(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0026】
本実施形態に係る測量装置は、例えば、直交する2つの軸を中心として望遠鏡が回転自在とされているトータルステーション(以下、TSという。)である。ここで、TSとして、手動で操作するマニュアル型TS(すなわちMTS)やモータ駆動によって自動的に動作するモータ駆動型TS(すなわちSTS)等が挙げられる。さらに、モータ駆動型TSには、望遠鏡の視野に入った測量目標体であるターゲット(例えば反射プリズム)を自動的に視準する機能を持つ自動視準TS、又は移動するターゲットを自動的に追尾する機能を有した自動追尾TS等がある。例えば、自動追尾TSでは、一人の作業者よる測量を実現できる。
本実施形態に係る測量装置は、以上のようなTSの何れかのTSとして構成されている。
(構成)
図1は、本実施形態に係る測量装置1の外観の構成例を示す図である。
【0027】
図1に示すように、測量装置1は、図示しない三脚上に整準装置2を介して設置されている。整準装置2は、三脚上に取り付けられる基盤(又は底板)3と、測量装置1が取り付けられる取り付け部4と、基盤3と取り付け部4との間に配置されて基盤3に対する取り付け部4の傾斜度合いを調整する整準ねじ5とを有している。例えば、作業者は、測量作業の開始に先立って、例えば取り付け部4に設けられた傾斜検出部をなす気泡管の気泡が所定の位置にくるように整準装置2の整準ねじ5を調整する。
【0028】
また、測量装置1は、第1の軸O
1を中心として取り付け部4に対し回転自在な本体6を有している。測量装置1は、整準装置2によって姿勢を調整され、第1の軸O
1が鉛直になるように設置される。
【0029】
また、測量装置1は、第1の軸O
1に垂直な第2の軸O
2を中心として本体6に対し回転自在な望遠鏡7を有している。この望遠鏡7は、本体6とともに第1の軸O
1を中心として回転することができるため、直交する第1の軸O
1及び第2の軸O
2を中心として自在に回動することができる。
図2は、測量装置1の内部構成の一例を示すブロック図である。
【0030】
図2に示すように、測量装置1は、測距部11、測角部20、水平回転駆動部12、上下回転駆動部13、表示部14、情報入力部15、駆動指令部16、入出力I/F17、記憶部18、及び演算部30を有している。
測距部11は、望遠鏡7を構成の一部として含み、ターゲット等の測量対象物までの距離を計測する。
【0031】
ここで、一般的に、測距方式としては、反射プリズム等の反射体をターゲットして利用したプリズム方式や反射プリズムを利用しないノンプリズム方式等がある。プリズム方式では、例えば、反射プリズムにレーザー光を照射し、その反射光を受光するまでの時間差から距離を計測する。ここで、反射プリズム等のターゲットを備えるものとして、例えば、ミラー付ポールがある。また、ノンプリズム方式は、反射プリズムを利用せず、反射プリズムを設置する必要がないために、プリズム方式に比較して測量の自由度が高くなる。すなわち例えば、ノンプリズム方式では、現場に足を踏み入れることなく離れた場所から測量することが可能になる。例えば、本実施形態では、これら測距方式のうちの何れかを採用して測距部11が構成されている。
【0032】
測角部20は、水平角検出部21及び高度角検出部22を有している。水平角検出部21は、基台4に対して水平方向に回転する本体6の回転角(すなわち水平角)を検出する。また、高度角検出部22は、本体6に対して上下方向(すなわち垂直方向)に回転する望遠鏡7の回転角(すなわち高度角)を検出する。例えば、水平角検出部21は水平角エンコーダであり、高度角検出部22は高度角エンコーダである。
水平回転駆動部12は、本体6を水平方向に回転させる駆動を行う。また、上下回転駆動部13は、望遠鏡7を上下方向に回転させる駆動を行う。
【0033】
情報入力部15は、使用者によって操作されて情報が入力される部分である。例えば、情報入力部15は、テンキー等の押しボタンスイッチ等によって構成されている。情報入力部15は、入力された情報を演算部30に出力する。
【0034】
駆動指令部16には、水平回転及び上下回転の各回転の回転方向を指令するための駆動指令スイッチが設けられている。そして、駆動指令部16は、押下された駆動スイッチに対応した指令信号を演算部30に出力する。
【0035】
入出力I/F17は、外部機器との間でデータ通信を行うためのインターフェースである。ここで、外部機器として、パーソナルコンピュータやデータコレクタ(電子野帳)等が挙げられる。
【0036】
記憶部18は、ROMやRAM、HDD(Hard Disk Drive)等によって構成されている。この記憶部18には、各種プログラムや固定データ、演算部30が処理によって取得したデータ等が記憶される。本実施形態では、記憶部18には、例えば、CAD等で作成された設計座標データが記憶されている。
【0037】
演算部30は、測量装置1について各種の処理を行う。例えば、演算部30は、マイクロコンピュータ及びその周辺回路を備えている。具体的には、
図2に示すように、演算部30は、測量制御部31、駆動制御部32、及び墨出し位置設定処理部40を有している。
【0038】
測量制御部31は、測距部11及び測角部20を制御する。また、測量制御部31は、測距部11及び測角部20の検出値を基に測量値を算出する。そして、測量制御部31は、算出した測量値を、液晶ディスプレイ等である表示部14に表示する。ここで、測量制御部31は、測量値である距離、高度角及び水平角に基づいて、視準した点(すなわちターゲット)の座標値を算出することができる。例えば、座標値は、視準した面上に設定されたローカル座標系(相対座標系)の座標値として算出される。
【0039】
駆動制御部32には、駆動指令部16からの指令信号が入力される。そして、駆動制御部32は、その指令信号を基に、水平回転駆動部12及び上下回転駆動部13による本体6や望遠鏡7を回転させる駆動を制御する。
墨出し位置設定処理部40は、墨出し位置を設定(測設点又は杭打ち点の設置ともいう。)する処理を行う。
図3は、墨出し位置設定処理部40の構成例を示すブロック図である。
【0040】
図3に示すように、墨出し位置設定処理部40は、基準点座標値取得部41、基準方向設定部42、基準線設定用データ取得部43、基準線設定部44、基準線座標系設定部45、墨出し位置座標値取得部46、ターゲット座標値取得部47、誘導値算出部48、表示処理部49、及び墨出し完了判定部50を有している。
【0041】
また、
図4は、
図3に示す墨出し位置設定処理部40の構成によって実現される処理内容の一例を示すフローチャートである。さらに、
図5は、測量装置1によって墨出し作業を行う建物フロアの一例を示す図である。以下に、この
図4の処理手順に沿って
図3の各部の処理内容を説明する。
【0042】
図4に示すように、先ず、ステップS1において、基準点座標値取得部41は、器械点を設置する基準点の座標値を取得する。具体的には、基準点座標値取得部41は、測量装置1によって視準して取得している複数の既知点(すなわち、座標値がわかっている点)の座標値を基に基準点の座標値を取得する。複数の既知点の座標値を基に基準点の座標値を取得する方法は様々あるが、例えば、本実施形態では、後方交会法を基に基準点の座標値を取得する。この場合、基準点座標値取得部41は、
図5に示す建物フロアにおける複数の既知点(柱等)の座標値を基に後方交会法に基づいて基準点(器械点)の座標値を取得する。
次に、ステップS2では、基準方向設定部42は、視準してさらに取得した既知点を水平角の基準となる後視点とし、基準方向を設定する。
【0043】
次に、ステップS3では、基準線設定用データ取得部43は、基準線設定用データを取得する。具体的には、基準線設定用データ取得部43は、次のような手順によって基準線設定用データを取得する。
【0044】
図6は、ステップS3における基準線設定用データを取得するための手順の具体例を示すフローチャートである。なお、
図6中で破線で囲む内容(ステップS3−1、ステップS3−2、ステップS3−5の内容)は、作業者側の作業内容であり、
図6中で実線で囲む内容(ステップS3−3、ステップS3−4、ステップS3−6、ステップS3−7)は、墨出し位置設定処理部40の該当する構成部による処理内容である。
【0045】
先ず、測量装置1を操作する作業者が、基準線(基準軸ともいう。)を設定する構造物の壁面を特定する(ステップS3−1)。具体的には、作業者は、測量装置1の周囲の構造物の壁面又はこれから墨出し位置を設定する周囲に存在する構造物の壁面を特定する。
【0046】
その後、測量装置1を操作する作業者は、測量装置1によって視準し壁面上の任意の1点を始点として指示する(ステップS3−2)。これによって、測量制御部31は、その指示された始点についての計測を行い座標値を算出する(ステップS3−3)。そして、基準線設定用データ取得部43は、算出された始点の座標値を基準線設定用の始点データとして取得する(ステップS3−4)。
【0047】
例えば、基準線設定用データ取得部43は、基準線設定用データを取得するための取得操作が作業者によって測量装置1(例えば情報入力部15)に対してなされたタイミングで、視準している始点(すなわち、測量制御部31で算出されている始点の座標値)を基準線設定用の始点データとして取得する。
そして、基準線設定用データ取得部43は、取得した始点データを記憶部18に記憶(例えば、一時的に記憶する)する。
【0048】
さらに、同様な手順によって、基準線設定用データ取得部43は、基準線設定用の終点データも取得する。すなわち、測量装置1を操作する作業者は、測量装置1によって視準し同じ壁面上において前記始点に対し横方向に位置する他の任意の1点を終点として指示する(ステップS3−5)。これによって、測量制御部31は、その指示された終点についての計測を行い座標値を算出する(ステップS3−6)。そして、基準線設定用データ取得部43は、算出された終点の座標値を基準線設定用の終点データとして取得する(ステップS3−7)。
【0049】
例えば、基準線設定用データ取得部43は、基準線設定用データを取得するための取得操作が作業者によって測量装置1(例えば情報入力部15)に対してなされたタイミングで、視準している終点の座標値(すなわち、測量制御部31で算出されている終点の座標値)を基準線設定用の終点データとして取得する。
そして、基準線設定用データ取得部43は、取得した終点データを記憶部18に記憶(例えば、一時的に記憶する)する。
【0050】
ここで、以上の手順を
図5を用いて説明すると、例えば、作業者が特定した建物フロアの平面形状の壁面200に対し測量装置1によって視準し壁面200の表面200a上の任意点を始点Sとして指示することで、基準線設定用データ取得部43側では、基準線設定用の始点データを取得する(前記ステップS3−1乃至前記ステップS3−4)。さらに、作業者が測量装置1によって視準し建物フロアの壁面200の表面200a上の他の任意点を終点Eとして指示することで、基準線設定用データ取得部43側は、基準線設定用の終点データを取得する(前記ステップS3−5乃至前記ステップS3−7)。
【0051】
また、前述の始点や終点の計測については、反射プリズム等のターゲットを用いプリズム方式によって行っても良いが、そのようなターゲットを用いることなくノンプリズム方式によって行うことが好ましい。これは、ノンプリズム方式では、壁面を直接計測し始点や終点を計測することができるからである。
【0052】
次に、ステップS4では、基準線設定部44は、始点データ(すなわち、始点の座標値)と終点データ(すなわち、終点の座標値)とを記憶部18から読み込む。そして、基準線設定部44は、読み込んだ始点データと終点データとを結ぶ線を基準線として設定する。
【0053】
図5を用いて説明すると、基準線設定部44は、建物フロアの壁面上の始点Sと終点Eとを結ぶ直線を基準線(以下、構造物上基準線という。)として設定する。それから、基準線設定部44は、設定した構造物上基準線の情報(例えば座標値)を記憶部18に記憶(例えば、一時的に記憶する)する。
【0054】
次に、ステップS5では、基準線座標系設定部45は、構造物上基準線の情報を記憶部18から読み込む。そして、基準線座標系設定部45は、読み込んだ構造物上基準線を含む平面(例えば水平面)内に、構造物上基準線に平行な座標軸(以下、平行座標軸という。)とこの平行座標軸に垂直な座標軸(すなわち、構造物上基準線に垂直な座標軸、以下、垂直座標軸という。)とからなる、構造物上基準線を基準とした2次元の座標系(以下、基準線座標系という。)を設定する。それから、基準線座標系設定部45は、設定した基準線座標系の情報を記憶部18に記憶(例えば、一時的に記憶する)する。
【0055】
次に、ステップS6では、墨出し位置座標値取得部46は、墨出し位置の座標値を取得する。例えば、本実施形態では、墨出し位置座標値取得部46は、記憶部18に記憶されている構造物のデータ、例えばCADデータから墨出し位置の座標値を取得する。例えば、墨出し位置座標値取得部46は、CADデータ上にある
図5に示す×印の位置について墨出し位置の座標値として取得する。
【0056】
ここで、墨出し位置座標値取得部46は、墨出し位置の座標値を、基準線座標系ではなく測量装置1が有する既存の座標系における座標値として取得しても良く、墨出し位置の座標値を基準線座標系における座標値として取得しても良い。
【0057】
次に、ステップS7では、ターゲット座標値取得部47は、ターゲットに視準して測量制御部31で算出された座標値をターゲットの座標値として取得する。そして、ターゲット座標値取得部47は、取得したターゲットの座標値を記憶部18に記憶(例えば、一時的に記憶する)する。
【0058】
ここで、ターゲット座標値取得部47は、ターゲットの座標値を基準線座標系における座標値として取得しても良く、ターゲットの座標値を、基準線座標系ではなく測量装置1が有する既存の座標系における座標値として取得しても良い。
【0059】
次に、ステップS8では、誘導値算出部48は、前記ステップS6及び前記ステップS7で取得した墨出し位置の座標値及びターゲットの座標値を取得する。さらに、誘導値算出部48は、基準線座標系の情報を記憶部18から読み込む。そして、誘導値算出部48は、墨出し位置の座標値及びターゲットの座標値を基に、ターゲットから墨出し位置に向かう方向(すなわち移動方向)、及びターゲットと墨出し位置との間の距離(すなわち移動距離)を、基準線座標系の誘導値として取得する。それから、誘導値算出部48は、取得した誘導値(すなわち、移動方向及び移動距離)を記憶部18に記憶(例えば、一時的に記憶)する。
【0060】
以下に、
図7を参照しつつ、誘導値算出部48による誘導値の算出手順を具体的に説明する。
図7は、誘導値算出部48が算出する誘導値となる移動方向及び移動距離を示す図である。
【0061】
先ず、
図7に示すように、誘導値算出部48は、ターゲットRと現在の墨出し位置Pとの位置関係を示す平行座標軸の値として、ターゲットRから現在の墨出し位置Pに向かう方向と、ターゲットRと現在の墨出し位置Pとの間の距離とをそれぞれ取得する。ここで、ターゲットRと現在の墨出し位置Pとの間の距離は、構造物上基準線を設定する基準となった壁面に対して平行な方向の距離となる。また、ここでいうターゲットRから現在の墨出し位置Pに向かう方向として、誘導値算出部48は、例えば、構造物上基準線の始点から終点に向かう方向を「後」方向とし、その反対方向を「前」方向として取得する。
【0062】
なお、ここで取得する方向は、測量装置1を操作する作業者が誘導を行いやすくするためや、ターゲットを持つ作業者が移動方向を理解しやすくするための便宜的な情報となることから、このように始点から終点に向かう方向を「後」方向とし、その反対方向を「前」方向とすることに限定されないことは言うまでもない。
【0063】
次に、
図7に示すように、誘導値算出部48は、ターゲットRと現在の墨出し位置Pとの位置関係を示す垂直座標軸の値として、ターゲットRから現在の墨出し位置Pに向かう方向と、ターゲットRと現在の墨出し位置Pとの間の距離とをそれぞれ取得する。ここで、ターゲットRと現在の墨出し位置Pとの間の距離は、構造物上基準線を設定する基準となった壁面に対して接離する方向の距離となる。また、ここでいうターゲットRから現在の墨出し位置Pに向かう方向として、誘導値算出部48は、例えば、構造物上基準線に向かう方向、すなわち壁面に向かう方向を「左」方向とし、その反対方向、すなわち壁面から離れる方向を「右」方向として取得する。
【0064】
なお、ここで取得する方向は、測量装置1を操作する作業者が誘導を行いやすくするためや、ターゲットを持つ作業者が移動方向を理解しやすくするための便宜的な情報となるから、このように壁面に向かう方向を「左」方向とし、その反対方向を「右」方向とすることに限定されないことは言うまでもない。
【0065】
図4に戻り、次に、ステップS9では、表示処理部49は、誘導値を記憶部18から読み込み、読み込んだ誘導値を基に、移動方向及び移動距離を表示部14に表示する。
図8は、表示部14への移動方向及び移動距離の表示態様の一例を示す図である。
【0066】
図8に示すように、表示処理部49は、移動方向表示14aとして「前」及び「後」を表示部14に表示するとともに、その移動方向表示14aに対応させて移動距離表示14bを表示部14に表示する。また、表示処理部49は、移動方向表示14cとして「左」及び「右」を表示部14に表示するとともに、その移動方向表示14cに対応させて移動距離表示14dを表示部14に表示する。例えば、移動方向が「後」及び「左」であれば、表示処理部49は、移動方向表示14a,14cの「後」及び「左」を強調表示(例えば反転表示)する。
【0067】
図4に戻り、次に、ステップS10では、墨出し完了判定部50は、今回の墨出しが完了したか否かを判定する。例えば、墨出し完了判定部50は、墨出し位置を決定した操作が作業者によって情報入力部15に対してなされたか否かを判定する。墨出し完了判定部50は、今回の墨出しが完了したと判定すると、ステップS11に進む。また、墨出し完了判定部50は、今回の墨出しが完了していないと判定すると、前記ステップS7から再び処理を開始する。
【0068】
ステップS11では、墨出し完了判定部50は、次の墨出し位置があるか否かを判定する。すなわち、墨出し完了判定部50は、今回の墨出し作業にかかる全ての墨出しを完了したか否かを判定する。例えば、本実施形態では、墨出し完了判定部50は、今回の墨出し作業にかかる全ての墨出し位置の情報をCADデータから取得し、その情報を基に全ての墨出しが完了したか否かを判定する。墨出し完了判定部50は、次の墨出し位置があると判定すると、前記ステップS6から再び処理を開始する。また、墨出し完了判定部50は、次の墨出し位置がないと判定すると、当該
図4に示す処理を終了する。
(墨出し作業の手順)
【0069】
次に、測量装置1を用いた墨出し作業の手順を
図5及び
図9を参照しつつ説明する。ここで、
図9は、墨出し作業の手順の一例を示すフローチャートである。また、ここでは、測量装置1を操作する作業者とターゲットを持つ作業者とで墨出し作業を行う場合について説明する。
【0070】
先ず、作業者は、基準点上に測量装置1(器械点)を設置し、測量装置1を水平に調整する(
図9のステップS31、
図5に示す(1)のステップ)。このとき、基準点上に測量装置1(器械点)を設置することとして、作業者は、既に水平に設置した測量装置1によって周囲の既知点を計測して基準点(器械点)の座標値を取得する(前記ステップS1)。
次に、作業者は、測量装置1の基準方向を決定し座標をセットする(
図9のステップS32、
図5に示す(2)のステップ)。
このとき、測量装置1側では、視準した後視点を基に基準方向を決定する(前記ステップS2)。
【0071】
次に、作業者は、墨出し位置を設定するための誘導を開始する前に、構造物上基準線を決定する(
図9のステップS33、
図5に示す(3)のステップ)。そのために、作業者は、構造物上基準線を設定する構造物の壁面を特定し、測量装置1によって視準しその壁面の任意点を始点として指示する。さらに、作業者は、測量装置1によって視準しその壁面の他の任意点を終点として指示する。
【0072】
これによって、測量装置1側では、その指示された始点及び終点を計測して座標値を算出し、算出した各座標値を基準線設定用の始点データ及び終点データとして取得する(前記ステップS3)。さらに、測量装置1側では、取得した始点データ及び終点データを結ぶ直線を構造物上基準線として設定する(前記ステップS4)。そして、測量装置1側では、設定した構造物上基準線を基に、互いに直交する平行座標軸及び垂直座標軸からなる2次元の基準線座標系を設定する(前記ステップS5)。
【0073】
次に、作業者は、測量装置1上で墨出し位置を取得する(
図9のステップS34)。例えば、作業者は、測量装置1の情報入力部15を操作してCADデータ等から墨出し位置の座標値を読み出す(前記ステップS6)。
【0074】
次に、ターゲットを墨出し位置上に移動させるための誘導値となる移動方向及び移動距離が、測量装置1の表示部14に表示される(
図9のステップS35、前記ステップS7乃至前記ステップS9)。すなわち、測量装置1側では、ターゲットを視準しその座標値を取得すると、そのターゲットの座標値及び先に取得している墨出し位置の座標値を基に、ターゲットを墨出し位置上に移動させるための移動方向及び移動距離を算出し、算出した移動方向及び移動距離を表示部14に表示する。
図10は、ターゲットRと今回の墨出し位置Pとの誤差が
図5に示すようになっているときの表示部14の表示態様の一例を示す図である。
【0075】
図10に示すように、測量装置1は、後方向にターゲットを移動させるために、移動方向表示14aの「後」を強調表示(例えば、反転表示)するとともに、移動距離表示14bとして、例えば「2.000m」を表示する。また、測量装置1は、左方向にターゲットを移動させるために、移動方向表示14cの「左」を強調表示(例えば、反転表示)するとともに、移動距離表示14dとして、例えば「1.000m」を表示する。
【0076】
次に、作業者は、測量装置1の表示部14に表示されている移動方向及び移動距離を基にターゲットを移動させる(
図9のステップS36、
図5に示す(4)のステップ)。すなわち、測量装置1を操作する作業者は、移動方向及び移動距離になるよう、つまり、ターゲットRの座標値と墨出し位置Pの座標値との差分が0になるように、ターゲットを持つ作業者に指示を出し墨出し位置Pに誘導する。例えば、
図10に示すような表示の場合、測量装置1を操作する作業者は、指示の出し方として、「壁に沿って後ろ方向に2m移動し、壁に向かうように左に1m移動する」といったようにターゲットを持つ作業者に指示する。
【0077】
次に、作業者は、今回の墨出しが完了したか否かを判断する(
図9のステップS37)。作業者は、今回の墨出しが完了していなければ、測量装置1の表示部14に表示される移動方向及び移動距離を基に行うターゲットの移動を継続する(前記ステップS35、前記ステップS36)。すなわち、測量装置1を操作する作業者は、ターゲットを持つ作業者に対する誘導を継続する。
【0078】
また、今回の墨出しが完了している場合、作業者は、次の墨出し位置が有るか否かを判断する(
図9のステップS38)。例えば、作業者は、測量装置1の情報入力部15を操作してCADデータ等から、他に墨出し位置が有るか否かを確認する。そして、作業者は、次の墨出し位置があれば、当該次の墨出し位置の座標値を取得して当該次の墨出し位置についての墨出し作業を行う(前記ステップS34乃至前記ステップS37)。また、作業者は、次の墨出し位置がなければ、墨出し作業を終了する。
【0079】
以上のように、本実施形態では、墨出し作業環境の構造物の壁面に構造物上基準線を設定し、その構造物上基準線に基づく基準線座標系でターゲットから墨出し位置までの残差距離を測量装置1の表示部14に前後及び左右で表示させている。そして、測量装置1を操作する作業者は、そのように測量装置1の表示部14に表示されている情報を基にターゲットを持つ作業者を墨出し位置に誘導している。これによって、ターゲットを持つ作業者は、墨出し作業環境にある目視できる構造物の壁面を基準に、測量装置1を操作する作業者による誘導内容に従ってターゲットを墨出し位置に移動させることができる。これによって、本実施形態では、墨出し作業の際に墨出し位置に向かう正しい移動方向からずれて移動してしまうのを防止できる。
【0080】
特に、建設現場でのハンガー位置等の墨出し作業では、今回の墨出し位置と次の墨出し位置との間隔が1m未満となることが多く、さらには、
図5に示すように、墨出し作業環境の壁面にそれら墨出し位置が平行に並ぶように設計されていることが多い。このような状況であるため、ターゲットを持つ作業者は、目測でも、今回の墨出し位置から次の墨出し位置に高い精度でそのターゲットを移動させることができる。このように、本実施形態では、作業者の目測が非常に有効であり、墨出し作業の効率を大幅に向上させることができる。
【0081】
また、建物の床面には、継ぎ目や溝等が存在する場合が多い。そして、その継ぎ目等は、壁面に対して平行に延びている場合が多い。このような場合、作業者は、そのような継ぎ目等をも基準にしてターゲットを墨出し位置に移動させることができる。これによって、本実施形態では、墨出し作業の効率を大幅に向上させることができる。
【0082】
なお、従来のように、測量装置1を基準として誘導した場合、墨出し位置の設定は、1分間に1点程度が限界である。また、一般的なGPSを用いた墨出し位置の設定では、方位を基準とする残差数値に基づいて誘導するために、これも、1分間に1点程度が限界となる。よって、従来の墨出し位置の設定では、墨出し線とテープとを利用する従来の方法と比較して生産性が何ら変わらない。
【0083】
これに対して、本実施形態では、前述のように墨出し作業環境の壁面等を利用することで、墨出し作業効率が向上し、従来の墨出し作業よりも生産性を高めることができる。
【0084】
また、前述の実施形態の説明では、測距部11及び測角部20は、例えば、計測部を構成する。また、基準線設定用データ取得部43(又は測量制御部31及び基準線設定用データ取得部43)は、例えば、指示値取得部を実現する。また、測量制御部31及びターゲット座標値取得部47は、例えば、測量目標体座標値取得部を実現する。また、誘導値算出部48は、例えば、誘導値取得部を実現する。また、情報入力部15は、例えば、入力部を構成する。
(本実施形態の変形例)
【0085】
本実施形態では、構造物上基準線の始点及び終点の座標値については、測量装置1で実測することなく、測量装置1が記憶部18に記憶しているデータ、例えばCAD等によって作成された設計座標データを利用して取得するができる。この場合、作業者は、測量装置1上で情報入力部15を操作して設計座標データの構造物の壁面に対して始点及び終点を指示する。これによって、基準線設定用データ取得部43は、その指示された始点及び終点についてそれぞれ座標値を取得する。
また、本実施形態では、指示された線分を基準線に設定することもできる。この場合、例えば、作業者は、測量装置1上で情報入力部15を操作してCAD等によって作成された設計座標データにおける構造物上の線分を指示する。これによって、基準線設定用データ取得部43は、その指示された線分を取得し、基準線設定部44は、その線分を基準線として設定する。
【0086】
また、本実施形態では、基準線を設定するための壁面は、比較的大きな構造物の壁面であることが好ましい。さらに、壁面は、これから設定する全ての墨出し位置に対向し得る程度に広い壁面であることがより好ましい。これにより、本実施形態では、作業者は、周囲に実際に存在する構造物に対し平行に移動したり、当該構造物に対し前進又は後退したりして、ターゲットを墨出し位置に移動させることができる。
【0087】
また、本実施形態では、測量装置1は、基準線座標系を用いて誘導値を算出するモード(以下、基準線対応算出モードという。)と、測量装置1(すなわち器械点)とターゲットとの位置関係に基づく座標系を用いて誘導値を算出するモード(以下、器械点対応算出モードという。)とを有し、これら各モードを切り換えることもできる。ここで、測量装置1(器械点)とターゲットとの位置関係に基づく座標系とは、器械点とターゲットとを結ぶ直線を含む座標軸と当該座標軸に対し垂直方向に向く座標軸とからなる座標系(以下、器械点基準座標系という。)である。
【0088】
このような構成にした場合、測量装置1は、選択部となる情報入力部15が作業者によって操作されて基準線対応算出モードが選択されると、基準線座標系を用いて誘導値を算出する。また、測量装置1は、情報入力部15が作業者によって操作されて器械点対応算出モードが選択されると、器械点基準座標系を用いて誘導値を算出する。
【0089】
また、本実施形態では、説明を簡単にするために
図5のような簡易な構造の建物フロアを一例に挙げて説明した。しかし、本実施形態は、これに限定されるものではない。
【0090】
例えば、本実施形態は、くの字又はL字等のように折れ曲がった床面を有する建物フロアにも適用することができる。この場合、本実施形態では、そのような床面形状に応じて適切に構造物上基準線を設定する。例えば、本実施形態では、L字の床面を有する建物フロアの一の壁面上に構造物上基準線を設定して墨出し作業を完了した後、一の壁面に隣接する他の壁面(すなわち、一の壁面と直角に交わる壁面)上に構造物上基準線を再設定して次の墨出し作業を行う。これによって、測量装置1は、くの字又はL字等のように折れ曲がった床面を有する建物フロアで墨出し作業する場合でも、そのような建物フロアに適合させた誘導値を表示することができる。
【0091】
また、本実施形態は、屋内に限らず、屋外の墨出し作業、規格道路のような作業現場にも適用することができる。この場合でも、本実施形態では、墨出し作業を効率良く行うことができる。
【0092】
また、本実施形態では、壁面や道路が湾曲している場合にも適用することができる。この場合、本実施形態では、壁面又は道路(道路中央又は路側帯)の3点の任意点の位置を取得し、その取得した各位置を基に半径等を算出する等して、そのような湾曲形状の面に沿った曲線を構造物上基準線として設定する。これにより、本実施形態では、構造物の湾曲している部位を基準にして墨出し作業を行うことができる。
【0093】
また、本実施形態では、壁面に限らず、床面や地面等に基準線を設定することができる。この場合、測量装置1を操作する作業者は、床面や地面等において、ターゲットを持つ作業者が移動の際の基準にできるような箇所に始点及び終点を指示し、測量装置1は、その指示された始点及び終点を基に基準線を設定する。
【0094】
また、本実施形態では、GPSシステムを利用して測量することができる。例えば、本実施形態では、GPS受信機を搭載して墨出し位置の確認を行うことができる測量装置をも用いることができる。
また、本実施形態では、ミラー付ポールに限定されず、測量目標体として、GPSアンテナ付ポール、その他の位置検出装置付きポール等を墨出し作業に用いることができる。
また、本実施形態では、測量装置1の表示部14の表示態様が、
図8や
図10に示す表示態様に限定されないことはいうまでもない。
【0095】
また、本実施形態では、測量装置1による前述のような処理として、記憶部18に記憶されているプログラムを演算部30が実行することによって実現される処理が挙げられる。この場合、プログラムは、測量装置1の出荷時当初から記憶部18に記憶されているものとすることもできるが、出荷後に使用者等の作業により記憶媒体から読み込まれて記憶部18に記憶されたものとすることもできる。
【0096】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項1により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。