(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の制御を行なう前記制御部は、前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給する制御を終了するための終了回転数閾値を備えるとともに、前記エンジン本体の運転時に前記操作ハンドルで設定した設定回転数と前記回転検出器から取得した前記エンジン本体の回転数との差が前記終了回転数閾値よりも小さくなった場合に、前記制御弁に閉信号を与え、
前記第2の制御を行なう前記制御部は、前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給する制御を終了するための終了加速度閾値を備えるとともに、前記エンジン本体の運転時に前記加速度が前記終了加速度閾値よりも小さくなった場合に、前記制御弁に閉信号を与えることを特徴とする請求項1に記載のガス燃料エンジン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載された発明によれば、助燃装置で発生させた高温ガスで過給機の速度を高めて機関に供給する空気を増大させているため、空気アシストのために余分な燃料が必要になるという問題があった。また、空気アシストが必要となってから助燃装置の燃焼を開始したのでは間に合わず、空気アシストが必要となる前に予め助燃装置で燃焼を行なう必要があるため、助燃装置で燃焼を行なっているにもかかわらず、空気アシストが必要でない場合は、助燃装置に供給された燃料は全く無駄になってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、以上説明した先行技術における課題を解決するためになされたものであり、燃料を余分に消費することなく適量の空気を適時にアシストすることができるガス燃料エンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載されたガス燃料エンジンは、
ガスを燃料とすることが可能なエンジン本体を備えたガス燃料エンジンにおいて、
前記エンジン本体の負荷が上昇する際の空気量不足を補うための空気が蓄えられた空気槽と、
前記空気槽と前記エンジン本体の間に設けられて前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給する制御弁と、
前記エンジン本体の負荷が上昇すると判断した場合に前記制御弁を制御することにより前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給させる制御部と、
を有し、
前記エンジン本体の回転数を所望の設定回転数に設定する操作ハンドルと、前記エンジン本体の回転数を検出する回転検出器と、前記エンジン本体の上限回転数と、前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給する制御を開始するための開始回転数閾値を備えるとともに、前記エンジン本体の運転時に前記操作ハンドルで設定した設定回転数と前記上限回転数の差が前記開始回転数閾値を越えた場合に、前記制御弁に開信号を与えるように制御する第1の制御と、
前記エンジン本体の回転数を検出する回転検出器と、前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給する制御を開始するための開始加速度閾値を備えるとともに、前記エンジン本体の運転時に前記回転検出器が出力する前記エンジン本体の回転数から加速度を算出し、前記加速度が前記開始加速度閾値を越えた場合に、前記制御弁に開信号を与えるように制御する第2の制御と、
からなる制御群に含まれる制御のうち、少なくとも何れか一方を行なうように前記制御部が構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載されたガス燃料エンジンは、請求項1に記載のガス燃料エンジンにおいて、
前記第1の制御を行なう前記制御部は、前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給する制御を終了するための終了回転数閾値を備えるとともに、前記エンジン本体の運転時に前記操作ハンドルで設定した設定回転数と前記回転検出器から取得した前記エンジン本体の回転数との差が前記終了回転数閾値よりも小さくなった場合に、前記制御弁に閉信号を与え、
前記第2の制御を行なう前記制御部は、前記空気槽の空気を前記エンジン本体に供給する制御を終了するための終了加速度閾値を備えるとともに、前記エンジン本体の運転時に前記加速度が前記終了加速度閾値よりも小さくなった場合に、前記制御弁に閉信号を与えることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載されたガス燃料エンジンは、請求項2に記載のガス燃料エンジンにおいて、
前記エンジン本体のトルクを検出するトルク検出器をさらに有しており、
前記制御部は、前記エンジン本体の負荷と目標給気圧との関係についての給気制御データを備えるとともに、前記エンジン本体の運転時に前記回転検出器から取得した前記エンジン本体の回転数と前記トルク検出器から取得した前記エンジン本体のトルクから前記エンジン本体の負荷を算出し、当該負荷と前記給気制御データから弁制御信号を生成し、当該弁制御信号によって前記制御弁の開度を制御することを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載されたガス燃料エンジンは、請求項3に記載のガス燃料エンジンにおいて、
前記制御部は、前記制御弁に前記閉信号を与える条件が成立した場合には、条件が成立してから所定時間経過後に前記制御弁が閉止されるような所定の率に基づいて前記制御弁の開度を減少させて行くことを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載されたガス燃料エンジンは、請求項4に記載のガス燃料エンジンにおいて、
前記制御弁が開又は閉に制御可能な遮断弁と開度が調節可能な電動弁とで構成されている場合、前記所定時間経過後に前記電動弁が閉止されるような所定の率に基づいて前記電動弁の開度を減少させると共に、前記所定時間経過後に前記遮断弁が閉止するように前記閉信号を与え、前記電動弁が全閉するタイミングと前記遮断弁の遮断のタイミングとが合うようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載されたガス燃料エンジンによれば、制御部は、運転時にエンジン本体の負荷が上昇すると判断した場合、制御弁を制御して空気槽の空気をエンジン本体に供給する。空気槽に予め蓄えておいた圧縮空気等を用いてエンジン本体に空気を直接アシストするため、必要な場合に極めて短い応答遅れ時間で直ちに必要な空気量を確保できる。急速な負荷上昇操作時には、従来のガスエンジンであれば空気量が不足して空気過剰率がノッキング領域まで下がってしまうが、本発明によれば、急速な負荷上昇時においても空気過剰率を安定運転領域に維持することが出来るため、失火やノッキング等の燃焼異常が発生する恐れが少ない。また、負荷上昇に要する時間も従来よりも短縮することができる。これによって、ガス燃料エンジンを船舶推進用として用いることの実現性が高くなった。
【0015】
さらに、請求項1に記載されたガス燃料エンジンによれば、操作ハンドルを急操作することによりエンジン本体に急速な負荷上昇が生じた時に、これを誤りなく判断して空気アシストを行なうため、次のような第1の制御と第2の制御のいずれか一方を行い、又は両方を行なうことができる。
【0016】
第1の制御は、比較的急な操作ハンドルの操作、すなわち操作ハンドルにより設定されるエンジン本体の設定回転数が、エンジン本体の上限回転数を越えるような場合に主として対応するものである。この制御によれば、操作ハンドルにより設定されるエンジン本体の設定回転数が、エンジン本体の上限回転数とは異なることを利用し、事前に急加速を判断する。すなわち、エンジン本体の運転時に操作ハンドルが急操作され、エンジン本体の設定回転数を急激に増大させると、制御部は、操作ハンドルで設定された設定回転数と、記憶している上限回転数の差を演算し、その差が、記憶している開始回転数閾値を越えた場合には、
制御弁に開信号を与えて空気槽の空気をエンジン本体に供給させる。
【0017】
第2の制御は、比較的緩やかな操作ハンドルの操作、すなわち操作ハンドルにより設定されるエンジン本体の設定回転数が、エンジン本体の上限回転数を越えないような場合に主として対応するものである。この制御によれば、実際の回転数に基づいて算出したエンジン本体の加速度を監視し、急加速を判断する。すなわち、エンジン本体の運転時に、制御部は、回転検出器が出力するエンジン本体の実際の回転数から加速度を算出し、記憶している開始加速度閾値よりもこの加速度が大きい場合に、
制御弁に開信号を与えて空気槽の空気をエンジン本体に供給させる。
【0018】
請求項2に記載されたガス燃料エンジンによれば、前述した第1の制御と第2の制御において、エンジン本体に生じた急速な負荷上昇が終了した時に、これを確実に判断して空気アシストを終了することができる。
【0019】
第1の制御において、制御部は、操作ハンドルで設定した設定回転数と回転数の差を演算し、記憶している終了回転数閾値よりも前記差の方が小さくなったと判断した場合に、
制御弁に閉信号を与えてエンジン本体に対する空気アシストを終了する。
【0020】
第2の制御において、制御部は、回転検出器が出力するエンジン本体の回転数から算出した加速度が、記憶している終了加速度閾値よりも小さくなったと判断した場合に、
制御弁に閉信号を与えてエンジン本体に対する空気アシストを終了する。
【0021】
請求項3に記載されたガス燃料エンジンによれば、操作ハンドルの急操作で急速な負荷上昇が生じ、空気アシストが行なわれている場合において、制御部は、回転検出器から取得した回転数とトルク検出器から取得したトルクから負荷を算出し、記憶している給気制御データと前記負荷から弁制御信号を生成し、この弁制御信号によって
制御弁の開度を制御する。空気槽からエンジン本体に供給される空気の量をエンジン本体の負荷に応じて適切に制御することができる。
【0022】
請求項4に記載されたガス燃焼エンジンには、アシスト空気供給用である空気槽以外に、運転時に空気を供給するための給気源として、例えば過給機が設けられており、エンジン本体に接続されているものとする。そして、エンジン本体において最適な空燃比を実現するために、過給機のコンプレッサ側からの空気は適宜に給気制御されている。ところが、急速な負荷上昇に伴って開始された空気アシストが終了し、空気槽からエンジン本体への空気の供給を一気に打ち切るとすれば、エンジン本体への給気が過給機のコンプレッサ側からの給気のみとなって空気量が急激に減少するため、過給機のコンプレッサ側からの空気の給気制御によって係る急激な空気量の変化に適切に対応することは困難であり、エンジン本体の運転に支障を生じる可能性もある。
【0023】
ところが、
請求項4に記載されたガス燃料エンジンによれば、エンジン本体に生じた急速な負荷上昇が終了して空気アシストを終了する場合、制御部は、
制御弁を閉とするための条件が成立してから
制御弁の開度を徐々に減少させて空気のアシスト量を絞って行き、所定時間経過後に
制御弁が閉止してアシスト空気の供給
を停止させるように制御を行なう。このように、空気アシストが終了してエンジン本体への給気が過給機のコンプレッサ側からの給気のみに切り替わる際に、アシストされている空気の量を徐々に減少させていくため、エンジン本体に供給される空気量が急激に減少することがなく、空気アシスト終了後に過給機のコンプレッサ側からの給気制御が円滑に行なわれ、エンジン本体の運転に支障を生じることはない。
また、請求項5に記載されたガス燃焼エンジンによれば、開又は閉に制御可能な遮断弁と開度が調節可能な電動弁とで制御弁を構成し、前記所定時間経過後に前記電動弁が閉止されるような所定の率に基づいて前記電動弁の開度を減少させると共に、前記所定時間経過後に前記遮断弁が閉止するように前記閉信号を与え、前記電動弁が全閉するタイミングと前記遮断弁の遮断のタイミングとが合うようにしているので、アシストOFFの場合には、アシストの空気は徐々に減少していき、最後は遮断弁14の全閉によって漏れなく遮断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1〜
図10を参照して本発明の実施形態に係るガス燃焼エンジン1を説明する。このガス燃焼エンジン1は、空気が不足して空気アシストが必要となるような急加速であるか否かを判断し、必要と判断された場合には、アシストのために用意しておいた圧縮空気を負荷に見合った量で適時にエンジンに供給することができることを特徴としている。
【0026】
図1は、実施形態に係るガス燃料エンジン1の模式図である。
図1に示すように、本実施形態のガス燃料エンジン1は、過給機2を備えたレシプロエンジンであり、船舶に搭載されて推進のために用いられる。このガス燃料エンジン1のエンジン本体3は複数の燃焼室4を有しており、各燃焼室4には図示しないピストンが設けられ、各ピストンの往復運動によって駆動軸5が回転するようになっている。ここで、
図1において駆動軸5に設けられた負荷6とは、この実施形態では船舶のプロペラ等を意味している。
【0027】
まず、このガス燃料エンジン1の構成を説明する。
図1に示すように、エンジン本体3に近接して設置された過給機2は、その構成要素として、回転軸7と、回転軸7の両端にそれぞれ連結されたタービン8及びコンプレッサ9とを有している。この過給機2は、エンジン本体3の各燃焼室4から排出された高温高圧の排気ガスを排気管10でタービン8に導いて回転させ、これによって回転軸7を回動させてコンプレッサ9で空気を圧縮し、圧縮した空気を給気管11を介してエンジン本体3の各燃焼室4に供給するように構成されている。
【0028】
図1に示すように、前記給気管11の中途には、分岐管12が接続されている。分岐管12の上流側には、上流側から順に、アシスト空気の制御弁として電動弁13と遮断弁14が取り付けられ、最上流にはアシスト空気の供給源として空気槽15が接続されている。電動弁13は、後述する制御部としての
ガスエンジンコントローラ20からの弁制御信号により、完全な閉止と最大開度の間で任意に開度が調節可能とされている。遮断弁14は、後述する制御部としての
ガスエンジンコントローラ20が出力する弁制御信号としての開信号又は閉信号により、開放又閉止の何れかの状態に設定可能とされている。空気槽15には予め圧縮空気が蓄えられている。空気槽15の容量は例えば1200リッターであり、その空気圧は例えば3MPaである。これらの数値はエンジン本体3の大きさに応じて必要とされるアシスト空気量に対応して適宜に変更することができる。
【0029】
図1に示すように、給気管11において、分岐管12が接続されている位置と燃焼室4の間の位置には、給気圧計16が取り付けられている。給気圧計16は、給気管11内の空気の圧力を検出して空気圧信号を出力し、後述する制御部としての
ガスエンジンコントローラ20に供給する。
【0030】
図1に示すように、エンジン本体3の駆動軸5には、トルク検出器17と回転検出器18が設けられている。トルク検出器17は、駆動状態にあるエンジン本体3のトルクを検出してトルク信号を出力し、後述する制御部としての
ガスエンジンコントローラ20に供給する。回転検出器18は、駆動状態にあるエンジン本体3の回転数を検出して回転数信号を出力し、後述する制御部としての
ガスエンジンコントローラ20に供給する。
【0031】
図1に示すように、ガス燃料エンジン1には、エンジン本体3の回転数を所望の設定回転数に設定するための操作ハンドルである操船ハンドル19が設けられている。船舶の操縦者は、この操船ハンドル19を操作することにより、エンジン本体3の回転数(設定回転数S1)を設定して船舶の速度目標値を指定することができる。
【0032】
図2は、実施形態のガス燃料エンジン1を制御するために必要な構成を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、ガス燃料エンジン1は制御部としてガスエンジンコントローラ20を有しており、このガスエンジンコントローラ20はガバナ21と空気量制御装置22を備えている。
【0033】
ガバナ21は、操船ハンドル19によって設定されるエンジン本体3の設定回転数に応じた量の燃料ガスを燃焼室4に供給するために、図示しないガス供給手段のアクチュエータを制御して燃料ガスの供給量を制御する装置である。
【0034】
空気量制御装置22は、空気アシストが必要な急加速であるか否かを判断する急加速判断部23と、負
荷及び加速度に応じてアシスト空気量を調節する流量調整部24とを備えている。
【0035】
急加速判断部23には、操船ハンドル19から出力されるエンジン本体3の設定回転数S1を示す設定回転数信号と、回転検出器18から出力されるエンジン本体3の実際の回転数(機関実回転数S3)を示す回転数信号が入力される。
【0036】
本実施形態の急加速判断部23は、エンジン本体3が急加速されているか否かの判断を、後に詳述するように、2種類の制御手法によって行なう。第1の制御手法は、操船ハンドル19の操作が比較的に急な場合に回転数に基づいて判断するものであり、第2の制御手法は、操船ハンドル19の操作が比較的に緩やかな場合に加速度に基づいて判断するものである。
【0037】
急加速判断部23は、第1の制御に必要な制御データとして、エンジン本体3の上限回転数S2と、空気槽15の空気をエンジン本体3に供給するアシスト制御を開始する場合の開始回転数閾値ΔS1と、アシスト制御を終了する場合の終了回転数閾値ΔS2を予め備えている。これらのデータは図示しない記憶部に読み出し自在に書き込まれている。上限回転数S2は、エンジン本体3について固有又は特有の値であり、一定の基準に基づいて定めることができる。開始回転数閾値ΔS1と終了回転数閾値ΔS2は、エンジン本体3の動特性が改善されるように、実験に基づいて定めることができる。
【0038】
また、急加速判断部23は、第2の制御に必要な制御データとして、空気槽15の空気をエンジン本体3に供給するアシスト制御を開始する場合の開始加速度閾値A1と、アシスト制御を終了する場合の終了加速度閾値A2を備えている。これらのデータは図示しない記憶部に読み出し自在に書き込まれている。開始加速度閾値A1と終了加速度閾値A2は、エンジン本体3の動特性が改善されるように、実験に基づいて定めることができる。
【0039】
流量調整部24には、回転検出器18から出力されるエンジン本体3の
機関実回転数S3を示す回転数信号と、トルク検出器17から出力されるエンジン本体3のトルクを示すトルク信号と、給気圧計16から出力される給気管11内の空気の圧力を示す空気圧信号が入力される。
【0040】
流量調整部24は、アシスト制御を行なう際に、エンジン本体3の負荷に応じた適切な量の空気を供給するために必要な制御データとして、エンジン本体3の負荷と目標給気圧との関係についての給気制御データを備えている。当該データは図示しない記憶部に読み出し自在に書き込まれている。
【0041】
次に、このガス燃料エンジン1を制御する場合における操船ハンドル19の操作と機関回転数の関係について、
図3及び
図4を参照して説明する。これらの図は、操船ハンドル19で設定される設定回転数S1と、エンジン制御における目標回転数となる上限回転数S2(これは加速上限に対応する)と、エンジン本体3の実際の回転数(機関実回転数S3)を示している。
【0042】
このガス燃料エンジン1の制御では、操作者が操船ハンドル19を操作することによってエンジン本体3の設定回転数S1が設定される。またエンジン本体3には、推進機関として適切な運転を行うために、回転数の上限、すなわち上限回転数S2又は上限加速度が定められている。
【0043】
図3は、操船ハンドル19の操作が比較的に急な場合である。
操船ハンドル19の操作が急激であり、設定回転数S1が上限回転数S2を超えた場合には、この上限回転数S2を目標として回転数を変化させるように制御を行なう。このため、操船ハンドル19の操作が急激な場合には、操船ハンドル19により設定される設定回転数S1とエンジン本体3の目標回転数(上限回転数S2)は異なることになる。
【0044】
図4は、操船ハンドル19の操作が比較的に緩やかな場合である。
操船ハンドル19の操作が緩やかであり、設定回転数S1が上限回転数S2を下回る場合には、操船ハンドル19による設定回転数S1の値が目標回転数となり、設定回転数S1を目標として回転数を変化させるように制御を行なう。
【0045】
次に、このガス燃料エンジン1の制御において、エンジン本体3が急加速された場合の空気アシスト制御について、
図5〜
図8を参照して説明する。
図5は、操船ハンドル19の操作が比較的急である場合を示し、
図6はその制御手順を示すフローチャートである。また、
図7は、操船ハンドル19の操作が比較的緩やかである場合を示し、
図8はその制御手順を示すフローチャートである。空気量制御装置22の急加速判断部23は、
図5及び
図6と、
図7及び
図8の2種類の制御手法を実行し、少なくとも一方の手法で以下に述べる急加速の条件が満たされた場合、急加速と判断して空気アシスト制御を行う。
【0046】
図5を参照しながら、
図6のフローチャートの各ステップに従って操船ハンドル19の操作が急である場合の第1の制御手法について説明する。この制御は、空気量制御装置22の急加速判断部23が行なう。
制御開始後(P11)、空気アシストOFFを確認した後(P12)、操船ハンドル19による設定回転数S1と目標回転数である上限回転数S2の差を演算し、この差と開始回転数閾値ΔS1を比較する(P13)。前記差が開始回転数閾値ΔS1を越えた場合(P13、YES)には、遮断弁14を開いて空気アシストを開始する(P14)。また、操船ハンドル19による設定回転数S1とエンジン本体3の機関実回転数S3の差を演算し、この差と終了回転数閾値ΔS2を比較する
(P15)。前記差が終了回転数閾値ΔS2を下回った場合(P15、YES)には、終了タイマーを始動させ(P16)、所定の設定時間T1が経過した後(P17、YES)に遮断弁14を閉じて空気アシストを終了する(P12)。このように、第1の制御では、急なハンドル操作を行なった場合に、設定回転数S1が上限回転数S2と異なることを利用して事前に急加速を判断する。
【0047】
図7を参照しながら、
図8のフローチャートの各ステップに従って操船ハンドル19の操作が緩やかである場合の第2の制御手法について説明する。この制御は、空気量制御装置22の急加速判断部23が行なう。
制御開始後(P21)、空気アシストOFFを確認した後(P22)、回転検出器18から送られる
機関実回転数S3信号を微分してエンジン本体3の加速度ACを演算し、この加速度ACと開始加速度閾値A1を比較する(P23)。加速度ACが開始
加速度閾値
A1以上になった場合(P23、YES)には、遮断弁14を開いて空気アシストを開始する(P24)。また、加速度ACと終了加速度閾値A2を比較し、加速度ACが終了回転数閾値
A2以下になった場合(P25、YES)には、終了タイマーを始動させ(P26)、所定の設定時間T2が経過した後(P27、YES)に遮断弁14を閉じて空気アシストを終了する(P22)。このように、第2の制御では、エンジン本体3の機関実回転数S3に基づいて加速度を監視し、急加速を判断する。
【0048】
次に、このガス燃料エンジン1で空気アシストを行なう場合において、エンジン本体3の負荷に応じた適切な量の空気を供給する手法について、
図9及び
図10を参照して説明する。
図9は、空気アシスト制御における機関回転数の時間的な変化と、空気アシストにおける電動弁13の開度及び給気圧の変化を示す図であり、
図10は空気アシストにおける電動弁13の開度制御の手順を示す流れ図である。
【0049】
図9を参照しながら、
図10のフローチャートの各ステップに従ってアシスト空気量の制御手法について説明する。この制御は、空気量制御装置22の流量調整部24が行なうが、本実施形態では、エンジン本体3の負荷と目標給気圧の関係を示す給気制御データを予め実験的に求めておき、これを先述したように流量調整部24に格納しておく。
制御開始後(P31)、電動弁13を一定のレイトで全閉して空気アシストOFFを確認する(P32)。そして、先に説明したような第1又は第2の制御手法によって急加速が判断され、空気アシストが実行された場合(P33、YES)には、給気制御データが示す負荷と目標給気圧との関係及びエンジン本体3の負荷によって給気圧の目標値を決定し、給気圧計16が検出する給気圧を指標としてPID制御で電動弁13の開度を調整する(P34)。この場合、給気圧目標値決定のための負荷は、回転検出器18が検出する回転数とトルク検出器17が検出するトルクから求める。この制御によって空気アシストにおける給気量の調整がエンジン本体3の負荷に応じて行なわれる。また、空気アシストが終了した場合(P35)には、電動弁13の開度を一定のレイトで減少させて全閉とする(P32)。このように、この給気量制御では、空気アシストがOFFの時には電動弁13は全閉であり、空気アシストがOFFからONになった時には、PID制御によってエンジン本体3の負荷に応じた量の空気をアシストすることができ、空気アシストがONからOFFになった時には、一定の開度減少率で電動弁13を閉めて全閉とすることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、遮断弁14は、先述したように、アシストOFFの条件が成立してから終了タイマーで設定された所定の設定時間T1又はT2が経過した後に遮断されるが、この終了タイマーによる所定の設定時間T1又はT2と、電動弁13の閉止のレイトを適合させることにより、遮断弁14の遮断のタイミングと電動弁13が全閉されるタイミングが一致するようになっている。このため、アシストOFFの場合には、アシストの空気は徐々に減少していき、最後は遮断弁14の全閉によって漏れなく遮断することができる。
【0051】
このように、本実施形態によれば、急速な負荷上昇に対応して空気アシストが行なわれている場合において、制御部である空気量制御装置22は、回転数とトルクから負荷を算出し、給気制御データを参照して目標とする空気量を求め、弁制御信号によって電動弁13の開度を制御する。空気槽15からはエンジン本体3の負荷に応じた量の空気がアシストされるため、エンジン本体3を適切に制御することができる。
【0052】
また、このガス燃料エンジン1では、燃料系と空気系が別であり、エアアシストにより空気は増えるが燃料が増えることはない。操船ハンドル19の操作に対して、
機関実回転数S3が低い場合には、状況によってはエアアシストをすることにより空気量が増えすぎて、むしろ燃焼の悪化に繋がるという可能性も考えられるが、実施形態によれば
エンジンの負荷と給気圧とによりPID制御を行っているため、過度のエアアシストを行なうという問題がなく、適切に空気量を供給できる。
【0053】
また、実施形態のガス燃料エンジン1は船舶用であり、相当大形のガスエンジンを想定しているため、そのアシスト制御には大量かつ高圧の空気が必要なため、アシスト用として例えば電動ファン等を用いる場合、大形となってしまい、瞬時にアシストすることが出来ない。また、瞬時にアシスト出来る小型の電動ファンでは容量が足りない。しかし、実施形態によれば圧縮空気を蓄えた空気槽15を用いることにより、大量かつ高圧の空気を瞬時に供給することが出来る。
【0054】
なお、実施形態のガス燃料エンジン1では、空気アシストが行なわれていない通常の運転時には、過給機2のコンプレッサ9側からエンジン本体3の燃焼室4に空気が供給されているが、その場合の給気量は、エンジン本体3において最適な空燃比を実現するように図示しないA/F(Air Fuel Ratio)制御装置によって制御されている。ところが、急速な負荷上昇に伴って空気アシストを開始し、その後、空気アシストを終了して空気槽15からエンジン本体3への空気の供給を一気に打ち切るとすれば、エンジン本体3への給気は過給機2のコンプレッサ9側からの給気のみとなって燃焼室4に供給される空気量が急激に減少する。A/F制御装置は、このように急激な空気量の変化に適切に対応することが困難な場合があり、条件によってはエンジン本体3の運転に支障を生じる可能性もある。
【0055】
ところが、実施形態のガス燃料エンジン1によれば、エンジン本体3に生じた急速な負荷上昇が終了して空気アシストを終了する場合、流量調整部24は、遮断弁14を閉とするための条件が成立してから電動弁13の開度を徐々に減少させて空気のアシスト量を絞って行き、終了タイマーが設定時間T1又はT2の経過を計測して遮断弁14が遮断される時に、電動弁13も完全に閉止されるように制御している。このように、空気アシストが終了してエンジン本体3への給気が過給機2のコンプレッサ9側からの給気のみに切り替わる際に、アシストされている空気の量を徐々に減少させていくため、エンジン本体3に供給される空気量が急激に減少することがなく、空気アシストが終了した後にA/F制御装置に引き継がれた過給機2による給気制御は円滑に行なわれ、エンジン本体3の運転に支障を生じることはない。
【0056】
本実施形態によれば、以上の説明の他、さらに次のような効果が得られる。
図11は、実施形態のガス燃料エンジン1において、急速な負荷上昇運転(過渡運転)を行なった場合における時間と負荷(右縦軸)の関係を線で示すとともに、時間と空気過剰率(左縦軸)の関係を定常運転の場合と、従来の過渡運転の場合と、本実施形態の過渡運転の場合とで比べて示したグラフである。このグラフの座標面は、空気過剰率が所定の失火限界よりも高い失火領域と、空気過剰率が所定のノッキング限界よりも低いノッキング領域と、空気過剰率が失火限界とノッキング限界の間である安定運転領域に分かれている。ガスエンジンを通常運転している場合には、空気過剰率は常に安定運転領域にあるが、空気アシストをしないで過渡運転のように急速な負荷上昇で操作した時には、空気量が不足して空気過剰率がノッキング領域まで下がる。しかしながら、本実施形態のように過渡運転時に空気アシストを行なった場合には、空気過剰率を安定運転領域に維持することが出来る。
【0057】
図12は、実施形態のガス燃料エンジン1において15%から過渡運転を開始した場合の時間と負荷率の関係を従来と比べて示したグラフである。従来は、約15%から75%までしか負荷率を上げることができず、しかもそれに4分以上の時間を要していた。しかし、本実施形態では、10数秒で100%にまで到達できるようになった。すなわち、本実施形態によれば、空気槽15に用意しておいた圧縮空気を用いて、燃焼室4に直接空気をアシストすることができるので、極めて短い応答遅れ時間で必要な空気を供給することができ、急激な負荷上昇の要求に短時間で無理なく応えることができる。これにより、ガス燃料エンジン1を船舶推進用として用いることの実現性が高くなった。
【0058】
また、特許文献1で示したような従来のエンジンでは、助燃装置により空気をアシストしているため、空気アシストが必要となってから助燃装置の燃焼を開始したのでは間に合わない。そのため、空気アシストが必要となる前に予め助燃装置にて燃焼を行なう必要があり、助燃装置にて燃焼を行なっているにもかかわらず、空気アシストが必要でない場合は、助燃装置に供給された燃料は無駄になるという問題があった。しかし、本実施形態によれば、空気槽15を用いることにより、空気アシストを使わない時は、燃料を使う必要がなく、燃料を無駄にすることがないという効果が得られる。
【0059】
なお、以上説明した実施形態の空気アシスト制御では、急加速を判断する手法として操船ハンドル19の操作が急である場合の第1の制御手法と、操船ハンドル19の操作が比較的緩やかである場合の第2の制御手法の2種類の制御手法が実行可能であり、少なくとも一方の手法で急加速の条件が満たされた場合、急加速と判断して空気アシスト制御を行なっていた。しかし、何れか一方の制御手法を採用し、その手法のみで急加速の判断を行なうこととしても相応の効果を得ることができる。