)を満たすレベルでのフィルターの評価が可能であることがわかった。
【0072】
このように、本実施形態の手法によって、液中に存在する粒子径30nm以下、例えば20nmの微粒子についてのフィルターの除粒子性能を評価することが可能となった。