特許第6062771号(P6062771)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062771
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20170106BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   F01N3/08 B
   F01N3/18 C
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-45520(P2013-45520)
(22)【出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-173469(P2014-173469A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富久
(72)【発明者】
【氏名】星 作太郎
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−154043(JP,A)
【文献】 特開2008−265803(JP,A)
【文献】 特表2009−508053(JP,A)
【文献】 特開2005−264933(JP,A)
【文献】 特表2013−517410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素水タンクから汲み出された尿素水を尿素水添加弁により排気に添加することで排気を浄化するとともに、前記尿素水タンク内の凍結した尿素水を解凍するためのヒーターを備える内燃機関の排気浄化装置において、
前記ヒーターを内蔵し、前記尿素水タンクから尿素水を汲み出す尿素水ポンプと、
前記尿素水タンク内の尿素水の液面レベルを検知するレベルセンサーと、
前記尿素水タンクの内部に蓄えられた尿素水の温度を算出する温度センサーと、
前記尿素水タンクから前記尿素水添加弁に送られる尿素水の圧力を検知する尿素水圧センサーと、を備え、
前記温度センサーの算出した尿素水の温度が尿素水の凍結温度以下となったときに、前記ヒーターに通電するとともに、前記レベルセンサーの検出値から前記ヒーターへの通電開始時における前記尿素水タンク内の凍結した尿素水の量である初期凍結量を算出し、
前記尿素水の温度が前記凍結温度以下に低下した時点から、前記尿素水圧センサーの検出する尿素水の圧力の低下により前記尿素水ポンプのエア吸引が確認された時点までの尿素水の消費量を算出し、
凍結した状態の尿素水が前記尿素水タンク内に残存し、且つ汲み出し可能な液体の尿素水が前記尿素水タンク内に残存していないときに、凍結した尿素水が残存した状態の前記尿素水タンクに補充可能な量の尿素水の補充を促す通知を行い、
前記尿素水タンクに補充可能な尿素水の量は、前記尿素水タンクの満水容量、前記初期凍結量、及び前記尿素水の消費量に基づいて算出する
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記尿素水タンクの現状における尿素水の補充可能量を推定するとともに、その推定した補充可能量を示す情報とともに前記通知を行う
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素水タンクから汲み出された尿素水を排気に添加することで排気を浄化する内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気浄化装置として、尿素SCR(選択触媒還元:Selective Catalytic Reduction)装置が知られている。尿素SCR装置は、尿素水を排気に添加するとともに、排気熱による尿素水の熱分解及び加水分解で生成されたアンモニアを還元剤として、排気中の窒素酸化物(NOx)を選択還元型触媒上で還元反応させることで、NOxを水と窒素に分解する。こうした尿素SCR装置は、尿素水を貯留する尿素水タンクと、その尿素水タンクから汲み出された尿素水を排気に添加する尿素水添加弁とを備えている。
【0003】
なお、尿素水は−11℃以下になると凍結し始めるため、寒冷時には、尿素水タンク内の尿素水が凍結して、尿素水添加弁に尿素水を供給できなくなることがある。そこで、特許文献1に見られるように、尿素水タンク内にヒーターを設置し、そのヒーターによる加熱で尿素水タンク内の凍結した尿素水を解凍するようにした尿素SCR装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−115784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関が寒冷下で停止したまま長時間放置されていた場合には、尿素水タンク内の尿素水が全て凍結した状態で内燃機関が始動されることがある。こうした場合、内燃機関の始動後、ヒーターによる加熱が開始されてその周囲から徐々に尿素水が解凍され、その溶け出した尿素水がポンプにより汲み出されて尿素水添加弁に供給される。ところが、解凍速度を上回る速度で尿素水が消費されると、やがては、解凍された尿素水が消費され尽してしまい、排気に尿素水を添加できなくなる。さらに、ヒーター周囲の尿素水が全て汲み出されると、尿素水タンク内に残存する凍結した尿素水の、ヒーターの周囲の部分に空洞が形成されてしまう。こうした場合、ヒーターの熱が凍結した尿素水に伝わり難くなって、尿素水の解凍が、ひいては尿素水添加の再開が遅れてしまう。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、凍結による尿素水添加の停滞の抑制をより好適に行うことのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する内燃機関の排気浄化装置は、尿素水タンクから汲み出された尿素水を尿素水添加弁により排気に添加することで排気を浄化するとともに、尿素水タンク内の凍結した尿素水を解凍するためのヒーターを備える内燃機関の排気浄化装置において、ヒーターを内蔵し、尿素水タンクから尿素水を汲み出す尿素水ポンプと、尿素水タンク内の尿素水の液面レベルを検知するレベルセンサーと、尿素水タンクの内部に蓄えられた尿素水の温度を算出する温度センサーと、尿素水タンクから尿素水添加弁に送られる尿素水の圧力を検知する尿素水圧センサーと、を備え、温度センサーの算出した尿素水の温度が尿素水の凍結温度以下となったときに、ヒーターに通電するとともに、レベルセンサーの検出値からヒーターへの通電開始時における尿素水タンク内の凍結した尿素水の量である初期凍結量を算出し、尿素水の温度が凍結温度以下に低下した時点から、尿素水圧センサーの検出する尿素水の圧力の低下により尿素水ポンプのエア吸引が確認された時点までの尿素水の消費量を算出し、凍結した状態の尿素水が尿素水タンク内に残存し、且つ汲み出し可能な液体の尿素水が尿素水タンク内に残存していないときに、凍結した尿素水が残存した状態の尿素水タンクに補充可能な量の尿素水の補充を促す通知を行い、尿素水タンクに補充可能な尿素水の量は、尿素水タンクの満水容量、初期凍結量、及び尿素水の消費量に基づいて算出するようにしている。
【0008】
上記構成では、尿素水タンク内に尿素水は残っていても、その尿素水が凍結しているために汲み出しできない状態となったときには、凍結した尿素水が残存した状態の尿素水タンクに補充可能な量の尿素水の補充を促す通知が行われる。この通知に従って尿素水タンクに尿素水を補充すれば、補充した尿素水により排気への尿素水の添加が可能となる。加えて、補充された尿素水を媒体としてヒーターの熱が凍結した尿素水に伝わるようになり、尿素水の解凍が促進されるようにもなる。なお、このときには、尿素水タンク内に凍結した尿素水が残存しているため、尿素水タンクの尿素水の残量が実際に少なくなったときと同様に尿素水を補充すると、尿素水が入り切らずに尿素水タンクから溢れてしまうことがある。その点、上記構成では、凍結した状態の尿素水が残存した状態で補充可能な量の尿素水の補充を促すよう通知がなされるため、尿素水を過剰に補充しないように注意を喚起することができる。したがって、上記構成によれば、凍結による尿素水添加の停滞の抑制をより好適に行うことができる。
【0009】
なお、こうした内燃機関の排気浄化装置において、尿素水の補充量をより的確に指示するには、尿素水タンクの現状における尿素水の補充可能量を推定するとともに、その推定した補充可能量を示す情報とともに通知を行うようにすると良い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】内燃機関の排気浄化装置の一実施形態についてその全体構成を模式的に示す略図。
図2】(a)〜(c)同実施形態の排気浄化装置における尿素水タンクの解凍不良に至る過程を示す略図。
図3】同実施形態に適用される補充通知ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
図4】凍結開始からの経過時間に応じた尿素水解凍量の推移の一例を示すタイムチャート。
図5】同実施形態に適用される尿素水残量推定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の内燃機関の排気浄化装置を具体化した一実施の形態を、図1図5を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態の排気浄化装置は、車載用のディーゼル機関に適用されるものとなっている。
【0012】
図1に示すように、ディーゼル機関10の排気通路11には、ディーゼル機関10の本体側から順に、ディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF:Diesel Particulate Filter)12、SCR触媒ユニット13、及び酸化触媒ユニット14が配設されている。また、排気通路11におけるDPF12とSCR触媒ユニット13との間の部分には、排気中に尿素水を添加する尿素水添加弁15が設置されている。さらに、排気通路11における酸化触媒ユニット14の下流には、酸化触媒ユニット14を通過した排気のNOxレベルを検出するNOxセンサー28が配設されている。
【0013】
DPF12は、多孔質セラミクスにより形成され、排気中のPM(粒子状物質)を捕集するフィルターとして機能する。本実施形態に採用されるDPF12には、白金系の貴金属触媒が担持されており、フィルター再生制御での昇温性能の向上が図られている。フィルター再生制御は、圧縮行程における追加の燃料噴射、いわゆるポスト噴射などにより、DPF12に流入する排気に未燃燃料が添加される。DPF12に未燃燃料が流入すると、その未燃燃料のHC成分が貴金属触媒により酸化され、その反応熱でDPF12の内部温度が上昇する。フィルター再生制御では、こうした反応熱による昇温で、DPF12の内部温度をPMの着火温度以上に昇温させることで、捕集されたPMを燃焼させて除去している。
【0014】
一方、SCR触媒ユニット13は、選択触媒還元により排気中のNOxを浄化する排気浄化ユニットであり、そのセル表面には、アンモニアを還元剤としてNOxの還元反応を促進するSCR触媒が担持されている。還元剤となるアンモニアは、尿素水添加弁15により添加された尿素水が排気熱で熱分解及び加水分解されることで生成される。なお、SCR触媒ユニット13の下流に配設された酸化触媒ユニット14は、SCR触媒ユニット13を通り抜けたアンモニアを酸化反応により分解して除去する役割を担っている。
【0015】
さらに、本実施形態の排気浄化装置には、尿素水添加弁15に供給される尿素水を貯留する尿素水タンク16が設けられている。尿素水タンク16には、その内部に蓄えられた尿素水を汲み出す尿素水ポンプ17が設置されている。尿素水ポンプ17には、電熱式のヒーター18が内蔵されている。また、尿素水タンク16には、内部に蓄えられた尿素水の温度(以下、尿素水温Trと記載する)を検知する尿素水温センサー19と、尿素水タンク16内の尿素水の液面レベルを検知するレベルセンサー20とが設置されている。本実施形態に採用されるレベルセンサー20は、尿素水の液面レベルを複数の段階で離散的に検知するように構成されている。なお、以下の説明では、レベルセンサー20の検知結果により示される液面レベルの最低値をレベル「LO」と記載する。
【0016】
尿素水ポンプ17は、尿素水配管21を介して尿素水添加弁15に接続されている。尿素水配管21には、尿素水ポンプ17から尿素水添加弁15に送られる尿素水の圧力(以下、尿素水圧Prと記載する)を検知する尿素水圧センサー22が設置されている。
【0017】
一方、ディーゼル機関10の制御を司る電子制御ユニット(ECU:Electric Control Unit)23には、上述の尿素水温センサー19、レベルセンサー20及び尿素水圧センサー22に加え、車両の外気温Toを検知する外気温センサー24など、車両の各部に設けられた各種のセンサーが信号線を介して接続されている。そして、ECU23は、ディーゼル機関10の制御の一環として、尿素水添加弁15や尿素水ポンプ17の駆動制御やヒーター18の通電制御を実施する。
【0018】
さらに、ECU23には、車両のインストルメントパネルに設けられた尿素水補充インジケーター25、NOx悪化インジケーター26及び補充可能量インジケーター27が接続されている。尿素水補充インジケーター25は、尿素水タンク16への尿素水の補充が必要なときに点灯され、NOx悪化インジケーター26は、尿素水添加の停止によりNOx排出が悪化した状態となったときに点灯される。また、補充可能量インジケーター27には、尿素水タンク16に補充可能な尿素水の量が数値等で表示されるようになっている。
【0019】
ECU23は、レベルセンサー20の検出結果から尿素水タンク16内の尿素水の液面レベルがレベル「LO」まで低下していることが確認されると、尿素水補充インジケーター25を点灯させて、運転者に尿素水の補充を促す。また、ECU23は、NOxセンサー28によって排気のNOxレベルの悪化が検出されると、NOx悪化インジケーター26を点灯させて、NOxレベルの悪化を運転者に警告している。
【0020】
また、ECU23は、尿素水圧センサー22の検出する尿素水圧Prの低下により、尿素水ポンプ17が尿素水を汲み出せず、空気を吸引する状態となっていることが、すなわち尿素水ポンプ17のエア吸引が確認されたときにも、同様の対応を図るようにしている。なお、こうした尿素水ポンプ17のエア吸引は、尿素水タンク16内の尿素水が空となったときに加え、以下のような尿素水の解凍不良によっても生じることがある。
【0021】
図2(a)〜(c)を参照して、そうした解凍不良の発生過程を説明する。
尿素水タンク16内の尿素水は、その温度が自身の凍結温度以下に低下すると凍結してしまう。そこで、ECU23は、尿素水温センサー19の検出した尿素水温Trが尿素水の凍結温度以下となると、尿素水タンク16内に設置されたヒーター18に通電し、その発熱で凍結した尿素水を解凍させている。
【0022】
ここで、同図(a)に示すように、尿素水タンク16内の尿素水が全面的に凍結した状態でヒーター18の通電を開始すると、同図(b)に示すように、ヒーター18の周囲から尿素水が溶け始める。そして、その溶けた尿素水が尿素水ポンプ17に汲み出されて、排気への尿素水の添加が行われる。
【0023】
ここで、排気への添加による尿素水の消費が解凍速度を上回ると、溶かされた液体の尿素水の量が減少していき、やがては同図(c)に示すように、尿素水タンク16内には、凍結した尿素水のみが残されるようになる。そのため、このときにも、尿素水ポンプ17により、空気が吸引されるようになる。
【0024】
なお、このときには、解凍された尿素水が汲み出されてしまったことで、尿素水タンク16内の凍結した尿素水のヒーター18の周囲の部分に空洞が形成される。その結果、ヒーター18の熱が凍結した尿素水に伝わり難くなり、尿素水の解凍が遅れるようになる。
【0025】
こうした場合にも、エア吸引の確認に応じた尿素水補充インジケーター25の点灯に従って、尿素水タンク16に尿素水を補充すれば、空洞の部分に液体の尿素水が充填される。そして、その充填された液体の尿素水が熱を伝播する媒体となって、ヒーター18の熱が凍結した尿素水に伝わり易くなる。しかしながら、このときには、尿素水タンク16内に凍結した尿素水が残存しているため、尿素水タンク16には、実際に尿素水残量が低下したときよりも少ない量の尿素水しか入らない。そのため、凍結した尿素水が残存しているときに、実際の尿素水残量の低下時と同様に尿素水を補充すると、尿素水が入り切らずに尿素水タンク16から溢れてしまう虞がある。
【0026】
そこで、本実施形態では、凍結した状態の尿素水が尿素水タンク16内に残存し、且つ汲み出し可能な液体の尿素水が尿素水タンク16内に残存していないときには、現状の凍結した尿素水が残存した状態の尿素水タンク16に補充可能な量の尿素水の補充を促す通知を行うようにしている。
【0027】
図3は、こうした本実施形態の排気浄化装置に適用される補充通知ルーチンのフローチャートを示している。同ルーチンの処理は、ECU23により、規定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0028】
さて、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100において、尿素水ポンプ17のエア吸引が発生しているか否かが判定される。本実施形態では、エア吸引の発生の有無を、尿素水圧センサー22の検出する尿素水圧Prが規定値以下の状態が、規定時間以上継続しているか否かで判定している。
【0029】
ここで、エア吸引が発生していなければ(S100:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エア吸引が発生していれば(S100:YES)、処理がステップS101に進められる。
【0030】
ステップS101に処理が進められると、そのステップS101において、エア吸引時処理の実施が指示される。本実施形態では、エア吸引時処理として、排気への尿素水添加の中止と、尿素水ポンプ17の昇圧制御とを実施している。尿素水ポンプ17の昇圧制御は、尿素水ポンプ17の駆動電力を増大して、その吸引力を増強することで、配管の詰り等による一時的な尿素水の吸引不良を解消するために行われる。ちなみに、こうした昇圧制御中に尿素水ポンプ17は、空転による発熱を防ぐため、規定時間の運転と規定時間の停止とを交互に繰り返すよう、間欠駆動される。
【0031】
続いて、ステップS102において、レベルセンサー20による液面レベルの検知結果がレベル「LO」の状態が規定時間以上継続しているか否かが判定される。ここで、レベル「LO」の検知結果が規定時間以上継続してなければ(NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、規定時間以上継続していれば(YES)、ステップS103に処理が進められ、そのステップS103において、尿素水補充インジケーター25が点灯される。
【0032】
尿素水補充インジケーター25が点灯されると、続くステップS104において、尿素水タンク16内の凍結した尿素水の解凍不良の有無が判定される。すなわち、そのときの尿素水ポンプ17のエア吸引が、凍結した状態の尿素水が尿素水タンク16内に残存し、且つ汲み出し可能な液体の尿素水が尿素水タンク16内に残存していない状況となったことで発生したものであるか否かが判定される。
【0033】
本実施形態では、そうした解凍不良の判定は、下記条件(A)が成立し、且つ下記条件(B1)及び(B2)の少なくとも一方が成立しているか否かで行われる。
(A)尿素水温Trが尿素水の凍結温度以下となっていること。
【0034】
(B1)尿素水タンク16の尿素水残量の推定値(以下、推定尿素水残量Vtと記載する)が、レベル「LO」時の値を十分に上回っていること。
(B2)上記条件(A)の成立から現在までの期間における添加による尿素水の消費量が、同期間に解凍された尿素水の量の推定値(以下、推定解凍量Mxと記載する)を十分に上回っていること。
【0035】
なお、推定尿素水残量Vt及び推定解凍量Mxの算出態様は、後で説明する。また、本実施形態では、添加の実施毎の尿素水の添加時間と尿素水添加弁15の尿素水添加率(単位時間当りの尿素水添加量)との乗算値を、添加の実施毎に積算することで尿素水の消費量が求められている。
【0036】
さて、上記ステップS104において、解凍不良無しと判定されると(NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
一方、上記ステップS104において解凍不良有りと判定されれば(S104:YES)、ステップS105において、現状の凍結した尿素水が残存した状態で尿素水タンク16に補充可能な尿素水の量を示す補充可能量Vxが算出される。本実施形態での補充可能量Vxの算出態様については、後に詳しく説明する。そして、ステップS106において、ここで算出した補充可能量Vxが補充可能量インジケーター27に表示された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0037】
ちなみに、本実施形態の適用される車両のマニュアルには、尿素水補充インジケーター25の点灯のみにより尿素水の補充通知が行われたときには、規定量以上の尿素水補充することが指示されている。なお、この規定量の値には、車両が規定の距離を走行する間の尿素水添加に必要な尿素水量が設定されている。また、同マニュアルには、尿素水補充インジケーター25の点灯と共に補充可能量インジケーター27に補充可能量Vxが表示されたときには、その表示された量の尿素水を尿素水タンク16に補充することが記述されている。
【0038】
(推定解凍量Mxの算出)
本実施形態では、ヒーター18の加熱による解凍開始後の経過時間t、尿素水温Tr及び初期凍結量V0の関数式を用いて推定解凍量Mxを算出している。初期凍結量V0は、解凍開始時における尿素水タンク16内の凍結した尿素水の量であり、その値は、解凍開始時の液面レベルの検出値より求められている。なお、図4は、凍結開始からの経過時間tに応じた推定解凍量Mxの推移の一例を示している。
【0039】
(推定尿素水残量Vtの算出)
図5に、推定尿素水残量Vtの算出に用いられる尿素水残量推定ルーチンのフローチャートを示す。同ルーチンの処理は、ECU23により、規定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0040】
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS200において、検出後の尿素水消費を考慮した液面レベル検出値の単純平均値Navが求められる。単純平均値Navは、尿素水タンク16の液面レベル検出値からその検出後の尿素水消費量を減算した値を平均したもので、下式(1)に基づき算出される。下式(1)において、「Ni」(i:任意の整数)は、i回前の制御周期における液面レベル検出値を示している。また、「Ui」は、i回前の制御周期から(i−1)回前の制御周期までの期間における尿素水の消費による液面レベルの低下量を示しており、その値は、同期間における尿素水の消費量から求められる。さらに、下式(1)の「n」は、単純平均値Navの算出に用いる液面レベル検出値の数を示している。
【0041】

Nav={(N1−U1)+(N2−U1−U2)+・・・+
(Nn+1−U1−U2−・・・−Un-1−Un)}/n …(1)

続いて、ステップS201において、こうして求められた単純平均値Navと現在の液面レベル検出値N0との差(=|N0−Nav|)が規定の判定値γ以下であるか否かにより、液面が安定しているか否かが判定される。ここで、それらの差が判定値γを超えていれば(S201:NO)、液面は安定していないと判断され、そのままステップS203に処理が進められる。一方、それらの差が判定値γ以下であれば(S201:YES)、液面は安定していると判断され、ステップS202において、下式(2)に応じて推定尿素水残量Vtの値が更新された後、ステップS203に処理が進められる。なお、下式(2)での「Vl」は、現在の液面レベル検出値から想定される尿素水タンク16の尿素水残量を示している。また、「ε」は、規定の徐変定数である。
【0042】

Vt=Vt−(Vt−Vl)/ε …(2)

ステップS203に処理が進められると、そのステップS203において、推定尿素水残量Vtの値が、前回の制御周期から今回の制御周期までの期間における尿素水の消費量Utをそれまでの推定尿素水残量Vtの値から減算した値に更新された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。すなわち、本実施形態では、液面が安定しているときの尿素水タンク16の尿素水残量を基準とし、排気添加により消費された尿素水の量を減算していくことで推定尿素水残量Vtを求めている。
【0043】
(補充可能量Vxの算出)
補充可能量Vxは、下式(3)により求められる。下式において、「V0」は、上述の初期凍結量を、「V」は、尿素水タンク16の満水容量をそれぞれ示している。また、「U」は、尿素水の凍結が確認された時点、すなわち尿素水温Trが尿素水の凍結温度以下に低下した時点からエア吸引が確認された時点までの期間における尿素水の消費量を示している。
【0044】

Vx=V−V0+U …(3)

次に、以上のように構成された本実施形態の作用を説明する。
【0045】
本実施形態の排気浄化装置では、尿素水タンク16内の尿素水が実際に少なくなると、尿素水の補充を促すための通知が、尿素水補充インジケーター25の点灯のみにより行われる。上述したようにマニュアルには、このときには、車両の規定の距離の走行に必要な量以上の尿素水を尿素水タンク16に補充することが指示されている。
【0046】
一方、尿素水タンク16内に尿素水は残っていても、その尿素水が凍結していて汲み出せない状態となっているときには、尿素水の補充を促す通知が、尿素水補充インジケーター25の点灯と、補充可能量インジケーター27への補充可能量Vxの表示とにより行われる。上述したようにマニュアルには、こうした場合、補充可能量インジケーター27に表示された補充可能量Vx分の尿素水を尿素水タンク16に補充することが指示されている。
【0047】
このように本実施形態では、尿素水タンク16の尿素水残量が実際に少なくなっているときと、尿素水タンク16に尿素水は残存しているものの、凍結のために汲み出せないときとでは、異なる態様で尿素水の補充を促す通知が行われる。しかも、後者の場合、尿素水の補充を促す通知が、現状の尿素水タンク16の補充可能な尿素水量の推定値である補充可能量Vxの表示とともに、尿素水の補充を促す通知が行われるようになる。
【0048】
以上の本実施の形態の内燃機関の排気浄化装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、尿素水タンク16内に尿素水は残っているものの、凍結のため汲み出せない状態となっているときには、補充可能量インジケーター27への補充可能量Vxの表示と共に、尿素水補充インジケーター25が点灯される。そのため、凍結した尿素水が残存していても、尿素水タンク16から溢れないように適量の尿素水を補充することが可能となる。また、尿素水を補充すれば、排気への尿素水の添加の再開が可能となることは勿論のこと、補充した尿素水を媒体としてヒーター18の熱が凍結した尿素水に伝わり易くなり、尿素水の解凍が促進されるようにもなる。したがって、本実施形態によれば、凍結による尿素水添加の停滞の抑制をより好適に行うことができる。
【0049】
(2)本実施形態では、尿素水タンク16の現状における尿素水の補充可能量を推定するとともに、凍結した尿素水の残存時における尿素水の補充を促す通知を、その推定した補充可能量を示す情報とともに行っている。そのため、凍結した尿素水が残存する尿素水タンク16に補充すべき尿素水の量をより的確に指示することができる。
【0050】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態では、初期凍結量V0、及び尿素水が凍結してからエア吸引が発生するまでの尿素水の消費量Uとに基づいて補充可能量Vxを算出していたが、それ以外の方法でその算出を行うようにしても良い。例えば、尿素水の凍結が確認されたときの尿素水タンク16の液面レベルを確認し、液面よりも上の部分の尿素水タンク16の容量を補充可能量Vxとして求めるようにすることも可能である。また、推定解凍量Mxや推定尿素水残量Vtの算出方法も、適宜変更しても良い。
【0051】
・上記実施形態では、尿素水補充インジケーター25の点灯によって尿素水の補充を促す通知を、補充可能量インジケーター27での数値表示によって尿素水の補充可能量を示す情報の通知を、それぞれ行うようにしていたが、これらの通知をそれ以外の態様で行うようにしても良い。例えば、補充可能量Vxは、グラフで表示するようにすることもできる。また、それらの通知を、車両情報表示機能の付いたカーナビゲーションの画面等に文字を表示して行ったり、音声で行うようにしたりすることもできる。
【0052】
・上記実施形態では、補充可能量Vxの推定を行うとともに、凍結した尿素水の残存時には、その推定した補充可能量Vxを示す情報とともに尿素水の補充を促す通知を行うようにしていたが、補充可能量Vxを逐次推定せず、予め固定された値を補充可能量Vxとして表示するようにしても良い。すなわち、凍結した尿素水が残存した状態でも尿素水タンク16に入れられる尿素水の量を予め定めておき、凍結した尿素水の残存した状態で尿素水の補充を促す通知を行うときには、毎回その値を補充可能量Vxとして表示するようにしても良い。
【0053】
・上記実施形態では、補充可能量Vxを数値等で表示するようにしていた。そうした表示を行わずとも、凍結した尿素水が残存しているときとそうでないときとで、尿素水の補充を促す通知を異なる態様で行えば、凍結による尿素水添加の停滞の抑制をより好適に行えるようにすることができる。例えば、凍結した尿素水が残存しているときには、尿素水残量が実際に減少したときと異なるインジケーターを点灯させることで、尿素水の補充を促す通知を行うようにする。そして、マニュアルにおいて、各インジケーターの点灯時に異なる量の尿素水を補充することを指示しておけば、それぞれの状況で尿素水補充の適量を運転者に知らしめることが可能である。
【0054】
・上記実施形態では、補充可能量インジケーター27の表示やマニュアルの記述により、凍結した尿素水が残存した状態で補充する際の尿素水の量を具体的に指示するようにしていた。具体的な量の指示を行わなくても、次のようにすれば、凍結による尿素水添加の停滞を抑制はより好適に行えるようになる。すなわち、凍結した尿素水が尿素水タンク16に残存するときと、残存しないときとでは、尿素水の補充を促す通知を異なる態様で行うようにする。そして、尿素水残量の減少による通常の補充時よりも少ない量しか尿素水タンク16に入れられず、尿素水タンク16から溢れないように尿素水を慎重に補充する必要があることを、インジケーターの表示やマニュアルの記述などで指示するようにする。
【0055】
・上記実施形態では、尿素水タンク16内の尿素水の凍結を尿素水温Trにより確認するようにしていたが、外気温Toやディーゼル機関10の吸気温など、尿素水の温度環境に相関を有する他の温度、或いはそうした温度及び尿素水温Trの2つ以上に基づいてそうした確認を行うようにしても良い。
【0056】
・上記実施形態では、尿素水ポンプ17のエア吸引を尿素水圧Prにより確認するようにしていたが、尿素水配管21の尿素水の流量など、他のパラメーターから確認するようにしても良い。
【0057】
・上記実施形態では、補充通知ルーチンにおいて、尿素水ポンプ17のエア吸引処理と共に尿素水補充通知を行うようにしていたが、それらを別々のルーチンで行うようにしても良い。また、エア吸引処理を行う必要がなければ、尿素水の補充通知に係る処理のみを行うようにしても良い。
【0058】
・上記実施形態では、液面レベルがレベル「LO」となっているか否かにより、尿素水の補充の要否を判定していたが、尿素水圧Prの低下により、その判定を行うようにしてしても良い。また、液面レベルがレベル「LO」となること、尿素水圧Prが低下していることの双方の成立をもって、尿素水の補充の必要有りと判定するようにすることも可能である。
【0059】
・上記実施形態では、添加時間及び尿素水添加率の乗算値の積算により尿素水消費量を求めていたが、尿素水配管21の尿素水流量などから求めるようにしても良い。
・上記実施形態では、尿素水タンク16の液面レベルをフロート式のレベルセンサー20により検出していたが、抵抗式や超音波式など、他の方式のセンサーで検出するようにしても良い。
【0060】
・上記実施形態では、尿素水ポンプ17にヒーター18を設置していたが、ヒーター18を尿素水タンク16の他の部位に設置するようにしても良い。また、例えば内燃機関の排気やクーラントの熱を利用して加熱を行うヒーターなど、電熱式以外のヒーターを採用するようにしても良い。
【0061】
・上記実施形態の内燃機関の排気浄化装置は、車載式のディーゼル機関10に適用されていたが、同様の排気浄化装置は、それ以外の内燃機関にも同様或いはそれに準じた態様で適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10…ディーゼル機関、11…排気通路、12…DPF、13…SCR触媒ユニット、14…酸化触媒ユニット、15…尿素水添加弁、16…尿素水タンク、17…尿素水ポンプ、18…ヒーター、19…尿素水温センサー、20…レベルセンサー、21…尿素水配管、22…尿素水圧センサー、23…ECU(電子制御ユニット)、24…外気温センサー、25…尿素水補充インジケーター、26…NOx悪化インジケーター、27…補充可能量インジケーター、28…NOxセンサー。
図1
図2
図3
図4
図5