(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
径方向外方に膨らんだ円環状部を持つインナーライナー部材を、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーのブロー成形により作製し、作製したインナーライナー部材を内部に備えたグリーンタイヤを作製し、得られたグリーンタイヤを加硫する、空気入りタイヤの製造方法であって、
前記インナーライナー部材を除いたタイヤ構成部材から予めグリーンタイヤを作製しておき、該グリーンタイヤの内側に前記インナーライナー部材を装着することにより、前記のインナーライナー部材を内部に備えたグリーンタイヤを作製し、
前記インナーライナー部材を、前記ブロー成形により外周部に前記円環状部を持つ中空体に形成し、前記インナーライナー部材は、外周部が全周にわたって前記円環状部に形成されるとともに、その内径側部分が左右一対の円板状をなす側壁部として形成され、前記インナーライナー部材を、前記中空体のまま前記グリーンタイヤの内側に装着した後、不要部となる前記内径側部分を切除して、前記グリーンタイヤを加硫する
ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
径方向外方に膨らんだ円環状部を持つインナーライナー部材を、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーのブロー成形により作製し、作製したインナーライナー部材を内部に備えたグリーンタイヤを作製し、得られたグリーンタイヤを加硫する、空気入りタイヤの製造方法であって、
作製した前記インナーライナー部材上にタイヤ構成部材を貼り付けてグリーンタイヤを成形することにより、前記のインナーライナー部材を内部に備えたグリーンタイヤを作製し、
前記インナーライナー部材を、前記ブロー成形により外周部に前記円環状部を持つ中空体に形成し、前記インナーライナー部材は、外周部が全周にわたって前記円環状部に形成されるとともに、その内径側部分が左右一対の円板状をなす側壁部として形成され、前記中空体の内部に気体、液体又はその他の形状保持部材を充填した状態で、該インナーライナー部材上に前記タイヤ構成部材を貼り付け、前記グリーンタイヤの成形後に、不要部となる前記内径側部分を切除して、前記グリーンタイヤを加硫する
ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの内側面には、タイヤの空気圧を一定に保持するために空気透過抑制層としてインナーライナーが設けられている。かかるインナーライナーは、一般に、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムなどの比較的空気透過性の低いゴムからなるゴム層で構成されているが、タイヤの軽量化を図るべく、インナーライナーを薄くするために、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーからなる耐空気透過性フィルムをインナーライナーとして用いることが提案されている。
【0003】
かかる耐空気透過性フィルムをインナーライナー部材として用いて、グリーンタイヤ(未加硫タイヤ、生タイヤともいう。)を成形する場合、次のような問題が生じる。すなわち、成形ドラムを用いたグリーンタイヤの成形工程において、成形ドラム径に合わせて作製した円筒状のインナーライナー部材をグリーンタイヤ径まで拡張する際に、ビード部に近い軸方向端部に対して軸方向中央部が大きく引き伸ばされることにより、フィルムのバラツキが大きく、インナーライナー部材に局部的な厚み変動が発生してしまう。一般に、耐空気透過性に優れる材料ほど、ヤング率が高く伸びにくいので、グリーンタイヤの成形工程において引き伸ばしにくく、厚みムラが大きくなる。そのため、その使用が制限されるという問題がある。
【0004】
特許文献1には、樹脂製のフィルムを用いて、該フィルム上にタイヤ構成部材を積層することでグリーンタイヤを成形することが開示されている。この文献では、該フィルムを剛性内型の外周面に装着する必要があり、フィルムを予め筒状に成形しておいて剛性内型に外挿すると記載されているが、筒状のフィルムを剛性内型に装着する際に、フィルムが大きく引き伸ばされて、厚みが大きくばらついてしまう。
【0005】
特許文献2には、樹脂製のインナーライナー層の剥離を防止するために、カーカスバンドを所定量膨径させかつその状態を所定時間保持させることにより、インナーライナー層を塑性変形させることが提案されている。しかしながら、この場合も、円筒状のフィルムが膨径されることで、フィルムの厚みバラツキが大きくなってしまう。
【0006】
特許文献3には、熱可塑性樹脂製のインナーライナー素材を加熱軟化させた状態で、延伸ブローによって、加硫済みタイヤ又は未加硫タイヤの内周面に圧着させることが提案されている。しかしながら、樹脂を加熱軟化させた状態でタイヤ内面に圧着させると、タイヤ本体のゴムが熱により劣化するという問題がある。
【0007】
なお、特許文献4には、いわゆるコア加硫成形に使用するコアの材質を金属から熱可塑性樹脂に変更することが開示されているが、熱可塑性樹脂はあくまでグリーンタイヤを保持する内型に用いられており、インナーライナーの厚みバラツキを低減することについては何ら開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の断面図である。図示するように、空気入りタイヤ1は、リム組みされる左右一対のビード部2,2と、該ビード部2からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部3,3と、該一対のサイドウォール部3,3間に設けられた路面に接地するトレッド部4とから構成される。前記一対のビード部2,2には、それぞれリング状のビードコア5が埋設されている。有機繊維コードを用いたカーカスプライ6が、ビードコア5,5の周りを折り返して係止されるとともに、左右のビード部2,2間にトロイダル状に架け渡して設けられている。また、カーカスプライ6のトレッド部4における外周側には、スチールコードやアラミド繊維などの剛直なタイヤコードを用いた2枚の交差ベルトプライからなるベルト7が設けられている。また、ベルト7の外周側には、接地面を構成するトレッドゴム9が設けられている。サイドウォール部3におけるカーカスプライ6の外面側には、サイドウォールゴム10が設けられている。
【0015】
カーカスプライ6の内側にはタイヤ内面の全体にわたってインナーライナー8が設けられている。本実施形態では、インナーライナー8を形成するインナーライナー部材として、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなる耐空気透過性フィルムが用いられている。インナーライナー8は、
図1中の拡大図に示すように、タイヤ内面側のゴム層であるカーカスプライ6の内面に貼り合わされており、より詳細には、カーカスプライ6のコードを被覆するトッピングゴム層の内面に貼り合わされている。
【0016】
インナーライナー部材の材料としては、各種の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを用いることができ、特に限定されないが、融点が160℃以上のものが好ましく用いられる。融点160℃以上のものを用いることにより、タイヤを加硫成形する際にインナーライナー部材が溶融し、ブラダーと接着する等のトラブルを回避することができる。但し、融点が160℃未満の樹脂を一部に含有しても構わない。融点は180℃以上であることが好ましく、更に好ましくは200℃以上である。ここで、融点は、JIS K7121のDSC(示差走査熱量計)法に準拠して測定される値である。
【0017】
熱可塑性樹脂の具体例としては、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポチエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリルなどのポリニトリル系樹脂、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)などのフッ素系樹脂、芳香族ポリイミド(PI)などのイミド系樹脂、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性の凍結相あるいは結晶相を形成するハードセグメント(硬質セグメント)と、ゴム弾性を示すソフトセグメント(軟質セグメント)とからなるブロック共重合体を用いることができる。例えば、ポリエステルをハードセグメントとするポリエステル系エラストマー、ポリアミドをハードセグメントとするポリアミド系エラストマー、ポリスチレンをハードセグメントとするポリスチレン系エラストマー、ポリエチレンやポリプロピレンをハードセグメントとするポリオレフィン系エラストマー、ハードセグメントにウレタン構造を持つポリウレタン系エラストマー等が挙げられ、これらを1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、このようなブロック共重合体に対して柔軟性を付与するためにゴム成分をブレンドしてなる海島構造のものも、熱可塑性エラストマーとして用いることができる。更に、熱可塑性エラストマーとしては、上記熱可塑性樹脂とゴム成分をブレンドしてなる海島構造のものを用いてもよい。ここで、ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)などのジエン系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴムなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。また、このようなゴム成分を分散させた海島構造のものを用いる場合、フェノール系樹脂などの架橋剤を添加しておいて、ゴムを動的架橋(TPV)させてもよく、動的架橋により、分散相であるゴム成分の粒子サイズを小さくして柔軟性を向上することができる。
【0019】
上記熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーには、充填剤や相溶化剤などの各種添加剤を配合することができる。熱可塑性エラストマーを構成するゴム成分についても同様である。これらを混合する際には、例えば、二軸押出機、スクリュー押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの各種混練機を用いて行うことができる。
【0020】
インナーライナー部材は、単層フィルムでも、多層フィルムでもよく、多層フィルムの場合、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーの層を複数持つものでもよく、あるいはまた、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーのフィルムに、緩衝層としてゴム層を積層した積層体でもよい。
【0021】
インナーライナー部材の空気透過係数は、特に限定しないが、タイヤの軽量化効果を図る上で、80℃での空気透過係数が5×10
13fm
2/Pa・s以下のものが好ましく用いられる。該空気透過係数は、より好ましくは4×10
13fm
2/Pa・s以下である。空気透過係数の下限は特に限定されないが、事実上は0.5×10
13fm
2/Pa・s以上である。ここで、空気透過係数は、JIS K7126−1「プラスチック−フィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第1部:差圧法」に準じて、試験気体:空気、試験温度:80℃にて測定される値である。
【0022】
インナーライナー部材のヤング率は、特に限定しないが、耐空気透過性を高める上で30MPa以上であることが好ましい。特に、本実施形態によれば、ヤング率の高い材料でもタイヤ成形時における厚みバラツキを低減することができるので、インナーライナー部材のヤング率は200MPa以上であることが好ましく、また、500MPa以上のものでも、厚みバラツキを抑えたタイヤ成形が可能となり、タイヤの空気保持性を高めることができる。ここで、ヤング率は、JIS K6251「加硫ゴムの引張試験方法」に準じて(ダンベル状3号形)、応力−ひずみ曲線を得て、その初期ひずみ領域での曲線に対する接線の傾きから求められる。
【0023】
インナーライナー部材には、タイヤ本体のゴム層との接着性を向上するために、レゾルシン系樹脂を含有させてもよい。この場合、インナーライナー部材が接着されるタイヤ本体のゴム層にメラミン系樹脂を含有させることにより、両者の接着性を高めることができる。ここで、レゾルシン系樹脂は、レゾルシンを少なくとも一部に含むフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドとが縮合して得られた化合物であり、例えば、レゾルシン・アルキルフェノール・ホルムアルデヒド共縮合体、レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体、改質レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。また、メラミン系樹脂としては、メチレンドナーとしてのメラミン・ホルムアルデヒド系樹脂を用いることができ、メラミンもしくはその誘導体のメチロール化物またはその縮合物が挙げられる。具体的には、メラミン樹脂の初期縮合物(メラミン・ホルムアルデヒドプレポリマー)またはこれに類似の形態のものを挙げることができ、未縮合のメチロール化メラミンそのものや、メチロール化メラミンとその縮合物との混合物(部分縮合物)であってもよい。なお、このようなメラミンとレゾルシンとの反応による加硫接着の代わりに、各種接着剤を用いて、インナーライナー部材とタイヤ本体のゴム層とを接着させてもよい。
【0024】
[第1実施形態]
次に、本実施形態の一例に係る第1実施形態について
図2〜8に基づいて説明する。
【0025】
第1実施形態では、径方向外方に膨らんだ円環状部を持つインナーライナー部材を、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー(以下、単に熱可塑性樹脂というが、熱可塑性エラストマーについても同様である。)のブロー成形により作製する。
【0026】
図2に示すように、押出機から押し出された加熱軟化状態にあるチューブ状のパリソン20を、左右に分割されたブロー成形型22,24の間に挿入し、これらで挟み込んだ状態で、導入管26を通じてパリソン20内に空気を吹き込むことにより、
図3に示すように、ブロー成形型22,24の内面に押しつけられて、インナーライナー部材30が成形される。
【0027】
図4に示すように、インナーライナー部材30は、タイヤ径方向外方Koに膨らんだ円環状部32を備えた中空状に形成されている。円環状部32は、グリーンタイヤ40(
図5参照)の内面形状と同じ又は近い形状に成形されている。ここで、グリーンタイヤ40の内面形状に近い形状とは、少なくとも従来の成形ドラム上に装着される単なる円筒形よりも、グリーンタイヤ40の内面形状に近い形状を意味し、そのため、ビード部2に相当する径方向位置にある軸方向両端部32a,32aに対して、少なくとも軸方向中央部32bが径方向外方Ko側に張り出した形状を有する。
【0028】
この例では、グリーンタイヤ40は、
図5に示すように、最終的なタイヤ製品形状とは異なり、左右のビード部2,2がタイヤ軸方向外方側(互いに離間する方向)に広げられた形状を有する。そのため、インナーライナー部材30の円環状部32は、該グリーンタイヤ40の内面形状に沿った形状(内面形状と略同じ形状)となるように、軸方向中央部32bが径方向外方Koに膨らんだ形状に形成されている。
【0029】
インナーライナー部材30は、上記円環状部32を外周部に備えた中空体に形成されている。すなわち、インナーライナー部材30は、
図4に示すように、外周部が全周にわたって上記円環状部32に形成されるとともに、その内径側部分34が左右一対の円板状をなす側壁部として形成され、これにより、全体が略円柱状をなして、その内部が空洞である中空体に形成されている。
【0030】
なお、インナーライナー部材30の厚み(即ち、フィルムの厚み)は、特に限定されず、例えば、0.02〜1.0mmとすることができ、より好ましくは0.05〜1.0mmであり、更に好ましくは0.05〜0.2mmである。
【0031】
このようにして形成されたインナーライナー部材30は、
図5に示すように、グリーンタイヤ40の内側に装着される。すなわち、この実施形態では、インナーライナー部材30を除いたタイヤ構成部材から予めグリーンタイヤ40を作製しておき、該グリーンタイヤ40の内側にインナーライナー部材30を装着する。これにより、インナーライナー部材30を内部に備えたグリーンタイヤ40が得られる。
【0032】
予め作製しておくインナーライナー部材30を具備しないグリーンタイヤ40は、インナーライナーを設けずに作製することを除いて、従来公知の方法により得ることができる。例えば、タイヤ成形ドラム上に、インナーライナー部材を設けずに、カーカスプライ6、ビードコア5、サイドウォールゴム10などのタイヤ構成部材を貼り付けてカーカス構造体を作製する。これとは別にドラムにベルト7を巻き付け、その上にトレッドゴム9を貼り付けてベルト−トレッド組立体を作製する。上記カーカス構造体を、成形ブラダー等を使用することにより拡張させて、上記ベルト−トレッド組立体の内周面に圧着させることにより、インナーライナー部材30を具備しないグリーンタイヤ40を作製することができる。
【0033】
そして、このインナーライナー部材30を具備しないグリーンタイヤ40の内側に、上記インナーライナー部材30を中空体のまま装着する。中空体のままであれば、外周部の円環状部32が内径側部分34により支持されて形状を保持しやすいので、インナーライナー部材30の内側にセットしやすい。
【0034】
この場合、中空体のインナーライナー部材30内に空気などの気体を充填することで、インナーライナー部材30の円環状部32をグリーンタイヤ40の内面に圧着させてもよい。
【0035】
また、インナーライナー部材30の円環状部32の外周面又はグリーンタイヤ40の内面に両面テープを貼り付けておいて、インナーライナー部材30をグリーンタイヤ40に装着する際に、該両面テープを用いて位置合わせしてもよい。
【0036】
このようにして中空体のまま装着したインナーライナー部材30の場合、
図6に示すように、装着後に、不要部となる内径側部分34を切除する。これにより、円環状部32のみがグリーンタイヤ40の内面に残り、最終的に製品タイヤにおけるインナーライナー8となる。
【0037】
インナーライナー部材30は、このように中空体のままグリーンタイヤ40内に装着してもよいが、予め内径側部分34を切除して円環状体としてから、グリーンタイヤ40内に装着してもよい。その場合、
図7に示すように、空気などの気体を充填可能な環状の袋42(例えば、浮き輪のようなもの)を、円環状体のインナーライナー部材30の内側に装着し、該環状の袋42に気体を充填することにより、インナーライナー部材30をグリーンタイヤ40の内面に圧着させることができる。その際、グリーンタイヤ40の外周面には、規制リング44を設けておき、グリーンタイヤ40の外径が膨張するのを抑制することが好ましい。
【0038】
以上のようにしてインナーライナー部材30を内部に装着したグリーンタイヤ40は、常法に従い、モールド内で加硫成形することにより、空気入りタイヤ1を製造することができる。
【0039】
図8は、その一例を示したものであり、加硫用モールド50は、トレッド部4を成形するトレッドリング52と、サイドウォール部3を成形する上下一対のサイドプレート54,56と、ビード部2を成形する上下一対のビードリング58,60と、タイヤ内面側に配されてグリーンタイヤ40をモールド50に均一に押し付けるためのブラダー62とを備えてなる。
【0040】
タイヤを加硫成形する際には、モールド50内にグリーンタイヤ40を装填し、型閉めした後、ブラダー62内にスチームなどの加熱流体を供給して膨張させ、グリーンタイヤ40をモールド50の内面に押圧するとともに、モールド50自体も加熱流体などを用いて加熱することで、グリーンタイヤ40を所定温度で加硫する。所定時間加硫した後、モールド50を型開きし、加硫成形されたタイヤを脱型することにより、空気入りタイヤ1が得られる。
【0041】
以上よりなる本実施形態であると、熱可塑性樹脂のブロー成形により、インナーライナー部材30を、径方向外方Koに膨らんだ円環状部32を持つ形状としており、グリーンタイヤ40の内面形状と同一又はこれに近い形状に予め成形したので、タイヤ成形時におけるインナーライナー部材の引き伸ばしが低減されて、厚みバラツキを低減することができる。すなわち、従来のように、円筒形のインナーライナー部材をグリーンタイヤ径まで拡張する必要がないので、タイヤ成形時における極度な引き伸ばしが抑制され、フィルムの厚みバラツキを低減することができる。
【0042】
また、タイヤ成形時における引き伸ばしが小さいので、タイヤ本体のゴム層からのインナーライナー部材30の剥離を低減することができる。更に、従来は使用できなかったような伸びの比較的小さい材料も選択することができるので、耐空気透過性を向上する上でも有利であり、空気入りタイヤのガスバリア性を大きく改善することができる。また、インナーライナー部材30を予めブロー成形してから、グリーンタイヤ40に装着するので、グリーンタイヤ40内面のゴムが熱により劣化するという問題も生じない。
【0043】
本実施形態によれば、また、予めグリーンタイヤ40を作製しておき、その内側に予め作製したインナーライナー部材30を装着することにより、インナーライナー部材30付きのグリーンタイヤ40を容易に作製することができる。特に、インナーライナー部材30を、外周部に円環状部32を持つ中空体に形成し、該中空体のままグリーンタイヤ40の内側に装着することにより、インナーライナー部材30をグリーンタイヤ40内にセットしやすい。セット後、不要部となる内径側部分34はインナーライナー部材30から切除されるが、該内径側部分34は、粉砕及び乾燥後に溶融させて、再びブロー成形に投入して、インナーライナー部材30を作製するために使用することができる。
【0044】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について
図9〜11に基づいて説明する。
【0045】
第2実施形態は、ブロー成形により得られたインナーライナー部材上にタイヤ構成部材を貼り付けてグリーンタイヤを成形する点で、予めグリーンタイヤを作製しておく第1実施形態とは異なる。
【0046】
この例では、
図9に示すインナーライナー部材30Aを、ブロー成形により作製する。すなわち、この例では、グリーンタイヤ40Aを、最終的なタイヤ製品形状に近い形状とするために、グリーンタイヤ40Aの内面形状と同じ又は近い形状に成形されるインナーライナー部材30Aも、最終的な製品タイヤの内面形状と同じ又は近い形状に成形される。インナーライナー部材30Aの円環状部32は、グリーンタイヤ40Aの内面形状に沿った形状(製品タイヤの内面形状と略同じ形状)となるように、カーカスプライ6と同様のトロイダル状に形成されている。
【0047】
インナーライナー部材30Aは、円環状部32を外周部に備えた中空体に形成されており、その内径側部分34が円環状部32の最大幅部分よりも軸方向内方側において左右一対の円板状をなす側壁部として形成されている。
【0048】
このようにして形成されたインナーライナー部材30Aを用いてグリーンタイヤ40Aを成形する際には、該インナーライナー部材30Aを、いわゆるコア成型におけるコアとして用いる。詳細には、
図10に示すように、インナーライナー部材30Aの中空体の内部に、空気などの気体、液体、又はその他の形状保持部材(例えば、発泡スチロール、中空球状体など)46を充填した状態で、該インナーライナー部材30A上(詳細には、円環状部32上)に、カーカスプライ6、ビードコア5、サイドウォールゴム10、ベルト7及びトレッドゴム9などの空気入りタイヤを構成するタイヤ構成部材を順次貼り付けていく。熱可塑性樹脂製のフィルムからなるインナーライナー部材30Aは、それ自体ではコア成型時における形状を保持することはできないが、中空体の内部に、上記の気体や液体、その他の形状保持部材46を充填することにより、その形状を保持することができ、インナーライナー部材30A上にタイヤ構成部材を貼り付けることができる。
【0049】
これにより、
図11に示すようにインナーライナー部材30Aを備えたグリーンタイヤ40Aを作製することができるので、その後、第1実施形態と同様に、不要部となる内径側部分34を切除する。これにより、円環状部32のみがグリーンタイヤ40Aの内面に残り、最終的に製品タイヤにおけるインナーライナー8となる。
【0050】
このようにしてインナーライナー部材30Aを内部に備えたグリーンタイヤ40Aは、第1実施形態と同様、常法に従い、モールド内で加硫成形することにより、空気入りタイヤ1を製造することができる。
【0051】
第2実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0052】
なお、第1実施形態では、グリーンタイヤ40の形状を最終的なタイヤ製品形状に対してビード部が広げられた形状とし、該グリーンタイヤ40に対して略同形状のインナーライナー部材30を装着することとしたが、該グリーンタイヤ40に対して、第2実施形態に示したような製品タイヤの内面形状と略同形状のインナーライナー部材30Aを装着するようにしてもよい。また、最終的なタイヤ製品形状に近い形状を持つ第2実施形態のようなグリーンタイヤ40Aを予め作製しておき、該グリーンタイヤ40Aに対して略同形状(即ち、製品タイヤの内面形状と略同形状)のインナーライナー部材30Aを装着するようにしてもよい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0053】
本発明は、乗用車用タイヤをはじめとして、ライトトラック、トラック・バス用など、各種用途、サイズの空気入りタイヤに適用することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0055】
[実施例1〜4]
上述した第1実施形態の方法に従い、下記表1に示す配合(質量部)にてインナーライナー部材をブロー成形により作製し(いずれもフィルム厚みは0.2mm)、得られたインナーライナー部材を、予め作製しておいたグリーンタイヤ内に装着し、不要部をカットした後、グリーンタイヤを加硫機で180℃、15分間加硫させて、タイヤサイズ195/65R15のタイヤを作製した。
【0056】
表中のフィルム成形法につき、「ブロー1」とは、インナーライナー部材として
図4に示す形状のものをブロー成形し、これを
図5に示す形状のグリーンタイヤ内に装着したものである。また、「ブロー2」とは、インナーライナー部材として
図9に示す形状のものをブロー成形し、これを
図11に示す形状のグリーンタイヤ(但し、予め作製していたもの)内に装着したものである。
【0057】
なお、実施例4では、ブチルゴムはフィルム成形時に動的架橋されている(比較例2も同様)。
【0058】
[比較例1,2]
比較例1,2では、下記表1に示す配合(質量部)のインナーライナー部材を、単軸押出機で厚み0.2mmにてフィルム化し、得られたフィルムをヒートシールで端部同士を接合することで円筒化したものを用いて、従来の手法に従い、タイヤ成形ドラム上に装着し、ドラム上でタイヤ構成部材を積層しながら、インフレートさせてグリーンタイヤを成形した後、実施例と同様に加硫成形したものである。
【0059】
表中のヤング率については、JIS K 6251「加硫ゴムの引張試験方法」に準拠し、フィルムをJIS3号ダンベルで打ち抜き、株式会社島津製作所製「オートグラフAG−X」を用いて、応力−ひずみ曲線を得て、その初期ひずみ領域での曲線に対する接線の傾きからヤング率を求めた。但し、実施例1のPBTについては、ヤング率が500MPaを大きく超え、正確な値が測定できなかったので、表1中には曲げ弾性率(試験方法:ISO178)の値を示した。
【0060】
タイヤ成形性については、タイヤの成形時に、成形できたものを「○」、何らかの原因で成形できなかったものを「×」と表示した。
【0061】
インナーライナーの厚みバラツキについては、成形後のタイヤからインナーライナーを取り出し、幅方向における5箇所で厚みを測定し、最小厚みに対する最大厚みの比率を算出した。厚みバラツキがない場合を100とした指数で表示しており、そのため、例えば、2倍の厚み差がある場合が200となる。
【0062】
表中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0063】
・PBT(熱可塑性樹脂):ポリブチレンテレフタレート、東洋紡績(株)製「EMC−706E」
・TPEE(熱可塑性エラストマー):熱可塑性ポリエステル系エラストマー重合体、東洋紡績(株)「ペルプレン C2005」、融点207℃
・ブチルゴム:JSR(株)製「BUTYL268」
・相溶化剤:住友化学(株)製「ボンドファースト−E」
・架橋剤(フェノール系樹脂):アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体、田岡化学工業(株)製「タッキロール201」
・接着剤:変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体、田岡化学工業(株)製「スミカノール620」。
【0064】
結果は表1に示す通りである。ヤング率の高い熱可塑性エラストマーを用いて、従来の手法でタイヤを成形した比較例1では、成形ドラムからインフレートさせてグリーンタイヤを成形する段階において、インナーライナー部材のヒートシールによる接合部が外れてしまい、グリーンタイヤを成形することができなかった。比較例2では、タイヤを成形することはできたものの、インナーライナーの厚みバラツキが大きかった。
【0065】
これに対し、実施例であると、ヤング率が比較的小さい実施例4についてはもちろんのこと、ヤング率が高い熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを用いた実施例1〜3についても、タイヤ成形時におけるフィルムの剥離などの問題もなく、タイヤ成形性を確保しながら、インナーライナーの厚みバラツキを大幅に低減することができた。これらの実施例のインナーライナーは、ヤング率の高いフィルムからなるものであるため、耐空気透過性に優れており、タイヤとしての空気保持性能についても優れている。
【0066】
【表1】