特許第6062811号(P6062811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6062811粘着剤組成物、粘着剤層および粘着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062811
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着剤層および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20170106BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170106BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20170106BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170106BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20170106BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20170106BHJP
   C09J 7/00 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C09J133/00
   C09J11/06
   C09J11/04
   C09J7/02 Z
   C09J175/04
   C09J133/06
   C09J7/00
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-126193(P2013-126193)
(22)【出願日】2013年6月15日
(65)【公開番号】特開2015-945(P2015-945A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊関 亮
(72)【発明者】
【氏名】平野 敬祐
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−001440(JP,A)
【文献】 特開2002−173639(JP,A)
【文献】 特開2008−285681(JP,A)
【文献】 特開平08−259922(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/026751(WO,A1)
【文献】 特開2007−138015(JP,A)
【文献】 特開2013−147631(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0158199(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基およびカルボキシル基を有するアクリルポリマー(A)100質量部、
イソシアネート系架橋剤(B)0.1質量部〜15質量部、
鉄を活性中心とする触媒(C)0.002質量部〜0.5質量部、
ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)を含む粘着剤組成物であり、
鉄を活性中心とする触媒(C)に対するケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)の重量比(D/C)が3〜70である粘着剤組成物。
【請求項2】
前記水酸基およびカルボキシル基を有するアクリルポリマー(A)が、炭素数4〜12であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル65質量%〜99.89質量%、水酸基含有モノマー1質量%〜25質量%、およびカルボキシル基含有モノマー0.01質量%〜10質量%を構成成分として含むことを特徴とする、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記鉄を活性中心とする触媒(C)が、鉄キレート化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)が、β−ジケトンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層。
【請求項6】
請求項5に記載の粘着剤層を支持体上に形成してなる粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、粘着剤層および粘着シートに関する。詳しくは、経時での性能変化が少ない粘着シート、およびこれに用いる粘着剤組成物および粘着剤層に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の固定(接合)、搬送、保護、装飾等の種々の局面において粘着シートが活用されている。かかる粘着シートの代表例として、アクリルポリマーをベースポリマーとする粘着剤組成物(アクリル系粘着剤組成物)を用いて形成された粘着剤層を備えるものが挙げられる。かかるアクリルポリマーとしては、一般に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主体(主成分)とし、さらに適当な官能基を含有するモノマーとの共重合体が用いられる。特に官能基としてカルボキシル基を有するアクリルポリマーを用いることで、金属板や樹脂板のような極性被着体への接着力が向上し、また適度な凝集力を付与できるため賞用される。
【0003】
また粘着シートにおいては、水酸基のような官能基を有するアクリルポリマーと、官能基と反応する架橋剤を配合して粘着剤組成物とし、アクリルポリマーを架橋することで粘着剤層が形成される。架橋は化学反応であるため、時間とともに進行し安定化するまで時間が必要である。また架橋の進行にともない粘着力も変化する。そのため早期に架橋反応を完了させることが必要である。従って例えば水酸基を有するアクリル系共重合体とイソシアネート系架橋剤との組み合わせでは、錫化合物のような金属触媒を用いることが行われてきている(特許文献1参照)。しかしながら、近年環境対応の観点から特定金属の使用に法規制や懸念がもたれるようになってきている。
【0004】
そのため錫化合物に変わる金属触媒として、鉄を活性中心とする触媒を用いることが検討されている(特許文献2参照)。しかしながらカルボキシル基を有するアクリルポリマーを用いると、鉄の触媒機能を低下させ、架橋反応を速やかに完了させることができないことが確認された。このように製造直後に架橋反応が完了していないと、例えば製造中や保管中に粘着シートへ外圧が加わった場合に、粘着剤層が変形したり傷が混入する等の問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−314513号公報
【特許文献2】特開2011−001440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、従来使用されてきた錫化合物の代わりに鉄触媒を用いた場合の問題点を解消すべく、粘着剤層とする場合には、速やかに架橋が進行し粘着力の変化が少ない粘着剤組成物、およびこれからなる粘着剤層、粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリルポリマーを、鉄触媒の存在下、イソシアネート系架橋剤により架橋する粘着剤組成物において、特定量のケト−エノール互変異性を起こす化合物を併用することで、カルボキシル基による鉄触媒の触媒機能の失活を防ぎ、粘着剤層とする場合には、速やかに架橋反応が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリルポリマー(A)100質量部、
イソシアネート系架橋剤(B)0.1質量部〜15質量部、
鉄を活性中心とする触媒(C)0.002質量部〜0.5質量部、
ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)を含む粘着剤組成物であり、
鉄を活性中心とする触媒(C)に対するケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)の重量比(D/C)が3〜70である粘着剤組成物を提供する。
【0009】
特に本発明の粘着剤組成物においては、前記水酸基およびカルボキシル基を有するアクリルポリマー(A)が、炭素数4〜12であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル65質量%〜99.89質量%、水酸基含有モノマー1質量%〜25質量%、およびカルボキシル基含有モノマー0.01質量%〜10質量%を構成成分として含むことが好適である。
【0010】
また本発明の粘着剤組成物においては、前記鉄を活性中心とする触媒(C)が、鉄キレート化合物であることが好適であり、前記ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)が、β−ジケトンであることが好適である。
【0011】
また本発明は、前記粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を提供する。
【0012】
さらに本発明は、前記粘着剤層を支持体上に形成してなる粘着シートを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、粘着剤層とする場合に速やかに架橋反応が進行する。このため粘着シートとした後は架橋が速やかに進行しているため特性が安定し、例えばエージング等の後架橋工程を設けることが不要となる、製造中や保管中に粘着シートへの外圧による変形や傷の混入等の発生が防止できるなどの効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の粘着剤組成物は、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリルポリマー(A)100質量部、
イソシアネート系架橋剤(B)0.1質量部〜15質量部、
鉄を活性中心とする触媒(C)0.002質量部〜0.5質量部、
ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)を含む粘着剤組成物であり、
鉄を活性中心とする触媒(C)に対するケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)の重量比(D/C)が3〜70であることを特徴とする。
【0015】
(アクリルポリマー(A))
本発明の粘着剤組成物は、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリルポリマー(A)を含む。アクリルポリマー(A)は、後述するイソシアネート系架橋剤(B)と反応可能な水酸基やカルボキシル基などの活性水素を含有する官能基を、主鎖または側鎖上に有するアクリルポリマーである。このようなアクリルポリマー(A)は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、水酸基含有モノマーおよびカルボキシル基含有モノマー(以下、併せて「官能基含有モノマー」と称する場合がある)とを構成成分とし、これらモノマーからなる単量体成分の共重合により得ることができる。
【0016】
本発明においてアクリルポリマー(A)を構成する主モノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数4〜12であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。その具体例としては、たとえば、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0017】
これら炭素数4〜12であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良いが、全体としての含有割合は単量体成分中65質量%〜99.89質量%であることが好ましく、76質量%〜99.48質量%であることがより好ましく、80質量%〜91.97質量%であることがさらに好ましい。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合が65質量%未満であると、後述する官能基含有モノマーやその他のモノマーの含有量が増大し、アクリルポリマーのガラス転移温度が上昇して流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなる場合がある。また架橋の程度(ゲル分)の調整が困難となる場合がある。一方、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が99.89質量%を超えると、官能基含有モノマーの含有割合の低下により架橋形成が不十分となり、粘着剤組成物の凝集力が得られない場合がある。
【0018】
本発明において水酸基含有モノマーは、イソシアネート化合物等の架橋剤と反応可能である水酸基を含有するモノマーである。その具体例としては、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、[4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどがあげられる。
またN−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(1−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(1−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;などがあげられる。
これらの水酸基含有モノマーのなかでも、その重合性や、架橋剤との反応性の点から2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましく、特に4−ヒドロキシブチルアクリレートが好ましい。
【0019】
これら水酸基含有モノマーは単独で用いてもよいし、組み合わせてもよいが、全体としての含有割合は単量体成分中、1質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましく、8質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。前記水酸基含有モノマーの含有割合が1質量%未満であると、架橋形成が不十分となり、粘着剤組成物の凝集力が得られず、物品の固定時に粘着シートがズレたり、粘着シートを剥がす際に糊残りを生じる場合がある。一方、前記水酸基含有モノマーの含有割合が25質量%を超えると、アクリルポリマーの凝集力が大きくなるため流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなってしまう場合がある。
【0020】
本発明においてカルボキシル基含有モノマーは、カルボキシル基を含有するモノマーである。その具体例としては、たとえば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などがあげられる。これらのカルボキシル基含有モノマーのなかでも、その重合性や、凝集性,価格,汎用性の点からアクリル酸が好ましい。
【0021】
これらカルボキシル基含有モノマーは単独で用いてもよいし、組み合わせてもよいが、全体としての含有割合は単量体成分中、0.01質量%〜10質量%であることが好ましく、0.02質量%〜9質量%であることがより好ましく、0.03質量%〜8質量%であることがさらに好ましい。前記カルボキシル基含有モノマーの含有割合が0.01質量%未満であると、極性被着体への接着力が不足する場合がある。一方、前記カルボキシル基含有モノマーの含有割合が10質量%を超えると、アクリルポリマーの凝集力が大きくなるため流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなってしまう場合がある。
【0022】
本発明において、上述した炭素数4〜12であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、水酸基含有モノマーおよびカルボキシル基含有モノマー以外のその他のモノマーを、単量体成分として用いても良い。このようなその他のモノマーとしては、炭素数4〜12以外のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルをあげることができる。本発明に用いられる炭素数4〜12以外のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0023】
また本発明において用いることが出来るその他のモノマーとしては、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン等の環状(メタ)アクリルアミド;
(メタ)アクリルアミド、N−置換(メタ)アクリルアミド(例えば、N−エチル(メ
タ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;
N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(n−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(t−ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド)等の非環状(メタ)アクリルアミド;
N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−3−モルホリノン、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−1,3−オキサジン−2−オン、N−ビニル−3,5−モルホリンジオン等のN−ビニル環状アミド;
アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の、アミノ基を有するモノマー;
N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等の、マレイミド骨格を有するモノマー;
N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド等の、イタコンイミド系モノマー;等の窒素原子含有モノマー等があげられる。
【0024】
その他のモノマーとして採用し得るモノマーの他の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等の、エポキシ基を有するモノマー;
メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等の、アルコキシ基を有するモノマー;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の、シアノ基を有するモノマー;
スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;
エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のα−オレフィン;
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等の、イソシアネート基を有するモノマー;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;
ビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の、複素環を有する(メタ)アクリル酸エステル;
フッ素(メタ)アクリレート等の、ハロゲン原子を有するモノマー;
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等の、アルコキシシリル基を有するモノマー;
シリコーン(メタ)アクリレート等の、シロキサン結合を有するモノマー;
シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール等の、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート;等があげられる。
【0025】
また、その他のモノマーとして、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーを用いてもよい。
【0026】
これらその他のモノマーは単独で使用してもよいし、組み合わせて用いてもよいが、全体としての含有割合は単量体成分中33質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。その他のモノマーの含有割合が33質量%を超えると、炭素数4〜12であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が低下し、アクリルポリマーのガラス転移温度が上昇して流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなる場合がある。
【0027】
本発明に用いられるアクリルポリマーは、重量平均分子量が10万〜300万であることが好ましく、20万〜200万であることがより好ましく、30万〜150万であることがさらに好ましい。重量平均分子量が10万未満であると、粘着剤層の凝集力が低下する傾向があり、物品の固定時に粘着シートがズレたり、粘着シートを剥がす際に糊残りを生じる場合がある。一方、重量平均分子量が300万を超えると、高分子の絡み合いによる効果で凝集力が大きくなって流動性が低下する傾向にあり、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなる場合がある。本発明においてアクリルポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定して得られた、標準ポリスチレン換算の値をいう。
【0028】
また、本発明に用いられるアクリルポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)が0℃以下(通常−100℃以上)であることが好ましく、−10℃以下であることがより好ましく、−20℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が0℃より高い場合、凝集力が大きくなって流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなってしまう場合がある。なお、アクリルポリマーのガラス転移温度は、用いるモノマー成分や組成比を適宜変えることにより前記範囲内に調整することができる。本発明におけるアクリルポリマーのガラス転移温度は、動的粘弾性装置を用いた測定方法や、FOXの式による計算値を用いることができる。
【0029】
本発明に用いられるアクリルポリマーの重合方法は特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合などの公知の方法により重合できる。また、得られる共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体などいずれでもよい。
【0030】
(イソシアネート系架橋剤(B))
本発明の粘着剤組成物は、イソシアネート系架橋剤(B)を含む。イソシアネート系架橋剤(B)としては、たとえば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの低級脂肪族ポリイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族イソシアネート類、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート類、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(商品名コロネートL、日本ポリウレタン工業社製)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(商品名コロネートHL、日本ポリウレタン工業社製)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名コロネートHX、日本ポリウレタン工業社製)などのイソシアネート付加物などがあげられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明において、イソシアネート系架橋剤(B)の含有量は、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.1質量部〜15質量部であり、1質量部〜13質量部であることが好ましく、2質量部〜9質量部であることがより好ましく、3質量部〜6質量部であることが更に好ましい。イソシアネート系架橋剤(B)の含有量が、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.1質量部未満であると、架橋形成が不十分となり、粘着剤層の凝集力が得られず、物品の固定時に粘着シートがズレたり、粘着シートを剥がす際に糊残りを生じる場合がある。一方、イソシアネート系架橋剤(B)の含有量が、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、15質量部を超えると、架橋が進み過ぎて凝集力が大きくなるため流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなってしまう場合がある。
【0032】
本発明の粘着剤組成物は、前記イソシアネート系架橋剤のほか、必要に応じその他の架橋剤を含んでいても良い。その他の架橋剤としては、例えばエポキシ系架橋剤、メラミン系樹脂、アジリジン誘導体、および金属キレート化合物等が用いられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0033】
エポキシ系架橋剤としては、たとえば、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン(商品名TETRAD−X、三菱瓦斯化学社製)や1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロへキサン(商品名TETRAD−C、三菱瓦斯化学社製)などがあげられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0034】
メラミン系樹脂としてはヘキサメチロールメラミン等があげられる。アジリジン誘導体としては、たとえば、市販品としての商品名HDU(相互薬工社製)、商品名TAZM(相互薬工社製)、商品名TAZO(相互薬工社製)等があげられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0035】
金属キレート化合物としては、金属成分としてアルミニウム、チタン、ニッケル、ジルコニウムなど、キレート成分としてアセチレン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、アセチルアセトンなどがあげられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0036】
これらイソシアネート系架橋剤(B)以外の架橋剤を併用する場合、その使用量は本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、イソシアネート系架橋剤(B)との総量が、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.1質量部〜15質量部であることが好ましく、1質量部〜13質量部であることがより好ましく、2質量部〜9質量部であることが更に好ましく、3質量部〜6質量部であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の粘着剤組成物は、架橋剤による架橋後のゲル分が80質量%以上となることが好ましく、85質量%以上となることがより好ましく、90質量%以上となることがさらに好ましい(通常重量98%以下)。ゲル分が80質量%未満であると、粘着剤層の凝集力が小さくなって、物品の固定時に粘着シートがズレたり、粘着シートを剥がす際に糊残りを生じやすくなる場合がある。一方ゲル分率が98質量%を超えると、アクリルポリマーの凝集力が大きくなるため流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなってしまう場合がある。
【0038】
本発明におけるゲル分とは、粘着剤層W1g(約0.1g)を酢酸エチルに約25℃下で1週間浸漬した後、前記粘着剤層を酢酸エチル中から取り出し、130℃で2時間乾燥後の重量W2gを測定し、(W2/W1)×100(質量%)として計算される値である。
【0039】
(鉄を活性中心とする触媒(C))
本発明の粘着剤組成物は、鉄を活性中心とする触媒(C)(以下、鉄触媒(C)と称する場合がある)を含む。鉄触媒(C)としては、鉄キレート化合物を好適に用いることができ、たとえば一般式Fe(X)(Y)(Z)として表わすことができる。鉄キレート化合物は(X)(Y)(Z)の組み合わせにより、Fe(X)、Fe(X)(Y)、Fe(X)(Y)、Fe(X)(Y)(Z)のいずれかで表される。鉄キレート化合物Fe(X)(Y)(Z)において(X)(Y)(Z)はそれぞれFeに対する配位子であって、例えば、X、YまたはZがβ−ジケトンの場合、β−ジケトンとして、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、ヘプタン−3,5−ジオン、5−メチル−ヘキサン−2,4−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,6−ジメチルヘプタンー3,5−ジオン、ノナン−2,4−ジオン、ノナン−4,6−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、トリデカン−6,8−ジオン、1−フェニル−ブタン−1,3−ジオン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、アスコルビン酸等があげられる。
【0040】
X、YまたはZがβ−ケトエステルの場合、β−ケトエステルとして、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−tert−ブチル、プロピオニル酢酸メチル、プロピオニル酢酸エチル、プロピオニル酢酸−n−プロピル、プロピオニル酢酸イソプロピル、プロピオニル酢酸−n−ブチル、プロピオニル酢酸−sec−ブチル、プロピオニル酢酸−tert−ブチル、アセト酢酸ベンジル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等があげられる。
【0041】
本発明においては鉄キレート化合物以外の鉄触媒を用いることもでき、たとえば鉄とアルコキシ基、ハロゲン原子、アシルオキシ基との化合物を用いることもできる。鉄とアルコキシ基との化合物の場合、アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシル基、フェノキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基、1−ベンジルナフチルオキシ基等があげられる。
【0042】
鉄とハロゲン原子との化合物の場合、ハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等があげられる。
【0043】
鉄とアシルオキシ基との化合物の場合、アシルオキシ基として、2−エチルヘキシル酸、オクチル酸、ナフテン酸、樹脂酸(アビエチン酸、ネオアビエチン酸、d−ピマル酸、イソ−d−ピマル酸、ポドカルプ酸、グルコン酸、フマル酸、クエン酸、アスパラギン酸、α−ケトグルタミン酸、リンゴ酸、コハク酸、グリシンやヒスチジン等のアミノ酸等を主成分とする脂肪族系有機酸や安息香酸、ケイ皮酸、p−オキシケイ皮酸等を主成分とする芳香族脂肪酸)等があげられる。
【0044】
本発明においては、これら鉄を活性中心とする触媒(C)のうち、反応性、硬化性の点でβ−ジケトンを配位子として持つ鉄キレート化合物が好ましく、特にトリス(アセチルアセトナート)鉄を用いることが好ましい。これら鉄触媒(C)は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明において、鉄を活性中心とする触媒(C)の含有量は、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.002質量部〜0.5質量部であり、0.003質量部〜0.3質量部であることが好ましく、0.004質量部〜0.2質量部であることがより好ましい。鉄触媒(C)の含有量が、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.002質量部未満では、硬化性が不十分で作製した直後の粘着シートの粘着力が大きくなってしまい、粘着シートを剥がす際に糊残りを生じやすくなる場合があり、また経時での粘着力の変化が大きくなる場合がある。一方。鉄触媒(C)の含有量が、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.5質量部を超えると、後述する鉄触媒(C)の失活を防止するために必要とするケトーエノール互変異性を起こす化合物(D)の必要な含有量が増え、粘着シート中に化合物(D)が残渣として残ってしまい、経時での粘着力の変化が大きくなる場合がある。
【0046】
本発明において鉄を活性中心とする触媒(C)は、イソシアネート系架橋剤(B)の含有量に応じてその配合量を調整することが好ましい。すなわちイソシアネート系架橋剤(B)の配合量(重量)に対し、鉄触媒(C)を0.05質量%〜12.5質量%となる量で配合することが好ましく、0.075質量%〜7.5質量%となる量で配合することがより好ましい。鉄触媒(C)の含有量がイソシアネート系架橋剤(B)に対し0.05質量%未満では、硬化性が不十分で作製した直後の粘着シートの粘着力が大きくなってしまい、粘着シートを剥がす際に糊残りを生じやすくなる場合があり、また経時での粘着力の変化が大きくなる。鉄触媒(C)の含有量がイソシアネート系架橋剤(B)に対し12.5質量%を超えると、後述する鉄触媒(C)の失活を防止するために必要とするケトーエノール互変異性を起こす化合物(D)の必要な含有量が増え、粘着シート中に化合物(D)が残渣として残ってしまい、経時での粘着力の変化が大きくなる場合がある。
【0047】
(ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D))
本発明の粘着剤組成物は、ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)(以下、ケトーエノール互変異性化合物(D)と称する場合がある)を含む。ケト−エノール互変異性化合物(D)とは、ケト(ケトン、アルデヒド)とエノールの間の互変異性(化1参照)を起こす化合物のことであり、前記鉄触媒に対しキレート化剤として作用し、カルボキシル基による触媒機能の失活を防止する化合物である。すなわち、鉄触媒(C)は、カルボキシル基が存在するとそのカルボキシル基が鉄触媒(C)の化学構造に変化を及ぼすことで触媒機能が低下するが、ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)が存在すると、カルボキシル基よりもケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)が鉄触媒(C)近傍に優先的に配位することで,鉄触媒(C)の化学構造の変化をブロックすることによりその失活が防止されると考えられる。
【化1】

(R1,R2,R3は水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基等の置換基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)
【0048】
ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)としては、たとえばアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−t−ブチル、プロピオニル酢酸メチル、プロピオニル酢酸エチル、プロピオニル酢酸−n−プロピル、プロピオニル酢酸イソプロピル、プロピオニル酢酸−n−ブチル、プロピオニル酢酸−sec−ブチル、プロピオニル酢酸−tert−ブチル、アセト酢酸ベンジル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のβ−ケトエステル類;
アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、ヘプタン−3,5−ジオン、5−メチル−ヘキサン−2,4−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,6−ジメチルヘプタンー3,5−ジオン、ノナン−2,4−ジオン、ノナン−4,6−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、トリデカン−6,8−ジオン、1−フェニル−ブタン−1,3−ジオン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、アスコルビン酸等のβ−ジケトン類;
無水酢酸等の酸無水物;
アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−tert−ブチルケトン、メチルフェニルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;等をあげることが出来る。これらの化合物の中でも、カルボキシル基による触媒機能の失活を防止する効果が高いβ−ジケトン類を用いることが好ましく、その中でもアセチルアセトンがより好ましい。
【0049】
ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)の含有量は、鉄を活性中心とする触媒(C)に対するケト−エノール互変異性化合物(D)の重量比(D/C)が3〜70となるよう含有し、10〜70となるよう含有することが好ましく、20〜60となるよう含有することがより好ましく、40〜55となるよう含有することが更に好ましい。ケト−エノール互変異性化合物(D)と鉄触媒(C)の含有量比が70を超えると、鉄触媒(C)に対して過剰にケト−エノール互変異性化合物(D)が含まれた状態となり、ケト−エノール互変異性化合物(D)が配合液中のイソシアネート系架橋剤(C)と副反応を起こすため、硬化時に水酸基と反応できるイソシアネート基が減少し、十分な硬化性を得ることができなくなる。一方、ケト−エノール互変異性化合物(D)と鉄触媒(C)の含有量比が3未満であると、鉄触媒(C)に対して過小にケト−エノール互変異性化合物(D)が含まれた状態となり、カルボキシル基による触媒機能の失活を防止することができず、硬化が不十分となる。
【0050】
ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)は、上記鉄を活性中心とする触媒(C)に対するケト−エノール互変異性化合物(D)の重量比(D/C)が3〜70となるよう含有されればよいが、その場合、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.15〜35質量部配合されることが好ましく、0.2〜20重量含有されることがより好ましい。ケト−エノール互変異性化合物(D)の含有量が、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、35質量部を超えると、粘着剤シート中に化合物(D)が残渣として残ってしまい、経時での粘着力の変化が大きくなる場合がある。一方、ケト−エノール互変異性化合物(D)の含有量が、アクリルポリマー(A)100質量部に対し、0.15質量部未満では、カルボキシル基による触媒機能の失活を防止することができず、硬化が不十分となる場合がある。
【0051】
さらに本発明の粘着剤組成物には、その他の公知の添加剤を含有していてもよく、たとえば、着色剤、顔料などの粉体、界面活性剤、可塑剤、粘着性付与剤、低分子量ポリマー、表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、腐食防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、無機または有機の充填剤、金属粉、粒子状、箔状物などを使用する用途に応じて適宜添加することができる。
【0052】
(粘着剤層)
本発明の粘着剤層は、以上の粘着剤組成物を架橋してなるものである。また、本発明の粘着シートは、かかる粘着剤層を支持体上に形成してなるものである。その際、粘着剤組成物の架橋は、粘着剤組成物の塗布後に行うのが一般的であるが、架橋後の粘着剤組成物からなる粘着剤層を支持体に転写することも可能である。
【0053】
本発明の粘着剤層は、架橋剤による架橋後のゲル分が80質量%以上となることが好ましく、85質量%以上となることがより好ましく、90質量%以上となることがさらに好ましい(通常重量98%以下)。ゲル分が80質量%未満であると、粘着剤層の凝集力が小さくなって、物品の固定時に粘着シートがズレたり、粘着シートを剥がす際に糊残りを生じやすくなる場合がある。一方ゲル分が98質量%を超えると、アクリルポリマーの凝集力が大きくなるため流動性が低下し、十分な接着面積を得られず物品の固定ができなくなってしまう場合がある。
【0054】
粘着剤層を形成する方法は特に問わないが、たとえば、前記粘着剤組成物を支持体に塗布し、重合溶剤等を乾燥除去して粘着剤層を支持体上に形成することにより作製される。その後、粘着剤層の成分移行の調整や架橋反応の調整などを目的として養生を行なってもよい。特に架橋反応を進行させるために、100〜140℃で、15秒〜2分程度、加熱することができる。また、粘着剤組成物を支持体上に塗布して粘着剤層を作製する際には、支持体上に均一に塗布できるよう、粘着剤組成物中に重合溶剤以外の一種以上の溶剤を新たに加えてもよい。
【0055】
また、本発明の粘着剤層の形成方法としては、粘着シートの製造に用いられる公知の方法が用いられる。具体的には、たとえば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアーナイフコート法などがあげられる。
【0056】
本発明の粘着剤層の厚みはその用途に応じて適宜決定することができるが、通常、1μm〜1000μm、好ましくは5μm〜500μm程度である。
【0057】
(粘着シート)
本発明の粘着シートは、前記粘着剤層を支持体上に形成してなるものである。本発明の粘着シートは、ロール状に巻回された形態で形成されていてもよく、シートが積層された形態で形成されていてもよい。すなわち、本発明の粘着シートは、シート状、テープ状、フィルム状などの任意の形態を有することができる。またその使用目的に応じ適宜な形態に切断、打ち抜き加工等を施されていても良い。
【0058】
前記支持体としては、シート状やフィルム状に形成できるものであれば特に限定されるものでなく、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリアクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、ナイロン6、ナイロン6,6、部分芳香族ポリアミドなどのポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフルオロエチレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリビニルアルコールフィルムなどがあげられる。
【0059】
本発明における支持体の厚みは、通常5μm〜200μm、好ましくは10μm〜100μm程度である。
【0060】
前記支持体には、必要に応じて、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系もしくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉等による離型および防汚処理や、酸処理、アルカリ処理、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの易接着処理、塗布型、練り込み型、蒸着型などの静電防止処理をすることもできる。
【0061】
本発明の粘着シートは、必要に応じて、粘着剤層表面を保護する目的で剥離フィルム(セパレーター)を貼り合わせることが可能である。剥離フィルムを構成する材料としては紙やプラスチックフィルムがあるが、表面平滑性に優れる点からプラスチックフィルムが好適に用いられる。そのフィルムとしては、前記粘着剤層を保護し得るフィルムであれば特に限定されず、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフイルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムなどがあげられる。
【0062】
前記剥離フィルムの厚みは、通常5μm〜200μm、好ましくは10μm〜100μm程度である。前記剥離フィルムには、必要に応じて、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系もしくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉等による離型および防汚処理や、塗布型、練り込み型、蒸着型などの帯電防止処理もすることもできる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0064】
<アクリルポリマーの重量平均分子量の測定>
作製したアクリルポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定した。
【0065】
装置:東ソー社製、HLC−8220GPC
カラム:
サンプルカラム;東ソー社製、TSKguardcolumn Super HZ−H(1本)+TSKgel Super HZM−H(2本)
リファレンスカラム;東ソー社製、TSKgel Super H−RC(1本)
流量:0.6ml /min
注入量:10μl
カラム温度:40℃
溶離液:THF
注入試料濃度:0.2質量%
検出器:示差屈折計
なお、重量平均分子量はポリスチレン換算により算出した。
【0066】
<評価用粘着シートの作製>
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ38μm)上に、後述する実施例および比較例の粘着剤組成物溶液を塗布し、130℃で30秒間乾燥することにより溶剤を除去して粘着剤層(厚さ25μm)を形成した。その後、離型剤で表面処理した離型フィルムで覆い、室温(23℃)で1時間放置し、作製直後の評価用粘着シートを得た。またこの粘着シートを、室温(23℃)、50%RHの条件で4日間保存し、エージング後の評価用粘着シートとした。
【0067】
<粘着力の測定>
作製したそれぞれの評価用粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットし、イソプロピルアルコールを染み込ませたクリーンウェスで10往復擦って洗浄した清浄なアクリル板に、2kgのローラを転がして一往復する方法で圧着して接着力評価用サンプルとした。この評価サンプルを、23℃、50%RHの測定環境下に30分放置後、高速剥離試験機を用いて引張速度30m/分、剥離角度180°の条件で高速粘着力[N/20mm]を測定した。また引張速度0.3m/分、剥離角度180°の条件で低速粘着力[N/20mm]を測定した。
【0068】
本発明においては、作製直後の粘着シートの粘着力と、エージング後の粘着シートの粘着力との変化率により架橋の進行具合を評価した。すなわち本評価における変化率とは、エージング後の粘着シートの粘着力を、作製直後の粘着シートの粘着力で除した値であり(すなわち変化率=エージング後の粘着シートの粘着力/作製直後の粘着シートの粘着力)、変化率が0.60以上であれば粘着力の変化が少ないと判断され、作製直後に架橋が十分進行したと判断される。また高速粘着力は粘着シートを剥離する際の剥がしにくさの目安であり、一方低速粘着力は物品の固定の可否を判断する目安であって、高速粘着力および低速粘着力において、両方とも変化率が0.60以上であることが必要である。
【0069】
[アクリルポリマー(1)の調製]
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに単量体成分として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100質量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)10質量部、アクリル酸(AA)0.06質量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、酢酸エチル356質量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を60℃付近に保って約3時間重合反応を行い、アクリルポリマー溶液を調製した。得られたアクリルポリマー(1)の重量平均分子量は61万、FOXの式より計算したガラス転移温度は−67℃であった。
【0070】
[アクリルポリマー(2)の調製]
単量体成分として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100質量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)10質量部、アクリル酸(AA)5質量部を用いた以外はアクリルポリマー(1)の調整と同様にして、アクリルポリマー溶液を調整した。得られたアクリルポリマー(2)の重量平均分子量は63万、FOXの式より計算したガラス転移温度は−63℃であった。
【0071】
[アクリルポリマー(3)の調製]
単量体成分として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)10質量部、アクリル酸(AA)0.06質量部を用いた以外はアクリルポリマー(1)の調整と同様にして、アクリルポリマー溶液を調整した。得られたアクリルポリマー(3)の重量平均分子量は61万、FOXの式より計算したガラス転移温度は−66℃であった。
【0072】
[アクリルポリマー(4)の調製]
単量体成分として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100質量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)10質量部、アクリル酸(AA)2質量部を用いた以外はアクリルポリマー(1)の調整と同様にして、アクリルポリマー溶液を調整した。得られたアクリルポリマー(4)の重量平均分子量は62万、FOXの式より計算したガラス転移温度は−65℃であった。
【0073】
[アクリルポリマー(5)の調製]
単量体成分として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100質量部、アクリル酸(AA)0.06質量部を用いた以外はアクリルポリマー(1)の調整と同様にして、アクリルポリマー溶液を調整した。得られたアクリルポリマー(5)の重量平均分子量は40万、FOXの式より計算したガラス転移温度は−70℃であった。
【0074】
(実施例1)
[粘着剤組成物を用いた粘着シートの作製]
上記アクリルポリマー(1)100質量部(固形分)に対し、架橋剤としてトリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」)4質量部、鉄触媒としてトリス(アセチルアセトナート)鉄(日本化学産業社製、商品名「ナーセム第二鉄」)0.005質量部、ケト−エノール互変異性を起こす化合物としてアセチルアセトン(AcAc)0.25質量部を添加し、さらにトルエンで固形分濃度が29質量%になるよう希釈後、撹拌して粘着剤組成物を得た。これを用いて前記作製方法に従い、評価用粘着シートを作製した。
【0075】
(実施例2〜実施例6、比較例1〜比較例4)
表1に記載の処方により、実施例1と同様の手順により、粘着剤組成物を調整し、評価用粘着シートを作成した。
なお表中、架橋剤における「C/HX」は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートHX」)を、触媒における「OL−1」は、ジオクチルスズジラウレート(東京ファインケミカル社製、商品名「エンビライザー OL−1」)を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1〜6の粘着剤組成物は、作製直後の粘着シートの粘着力と、エージング後の粘着シートの粘着力の変化率が0.60以上であって、作製直後から安定した粘着力を得られることが確認された。すなわち、カルボキシル基を有するアクリルポリマーに対し、イソシアネート架橋が作製直後にほぼ完了していることを示し、鉄触媒の触媒機能が失活していないことが確認された。なお実施例中、実施例2は高速粘着力、低速粘着力とも剥離時にはスティックスリップが確認された。スティックスリップは、剥離面で発生する震動現象であり、被着体にダメージを与えて破損したり,被着体に部分的に糊残りを生じたりする場合があるという理由から、場合によっては好ましくはない。
【0078】
一方、ケト−エノール互変異性を起こす化合物(D)を配合していない比較例1の粘着剤組成物は、アクリルポリマー中のカルボキシル基により鉄触媒の触媒機能が失活し、作製直後には架橋反応が完了していないため、エージングにより架橋が進行し、エージング後の粘着力が作製直後とくらべ大きく変化していることが確認された。また比較例2、3の粘着剤組成物は、アクリルポリマー中に水酸基を有していないため、架橋が進まず凝集力が不十分であり、粘着力の測定において凝集破壊することが確認された。また錫系の触媒を用いた比較例4は、触媒活性が鉄触媒よりも低いことにより作製直後には架橋反応が完了しておらず、エージングにより架橋が進行し、エージング後の粘着力が作製直後とくらべ大きく変化していることが確認された。