【実施例】
【0153】
(実施例1:運動競技パフォーマンス向上のための遅延放出型炭水化物製剤)
本実施例の目的は、ピーク運動パフォーマンスを促進する様式で、運動選手へ炭水化物及び他の栄養素を送達する栄養液(nutrition fluid)を開発することである。提唱されたアプローチは、好適なマイクロスフェア又はナノスフェアの水性分散液から可消化炭水化物の制御放出を操作することである。重要な可消化炭水化物は、単糖−ブドウ糖、果糖及びガラクトース;二糖−ショ糖、麦芽糖及び乳糖;並びに、多糖−デンプンを含む。デンプンは、唾液アミラーゼ(口中)及び膵アミラーゼ(小腸中)により、デキストリンへ分解される。デキストリンは、小腸の刷子縁酵素により作用を受け、これも二糖類を単糖類へ変換する。これらの単糖は最終的には、腸上皮を超えて血流へと輸送される。提唱された研究は、血液への持続した取り込みのために、可消化炭水化物、特に単糖類、ブドウ糖及び果糖の制御放出を探求している。
【0154】
胃腸(GI)管の生理学の基本的理解は、この送達システムのデザインにおいて有用である。食物の胃内滞留時間は、最大2時間であり、他の要因の中でも、食事の発熱量によって決まる(例えば、Hadi, N. A.;Giouvanoudi, A.;Morton, R.;Horton, P. W.;Spyrou, N. M.の論文、「シンチグラフィーを使用する単純食と複雑食に関する3つの胃領域の胃内容物排出時間の変動(Variations in gastric emptying times of three stomach regions for simple and complex meals using scintigraphy)」、IEEE Transactions on Nuclear Science, 2002, 49, 2328-2331参照)。本制御放出システムは、搭載された糖質を放出することなく、胃内滞留時に胃の酸性pH(1〜3)に耐えることができなければならない。ほとんどの栄養素が吸収される小腸内の滞留時間は、約3時間である。より長い期間にわたる栄養素送達のために、栄養素を粘膜付着特性を持つ担体内に封入することにより実現され得る腸管滞留の延長が必要である。カルボン酸基を含む親水性ポリマーは、良好な粘膜付着特性を示す。糖質の制御放出システムのデザインにおける重要な工程は、炭水化物を封入する担体物質の選択である。多糖及びそれらの誘導体は、それらの無毒の性質及び優れた生体適合性のために、持続放出型薬物送達のための担体及び組織工学における足場として選択されるポリマーである(例えば、Dumitriu, S.;Dumitriu, M.の文献、「薬物送達システムのための支持体としてのヒドロゲル(Hydrogels as support for drug delivery systems)」、Polysaccharides in Medicinal Applications;Dumitriu, S.編集;Dekker:ニューヨーク、1996年;705-764頁;Coviello, T.;Matricardi, P.;Marianecci, C;Alhaique, F.の文献、「修飾された放出製剤のための多糖ヒドロゲル(Polysaccharide hydrogels for modified release formulations)」、J. Control. Rel. 2007, 119, 5-24;及び、Kong, H.;Mooney, D. J.の文献、「組織工学における多糖-ベースのヒドロゲル(Polysaccharide-based hydrogels in tissue engineering)」、Polysaccharides、第2版;Dumitriu, S.編集;Dekker:ニューヨーク、2005年;817-837頁参照)。これらは、食品製剤における香料封入のためにも使用されている(例えば、Madene, A.;Jacquot, M.;Scher, J.;Desobry, S.の論文、「香料封入及び制御放出−総説(Flavour encapsulation and controlled release-a review)」、International Journal of Food Science and Technology、2006, 41, 1-21参照)。
【0155】
多糖の配合物は、マイクロ粒子又はナノ粒子の水性分散液を合成するために使用される。ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシエチルセルロースなどの、疎水化多糖は、水中で自発的にナノ粒子を形成することは公知である。これらのポリマーの、カルボン酸基を含む多糖との相互貫入ポリマー網目が、合成されている。
図1は、3種の重要なカルボキシ-含有多糖の化学構造を示している。カルボキシメチルセルロース骨格のモノマー単位は、β-(1→4)結合を介して連結されたD-ブドウ糖残基からなる。アルギン酸塩は、給源のアルギン酸塩に応じてポリマー鎖に沿って量及び逐次分布が変動する、(1→4)-連結されたβ-D-マンヌロン酸及びα-L-グルロン酸モノマーから構成される。ヒアルロン酸は、交互に(1→4)-連結された2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコースと(1→3)連結されたβ-D-グルクロン酸からなる、線状ポリマーである。
【0156】
GI管内のこれらの粒子の安定性を増大するために、これらの粒子は架橋され、ヒドロゲルを形成する。望ましい放出動態を実現するために、様々な架橋機序が研究されている。架橋は、過硫酸塩などのフリーラジカル開始剤、又はアスコルビン酸が関与するレドックスシステム、又はゲニピンなどの天然の架橋剤を用いて、実行される。イオン架橋も研究されている。ゲランなどの陰イオン性多糖類は、食品製剤中では望ましくないホウ砂などの化学物質の代わりに、イオン架橋に使用することができる。
【0157】
カルボキシ含有ヒドロゲル粒子は、胃の酸性環境においては崩壊状態であることが予想される。従って、封入された糖分子は、胃内では粒子内に貯留される。このヒドロゲル粒子は、小腸(pH5〜7)に到達した時点で膨潤状態となり、胃内におけるよりもより迅速に封入された糖質を放出するであろう。
【0158】
数名の研究者らは、制御放出のための多糖粒子及びヒドロゲルの合成を研究している。しかしこれらの研究のほとんどは、担体中の比較的疎水性の薬物又はタンパク質高分子の取り込みに焦点を当てていた。この提唱された研究の目的は、糖質などの小型の親水性分子を封入することである。ヒドロゲル粒子と水相の間の糖質分子の平衡分配が決定される。多糖担体と封入された単糖の化学構造の類似性のために、多糖ヒドロゲルの封入効率は、他のヒドロゲルのものよりも高いことが予想される。
【0159】
炭水化物に関する遅延放出システムを報告した研究は、わずかに数種存在するのみである。Fox及びAllenは、炭水化物マイクロ粒子を可食性遅延型-放出コーティングでコーティングした(Fox, G. J.;Darlene, A.の特許、「封入された炭水化物の放出制御のための方法及び組成物(Method and composition for controlling the release of carbohydrates by encapsulation)」、米国特許第5536156号、1996年7月16日)。このコーティングされた炭水化物は、経口摂取された場合に、炭水化物の消化系への時間遅延された放出を引き起こす。このコーティングされた粒子は、サイズが30〜100μmであり、固形粒子の形状で貯蔵された。これに対し本出願人は、水性媒体中に分散されている制御放出粒子を開発することを追求している。Lake及びSmithは、糖尿病患者における血中ブドウ糖の改善された長時間管理に使用され得るデンプン顆粒の調製を報告している(Lake, M.;Smith, U.の特許、「長時間の血糖管理のための組成物及び方法(Composition and method for long-term glycemic control)」、国際特許出願WO/2006/022585、2006年2月3日)。遅延-放出型デンプン製剤は、夜間の低血糖の発生を減少するようにデザインされ、ここで該患者は、就寝時に治療量のデンプン顆粒を服用する。Zecherは、共有結合的に架橋された多糖からなる同様の制御放出型炭水化物組成物を報告している(Zecher, D. C.の特許、「架橋された多糖中に包埋された制御放出型炭水化物(Controlled release carbohydrate embedded in a crosslinked polysaccharide)」、国際特許出願WO/2000/032064、2000年8月6日)。しかし、この架橋された炭水化物は、粒子形状ではなく、かつ水性懸濁液の形状でもなかった。
【0160】
下記セクションは、多糖ヒドロゲルの合成方法を説明する。
疎水化された多糖は、水性環境中でのそれらの自己集合特性のために、ナノ粒子の合成を高度に促進する。Akiyoshi及びSunamotoは、コレステロールなどの疎水性物質により官能基化された多糖は、水中に分散された場合に、自発的にナノ粒子を形成したことを認めた(Akiyoshi, K.;Sunamoto, J.の論文、「疎水化された多糖の超分子集合体(Supramolecular assembly of hydrophobized polysaccharides)」、Supramolecular Science, 1996, 3, 157-163)。このナノ粒子のサイズ、密度及びコロイド安定性は、疎水性物質のグラフト密度及び疎水度を調整することにより制御することができる。プルラン、デキストラン及びマンナンなどの多糖は、アルキル長鎖及びコレステロールなどの様々な疎水基により部分的に置換された。例えば分子量55kDaのプルランは、コレステロールにより官能基化される場合(〜1.7コレステロール部分/ブドウ糖100ユニット)、サイズが20〜30nmであるナノ粒子を自発的に形成した(Akiyoshi, K.;Deguchi, S.;Tajima, H.;Nishikawa, T.;Sunamota, J.の論文、「疎水化された多糖の自己集合体:ヒドロゲルナノ粒子の構造及び有機化合物との複合体形成(Self-assembly of hydrophobized polysaccharide: Structure of hydrogel nanoparticle and complexation with organic compounds)」、Proc. Japan Acad. 1995, 71, 15-19)。コレステロールを有するプルランは、自己凝集され、水中の懸濁液の超音波処理後に、単分散の安定したナノ粒子を形成した。90℃で1時間加熱した後であっても、凝固は生じなかった。これらのナノ粒子は、抗腫瘍アドリアマイシンなどの疎水性物質(Akiyoshi, K.;Taniguchi, I;Fukui, H.;Sunamoto, J.の論文、「疎水化された多糖の自己集合により形成されたヒドロゲルナノ粒子:複合体形成によるアドリアマイシンの安定化(Hydrogel nanoparticle formed by self- assembly of hydrophobized polysaccharide. Stabilization of adriamycin by complexation)」、European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 1996, 42, 286-290)、及び様々な水溶性タンパク質の受入れのために使用されるが、小型の水溶性分子の封入は報告されなかった。
【0161】
Simi及びAbrahamは、触媒として過硫酸カリウムを使用し、デンプン上にグラフトされた脂肪酸を得た(Simi, C. K.;Abraham, T. E.の論文、「薬物送達のための疎水性グラフトされ架橋されたデンプンナノ粒子(Hydrophobic grafted and crosslinked starch nanoparticles for drug delivery)」、Bioprocess and Biosystems Engineering, 2007, 30, 173-180)。改質デンプン分子から生じたナノ粒子は更に、トリポリリン酸ナトリウムとの架橋により、安定化された。このナノ粒子は、疎水性薬物の封入に使用された。
【0162】
Thielemansも、ステアリン酸クロリド(疎水性物質)及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(親水性分子)を使用し、ナノスケールのデンプン粒子の表面修飾を成功した(Thielemans, W.;Belgacem, M. N.;Dufresne, A.らの論文、「巨大鎖表面修飾を伴うデンプンナノ結晶(Starch nanocrystals with large chain surface modifications)」、Langmuir, 2006, 22, 4804-4810)。Wooらは、アクリロイル-修飾されたヒドロキシエチルデンプンを使用する、多糖マイクロスフェアの合成を報告した(Woo, B. H.;Jiang, G.;Jo, Y. W.;DeLuca, P. P.の論文、「タンパク質送達のための複合PLGA及びポリ(アクリロイルヒドロキシエチルデンプン)マイクロスフェアシステムの調製及び特徴決定(Preparation and characterization of a composite PLGA and poly(acryloyl hydroxyethyl starch) microsphere system for protein delivery)」、Pharmaceutical Research, 2001, 18, 1600-1606)。これらのマイクロスフェアは、制御されたタンパク質送達のためにタンパク質を負荷するそれらのパフォーマンスについて調べた。
【0163】
Basheerらは、ヒドロキシエチルデンプンを脂肪酸(ラウリン酸、パルミチン酸及びステアリン酸)と、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)及びジメチルアミノピリジン(DMAP)を用い、穏やかな反応条件下で反応させた(Besheer, A.;Hause, G.;Kressler, J.;Mader, K.の論文、「疎水性に改質されたヒドロキシエチルデンプン:合成、特徴決定及び:ナノサイズのポリマーミセル及び小胞への水性自己集合(Hydrophobically modified hydroxyethyl starch: Synthesis, characterization, and aqueous self-assembly into nano-sized polymeric micelles and vesicles)」、Biomacromolecules,2007, 8, 359-367)。得られたポリマーは、自己集合し、2〜30nmのミセル及び250〜350nmのポリマー小胞を形成した。しかしDCC及びDMAPなどの化学物質は、潜在的に有毒であり、可食性製剤においては使用することができない。
【0164】
Chakrabortyらは、動的光散乱を用い、水中のデンプンナノ粒子の溶液特性を研究した(Chkraborty, S.;Sahoo, B.;Teraoka, I;Gross, R. A.の論文、「動的光散乱により研究された水及びDMSO中のデンプンナノ粒子の溶液特性(Solution properties of starch nanoparticles in water and DMSO as studied by dynamic light scattering)」、Carbohydrate Polymers, 2005, 60, 475-481)。ナノ粒子は、Ecosynthetix社(ランシング、MI)から入手され、かつトウモロコシデンプンから、架橋剤としてグリオキサールを用い、合成された。デンプン、グリセロール(乾燥デンプンの18重量%)、及びグリオキサール(0.1〜10重量%)の混合物を押出し、架橋されたデンプン顆粒を得た。これらの顆粒は、低温処理により摩砕され、篩分けされ、直径が150nmよりも小さい粒子を得た。動的光散乱又は水中の粒子は、平均直径40〜300nmで、各々、孤立したデンプンナノ粒子及びそれらの凝集体で構成される、2つの主な集団を示した。より高い濃度(〜3%w/w)で、第三のピークが、粒子凝集のために約1μm当たりに出現した。粒子凝集の制御は、炭水化物ナノ粒子のデザインにおいて、重要な工程である。
【0165】
提唱された多糖ヒドロゲルの重要な特徴は、それらのpH反応性である。理想的には、これらのヒドロゲルは、胃の酸性環境においては膨潤しないが、小腸へ進入した時点で膨潤し、かつ封入された糖質を制御された速度で放出しなければならない。本セクションは、多糖マトリックスは、酸性環境において不溶性であるが、より高いpH値では完全に溶解される極端な例を検証する。
【0166】
スクレログルカンは、完全な加水分解時に、D-ブドウ糖のみ生じる、分岐したホモ多糖である。このポリマーは、(1→3)-連結されたβ-D-グルコピラノシル単位の主鎖からなる。このポリマーは、主鎖に沿った3番目の単位毎に、枝として、1つの(1→6)-連結されたβ-D-グルコピラノシル単位を持つ。スクレログルカンのグルコピラノース側鎖は、二工程反応により酸化され:最初に過ヨウ素酸塩により、アルデヒド誘導体を形成し、次に亜塩素酸塩により、カルボキシル化された誘導体を生じ、これはスクレロックス(sclerox)と称される(例えば、
図2、及びCoviello, T.;Palleschi, A.;Grassi, M.;Matricardi, P.;Bocchinfuso, G.;Alhaique, F.の論文、「スクレログルカン:修飾された薬物送達のための汎用多糖(Scleroglucan: A versatile polysaccharide for modified drug delivery)」、Molecules, 2005, 10, 6-33参照)。酸化剤と多糖の間の比を変動することにより、本ポリマーは、異なる程度に酸化される。60%を上回る酸化で、スクレロックスは、環境条件に感受性となり、pHにより媒介された可逆的ゾル-ゲル転移をもたらすことがわかった。。モデル分子の透過は、ゾル及びゲルを通り異なる速度で生じ、結果的にスクレロックス錠剤からの放出は、胃液及び腸液を模倣する2つの環境において、各々、異なるプロファイルを示した。
【0167】
酸性媒体において、この剤形の周りの膨潤層の形成は、送達の速度の決定における基本的役割を獲得したのに対し、より高いpH値では、浸食及び溶解が優先し始める。本製剤中のクエン酸などの酸性物質の添加は、模倣された腸液における放出速度を減少した。この送達速度は、GI管を通る通過時間に関しては依然速すぎる。従って別の戦略が使用された。多糖は、その側鎖にアルデヒド基又はカルボキシル基を導入するために、最初に誘導体化された。これらの基は次に架橋され、より安定した三次元網目を生成した。
【0168】
Pitarresiらは、UV照射による、メタクリル酸無水物で官能基化された炭水化物の架橋を報告している。ヒアルロン酸は、メタクリル酸無水物により最初に誘導体化された。比較的低分子量のヒアルロン酸(174kDa)は、水に溶解し、2%(w/v)溶液を形成する。5N NaOHを同時に添加しながら(pHを8〜9に維持するため)、20倍過剰量のメタクリル酸(ヒアルロン酸の反復単位のモル数に関して)を添加した。この反応は、4℃で維持し、かつ24時間攪拌した。次にこの反応混合物を、エタノール中で沈殿させ、この生成物を回収し、遠心分離及びゲル透過クロマトグラフィーにより精製した。
【0169】
Giezenらは、デンプン又はデンプン誘導体が、ジアルデヒド又はポリアルデヒドを用い、架橋されたバイオポリマーナノ粒子を作製する方法を開示した(例えば、Giezen, F. E.;Jongboom, R. O. J.;Fell, J.;Gotlieb, K. F.;Boersma, A.の特許、「バイオポリマーナノ粒子(Biopolymer nanoparticles)」、米国特許第6677386号、2004年1月13日参照)。可塑剤グリセロールを、マレイン酸、シュウ酸又はクエン酸などの酸と一緒に、この方法において使用した。ジアルデヒド及びグリセロールなどの化学物質は、食品成分としては適していないことは注意されなければならない。この架橋されたナノ粒子は、平均粒子サイズ400nm未満を有した。これらの粒子を10重量%含有する水性分散液の粘度は、150mPas未満の粘度(剪断速度186s
-1で測定)を有した。
【0170】
この製剤粘度は、粒子濃度の増加と共に増加すると予想された。第一の近似式として、懸濁液の粘度は、アインシュタイン式η=η
w (1+2.5φ)により、粒子濃度に関連し、式中、ηは分散液の粘度であり、η
wは水相の粘度であり、φは分散液中の粒子の体積分率である。粒子の体積分率は:
【数1】
により得られ、式中、ρ
pは粒子の密度であり、ρ
wは水相の密度であり、mは分散液中の粒子の質量分率である。分散液粘度は、分散液中の2つの隣接する粒子の表面の間の平均距離である粒子間距離Hによっても左右される。六方最密充填構造を持つ単分散の粒子の集団に関して、粒子間距離は:
【数2】
により得られ、式中、Dは粒子直径である。従って分散液中のポリマーの所定の質量分率(すなわち、固定されたφ)に関して、分散液粘度は、粒子のサイズがより小さい場合に、より高いと予想される。本実施例において、分散液の粘度は、水の粘度(〜1mPas)に近いように調整される。
【0171】
Magnaniらは、アルギン酸塩、ヒアルロナン、及びカルボキシメチルセルロースを使用し、多糖ヒドロゲルを合成した(例えば、Magnani, A.;Rappuoli, R.;Lamponi, S.;Barbucci, R.の論文、「新規多糖ヒドロゲル:特徴及び特性(Novel polysaccharide hydrogels: characterization and properties)」、Polym. Adv. Technol. 2000, 11, 488-495、及びBarbucci, R.;Consumi, M.;Lamponi, S.;Leone, G.の論文、「生体応用のための多糖ベースのヒドロゲル(Polysaccharides based hydrogels for biological applications)」、Macromol. Symp. 2003, 204, 37-58参照)。この架橋手順は、2-クロロ-1-メチルピリジニウムヨージドによるカルボキシラート部分の活性化、及び架橋剤としての1,3-ジアミノプロパンの使用からなる。ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースナトリウムの水溶液は、強酸交換樹脂Dowex 50WX8(Fluka社)による4℃での処理により、カルボン酸に転換した。この溶液を、5%水酸化テトラブチルアンモニウム溶液に添加し、pH8〜9を達成した。この多糖のテトラブチルアンモニウム塩を、凍結乾燥後、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。0℃に維持したこの溶液に、化学量論的量の2-クロロ-1-メチルピリジニウムヨージドを添加した。その後この溶液へ、架橋剤ジアミンを過剰に添加し、この反応混合物を、室温で4時間攪拌しながら維持した。この反応は、ヨウ化水素捕獲者(captor)として作用する、少量のトリエチルアミンの添加により促進された。巨視的ゲルが得られた。マイクロ-又はナノ粒子の合成は、報告されなかった。更に、関与した化学物質は、食品製剤には適していない。
【0172】
Kabraらは、下限臨界溶解温度(LCST, 41℃)を上回る温度での、ポリマーのジビニルスルホンによる架橋により、ヒドロキシルプロピルセルロースのマクロゲルを調製した(例えば、Kabra, B. G.;Gehrke, S. H.;Spontak, R. J.の文献、「細孔性反応性ヒドロキシプロピルセルロースゲル、1.合成及び微細構造(Microporous, responsive hydroxypropyl cellulose gels. 1. Synthesis and microstructure)」、Macromolecules, 1998, 31, 2166-2173参照)。Caiらは、同じ反応を使用し、ヒドロキシルプロピルセルロースナノ粒子の水性懸濁液を調製した(例えばCai, T.;Hu, Z.;Marquez, M.の論文、「天然ポリマーのほぼ単分散ナノ粒子の合成及び自己集成(Synthesis and self-assembly of nearly monodisperse nanoparticles of a naturally occurring polymer)」、Langmuir, 2004, 20, 7355-7359参照)。高分子量(〜10
6Da)は、水酸化ナトリウムの水溶液(pH12)中に溶解した。ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド及びジビニルスルホンを、各々、界面活性剤及び架橋剤として添加した。この溶液を、LCSTを上回る温度で約3時間加熱し、直径170nm〜430nmの範囲のナノ粒子を生じた。この粒子濃度は、0.1重量%未満であった。Gaoらは、ジビニルスルホンを使用する、自己会合されたヒドロキシプロピルセルロースナノ粒子のインサイチュ架橋も報告している(例えば、Gao, J.;Haidar, G.;Lu, X.;Hu, Z.の論文、「水中のヒドロキシプロピルセルロースの自己会合(Self- association of hydroxypropylcellulose in water)」、Macromolecules, 2001, 34, 2242-2247参照)。
【0173】
De Nooyらは、カルボン酸、アルデヒド、及びイソシアニドの間の反応(パッセリーニ3成分縮合)を使用し、多糖ヒドロゲルを調製した(例えば、De Nooy, A. E. J.;Masci, G.;Crescenzi, V.の論文、「パッセリーニ及びウギの多成分縮合を使用する汎多糖ヒドロゲル合成(Versatile synthesis of polysaccharide hydrogels using the Passerini and Ugi multicomponent condensations)」、Macromolecules, 1999, 32, 1318-1320参照)。カルボキシメチルセルロース又はヒアルロン酸などのカルボン酸含有炭水化物を使用し、ヒドロゲルを調製した。カルボン酸基を含まないスクレログルカン又はプルランなどの多糖は、アルデヒド基及びカルボン酸基を導入するためにTEMPOを用い、部分的に酸化された。ウギ縮合反応には、追加成分アミンが関与している。ホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒドを、この縮合反応のために、1,5-ジアミノペンタン又は塩化アンモニウムなどのアミンと一緒に使用した。キトサンも、その構造に存在するアミン基のために、ヒドロゲル合成に使用した。全ての合成されたゲルは、巨視的ゲルであった。マイクロ-又はナノ粒子合成は報告されなかった。更に、アルデヒド及びイソシアニドは、一般に食品成分として安全とは考えられない。
【0174】
他の架橋反応を用いて調製された共有結合架橋されたヒドロゲルも、報告されている。Douらは、デキストラン、ヒドロプロピルセルロース、及びヒドロエチルセルロースのカルボキシ-官能基化されたナノ粒子を合成した(例えば、Dou, H.;Tang, M.;Yang, W.;Sun, K.の論文、「カルボキシ官能基を持つ多糖-ベースのナノ粒子のワンポット合成、特徴、及び薬物負荷(One-pot synthesis, characterization, and drug loading of polysaccharide-based nanoparticles with carboxy functional groups)」、Colloid Polym. Sci. 2007, 285, 1043-1047参照)。しかしそれらの手順には、食品製剤での使用に適していない、硝酸、アクリル酸、硝酸アンモニウムセリウム(IV)、及びN,N'-メチレンビスアクリルアミドなどの化学物質の使用が関与している。Yu及びHoffmanは、モデル陽イオン性タンパク質リゾチームの制御放出のための化学的に架橋されたアルギン酸ナトリウム/コンドロイチン6-硫酸のヒドロゲルの合成を報告している(例えば、Yu, X. J.;Hoffman, A. S.の文献、「薬物送達マトリックスとしての多糖ヒドロゲル(Polysaccharide hydrogels as drug delivery matrixes)」、第22回生体活性物質の制御放出に関する国際シンポジウムのプロシーディング、1995年;制御放出部会;352-353頁参照)。このヒドロゲルは、二価の陽イオン溶液中で縮合状態であり、かつPBS中で脱縮合された状態であることがわかった。Chenらは、ペプチド及びタンパク質の鼻腔内送達に使用されるいくつかの多糖ヒドロゲルを検討した(例えば、Chen, J.;Jo, S.;Park, K.の論文、「タンパク質薬物送達のための多糖ヒドロゲル(Polysaccharide hydrogels for protein drug delivery)」、Carbohydrate Polymers, 1995, 28, 69-76参照)。インスリンの鼻腔内送達のためにデザインされたこれらのヒドロゲルは、45μmデンプンマイクロスフェア(例えば、Illum, L.;Jrgensen, H.;Bisgaard, H.;Krogsgaard, O.;Rossing, N.の論文、「可能性のある鼻腔内薬物送達システムとしての生体接着マイクロスフェア(Bioadhesive microspheres as a potential nasal drug delivery system)」、Int. J. Pharm. 1987, 39, 189-199)、エピクロロヒドリン架橋されたデキストラン(例えば、Edman, P.;Bjork, E.の論文、「送達経路:ケーススタディ:(1)ペプチド薬物の鼻腔内送達(Routes of delivery: Case studies: (1) Nasal delivery of peptide drugs)」、Adv. Drug Delivery Rev. 1992, 8, 165-177参照)、及びヒアルロン酸エステルマイクロスフェア(例えば、Illum, L.;Farraj, N. F.;Fisher, A. N.;Gill, I;Miglietta, M.;Benedetti, L. M.の論文、「インスリンの鼻腔内送達システムとしてのヒアルロン酸エステルマイクロスフェア(Hyaluronic acid ester microspheres as a nasal delivery system for insulin)」、J. Control. Rel. 1994, 29, 133-141参照)を含んでいる。ヒアルロン酸エステルのマイクロスフェアは、直径10〜100μmであった(例えば、Benedetti, L. M.;Topp, E. M.;Stella, V. J.の論文、「ヒアルロン酸エステルマイクロスフェア−加工法及びインビトロヒドロコルチゾン放出(Microspheres of hyaluronic acid esters-Fabrication methods and in vitro hydrocortisone release)」、J. Control. Rel. 1990, 13, 33-41参照)。
【0175】
好適な架橋剤の選択は食品製剤のための多糖ヒドロゲルの調製において、重要な工程である。明確に、架橋している化学物質の毒性は、その使用を排除する。ゲニピンは、タンパク質と多糖の天然の架橋剤であり、クチナシの果実抽出物から得られる。これは、多糖ヒドロゲルの合成において非常に魅力的である。これは、低い急性毒性を有し(マウスのLD
50 静注で382mg/kg)、かつグルタルアルデヒドなどのほとんどの他の化学架橋剤よりもはるかに低い毒性である。その構造は、
図2に示されている。
【0176】
Meenaらは、pH〜7、周囲条件で、水性媒体中でアガロースを架橋するために、ゲニピンを使用した(例えば、Meena, R.;Prasad, K.;Siddhanta, A. K.の論文、「ゲニピン-固定されたアガロースヒドロゲルの調製(Preparation of genipin- fixed agarose hydrogel)」、J. Appl. Polym. Sci. 2007, 104, 290-296参照)。ゲニピンは、Challenge BioProducts社(台湾)から購入した。使用されるゲニピンの量は、アガロース質量の約0.8重量%であった。ゲニピン-固定されたアガロースは、胃環境を表している酸性媒体(pH1.2)における膨潤の減少を示した。その膨潤の程度は、4.8g/gであるのに対し、架橋されないアガロースは最大6g/g膨潤した。著者らは、周囲条件下で、最大架橋には、約85時間後に達することを報告した。
【0177】
あるいは架橋は、フリーラジカルを用いて実現することができる。過硫酸アンモニウムなどのフリーラジカル開始剤は、化学物質のGRASリストに一覧されており、食品製剤において使用することができる。
【0178】
ヒドロキシル基を含むポリマーの周知のホウ砂で媒介された架橋を基に、Palleschiらは、ホウ砂を用いスクレオグルカンのヒドロゲルを合成した(例えば、Palleschi, A.;Coviello, T.;Bocchinfuso, G.;Alhaique, F.の論文、「新規スクレログルカン/ホウ砂ヒドロゲルの研究:構造及び薬物放出(Investigation of a new scleroglucan/borax hydrogel: structure and drug release)」、Int. J. Pharm. 2006, 322, 13-21参照)。彼等は、架橋されたヒドロゲルからのモデル薬物テオフィリン、ビタミンB12及びミオグロビンの放出動態を研究した。これらのヒドロゲルは、巨視的ゲルであり、マイクロ-又はナノ粒子ではない。
【0179】
ゲランは、イオン架橋剤として使用することもできる。ゲランは、対イオン、特にカルシウムのような二価イオンの存在下での、そのゲル化特性が周知である、陰イオン性微生物多糖である。ゲランは、スクレログルカンの架橋剤として使用されている。
【0180】
カラゲナンは、D-ガラクトース及び3,6-アンヒドロ-D-ガラクトース単位で構成された、線状の硫酸化されたバイオポリマーである。κ-カラゲナンビーズは、一価のイオン(しばしばK
+)及び時には二価イオンによるゲル化により調製される。アルギン酸塩は、変動量の(1→4)-連結されたβ-D-マンヌロン酸残基及びα-L-グルロン酸残基を含む、藻類により生成された線状多糖である。Mohamadniaらは、炭水化物バイオポリマーκ-カラゲナン(
図5)及びアルギン酸ナトリウムのイオン架橋されたビーズを合成した(例えば、Mohamadnia, Z.;Zohuriaan-Mehr, M. J.;Kabiri, K.;Jamshidi, A.;Mobedi, H.の論文、「制御された薬物送達のためのカラゲナン-アルギン酸塩のpH-感受性IPNヒドロゲルビーズ(pH-Sensitive IPN hydrogel beads of carrageenan-alginate for controlled drug delivery)」、J. Bioactive Compat. Polym. 2007, 22, 342-356、及びMohamadnia, Z.;Zohuriaan-Mehr, M. J.;Kabiri, K.;Jamshidi, A.;Mobedi, H.の論文、「イオン架橋されたカラゲナン-アルギン酸塩ヒドロゲルビーズ(Ionically crosslinked carrageenan-alginate hydrogel beads)」、Journal of Biomaterials Science: Polymer Edition 2008, 19, 47-59参照)。アルギン酸塩ゲル化は、二価又は三価の陽イオン(通常Ca
2+)がグルロン酸残基とイオン的に相互作用する場合に起こり、三次元網目の形成を生じる。アルギン酸塩-Ca
2+ヒドロゲルは、制御放出型経口薬剤について研究されている(例えば、Bajpai, S. K.;Sharma, S.の論文、「Ca
2+及びBa
2+イオンにより架橋されたアルギン酸塩ビーズの膨潤/分解挙動の研究(Investigation of swelling/degradation behavior of alginate beads crosslinked with Ca
2+ and Ba
2+ ions. React)」、React. Func. Polym. 2004, 59, 129-140参照)。
【0181】
Langerらは、イオン架橋又は共有結合架橋されたヒドロゲルからなる相互貫入ポリマー網目の合成を説明している(例えば、Langer, R. S.;Anseth, K.;Elisseeff, J. H.;Sims, D.の特許、「薬物送達及び組織工学のためのセミ-相互貫入又は相互貫入ポリマー網目(Semi-interpenetrating or interpenetrating polymer networks for drug delivery and tissue engineering)」、米国特許第6,224,893号、2001年5月1日参照)。ヒアルロン酸、デキストラン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、アルギン酸塩、ゲラン及びカラゲナンなどの炭水化物が、イオン架橋されたヒドロゲルを合成するために使用された。共有結合架橋されたヒドロゲルは、キトサンポリマー及びイソチオシアネート架橋剤からなった。これらのヒドロゲルは、インビボに注射された場合に、生物学的活性分子又は薬物を保持することが可能である粘性溶液の形状であった。マイクロ-又はナノ粒子の形成は、報告されていない。イソチオシアネート架橋剤の使用は、食品等級のヒドロゲル合成には適していないであろう。
【0182】
ヒドロプロピルセルロースなどの疎水化多糖及びアルギン酸塩又はカルボキシメチルセルロースなどのカルボキシ含有多糖の配合物が、ヒドロゲル粒子を調製するために使用される。疎水化多糖は、水中における相分離のために自発的粒子形成を生じるが、カルボン酸基を含む多糖は、pH反応性挙動をもたらし、かつ腸管通過時間も増大するであろう。多糖の配合を使用するヒドロゲル形成(巨視的ゲル及び水性分散液の両方)の総説は、以下である。
【0183】
Ichikawaらは、キトサン(脱アセチル化度〜77%)及びカルボキシメチルセルロース加水分解物の自己集合により濃度0.5重量%のナノ粒子懸濁液を合成した(例えば、Ichikawa, S.;Iwamoto, S.;Watanabe, J.の論文、「キトサン及びカルボキシメチルセルロースの酵素的加水分解物の自己集合による生体適合性ナノ粒子の形成(Formation of biocompatible nanoparticles by self-assembly of enzymatic hydrolysates of chitosan and carboxymethyl cellulose)」、Biosci. Biotechnol. Biochem. 2005, 69, 1637-1642参照)。これらのポリマーは、各々、酵素キトサナーゼ及びセルラーゼにより加水分解された。カルボキシメチルセルロースのカルボキシラート基とキトサンのアミノ基の間の静電相互作用は、これら2種のポリマーの溶液をただ混合することにより、ナノ粒子の自発的形成を生じた。粒子サイズは、これらの溶液の混合比によって、同じくこれらのポリマーの分子量によっても決まる。巨視的ゲルの形成を防止するために、混合前に、これらのポリマーを加水分解しかつ分子量を低下することは必要である。
【0184】
Sergioらは、アルギン酸塩などの酸性多糖、及びキトサンなどのオリゴ糖誘導体などの塩基性多糖の混合物からの、ヒドロゲルの調製を報告した(例えば、Sergio, P.;Ivan, D.;Eleonora, M.の特許、「組織工学のための及び活性化合物の担体としての多糖混合物のヒドロゲル(Hydrogels of polysaccharide mixtures for tissue engineering and as carriers of active compounds)」、国際特許出願WO/2007/135114、2007年11月29日)。彼等は、静電的「ビーズジェネレーター」を使用する、平均直径870μmのマイクロカプセルの合成を説明した。粒子合成の別の化学的方法は、例えば、0.15M NaCl及び10mM HEPES(pH7.4)中に調製されたアルギン酸塩及びキトサンの乳糖誘導体の溶液の混合からなる。その全体のポリマー濃度は2%であり、かつポリ陰イオンのポリ陽イオンに対する重量比は3:1であった。これらの粒子は、典型的にはサイズが大きく、その結果光学顕微鏡により画像化することができる。
【0185】
Whiteらは、キトサンなどの塩基性多糖及びヒアルロン酸などの陰イオン性多糖類を使用し、ヒドロゲルフィルムを調製した(皮膚科、形成外科、泌尿器科及び整形外科分野における適用のため)(例えば、White, B. J.;Rodden, G. I.の特許、「セミ-相互貫入ポリマー網目の組成物(Compositions of semi-interpenetrating polymer network)」、国際特許出願WO/2005/061611、2005年7月7日)。
【0186】
Vieiraらは、酸化されたアルギン酸塩及びキトサンと配合された酸化されたアルギン酸塩のヒドロゲルを調製し、これらの薬物の抗葉酸薬ピリメタミンとの相互作用を研究した(例えば、Vieira, E. F. S.;Cestari, A. R.;Airoldi, C;Loh, W.の論文、「多糖-ベースのヒドロゲル:調製、特徴決定及び薬物相互作用挙動(Polysaccharide-based hydrogels: Preparation, characterization and drug interaction behavior)」、Biomacromoleculars, 2008, 9, 1195-1199参照)。アルギン酸ナトリウムは、過ヨウ素酸ナトリウムを用い、部分的に酸化され、アルギン酸2,3-ジアルデヒドを得た。この過ヨウ素酸は、十分な透析により、完全に除去された。アルギン酸2,3-ジアルデヒドのゲル化は、ホウ砂の存在下で、CaCl
2又はキトサン/CaCl
2により実現された。マイクロ-又はナノ粒子の合成は報告されなかった。
【0187】
Meenaらは、寒天及びアルギン酸ナトリウム配合物のアクリルアミドによるグラフトを基にしたヒドロゲルシステムの合成を考察した(例えば、Meena, R.;Chhatbar, M.;Prasad, K.;Siddhanta, A. K.の論文、「寒天及びアルギン酸ナトリウム配合物を基にした堅牢なヒドロゲルシステムの開発(Development of a robust hydrogel system based on agar and sodium alginate blend)」、Polym. Int. 2008, 57, 329-336参照)。寒天及びアルギン酸ナトリウムは、蒸留水中に個別に溶解した。寒天は、90℃で2分間の電磁波照射を用いて溶解し、他方アルギン酸ナトリウムは、周囲温度で溶解した。寒天とアルギン酸ナトリウムの配合物は、寒天をとそれらを異なる比で混合することにより調製した。得られた配合物を冷却し、ゲルを形成し、これを小片に切断し、かつイソプロパノールで脱水した。脱水され硬化されたゲル粒子を、ナイロン布を通して、減圧下で濾過し、風乾し、引き続き50℃の炉で2時間乾燥した。この乾燥した配合物試料を、乳鉢と乳棒を使用し摩砕し、20〜40メッシュの粒子を得た。
【0188】
スクレログルカンで共架橋されたゲランからなるヒドロゲルも報告された(例えば、Alhaique, F.;Coviello, T.;Rambone, G.;Carafa, M.;Murtas, E.;Riccieri, F. M.;Dentini, M.;Desideri, P.の文献、「制御された薬物送達のためのゲラン-スクレログルカン共架橋されたヒドロゲル(A gellan-scleroglucan co-crosslinked hydrogel for controlled drug delivery)」、第25回生体活性物質の制御放出に関する国際シンポジウムのプロシーディング、1998年、866-867参照)。ヒドロゲル中のゲランとスクレログルカンの両方の使用は、巨視的ヒドロゲルのより良い剛性及び安定性を生じ、かつゲスト分子のより遅い放出を生じる。この放出速度は、Ca
2+架橋されたゲラン単独からは望ましくないほど高かった。
【0189】
Kimらは、修飾されたデキストランの光架橋を用い、多糖-ベースのヒドロゲルを合成した(例えば、Kim, S. H.;Won, C. Y.;Chu, C. C.の論文、「光架橋により調製されたデキストランベースのヒドロゲルの合成及び特徴決定(Synthesis and characterization of dextran-based hydrogel prepared by photocrosslinking)」、Carbohydrate Polymers, 1999, 40, 183-190参照)。デキストランは、(1→6)-連結されたα-D-グルコピラノシル残基、及びその構造の1個のブドウ糖残基につき3個のヒドロキシル基を含む。デキストランは、ブロモアセチルブロミドと最初に反応された。次にブロモアセチル化されたデキストランを、ビニル基の取り込みのために、アクリル酸ナトリウムと反応させる。光架橋を、アクリレート化されたデキストランにUV光を照射することにより実現した。これらは、巨視的ゲルであり、マイクロ-又はナノ粒子ではなかった。
【0190】
同様に、Reisらは、デンプンをグリシジルメタクリレートと反応させることにより、ペンダントビニル基を導入した(例えば、Reis, A. V.;Guilherme, M. R.;Moia, T. A.;Mattoso, L. H. C;Muniz, E. C;Tambourgi, E. B.の論文、「薬物送達システムの可能性のある担体としてのデンプン-修飾されたヒドロゲルの合成及び特徴決定(Synthesis and characterization of starch-modified hydrogel as potential carrier for drug delivery system)」、J. Polym. Sci.: Part A: Polym. Chem. 2008, 46, 2567-2574参照)。デンプンは、アミラーゼ及びアミロペクチンの2つの構成成分で構成された多糖である。アミラーゼは、250〜300の(1→4)-連結されたα-D-ブドウ糖残基からなる直鎖である。アミロペクチンは、α(1→4)及びα(1→6)連結により、約1400D-ブドウ糖残基からなる分岐した分子である。これは、総デンプンの約 80%を構成し、かつ容易に加水分解される。架橋可能なビニル基は、デンプンのグリシジルメタクリレートとの反応により導入され、
図7に概略的に示された構造を生じた。
【0191】
Chenらは、糖質のエポキシアクリレート、又は塩化メタクリロイル及び塩化アセチルとの反応により、ショ糖などの重合可能なサッカライドモノマーを合成し、かつこれらのモノマーを使用し、ヒドロゲルを形成した(例えば、Chen, J.;Bongjo, S.;Park, K.の特許、「親水性、疎水性、及び熱可逆性サッカライドゲル及び泡、これらの製造方法(Hydrophilic, hydrophobic, and thermoreversible saccharide gels and foams, and methods for producing same)」、米国特許第6018033号、2000年1月25日参照)。Caiらは同様に、フリーラジカル重合プロセスを介して、多糖鎖のナノ粒子への化学連結を可能にするビニル基の共有的結合により、ヒドロプロピルセルロースを修飾した(例えば、Cai, T.;Hu, Z.;Ponder, B.;St. John, J.;Moro, D.の論文、「官能基化されたヒドロキシプロピルセルロースを基にしたナノ粒子及びそれらの網目の合成及び研究並びにそれらからの制御放出(Synthesis and study of and controlled release from nanoparticles and their networks based on functionalized hydroxypropylcellulose)」、Macromolecules, 2003, 36, 6559-6564参照)。
【0192】
前述のように、水性分散液の粒子状担体中への親水性分子の封入に関する報告は、多くはない。Edlund及びAlbertssonは、ヘミセルロース-ベースのヒドロゲルマイクロスフェアの架橋密度を変動し、この架橋された網目は、カフェインのような化合物の小型で親水性の分子の迅速な放出を妨害することはできないことを発見した(例えば、Edlund, U.;Albertsson, A.-C.の論文、「マイクロスフェアシステム:ヘミセルロース-ベースのヒドロゲル(A microsphere system: hemicellulose-based hydrogels)」、Journal of Bioactive and Biocompatible Polymers, 2008, 23, 171-186参照)。対照的に、タンパク質(ウシ血清アルブミン)などの大型分子の放出は、網目のメッシュサイズを変動することにより制御することができ、その放出はフィック型拡散により進行される。別の研究は、捕獲された分子のサイズ及び親水性への同じ依存を示した。
【0193】
本出願人らは、ヒドロキシプロピルセルロースマイクロゲルを、トリメタリン酸三ナトリウム(TSTMP)及びトリポリリン酸ナトリウム(STPP)などの比較的無毒の架橋剤を用いて合成した。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、プロピレンオキシドのセルロースによる塩基-触媒反応により調製される。HPCは、ヒト消費のための食品中で許可され、米国食品医薬品局(FDA)規則121.1160項に記載されている[Klug, E. D.の文献、「ヒドロキシプロピルセルロース(Hydroxypropyl Cellulose)」、Encyclopedia of Polymer Science and Technology;Bikales, N. M.編集;Wiley Interscience社:ニューヨーク、1971年;15巻307-314頁]。「未反応」のTSTMP及びSTPPの最大0.4重量%が、FDA規則に従い、食品中で許可されている。塩化ホスホリル、アジピン酸塩、及びアジピン酸-酢酸の無水混合物などの、食品等級デンプンを製造するためにFDAにより許可された他の物質も、本架橋反応に使用することができる。エピクロロヒドリンなどの発癌物質も、以前はデンプンの架橋に使用されていたが、これは明らかに使用することができない。例えば、水酸化ナトリウムの存在下でTSTMPを使用するヒドロキシル含有多糖の架橋を示している、
図10を参照されたい。
【0194】
トリメタリン酸三ナトリウムを使用するデンプンの架橋は、典型的には水性媒体中で、pH11.5で実行される[Xie, S. X.;Liu, Q.;Cui, S. W.の論文、「デンプン改質と応用(Starch modification and application)」、「食品炭水化物:化学、物理特性及び応用(Food Carbohydrates: Chemistry, Physical Properties, and Applications)」;Cui, S. W.編集;Taylor & Francis社:ニューヨーク、2005年;358頁]。この反応は、40℃で2〜6時間進行させることが可能である。本出願人らは、ヒドロキシプロピルセルロースマイクロ粒子は、著しく高い水酸化ナトリウム濃度及び反応温度を用い、比較的高濃度(最大10重量%、マクロ相が分離せずに)で得ることができることを発見した。水酸化ナトリウムは、この架橋反応に参加するのみではなく、更に明らかに、室温であっても粒子形成を生じるヒドロキシプロピルセルロースのLCSTも低下する(NaOHの十分に高い濃度で)。
【0195】
Sigma-Aldrich社から得たヒドロキシプロピルセルロース粉末を、マイクロ粒子合成に使用した。このHPCポリマーは、数-平均分子量
【数3】
10,000g/mol、重量-平均分子量
【数4】
80,000g/mol、置換度DS 2.5、及びモル置換度MS 3.7を有した。置換度DSは、1個の無水ブドウ糖単位あたり置換されたヒドロキシル基の平均数と定義される[Klug, E. D.の文献、「ヒドロキシプロピルセルロース(Hydroxypropyl Cellulose)」、Encyclopedia of Polymer Science and Technology;Bikales, N. M.編集;Wiley Interscience社:ニューヨーク、1971年;15巻307-314頁]。モル置換度MSは、1個の無水ブドウ糖単位あたり一緒にされたプロピレンオキシド分子の平均数と定義される。
【0196】
精製大豆レシチン(MP Biomedicals社)約15mgを、水酸化ナトリウム溶液(pH=12)5mLに溶解し、淡黄色の半透明の溶液を得た。この溶液に、HPC 400mgを添加し、攪拌し、粘性の溶液を生じた。別のバイアル中に、蒸留水中TSTMPの12%(w/v)溶液を調製した。その後このTSTMP溶液5mLを、HPC/大豆レシチン溶液に添加した。この混合物を攪拌し、均質な溶液を得、これを50℃で1時間加熱し、引き続き室温まで冷却した。ステンレス鋼製ISFET pHプローブ(IQ Scientific Instrument社)を用いて測定した得られた分散液のpHは、7.8であった。4M塩酸数μLを用い、このpHを7に調節した。HPC分散液は、以下からなる:蒸留水約10mL中、HPC(ヒドロキシル基3.2mmol)400mg、大豆レシチン15mg(0.05mmol)、TSTMP 600mg(2.0mmol)、及び水酸化ナトリウム約12mg(0.3mmol)。数-平均粒子直径は3.5μmであり、かつ重量-平均粒子直径は3.7μmであった。この分散液の粘度は、約11cPであった。その後蒸留水中の20%(w/v)デキストロース溶液10mLを、この分散液に添加し、かつこの混合物を60℃で10分間加熱した。数-平均粒子直径は、デキストロースの添加後も、ほぼ同じ(〜5μm)で有り続けた。最終分散液の粘度は、約5cPであった。この分散液中の粒子の平均直径は、ALVS-NIBS High Performance Particle Sizer(ALV社、Langen/独国)を用いて決定した。分散液粘度は、Ubbelohde粘度計(Cannon Instrument社、ペンシルバニア州)を用いて決定した。
【0197】
本製剤を50℃で1時間の代わりに3時間加熱した場合、粒子サイズ又は分散液粘度に有意差は存在しなかった。
【0198】
別の製剤において、蒸留水中のHPCの4%(w/v)溶液10mLを、ガラスバイアルに入れた。水酸化ナトリウムペレット(310mg, 7.75mmol)を添加し、この溶液に溶解した。水酸化ナトリウムの添加は、混濁した均質な分散液を生じた。TSTMP(600mg, 1.96mmol)及び大豆レシチン(14mg, 0.043mmol)を、引き続き添加し、溶解した。この分散液を、50℃で1時間加熱し、その後室温に冷却した。この手順は、マクロ粒子の形成を生じ、これはバイアルの底に沈降した。冷却直後に、この分散液を攪拌し(磁気攪拌機を使用)、かつ4M塩酸を用いpH7に中和した。上清相中の数-及び重量-平均粒子直径は、各々、約610nm及び690nmであった。このHPC分散液の粘度は、約1.6cPであった。次に蒸留水中の20%(w/v)デキストロース溶液10mLを、この分散液に添加し、かつこの混合物を60℃で10分間加熱した。デキストロースの添加後、デキストロース負荷された分散液の数-平均粒子直径は約1.6μmであり、重量-平均粒子直径は約2.2μmであった。最終分散液の粘度は、約2cPであった。
【0199】
別の実施態様において、水100g中HPC(ヒドロキシル基31.9mmol)4gの溶液の、水酸化ナトリウム2.1g(52.5mmol)及びTSTMP 1g(3.27mmol)と一緒の、110℃で2時間の加熱は、ヒドロゲルマイクロスフェアの形成を生じた。この分散液を室温に冷却し、4M塩酸約4mLを使用し中和し、粘度約22cP及び重量-平均粒子直径約3.4μmの溶液を生じた。20%(w/v)デキストロース溶液104mLの添加は、糖質濃度10%(w/v)、粘度6.8cP及び重量-平均粒子直径約4.1μmの最終分散液をもたらした。この製剤を、糖質溶液の添加後、60℃で10分間加熱した。
【0200】
別の製剤において、水100gに溶解したHPC(ヒドロキシル基63.7mmol)8gを、水酸化ナトリウム2.23g(55.8mmol)及びTSTMP 1g(3.27mmol)と一緒に加熱した。加熱は、密封ガラス反応器内で110℃で2時間実行した。冷却後、未反応の水酸化ナトリウムを、4M塩酸約20mLを用いて中和し、重量-平均粒子直径約4.3μmの架橋されたHPCマイクロスフェアの分散液を得た。この分散液の粘度は、約31.2cPであった。その後20%(w/v)デキストロース溶液(120mL)を添加し、10%(w/v)デキストロース、3.3%(w/v)HPC、約2.5%(w/v)塩化ナトリウムの製剤を得た。この分散液を、糖質添加後、60℃で10分間加熱した。最終分散液の重量-平均粒子直径は、約4.5μmであり、かつ分散液粘度は約31cPであった。分散液粘度は、これらの溶液が混合される順番に対し感受性があった。デキストロース溶液が第二の加熱工程(60℃で10分間)の後に添加された場合、得られる分散液の粘度は、より高かった(約55cP)。
【0201】
ヒドロキシプロピルセルロース及びアルギン酸ナトリウム(CAS番号9005-38-3;American International Chemical社、F-200)のマイクロ粒子ヒドロゲルを、以下のように合成した。HPC(ヒドロキシル基0.080mmol)10mgを、蒸留水1mL中に溶解した。この溶液へ、2.5M NaOH 溶液(2.5mmol NaOH)1mL、トリメタリン酸三ナトリウム20mg(0.065mmol)、アルギン酸ナトリウム10mg及び大豆レシチン2mg(6.1μmol)を添加した。この溶液を徹底的に攪拌した。混濁した分散液が得られ、これは濃塩酸数滴の添加後(胃の酸性環境を模倣するために、最終pH約2に導く)であっても、安定し続けた。
【0202】
ヒドロキシプロピルセルロースは、水中で温度41℃以上で自己集合した。それ以上でこのポリマー鎖の自発的自己集合が生じるこの温度は、下限臨界溶解温度(LCST)と称される。HPCの熱的自己集合は、可逆的プロセスである。マイクロ粒子を構成している個別のポリマー鎖は、この溶液がLCST以下に冷却された場合に、水分子により溶媒和される。トリメタリン酸三ナトリウム(TSTMP)を使用するHPC鎖の架橋は、この溶液が臨界溶解温度以下に冷却された場合に、マイクロ粒子の溶解を防止した。
【0203】
別の戦略において、架橋は、塩化アクリロイル(又は塩化メタクリロイル)を使用し、アクリロイル(又はメタクリロイル)基を使用する、多糖の官能基化により実行され得る。アクリロイルエステルの形成は、塩化アクリロイルの多糖のヒドロキシル基との反応から生じた(
図11)。しかし、未反応の塩化アクリロイルを官能基化されたポリマーから完全に除去することは、塩化アクリロイルの毒性のために、重要である。その後ビニル官能基化されたHPCは、アスコルビン酸及び過酸化水素などの比較的良性の(benign)フリー-ラジカルレドックス-開始剤、又は過硫酸カリウムなどの熱開始剤を使用し、LCST以上で、水中で架橋することができる。
【0204】
従って、ヒドロキシプロピルセルロース(8mmol)1gを、磁気攪拌棒を装着しかつゴム栓をはめた丸底フラスコに入れた。このポリマーを、無水ジクロロメタン20mLに溶解し、混濁した粘性の溶液を得た。フラスコ内の空気を、乾燥窒素により掃流した。トリエチルアミン約1mL(7mmol)を、この反応器に注入し、引き続き塩化アクリロイル約520μL(6.4mmol)を滴加した。この混合物を室温で攪拌し、この時点で混濁した溶液は、塩化アクリロイルの添加後数分で透明になり始めた。この溶液を一晩攪拌し、その後アクリル化されたヒドロキシプロピルセルロース生成物を回収し、冷(〜0℃)ジエチルエーテル及びアセトン中で繰り返し沈殿することにより精製した。この生成物を、真空、40℃で乾燥した。アクリル化されたHPCポリマー約40mgを、蒸留水2mL中に溶解し、混濁した溶液を室温で得た。大豆レシチン約65mg(200mmol)をこの溶液に添加し、溶解した。このHPC及び大豆レシチンの溶液を、窒素ガスを泡立てることにより、酸素除去し、その後脱気した過硫酸アンモニウム(9.1mg, 40mmol)溶液2mLを注入した。この溶液を、70℃で2時間加熱し、架橋されたアクリル化されたヒドロキシプロピルセルロース粒子の分散液を得た。数-平均及び重量-平均粒子直径は、各々、1.28μm及び1.34μmであった。
【0205】
ヒドロキシプロピルセルロースマイクロゲルのエマルジョンベースの合成において、アクリル化されたヒドロキシプロピルセルロース80mgを、ジクロロメタン2mLに溶解した。この溶液へ蒸留水(4mL)を添加し、かつ攪拌し、エマルジョンを得た。アクリル化されたヒドロキシプロピルセルロースの架橋は、過硫酸アンモニウム及びデキストロースのレドックスシステムを用い、35℃で実行した。デキストロース(21.6mg, 12mmol)を、このエマルジョンに溶解した。蒸留水(2mL)中の過硫酸アンモニウム(27.4mg, 0.12mmol)の溶液2mLを、このエマルジョンに注入し、架橋反応を開始した。得られた分散液から、回転蒸発器を用い、ジクロロメタンを除去した。架橋されたアクリル化されたヒドロキシプロピルセルロースマイクロゲルの混濁した分散液を得た。この架橋された粒子は、静置時に、バイアルの底に沈降し、従ってその上清をデカントすることにより、粉末の形状で分離することができる。この架橋は、過硫酸塩/ブドウ糖、過酸化水素/アスコルビン酸などのレドックスシステムを用いても、実行することができる。
【0206】
分散液を濃HClで中和した、110℃で2時間加熱したHPC 400mg、TSTMP 100mg、NaOH 200mg、水10mLの溶液の走査型電子顕微鏡像は、SEM下で認められた大きい(〜1μm)立方体粒子を明らかにした。HPCは、低いガラス転移点を有し、室温でSEM基板上にフィルムを容易に形成する。しかし、SEMを用いてナノ粒子を画像化することは困難であった。
【0207】
(実施例2)
更に先に詳述された本発明の様々な態様に対し、エネルギー源として比較的重要な炭水化物(CHO)の基本的理解は、本発明の送達システムのデザインにおいて有用である。運動選手の持久能及び運動パフォーマンスを向上することができる食品製剤は、スポーツ科学及び運動科学におけるいくつかの研究の中心となっている
i。運動選手は、疲労を避けるために、運動期間中に燃料の連続供給を必要としている。タンパク質、脂肪及び炭水化物は全て、運動選手の食事の重要な成分として考えられてきたが
ii,iii、運動選手にとって炭水化物-豊富な食事の現在の強調は、約90年前に行われた研究を基にしている。これらの初期の研究は、血中ブドウ糖濃度と疲労の間の関係を示唆した。Levineらは1924年に、25マイルマラソンレースの参加者への炭水化物-豊富な食事は、向上したランニングパフォーマンス(レースを完走する時間として測定)を生じ、かつランナーにおける低血糖を防止したことを発見した
iv。他方でChristensenとHansenは、運動時の高脂肪食は、低血糖及び神経低糖症を引き起こし、これは運動後の重篤な疲労及び消耗を引き起こしたことを示した
v,vi,vii。彼等は、これらの症状は、運動前に炭水化物食を用いることにより、予防することができることを発見した。
【0208】
運動のエネルギー源としての炭水化物、脂肪及びタンパク質の相対的重要性は、Coyleにより1995年の総説に詳細に説明されている
viii。Jeukendrupによるより最新の総説は、エネルギー源としての炭水化物に焦点を当てている
i。タンパク質異化作用は一般に、筋肉収縮に必要なエネルギーの5%未満に寄与しているが
ix、筋肉グリコーゲン、肝臓グリコーゲン及び血中ブドウ糖の形の炭水化物、並びに血漿脂肪酸及び筋肉内トリグリセリドの形の脂肪は、定常状態の有酸素運動の主要なエネルギー源である
viii。ヒトの体は、大量のエネルギーを脂肪(>300,000kJ)として貯蔵するが
x,ix、体脂肪は、中等度の運動時であっても、酸化には容易に利用されない。中等度から激強度の運動を持続するのに十分な高い速度で脂肪を酸化する筋肉の限定された能力(すなわち、最大酸素摂取量VO
2maxが60%以上)は、筋肉グリコーゲン及び血中ブドウ糖を、これらの運動時の主要なエネルギー源とする。貯蔵された筋肉グリコーゲン及び血中ブドウ糖が枯渇し始めた時に、疲労が生じる。
【0209】
肝臓グリコーゲン(〜80g)中のエネルギー貯蔵は、約1280kJであり、筋肉グリコーゲン(〜400g)中の貯蔵は、約6400kJであり、かつ細胞外液のブドウ糖内容物を含む血中ブドウ糖(〜10g)は、約160kJである
ix,xi。従って4.5L/分の最大酸素摂取量の80kgの運動選手は、激しい有酸素運動をVO
2max約80%で行っている場合に、約75kJ/分の割合でエネルギーを消費し、約105分以内に内在性炭水化物貯蔵の枯渇を引き起こすであろう。この運動選手は、例え中等度の強度の運動(60〜75%VO
2max)であってもそのエネルギー必要量を満たすのに十分な速度で脂肪を酸化することができるであろう
viii。これらの要因は、105分後に、運動パフォーマンスに悪影響を及ぼすことが予想される。炭水化物消費は、内在性炭水化物貯蔵を使わず、かつ疲労を避けることができる。
【0210】
多くの研究が、運動前及び運動期間中の炭水化物消費は、高度に強度な運動時に、運動選手の疲労を遅延することができることを報告している
xii,xiii,xiv,xv,xvi,xvii,xviii, xix,xx,xxi,xxii,xxiii。Jeukendrupとその同僚は、炭水化物が40〜75g/時の速度で消費される場合、向上された身体のパフォーマンスが認められ、及び炭水化物摂取速度が75g/時を超えると更なる向上は認められないことを発見した
i。彼等は、運動期間中の中等度の速度のブドウ糖摂取(35g/時)は、内在性ブドウ糖生成を抑制し、及び高い速度のブドウ糖摂取(175g/時)は、内在性ブドウ糖生成を完全にブロックしたことも決定した
xxiv。更に彼等は、高い外来性炭水化物酸化速度(>1g/分)、その結果の低下した筋肉グリコーゲン消費が、ブドウ糖食と比べ、ブドウ糖及び果糖併用食について得られたことも発見した
xxv。
【0211】
プレ-運動(pre-exercise)炭水化物消費は、肝臓及び筋肉の両方のグリコーゲン貯蔵を増加し、その結果疲労を遅らせかつ運動パフォーマンスを向上するために、通常実践される
xxvi。しかしこれは、血漿インスリン濃度の上昇も引き起こし得、このことは、運動開始時には筋肉ブドウ糖取り込みを増大するが、その後は低血糖に導くであろう
xxvi。Febbraioらは、炭水化物のプレ-運動摂取は、その炭水化物摂取が運動を通じて維持される場合にのみ、有益であることを明らかにした
xxvi。CHOの連続摂取は、運動選手にとって簡便でないことがある。文献におけるほとんどの研究は、CHOの連続摂取に経静脈的方法を使用するか、又は参加者に10〜15分毎にCHOボーラス量を消費することを要求している。これらは両方共、実践的ではない。市場で入手可能な製剤は、CHOの持続された送達が可能ではない。本明細書に説明されたように、本発明者らは、CHOの持続された送達を提供することができる1種以上の製剤を開発した。
【0212】
比較的高い血漿インスリン濃度も、脂肪異化作用に悪い影響を及ぼす。脂肪酸の動員、取り込み及び酸化は、運動期間中の筋肉へのエネルギー源としての、ヒト体内における最大エネルギー貯蔵−脂肪組織トリグリセリド−の有用性を決定する。脂肪組織トリグリセリドは、リパーゼ酵素により最初に加水分解され、作業している筋肉により取り込まれるために、遊離脂肪酸を血流へ放出する
ix,x。筋肉内トリグリセリドも、脂肪分解を受け、ミトコンドリアでの酸化のための脂肪酸給源として働くことができる。低い運動強度(<25%VO
2max)及び絶食状態においては、運動に必要なエネルギーのほとんど全ては、血漿脂肪酸に由来する。脂肪酸化は、70%VO
2maxでの運動に必要なエネルギーの最大50%を提供し(血漿脂肪酸及び筋肉内トリグリセリドからとほぼ等しい貢献)、かつ10〜30分間続くより激しい運動に必要なエネルギーの1/3未満を提供することができる。筋肉グリコーゲンの枯渇後、脂肪を酸化する筋肉の能力は、約50%VO
2maxのエネルギー利用率に制限される。
【0213】
筋肉による酸化のための血漿脂肪酸の利用可能性は、運動の強度が増すにつれ減少し、これは恐らく脂肪組織血管におけるカテコールアミンが刺激した血管収縮、不充分な脂肪組織血流
x、その結果の脂肪組織から作業筋肉へ脂肪酸を運搬するためのアルブミン送達の不充分さ
ixのためであろう。脂肪を酸化する筋肉の限定された能力も、ミトコンドリア膜を超える脂肪酸のカルニチンパルミトイル転移酵素で刺激された輸送の律速段階に起因すると考えられる
viii。筋肉内の炭水化物の存在は、脂肪酸化及びミトコンドリア膜を超えた脂肪輸送を減少することがわかっている。プレ-運動CHO負荷のための血漿インスリン濃度の上昇は、脂肪分解
xxvii及び脂肪利用可能性
xxviiiを減少し、かつ運動パフォーマンスに悪影響を及ぼす。血漿インスリン濃度の非常に小さい上昇であっても、基底レベルを50%以上下回るまで脂肪分解速度を抑制することができる
x。
【0214】
Coyleは、血流中のブドウ糖濃度が高く有り続けるように、74%VO
2maxで、炭水化物が運動を通じて摂取された場合、筋肉グリコーゲン使用は、運動の最後の段階の間(3から4時間の期間)は最低であり、これは血中ブドウ糖は、この期間の主な炭水化物源であることを示していることを明らかにした
viii。他の研究は、筋肉グリコーゲンは、運動には不要であることを示した
xxix。
【0215】
小腸から全身循環へのCHOの吸収は、運動期間中にエネルギー源として外来性ブドウ糖を使用する律速因子である。外来性ブドウ糖が運動期間中に酸化される最大速度は、約1g/分である
xxi。
【0216】
高い血糖インデックスを持つブドウ糖、ショ糖、及びマルトデキストリンなどの炭水化物は、血中ブドウ糖濃度及び炭水化物酸化の維持並びに運動パフォーマンスの向上において同等に有効である
viii。肝臓が果糖をブドウ糖に変換する速度は比較的遅いために、果糖摂取は典型的には、ブドウ糖又はショ糖と比べパフォーマンスの向上に影響を及ぼさない。果糖摂取は、肝臓グリコーゲン貯蔵において、ブドウ糖の4倍の増加を生じる
xxx。果糖は主に肝臓で代謝されるが、ブドウ糖は肝臓を迂回し、筋肉により貯蔵されるか又は酸化されるかのいずれかである。Jandrainらは、果糖は、中等度-強度の長期間の運動期間中繰り返し摂取される場合、循環ブドウ糖への高い変換速度にもかかわらず、ブドウ糖よりもより少なく代謝的に利用されることを発見した
xxxi。最近、Jeukendrupと同僚らは、ブドウ糖と果糖の適量の摂取は、外来性CHO酸化を、ブドウ糖単独の等カロリー量のそれを超えるようには増加しないことを発見した
xxxii。
【0217】
しかし他の研究は、様々な単糖類(例えばブドウ糖、果糖、及びショ糖)の混合物を使用することにより、外来性CHO酸化速度を増加することができることを示した
xxxiii。Jentjensらは、1分間にブドウ糖1.8gの速度でブドウ糖が摂取される場合、外来性CHO酸化の速度は、0.83g/分に限定されることを発見した
xxxiv。他方で、ブドウ糖及び果糖の混合物が摂取される場合、1.26g/分の総外来性CHO酸化速度が達成され〜52%増加する。Adopoらによる初期の研究は、ブドウ糖及び果糖の混合物の摂取は、等カロリー量のブドウ糖よりもより高い外来性CHO酸化速度を生じることを示した
xxxv。外来性ブドウ糖及び果糖の酸化速度は、ブドウ糖のみが消費される場合の速度よりも21%より高い。様々な単糖が特定の輸送タンパク質により腸管腔を超えて輸送されるので、単糖の混合物は、単独の炭水化物よりもより高い細胞による全般的取り込みを生じることができる。例えば、ブドウ糖及びガラクトースは、ナトリウム-依存型ブドウ糖輸送体1(SGL1)と称される輸送タンパク質により腸管細胞膜を通じて輸送されるのに対し、果糖は、ブドウ糖輸送体5(GLUT5)と称される異なる輸送タンパク質により輸送される。原則として、ブドウ糖分子と果糖分子の1:1混合物の供給は、SGL1輸送経路における輸送量(traffic)を、ブドウ糖分子のみが提供される場合と比べ、1/2に減少するであろう。CHOの正味の吸収速度は、ブドウ糖及び果糖の混合物を用い増加することができるが、果糖のブドウ糖への肝臓での変換速度がかなり遅いために、果糖は、エネルギー源として直ちに利用可能であることはできない。
【0218】
小腸への血流量も、CHO吸収の限定因子であろう。高強度の運動の間に、小腸への血流量の著しい減少が存在する(表4参照)
xxxvi。運動期間中に外来性ブドウ糖酸化速度を限定する理由は、小腸への血流量の減少のためでもあろう。肝臓のグリコーゲン合成及びグリコーゲン分解は、小腸からの供給速度とは無関係に、約1.0g/分よりも大きいブドウ糖産生をもたらさない可能性もある。
【表4】
【0219】
Pfeiffer, B.らの論文は、炭水化物ゲルの胃腸管耐性に対する作用を考察している(Int. J. Sport Nutr. Exerc. Metab. (2009) 19(5): 485-503)。Hultson, C.らの論文は、長期間の運動時に炭水化物摂取からのプラセボ作用が存在しないことを示している(Int. J. Sport Nutr. Exerc. Metab. (2009) 19(3): 275-284)。Currel, K.らの論文は、1種よりも多い炭水化物の摂取による持久力パフォーマンスに関係している(Med. Sci. Sports Exerc. (2008) 40(2): 275-281)。
【0220】
(実験法)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの温度反応性ポリマーのマイクロ粒子を、このポリマーの水溶液をその下限臨界溶解温度以上に加熱することにより調製した。これらの粒子内のポリマー鎖を、FDA承認のトリメタリン酸三ナトリウム(TSTMP)を用い、共有結合架橋し、マイクロ粒子ヒドロゲルを得た。これらの粒子を、デキストロース(D-ブドウ糖)で負荷し、捕獲されたデキストロースの放出速度を、様々な化学組成及び粒子濃度を持つ製剤について試験した。水-膨潤性ヒドロゲル粒子内に存在する糖質は、遅延放出に利用可能であった。残りの糖質は、水相に存在し、腸管腔を超える即時吸収に利用可能であった。これらのヒドロゲルマイクロ粒子を、アルギン酸ナトリウムなどのpH反応性で粘膜付着性のポリマーによりコーティングし、胃放出に対する拡散障壁を提供した。インビトロ放出動態及びインビボ放出動態の両方(2つの異なるエネルギー消費速度で)を、実験により決定した。本発明の遅延放出型製剤に関するブドウ糖濃度、対、時間プロファイルは、市販の従来型即時放出型製剤及び他の対照に対する差異及びこれらに勝る利点を明確に示した。
【0221】
(材料)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SL、USP等級)は、Nippon Soda社から入手した。精製大豆レシチンは、MP Biomedicals社(カタログ番号102147)から購入した。アルギン酸ナトリウムポリマー(アルギン酸ナトリウムNF、F-200、SAHMUP、及びアルギン酸ナトリウムNF、SALMUP)は、American International Chemical社から入手した。トリメタリン酸三ナトリウム(TSTMP、試薬等級)及び水酸化ナトリウム(試薬等級、>98%)は、Sigma-Aldrich社から購入した。グルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ酵素(PGO酵素カプセル、製品番号P7119)、o-ジアニシジン二塩酸塩(カタログ番号D3252)、デキストロース(カタログ番号D9434)及び塩酸(37%、カタログ番号320331)は、Sigma-Aldrich社から入手した。Thin-N-Thik(登録商標)99デンプン及びResista(登録商標)682デンプン、無水クエン酸、Staleydex(登録商標)333デキストロース、及びKrystar(登録商標)300結晶果糖は、Tate&Lyle社から入手した。食品等級大豆レシチン、UltraLec(登録商標)P脱油レシチンは、Archer Daniels Midland社から入手した。食品等級界面活性剤モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(DATEM、Panodan(登録商標)150 LP K-A)は、Danisco社から入手した。水酸化ナトリウム(FCC等級)は、VWR社から購入した。安息香酸ナトリウム(FCC等級)は、Fischer Scientific社から購入した。食品等級のソルビン酸カリウム及びトリメタリン酸三ナトリウムは、Spectrum Chemical Mfg社から購入した。全ての化学物質は、更に精製することなく使用した。広く使用された市販のスポーツドリンクであるGATORADE(登録商標)を、インビボ実験の陽性対照として使用した。GATORADE(登録商標)は、水、高果糖コーンシロップ(ブドウ糖-果糖シロップ)、ショ糖シロップ、クエン酸、天然香料、塩分、クエン酸ナトリウム、リン酸一カリウム、食用改質デンプン、赤色色素#40、及びロジンのグリセロールエステルからなる。総糖質濃度は、5.83%(w/v)である。ナトリウム及びカリウム濃度は、各々、0.45mg/mL及び0.125mg/mLである。
【0222】
(ヒドロキシプロピルセルロース(HPC))
ヒドロキシプロピルセルロースは、温度反応性ポリマーである。このポリマー溶液の下限臨界溶解温度(LCST)以上に加熱した場合、水和されたポリマー鎖は、ポリマー−水の水素結合の熱破壊のために、水分を喪失する。このポリマー鎖は、疎水性になり始めるので、溶液から沈殿し、マイクロ粒子を形成する。疎水性相互作用による粒子形成は、可逆性であり−このポリマー分子は、この分散液がLCST以下に冷却された場合に、再度溶解し始める。HPC水溶液の下限臨界溶解温度に対する様々な添加剤の作用を、示差走査熱量測定を用い測定した。HPC水溶液(8%w/v)のLCSTは、48℃であった。3.2%(w/v)大豆レシチン溶液4mLを、8%(w/v)HPC溶液(10mL)へ添加した場合、LCSTの変化は認められなかった。水中TSTMP溶液(1.77%w/v)3gを、HPC及び大豆レシチンを含有する溶液に添加した場合、LCSTは37℃に低下した。最後に、1.36%w/v水酸化ナトリウム溶液0.5gを添加し、かつこの分散液を、300rpmで攪拌しながら、50℃で1時間加熱した。ポリマー粒子の固形物の沈殿が、1時間の加熱後に認められ、これは室温への冷却後に容易に再分散することができた。この分散液のpHは、4N塩酸40μLを添加することにより、約7に調節した。デキストロース(1.75g)をこの分散液に添加し、かつ攪拌により溶解した。デキストロース添加後の、分散液中の架橋されたHPCのLCSTは、約32℃であった。HPCのLCSTに対する添加剤の作用についてのこれらの測定から、架橋剤を使用しなくとも、粒子の形成が生じることは明らかである。しかし広範なイオン強度、温度及びpH条件にわたり粒子の完全性を維持するためには、化学架橋が望ましい。
【0223】
置換度(DS)及びモル置換度(MS)は、HPC分散液の粒子形成及び架橋に影響する重要なパラメータである。セルロース分子内の各ブドウ糖単位は、3個のヒドロキシル基を有する。この置換度は、プロピレンオキシドと反応する1つの無水ブドウ糖単位当たりのヒドロキシル基の平均数として定義される
xxxviii。従って、この置換度は常に、3以下である。モル置換度は、1つのブドウ糖単位当たりの反応するプロピレンオキシド分子の平均数として定義される。モル置換度は一般に、その置換度よりも大きく、かつ3よりも大きいことができる。モル置換度の置換度に対する比は、ポリマーにおける、ヒドロキシプロピル側鎖の平均長をもたらす(x+1、
図12参照)。
【0224】
図12に示されたHPCポリマーの構造を基に、このポリマーの各反復単位の平均分子量は、(162.15+58.08 MS)と等しいことは明らかである。各反復単位は、3個のヒドロキシル基を有する。従って、HPCポリマー1g当たりのヒドロキシル基のモル数は、3/(162.15+58.08MS)により得られる。HPC-SLに関して、置換度は1.9であり、モル置換度は約2.1である。従ってヒドロキシル基の濃度は、ポリマー1g当たり約10.6mmolである。
【0225】
(分散液合成)
反応温度50℃で、HPC鎖は凝集し、マイクロ粒子を形成する。粒子内の個々のポリマー鎖を、
図13に示された反応を用い、共有結合架橋した。この反応の終了時に、粒子はバイアルの底に沈降した。しかしこれらは、室温への冷却後、穏やかに攪拌することにより、容易に再分散した。
【0226】
pH測定には、多目的ステンレス鋼製ISFETセンサープローブを備えたIQ 150-77 pH/mV/Tempearture system(IQ Scientific Instruments社)を使用した。分散液中の粒子サイズは、ALV-NIBS High Performance Particle sizerを用いて測定した。走査型電子顕微鏡は、JEOL JSM 6300走査型電子顕微鏡を用いて実行した。試料の液滴を、アルミニウムスタブ(stub)上で、室温で約12時間風乾した。この乾燥粒子は、SEM分析の前に、金の導電層により、スパッタリングコーティングした。この分散液の粘度は、Ubbelohde粘度計(Cannon instruments社、サイズ1C)を用いて決定した。液体が粘度計上の2つの基準点の間を溶出するのに要する時間を、ストップウォッチを用いて測定し、その製剤の粘度を、「粘度計定数」、実験的に決定された液体密度、及び溶出時間の積として算出した。示差走査熱量測定(DSC)を、TA Instruments示差走査熱量計を用いて行った。DSC測定は、超高純度窒素の不活性大気中で行った。PerkinElmerアルミニウムパン(#02190062)を、試料と参照の両方について使用した。これらの試料を75℃に加熱し、この温度で1分間維持し、その後20℃まで10℃/分の速度で冷却した。試料と参照の間の熱流量の差を測定し、DSCサーモグラムを得た。
【0227】
ヒドロゲルマイクロ粒子に封入されたブドウ糖のインビトロ放出動態は、PermeGear Side-Bi-Side水平拡散セルを用いて決定した。この拡散セルは、メンブレンにより分離されたドナーチャンバー及びレシーバーチャンバーからなる。メンブレンは、2つのチャンバーの間に配置され、かつこれらのチャンバーは、ステンレス鋼製クランプによりまとめて把持された。ドナーチャンバー及びレシーバーチャンバーは、各々容積7mLを有し、かつ開口部の直径は15mmであった。ドナー及びレシーバーの両チャンバーは、温度制御された水浴からの水がそれを通り循環されるジャケットにより取り囲まれていた。本明細書において詳述される放出動態実験については、ポリエーテルスルホンメンブレンを、その親水性及び耐酸性のために、使用した。細孔サイズ450nm及び直径25mmのポリエーテルスルホンメンブレンは、Sterlitech社から購入した。この拡散セル集成体を、磁気攪拌プレート上に搭載した。レシーバーチャンバーの内容物を、磁気攪拌棒を用いて攪拌した。ドナーチャンバーの内容物は、攪拌せずに留めた。時間の関数としてブドウ糖濃度を決定するために、試料100μLを、レシーバーチャンバーから、マイクロシリンジを用いて採取し、かつ等量の蒸留水と置き換えた。
【0228】
インビトロ実験でのブドウ糖濃度は、Sigma-Aldrich社のプロトコールに従い、グルコースオキシダーゼ比色法を用いて決定した
xxxix。このグルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ酵素溶液は、褐色瓶中でSigma社のPGO酵素1カプセルを水100mL中に溶解することにより調製した。各カプセルは、グルコースオキシダーゼ(アスペルギルス・ニジェール)500ユニット、ペルオキシダーゼ(ホースラディッシュ)100プルプロガリンユニット、及び緩衝塩を含んだ。この瓶を、穏やかに振盪しながら数回倒置し、カプセルを溶解した。水20mL中にo-ジアニシジン二塩酸塩50mgを溶解することにより、o-ジアニシジン溶液を調製した。PGO酵素溶液100mLとo-ジアニシジン二塩酸塩溶液1.6mLを混合することにより、PGO-酵素反応溶液を調製した。この溶液は、数回倒置するか、又は穏やかに振盪することにより混合した。水を溶媒とする0.05mg/mlのブドウ糖標準液を調製した。ブドウ糖-含有試料を、PGO酵素反応溶液に添加した。この反応を、室温でおよそ45分間、完了まで進行させた。最終吸光度を、PerkinElmerラムダ650UV-可視分光光度計を波長450nmで使用し、測定した。試料のブドウ糖濃度は、以下のように決定した:
【数5】
【0229】
図14は、ブドウ糖の酵素的測定の反応スキームを示している。
ブドウ糖は、グルコースオキシダーゼにより、グルコン酸と過酸化水素に酸化される(
図14)。過酸化水素は、ペルオキシダーゼの存在下で、o-ジアニシジンと反応し、着色生成物を形成する。450nmで測定された茶色の強度は、当初のブドウ糖濃度に比例する。
【0230】
(インビボ放出動態)
LifeScan社から市販されているOneTouch Ultra血中ブドウ糖バイオセンサーを使用し、血中ブドウ糖濃度を決定した。OneTouch Ultra血中ブドウ糖モニタリングシステムは、血液わずか1μL及び濃度分析に5秒を必要とする先進の電気化学バイオセンサー試験紙を使用する
XL。この試験紙は、血液を試験紙に自動的に引き寄せるデザインを特徴としている。
【0231】
本試験の非-運動アームに関して、被験者には以下のことが指示された:
1.実験前24時間は激しい運動を避けること。
2.実験前に、一晩、少なくとも10時間は絶食すること。
3.坐位で採血し、血中ブドウ糖濃度を決定するために、従来型ばね押し式使い捨てランセット、及び携帯型ブドウ糖測定器を使用し分析すること。45分間で最大3回、初回測定値を得かつ記録し、ベースラインブドウ糖レベルを確立すること。
4.被験製剤、水(対照)、水性デキストロース溶液又はGATORADE(登録商標)(陽性対照)の400mLをおよそ2分以内に消費すること。
5.坐位で採血し、携帯型ブドウ糖測定器を使用し血中ブドウ糖濃度を分析すること。最初の90分間は5分毎に、及びその後最大240分間は15分毎に、測定値を得かつ記録し、血中ブドウ糖濃度、対、時間プロファイルを得ること。
【0232】
異なる時点で測定した血中ブドウ糖濃度から空腹時(ベースライン)値を減算した後、濃度対時間プロファイル下面積を、simple Matlabコードを使用する台形公式により決定した。
【0233】
動的運動試験には、Precorモデル966iトレッドミル又は類似型を使用した。本試験の運動アームにおいて、被験者には以下のことが指示された:
1.実験前24時間は激しい運動を避けること。
2.実験前に、一晩、少なくとも10時間は絶食すること。
3.45分前には、試験施設に入り、着座し楽にすること。
4.坐位で採血し、血中ブドウ糖濃度の決定を目的として従来型ばね押し式使い捨てランセット、及び携帯型ブドウ糖測定器を使用し分析すること。45分間で最大3回、初回測定値を得かつ記録し、ベースラインブドウ糖レベルを確立すること。
5.ベースラインブドウ糖レベルが確立した後、約5mph(〜60%VO
2max)の速度で最大15分間、トレッドミル上を走行すること。所定の時点で、被験者には:短時間走行を停止すること;採血し、血中ブドウ糖レベルを決定するために、従来型ばね押し式使い捨てランセット、及び携帯型ブドウ糖測定器を使用し、分析すること;並びに、ウォーミングアップ期間が完了するまで、走行を直ちに再開すること:が求められた。15分間で最大3回、初回測定値を得かつ記録し、運動ベースラインブドウ糖濃度を確立すること。ウォーミングアップ期間後直ちに、約2分以内で、被験製剤400mLを消費すること。
6.前記ペースで走行を再開し、所定の時点で、被験者には:短時間走行を停止し、採血し、血中ブドウ糖レベルを決定するために、従来型ばね押し式使い捨てランセット、及び携帯型ブドウ糖測定器を使用し、分析し、並びに、運動アームが完了するまで、各試料採取後、走行を直ちに再開すること:が求められた。被験者には、できる限り長く(最大195分間)、予め設定されたペースで走行することが指示された。通常の原則(regular basis)で測定値を得かつ記録し、血中ブドウ糖濃度、対、時間プロファイルを得ること。
【0234】
異なる時点で測定した血中ブドウ糖濃度からベースライン値を減算した後、濃度対時間プロファイル下面積を決定した。
【0235】
(実施例2.1)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SL、4g)を、250-mLエーレンマイヤーフラスコ中で、室温で、磁気攪拌機を使用し、蒸留水50gに溶解した。エーレンマイヤーフラスコ内のこのHPC溶液に、大豆レシチンの水溶液を添加し、この混合液を、均質な淡黄色溶液が得られるまで、5分間攪拌した。この溶液に、TSTMP水溶液を、3アリコートで添加し、各添加の間2分間攪拌した。この製剤の濁りは、TSTMPの添加後増大し、これは粒子形成を示している。最後に、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、この分散液を5分間攪拌した。この分散液のpHを、pHメーターを用い測定し、約11.6であった。得られた製剤を、ホットプレート(Corning Instruments社、PC 620D)を用い50℃に維持した水浴で、2時間加熱し、磁気攪拌機を用い、300rpmで攪拌した。この反応の間に、固形沈殿物が形成された。エーレンマイヤーフラスコを、水浴から取り外し、室温まで冷却し、この反応時に形成された固形沈殿物が再分散されるまで磁気攪拌機を用いて混合し、均一な均質分散液を形成した。この分散液のpHを測定し、10.9であった。この分散液のpHを、4N HCl溶液(〜30〜50μL)を用いて、7.8に調節した。その後デキストロース粉末(8.95g)を添加し、かつ固形物が溶解するまで、この混合物を室温で5分間攪拌した。この分散液を50℃で20分間再度加熱し、この間300rpmで攪拌した。形成された沈殿を、室温まで冷却後、磁気攪拌機を用いて再分散させた。
【0236】
(実施例2.2)
8%(w/v)HPC溶液10mLを、ガラスバイアルに入れた。磁気攪拌機(300rpm)及び攪拌棒(長さ5mm×直径2mm)を使用し攪拌しながら、大豆レシチンの水溶液をこのバイアルに添加した。この溶液に、攪拌を続けながら、TSTMP水溶液を滴加した。最後に、NaOH溶液0.5mLを添加し、得られた溶液を50℃で1時間加熱した。1時間後、この混合物を冷却した。白色固形物が溶液の底に沈降した。沈降した固相中のマイクロ粒子を、200rpm(室温で約1時間)混合することにより、再分散させ、透明で均質な溶液を生じた。こうして得られた分散液を、4N HCl溶液数μLで中和した。この分散液の最終HPC濃度は、約4.4%(w/v)であった。デキストロース粉末(1.85g)を、4.4%(w/v)HPC分散液18.5mLに添加した。この分散液を、デキストロースの溶解が完了するまで、攪拌した。放出試験を行う前に、少なくとも48時間経過した。
【0237】
平均直径約5.4μmのヒドロキシプロピルセルロースマイクロ粒子が得られた(
図15a及び15b参照)。4.4%(w/v)HPC分散液の粘度は、室温で15.46cPであることがわかった(デキストロースの添加前)。直径が5.4μmより大きい少数の粒子(
図15c参照)を、SEM像において認めた。
【0238】
(実施例2.3)
疎水性に改質された食用デンプン(Thin-N-Thik(登録商標)99デンプン及びResista(登録商標)682デンプン)などの多糖を使用し、ヒドロゲルマイクロ粒子を形成した。デンプン800mgを蒸留水10mL中に室温で溶解することにより、8%(w/v)デンプン溶液を調製し、混濁しているが均質な分散液を得た。その後精製大豆レシチン、TSTMP、及び水酸化ナトリウムの溶液を、蒸留水中に調製した。ガラスバイアル中に入れたデンプン分散液10mLに、大豆レシチン溶液4mLを添加し、この混合液を5分間攪拌した。この混合液に、TSTMP溶液3mLを添加した。5分間攪拌した後、水酸化ナトリウム溶液0.5mLを添加した。このガラスバイアルを、50℃の油浴中に配置し、60分間加熱した。磁気攪拌機を用い攪拌を提供し、かつ反応の間は速度300rpmを維持した。60分後、バイアルを油浴から取り外し、室温まで冷却し、4M塩酸溶液数μLを使用し、pHを7に調節した。得られる分散液中の粒子サイズを、表5に示した。
【表5】
【0239】
(実施例2.4)
下記の製剤を、蒸留水及び食品等級の化学物質を用い、2-リットルガラス反応器内で合成した。アルギン酸ナトリウム(SALMUP)、大豆レシチン、トリメタリン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸、及びデキストロースのストック液を、蒸留水中に調製した。蒸留水250mL中に安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウムを溶解することにより、安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウムのストック液を、調製した。容量2-リットルの欧州式先細の3-首のジャケット付きフラスコ(Chemglass社、カタログ番号CG-1576-11)において、反応を実行した。この反応器の内容物は、オーバーヘッド攪拌機(IKA(登録商標)RW-20)、及びテフロン攪拌ブレード(Chemglass社、カタログ番号CG-2080)に装着された磨きガラスシャフト(Chemglass社、カタログ番号CG-2078-02)からなるかき混ぜ機を用いて、混合した。再循環式水浴を使用し、反応器のジャケットを通過する水の温度を制御した。
【0240】
蒸留水1Lを、シリコーン漏斗を用い、フラスコの側方の首を通り、反応器へ注いだ。攪拌機の速度は、260rpmに設定した。反応器のジャケットを通り流れる水は、室温であった。HPC-SL粉末約100gを、シリコーン漏斗を通り、反応器に、20分間かけてゆっくり添加し、約60分間混合し、均質な(透明な)HPC溶液を得た。次に大豆レシチン溶液を、この反応器に添加した。約5分間混合した後、TSTMP溶液を添加し、この反応器の内容物を更に5分間混合した。最後に、水酸化ナトリウムを反応器に添加し、混合した。得られる溶液のpHを測定し、約11.1であった。
【0241】
水浴の温度を、50℃に設定した。水浴の温度が50℃に達した後、この反応器の内容物を、この温度で90分間加熱した。90分後、白色固形物が、この反応器の底に沈降した。反応器のジャケットから熱水を排水し、かつ冷水(〜10℃)を循環させることにより反応器の内容物を冷却した。この反応器内容物を約1時間混合し、この時点で沈降した固形物を、水相中に再分散させ、均質な分散液を生じた。この分散液のpHを測定し、10.3であることがわかった。
【0242】
このpHを、クエン酸溶液の添加により、7に調節した。その後、デキストロース溶液(100%w/v)400.1gを、この反応器に添加し、これらの内容物を約10分間混合した。最後に、アルギン酸ナトリウム溶液を、漏斗を通して添加した。漏斗に付着し残留したアルギン酸ナトリウムは、デキストロース溶液33gを用い、反応器へと洗い落とした。10分間混合した後、安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウム溶液を含有する溶液を添加した。この分散液のpHを、クエン酸溶液を用い、3.8まで低下させた。
【0243】
この分散液中の粒子の数平均直径は約4.1μmであり、かつ質量平均直径は約4.3μmであった。分散液の粘度は約32.2cPであった。そのpHは約3.8であった。室温での密度は、約1.2g/mLであった。実施例2.4の当初の分散液の一部を、等質量の水を添加することにより希釈し、希釈された希釈分散液を得、その粘度は11.7cPであった。
【0244】
(実施例2.5)
先に説明された手順を用い、製剤の別のバッチを合成し、4つの部に分けた。これらの各々は、異なる量の糖質デキストロース及び果糖を含んだ。これらの試料の全体の組成、粒子サイズ、及び粘度を、表6に示している。
【表6】
【0245】
(実施例2.6)
大豆レシチン、トリメタリン酸三ナトリウム(TSTMP)、水酸化ナトリウム、及びアルギン酸ナトリウムの水溶液を、蒸留水中に各化合物を溶解することにより、各々調製した。無水クエン酸も、蒸留水中に溶解した。水中の安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウムの溶液も、安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウムを蒸留水中に溶解することにより、調製した。加えて、水中のデキストロースの溶液を、蒸留水172g中にデキストロース151gを溶解することにより調製した。
【0246】
ヒドロゲルマイクロ粒子の合成は、容量2-リットルの欧州式先細の3-首のジャケット付きフラスコ(Chemglass社、カタログ番号CG-1576-11)において実行した。この反応器の内容物は、オーバーヘッド攪拌機(IKA(登録商標)RW-20)、及びテフロン攪拌ブレード(Chemglass社、カタログ番号CG-2080)に装着された磨きガラスシャフト(Chemglass社、カタログ番号CG-2078-02)からなるかき混ぜ機を用いて、混合した。再循環式水浴を使用し、反応器のジャケットを通過する水の温度を制御した。
【0247】
蒸留水(750g)を、シリコーン漏斗を用い、フラスコの側方の首を通り、反応器へ注いだ。攪拌機の速度は、265rpmに設定した。室温の水を反応器のジャケットを通り再循環させた。HPC-SL粉末約75.2gを、シリコーン漏斗を用い、反応器中の水に、20分間かけてゆっくり添加し、約60分間混合し、均質なHPC溶液を得た。大豆レシチン溶液を、この反応器に添加した。室温で約5分間混合した後、TSTMP溶液を添加し、この反応器の内容物を更に5分間混合した。最後に、水酸化ナトリウムを反応器に添加し、混合した。得られる溶液のpHを測定し、約11.1であった。
【0248】
水浴の温度を、50℃まで上昇させた。水浴の温度が50℃に達した後、この反応器の内容物を、この温度で90分間加熱した。90分後、白色固形物が、この反応器の底に沈降した。反応器のジャケットから熱水を排水し、かつ冷水を循環させることにより反応器の内容物を冷却した。この反応器内容物を約1時間混合し、この時点で沈降した固形物を、水相中に再分散させ、均質な分散液を生じた。この分散液のpHを測定し、10.3であることがわかった。
【0249】
このpHを、クエン酸溶液の添加により、6.5に調節した。その後、デキストロース溶液320gを、分散液に添加し、約10分間混合した。最後に、アルギン酸ナトリウム溶液を、漏斗を通して添加した。漏斗に付着し残留したアルギン酸ナトリウムは、デキストロース溶液33gを用い、反応器へと洗い落とした。10分間混合した後、安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウム溶液を添加した。この分散液のpHを、クエン酸溶液を用い、3.8まで低下させた。
【0250】
この分散液中の粒子の数平均直径は約4.5μmであり、かつ質量平均直径は約4.7μmであった。分散液の粘度は約38.7cPであった。
【0251】
(実施例2.7)
製剤の合成は、食品等級の化学物質を用い、1.5-リットルスケールで実行した。大豆レシチン、TSTMP、水酸化ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウムの水溶液を、最初に個別に調製した。無水クエン酸も蒸留水中に溶解させた。
【0252】
この反応は、容量2-リットルの欧州式先細の3-首のジャケット付きフラスコ(Chemglass社、カタログ番号CG-1576-11)において実行した。この反応器の内容物は、オーバーヘッド攪拌機(IKA(登録商標)RW-20)、及びテフロン攪拌ブレード(Chemglass社、カタログ番号CG-2080)に装着された磨きガラスシャフト(Chemglass社、カタログ番号CG-2078-02)からなるかき混ぜ機を用いて、混合した。再循環式水浴を使用し、反応器のジャケットを通過する水の温度を制御した。
【0253】
蒸留水(750g)を、シリコーン漏斗を用い、フラスコの側方の首を通り、反応器へ注いだ。攪拌機の速度は、265rpmに設定した。反応器のジャケットを通り流れる水は、室温であった。HPC-SL粉末(75.2g)を、シリコーン漏斗を通り、反応器に、20分間かけて添加し、約60分間室温で混合し、均質な(透明な)HPC溶液を得た。次に大豆レシチン溶液を、この反応器に添加した。5分間混合した後、TSTMP溶液を添加し、この反応器の内容物を更に5分間混合した。最後に、水酸化ナトリウムを反応器に添加し、混合した。得られる溶液のpHを測定し、約11.1であった。
【0254】
水浴の温度を、50℃に設定した。水浴の温度が50℃に達した後、この反応器の内容物を、この温度で120分間加熱した。120分後、白色固形物が、この反応器の底に沈降した。反応器のジャケットから熱水を排水し、かつ冷水を循環させることにより反応器の内容物を冷却した。約1時間の更なる混合は、沈降した固形物を再分散させ、均質な分散液を生じた。この分散液のpHを測定し、10.3であることがわかった。クエン酸溶液の添加は、このpHを約6.6まで低下した。その後、デキストロース溶液(150g)を、粉末として反応器に添加し、内容物を約10分間混合した。最後に、SALMUP溶液を、漏斗を通して添加した。10分間混合した後、安息香酸ナトリウム及びソルビン酸カリウムを含有する溶液を添加した。最後に、この分散液のpHを、クエン酸溶液を用い、3.8まで低下させた。
【0255】
この分散液中の粒子の数平均直径は約4.2μmであり、かつ質量平均直径は約4.8μmであった。分散液の粘度は約36.7cPであった。
【0256】
(実施例2.8)
実施例2.1の製剤を使用した。HPC粒子からのデキストロースの放出動態は、pH7、及び温度28℃で測定した。この温度は、分散液中のHPCのLCSTよりも低いので、これを選択した。
【0257】
28℃で操作する水浴を用い、拡散セルのドナー及びアクセプターコンパートメントの加熱ジャケットを通して水を循環させた。このHPC製剤7mLを、拡散セルのドナーコンパートメントに添加し、蒸留水(pH〜7)7mLをレセプターコンパートメントに添加した。規則的間隔でレセプターコンパートメント内のこの液体の少量アリコート(0.1mL)を、マイクロシリンジを用いて採取し、等量の蒸留水(0.1mL)と置き換えた。これらのアリコートを、250mLの容量フラスコに入れ、蒸留水を用いて希釈した(2500倍)。ブドウ糖の濃度を、グルコースオキシダーゼ比色法を用いて決定した。
【0258】
HPC分散液に関するアクセプターコンパートメントのブドウ糖濃度、対、時間プロファイルを、HPC分散液と同じ全体のブドウ糖濃度(8.7重量%)を有したブドウ糖対照について得られたプロファイルと比較した。
【0259】
この濃度、対、時間プロファイルは、本被験製剤と対照について極めて異なり、このことは、実施例2.1の製剤は、ブドウ糖の遅延放出を示したことを示唆している。予想されたように、最終ブドウ糖濃度は、HPC分散液(〜38mg/mL)のほうが、ブドウ糖対照(〜54mg/mL)よりも低かった。この実験手順は、ブドウ糖輸送の動態を決定するために非-沈降(non-sink)条件を利用した。HPC分散液中のブドウ糖の一部は、平衡状態で、粒子内に封鎖され続けた。従ってドナーコンパートメント中の最終濃度は、ブドウ糖対照の場合のそれよりも、低かった。
【0260】
(実施例2.9)
アルギン酸ナトリウム(SALMUP)粉末を、実施例2.1に説明された製剤20gに添加した。最終分散液のpHは、4N塩酸を用い、3.8に調節した。この製剤は、8.7%(w/w)デキストロース、3.9%(w/w)HPC、SALMUP、TSTMP、及び大豆レシチンを含有した。同じ製剤を、等質量の水により希釈した。ブドウ糖輸送の動態を、拡散セルを用い28℃で測定した。この希釈した製剤は、4.3%(w/w)デキストロース、1.9%(w/w)HPC、SALMUP、TSTMP、及び大豆レシチンを含有した。ブドウ糖輸送の動態に対する希釈の作用は、実施例2.8に説明された手順に従い、拡散セルを用いて調べた。
図17は、当初の製剤と希釈した製剤について、アクセプターコンパートメントのブドウ糖濃度プロファイルを比較した。
【0261】
この濃度プロファイルのプラトー値は、1:1希釈について予想されたように、当初の製剤よりも希釈した製剤のほうがより低かった(約50%)。
図17に示された濃度プロファイルから、希釈された製剤は、当初の製剤と比べ、より速い速度でブドウ糖を放出したことも明らかであった。
【0262】
(実施例2.10)
HPC粒子からのデキストロースの放出の動態を、pH7及び温度37℃で測定した。この温度は分散液中のHPCのLCSTを上回り、かつヒト体の温度に近いので、これを選択した。実施例2.1の製剤を使用した。約10時間後には、封入されたブドウ糖のほとんど全てが、放出された(
図18)。このHPC粒子は、温度がLCSTを上回って上昇した場合(例えば37℃)、親水性状態から疎水性状態への転移を受ける。これらの粒子は縮小されるので、粒子内に存在するブドウ糖分子は、水と共に排出される。HPC分散液が、ブドウ糖(対照)と同じ濃度でブドウ糖溶液の代わりにドナーコンパートメント内に存在する場合、レセプターコンパートメント中のブドウ糖濃度は、より遅い速度で増加することは、
図18から明らかである。
【0263】
(実施例2.11)
HPC粒子からのデキストロース放出の動態を、pH2及び温度37℃で測定した。pH値2は、空腹時の胃液のpHに似ている。実施例2.4の分散液を使用した。この分散液のpHは、4N塩酸を用い、2に調節した。拡散セルのジャケット内の水は、水浴を用い37℃で維持した。このHPC分散液7mLを、ドナーコンパートメントに添加し、酸性水(pH2、塩酸)7mLを、レセプターコンパートメントに添加した。選択された時間間隔で、レセプターコンパートメント内の液体の0.1mLアリコートを採取し、これを等量の蒸留水で置き換えた。採取したアリコートは、容量フラスコを用い10倍希釈し、このブドウ糖濃度を、GM8分析装置(Analox Instruments社)を用いて決定した。
図19は、本分散液及びブドウ糖溶液(対照)に関する濃度プロファイルを示している。明らかに、放出速度は、ブドウ糖溶液よりも、HPC分散液の方が遅い。
【0264】
(実施例2.12)
HPC粒子からのデキストロース放出の動態に対するpHの作用を、実施例2.1の分散液を用い更に例証した。当初の分散液のpHを、4N塩酸を用い、〜7に調節した。アルギン酸ナトリウム(SALMUP)粉末を、この分散液20gに添加し、磁気攪拌機を用いて溶解した。ブドウ糖放出動態の決定(拡散セルを使用する)の数分前に、アルギン酸ナトリウムを含有する分散液約10gを採取し、そのpHを4N塩酸を用い3.8に調節した。この分散液の残り10gのpHを、4N塩酸を用い2に調節した。そのようにして得られた3種の分散液は全て、約8.7%(w/w)デキストロース、3.9%(w/w)HPC、SALMUP、TSTMP、及び大豆レシチンを含有した。28℃でのブドウ糖放出の動態を、実施例2.8において考察したように、拡散セルを用いて決定した。ドナーコンパートメントは、この分散液7mLを含有した。レセプターコンパートメントは、蒸留水7mLを含有し、ドナーコンパートメント中の分散液のpHと同じpHに酸性化した。レセプターコンパートメント内のブドウ糖の濃度は、グルコースオキシダーゼ比色法を用い決定した。
図20は、3種の分散液について、レセプターコンパートメントブドウ糖濃度プロファイルを比較した:pH7、3.8、及び2。pH値7と3.8の濃度プロファイルに、ほとんど差異はなかった。しかしこの分散液のpHが、カルボン酸基(アルギン酸塩の)のpKaよりも実質的により低い場合、有意に異なる濃度時間プロファイルが認められた。このデータは、HPC粒子内でブドウ糖分子の拡散障壁を作製するアルギン酸ナトリウムの役割を明確に示している。この障壁特性は、この分散液が消費後に胃環境において遭遇するであろう酸性pHで増強される。
【0265】
(実施例2.13)
実施例2.4の分散液約12.85oz(380mL、450g)は、一晩絶食後(〜10時間)に消費された。これらの製剤は、米国食品医薬品局(FDA)により「一般に安全と認められる物質(GRAS)」である食品添加物と考えられる物質で構成された。全ての成分の量は、米国FDA及びWHOにより決定された許容レベル内に収まる。HPC分散液の消費の前1時間に、空腹時血中ブドウ糖濃度を測定し、ベースラインを確立した。この血中ブドウ糖濃度は、分散液の消費後規定間隔で決定した(
図21a)。
図21aは、GATORADE(登録商標)380mLの消費後の、同じ被験者に関する血中ブドウ糖濃度プロファイルも示している。
図21bにおいて、血中ブドウ糖濃度は、空腹時ベースラインブドウ糖濃度を減算することにより、標準化されている。HPC分散液及びGATORADE(登録商標)の両方共、高いグリセミック指数(血中ブドウ糖濃度の上昇速度に反映された、摂取された炭水化物が腸管吸収に利用可能になる速度の測定値)を示した。
【0266】
しかしGATORADE(登録商標)対照は、約70分で血中ブドウ糖濃度の急激な減少を示し、これは明らかに高グリセミック指数の炭水化物に対するインスリン反応(高インスリン血症)のためである
viii。再摂食状態において(HPC分散液の消費後)、血液のインスリン濃度は、上昇した血糖値に反応して増加する。インスリンは、血液から体細胞へのブドウ糖の取り込みを増強し、血中ブドウ糖濃度の減少を引き起こす。インスリンの血糖降下反応は、肝臓グリコーゲン分解を引き起こすグルカゴンにより対抗され、最終的には血中ブドウ糖濃度は恒常的レベルに戻る。明らかにこのプロセスは、45分間の期間中に生じた(GATORADE(登録商標)の消費後50〜95分;
図21b参照)。対照的に、本HPC分散液は、制御された速度で、ブドウ糖を血流に供給することができ、かつ最大約170分間、血中ブドウ糖レベルを空腹時濃度よりも上に持続することができた。本HPC分散液は、GATORADE(登録商標)対照よりも約75%より高い全体糖質量を含み、そのインスリン反応は比較的穏やかである。最低血中ブドウ糖濃度は、ほぼ185分まで認められなかった。
【0267】
(実施例2.14)
図22は、実施例2.5のHPC分散液の血中ブドウ糖濃度プロファイルを、GATORADE(登録商標)対照のそれと比較している。本製剤は、米国食品医薬品局(FDA)により「一般に安全と認められる物質(GRAS)」である食品添加物と考えられる物質で構成された。全ての成分の量は、米国FDA及びWHOにより決定された許容レベル内に収まる。等容量(380mL)のこれら2種の製剤を消費した。両方の製剤は、類似した糖質濃度を含んだ。本実施例のHPC分散液は、実施例2.13のHPC分散液中のHPC粒子の総数のほぼ半分を有する。従って、血中ブドウ糖濃度は、わずかに最大でも約75分間、空腹時濃度を上回り維持され、それでもこれは対照よりも約25分間長い。
【0268】
(実施例2.15)
本実施例は、2つの異なる種類の炭水化物、すなわちデキストロース及び果糖の遅延放出の、血中ブドウ糖濃度プロファイルに対する影響を例証する。果糖は、迅速に筋肉グリコーゲン合成を促進することはできないが
viii、これは、インスリン反応を制御し、かつ炭水化物消費後2時間たっても、空腹時値を有意に上回る血中ブドウ糖濃度を維持するために、使用することができる(
図23参照)。実施例2.5の2種の異なるHPC分散液(2.5A及び2.5D)を、
図23において比較した。一方の分散液は、糖質としてデキストロースのみを含有するのに対し、他方の分散液は、デキストロース及び果糖の両方を含有した。第二の分散液の総糖質濃度は、第一の分散液のそれと同じであった。同じ容量(380mL)の両方の分散液を消費し、血糖反応を測定した。これらの製剤は、米国食品医薬品局(FDA)により「一般に安全と認められる物質(GRAS)」である食品添加物と考えられる物質で構成された。全ての成分の量は、米国FDA及びWHOにより決定された許容レベル内に収まる。
図23において、主に果糖を含有する製剤は、予想されたように、より低いグリセミック指数を有することが認められる。この血中ブドウ糖濃度は、最大約230分間、空腹時レベルを上回った。本HPC分散液により提供された遅延放出機構は、果糖のブドウ糖への肝臓での変換において代謝時間のずれがあり、ベースライン値よりも大きい血中ブドウ糖レベルを生じる。
【0269】
(実施例2.16)
実施例2.7のHPC分散液に関する血中ブドウ糖濃度プロファイルを、対照として使用したブドウ糖の水溶液と比較した(
図24参照)。これらの製剤は、米国食品医薬品局(FDA)により「一般に安全と認められる物質(GRAS)」である食品添加物と考えられる物質で構成された。全ての成分の量は、米国FDA及びWHOにより決定された許容レベル内に収まる。これらの製剤は両方共、同様の全体の糖質濃度(〜10重量%)を含んだ。血中ブドウ糖濃度は、ブドウ糖対照(〜60分間)よりも、HPC分散液に関して、より長い期間(〜115分間)空腹時レベルを上回り維持された。このインスリン反応は、即時放出の対照と比べ、遅延放出型製剤に関して明白に同じく有意に低い。
【0270】
(実施例2.17)
本HPC分散液の摂取のタイミングの作用を、実施例2.7の分散液を用い例証する。本製剤は、米国食品医薬品局(FDA)により「一般に安全と認められる物質(GRAS)」である食品添加物と考えられる物質で構成された。全ての成分の量は、米国FDA及びWHOにより決定された許容レベル内に収まる。本製剤のボーラス380mL(450g)が消費された。このボーラス投与量に関する血中ブドウ糖濃度、対、時間プロファイルを、同量の製剤が3部分で摂取される実験の濃度プロファイルと比較し−これら各部分は、本分散液127mL(150g)からなった。
図25から、これらの戦略は両方共、少なくとも最大110分間について、血中ブドウ糖濃度のベースラインレベルを上回ったことが認められた。この血糖反応は、予想されたように、より少量の炭水化物分散液が頻回に消費される場合に、より低かった。
【0271】
(実施例2.18)
HPC分散液の摂取のタイミングの作用は、対照としてGATORADE(登録商標)を用い、実施例2.7の分散液を用いて例証される。2つの個別の実験において、各製剤380mL(450g)は、3部分で摂取され−各部分は、本製剤127mL(150g)からなった。この血中ブドウ糖濃度は、
図26において比較した。
【0272】
(実施例2.19)
血中ブドウ糖濃度プロファイルに対する中程度の強度の運動(〜60%VO
2max)の前に供給された遅延放出型炭水化物の作用を、本実施例において例証している。実施例2.4のHPC分散液380mLを、運動の前に消費した。この実験の対照は、実施例2.4のHPC分散液のデキストロース濃度に近づけるためにデキストロース17.5gを添加したGATORADE(登録商標)製剤380mLであった。
図27に認めることができるように、血中ブドウ糖濃度は、HPC分散液において、対照と比べ、50分で有意に高かった。本試験は、被験者が可能な限り長く〜60%VO
2maxと等しい速度で走る場合の疲労に対する経過時間の関数としてのエネルギー出力も測定した。HPC分散液は、水対照よりも55%より大きい経過時間、及びデキストロース17.5gが添加された陽性対照GATORADE(登録商標)製剤よりも31%より大きい経過時間を生じた。
【0273】
(実施例2.20)
本HPC分散液の血糖の影響を、血中ブドウ糖濃度プロファイル曲線下面積を用い、特徴付けた。
図28は、実施例2.13から2.19に例示された様々な製剤に関する血中ブドウ糖濃度プロファイルの比較に使用された、濃度時間プロファイルのパラメータを示している。C-C
bは、空腹時(本実験の開始前)の血中ブドウ糖濃度であるベースライン値C
bに対する血中ブドウ糖濃度である。時点t=0は、本実験の開始(例えばCHO製剤の摂取)に対応している。時点t
実験は、その間血中ブドウ糖濃度が測定される本実験期間の総時間である。時点t
ベースラインは、血中ブドウ糖濃度がベースラインを超える、すなわち、空腹時値以下に下落する時点である。血液中のブドウ糖は、CHO摂取後、長期間にわたり、エネルギー源として利用可能であるので、より高いt
ベースライン値が望ましい。
【0274】
報告された全ての血中ブドウ糖濃度プロファイルについて、2つの異なる曲線下面積値AUC
+及びAUC
トータルが算出された。
AUC
+は、
図28において「+」により示された領域の面積であり、下記式を用い、算出され:
【数6】
ここで、積分は、下端t=0と上端t=t
ベースラインの間で評価される。
【0275】
AUC
トータルは、濃度プロファイル下総面積であり、かつ
図28において「+」及び「-」により示された領域の代数和である。AUC
トータルは、下記式を用いコンピュータ算出し:
【数7】
ここで、積分は、下端t=0と上端t=t
実験の間で評価される。
【0276】
AUC
+は、血中ブドウ糖濃度に対する外来性CHOの作用を表す。血中ブドウ糖濃度は最初に、CHO消費のために増加する。外来性血中ブドウ糖は、インスリン反応のために、組織グリコーゲンに変換され、運動期間中に作業筋肉にエネルギーを提供するためにも使用され、これは血中ブドウ糖濃度の減少につながる。空腹時値以下への血中ブドウ糖濃度の下落は、インスリン反応によるか(被験者が着座し続ける実験において)、又は作業筋肉による血中ブドウ糖酸化速度が血流へのブドウ糖供給速度を超える場合(各々、腸管腔を超えるブドウ糖吸収及びグリコーゲン分解などの、外来性及び内在性給源)、又はこれら両方による。
【0277】
表7は、様々な製剤の血中ブドウ糖濃度に対する作用を、t
ベースライン、AUC
+、及びAUC
トータル、並びに下記式を用い算出される実験期間中の血中ブドウ糖濃度<C-C
b>の平均偏差に関して、まとめている。
【数8】
AUC
トータル及び<C-Cb>の両方は、実験期間t
実験に左右される。従って異なる実験間でのこれらの値の比較は一般に、実験期間が類似している(例えば類似したt
実験値を持つ)場合にのみ行われる。別に記さない限りは、本製剤380mLが、単回ボーラス投与量として摂取された。
【0278】
表7から、本HPC分散液は概して、即時放出型CHO対照、又は水よりもより高いt
ベースラインを示したことは明らかである。AUC
+及びAUC
トータル値も、休息状態及び運動状態の両方の期間、対照と比べ、HPC分散液について有意に高い。
【表7】
【0279】
(参考文献)
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【表8-5】
【0280】
従って本発明は詳細な好ましい実施態様において説明されているが、先の段落で規定された本発明は、本発明の精神又は範囲から逸脱しない可能性のある多くの変更は明らかであるように、先の説明で示された特定の詳細に限定されるものではないことは理解されるべきである。
【0281】
本出願において引用されるか又は説明された特許、特許出願、及び刊行物の各々は、個々の特許、特許出願、又は刊行物が各々、参照により組み入れられることが具体的かつ個別に指摘されるように、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。