特許第6062817号(P6062817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6062817-乗用車用空気入りラジアルタイヤ 図000005
  • 特許6062817-乗用車用空気入りラジアルタイヤ 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062817
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】乗用車用空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20170106BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20170106BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20170106BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20170106BHJP
   D02G 3/48 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B60C9/18 F
   B60C9/00 B
   B60C9/20 E
   D07B1/06 A
   D02G3/48
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-152971(P2013-152971)
(22)【出願日】2013年7月23日
(65)【公開番号】特開2015-20722(P2015-20722A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】西野 達弘
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−089303(JP,A)
【文献】 特開2008−302875(JP,A)
【文献】 特開2008−001163(JP,A)
【文献】 特開2008−001164(JP,A)
【文献】 特開平09−286212(JP,A)
【文献】 特開昭61−278404(JP,A)
【文献】 米国特許第04735249(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のビード部間にわたり配したポリエステルコードを用いた少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、トレッド部における前記カーカスのタイヤ径方向外側にスチールコードを用いた少なくとも2枚のベルトプライを配したベルトを有する乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ポリエステルコードが、片撚りコードであって、コード1本当たりの曲げ硬さが4〜14cNであり、かつ、前記カーカスプライのコード占有率が38〜68%であり、
前記スチールコードが、直径0.20〜0.30mmの複数のスチールフィラメントを撚り合わせてなり、該スチールコードの、コード1本当たりの曲げ硬さが180〜380cNである
ことを特徴とする乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記ポリエステルコードの繊度が、500〜1500dtexであることを特徴とする請求項1記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車用ラジアルタイヤに求められる性能として、操縦安定性、乗り心地、低燃費性、耐久性等が挙げられる。乗用車用ラジアルタイヤのカーカスには、従来からのレーヨンコードに代えて、コスト、供給能力、タイヤ製造時の工程管理などが容易なポリエステル(ポリエチレンテレフタレート繊維、PET)コードが広く用いられるようになっている。また、近年、省エネルギー、省資源の観点から、自動車の低燃費化に対する要請が強く、この低燃費化にはタイヤの質量軽減が大きく寄与することが知られている。
【0003】
従来、カーカスプライには、下撚りを施した有機繊維の素線の束(所謂ストランド)の複数本を、さらに上撚りによって撚り合わせた双撚り構造の有機繊維コードが主として使用されている(例えば、特許文献1,2参照)。しかしながら、双撚り構造では、下撚りと上撚りとの撚り方向が互いに逆のため、形態保持性は良好であるものの、撚り工程が多く製造コストが高くなる。また、コード直径が太くなるなどコード質量の増加を招き、プライ厚さを増大させるなどタイヤ質量増加の原因ともなっている。そのため、タイヤの軽量化を図るべく、カーカスプライに片撚りコードを使用し、カーカスプライの厚みを低減することが知られている(例えば、特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−1164号公報
【特許文献2】特開2008−1163号公報
【特許文献3】特開2011−11594号公報
【特許文献4】特開2011−235864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにタイヤの軽量化には片撚りコードを用いることが好ましいが、その場合、乗用車用ラジアルタイヤとしての優れた操縦安定性、乗り心地及び耐久性を得るために、カーカスプライとベルトプライの剛性を如何に設定するかが問題となる。すなわち、操縦安定性や乗り心地は、サイドウォール部の剛性が影響し、カーカスプライ自体の剛性が大きく寄与している。また、トレッド部を補強するベルトプライはトレッド剛性を支配して操縦安定性や乗り心地にも影響することから、ベルトプライを構成するスチールコードの選択が重要となる。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、操縦安定性と乗り心地をバランス良く両立し、軽量化を達成しつつ、タイヤ耐久性を向上することができる乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討していく中で、カーカスプライに片撚りのポリエステルコードを使用しつつ、該ポリエステルコードとベルトプライのスチールコードの剛性を適正に設定することで、タイヤ剛性を確保し、操縦安定性と乗り心地をバランス良く両立し、軽量化を達成しつつ、タイヤ耐久性を向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る乗用車用空気入りラジアルタイヤは、左右のビード部間にわたり配したポリエステルコードを用いた少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、トレッド部における前記カーカスのタイヤ径方向外側にスチールコードを用いた少なくとも2枚のベルトプライを配したベルトを有する乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、前記ポリエステルコードが、片撚りコードであって、コード1本当たりの曲げ硬さが4〜14cNであり、かつ、前記カーカスプライのコード占有率が38〜68%であり、また、前記スチールコードが、直径0.20〜0.30mmの複数のスチールフィラメントを撚り合わせてなり、該スチールコードの、コード1本当たりの曲げ硬さが180〜380cNであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カーカスプライのポリエステルコードとベルトプライのスチールコードの剛性を適正に選択し使用することで、タイヤ剛性を確保し操縦安定性と乗り心地をバランス良く両立することができるとともに、軽量化を達成しつつ、タイヤ耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の空気入りタイヤの半断面図である。
図2】コード曲げ硬さの測定方法を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、一実施形態に係る乗用車用空気入りラジアルタイヤ(1)の半断面図である。このタイヤ(1)は、接地面を構成するトレッド部(2)と、左右一対のビード部(3)と、トレッド部(2)とビード部(3)との間に介在する左右一対のサイドウォール部(4)とを備えてなる。トレッド部(2)における径方向内側部分にはカーカス(5)が埋設されており、カーカス(5)は左右のビード部(3)間にわたり配されている。すなわち、カーカス(5)は、トレッド部(2)から両側のサイドウォール部(4)を経てビード部(3)で係止されており、カーカス(5)の両端部(5A)が、ビード部(3)に埋設されたビードコア(6)の内側から外側に巻き上げられることにより係止されている。また、トレッド部(2)におけるカーカス(5)の径方向外側には2枚のベルトプライからなるベルト(7)が配され、更に、ベルト(7)の外周には、タイヤ周方向に対して0〜5度の角度で螺旋状に巻回する有機繊維コードからなるベルト補強層(8)が設けられている。
【0013】
カーカス(5)は、補強材としてのポリエステルコードを所定の打ち込み本数で平行配列し被覆ゴムで被覆してなる少なくとも1枚のカーカスプライ(図の例では1枚)からなり、該ポリエステルコードがタイヤ周方向に対して実質上直角になるように該カーカスプライを配設することで構成されている。
【0014】
ベルト(7)は、補強材としてのスチールコードをタイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、15〜35度)で傾斜させかつ所定の打ち込み本数で平行配列し被覆ゴムで被覆してなる少なくとも2枚のベルトプライ(図の例では2枚)からなり、該スチールコードは、2枚のベルトプライ間で互いに交差するように配設されている。
【0015】
上記カーカスを構成するポリエステルコード(以下、PETコードということがある。)としては、多数のポリエステルフィラメントを束ねてなるヤーンに一方向の撚りを付与した片撚り構造のコード(即ち、片撚りコード)が用いられる。
【0016】
該ポリエステルコードの繊度(公称繊度ないし表示繊度とも称される。)は、500〜1500dtexであることが好ましい。従来このような低繊度のPETコードを片撚り構造としてカーカスプライに使用することは知られておらず、かかる低繊度のPETコードを用いることにより、タイヤを軽量化できるとともに、プライ厚さを薄くできることで発熱を低くすることができタイヤの耐久性を向上することができる。繊度が500dtex以上であることにより、剛性を確保するためにコードの打ち込み本数が多くなりすぎるのを防ぐことができる。また、繊度が1500dtex以下であることにより、タイヤの軽量化効果を高めることができる。PETコードの繊度は、より好ましくは900〜1300dtexである。
【0017】
該ポリエステルコードとしては、コード1本当たりの曲げ硬さ(以下、コード曲げ硬さということがある。)が4〜14cNであるものが用いられる。ここで、コード曲げ硬さとは、ポリエステルコード1本を、支点間距離25.4mmにてその中央部を曲げた時の最大荷重で定義される値である。コード曲げ硬さが4cN未満では、サイドウォール部剛性が不十分となって操縦安定性が満足し難く、サイドウォール部剛性を確保するためにコード打ち込み本数やプライ数を増すと、タイヤ質量増や走行中の発熱によるセパレーションなど故障の原因となる。また、コード曲げ硬さが14cNを超えると、コードが剛直になりすぎ、乗り心地の向上が困難になるとともに、耐疲労性を低下させ耐久性に影響するようになり、またゴムとのモジュラス差に基づく接着破壊からセパレーション故障を生じやすくする。コード曲げ硬さは、より好ましくは5〜12cNであり、更に好ましくは6〜10cNである。
【0018】
該ポリエステルコードの曲げ硬さを4〜14cNの範囲とする手段は、特に限定されない。例えば、紡糸や延伸条件、構成フィラメントの太さ、撚り係数、接着処理液や処理条件、樹脂付着率、ソフニング処理条件等が挙げられ、これら2種以上の手段を組み合わせて調整することもできる。
【0019】
該ポリエステルコードのカーカスプライにおけるコード使用量は、1プライ当たりのコード占有率で、38〜68%である。ここで、コード占有率(%)とは、コードを所定の打ち込み本数で引き揃えて配列しゴム被覆された、いわゆるトッピング反において、次式で計算される値である。コード占有率(%)=(コード径(mm)×コード打ち込み本数(本/25mm))×100/25(mm)。
【0020】
このコード占有率が上記の下限値を下まわると、コード曲げ硬さの範囲のコードを使用してもサイドウォール部剛性が不足し、操縦安定性が低下傾向を示す。また、コード占有率が上限値を超えると、サイドウォール部剛性が高くなりすぎて乗り心地が低下し、また隣接するコード同士が接近しセパレーションに対して不利となり、さらにタイヤ成型におけるプライ拡張時にコードの配列乱れを生じやすくなり、ユニフォミティー低下の原因となる。コード占有率は、より好ましくは40〜60%であり、更に好ましくは45〜58%である。
【0021】
該ポリエステルコードの撚り数は、特に限定されず、曲げ硬さが上記の範囲内となるように撚り係数Kを設定すればよい。一実施形態としては、撚り係数Kは500〜2000であってもよい。ここで、撚り係数Kは、コードの長さ10cm当たりの撚り数をT(回/10cm)、上記繊度をD(dtex)として、K=T×(D/1.39)1/2で定義される値である。
【0022】
なお、該ポリエステルコードには、耐熱ないし接着処理などの樹脂処理がなされてもよい。かかる樹脂処理は、ポリエステルコードをスダレ状に製織したものに対して行ってもよく、あるいはまた、製織する前のコード単体の段階で行ってもよい。一実施形態として、ポリエステルコードを所定の打ち込み本数でスダレ状に製織し、その後、例えば、RFL(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス)接着液などの公知の処理液でディッピング処理した後、乾燥し、その後、ゴム組成物からなる被覆ゴムを両面に被覆してトッピング反に加工することにより、未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を作製するためのカーカス材が得られる。
【0023】
上記ベルトを構成するスチールコードとしては、直径0.20〜0.30mmの複数のスチールフィラメントを撚り合わせてなり、コード1本当たりの曲げ硬さ(以下、コード曲げ硬さということがある。)が180〜380cNであるものが用いられる。
【0024】
該スチールコードを構成するフィラメントは、直径が0.20〜0.30mmの範囲であり、0.20mmより細いフィラメントは、コード曲げ硬さを確保するために多数本のフィラメントを使用する必要があり、コード自体の単位質量、ベルトプライへの使用量の増加を伴いタイヤ軽量化に反する。また、0.30mmを超えると、コードが剛直になり乗り心地が低下し、また耐疲労性やベルトエッジのセパレーションにも悪影響する。スチールフィラメントの直径は、より好ましくは0.22〜0.28mmである。
【0025】
該スチールコードのコード曲げ硬さは180〜380cNであり、これが180cN未満では、コードが柔軟になりすぎ、タイヤ周方向のベルト剛性が低下することでコーナリングパワーが低下し、操縦安定性が低下する。また、コード曲げ硬さが380cNを超えると、コードが剛直になり乗り心地が悪化する。コード曲げ硬さは、より好ましくは190〜250cNであり、更に好ましくは200〜230cNである。なお、このコード曲げ硬さは、上記ポリエステルコードの場合と同様に、スチールコード1本を、支点間距離25.4mmにてその中央部を曲げた時の最大荷重で定義される値である。
【0026】
該スチールコードのコード構造は、コード曲げ硬さを上記範囲内とすることができるものであれば、特に限定されず、公知のコード構造を採用することができ、フィラメント径、フィラメント本数、撚り構造、撚りピッチなどを組み合わせてコード特性を設計することができる。コード構造としては、例えば、1×2、1×3、1×4、1×5などの単撚り構造、1+2、1+3、2+1、2+2、2+3、2+4、2+5などの2層撚り構造(m+n構造[好ましくは、m=1又は2、n=1〜4]。なお、コアは無撚りでも撚られていてもよい。)、1×2×2、1×2×3などの複撚り構造が挙げられる。
【0027】
このようなスチールコードは、例えば、バンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機などの公知の撚線機を用いて製造することができる。なお、スチールフィラメント表面には、ゴムとの接着性を良好にするために、例えば銅比率が63〜67%のブラスめっきを4〜6g/kg程度の付着量で被覆してもよい。
【0028】
該スチールコードは、所定の打ち込み本数で平行に配列した後、ゴム組成物からなる被覆ゴムを両面に被覆することにより、未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を作製するためのベルトプライ材が得られる。
【0029】
ベルトプライにおけるスチールコードの打ち込み本数は、コード引張強力等に応じて適宜に設定することができ、特に限定されないが、10〜25本/25.4mmであることが好ましく、より好ましくは15〜25本/25.4mmである。
【0030】
本実施形態に係るラジアルタイヤは、カーカスに上記特定のコード曲げ硬さを持つ片撚り構造のポリエステルコードを使用し、ベルトのスチールコードを上記コード曲げ硬さで定義されるベルト剛性を持つように設定したことにより、タイヤ強度とタイヤ剛性を確保し、操縦安定性と乗り心地をバランス良く両立することができ、また軽量化を達成しつつ、タイヤの耐久性を向上することができる。
【0031】
なお、本実施形態に係るラジアルタイヤは、カーカスを1プライ又は2プライのカーカスプライで構成することができ、2プライの場合は少なくとも1枚のカーカスプライに上記のポリエステルコードを使用すればよく、上記効果を損なわない範囲で他のカーカスプライには従来のポリエステルコードやナイロンコードを使用してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
タイヤサイズが195/65R15である空気入りラジアルタイヤを試作した。カーカス及びベルトの構成は、実施例及び比較例の各タイヤについて、下記表1,2に示す通りであり、カーカス及びベルト以外の構成は、全て共通の構成とした。なお、ベルトを構成するベルトプライの枚数はいずれも2枚とし、コードの傾斜角度はタイヤ周方向に対して互いに22°(+22°/−22°)とした。
【0034】
表1,2中のカーカスコード材質における「PET」は、ポリエチレンテレフタレートを意味し、「1100dtex/2」は繊度1100dtexのPETフィラメントからなる下撚りしたヤーンを2本撚り合わせて得られた双撚り構造であることを意味し、「1100dtex/1」は繊度1100dtexのPETフィラメント束からなる片撚り構造であることを意味する。各PETコードに対するディップ処理は、処理液として公知のものが使用でき、この例では、ポリエステルコードに対し、まず、下記表3に示す第1処理液で1回処理し、その後、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)からなる第2処理液で1回処理する方法で、実施例1〜3では樹脂付着率が約4%となるように行った。なお、実施例1〜3におけるPETコードの繊度及びコード曲げ硬さの違いは、この樹脂付着率のバラツキによるものである。実施例4及び比較例2、3では、樹脂付着率を変えることで、表中のコード曲げ硬さとした。
【0035】
ベルトのスチールコードとしては、JIS G3502に規定のピアノ線材SWRS82A材の5.5mmロッドから、パテンティング、伸線加工を繰り返し所定径の中間線に乾式伸線し、この中間線にブラスめっき(銅比率64%、めっき付着量4.5g/kg)を施した後、通常の湿式伸線機を用いて所定径に最終伸線して得たフィラメントを通常のチューブラー式撚線機を用いて常法に従い下記の撚りピッチで撚り合わせ製造したものである。なお、2層構造コードはコアが無撚りの場合は(−)で示した。
・2+2×0.25:撚りピッチ=−/S14mm
・2+1×0.27:撚りピッチ=−/S15mm
・2+3×0.24:撚りピッチ=−/S10mm
・2+7×0.175:撚りピッチ=S5/S10mm
・2+7×0.20:撚りピッチ=S6/S12mm
・2+7×0.25:撚りピッチ=S7/S14mm
・1×3×0.28:撚りピッチ=S11mm
・1×2×0.32:撚りピッチ=S15mm
【0036】
表1,2中の各物性、およびタイヤ性能等についての各測定・評価方法は以下の通りである。
【0037】
・カーカスコードの繊度、コード径、強力、強度:JIS L1017に準じ、20℃、65%RHの恒温条件で24時間以上放置後、コード径、繊度、及び引張試験機(島津製作所(株)製オートグラフ)で強伸度を測定した。
【0038】
・カーカスのコード曲げ硬さ:引張試験機(島津製作所(株)製オートグラフ)を用いてコードを曲げたときの最大荷重であり、次のようにして測定した。すなわち、常温下にて、長さ50〜80mmのコード(10)を、図2に示すように、両端がフリーの状態で、中央部を25.4mm間隔の位置で吊り下げた状態に支持具(12)で支持するとともに、その中点(10M)を逆U字状の固定された治具(14)の直線状の上辺部(14A)に対して、下側から直角に交差するように当てる。ここで、上辺部(14A)は断面円形(直径=3.0mm)の棒状をなす。この状態から、前記支持具(12)を引張速度300mm/分で上方に引き上げて、コード(10)を治具(14)により曲げながら、支持具(12)にかかる荷重を測定する。そのときの最大荷重が該コード(10)の最大曲げ荷重(cN)であり、n=5の平均値をもってコード曲げ硬さとする。
【0039】
・カーカスのトータルコード曲げ硬さ:コード曲げ硬さに打ち込み本数を乗じて算出される幅25mm当たりの曲げ硬さ。
【0040】
・プライ枚数:タイヤのカーカスを構成するカーカスプライの枚数。
【0041】
・カーカスのプライ厚み:被覆ゴムによってポリエステルコードを被覆してなるカーカスプライとしての厚みであり、ダイヤルゲージ(脚の直径9.5mm、荷重1670mN)により測定した。
【0042】
・カーカスのトータルプライ強力:コード強力にコード打ち込み本数とプライ枚数を乗じて算出されるカーカス25mm幅当たりの引張強力。
【0043】
・カーカスのコード占有率:コード占有率(%)=(コード径(mm)×コード打ち込み本数(本/25mm))×100/25(mm)により算出した。
【0044】
・ベルトのコード径、強力:JIS G3510に準じて測定した。
【0045】
・ベルトのコード曲げ硬さ:カーカスのコード曲げ硬さと同じ方法で測定した。
【0046】
・ベルト強力:コード強力に打ち込み本数を乗じて算出される幅25.4mm当たりの引張強力。
【0047】
・ベルト曲げ剛性:コード曲げ硬さに打ち込み本数を乗じて算出される幅25.4mm当たりの曲げ硬さ。
【0048】
・ベルトのプライ厚み:被覆ゴムによってスチールコードを被覆してなるベルトプライとしての厚みであり、ダイヤルゲージ(脚の直径9.5mm、荷重1670mN)により測定した。
【0049】
・カーカスプライ質量(指数):タイヤ1本当たりのカーカスプライ質量を、比較例1を100とした指数で表示したものであり、指数が小さいほど軽量であることを意味する。
【0050】
・タイヤ質量(指数):タイヤ1本当たりの質量を、比較例1を100とした指数で表示したものであり、指数が小さいほど軽量であることを意味する。
【0051】
・タイヤ荷重耐久性:FMVSS109(UTQG)に準拠し、表面が平滑な鋼製の直径1700mmの回転ドラムを有するドラム試験機により、次のようにして測定した。タイヤ内圧は200kPaで、試験速度は80km/hで一定とした。JATMA規定の最大荷重の85%で4時間、次に最大荷重の90%で6時間、さらに最大荷重の100%で24時間走行させた後、最大荷重の120%で24時間走行させる。このとき外観及び内面に異常が無ければさらに最大荷重の140%で、故障が起きるまで走行させる。故障が発生するまでの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。指数大きいほど荷重耐久性が良好である。
【0052】
・実車操縦安定性:内圧200kPaで組み込んだ試験タイヤを排気量2000ccの試験車両に装着し、訓練された3名のテストドライバーにてテストコースを走行し、フィーリング評価した。採点は10段階評価で、比較例1のタイヤを6点とした相対比較にて行い、3人の平均点を比較例1のタイヤを100として指数表示した。指数大きいほど操縦安定性が良好である。
【0053】
・乗り心地:各タイヤをJIS規格の標準リムを用いて内圧200kPaに調整し、2000ccの国産乗用車に同種タイヤ4本を装着し、良路と悪路のテストコースにて3名のテストドライバーにより乗り心地を官能評価し、比較例1を基準として評価した。比較例1と同等を「△」、劣るを「×」、優れるを「○」で示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
結果は、表1,2に示す通りである。カーカスプライに1100dtex/2からなる双撚り構造のPETコードを用いた比較例1に対し、1100dtex/1からなる片撚り構造のPETコードを用いた比較例2であると、タイヤの軽量化効果には優れるものの、カーカスのコード曲げ硬さが3cNと低かったため、サイドウォール部の剛性不足により、操縦安定性に劣っていた。1100dtex/1からなる片撚りPETコードを用いたものの、そのコード曲げ硬さが17cNと大きすぎた比較例3では、カーカスコードが剛直になりすぎて、乗り心地の向上が困難になるとともに、耐疲労性が低下したことによりタイヤの荷重耐久性が低下した。1100dtex/1からなる片撚りPETコードを用いたものの、そのコード占有率が37%と低い比較例4では、サイドウォール部の剛性不足により操縦安定性に劣っていた。1100dtex/1からなる片撚りPETコードを用いたものの、そのコード占有率が69%と高い比較例5では、サイドウォール部の剛性が高くなって乗り心地が悪化し、また、サイドウォール部での接着破壊から耐久性が低下し、また隣接するコード同士が接近していたことによりセパレーション発生して耐久性が低下した。1670dtex/1からなる片撚りPETコードを用いた比較例6では、そのコード曲げ硬さが16cNと大きすぎたため、カーカスコードが剛直になりすぎて、乗り心地の向上が困難になるとともに、耐疲労性が低下したことによりタイヤの荷重耐久性が低下した。
【0058】
カーカスプライとしてはコード曲げ硬さ及びコード占有率ともに満足する片撚りPETコードを用いたものの、ベルトプライを構成するスチールコードの曲げ硬さが125cNと小さすぎた比較例7では、ベルトコードが柔軟になりすぎてタイヤ周方向のベルト剛性が低下したことにより操縦安定性が低下した。また、ベルトプライを構成するスチールコードの曲げ硬さが515cNと大きすぎた比較例8では、乗り心地が悪化した。ベルトプライを構成するスチールコードのフィラメント径が0.32mmと大きすぎた比較例9では、乗り心地が悪化し、コード疲労性低下し、荷重耐久性が低下した。
【0059】
これに対し、カーカスプライについて所定のコード曲げ硬さを持つ片撚りPETコードを用いて所定のコード占有率に設定するとともに、ベルトのスチールコードとして所定の曲げ硬さに設定した実施例1〜8であると、比較例1に対して荷重耐久性が向上するとともに、タイヤ剛性を最適化したことで操縦安定性と乗り心地がバランスよく向上しており、更にタイヤの軽量化効果も大きかった。
【符号の説明】
【0060】
1…空気入りラジアルタイヤ、2…トレッド部、3…ビード部、4…サイドウォール部、5…カーカス、7…ベルト、8…ベルト補強層
図1
図2