(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6062610
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】高油脂含有乾燥品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20170106BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20170106BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
A23D9/00
A23D9/007
A23D9/02
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-545950(P2016-545950)
(86)(22)【出願日】2016年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2016056608
【審査請求日】2016年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-55590(P2015-55590)
(32)【優先日】2015年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】土井 康子
(72)【発明者】
【氏名】白藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】羽木 貴志
【審査官】
戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−318332(JP,A)
【文献】
特開2003−73691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/
FROSTI/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクテニルコハク酸デンプンナトリウムと油脂とを含むものであって、前記油脂の含量が質量比として、50%〜88%であり、形状が1.0mm以上が50%以上であることを特徴とする高油脂含有乾燥品。
【請求項2】
50℃以上の水150mlを加えて、2分後に完全に溶解せず湯中に浮いて存在する請求項1に記載の高油脂含有乾燥品。
【請求項3】
オクテニルコハク酸デンプンナトリウムと蛋白質と油脂とを含むもので、前記油脂の含量が50%〜88%であり、形状が1.0mm以上が50%以上であることを特徴とする高油脂含有乾燥品。
【請求項4】
前記蛋白質が、大豆蛋白、鶏卵蛋白、乳蛋白、ゼラチン、コラーゲンおよび魚肉蛋白からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項3に記載の高油脂含有乾燥品。
【請求項5】
更に増粘多糖類を含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一つに記載の高油脂含有乾燥品。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の高油脂含有乾燥品の製造方法であって、
(1)水にオクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質を添加して撹拌し、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液とするオクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液調製工程、(2)前記オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液に油脂を添加して撹拌し、水中油滴型の分散液を調製する分散液調製工程、(3)前記分散液を乾燥させることで水分を取り除く乾燥工程を備えたことを特徴とする高油脂含有乾燥品の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程は、マイクロ波加熱乾燥処理であることを特徴とする請求項6に記載の高油脂含有乾燥品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、50%〜88%の油脂分を含む、形状を有した澱粉を含む高油脂含有乾燥品に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥品中に高含量の油脂を含ませる技術として、様々なものが知られている。例えば、食用油脂とオクテニルコハク酸エステル化澱粉とトレハロースを主成分として含有することを特徴とする無タンパク粉末油脂組成物(特許文献1)が知られている。しかし、特許文献1によって製造されるものは、全て粉末化されており、大型の固形状のものについては供給されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−318332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、50%以上の油脂を含有するものであって、粉末ではなく、大きな形態を取ることができる高油脂含有乾燥品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、油脂(植物油脂、動物油脂)をオクテニルコハク酸デンプンナトリウムと水の混合液中に分散させた水中油滴型の分散液を調製し、次いで乾燥工程を実施することにより、水分を飛ばして、安定な乾燥品を得られることを見いだし、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、第一の発明に係る高油脂含有乾燥品は、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムと油脂とを含むものであって、前記油脂の含量が、質量比として、50%〜88%(好ましくは60%〜88%、更に好ましくは70%〜88%)であり、前記乾燥品の大きさが、目開き1.0mmの篩を通過するものが50%以下であることを特徴とする。
特許文献1に示す従来技術で製造される粉末油脂組成物は、粉末状態であり、一般的に粉末油脂とされるものは、目開き1.0mmの篩をほぼすべてパスする。これに対し、本発明で得られた高油脂含有乾燥品は、目開き1.0mmの篩パスが50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下となる。また、本発明品は、従来の粉末油脂とは異なり、顆粒状・ダイス状などの大きな形態を取ることができる。
【0006】
また、50℃以上の水150mlを加えたときに、2分後に完全には溶解せず水中に浮いて存在することが好ましい。一般に、溶解とは、固形物に水を添加したときに、水中に固形物が分散して均一系を形成することを意味する。但し、本発明においては、一般の溶解に加えて、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムによって形成された固形物が、乳化等の現象によって、水中に分散し、目視状態において均一系を形成することを「溶解」と称する。
本明細書中において、「完全には溶解しない」とは、ろ紙(ADVANTEC社製FILTER PAPER No.5A)を用いてろ過し、ろ紙上に残った固形物を80℃で乾燥させ、乾燥物の質量を測定したときに、最初に加えた質量のうち、60%以上残ることを意味し、「完全に溶解する」とは、上記ろ紙上に残った固形物が最初に加えた質量の30%以下のことを意味する。
前記オクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、オクテニルコハク酸基を導入により界面活性能が付加された澱粉で、澱粉を無水オクテニルコハク酸でエステル化して得られる。澱粉であれば何でもよく、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米粉澱粉などから選ばれる一種以上を組みあわせたものを原料とする。本発明に用いるオクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、これらの澱粉をオクテニルコハク酸エステル化処理したもの、オクテニルコハク酸エステル化処理したものを焙焼処理により低粘度化したもの、また更にアルファ化処理したもの等が挙げられる。上記の澱粉の処理方法については、2種以上組み合わせてもよい。これらのオクテニルコハク酸デンプンナトリウムは単独または、2種以上組み合わせて用いることができる。
前記高油脂含有乾燥品は、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムに蛋白質を併用することができる。蛋白質を併用すると、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムのみを湯に入れたときに比べ、保形性がよく食感を硬くすることができるので好ましい。オクテニルコハク酸デンプンナトリウム配合割合と蛋白質の割合は、質量比として、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムが1%〜99%に対し、蛋白質が1%〜99%であることが好ましい。更に好ましくは、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムが10%〜95%に対し、蛋白質が5%〜90%である。
【0007】
前記蛋白質が、大豆蛋白、鶏卵蛋白、乳蛋白、ゼラチン、コラーゲン、および魚肉蛋白からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。大豆蛋白としては、分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白などがあり、特に限定されるものではないが、好ましくは分離大豆蛋白である。乳蛋白としては、乳清蛋白、乳カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウムなどがあり、特に限定されるものではないが、好ましくは、乳清蛋白、カゼインナトリウムである。ゼラチンとしては、牛、豚、鶏、魚の皮または骨由来のゼラチンがあり、特に限定されるのではないが、好ましくは分子量が1万以上のものであることが望ましい。コラーゲンは、牛、豚、鶏、魚の皮または骨由来のコラーゲンがあり、特に限定されるものではないが、好ましくは牛、豚、鶏、魚の皮由来のものである。製造適正の調整目的で、増粘多糖類を用いることも出来る。増粘多糖類としては、特に限定されるものではないが、例えばグァーガム、キサンタンガム、カラギナン、マンナン、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリンドガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カードラン、アラビアガム、タラガム、カルボキシメチルセルロースなどを例示できる。好ましくは、グァーガム、キサンタンガム、カラギナンである。カラギナンとしては、ラムダ、カッパー、イオタがあり、特に限定されるのではないが、好ましくはラムダである。本発明によれば、増粘多糖類を用いることなく、高油脂含有乾燥品を提供できる。但し、増粘多糖類を併用することにより、生地の保形性が高くなり成形しやすくなる。このため、増粘多糖類を併用することにより、より安定した高油脂含有乾燥品を提供でき得る。
前記油脂は、特に限定されるものでなく、油脂であればなんでもよく、風味や価格の点などから1種類、または2種類以上を組み合わせてもよい。植物性油脂または動物性油脂でもよいし、融点についても限定されるものでない。例えば、米油、ごま油、オリーブ油、パーム油、ショートニング、ラード、バターオイル、極度硬化油などが挙げられ、特に限定されるものではないが扱いやすい点から融点50℃以下が好ましい。油脂は精製された油脂だけでなく、油脂を高含有しているものでもよい。例えば、チーズ、バター、全卵、卵黄等が挙げられる。この場合は、含有する油脂や蛋白質を加味して配合決定されればよい。
脂質と澱粉の割合は、脂質が50%〜88%に対して、澱粉は1%〜50%含有されていることが好ましい。更に好ましくは澱粉10%〜40%である。
【0008】
第二の発明に係る高油脂含有乾燥品の製造方法は、第一の発明に係る高油脂含有乾燥品を製造する方法であって、(1)水にオクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質を添加して撹拌し、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液とするオクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液調工程、(2)前記オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液に油脂を添加して撹拌し、水中油滴型の分散液を調製する分散液調製工程、(3)前記分散液を乾燥させることで水分を取り除く乾燥工程を備えたことを特徴とする。
オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質に添加する水の割合は、蛋白質及び油脂の種類によって適当なものを設定すればよく、限定されるものではないが、全原料について25質量%〜65質量%であることが好ましい。水の配合量が多い場合には、分散液調製工程までの時間を短くできるが、乾燥工程での時間が長くなる。一方、水の配合量が少ない場合には、乾燥工程での時間を短くできるが、分散液調整工程までの時間が長くなる。
前記乾燥工程においては、マイクロ波加熱乾燥または、熱風乾燥を併用することができる。乾燥方法は、特に限定されるものではなく、水分が蒸発して乾燥品が得られる条件であればなんでもよい。但し、マイクロ波加熱乾燥処理を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、50%以上の油脂を含有するものであって、粉末ではなく、大きな形態を取ることができる高油脂含有乾燥品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施できる。
<試験1:増粘多糖類の有無、蛋白質の併用で蛋白質の相違、増粘多糖類の相違による高油脂含有乾燥品の製造>
500mlの金属製計量カップに水を測り取り、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを加えて攪拌してオクテニルコハク酸デンプンナトリウム溶液を作った(オクテニルコハク酸デンプンナトリウム水溶液調製工程)。
なお、蛋白質を併用する場合、溶解性を上げるためサーモコントローラで50℃に設定した湯浴中で50℃に加温した(オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液調製工程)。
次に、ホモミキサーT.K. ROBO MICS(TOKUSHU KIKA KIGYO CO.LTD製)で2分間攪拌し、米油を少量ずつ加えて均一になるまで4分30秒攪拌し、水中油滴型の分散液を得た(分散液調製工程)。
【0011】
必要に応じて、そこに増粘多糖類を加える場合は、増粘多糖類を少量ずつ添加して1分間撹拌し、増粘多糖類を併用した分散液とした(増粘多糖類含有分散液調製工程)。
それらの分散液をテフロンシートに20gを取り出して、マイクロ波加熱乾燥処理(MD)を施した(乾燥工程)。MDの条件は、1.6kW・3.3minとした。それを5mm×5mm縦横カットして顆粒状の高油脂含有乾燥品を得た。
試験に用いた蛋白質は、大豆蛋白、乳清蛋白、コラーゲンであった。試験に用いた増粘多糖類は、グァーガム、キサンタンガム、カラギナン(ラムダ)であった。表1には、澱粉及び/または蛋白質を配合した高油脂含有乾燥品の検討と増粘多糖類を併用した実験の配合を示した。また、表2はその結果を示した。
また、表3は、増粘多糖類の種類の検討を行った。表4はその結果を示す。
表5は、各種油脂の融点を示す。
実施例1〜5の結果によれば、澱粉及び/又は各蛋白質において70%以上の油脂を含有すると共に安定した乾燥品を提供できた(なお、本明細書中において、実施例は、全て本発明の権利範囲に含まれる)。また、実施例1、2より増粘多糖類を併用することで、成形性が向上し、製造適正が向上した。
実施例6、7より増粘多糖類は、グァーガム以外のものでも同様の効果が得られることを確認した。
実施例1の米油を表5に示す各種油脂に代替した試験を行った。極度硬化油については、湯浴の温度設定を80℃に設定した。いずれの油脂においても、高油脂含有乾燥品を得ることができた。
【0014】
表1中の「製品中の油含量%」については、乾燥後水分を0%として計算し、表6の各原料中の水分を考慮した。また、表2中の「水への溶解性」には、前述の乾燥品が水への溶解する割合を測定することによって調べた結果を示した。
【表3】
【0015】
表3には、増粘多糖類の種類の検討を行った。表4はその結果を示した。また、表5には、各種油脂の融点を、表6には、各原料中の固形分と脂質含量を、それぞれ示した。
【表4】
【0018】
実施例1〜実施例8の結果によれば、各蛋白質において70%以上の油脂を含有すると共に安定した乾燥品を提供できた。また、実施例1、2より増粘多糖類を併用することで、分散液の押出し成形が容易になった。
実施例2、6,7より増粘多糖類は、グァーガム以外のものでも同様の効果が得られることを確認した。
実施例1の米油を表6に示す各種油脂に代替した試験を行った。極度硬化油については、湯浴の温度設定を80℃に設定した。いずれの油脂においても、高油脂含有乾燥品を得ることができた。
実施例2、3、4、5の「水への溶解性」を測定したところ、ろ紙上の残存量が、実施例2で69%、実施例3で83%、実施例4で88%、実施例5で92%であった。オクテニルコハク酸デンプンナトリウムに蛋白質を併用することで、湯に入れたときの物性が硬くなることが分かった。
【0019】
<油脂含量の違いによる影響>
表7には、高油脂含有乾燥品の配合割合を示した。なお、製品中の油含量(%)は表6の各原料の固形分と脂質含量より計算した
【表7】
【0020】
実施例8は、乾燥品中に88%の米油を含む高油脂含有乾燥品を製造できた。また、比較例1は、調製液を調整中にオイルオフが確認され、乾燥品として生産、供給するには不適であった。比較例2は、乾燥品として製造が可能であるが、油脂含量が50%以下であった。この場合、本発明の高油脂含有乾燥品には該当しなかった。
なお、本発明は、油脂/オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び/又は蛋白質水溶液の分散液を乾燥するものであるが、この蛋白質は単一に分離されたものだけでなく、複合状態であっても分散液を調製できれば、特に限定することなく使用することができる。
このように本実施形態によれば、50%以上の油脂を含有するものであって、粉末ではなく、大きな形態を取ることができる高油脂含有乾燥品を提供できた。
【要約】
【課題】 50%以上の油脂を含有するものであって、粉末ではなく、大きな形態を取ることができる高油脂含有乾燥品を提供すること。
【解決手段】 オクテニルコハク酸デンプンナトリウムと油脂とを含むものであって、前記油脂の含量が50%〜88%であり、形状が1.0mm以上が50%以上であることを特徴とする高油脂含有乾燥品によって達成される。
【選択図】 なし