(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062661
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性コーティング用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/00 20060101AFI20170106BHJP
C09D 175/00 20060101ALI20170106BHJP
C08F 220/36 20060101ALN20170106BHJP
C08F 230/08 20060101ALN20170106BHJP
C08G 18/30 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
C09D183/00
C09D175/00
!C08F220/36
!C08F230/08
!C08G18/30 070
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-112735(P2012-112735)
(22)【出願日】2012年5月16日
(65)【公開番号】特開2013-237809(P2013-237809A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年3月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽一
【審査官】
久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−292992(JP,A)
【文献】
特開2003−238894(JP,A)
【文献】
特開2000−256302(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/093236(WO,A1)
【文献】
特開昭62−250017(JP,A)
【文献】
国際公開第03/011967(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0220292(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 4/00−201/10
C08G 18/00− 18/87
C08L 1/00−101/14
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖が(メタ)アクリル系共重合体であり、主鎖末端および/または側鎖に一般式(I):
−SiR2a(OR1)3−a (I)
(式中、R1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基を示し、aは0〜2の整数である。)で表される加水分解性基に結合したケイ素基を2個以上有し、且つ主鎖末端および/または側鎖にイソシアネート基を2個以上有する共重合体(A)成分と、(B)光酸発生剤、(C)脱水剤を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物を含むプラスチック用コーティング剤。
【請求項2】
共重合体(A)成分が、一般式(I)で表される加水分解性基に結合したケイ素基を一分子中に5〜30個含有することを特徴とする請求項1に記載のプラスチック用コーティング剤。
【請求項3】
共重合体(A)成分が、イソシアネート基を一分子中に3〜50個含有することを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック用コーティング剤。
【請求項4】
光酸発生剤(B)成分が、芳香族スルホニウム塩若しくは芳香族ヨードニウム塩であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のプラスチック用コーティング剤。
【請求項5】
光酸発生剤(B)成分のカウンターアニオンが、フルオロフォスフォネート系若しくはフルオロスルフォネート系であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のプラスチック用コーティング剤。
【請求項6】
脱水剤(C)成分が、オルソカルボン酸エステルおよび/または高活性シラン化合物であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のプラスチック用コーティング剤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のプラスチック用コーティング剤を塗装した塗装体。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載のプラスチック用コーティング剤を含有する活性エネルギー線ハードコート用硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか一項に記載のプラスチック用コーティング剤を基材に塗布し、活性エネルギー線を照射する塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成型体やフィルムなど過度に熱をかけることができない材料に対して、付着性がよく、耐溶剤性や耐薬品性に優れ、さらには高い表面硬度と擦傷性を有しながら柔軟性にも優れた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属やガラスの代替としてアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂、PET樹脂等のプラスチック材料が広く使用されている。しかしながら、これらプラスチック材料は表面硬度が低く、耐薬品性が充分ではないという問題がある。そこで、プラスチック材料の表面に種々のコーティング材料を塗布し、性能を向上させるという手法が取られてきた。
【0003】
例えば、熱硬化型のウレタン塗料を塗布し、プラスチック基材の耐熱温度以下で塗膜を形成する方法がある(特許文献1)。しかしながら、表面硬度と耐薬品性を得るためには、架橋密度を上げる必要があり、水酸基価を高く設計することとなる。これにより、ポリカーボネート等のプラスチックに対する付着性が低下する問題がある。
【0004】
また、表面硬度と耐薬品性を上げる別の手法として、アルコキシシリル基を含有する共重合体を塗布し、加熱条件下で有機錫化合物をはじめとする有機金属化合物で硬化膜を得る方法がある(特許文献2)。ところが、プラスチック基材の耐熱温度以下の条件では、充分な硬化膜を得るために長時間の加熱を必要とし、生産性で問題がある。
【0005】
一方、多官能性モノマーやオリゴマーを主な構成成分とし、光ラジカル発生剤を用いてUV硬化する方法も報告されている(特許文献3)。本方法では、硬化に熱乾燥を必要としないため、プラスチック基材を傷めることがなく、また短時間で高硬度の膜が得られる利点がある。しかしながら得られる膜が硬くなりすぎプラスチック基材への付着性が充分でなかったり、追従性が得られなかったり、場合によっては使用するモノマーにより人体への影響が懸念されたりするなどの問題点がある。
【0006】
このため、透明性が高くさらに耐薬品性を有し、表面硬度が高いコーティング剤の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−296539号公報
【特許文献2】特開2003−231223号公報
【特許文献3】特開平5−230397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、耐溶剤性と耐薬品性が良好で、さらにプラスチック基材への付着性に優れた透明硬化塗膜が形成可能であり、また高い表面硬度と擦傷性を有しながら柔軟性にも優れた活性エネルギー線等で短時間硬化が可能な活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、加水分解性シリル基とイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系共重合体、特定の光酸発生剤を含有するコーティング用樹脂組成物が、高圧水銀灯などを用いたUV照射により短時間で透明な硬化塗膜が形成され、得られた塗膜は、優れた耐溶剤性と耐薬品性を示し、且つ耐擦傷性とプラスチック材料への良好な付着性を示すことを見出した。さらには得られた塗膜は、優れた柔軟性も有することも見出した。
【0010】
すなわち本願は、
主鎖が(メタ)アクリル系共重合体であり、主鎖末端および/または側鎖に一般式(I):
−SiR
2a(OR
1)
3-a (I)
(式中、R
1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基を示し、aは0〜2の整数である。)で表される加水分解性基に結合したケイ素基を2個以上有し、且つ主鎖末端および/または側鎖にイソシアネート基を2個以上有する共重合体(A)成分と(B)光酸発生剤、(C)脱水剤を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物(請求項1)。
前記共重合体(A)成分は、一般式(I)で表される加水分解性基に結合したケイ素基を一分子中に5〜50個含有することを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物(請求項2)。
前記共重合体(A)成分は、イソシアネート基を一分子中に3〜50個含有することを特徴とする請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性組成物(請求項3)。
前記光酸発生剤(B)成分が、芳香族スルホニウム塩若しくは芳香族ヨードニウム塩であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の活性エネルギー線硬化性組成物(請求項4)。
前記光酸発生剤(B)成分のカウンターアニオンが、フルオロフォスフォネート系若しくはフルオロスルフォネート系であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の活性エネルギー線硬化性組成物(請求項5)。
前記脱水剤(C)成分が、オルソカルボン酸エステルおよび/または高活性シラン化合物であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の活性エネルギー線硬化性組成物(請求項6)。
請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の活性エネルギー線硬化性組成物を塗装した塗装体(請求項7)。
請求項1〜6の何れか一項に記載の硬化性組成物を含有する活性エネルギー線ハードコート用硬化性組成物(請求項8)。
請求項1〜6の何れか一項に記載の活性エネルギー線硬化性組成物を基材に塗布し、活性エネルギー線を照射する塗膜の製造方法(請求項9)。
本発明に係る活性エネルギー線硬化性組成物は、基材に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化皮膜を形成することができる。
本発明に係る活性エネルギー線硬化性組成物を基材表面に塗布し硬化させることによって、硬化皮膜が基材表面に形成された積層体を作製することができる。
本発明に係る活性エネルギー線硬化性組成物は、一液型硬化性組成物として好適に使用することができる。
本発明による活性エネルギー線硬化性組成物を用いた場合、塗装後、高圧水銀灯やメタルハライドランプ、発光ダイオードなどを用いたUV照射により、短時間で、表面硬度が高く、優れた耐溶剤性と耐薬品性およびプラスチック材料への良好な付着性を示し、さらには、耐擦傷性と柔軟性も良好な塗膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング用樹脂組成物は遮光下で貯蔵安定性が高いため、1液型の塗料形態が可能である。また本発明の組成物は、UV光をはじめとする活性エネルギー線等で短時間硬化が可能で、表面硬度が高く、良好な耐溶剤性と耐薬品性、指紋拭取り性を有し、さらにプラスチック基材への付着性に優れた透明硬化塗膜を形成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。
(A)ビニル系共重合体
本発明に使用可能なビニル系共重合体(A)は、(a)加水分解性シリル基含有ビニル系単量体、(b)イソシアネート基含有ビニル系単量体、(c)その他の重合性ビニル系単量体を重合させるなどにより得られる。
【0013】
(a)加水分解性シリル基含有ビニル系単量体
前記加水分解性シリル基は、共重合体(A)成分の主鎖末端に結合していてもよく、側鎖に結合していてもよく、主鎖末端および側鎖に結合していてもよい。
加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(a)としては、下記一般式(I)で表されるアルコキシシリル基を有するビニル系単量体が有用である。
−SiR
2a(OR
1)
3-a (I)
(式中、R
1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R
2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基および炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基を示し、aは0〜2の整数である。)
前記一般式(I)において、(OR
1)
3-a は本発明の組成物の硬化性が良好になるという点から、aが0または1であることが好ましい。OR
1またはR
2が複数個の場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0014】
加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(a)の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(n−プロポキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−スチリルエチルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシエチルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロルシランなどを挙げることができ、これらの中では、特にアルコキシシリル基含有単量体であるγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランが安定性の点で好ましい。上記(メタ)アクリロキシとは、本明細書中ではメタアクリロキシおよび/またはアクリロキシを表すこととする。
【0015】
これらの加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(a)は単独で用いても良く、2種以上併用しても良い。加水分解性シリル基含有ビニル系単量体は、ビニル系共重合体(A)一分子につき加水分解性基に結合したケイ素基が2〜50個、特に好ましくは5〜30個含有されるように使用することが、充分な耐溶剤性と耐薬品性を与え、また擦傷性が良好になるという観点から好ましい。単量体(a)は、ビニル系共重合体(A)の全ての単量体単位100重量部に対して5〜80重量部用いることが好ましく、10〜60重量部用いることが特に好ましい。
【0016】
(b)イソシアネート基含有ビニル系単量体
前記イソシアネート基は、共重合体(A)成分の主鎖末端に結合していてもよく、側鎖に結合していてもよく、主鎖末端および側鎖に結合していてもよい。
【0017】
イソシアネート基含有ビニル系単量体(b)としては、α,β−エチレン性不飽和モノイソシアネートが有用である。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和モノイソシアネートの具体例としては、(メタ)アクリロキシイソシアナート、β−(メタ)アクリロキシエチルイソシアナート、γ−イソプロペニルーα,α’−ジメチルベンジルイソシアナートなどが挙げられる。
【0019】
また、多官能のイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有ビニル系重合性単量体やN−メチルアミノプロピル(メタ)アクリレートやN−メチル(メタ)アクリルアミドなどの2級アミノ基含有ビニル系重合性単量体とを事前に反応させた後に、ウレタン結合を形成させることでイソシアネート含有重合性単量体を得てもよい。
【0020】
中でも、安定性と硬化性の観点から、β−(メタ)アクリロキシエチルイソシアナートが好ましい。
【0021】
これらのイソシアネート基含有ビニル系単量体(b)成分は、単独で用いてもよいし、また2種以上を併用しても良い。
【0022】
また使用量としては、ビニル系共重合体(A)一分子につきイソシアネート基が2〜100個、特に好ましくは3〜50個含有されるように設計することが、良好な耐擦傷性と柔軟性を得られるという点から好ましい。単量体(b)は、ビニル系共重合体(A)の全ての単量体単位100重量部に対して3〜80重量部用いることが好ましく、5〜60重量部用いることが特に好ましい。
【0023】
(c)その他の重合性ビニル系単量体
その他共重合可能な単量体(c)成分の具体例としては、(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンや2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシスチレンビニルトルエン、東亞合成化学工業(株)製のアロニクス5700、4−ヒドロキシスチレン、日本触媒化学工業(株)製のHE−10、HE−20、HP−1およびHP−2(以上、何れも末端に水酸基を有するアクリル酸エステルオリゴマー)、日本油脂(株)製のブレンマーPPシリーズ、ブレンマーPEシリーズ、ブレンマーPEPシリーズ等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート誘導体、水酸基含有化合物とε―カプロラクトンとの反応により得られるε―カプロラクトン変性ヒドロキシアルキルビニル系共重合体化合物PlaccelFM−1、FM−4(以上ダイセル化学工業(株)製)、TONEM−201(UCC社製)、HEAC−1(ダイセル化学工業(株)製)等のポリカーボネート含有ビニル系化合物などの水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体が挙げられる。
【0024】
さらに(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類とリン酸またはリン酸エステル類との縮合生成物などのリン酸エステル基含有(メタ)アクリル系化合物、ウレタン結合やシロキサン結合を含む(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル系化合物;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸、4
−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル化合物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などの塩;無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の酸無水物、これら酸無水物と炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖を有するアルコールまたはアミンとのジエステルまたはハーフエステルなどの不飽和カルボン酸のエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ジアリルフタレートなどのビニルエステルやアリル化合物;ビニルピリジン、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ基含有ビニル系化合物;イタコン酸ジアミド、クロトン酸アミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド、N−ビニルピロリドンなどのアミド基含有ビニル系化合物;(メタ)アクリロニトリル、2ーヒドロキシエチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、フルオロオレフィンマレイミド、N−ビニルイミダゾール、ビニルスルホン酸などのその他ビニル系化合物などが挙げられる。
【0025】
これらの群から選ばれる1種または2種以上の混合物を使用することができる。単量体(c)は、ビニル系共重合体(A)の全ての単量体単位100重量部に対して1〜90重量部用いることが好ましく、3〜50重量部用いることが特に好ましい。
【0026】
また、上記(a)〜(c)の単量体を重合して得られるビニル系重合体(A)は、ガラス転移温度が−20〜80℃であることが、耐薬品性と耐擦傷性のバランスに優れる点から好ましい。
【0027】
ガラス転移温度が−20℃以下の場合は、塗膜にタックが残るとともに耐溶剤や耐薬品性が悪化する傾向がある。一方、ガラス転移温度が80℃以上の場合には、耐溶剤性や耐薬品性は優れるものの、塗膜が脆くなり耐擦傷性が充分ではない。
【0028】
上記(a)〜(c)の単量体を重合して得られるビニル系重合体を含有する液状組成物に用いる溶媒としては特に限定はなく、公知の芳香族系、脂肪族炭化水素系、エーテル系、ケトン系、エステル系、アルコール系、水等の溶媒を用いることができる。トルエン、キシレン、酢酸ブチル、脂肪族炭化水素含有溶剤を用いるのがビニル系共重合体の溶解性の点から好ましい。
【0029】
ビニル系重合体の製造方法としては、前記単量体より共重合体液状組成物を得る方法であれば特に限定されない。重合方法としては、例えば溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられ、溶液重合法が合成の容易さなどの点で好ましい。
【0030】
前記重合に用いる開始剤としては、公知のものを挙げることができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物系、アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ化合物系、過硫酸カリウムなどの無機過酸化物系、過酸化物と還元剤を組み合わせるレドックス系などの開始剤を挙げることができる。
【0031】
得られるビニル系重合体の重合度は、数平均分子量で2,000ないし25,000とする事が好ましい。重合度は、ラジカル発生剤の種類及び使用量、重合温度、及び連鎖移動剤の使用によって調節することができる。連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が好適に使用できる。数平均分子量が2,000未満の場合は、未重合の単量体が残存し易く、好ましくない。一方、数平均分子量が25,000を超える場合には、得られる硬化性樹脂組成物は、その塗装時に糸引き等の欠陥を生じることが多い。
【0032】
(B)光酸発生剤
本発明における(B)成分である光酸発生剤は、活性エネルギー線に暴露されることにより酸を発生する化合物であり、たとえばトルエンスルホン酸または四フッ化ホウ素などの強酸、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩またはセレニウム塩などのオニウム塩類;鉄−アレン錯体類;シラノール−金属キレート錯体類;ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類などのスルホン酸誘導体;有機ハロゲン化合物類など、特開平5−134412号公報に示される放射線の照射により酸を発生する化合物があげられる。
【0033】
上記の光酸発生剤の中で、芳香族スルホニウム塩若しくは芳香族ヨードニウム塩が共重合体(A)との組成物の安定性が高く入手しやすいという点から好ましい。スルホン酸誘導体としては、たとえば米国特許第4618564号公報に示されるベンソイントシレート、ニトロベンジルトシレート、コハク酸イミドトシルスルホネートなどのスルホン酸エステル類;米国特許第4540598号公報、特開平6−67433号公報に示されるα−(4−トシルオキシイミノ)−4−メトキシベンジルシアニドなどのオキシムスルホネート類;特開平6−348015号公報に示されるトリス(メタンスルホニルオキシ)ベンゼンなど;特開昭64−18143号公報に示される9,10−ジアルコキシアントラセンスルホン酸ニトロベンジルエステルなど;N−(p−ドデシルベンゼンスルホニルオキシ)−1,8−ナフタルイミドなどがあげられる。有機ハロゲン化合物類としては、たとえば2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−[2−(5−メチルフラン−2−イル)ビニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンなどの特開昭55−32070号公報、特開昭48−36281号公報、特開昭63−238339号公報に示されるハロゲン含有トリアジン化合物;特開平2−304059号公報に示される2−ピリジル−トリブロモメチルスルホンなどのハロゲン含有スルホン化合物;トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェートなどのハロゲン化アルキルリン酸エステル;2−クロロ−6−(トリクロロメチル)ピリジンなどのハロゲン含有へテロ環状化合物;1,1−ビス[p−クロロフェニル]−2,2,2−トリクロロエタン、塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル共重合体、塩素化ポリオレフィンなどのハロゲン含有炭化水素化合物などがあげられる。
【0034】
中でも芳香族スルホニウム塩若しくは芳香族ヨードニウム塩のカウンターアニオンがフルオロフォスフォネート系、フルオロアンチモネート系若しくはフルオロスルフォネート系であることが、硬化が速く、プラスチック基材への付着性に優れるという点から好ましい。安全性を考慮すると、フルオロフォスフォネート系若しくはフルオロスルフォネート系であることが特に好ましい。
【0035】
(B)成分の添加量は、生成する酸の発生量、発生速度に応じて調整が必要だが、共重合体(A)の固形分100重量部に対し、0.05〜30重量部が好ましく、さらに好ましくは0.1〜10重量部となる量である。0.05重量部未満では生成する酸が不足し、得られる塗膜の耐溶剤性や耐薬品性が充分ではない傾向にあり、30重量部を越えると塗膜外観の低下や着色などの問題が発生する傾向にある。
【0036】
(C)脱水剤
加水分解性シリル基とイソシアネート基を有するビニル系共重合体(A)成分は、湿分との反応性を有するため、さらに脱水剤を配合することによって、組成物の保存安定性を向上させることができる。
【0037】
脱水剤としては、例えば、オルソ蟻酸メチル、オルソ蟻酸エチルもしくはオルソ蟻酸ブチル等のオルソ蟻酸アルキル;オルソ酢酸メチル、オルソ酢酸エチルもしくはオルソ酢酸ブチル等のオルソ酢酸アルキル;またはオルソほう酸メチル、オルソほう酸エチル、オルソほう酸ブチル等のオルソほう酸アルキル等のオルソカルボン酸エステルや、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等の高活性シラン化合物などが挙げられる。
【0038】
脱水剤の使用量としては、ビニル系重合体(A)の固形分100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下であることが好ましい。
【0039】
また本発明のコーティング剤組成物には、(B)成分の感光性を向上させる目的で、必要に応じて光増感剤を使用することができる。光増感剤としては、特に限定されないが、例えば、アントラセン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、ベンゾイン誘導体等が挙げられ、より詳しくは、9,10−ジアルコキシアントラセン、2−アルキルチオキサントン、2,4−ジアルキルチオキサントン、2−アルキルアントラキノン、2,4−ジアルキルアントラキノン、p,p‘−アミノベンゾフェノン、2−ヒドロキシー4−アルコキシベンゾフェノン、ベンゾインエーテル等が挙げられる。さらに具体的には、アントロン、アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、9−エトキシアントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、フェナントレン、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、2−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイル安息香酸ブチル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−i−ブチルエーテル、9−フルオレノン、アセトフェノン、p,p′−テトラメチルジアミノベンゾフェノン、p,p′−テトラエチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、フェノチアジン、アクリジンオレンジ、ベンゾフラビン、セトフラビン−T、2−ニトロフルオレン、5−ニトロアセナフテン、ベンゾキノン、2−クロロ−4−ニトロアニリン、N−アセチル−p−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン、ピクラミド、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、3−メチル−1,3−ジアザ−1,9−ベンズアンスロン、ジベンザルアセトン、1,2−ナフトキノン、3,3′−カルボニル−ビス(5,7−ジメトキシカルボニルクマリン)、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン等が挙げられる。光増感剤は、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0040】
光増感剤は、使用する(B)成分では吸収できない波長域の光を吸収できるものがより効率的であるため、吸収波長域の重なりが少ないものがよい。
【0041】
光増感剤の添加量は、目的とする硬化速度に応じて適宜調整すればよいが、光酸発生剤(B)成分100重量部に対し、0.1〜10重量部が好ましく、さらに好ましくは0.5〜5重量部となる量である。0.1重量部未満では目的とする増感剤の効果が得られにくく、5重量部を越えると塗膜が着色したり、コストアップに繋がる。
【0042】
本活性エネルギー線硬化性組成物には、得られる塗膜に表面特性を付与したり、硬度を上げる目的で下記一般式(II)で示されるシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物を使用することができる。
(R
3O)
4-bSiR
4b (II)
(式中、R
3は同じかまたは異なり、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基、R
4は同じかまたは異なり、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜10のアラルキル基、bは0〜2の整数。)
シリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物としては、たとえば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトラ−i−プロピルシリケート、テトラ−n−ブチルシリケート、テトラ−i−ブチルシリケート、テトラ−t−ブチルシリケートなどのテトラアルキルシリケート類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類などのシランおよび/またはこれらのシランから選択される1種または2種以上の部分加水分解縮合物があげられる。また、これらは1種単独でもよく、2種以上を併用しても良い。
【0043】
上記のシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物の中で、下記一般式(III)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物であるオルガノシリケートおよび/またはその変性物が、塗膜に硬度を付与し、表面に親水性を発現せしめる効果に優れることから好ましい。
(R
3O)
4Si (III)
(式中、R
3は同じかまたは異なり、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基)。
【0044】
オルガノシリケートとしては、たとえば上記のテトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトラ−i−プロピルシリケート、テトラ−n−ブチルシリケート、テトラ−i−ブチルシリケート、テトラ−t−ブチルシリケートなどテトラアルキルシリケート類、これらから選択される1種または2種以上の部分加水分解縮合物があげられる。
【0045】
オルガノシリケートのR
3は、炭素数が多い、また分岐のあるもので加水分解・縮合の反応性が低下するため、得られる塗膜の硬度や硬化性を考慮すれば、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。
【0046】
また部分加水分解縮合物とすれば、塗膜表面の親水性を向上させることができる。その縮合度は2〜20、好ましくは3〜15である。
【0047】
シリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物の使用量は、(A)成分100重量部に対して0〜100重量部、好ましくは、1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部である。100部を超えると、該コーティング剤組成物からなる塗膜が濁ったり、硬化性が低下したり、得られる塗膜の柔軟性が不足し脆くなることがあるため好ましくない。
【0048】
また活性エネルギー線としては、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線などをあげることができるが、反応速度が速く、エネルギー線発生装置が比較的安価であるという点からは、紫外線が最も好ましい。活性エネルギー線の照射量としては、50mJ〜10,000mJの積算光量が好ましく、100mJ〜2,000mJの積算光量がより好ましい。
【0049】
得られた活性エネルギー線硬化性組成物には、必要に応じて無機顔料や有機顔料、可塑剤、溶剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤などの通常塗料に用いられる添加剤を添加することもできる。
【0050】
得られた活性エネルギー線硬化性組成物は、例えば金属、セラミックス、ガラス、セメント、窯業系基材、プラスチック、フィルム、シート、木材、紙、繊維などからなる建築物、家電用品、産業機器などの塗装に好適に使用できる。特に、活性エネルギー線の照射しやすさから、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂、PET樹脂等のプラスチック、フィルム、シートなどの基材に好適に使用できる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0052】
(使用した材料)
(加水分解性基に結合したケイ素基を少なくとも2つ有する重合体(A))
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロ−トを備えた反応器に表1の(イ)成分を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、表1の(ア)成分の混合物を滴下ロ−トから5時間かけて等速滴下した。次に、(ウ)成分の混合溶液を1時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、110℃で2時間攪拌した後に、室温まで冷却した。最後に表1の(C)成分を加えて攪拌し、重合体(A)を合成した。
【0053】
得られた重合体(A−1〜4)の固形分濃度、GPCで測定した数平均分子量を表1に示した。尚、重合体(A−1〜4)は、重合溶剤で固形分濃度が50%となるように一旦希釈して次の配合へと進めた。
【0054】
さらに重合体A−3にイソシアナート変性するため、デュラネートD101(旭化成ケミカルズ(株)製ポリイソシアネート(NCO%=19.7%))を用い、NCO/OH比が2となるように配合し、窒素気流下で80℃3時間攪拌し、加水分解性基に結合したケイ素基を11.5個、イソシアナート基を4.6個有する重合体を合成した。IRでNCOの吸収が半減したことを確認したのち、重合溶剤で固形分濃度が50%となるように希釈し、重合体(A−5)とした。
【0055】
【表1】
【0056】
(コーティング用樹脂組成物の作成方法)
表2に示すように(A)成分に対して、(B)成分およびその他成分を加え、攪拌機を用いて1000rpmで3分間混合し、コーティング用樹脂組成物を得た。
【0057】
【表2】
【0058】
なお、表2中の化合物の記号は次のとおりである。
CPI−100P:サンアプロ(株)製トリアリールスルホニウム・PF
6塩のプロピレンカーボネート溶液
CPI−101A:サンアプロ(株)製トリアリールスルホニウム・SbF
6塩のプロピレンカーボネート溶液
MPI−105:みどり化学(株)製ジアリールヨードニウム・CF
3SO
3塩
MS51:三菱化学(株)製テトラメトキシシランの縮合物(Si0
2含有量:52重量%)
MS56:三菱化学(株)製テトラメトキシシランの縮合物(Si0
2含有量:56重量%)
U−ES:日東化成(株)製ジオクチル錫塩とシリケートの反応物。
【0059】
(物性評価)
ポリカーボネート板、PMMA板およびABS板に、表2で作成したコーティング用樹脂組成物をバーコーターを用いて、乾燥膜厚が約15μmとなるように塗布し、80℃で3分間溶剤除去のため乾燥した。次いで、空気中で無電極ランプバルブ(Light Hammmer:フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製)を用い、240mWで、波長310〜390nmの積算光量が500mJ/cm
2となるように活性エネルギー線を照射することで硬化させ、試験片とした。
【0060】
一方比較例3では、金属触媒を用い、80℃で30分熱乾燥し、試験片とした。
【0061】
またポリエチレンシートに同様の方法にて塗布し、硬化性(ゲル分率)測定用の試験片とした。
【0062】
・硬化性(ゲル分率)
照射1日後、硬化性測定用試験片から遊離のフィルムを約50×50mmの大きさに切断し、予め精秤した200メッシュのステンレス製の金網(W0)に包み精秤した(W1)。ついで、アセトン中に24時間浸漬して抽出を行ない、乾燥・精秤し(W2)、式:
ゲル分率(%)=
{((W2)−(W0))/((W1)−(W0))}×100
に基づいてゲル分率(%)を求めた。
【0063】
・付着性
照射1日後にJIS K5600に準拠して、1mm間隔の碁盤目密着性試験を行った(一次密着)。さらに、23℃の水に1週間浸漬し、取り出し直後の密着性も評価した(二次密着)。
【0064】
・硬度
PMMA板塗装試験片を照射14日後にJIS K5600に準拠して、鉛筆硬度を評価した。
【0065】
・耐擦傷性
ABS板塗装試験片を照射14日後に消しゴム摩耗試験機((株)光本製作所製)を用い、スチールウール#0000に250g/cm
2の荷重をかけて30回往復させ、塗膜に残った傷の本数を観察した。
○:全くないか数本以内の傷
△:数本から10本以内の浅い傷
×:傷が10本以上若しくは深い傷
【0066】
・柔軟性
ABS板(長さ150mm)塗装試験片を照射14日後に、75mm地点を中心に折り
曲げ、塗膜にクラックが発生したときの水平面からの高さを計測した。
○:5cm以上
△:1〜5cmまで
×:1cmまで
【0067】
・耐溶剤性、耐薬品性
ポリカーボネート板塗装試験片を用い、照射7日後、表2に示す溶剤、薬品をスポットし、耐溶剤性の場合は、常温で溶剤が揮発するまで、耐薬品性の場合は、80℃で1時間静置した後、脱脂綿で拭取り塗膜の状態を観察した。
○:変化なし
△:スポット跡が残る
×:塗膜が膨潤(溶解)している
【0068】
コパトーン、ニベアとしては、下記のものを使用した。
コパトーン:コパトーンSPF50
ニベア :ニベアSPF47。
【0069】
実施例1〜7では、照射後すぐに高い硬化性を示し、耐溶剤性や耐薬品性も非常に優れた結果が得られた。7日養生後には充分な耐溶剤性と耐薬品性が認められた。付着性についても、ポリカーボネートやABSなどのプラスチック基材に対して、良好な付着性が認められた。また養生14日後の試験では、高い鉛筆硬度と耐擦傷性(スチールウール)を有することが確認され、さらに塗膜の柔軟性に優れていることが分かった。
【0070】
一方、重合体中にイソシアナート基を有さない比較例1および2では、鉛筆硬度は実施例に近いレベルであるものの、柔軟性に乏しく、軽い屈曲でクラックが発生した。また重合体(A−2)を熱硬化で硬化させた比較例3では、柔軟性には優れるものの、付着性、硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐薬品性で満足できるレベルではなかった。
【0071】
以上のように、本活性エネルギー線硬化性組成物から得られる塗膜は、過度に熱をかけることなく短時間で硬化が可能で、プラスチック基材に対する付着性、耐溶剤性と耐薬品性に優れた塗膜を与えることが確認された。また硬度と耐擦傷性に優れ、さらに柔軟性も付与されており、作業性や取扱い性にも適したコーティング剤であることが確認された。