特許第6062704号(P6062704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062704
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ガス濃度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20170106BHJP
   G01N 21/61 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
   G01N21/3504
   !G01N21/61
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-228957(P2012-228957)
(22)【出願日】2012年10月16日
(65)【公開番号】特開2014-81261(P2014-81261A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達典
(72)【発明者】
【氏名】辻村 善徳
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−048644(JP,A)
【文献】 特開2004−264130(JP,A)
【文献】 特表2012−516999(JP,A)
【文献】 特開平07−113746(JP,A)
【文献】 特開2003−057177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/3504
G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を検知するガス濃度検出装置において、
前記試料ガスが導入される測定セルと、
前記測定セルに導入された試料ガスに赤外光を照射する光源と、
それぞれ異なる波長領域を有し、前記光源より照射され前記試料ガスを通過した赤外光を検知する第1受光手段、および第2受光手段と、
前記第1受光手段で得られる測定データおよび前記第2受光手段で得られる測定データに基づいて、前記試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を検出する検出手段と、
を備えるガス濃度検出装置であって、
前記検出手段は、
前記第1受光手段による測定データおよび前記第2受光手段による測定データのそれぞれの移動平均値を演算する移動平均演算手段と、
前記第1受光手段による測定データの移動平均値のうち前記光源による赤外光の照射期間における最大値である第1データ最大値と、前記第2受光手段による測定データの移動平均値のうち前記光源による赤外光の照射期間における最大値である第2データ最大値と、をそれぞれ演算する最大値演算手段と、
前記第1受光手段による測定データの移動平均値のうち前記光源による赤外光の非照射期間における最小値である第1データ最小値と、前記第2受光手段による測定データの移動平均値のうち前記光源による赤外光の非照射期間における最小値である第2データ最小値と、をそれぞれ演算する最小値演算手段と、
前記第1データ最大値と前記第1データ最小値との差分値である第1データ差分値と、前記第2データ最大値と前記第2データ最小値との差分値である第2データ差分値と、をそれぞれ演算する差分値演算手段と、
前記第1データ差分値の移動平均値である第1データ差分平均値、および前記第2データ差分値の移動平均値である第2データ差分平均値をそれぞれ演算する差分平均演算手段と、
前記第1データ差分平均値および第2データ差分平均値に基づいて、前記試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を演算する濃度演算手段と、
を備えること、
を特徴とするガス濃度検出装置。
【請求項2】
前記測定セルに導入された前記試料ガスの積算流量値が予め定められた流量判定値を超えたか否かを判定する積算流量判定手段、を備えており、
前記濃度演算手段は、前記積算流量判定手段にて前記積算流量値が前記流量判定値を超えたと判断された時点での最新の前記第1データ差分平均値および第2データ差分平均値に基づいて、前記試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を演算すること、
を特徴とする請求項1に記載のガス濃度検出装置。
【請求項3】
前記第1受光手段および前記第2受光手段を加熱するヒータと、
前記第1受光手段および前記第2受光手段の各温度が予め定められた正常範囲であるか否かを判定する温度判定手段と、
を備えており、
前記検出手段は、前記温度判定手段にて前記第1受光手段および前記第2受光手段の各温度が前記正常範囲であると判定されると、前記測定対象ガスの濃度の演算を実行すること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス濃度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を検知するガス濃度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を検知するガス濃度検出装置としては、測定対象ガスの濃度に応じて受光素子(受光センサ)から出力される信号(測定データ)に基づいて、測定対象ガスの濃度を検知するものがある。
【0003】
つまり、受光素子の出力信号は、測定対象ガスの濃度に応じて変化するため、この出力信号(測定データ)を用いることで測定対象ガスの濃度を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−138499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のガス濃度検出装置では、ノイズなどの影響により受光素子の出力信号が変動することがあり、ガス濃度の検出精度が低下する虞がある。
例えば、ノイズなどの影響によって、受光素子の出力信号が変動した場合には、ガス濃度の検出結果も変動することになり、ガス濃度の検出精度が低下する。
【0006】
そこで、本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、ノイズ等の影響により受光素子の出力信号が変動した場合であっても、ガス濃度の検出精度の低下を抑えることができるガス濃度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を検知するガス濃度検出装置において、試料ガスが導入される測定セルと、測定セルに導入された試料ガスに赤外光を照射する光源と、それぞれ異なる波長領域を有し、光源より照射され試料ガスを通過した赤外光を検知する第1受光手段、および第2受光手段と、第1受光手段で得られる測定データおよび第2受光手段で得られる測定データに基づいて、試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を検出する検出手段と、を備えるガス濃度検出装置であって、検出手段は、第1受光手段による測定データおよび第2受光手段による測定データのそれぞれの移動平均値を演算する移動平均演算手段と、第1受光手段による測定データの移動平均値のうち光源による赤外光の照射期間における最大値である第1データ最大値と、第2受光手段による測定データの移動平均値のうち光源による赤外光の照射期間における最大値である第2データ最大値と、をそれぞれ演算する最大値演算手段と、第1受光手段による測定データの移動平均値のうち光源による赤外光の非照射期間における最小値である第1データ最小値と、第2受光手段による測定データの移動平均値のうち光源による赤外光の非照射期間における最小値である第2データ最小値と、をそれぞれ演算する最小値演算手段と、第1データ最大値と第1データ最小値との差分値である第1データ差分値と、第2データ最大値と第2データ最小値との差分値である第2データ差分値と、をそれぞれ演算する差分値演算手段と、第1データ差分値の移動平均値である第1データ差分平均値、および第2データ差分値の移動平均値である第2データ差分平均値をそれぞれ演算する差分平均演算手段と、第1データ差分平均値および第2データ差分平均値に基づいて、試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を演算する濃度演算手段と、を備えること、を特徴とするガス濃度検出装置である。
【0008】
このガス濃度検出装置では、ガス濃度を演算するにあたり、第1受光手段による測定データおよび第2受光手段による測定データをそのまま利用するのではなく、第1受光手段による測定データおよび第2受光手段による測定データの移動平均値を用いてガス濃度を演算する点に特徴がある。
【0009】
つまり、ノイズ(外乱因子)などの影響によって第1受光手段による測定データおよび第2受光手段による測定データが瞬時的に大きく変動した場合であっても、移動平均値に関しては、その変動範囲が測定データの瞬時的な変動範囲よりも小さくなるため、ガス濃度の演算に際して、ノイズ(外乱因子)などの影響を抑制できる。
【0010】
そして、移動平均値の演算に関しては、第1受光手段による測定データおよび第2受光手段による測定データのみならず、第1データ差分値および第2データ差分値についても、移動平均値(第1データ差分平均値、第2データ差分平均値)をそれぞれ演算する。
【0011】
このように、第1受光手段による測定データおよび第2受光手段による測定データに関して、複数段階にわたり移動平均値を演算することで、ノイズ(外乱因子)などの影響をより一層抑制でき、ガス濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0012】
よって、本発明によれば、ノイズ等の影響により受光素子の出力信号が変動した場合であっても、ガス濃度の検出精度の低下を抑えることができる。
なお、光源による赤外光の照射状態および非照射状態は、不定期に切り替え制御してもよく、あるいは、一定周期毎に切り替えても良い。また、赤外光の照射期間と非照射期間とは、それぞれ異なる長さであっても良い。
【0013】
そして、赤外光の照射状態および非照射状態を1サイクルとする照射制御を繰り返し実行する場合には、1サイクル毎に、第1データ最大値、第2データ最大値、第1データ最小値、第2データ最小値をそれぞれ演算し、複数のサイクルにわたる各演算値を用いて移動平均値(第1データ差分平均値および第2データ差分平均値)を演算しても良い。つまり、1サイクル毎に演算された第1データ差分値および第2データ差分値を用いて移動平均値(第1データ差分平均値および第2データ差分平均値)を演算し、測定対象ガスの濃度を演算する。
【0014】
このように、複数のサイクルにわたる各演算値を用いて移動平均値を演算することで、瞬時的なノイズ(外乱因子)などが発生した場合でも移動平均値の大きな変化を抑制できるため、ノイズ(外乱因子)などの影響をより一層抑制でき、ガス濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0015】
次に、上述のガス濃度検出装置においては、測定セルに導入された試料ガスの積算流量値が予め定められた流量判定値を超えたか否かを判定する積算流量判定手段を備えており、濃度演算手段は、積算流量判定手段にて積算流量値が流量判定値を超えたと判断された時点での最新の第1データ差分平均値および第2データ差分平均値に基づいて、試料ガス中に含まれる測定対象ガスの濃度を演算する、という構成を採ることができる。
【0016】
このように、測定セルに導入された試料ガスの積算流量値が流量判定値を超えたか否かを判定することで、測定セルに対して試料ガスが十分に導入されたか否かを判定でき、測定セルへの試料ガスの導入が不十分な状況でガス濃度を演算するのを回避できる。
【0017】
つまり、測定セルに導入された試料ガスの積算流量値が流量判定値を超えた時点での最新の第1データ差分平均値および第2データ差分平均値に基づいて、測定対象ガスの濃度を演算することで、測定セルに試料ガスが十分に導入された状態で測定対象ガスの濃度を演算できる。
【0018】
よって、本発明によれば、測定セルへの試料ガスの導入が不十分であることに起因する検出誤差が発生しがたくなり、ガス濃度の検出精度の低下を抑えることができる。
次に、上述のガス濃度検出装置においては、第1受光手段および第2受光手段を加熱するヒータと、第1受光手段および第2受光手段の各温度が予め定められた正常範囲であるか否かを判定する温度判定手段と、を備えており、検出手段は、温度判定手段にて第1受光手段および第2受光手段の各温度が正常範囲であると判定されると、測定対象ガスの濃度の演算を実行する、という構成を採ることができる。
【0019】
このように、ヒータおよび温度判定手段を備えることで、第1受光手段および第2受光手段が正常状態であることを確認した上で、検出手段による測定対象ガスの濃度演算を実行することができる。
【0020】
例えば、第1受光手段および第2受光手段が結露しない温度範囲を正常範囲として予め定めておき、第1受光手段および第2受光手段の各温度がこの正常範囲である場合に測定対象ガスの濃度を演算することにより、第1受光手段および第2受光手段の結露による悪影響を抑えつつ、測定対象ガスの濃度を検出できる。つまり、結露の影響によって第1受光手段および第2受光手段における受光量が変動することを抑制でき、測定対象ガスの濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0021】
よって、本発明によれば、第1受光手段および第2受光手段の温度が正常範囲であることを確認した上で測定対象ガスの濃度演算を実行できるため、ガス濃度の検出精度の低下を抑えることができる。
【0022】
なお、検出手段は、温度判定手段にて第1受光手段および第2受光手段の各温度が正常範囲ではないと判定された場合には、測定対象ガスの濃度の演算を行わず、第1受光手段および第2受光手段の各温度が正常範囲になるまで待機する、という構成を採ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】人の呼気に含まれるアルコールの濃度を検知するガス濃度検出装置の概略構成図である。
図2図1のガス濃度検出装置におけるB−B断面図である。
図3】ガス濃度検出処理の処理内容を表したフローチャートである。
図4】光源のON/OFF状態、第1赤外線検知素子のセンサ出力(出力データ)、移動平均値の各状態の一例を表したタイミングチャートである。
図5】赤外線検知素子の出力データの差分平均値(実施例)と、移動平均を用いることなく赤外線検知素子の出力データから算出した差分値(比較例)と、の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、本発明を適用したガス濃度検出装置を例に挙げて説明する。
【0025】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本実施形態のガス濃度検出装置1の全体構成について、図面を用いて説明する。
【0026】
図1は、人の呼気に含まれるアルコールの濃度を検知するガス濃度検出装置1の概略構成図である。
本実施形態のガス濃度検出装置1は、非分散型赤外線吸収式(NDIR)ガス濃度検出装置である。
【0027】
ガス濃度検出装置1は、人の呼気が吹き込まれる赤外線式ガスセンサ111と、ガス濃度検出処理を実行する制御部151と、を主に備えている。
図2は、赤外線式ガスセンサ111におけるB−B断面図である。
【0028】
赤外線式ガスセンサ111は、先端側(図1左側)が閉塞された円筒形状の容器113と、容器113を取り囲むように配置されるヒータ114と、容器113の先端側に配置された白色光源115と、容器113の後端側に配置された基部117と、を主に備えている。
【0029】
容器113は、測定対象である特定成分を含む試料ガスを充填する非透光性の材質(例えばアルミニウム合金)からなる容器であり、その側壁には、試料ガスの導入や排出を行う複数の通気孔141、143が形成されている。
【0030】
通気孔141にはガス導入管144が接続され、通気孔143にはガス排出管145が接続されている。ガス導入管144には、流量センサ146が設けられている。流量センサ146は、ガス導入管144に流れるガス流量に応じた信号を制御部151に対して出力する。
【0031】
ヒータ114は、シリコンラバーヒータであり、容器113を取り囲むように配置される。ヒータ114は、40[℃]以上に設定された特定の制御目標温度(本実施形態では、50[℃]に設定)で、容器113を加熱することで、容器113の内面が結露するのを抑制する。
【0032】
このとき、ヒータ114による熱量は、容器113を介して基部117にも熱伝導する。これにより、後述する基部117の構成要素(第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137)の各表面が結露するのを抑制する。
【0033】
基部117は、非透光性の例えばステンレスからなるキャップ119と、TOパッケージ121とから構成されている。キャップ119は、円盤部123と筒状部125とから構成されている。
【0034】
円盤部123には、2箇所に開口部127、129が設けられており、各開口部127、129にはそれぞれ第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133が配置されている。第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133は、それぞれ開口部127,129を覆う様に配置されており、それぞれ特定の帯域の赤外線のみを透過させる。
【0035】
なお、第1波長選択フィルタ131および第2波長選択フィルタ133は、その材質については特に制限はなく、サファイア、石英ガラス、シリコン、ゲルマニウム、セレン化亜鉛などの赤外線透過材料からなる基板の表面に、複数の透明膜を積層したものを採用できる。
【0036】
また、TOパッケージ121の内側表面には、第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133に対応して、その後端側に、それぞれ第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137が配置されている。
【0037】
第1赤外線検知素子135および第2赤外線検知素子137は、それぞれ入射された赤外線の強度に応じた電圧を出力する。
なお、第1赤外線検知素子135および第2赤外線検知素子137は、その種類は特に制限はなく、焦電センサ、サーモパイルセンサ、フォトダイオード等、一般に用いられる赤外線センサを使用できる。
【0038】
また、第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137のいずれかの表面が結露した場合、その結露によって赤外線が弱められるため、第1赤外線検知素子135または第2赤外線検知素子137に入射される赤外線の強度が低下する。このような結露の影響を抑えるために、ヒータ114による加熱が有効である。
【0039】
なお、白色光源115は、少なくとも赤外線を含む光を出力するものであり、その種類は特に制限はなく、電球や発熱抵抗体を使用できる。
そして、本実施形態の赤外線式ガスセンサ111においては、白色光源115と第1波長選択フィルタ131と第1赤外線検知素子135とは、同一直線L1上に配置され、同様に、白色光源115と第2波長選択フィルタ133と第2赤外線検知素子137とは、他の同一直線L2上に配置されている。
【0040】
つまり、白色光源115から照射された赤外線が、容器113の内部に導入された試料ガス中を透過し、第1波長選択フィルタ131および第2波長選択フィルタ133を介して、それぞれ第1赤外線検知素子135および第2赤外線検知素子137に入射するように配置される。
【0041】
そして、第1波長選択フィルタ131は、通過できる光(即ち赤外線)の帯域(通過帯域)が、濃度を測定する対象である特定成分(例えば、エチルアルコール(EtOH))の吸収帯に合致するもので構成されている。第1波長選択フィルタ131に入射される光に関しては、この通過帯域に合致する波長の光のみが透過し、それ以外の波長の光は透過できない。
【0042】
つまり、通過帯域に合致する波長の赤外線は特定成分によって吸収されるが、この吸収される赤外線のみを透過可能なように、第1波長選択フィルタ131の材質が選択されている。
【0043】
従って、第1波長選択フィルタ131を透過する光の強度、すなわち、第1赤外線検知素子135の出力は、容器113の測定空間147に存在するガス種(特定成分)の濃度に依存する。つまり、第1赤外線検知素子135の出力(詳しくは素子出力を増幅したセンサ出力)に基づいて、測定空間147に存在する特定成分の濃度を測定することができる。
【0044】
また、第2波長選択フィルタ133は、通過できる光(即ち赤外線)の帯域(通過帯域)が第1波長選択フィルタ131とは異なる帯域であり、試料ガス中に存在することが想定される何れのガスの吸収帯にも相当しない帯域に合致するもので構成されている。
【0045】
このため、第2赤外線検知素子137を言わば参照素子として用い、第1赤外線検知素子135の出力に対するノイズ(外乱因子)を補償することが可能となる。
制御部151は、第1赤外線検知素子135の出力、第2赤外線検知素子137の出力などに基づいて、濃度測定対象である特定成分(例えば、エチルアルコール(EtOH))のガス濃度を演算する。
【0046】
制御部151は、いわゆるマイクロコンピュータで構成されており、詳細は図示しないが、公知の構成を有し、演算を行うマイクロプロセッサ、プログラムやデータを一時記憶するRAM、プログラムやデータを保持するROM、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路などを含んで構成されている。なお、A/D変換回路は、AD入力端子ADCから入力されるアナログ信号を、マイクロプロセッサなどで使用可能なデジタル信号に変換する。
【0047】
[1−2.ガス濃度検出]
次に、制御部151で実行されるガス濃度検出処理について説明する。図3は、ガス濃度検出処理の処理内容を表したフローチャートである。
【0048】
なお、ガス濃度検出処理は、ガス濃度検出装置1が起動されるとともに処理が開始される。
ガス濃度検出処理が起動されると、まず、S110(Sはステップを表す。以下同様。)では、RAM動作の初期化などを含む初期設定処理を行う。
【0049】
なお、S110での初期設定処理では、ガス濃度検出処理の中で用いる各種パラメータの値や各種フラグの状態を初期値に設定する処理を行う。例えば、周期カウンタ変数nを初期値(n=1)に設定し、光源判定フラグFをリセット状態(F=0)に設定する。また、S180での処理に用いるON最大値に初期値を設定し、S210での処理に用いるOFF最小値に初期値を設定する。このとき、ON最大値の初期値としては、ON最大値がとりうる数値範囲のうち最小値を設定し、OFF最小値の初期値としては、OFF最小値がとりうる数値範囲のうち最大値を設定する。
【0050】
次にS120では、ヒータ114を起動して、予め定められた制御目標温度となるようにヒータ114を制御する処理を実行する。なお、本実施形態では、制御目標温度が50[℃]に設定されている。
【0051】
次のS130では、第1赤外線検知素子135の温度および第2赤外線検知素子137の温度がいずれも正常範囲であるか否かを判定しており、肯定判定するとS140に移行し、否定判定すると同ステップを繰り返し実行することで待機する。
【0052】
なお、本実施形態では、S130での正常範囲として、第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137の各表面が結露しない温度範囲が設定されている。具体的には、S130での正常範囲として「45[℃]以上の温度範囲」が設定されており、ヒータ114の加熱により第1赤外線検知素子135の温度および第2赤外線検知素子137の温度がいずれも45[℃]以上になると、S130で肯定判定される。
【0053】
また、図1では図示を省略しているが、第1赤外線検知素子135および第2赤外線検知素子137の近傍には温度センサが備えられており、この温度センサからの温度検知信号に基づいて第1赤外線検知素子135の温度および第2赤外線検知素子137の温度を検出している。
【0054】
S130で肯定判定されてS140に移行すると、S140では、白色光源115のON/OFF制御を開始する。このON/OFF制御では、白色光源115を0.25[sec]間にわたりON状態(点灯状態)に制御した後、0.25[sec]間にわたりOFF状態(消灯状態)に制御し、その後、再度、ON状態(点灯状態)に制御する。つまり、このON/OFF制御では、ON状態(点灯状態)およびOFF状態(消灯状態)を1サイクルとする制御を0.5[sec]毎に繰り返し実行する。
【0055】
次のS150では、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データをそれぞれ取得し、保存する処理を開始する。
このときのサンプリング周期は1[msec]であり、各出力データは1[msec]毎に取得される。なお、S150で開始されるセンサ出力のデータ取得処理は、このあとバックグラウンド処理として実行され、ガス濃度検出処理が終了するまで継続して実行される。
【0056】
次のS160では、センサ出力のデータ取得処理(S150)で保存したデータを用いて、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データのそれぞれの移動平均値を演算する処理を開始する。
【0057】
なお、S160では、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データのそれぞれについて、センサ出力のデータ取得処理(S150)で保存したデータのうち最新の150個のデータを対象として平均値を演算することで、データの移動平均値を演算する。また、S160で開始される移動平均値の演算処理は、このあとバックグラウンド処理として実行され、ガス濃度検出処理が終了するまで継続して実行される。
【0058】
S170では、白色光源115がON状態か否かを判定しており、肯定判定するとS180に移行し、否定判定するとS190に移行する。
S170で肯定判定されてS180に移行すると、S180では、移動平均値の演算処理(S160)で演算された移動平均値の最大値を比較演算により判定して、その判定結果に基づいて電源ON時の最大値(以下、ON最大値ともいう)を保存する処理を行う。
【0059】
具体的には、最新の移動平均値と前回処理実行時に保存されたON最大値とを比較判定し、大きい値を今回のON最大値として保存する。つまり、最新の移動平均値が大きい場合には、最新の移動平均値を今回のON最大値として保存し、前回処理実行時に保存されたON最大値が大きい場合には、前回処理実行時に保存されたON最大値を今回のON最大値として保存する。なお、S180の初回実行時には、S110で設定されたON最大値の初期値と最新の移動平均値との比較を行うが、初期値としてON最大値がとりうる数値範囲の最小値が設定されているため、最新の移動平均値がON最大値として保存される。
【0060】
このとき、S180では、第1赤外線検知素子135の出力データに関するON最大値V1max、および第2赤外線検知素子137の出力データに関するON最大値V2maxのそれぞれについて保存する。
【0061】
S170で否定判定されてS190に移行すると、S190では、光源判定フラグFがリセット状態(F=0)であるか否か判定しており、肯定判定するとS200に移行し、否定判定するとS210に移行する。
【0062】
S190で肯定判定されてS200に移行すると、S200では、光源判定フラグFをセット状態(F=1)に設定する。
S200の処理が完了するか、S190で否定判定されてS210に移行すると、S210では、移動平均値の演算処理(S160)で演算された移動平均値の最小値を比較演算により判定して、その判定結果に基づいて電源OFF時の最小値(以下、OFF最小値ともいう)を保存する処理を行う。
【0063】
具体的には、最新の移動平均値を前回処理実行時に保存されたOFF最小値と比較判定し、小さい値を今回のOFF最小値として保存する。つまり、最新の移動平均値が小さい場合には、最新の移動平均値を今回のOFF最小値として保存し、前回処理実行時に保存されたOFF最小値が小さい場合には、前回処理実行時に保存されたOFF最小値を今回のOFF最小値として保存する。なお、S210の初回実行時には、S110で設定されたOFF最小値の初期値と最新の移動平均値との比較を行うが、初期値としてOFF最小値がとりうる数値範囲の最大値が設定されているため、最新の移動平均値がOFF最小値として保存される。
【0064】
このとき、S210では、第1赤外線検知素子135の出力データに関するOFF最小値V1min、および第2赤外線検知素子137の出力データに関するOFF最小値V2minのそれぞれについて保存する。
【0065】
S180またはS210の処理が完了してS220に移行すると、S220では、白色光源115がON状態であり、かつ光源判定フラグFがセット状態(F=1)であるか否か判定しており、肯定判定するとS230に移行し、否定判定するとS170に移行する。なお、S220は、白色光源115のON/OFF制御の1サイクルが完了したか否かを判断するためのステップであり、1サイクルが完了する前の段階では否定判定してS170〜S220までの処理を繰り返し、1サイクルが完了すると肯定判定してS230に移行する。
【0066】
S220で肯定判定されてS230に移行すると、S230では、光源判定フラグFをリセット状態(F=0)に設定する。
続くS240では、S180で保存された最新のON最大値とS210で保存された最新のOFF最小値との差分値を演算する。このとき、S240では、第1赤外線検知素子135の出力データに関する差分値ΔV1(n)(=ON最大値V1max−OFF最小値V1min)、および第2赤外線検知素子137の出力データに関する差分値ΔV2(n) (=ON最大値V2max−OFF最小値V2min)のそれぞれについて演算する。S240が実行される毎に、周期カウンタ変数nに応じた差分値ΔV1(n)および差分値ΔV2(n)が保存される。
【0067】
続くS250では、周期カウンタ変数nを1加算する処理(n=n+1)を実行する。
次のS260では、ON最大値およびOFF最小値をそれぞれリセットする処理を行う。具体的には、S110での処理と同じ初期値をON最大値およびOFF最小値のそれぞれに設定する。これにより、白色光源115のON/OFF制御の1サイクルが終了する毎に、ON最大値およびOFF最小値のそれぞれがリセットされる。
【0068】
続くS270では、周期カウンタ変数nが6以上(n≧6)であるか否かを判定しており、肯定判定するとS280に移行し、否定判定するとS170に移行する。
なお、S270は、S240で演算される差分値ΔV1(n)および差分値ΔV2(n)が、それぞれ少なくとも5個以上保存されたか否かを判定するステップであり、5個未満の場合には否定判定してS170〜S270までの処理を繰り返し、5個以上保存されると肯定判定してS280に移行する。
【0069】
S270で肯定判定されてS280に移行すると、S280では、S240で演算された差分値の移動平均値(以下、差分平均値ともいう)を演算・保存する。S280では、S240で演算された最新の5個の差分値における平均値を差分平均値として演算・保存する。
【0070】
このとき、S280では、第1赤外線検知素子135の出力データに関する差分平均値ΔV1ave(n-5)(=(ΔV1(n-5)+ΔV1(n-4)+ΔV1(n-3)+ΔV1(n-2)+ΔV1(n-1))/5 )、および第2赤外線検知素子137の出力データに関する差分平均値ΔV2ave(n-5) (=(ΔV2(n-5)+ΔV2(n-4)+ΔV2(n-3)+ΔV2(n-2)+ΔV2(n-1))/5 )のそれぞれについて演算・保存する。S280が実行される毎に、周期カウンタ変数nに基づいて差分平均値ΔV1ave(n-5)および差分平均値ΔV2ave(n-5)を演算・保存する。
【0071】
続くS290では、容器113の測定空間147に対する呼気(試料ガス)の導入が開始されたか否かを判定しており、肯定判定するとS300に移行し、否定判定すると再びS170に移行する。なお、本実施形態では、流量センサ146から出力される信号に基づいて、呼気(試料ガス)の導入が開始されたか否かを判定している。
【0072】
つまり、S290は、容器113の測定空間147に対する呼気(試料ガス)の導入が開始されたか否かを判定するステップであり、呼気の導入が開始される前は否定判定してS170〜S290までの処理を繰り返し、呼気の導入が開始されると肯定判定してS300に移行する。
【0073】
S290で肯定判定されてS300に移行すると、S300では、ガス導入管144を通じて容器113に導入された呼気(試料ガス)の積算流量値が、予め定められた流量判定値TH1よりも大きいか否かを判定しており、肯定判定するとS300に移行し、否定判定するとS170に移行する。
【0074】
S300は、ガス検出に必要な量の呼気(試料ガス)が容器113に導入されたか否かを判定するステップであり、必要量に満たない場合(積算流量値が流量判定値TH1以下の場合)には否定判定してS170〜S300までの処理を繰り返し、必要量に達した場合(流量積算値が流量判定値TH1よりも大きい場合)には肯定判定してS310に移行する。
【0075】
なお、本実施形態では、呼気1.0[L]に相当する値が流量判定値TH1として設定されている。
S300で肯定判定されてS310に移行すると、S310では、S280で演算された最新の差分平均値(差分平均値ΔV1ave(n-5)および差分平均値ΔV2ave(n-5))を用いて、呼気(試料ガス)に含まれるアルコール濃度(ガス濃度)を演算する。
【0076】
具体的には、まず、第1赤外線検知素子135の出力データとガス濃度との相関関係を示すマップあるいは計算式を用いて、第1赤外線検知素子135の出力データの差分平均値ΔV1ave(n-5)に対応したガス濃度C(n-5)を演算する。なお、マップあるいは計算式については、実際の測定データに基づいて作製する。
【0077】
続くS320では、S310で得られたガス濃度が予め定められたガス濃度判定値TH2よりも大きいか否かを判定しており、肯定判定するとS330に移行し、否定判定するとS340に移行する。
【0078】
S320で肯定判定されてS330に移行すると、S330では、検出したガス濃度の判定結果として「高濃度判定」を設定する。つまり、S330では、S320での判定結果に基づいて、「呼気(試料ガス)に含まれるアルコールの濃度が高濃度である」と判定する処理を行う。
【0079】
S320で否定判定されてS340に移行すると、S340では、検出したガス濃度の判定結果として「低濃度判定」を設定する。つまり、S340では、S320での判定結果に基づいて、「呼気(試料ガス)に含まれるアルコールの濃度が低濃度である」と判定する処理を行う。
【0080】
S330またはS340での処理が完了すると、続くS350では、S330またはS340で設定された判定結果を、図1では図示しない外部機器に対して出力する。
S350での処理が完了すると、本処理(ガス濃度検出処理)を終了する。
【0081】
以上説明したように、ガス濃度検出処理が実行されると、まずは、ヒータ114が起動されて(S120)、第1赤外線検知素子135の温度および第2赤外線検知素子137の温度がいずれも正常範囲になると(S130で肯定判定)、白色光源115のON/OFF制御が行われる(S140)。
【0082】
その後、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データの取得を開始し(S150)、各出力データの移動平均値の演算を開始し(S160)、ON最大値とOFF最小値との差分値を演算し(S240)、差分平均値を演算し(S280)、ガス濃度を演算する(S310)。
【0083】
ここで、図4に、白色光源115のON/OFF状態、第1赤外線検知素子135のセンサ出力(出力データ)、移動平均値の各状態の一例を表したタイミングチャートを示す。なお、図4では、周期カウンタ変数nがn=1〜6である6個のサイクルにおける各状態(換言すれば、第1サイクルT1から第6サイクルT6までの6個のサイクルにおける各状態)を示している。
【0084】
図4に示すように、例えば、第1サイクルT1(n=1)のうち光源ON期間T1aでは、時間経過と共にセンサ出力および移動平均値はいずれも値が増加しており、第1サイクルT1のうち光源OFF期間T1bでは、時間経過と共にセンサ出力および移動平均値はいずれも値が減少している。
【0085】
なお、光源ON期間T1aの期間中は、S220で否定判定されてS170〜S220の処理が繰り返し実行される中で、S170で肯定判定されて、S180が実行される毎に最新の移動平均値と前回処理実行時に保存されたON最大値との比較演算を行い、大きい値をON最大値(ON最大値V1maxおよびON最大値V2max)として保存する。また、光源OFF期間T1bの期間中は、S220で否定判定されてS170〜S220の処理が繰り返し実行される中で、S170で否定判定されて、S210が実行される毎に最新の移動平均値と前回処理実行時に保存されたOFF最小値との比較演算を行い、小さい値をOFF最小値(OFF最小値V1minおよびOFF最小値V2min)として保存する。
【0086】
そして、移動平均値の波形のうち、光源ON期間での最大値がS180で取得されるON最大値V1maxの一例であり、光源OFF期間での最小値がS210で取得されるOFF最小値V1minの一例である。また、図4に示すように、各サイクルにおいて、ON最大値V1maxとOFF最小値V1minとの差分値である差分値ΔV1(n)(=ON最大値V1max−OFF最小値V1min)が演算される。
【0087】
このとき、第2赤外線検知素子137のセンサ出力(出力データ)に関しても、ON最大値V2maxとOFF最小値V2minとの差分値である差分値ΔV2(n)(=ON最大値V2max−OFF最小値V2min)が演算される。
【0088】
そして、第1サイクルT1から第5サイクルT5までの期間(周期カウンタ変数n=1〜5)における第1赤外線検知素子135のセンサ出力(出力データ)に関して差分値ΔV1(n)の演算が行われると(S270で肯定判定)、5個の差分値ΔV1(n) の平均値である差分平均値ΔV1ave(1)が演算される(S280)。このとき、第2赤外線検知素子137のセンサ出力(出力データ)に関しても、5個の差分値ΔV2(n) の平均値である差分平均値ΔV2ave(1)が演算される。
【0089】
このあと、容器113への呼気(試料ガス)の導入が開始されたか否かを判定する期間中(S290)、および、容器113に導入された呼気(試料ガス)がガス検出に必要な量に満たない期間中(流量積算値が流量判定値TH1以下の期間中。S300で否定判定。)には、差分平均値ΔV1ave(n-5)および差分平均値ΔV2ave(n-5)が繰り返し演算される。
【0090】
このような差分平均値の演算については、演算対象期間を1サイクル毎に移動させつつ繰り返し実行される(S170〜S300)。つまり、第1サイクルT1から第5サイクルT5までの期間における差分平均値およびガス濃度の演算が完了すると、次いで、第2サイクルT2から第6サイクルT6までの期間(周期カウンタ変数n=2〜6)における演算が実行され、さらにその後、第3サイクルT3から第7サイクルT7までの期間(周期カウンタ変数n=3〜7)における演算が実行される。
【0091】
そして、容器113に導入された呼気(試料ガス)がガス検出に必要な量に達すると(流量積算値が流量判定値TH1よりも大きい。S300で肯定判定。)、最後に演算された差分平均値ΔV1ave(n-5)および差分平均値ΔV2ave(n-5) に基づいて、ガス濃度が演算される(S310)。
【0092】
[1−3.測定結果]
ここで、本実施形態のガス濃度検出装置1を用いて得られる第1赤外線検知素子135の出力データの差分平均値ΔV1ave(n-5)と、移動平均を用いることなく赤外線検知素子の出力データから算出した差分値ΔVと、を比較するために実施した測定結果について説明する。
【0093】
図5に、第1赤外線検知素子135の出力データの差分平均値ΔV1ave(n-5)と、移動平均を用いることなく赤外線検知素子の出力データから算出した差分値ΔVと、の測定結果を示す。
【0094】
なお、図5では、第1赤外線検知素子135の出力データの差分平均値ΔV1ave(n-5)を実施例として示し、移動平均を用いることなく赤外線検知素子の出力データから算出した差分値ΔVを比較例として示す。
【0095】
図5から判るように、比較例の波形が大きく変動しているのに対して、実施例の波形は変動範囲が小さい。具体的には、図5に示す波形においては、比較例の波形における最大値と最小値との差が12.64[mV]であるのに対して、実施例の波形における最大値と最小値との差が1.59[mV]である。
【0096】
このことから、本実施形態のガス濃度検出装置1は、移動平均を用いない従来の検出装置に比べて、ノイズなどの影響を抑制できることが判る。
[1−4.効果]
以上説明したように、本実施形態のガス濃度検出装置1は、ガス濃度(アルコール濃度)を演算するにあたり、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データをそのまま利用するのではなく、これら出力データの移動平均値を用いてガス濃度を演算する。
【0097】
つまり、ノイズ(外乱因子)などの影響によって、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データが瞬時的に大きく変動した場合であっても、移動平均値に関しては、その変動範囲が測定データの瞬時的な変動範囲よりも小さくなるため、ガス濃度の演算に際して、ノイズ(外乱因子)などの影響を抑制できる。
【0098】
そして、移動平均値の演算に関しては、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データのみならず、差分値ΔV1(n) および差分値ΔV2(n) についても移動平均値(差分平均値ΔV1ave(n-5)、差分平均値ΔV2ave(n-5))を演算・保存する。
【0099】
このように、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データに関して、複数段階にわたり移動平均値を演算することで、ノイズ(外乱因子)などの影響をより一層抑制でき、ガス濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0100】
よって、本実施形態のガス濃度検出装置1によれば、ノイズ等の影響により第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データが変動した場合であっても、ガス濃度の検出精度の低下を抑えることができる。
【0101】
また、本実施形態のガス濃度検出装置1は、容器113に導入された呼気(試料ガス)の積算流量値が流量判定値TH1を超えたか否かを判定することから、容器113に対して呼気が十分に導入されたか否かを判定でき、容器113への呼気の導入が不十分な状況でガス濃度を演算するのを回避できる。
【0102】
つまり、容器113に導入された呼気の積算流量値が流量判定値TH1を超えた時点での最新の差分平均値(差分平均値ΔV1ave(n-5)および差分平均値ΔV2ave(n-5))に基づいて、アルコールガス濃度を演算することで、容器113に呼気が十分に導入された状態でアルコールガス濃度を演算できる。
【0103】
さらに、移動平均値を用いてガス濃度を演算することから、容器113に導入される呼気の積算流量値が流量判定値TH1を超える時期がどのようなタイミングであろうとも、実際の試料ガス(呼気)の濃度に応じた適切な検出結果を得ることができ、ガス濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0104】
よって、本実施形態によれば、容器113への呼気の導入が不十分であることに起因する検出誤差が発生しがたくなり、ガス濃度の検出精度の低下を抑えることができる。
また、本実施形態のガス濃度検出装置1は、ヒータ114を備えており、第1赤外線検知素子135の温度および第2赤外線検知素子137の温度が正常範囲と判定されると(S130で肯定判定)、第1赤外線検知素子135の出力データおよび第2赤外線検知素子137の出力データを用いたガス濃度の検出を実行する。
【0105】
そして、S130での正常範囲は、「第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137の各表面が結露しない温度範囲」である。
【0106】
このことから、第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137の各表面が結露しない正常状態であることを確認した上で、ガス濃度演算を実行することができる。つまり、結露の影響によって、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137の受光量が変動することを抑制でき、測定対象ガスの濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0107】
よって、本実施形態によれば、第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137の各表面が結露しない正常状態であることを確認した上でガス濃度演算を実行できるため、ガス濃度の検出精度の低下を抑えることができる。
【0108】
[1−5.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
人の呼気が試料ガスの一例に相当し、アルコールが測定対象ガスの一例に相当し、容器113が測定セルの一例に相当し、白色光源115が光源の一例に相当する。
【0109】
第1波長選択フィルタ131および第1赤外線検知素子135が第1受光手段の一例に相当し、第2波長選択フィルタ133および第2赤外線検知素子137が第2受光手段の一例に相当する。
【0110】
制御部151が検出手段の一例に相当し、S170を実行する制御部151が移動平均演算手段の一例に相当し、S190を実行する制御部151が最大値演算手段の一例に相当し、S220を実行する制御部151が最小値演算手段の一例に相当する。
【0111】
S250を実行する制御部151が差分値演算手段の一例に相当し、S280を実行する制御部151が差分平均演算手段の一例に相当し、S290を実行する制御部151が積算流量判定手段の一例に相当し、S300を実行する制御部151が濃度演算手段の一例に相当する。
【0112】
ヒータ114がヒータの一例に相当し、S130を実行する制御部151が温度判定手段の一例に相当する。
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0113】
例えば、上記実施形態は、ヒータ114を備えており、ガス濃度検出処理ではS130で肯定判定された場合に、ガス濃度の演算を行う構成であるが、第1波長選択フィルタ131、第2波長選択フィルタ133、第1赤外線検知素子135、第2赤外線検知素子137の各表面が結露しない環境下で用いる場合には、ヒータを備えず、かつガス濃度検出処理でのS120およびS130を省略した構成としても良い。
【0114】
また、ガス濃度検出処理で用いる各種パラメータの判定値(温度条件、時間条件など)は、上記数値に限定されることはなく、適切な判定処理が可能な範囲において用途に応じた任意の値を採ることができる。
【0115】
さらに、S170での移動平均値の演算については、平均値の演算に用いるデータの個数は150個に限られることはなく、用途に応じた任意の値を採ることができる。
また、S290での流量判定値TH1は、「呼気1.0[L]に相当する値」に限られることはなく、用途や目的に応じた任意の値を設定できる。
【符号の説明】
【0116】
1…ガス濃度検出装置、111…赤外線式ガスセンサ、113…容器、114…ヒータ、115…白色光源、117…基部、131…第1波長選択フィルタ、133…第2波長選択フィルタ、135…第1赤外線検知素子、137…第2赤外線検知素子、151…制御部。
図3
図4
図1
図2
図5