(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0016】
本発明のゴム組成物に用いる変性ジエン系ゴム成分は、下記式(2)〜(6)で表される結合構造のうちの少なくとも1種を含む連結基を介してジエン系ポリマー鎖が連結され、主鎖にベンゼン環が1〜10モル%導入されたものである。
【化3】
【0017】
但し、式(2)〜(6)において、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を示し、r及びsはそれぞれ0又は1の数を示す。
【0018】
かかる変性ジエン系ゴムは、特に限定するものではないが、2種以上のジエン系ポリマーを、その主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることで分解して分子量を低下させた後、該分解したポリマーを含む系を酸性又は塩基性にすることにより再結合させることにより得ることができる。
【0019】
上記ジエン系ポリマーとしては、共役ジエン化合物と共役ジエン化合物以外の他のモノマーとの共重合体も含まれる。他のモノマーとしては、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種ビニル化合物が挙げられる。これらのビニル化合物は、いずれか1種でも2種以上を併用してもよい。
【0020】
ジエン系ゴムポリマーとしては、より詳細には、分子内にイソプレンユニット及び/又はブタジエンユニットを有する各種ゴムポリマーが好ましく、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム等が挙げられる。これらの中でも、天然ゴム、合成イソプレンゴムを用いることが好ましい。
【0021】
変性対象となるジエン系ゴムポリマーとしては、数平均分子量が6万以上のものを用いることが好ましい。好ましい実施形態として、常温(23℃)で固形状のポリマーを対象とするためである。例えば、ゴムポリマーをそのまま材料として加工する上で、常温において力を加えない状態で塑性変形しないためには、数平均分子量が6万以上であることが好ましい。ここで、固形状とは、流動性のない状態である。ジエン系ポリマーの数平均分子量は、6万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。
【0022】
変性対象となる上記ポリマーとしては、溶媒に溶解したものも用いることができるが、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちラテックスを用いることが好ましい。水系エマルションを用いることにより、ポリマーを分解させた後に、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させることで再結合反応を生じさせることができる。水系エマルションの濃度(ポリマーの固形分濃度)は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。固形分濃度が高くなりすぎるとエマルジョン安定性が低下してしまい、反応場のpH変動に対してミセルが壊れやすくなり、反応に適さない。逆に固形分濃度が小さすぎる場合は反応速度が遅くなり、実用性に欠ける。
【0023】
ポリマーの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、上記ポリマーの水系エマルションに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の塩化物や有機化合物との塩や錯体などの金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、該金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
【0024】
2種以上のジエン系ポリマーを酸化開裂させる場合、各ポリマーを別々の系でそれぞれ酸化剤を加えて酸化開裂してもよく、あるいはまた、2種以上のポリマーを予め混合してから混合系に酸化剤を加えることにより一緒に酸化開裂してもよい。
【0025】
上記酸化開裂によりポリマーが分解し、末端にカルボニル基(>C=O)やアルデヒド基(−CHO)を持つポリマーが得られる。例えば、変性対象となるポリマーが、イソプレンユニットやブタジエンユニットを持つ場合、下記式(1)で表される構造を末端に持つポリマーが生成される。
【化4】
【0026】
式中、R
3は、水素原子又はメチル基であり、イソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
3がメチル基、他方の開裂末端ではR
3が水素原子となり、ブタジエンユニットが開裂した場合、開裂末端はともにR
3が水素原子となる。より詳細には、分解したポリマーは、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(1)で表される構造を持ち、すなわち、下記式(7)及び(8)に示すように、ジエン系ポリマー鎖の一方の末端又は両末端に、式(1)で表される基が直接結合したポリマーが生成される。
【化5】
【0027】
式(7)及び(8)において、R
3は水素原子又はメチル基であり、波線で表した部分がジエン系ポリマー鎖である。例えば、天然ゴムを分解した場合、波線で表した部分はイソプレンユニットの繰り返し構造からなるポリイソプレン鎖である。
【0028】
上記酸化開裂によりポリマーを分解することにより、分子量が低下する。分解後のポリマーの数平均分子量は特に限定されないが、3百〜50万であることが好ましく、より好ましくは5百〜10万であり、更に好ましくは1千〜5万である。なお、分解後の分子量の大きさにより、再結合後のベンゼン環量を調節することができるが、分解時の分子量が小さすぎると、同一分子内での結合反応が生じやすくなる。
【0029】
以上のようにしてポリマーを分解させた後、分解したポリマーと次式(A)で表されるベンゼン環を構造に有する2官能性モノマーとを含む反応系を、酸性の場合は塩基性に、塩基性の場合は酸性になるように液性を変化させることにより再結合させる。
【化6】
【0030】
上記式(A)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1〜10のアルキレン基を示し、p及びqは0又は1の数を示す。X及びYはそれぞれアルデヒド基又はカルボニル基を示す。カルボニル基の例としては、カルボキシル基、炭素数1〜5のアルキル基を有するケト基(−C(=O)R'、R'の炭素数:1〜5)、炭素数1〜5のアルキル基を有するエステル基(−C(=O)OR"、R"の炭素数:1〜5)等が挙げられる。
【0031】
式(A)で表されるベンゼン環を構造に有する2官能性モノマーは、ビニル基を少なくとも1つ有する2官能性モノマーの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させて得ることができる。この酸化開裂反応は上記ポリマーの酸化開裂反応に準じて行うことができ、ポリマーの酸化開裂反応と同時に行うこともできる。従って、炭素−炭素二重結合を主鎖に有するポリマーとビニル基を少なくとも1つ有する2官能性モノマーとを原料として仕込み、この系の酸化開裂反応を行って分子量を低下させたポリマーと式(A)で表される2官能モノマーとを含む系とし、これの酸塩基性を変化させることにより、本発明の目的とするベンゼン環が導入された変性ポリマーを得ることができる。
【0032】
上記ビニル基を少なくとも1つ有する2官能性モノマーの好ましい具体例としては、ジビニルベンゼン、ジプロペニルベンゼンジブテニルベンゼン、ジペンテニルベンゼン、ジヘキセニルベンゼン、ジヘプテニルベンゼン、ジオクテニルベンゼン、ジノネニルベンゼン、ジデセニルベンゼン、ジウンデセニルベンゼン、ジドデセニルベンゼン(いずれもオルト、メタ、パラの位置異性体、ノルマル、イソ、ターシャル等の構造異性体を含む)等が挙げられる。
【0033】
分解したポリマーと式(A)で表されるベンゼン環を構造に有する2官能性モノマーとを含む反応系を酸性又は塩基性にすることにより、開裂とは逆反応である結合反応が優先的に進行するようになる。その際、上記式(1)の構造は2種類の互変異性をとり、元の炭素−炭素二重結合構造に結合するものと、下記式(2)〜(6)で表される結合構造を形成するものとに分かれる。本実施形態では、反応場のpHを制御することにより、アルドール縮合反応を優先させて、式(2)〜(6)で表される結合構造を含むポリマーを生成することができる。詳細には、反応系、特に水系エマルションの液中には安定化のためpH調節されているものがあり、分解に使用する方法や薬品の種類や濃度により、分解時のpHが酸性か塩基性のどちらかに寄る。そのため分解時の反応系が酸性になっている場合には、反応系を塩基性にすることが好ましく、反対に分解時の反応系が塩基性になっている場合には、反応系を酸性にすることが好ましい。
【化7】
【0034】
分解したポリマーと式(A)で表される官能性モノマーとを反応させる場合は、上記式(2)〜(6)において、Rは上記式(A)のR
1又はR
2に由来する炭素数1〜10のアルキレン基を示す。これらの式におけるベンゼン環には、R
1に由来するアルキレン基とR
2に由来するアルキレン基とがそれぞれ結合している。従って、例えばRがR
1に由来するときは、rは及びsはそれぞれpと同じ0又は1の数を示し、そのベンゼン環にはR
2に由来するアルキレン基がさらに結合しており、これらR
1に由来する基の結合構造とR
2に由来する基の結合構造とは、同じでも異なっていてもよい。言い換えれば、一つのベンゼン環に結合する上記式(2)〜(6)で表される2つの結合構造は、同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
ここで、R
3が水素原子である末端構造を持つポリマーとアルデヒド基を有する式(A)で表される2官能性モノマーが結合する場合、アルドール縮合反応により式(4)で表される結合構造となり、これから水が脱離することにより式(5)で表される結合構造となる。R
3が水素原子である末端構造を持つポリマーとカルボニル基を有する式(A)で表される2官能性モノマーが結合する場合、アルドール縮合反応により式(3)で表される結合構造となり、これから水が脱離することにより式(2)で表される結合構造となる。アルコキシシリル基同士が結合すると、式(6)で表される結合構造となる。
【0036】
なお、例えばR
1がメチル基である末端構造を持つポリマーとカルボニル基を有する式(A)で表される2官能性モノマーとが結合する場合など、上記式(2)〜(6)以外の結合構造が生成される場合もあるが、そのような結合構造は微量であり、式(2)〜(6)の結合構造が主として生成される。
【0037】
結合反応させる際の反応系のpHは、反応系を塩基性にする場合、7.5〜13であることが好ましく、より好ましくは8〜10である。一方、反応系を酸性にする場合、4〜6.8であることが好ましく、より好ましくは5〜6である。なお、酸性条件にする際、酸性度を上げすぎてしまうと、ラテックスのミセルを破壊してしまうおそれがある。pHの調整は、反応系に酸や塩基を加えることにより行うことができ、特に限定されないが、例えば、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
結合反応に際しては、pHの調節に用いられる酸や塩基が結合反応の触媒となり、さらに反応を調節するための触媒としてピロリジン−2−カルボン酸を用いることもできる。
【0039】
以上のように結合反応させた後、水系エマルションを凝固乾燥させることにより、常温で固形状の変性ポリマーが得られる。
【0040】
本実施形態によれば、上記のように結合反応させることにより、上記式(2)〜(6)で表される結合構造が主鎖中に導入されて、ベンゼン環を主鎖に有する変性ポリマーが得られる。すなわち、実施形態に係る変性ポリマーは、上記式(2)〜(6)で表される結合構造の少なくとも1種を含む連結基を分子内に有し、ジエン系ポリマー鎖がこれらの連結基を介して直接連結された構造を有する。
【0041】
ここで、ジエン系ポリマー鎖とは、上記変性対象であるジエン系ポリマーの分子鎖のうちの一部の分子鎖であり、例えば、共役ジエン化合物の単独重合体の場合、該共役ジエン化合物からなる構成ユニットをA
1として、−(A
1)
n−で表されるA
1の繰り返し構造である(nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、より好ましくは50〜1000である)。また、二元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA
1及びA
2として(A
1とA
2の少なくとも一方は共役ジエン化合物からなるユニットであり、その他のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A
1)
n−(A
2)
m−で表されるA
1及びA
2の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,mはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、より好ましくは50〜1000である)。また、三元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA
1、A
2及びA
3として(A
1とA
2とA
3の少なくとも1つは共役ジエン化合物からなるユニットであり、その他のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A
1)
n−(A
2)
m−(A
3)
p−で表されるA
1、A
2及びA
3の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,m,pはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。四元共重合体以上も同様である。
【0042】
より具体的には、例えば、変性対象として天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いた場合、ジエン系ポリマー鎖は、イソプレンユニットの繰り返し構造からなる、下記式(9)で表されるポリイソプレン鎖である。このジエン系ポリマー鎖としては、これらのポリイソプレン鎖やポリブタジエン鎖などのジエン系ゴムポリマー鎖であることが好ましい。なお、式(9)中、nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である。
【化8】
【0043】
上記結合構造は、変性ポリマーの1分子中に1つ以上含まれ、通常は1分子中に複数の結合構造が含まれる。複数含まれる場合、上記式(2)〜(6)で表される結合構造のいずれか1種を複数含んでもよく、2種以上のものが含まれてもよい。結合構造の含有率は、特に限定されないが、式(2)〜(6)の結合構造の合計で、0.01〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15モル%、更に好ましくは1〜10モル%である。ここで、結合構造の含有率(変性率)は、変性ポリマーを構成する全構成ユニットのモル数に対する結合構造のモル数の比率であり、例えば、天然ゴムの場合、変性ポリマーの全イソプレンユニットと結合構造のモル数の合計に対する結合構造のモル数の比率である。
【0044】
式(2)〜(6)で表される各結合構造の含有率は特に限定されないが、それぞれ25モル%以下(即ち、0〜25モル%)であることが好ましい。例えば、天然ゴムや合成イソプレンゴムの場合(即ち、ジエン系ポリマー鎖がイソプレンユニットを有する場合)、通常、式(2)〜(6)で表される結合構造が全て含まれるが、式(2)で表される結合構造が主として含まれ、その場合、式(2)で表される結合構造の含有率は0.01〜25であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15モル%、更に好ましくは1〜10モル%である。
【0045】
変性ポリマーの数平均分子量は6万以上であることが好ましく、より好ましくは6万〜100万であり、更に好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜50万である。このように変性ポリマーの分子量は、上記の通り2官能性モノマーを介して再結合させることにより、元のポリマーと同等に設定することが好ましく、これにより、分子量を低下させず、従って物性への悪影響を回避しながら、ポリマーの主鎖にベンゼン環を導入することができる。もちろん、元のポリマーよりも分子量が小さなものを得てもよい。なお、変性ポリマーの重量平均分子量は、特に限定しないが、7万以上であることが好ましく、より好ましくは10万〜150万であり、更に好ましくは30万〜100万である。
【0046】
本実施形態によれば、上記のように、主鎖の二重結合を酸化開裂させることによりポリマーを分解して分子量を一旦低下させた後、分解したポリマーと下記式(A)で表されるベンゼン環を構造に有する2官能性モノマーとを含む系の酸塩基性を変化させることにより、分解したポリマーと2官能性モノマーとを結合させて、ベンゼン環が導入された変性ポリマーを生成するので、ポリマーの単分散化により、より均一な構造に収束させることができる。すなわち、変性ポリマーの分子量分布を元のポリマーの分子量分布よりも小さくすることができる。これは、酸化開裂により分解したポリマーはより短いものほど反応性が高く、結合しやすいので、短いポリマーが少なくなることで分子量の均一化が図られると考えられる。
【0047】
また、本実施形態によれば、二重結合を解離させる薬剤である酸化剤の種類や量、反応時間などを調整することにより酸化開裂させる反応を制御し、また、再結合させる際のpHや触媒、反応時間などを調整することにより結合反応を制御でき、これらの制御によって変性ポリマーの分子量を制御することができる。そのため、変性ポリマーの数平均分子量を元のポリマーと同等に設定することができ、また元のポリマーよりも低く設定することもできる。
【0048】
また、ポリマー主鎖を分解し再結合させる際に、主鎖とは異なる構造として上記結合構造が挿入され、主鎖構造のセグメントの結合点が官能基化する。すなわち、反応性の高い構造が分子主鎖中に導入され、元のポリマーの特性を変化させることができる。このように、本実施形態の方法は、グラフトでも直接付加でもなく開環でもないポリマーの主鎖構造そのものを変化させるものであり、従来の変性方法とは明確に異なり、主鎖構造にベンゼン環を簡易に導入することができる。また、天然ゴムなどの天然のポリマーに対しても、その主鎖構造を組み替えて新規な構造を持つ変性ポリマーを製造することができ、ポリマーの特性を変化させることができる。
【0049】
本実施形態に係るゴム組成物において用いるゴム成分は、上記変性ジエン系ゴム単独でもよく、変性ジエン系ゴムと他のゴムとのブレンドでもよい。他のゴムの例としては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、又は、ハロゲン化ブチルゴム等の各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。ゴム成分中に占める上記変性ジエン系ゴムの含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部中、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。
【0050】
本実施形態にかかるゴム組成物において、フィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、クレー、又は、タルクなどの各種無機充填剤を用いることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、シリカ及び/又はカーボンブラックが好ましく用いられる。
【0051】
シリカとしては、特に限定されず、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)150〜250m
2/gであるものが好ましく用いられ、より好ましくは180〜230m
2/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
【0052】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF、ISAF、HAF、FEFなどの各種グレードのファーネスカーボンブラックを用いることができる。
【0053】
上記フィラーの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜150質量部であり、好ましくは20〜120質量部、更に好ましくは30〜100質量部である。フィラーとしてカーボンブラックを使用する場合は、上記5〜150質量部中5〜80質量部含有させることが好ましく、シリカを使用する場合も、5〜150質量部中5〜80質量部含有させることが好ましい。
【0054】
本実施形態に係るゴム組成物において、フィラーとしてシリカを配合する場合、シリカの分散性を更に向上するために、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0055】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0056】
上記加硫剤としては、硫黄、又は、硫黄含有化合物(例えば、塩化硫黄、二塩化硫黄、高分子多硫化物、モルホリンジスルフィド、及びアルキルフェノールジスルフィド等)が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0057】
上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、又は、グアニジン系などの各種加硫促進剤を用いることができ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0058】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、フィラーとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0059】
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。好ましくは、タイヤ用として用いることであり、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の合成例び比較合成例で用いた測定方法は、以下の通りである。
【0061】
[pH]
東亜ディーケーケー(株)製のポータブルpH計「HM−30P型」を用いて測定した。
【0062】
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMn、Mw及びMw/Mnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard」×2)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
【0063】
[結合構造含有率]
NMRにより、結合構造(2)〜(6)の含有率を測定した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準として測定した。ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、緩和試薬としてアセチルアセトンクロム塩87mgを加え、NMR10mm管にて測定した。
【0064】
特にRrの無い構造の場合、式(2)の結合構造については、
13C−NMRにおいてベンゼン環に付いたフェニル位の炭素のピークが143ppmにある。式(3)の結合構造については、
13C−NMRにおいてベンゼン環に付いたフェニル位の炭素のピークが70ppmにある。式(4)の結合構造については、
13C−NMRにおいてベンゼン環に付いたフェニル位の炭素のピークが74ppmにある。式(5)の結合構造については、
13C−NMRにおいてベンゼン環に付いたフェニル位の炭素のピークが150ppmにある。式(6)の結合構造については、
13C−NMRにおいてベンゼン環に付いたフェニル位の炭素のピークが127ppmにある。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により構造量(モル数)を決定した。Rrがある場合は、Rr構造のベンゼン環とは逆側に付いた炭素のピークの各(2)〜(6)の比とベンゼン環のカーボンピークにより算出したベンゼン環量から各構造量を決定した。
【0065】
なお、ベースポリマー成分における各ユニットのモル数については、イソプレンユニットでは、二重結合を挟んでメチル基と反対側の炭素及びそれに結合した水素(=CH−)のピーク、即ち
13C−NMRによる122ppmのピークに基づいて算出した。
【0066】
なお、ベンゼン環含有量としては、上記式(2)〜(5)の各結合構造含有量のそれぞれ1/2と、式(6)の結合構造含有量の合計量を示した。
【0067】
[合成例1:変性ポリマーAの合成]
変性対象のポリマーとして、天然ゴムラテックス(レジテックス社製「HA−NR」、DRC(Dry Rubber Content)=60質量%)を用いた。この天然ゴムラテックスに含まれる未変性の天然ゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が202万、数平均分子量が51万、分子量分布が4.0であった。
【0068】
DRC30質量%に調節した上記天然ゴムラテックス中のポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H
5IO
6)1.65gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルジョン状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(1)で表される構造を含むポリマーが得られた。得られた分解ポリマーは、重量平均分子量が13500、数平均分子量が5300、分子量分布が2.6であり、また分解後の反応液のpHは6.2であった。
【0069】
これにジビニルベンゼン15.1gに過ヨウ素酸(H
5IO
6)0.03gを加えて23℃で1時間撹拌させて得られた反応生成物と、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが10になるように加え、23℃で12時間攪拌し反応させた後、メタノール中に再沈させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ポリマーAを得た。
【0070】
このように酸化分解した反応系に対し、水酸化ナトリウムを加えて、この反応系を強制的に塩基性に変化させたことにより、酸化開裂の際に加えた過ヨウ素酸の効果を中和させつつ再結合反応を優先させることができ、上記式(2)〜(6)で表される結合構造を含む変性天然ゴム(変性ポリマーA)が得られた。なお、上記ではピロリジン−2−カルボン酸を触媒として用いているが、これは反応を促進させるためのものであり、なくても反応は進行する。
【0071】
得られた変性ポリマーAは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが151万、数平均分子量Mnが51万、分子量分布Mw/Mnが3.0、上記結合構造の含有率が、式(2)では6.2モル%、式(3)では1.2モル%であり、式(4)では0.6モル%であり、式(5)では1.4モル%であり、式(6)では1.6モル%であり、合計で11モル%であった。このように変性ポリマーAは、未変性天然ゴムとほぼ同等の数平均分子量を持つものであった。また、分子量分布が未変性天然ゴムよりも小さく、均一性に優れていた。
【0072】
[合成例2,3:変性ポリマーB,Cの合成]
酸化分解時の反応時間、過ヨウ素酸の添加量、再結合反応時に添加するpH調整剤及びpH、触媒の量を下記表1に示す通りに変更し、その他は合成例1と同様にして、固形状の変性ポリマーB,Cを合成した。得られた変性ポリマーB,Cの、Mw,Mn,Mw/Mn及び各結合構造の含有量を表1に示す。変性ポリマーB,Cについても、ベンゼン環を有する上記結合構造が主鎖中に導入され、また、分子量分布が未変性天然ゴムよりも小さく、均一性に優れていた。また、上記条件を変更することにより、分子量を制御することができた。
【0073】
なお、表1中の比較合成例1は、上記天然ゴムラテックス(レジテックス社製「HA−NR」、DRC=60質量%)を、変性せずにそのまま凝固乾燥させて得られた未変性天然ゴムである。
【0074】
【表1】
【0075】
[実施例・比較例:ゴム組成物の調製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。ゴム成分を除く、表2中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0076】
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
【0077】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験によるtanδ(0℃)とtanδ(60℃)の測定、及び弾性率と引張強度の測定を行った。各評価方法は次の通りである。
【0078】
・ウェットスキッド性能:USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、各比較試験例の値を100とした指数で表示した。0℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、湿潤路面に対するグリップ性能(ウェット性能)の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが大きく、ウェット性能に優れることを示す。
【0079】
・低燃費性:温度を60℃に変え、その他はtanδ(0℃)と同様にして、tanδを測定し、その逆数について、各比較試験例の値を100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性に優れることを示す。
【0080】
・弾性率(M300):JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく剛性が高い。
【0081】
・引張強度:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って破断時の強度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、引張強度が高く、良好である。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示す通り、合成例の変性ポリマーを用いた実施例1〜3では、未変性の天然ゴムや分解ゴムのみで再結合を行っていないゴムを用いた各比較例に対して、ウエットスキッド性能、低燃費性ともに大きく向上していた。