(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の実施の形態の説明)
まず、本発明の実施の形態の内容を列記して説明する。本発明の実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法は、ダイヤモンドの表面にYVO
4レーザを照射して、ダイヤモンドに孔を形成する工程を備えている。
【0012】
本発明者の検討によれば、従来より孔の形成に用いられるYAGレーザはパルス強度の安定性やビームの強度分布が悪く、微細な孔を安定して形成することは困難である。これに対して、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法では、パルス強度の安定性およびビームの強度分布がより優れたYVO
4レーザを用いて孔が形成される。したがって、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法によれば、微細な孔をより安定に形成することができる。
【0013】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法では、ダイヤモンドダイスが製造されてもよい。微細な孔を安定に形成可能な上記ダイヤモンド工具の製造方法は、ダイヤモンドダイスの製造において好適である。
【0014】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法において、孔を形成する工程では、ダイヤモンドの表面とYVO
4レーザの光軸とが成す角の大きさが変化するようにYVO
4レーザが照射されてもよい。これにより、孔を形成する際に内周面の表面状態を良好に維持することができる。その結果、微細な孔を高精度に形成することができる。
【0015】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法において、孔を形成する工程では、孔の内周面に沿うようにYVO
4レーザが照射されてもよい。
【0016】
これにより、孔を形成する際に内周面の表面状態をより良好に維持することができる。その結果、微細な孔をより高精度に形成することができる。
【0017】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法において、孔を形成する工程では、パルス幅が0.1ns以上30ns以下であるYVO
4レーザが照射されてもよい。
【0018】
本発明者の検討によれば、従来のYAGレーザのようにパルス幅が大きいレーザを用いて孔を形成した場合には、孔の内周面における表面粗さが悪化する。これに対して、上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法では、パルス幅が小さいYVO
4レーザを用いることにより、孔を形成する際に内周面における表面粗さの悪化を抑制することができる。
【0019】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法において、YVO
4レーザはSHGYVO
4レーザであってもよい。これにより、微細な孔をより容易に形成することができる。
【0020】
ここで、「SHGYVO
4レーザ」とは、第2高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)によりYVO
4(Yttrium Vanadate)レーザ(波長:1064nm)の波長が1/2(波長:532nm)になったものを意味する。
【0021】
本発明の実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置は、ダイヤモンドを含む部材を保持する保持台と、ダイヤモンドの表面にYVO
4レーザを照射するレーザ照射部とを備えている。
【0022】
本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置は、YAGレーザに比べてパルス強度の安定性およびビームの強度分布がより優れたYVO
4レーザを照射するレーザ照射部を備えている。これにより、YAGレーザを備える従来の製造装置に比べて微細な孔をより安定に形成することができる。
【0023】
ここで、「ダイヤモンドを含む部材」とは、ダイヤモンド単体であってもよいし、ダイヤモンドと他の部材とからなる複合部材であってもよい。上記複合部材の例としては、焼結合金によりステンレスケースに固定されたダイヤモンドなどがある。
【0024】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置は、ダイヤモンドダイスを製造するための装置であってもよい。微細な孔を安定に形成可能な上記ダイヤモンド工具の製造装置は、ダイヤモンドダイスの製造において好適である。
【0025】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置は、ダイヤモンドの表面とYVO
4レーザの光軸とが成す角の大きさを変化させる角度調整部をさらに備えていてもよい。これにより、孔を形成する際に内周面の表面状態を良好に維持することができる。その結果、微細な孔を高精度に形成することができる。
【0026】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置において、上記角度調整部は、上記ダイヤモンドの表面とYVO
4レーザの光軸とが成す角の大きさが変化するようにレーザ照射部を動作させる第1可動部材であってもよい。また、上記角度調整部は、上記ダイヤモンドの表面とYVO
4レーザの光軸とが成す角の大きさが変化するように保持台を動作させる第2可動部材であってもよい。このように、上記角度調整部には種々の構成を採用することができる。
【0027】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置において、YVO
4レーザのパルス幅は0.1ns以上30ns以下であってもよい。
【0028】
これにより、孔を形成する際に内周面における表面粗さの悪化を抑制することができる。
【0029】
上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置において、YVO
4レーザはSHGYVO
4レーザであってもよい。これにより、微細な孔をより容易に形成することができる。
【0030】
(本発明の実施の形態の詳細)
次に、本発明の実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法および製造装置の具体例を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0031】
まず、ダイヤモンドダイスの製造装置を例として、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置について説明する。
図1を参照して、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置(レーザ加工装置)1は、ダイヤモンドダイスの製造において、ダイヤモンド11にレーザ加工を施してダイス孔を形成する際などに用いられるものである。レーザ加工装置1は、レーザ光源(レーザ照射部)2と、ビームエキスパンダー3と、対物レンズ4と、ステージ5(保持台)と、レーザ光源可動部材6(第1可動部材)と、ステージ可動部材7(第2可動部材)とを主に備えている。
【0032】
レーザ光源2は、YVO
4レーザL1を発信し、当該レーザL1をダイヤモンド部材10に含まれるダイヤモンド11の表面に照射する。レーザL1の出力はたとえば8Wであり、周波数は10〜50.6kHz(たとえば20kHz)であり、パルス幅はたとえば0.1ns以上30ns以下である。
【0033】
ビームエキスパンダー3は、レーザL1のビーム径を拡大するためのものであり、レーザL1の光路上に配置されている。対物レンズ4は、レーザL1を集光してダイヤモンド11の表面に照射する。対物レンズ4の倍率はたとえば5倍である。ステージ5は、表面5a上においてダイヤモンド部材10を保持する。
【0034】
図2を参照して、対物レンズ4の焦点距離f(mm)は、たとえば40mmである。レーザL1のビーム径D(mm)(ビームエキスパンダーにより拡大された後)は、たとえば4mmである。レーザL1の波長λ(μm)は、1.064(μm)である。これにより、対物レンズ4を通過した後のレーザL1のスポット径dは、d=1.27×f×λ/Dの関係式により13.5μmとなっている。
【0035】
図3を参照して、レーザ加工装置1は、ダイヤモンド11の表面11aとレーザL1の光軸(
図3中実線矢印および点線矢印で示す)とが成す角の大きさ(角度)θを変化させる角度調整部を備えている。より具体的には、
図1を参照して、上記角度θが変化するようにレーザ光源2を動作させるためのレーザ光源可動部材6(第1可動部材、角度調整部)をレーザ加工装置1は備えている。また、上記角度θが変化するようにステージ5を動作させるステージ可動部材7(第2可動部材、角度調整部)をレーザ加工装置1は備えている。なお、レーザ加工装置1は、
図1に示すようにレーザ光源可動部材6およびステージ可動部材7のいずれも備えていてもよいし、レーザ光源可動部材6およびステージ可動部材7のうち一方を備えていてもよい。
【0036】
次に、ダイヤモンドダイスの製造方法を一例として、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法について説明する。
図4を参照して、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法では、工程(S10)〜(S30)が順に実施され、また工程(S20)では上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置(レーザ加工装置1)が用いられる。
【0037】
まず、工程(S10)として、ダイヤモンド部材を準備する工程が実施される。この工程(S10)では、
図5を参照して、まず、天然のダイヤモンド11およびステンレス製のダイス台座部12が準備される。そして、ダイス台座部12の底面12a上にダイヤモンド11が配置される。また、ダイヤモンド11は、ペレット(図示しない)などを介して底面12a上に配置されてもよい。ダイヤモンド11の厚みはたとえば0.6mmである。ダイス台座部12の厚みはたとえば8mmであり、外径はたとえば25mmである。
【0038】
次に、ダイス台座部12内にニッケル(Ni)およびクロム(Cr)を含む合金粉が充填される。そして、当該合金粉が押圧されつつダイス台座部12が焼結される。これにより、ダイス台座部12内において焼結ボンド13によりダイヤモンド11が固定されたダイヤモンド部材10が得られる。そして、焼結処理が完了した後、ダイヤモンド部材10が放冷される。
【0039】
次に、工程(S20)として、ダイス孔を形成する工程が実施される。この工程(S20)では、
図6を参照して、まず、ダイヤモンド部材10に旋削加工が施され、導入口14および逃げ口15がそれぞれ形成される。
【0040】
次に、
図1を参照して、上記旋削加工が施されたダイヤモンド部材10が、レーザ加工装置1のステージ5上に設置される。そして、ダイヤモンド11の表面にレーザL1が照射される。これにより、
図6に示すようにダイヤモンド11を厚み方向に貫通するダイス孔16が形成される。レーザL1のパルス幅は、たとえば0.1ns以上30ns以下である。
【0041】
図7を参照して、ダイス孔16は、ベル部(エントランス部)16bと、アプローチ部16cと、リダクション部16dと、ベアリング部16eと、バックリリーフ部16fと、エクジット部16gとを含んでいる。ベアリング部16eは、ダイス孔16の直径が最小となる部分である。ベアリング部16eの直径D1は、50μm未満であり、より好ましくは20μm以下である。また、リダクション角度θ1は、ベアリング部16eの入口側における伸線する線材を絞り込む角度であり、2.5°以上20°以下であり、好ましくは10°以下である。
【0042】
図3を参照して、この工程(S20)では、レーザ光源2およびステージ5(
図1参照)のうち少なくともいずれかを動作させて、ダイヤモンド11の表面11aとレーザL1の光軸とが成す角の大きさ(角度)θが変化するようにレーザL1が照射される。より具体的には、
図7を参照して、上記角度θを変化させつつレーザL1を照射することにより、内周面16aに沿うようにレーザL1が照射される。また、「レーザL1が内周面16aに沿う」とは、
図7に示すようにレーザL1のビームの外縁部(
図7中破線で示す)が内周面16aの接線となるような状態を意味する。
【0043】
次に、工程(S30)として、仕上げ工程が実施される。この工程(S30)では、ダイス孔16の内周面16aに研磨加工などが施される。以上のようにして上記工程(S10)〜(S30)が実施されることによりダイヤモンドダイス10A(
図6参照)が製造され、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法が完了する。
【0044】
以上のように、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法では、パルス強度の安定性およびビームの強度分布に優れたYVO
4レーザL1を用いてダイス孔16が形成される。これにより、パルス強度の安定性およびビームの強度分布が悪いYAGレーザを用いてダイス孔を形成する場合と比べて、微細なダイス孔16を安定に形成することができる。また、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法では、ダイヤモンド11の表面11aとYVO
4レーザL1の光軸とが成す角の大きさθが変化するようにYVO
4レーザL1が照射されてダイス孔16が形成される。これにより、ダイス孔16を形成する際に内周面16aの表面状態を良好に維持することができる。したがって、本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造方法によれば、微細なダイス孔16を高精度に形成することができる。
【0045】
また、上記本実施の形態に係るダイヤモンド工具の製造装置および製造方法では、レーザ光源2からSHGYVO
4レーザL1が照射されてもよい。この場合にはレーザL1のスポット径d(
図2参照)は6.8μmとなり、上記本実施の形態の場合と同様の加工を行うと、ベアリング部16eの直径D1は5μm以上20μm以下となり、リダクション角度θ1は2.5°以上20°以下となる。
【0046】
なお、上記本実施の形態では、ダイヤモンドダイスの製造装置および製造方法を一例として説明したが、本発明のダイヤモンド工具の製造装置および製造方法はこれに限定されるものではない。本発明のダイヤモンド工具の製造装置および製造方法は、たとえばダイヤモンドノズルなどの他のダイヤモンド工具の製造装置および製造方法などにおいて適用されてもよい。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。