(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、列車の地下駅においては、列車からの熱を排気し、また外気から新鮮な空気を取り込んで地下駅へ供給する換気設備及び空調設備が設置されている。そして現状では、これらの設備による給排気の風量は年間を通じて一定に固定されており、このため、例えば地下駅内の空気の設定温湿度に比べて外気が高温高湿である場合には、空調設備の負荷を増大させることで空調の度合いを調整し、快適な空間を提供できるようになっていた。
【0003】
ここで、このような地下駅は人体や列車からの放熱や地下水の蒸発による潜熱など様々な熱が複雑に混在する空間となっている。さらに今後は地下駅のさらなる大深度化も想定され、このような大深度の地下空間においては、熱の混在に加えて地下空間での熱の滞留が懸念される。このため、地下駅内の乗客に対して確実に快適性を提供するよう、空調システムの性能向上を図り、より細やかな空調の制御を行うことが求められていた。
【0004】
ところで、特許文献1には地下空間の空調システムが開示されており、地下空間内の所定の地点の風向及び風速を検出して、この検出データに基づき地下空間への空気流入量を演算し、換気装置における換気量の制御を行っている。このようにすることで、列車が地下駅から離れる際に地上部から地下駅空間へ空気が流れ込み、また地下駅へ近づく際に地下駅空間から地上部へ空気が流出する現象を有効に利用し、換気装置の過剰運転を抑制して、より効率的な空調を可能としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された空調システムは、換気設備の効率化のため、列車の走行状況に応じて換気設備の運転状態を制御しているものであって、これによりコスト抑制が可能であるものの、地下駅空間において乗客に対して快適空間を提供可能とするように換気設備を制御するものではない。
また、従来のように空調設備の負荷を増大させることで地下駅空間での快適性を提供することも可能であるが、この場合はコストの面で好ましくなく、また細やかな制御も難しかった。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、運転コストを抑えながら、細やかな制御によってより快適な空間を生み出すことが可能な地下駅の空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る地下駅の空調システムは、外気のみを取り込んで地下駅内の空間へ供給するとともに、排気を前記空間から前記外気中に排出する換気手段と、前記換気手段とは別に設けられ、前記外気を取り込んで空調した給気を地下駅内の空間へ供給する空調手段と、前記空間と前記空調手段との間で還気を循環する還気手段と、前記外気及び前記還気の風量を調整する風量調整手段と、前記風量調整手段を制御する制御手段とを備え
、前記制御手段は、前記外気の温度及び湿度の値を所定時間毎に入力データとして取得するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した前記入力データの処理を行なって出力データを作成するデータ処理部と、前記データ処理部からの前記出力データを出力して前記風量調整手段の動きを制御するデータ出力部と、を有し、前記データ処理部は、前記データ取得部で取得した前記入力データを空気線図上にプロットして、前記空気線図上のプロット位置が、所定の温度及び湿度を基準点として、高温高湿となる第一領域と、低温高湿となる第二領域と、高温低湿となる第三領域と、低温低湿となる第四領域とのうちのいずれの位置となるかを判定し、前記プロット位置が前記第一領域及び前記第二領域の場合、前記風量調整手段によって前記換気手段及び前記空調手段から取り込まれる外気の風量を低減するとともに、前記還気手段による還気風量を増大するように前記出力データを変更し、前記プロット位置が前記第三領域及び前記第四領域の場合、前記風量調整手段によって前記換気手段及び前記空調手段から取り込まれる外気の風量を増大するとともに、前記還気手段による還気風量を低減させるように前記出力データを変更し、前記プロット位置が前記第一領域の場合、前記第二領域の場合よりも前記換気手段及び前記空調手段から取り込まれる外気の風量を低減させるとともに、前記第二領域の場合よりも前記還気手段による還気風量を増大させるように前記出力データを作成し、前記プロット位置が前記第四領域の場合、前記第三領域の場合よりも前記換気手段及び前記空調手段から取り込まれる外気の風量を増大させるとともに、前記第三領域の場合よりも前記還気手段による還気風量を低減させるように前記出力データを作成することを特徴とする。
【0009】
このような空調システムによると、制御手段によって制御可能な風量調整手段を設けたことによって、地下駅内の空間へ取り込まれる外気の風量、及び地下駅内の空間から空調手段への還気の風量を調整可能となる。従って、外気が予め設定した目標値より高温高湿である場合には外気の風量を低減し、還気の風量を増大させることによって空調手段と地下駅内の空間との間での空気の循環量を増大させることが可能となる。即ち、空調された空気をさらに空調して地下駅内の空間に供給することができる。また逆に、外気が目標値よりも低温低湿である場合には外気の風量を増大し、還気量を低減させることによって外気による空調効果を積極的に利用できる。
【0011】
このように、外気の温度、湿度からの入力データを基に出力データを作成し、この出力データに応じて風量調整手段の動きを制御することで、より細やかに、地下駅内の空間の空調を行なうことが可能となり、さらなる快適空間を生み出すことができる。
【0013】
空気線図上でのプロット位置によって快適度を規定できるため、この快適度の指標に基づいて出力データを変更することによって、さらに細やかに地下駅内の空間の空調を行なうことが可能となり、さらなる快適空間を生み出すことができる。
【0015】
このように空気線図上でのプロット位置を四つの領域に区分し、それぞれの領域毎で出力データを変更することで風量調整手段を制御するため、確実に地下駅内の空間の空調を行ない、さらなる快適空間を生み出すことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の空調システムによれば、外気量、還気量を調整することで空調手段の負荷を増大させずに運転コストを抑え、細やかな制御が可能となり、地下駅内に快適な空間を生み出すことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る地下駅の空調システム1について説明する。
空調システム1は、地下鉄、鉄道等の列車の地下駅内の空間S(以下、駅空間Sと称する。)において空調を行なう設備である。
図1に示すように、空調システム1は、駅空間Sへの外気OAの供給及び当該駅空間Sからの排気EAの排出を行なう換気装置(換気手段)10と、外気OAを空調した給気SAを駅空間Sへ供給する空調装置(空調手段)20と、駅空間Sと空調装置20との間で還気RAを循環する還気装置(還気手段30)とを備えている。
【0019】
さらに、空調システム1は、空調装置20及び駅空間Sへ供給される外気OAと、還気RAの風量を調整する風量調整装置(風量調整手段)40と、風量調整装置40の動作を制御する制御装置(制御手段)50とを備えている。
【0020】
換気装置10は、地上から外気OAを取り込み、また、地上へ排気EAを排出可能とするファン等より構成された換気装置本体11に、当該換気装置本体11と駅空間Sとを連通して地上から取り込んだ外気OAが流通する外気供給管12が接続されて構成されたものいる。さらにこの換気装置本体11には、換気装置本体11と駅空間Sとを連通して駅空間Sからの排気EAが流通する排出管13が接続されて構成されたものである。
【0021】
空調装置20は、地上から外気OAを取り込んで空調を行なった給気SAを駅空間Sへ供給可能とする空調装置本体21に、当該空調装置本体21と地上とを連通して外気OAが流通する空調用外気供給管22と、当該空調装置本体21と駅空間Sとを連通して給気SAが流通する給気管23が接続されて構成されたものである。
【0022】
そして、空調装置本体21は冷暖房機能を有するものである。一般に駅における空調設備、即ち大規模空調設備には、一定温度に保持した水等の熱媒体を配管内に流通させることによって、駅空間Sの温度調節を行なうものが用いられている。
【0023】
還気装置30は、駅空間Sと空調装置本体21とを連通する還気管32に、この還気管32の中途位置にファン等より構成された還気装置本体31が設けられ、駅空間Sからの還気RAを空調装置本体21と間で循環可能とするものである。
【0024】
風量調整装置40は、換気装置10における外気供給管12の中途位置に設けられた第一ダンパ41と、空調装置20における空調用外気供給管22の中途位置に設けられた第二ダンパ42と、還気装置30における還気管32の中途位置であって、還気装置本体31と駅空間Sとの間に設けられた第三ダンパ43とを有している。
【0025】
図2に示すように第一ダンパ41、第二ダンパ42、第三ダンパ43は、外気供給管12、空調用外気供給管22、還気管32各々の配管に取り付けられた風量調整ダンパである。そしてこれらの風量調整ダンパは各々がモータ40aを有しており、このモータ40aの駆動によって、モータ40aに接続された羽根部40bを、各々の配管の径方向の一方向側から他方向側に向かって作動させ、配管の開度を調整可能とするモータ40a式の風量調整ダンパとなっている。
【0026】
制御装置50は、第一ダンパ41、第二ダンパ42、第三ダンパ43各々におけるモータ40aにおける不図示のコントローラに電気的に接続され、このコントローラに対してデータの出力を行なうものである。
【0027】
さらに、制御装置50は、温湿度計60で得た外気OAの温湿度の値を入力データとして取得するデータ取得部51と、入力データの処理を行ない、出力データを作成するデータ処理部52と、出力データを出力して風量調整装置40のモータ40aを制御するデータ出力部53とを有している。
【0028】
データ取得部51は、換気装置10及び空調装置20によって地上から取り込まれる外気OAの温湿度の値を所定時間毎(例えば一分毎)に取得する。
ここで、温度とは乾球温度(℃)、湿度は絶対湿度(g/g
dryair)を示す。
【0029】
データ処理部52は、データ取得部51での入力データを
図3に示す空気線図上にプロットし、このプロット位置に応じて異なる出力データを作成する。具体的には、空気線図上で所定の温湿度となる点を基準点Pとして、この基準点Pよりも高温高湿となる領域を第一領域A1とし、低温高湿となる領域を第二領域A2とし、高温低湿となる領域を第三領域A3とし、低温低湿となる領域を第四領域A4として予め設定され、入力データがこれらのいずれの領域に位置するかによって出力データを変更する。
【0030】
なお、この基準点Pは様々な点に設定可能であるが、駅空間Sでの乗客が快適に感じる温湿度として、例えば、温度:28℃、相対湿度:60%に設定される。
この基準点Pの値は電力事情等の社会情勢によっても異なるものであり、28℃、60%という値は一例である。
【0031】
データ出力部53は、空気線図上の第一領域A1、第二領域A2、第三領域A3、第四領域A4によって異なる出力データをモータ40aへ出力することで、モータ40aの駆動を制御し、即ち、第一ダンパ41、第二ダンパ42、第三ダンパ43の羽根部40bを作動させ、外気供給管12、空調用外気供給管22、還気管32の開度を調整する。
【0032】
次に、
図4に沿って、データ処理部52における処理の手順について説明する。
まず、外気OAの温湿度を温湿度計60によって計測してデータ取得部51で取得された入力データを空気線図上にプロットする。
【0033】
次に、プロット位置が空気線図上の第一領域A1に位置する場合にはYES判定を行い、第一ダンパ41及び第二ダンパ42における羽根部40bを、外気供給管12、空調用外気供給管22の開度を低減する方向に作動するよう、モータ40aの駆動が可能となる出力データを作成する。
【0034】
さらに、第三ダンパ43における羽根部40bについては、還気管32の開度を増大する方向に作動するよう、モータ40aの駆動が可能となる出力データを作成する。
【0035】
また、プロット位置が空気線図上の第二領域A2に位置する場合においてもYES判定を行い、外気供給管12、空調用外気供給管22の開度を低減するとともに、還気管32の開度を増大する出力データを作成する。ここで、第一領域A1と第二領域A2とでは、全く同じ処理を行なうわけではなく、第一領域A1の場合の方が外気供給管12、空調用外気供給管22の開度をより低減し、還気管32の開度をより増大するような出力データが作成される。
【0036】
一方で、プロット位置が空気線図上の第三領域A3に位置する場合にはNO判定を行い、第一ダンパ41及び第二ダンパ42における羽根部40bを、外気供給管12、空調用外気供給管22の開度を増大する方向に作動するよう、モータ40aの駆動が可能となる出力データを作成する。
【0037】
さらに、第三ダンパ43における羽根部40bについては、還気管32の開度を低減する方向に作動するよう、モータ40aの駆動が可能となる出力データを作成する。
【0038】
また、プロット位置が空気線図上の第四領域A4に位置する場合においてもNO判定を行い、外気供給管12、空調用外気供給管22の開度を増大するとともに、還気管32の開度を低減する出力データを作成する。ここで、第三領域A3と第四領域A4とでは、全く同じ処理を行なうわけではなく、第四領域A4の場合の方が外気供給管12、空調用外気供給管22の開度をより増大し、還気管32の開度をより低減するような出力データが作成される。
【0039】
このようにして、空気線図上の基準点Pにおける温湿度の値を目標値として、出力データが作成されることとなる。
【0040】
このような空調システム1においては、制御装置50におけるデータ処理部52が、空気線図を用いて外気OAの温湿度の判定を行なうことで出力データを作成し、これにより風量調整装置40に対して第一領域A1から第四領域A4の各々に異なった制御を行うことができる。
【0041】
即ち、外気OAが空気線図上で第一領域A1及び第二領域A2に位置する場合には、外気供給管12及び空調用外気供給管22から取り込まれる外気OAの風量を低減できるとともに、還気管32を流通する還気RAの風量を増大させることができる。
【0042】
これによって、空調装置20と駅空間Sとの間での還気RAの循環量を増大させることが可能となり、即ち、空調された駅空間S内の空気をさらに空調して再度、駅空間Sに供給することができる。
【0043】
また逆に、外気OAが空気線図上で第三領域A3及び第四領域A4に位置する場合には、外気供給管12及び空調用外気供給管22から取り込まれる外気OAの風量を増大できるとともに、還気管32を流通する還気RAの風量を低減させることができる。これによって、外気OAによる空調効果を積極的に利用できる。
【0044】
本実施形態の空調システム1によれば、外気OAの風量、還気RAの風量を調整することで空調装置20の負荷を増大させなくとも、駅空間S内が基準点Pにおける温湿度に近づくように空調を行なうことができる。従って、運転コストを抑え、駅空間に快適な空間を生み出すことが可能となる。
さらに、外気OAの状態が空気線図上で第一領域A1から第四領域A4の四つの領域区分のうちでいずれに位置するかによって、外気OAの風量、還気RAの風量を調整可能でるため、細やかに地下駅の駅空間Sの空調を行なうことが可能となり、さらなる快適空間を生み出すことができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、多少の設計変更も可能である。
例えば、風量調整装置40はモータ40a式の風量調整ダンパである第一ダンパ41、第二ダンパ42、第三ダンパ43としていたが、これらに代えてインバータ等を用いて換気装置本体11、空調装置本体21、還気装置本体31の動作を制御し、外気供給管12、空調用外気供給管22を流通する外気OAの風量、還気管32を流通する還気RAの風量を調整してもよい。
【0046】
また上述の実施形態では、空気線図上で基準点Pを境界として四つの領域に区分して外気OA状態を判断していた。しかしこの領域は四つ以上でも四つ以下でもよい。即ち、例えば四つの領域の各々をさらに細分化してもよく、上述の実施形態の場合に限定されるものではない。
【0047】
さらに、上述の実施形態では、第一領域A1と第二領域A2とに対しては外気OAの風量を低減し、還気RAの風量を増大させており、また第三領域A3と第四領域A4とに対しては外気OAの風量を増大し、還気RAの風量を低減させている。即ち、第一領域A1及び第二領域A2に対して制御装置50が同様の制御を行い、また第三領域A3及び第四領域A4に対して制御装置50が同様の制御を行っている。しかし例えば、第二領域A2の制御を第三領域A3及び第四領域A4の制御と同様に行なってもよい。このような場合としては、例えば空調装置20が除湿機能を有している場合等が考えられ、第二領域A2に位置する外気OAは基準点Pよりも低温高湿となるが、空調装置20の除湿機能によって低温高湿の外気OAから低温低湿の外気OAを生成でき、外気OAの風量を低減させなくとも外気OAによる空調効果を期待できるためである。
【0048】
なお、除湿機能については様々な方式を用いたものが知られているが、例えば、圧縮機を用い空気を圧縮する圧縮式や、吸着剤を用いた吸着式等が例示される。