(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X線回折法により測定した(002)面の平均層面間隔が0.365−0.40nmであり、空気雰囲気中での示差熱分析で620℃以下に発熱ピークを有さず、BET比表面積が1〜7m2/gであり、平均粒子径D50が5〜25μmであり、そして(D90−D10)/D50が、1.05以下である難黒鉛化性炭素質材料であることを特徴とする、非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]非水電解質二次電池負極用炭素質材料
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料は、X線回折法により測定した(002)面の平均層面間隔が0.365−0.40nmであり、空気雰囲気中での示差熱分析で620℃以下に発熱ピークを有さず、BET比表面積が1〜7m
2/gであり、平均粒子径D
50が5〜25μmであり、そして(D
90−D
10)/D
50が、1.05以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の炭素質材料は、難黒鉛性炭素質材料であり、X線回折法により測定した(002)面の平均層面間隔が0.365−0.40nmである。
黒鉛、又は黒鉛構造の発達した易黒鉛化炭素質材料は、緻密な黒鉛の結晶構造を有しており、例えばリチウムイオン2次電池においては、リチウムのドープ、脱ドープの繰り返しにより、黒鉛層間は10%程度膨張するため黒鉛の結晶構造の破壊が起こりやすい。一方、難黒鉛化性炭素質材料は、黒鉛の結晶構造がそれほど発達していないため、結晶の乱れた微細な空隙にリチウムを格納することができる。このため、充放電による粒子の膨張収縮が小さく、充放電を繰り返すことによる粒子の構造破壊、電極内部における粒子間接触抵抗の増加、あるいは電極板の変形がほとんどない。従って、難黒鉛化性炭素質材料を負極として用いた場合の、リチウムのドープ、脱ドープ反応による耐久性に優れている。換言すると、難黒鉛化性炭素質材料は、黒鉛又は易黒鉛化炭素質材料と比較すると、充放電時の膨張収縮が小さく繰り返し性能(いわゆる、耐久性)において優れている。
【0011】
本発明の炭素質材料は、空気雰囲気中での示差熱分析で620℃以下に発熱ピークを有ない。炭素質材料に金属片(例えば、Fe)が混入している場合、示差熱分析により、620℃以下に発熱ピークを示す。金属片が混入している炭素質材料を非水電解質二次電池負極に用いると、電池性能が悪化する。具体的には、放電量の低下、すなわち不可逆容量が増加し、充放電効率が低下する。更に、炭素質材料に金属片(例えば、Fe)が混入している場合、電圧低下や内部短絡発生の可能性があり、非水電解質二次電池の安全性の面からも好ましくない。
前記金属片(例えば、Fe)の混入は、ジェットミルの内壁のステンレス鋼からの混入によるものと考えられ、後述の難黒鉛性炭素質材料の製造においては、仮焼成の温度を610℃以下にすることによって、解決することができる。
【0012】
本発明の炭素質材料は、BET比表面積が1〜7m
2/gである。
BET比表面積が、7m
2/gを超えると、非水電解質二次電池の負極として用いた場合に、電解液との分解反応が増加し、不可逆容量の増加に繋がり、従って電池性能が低下する。一方、BET比表面積が1m
2/g未満であると、非水電解質二次電池の負極として用いた場合に、電解液との反応面積が低下することにより入出力特性が低下する可能性がある。
【0013】
本発明の炭素質材料は、平均粒子径D
50が5〜25μmであり、好ましくは7〜23μmである。非水電解質二次電池の性能における出力特性を向上させるためには、電極の活性物質層の厚みを薄くして、抵抗を下げることが重要である。また、平均粒子径が25μm以下であると、粒子内のリチウム拡散長が短くなり、急速充電時において好ましい。
【0014】
本発明の炭素質材料は、(D
90−D
10)/D
50が、1.05以下であり、好ましくは1.00以下であり、より好ましくは0.95以下であり、最も好ましくは0.90以下である。D
10は、累積(積算)容積粒子径の10容積%の粒子が位置する粒子径を示し、D
50は、平均粒子径の50容積%の粒子が位置する粒子径を示し、そしてD
90は、累積(積算)容積粒子径の90容積%の粒子が位置する粒子径を示している。(D
90−D
10)/D
50が、1.0を超えると、炭素質材料は微粉を多く含むこと、及び/又は炭素質材料が粒径の大きな粒子を多く含むことがある。
微粉を多く含む炭素質材料を非水電解質二次電池の負極として用いると、不可逆容量が増加し、充放電効率が低下する。また、粒径の大きな粒子を多く含む炭素質材料を非水電解質二次電池の負極として用いると、負極の平滑性が失われ、負極を薄くすることが困難になる。非水電解質二次電池の負極を薄くすることにより、抵抗を小さくすることができ、その結果急速充電可能で、且つレート特性が高い非水電解質二次電池を作ることができる。
【0015】
本発明の炭素質材料のD
90/D
50は、特に限定されるものではないが、好ましくは1.46以下であり、より好ましくは1.45以下であり、更に好ましくは1.44以下であり、最も好ましくは1.40以下である。D
90/D
50が1.46以下であると粒径の大きな粒子を含まず、負極を薄くすることができる点で好ましい。また、D
10/D
50も特に限定されるものではないが、好ましくは、0.39以上であり、より好ましくは0.40以上であり、更に好ましくは0.42以上であり、最も好ましくは0.45以上である。D
10/D
50が0.39以上であると、微粉が少なく、不可逆容量が増加、及び充放電効率が低下を防ぐことができる。
【0016】
本発明の炭素質材料の粒子径の範囲は限定されるものではないが、上限はD
50の3倍を超える粒径の粒子を実質的に含まない。また、粒子径の範囲の下限は
D50の1/10未満の粒径の粒子を実質的に含まない。本明細書において、「D
50の3倍を超える粒径の粒子を実質的に含まない」とは、D
50の3倍を超える粒径の粒子の頻度が0.5容積%未満であることを意味する。また、「D
50の1/10未満の粒径の粒子を実質的に含まない」とは、D
50の1/10未満の粒径の粒子の頻度が0.5容積%未満であることを意味する。
【0017】
本発明の炭素質材料の円形度は、特に限定されるものではないが、0.925以上が好ましく、0.930以上が更に好ましい。円形度が0.925以上である炭素質材料は、ジェットミル粉砕機を用いることにより、得ることが可能である。円形度が0.925以上であることにより、本発明の炭素質材料を非水電解液二次電池負極に用いた場合に、炭素質材料の充填量を上げることが可能であり、それによって、電池性能を向上させることができる。
円形度は、二次元平面に投影された粒子像から算出することができる。粒子を含む懸濁液が測定装置に吸引され、試料流が形成される。その試料流にストロボ光を照射することにより、セルを通過中の粒子は対物レンズを通じてCCDカメラで静止画像として撮影される。撮影された粒子は、画像解析され、円形度が求められる。粒子円形度とは、粒子投影像と同じ投影面積を持つ相当円の周囲長を、粒子投影像の周囲長で割った値をいう。例えば、粒子円形度は、正六角形では0.952、正五角形では0.930、正四角形では0.886、正三角形では0.777となる。不定形粒子の円形度を求める場合、市販の粒子像分析装置を使用する限り、装置の違いによって、粒子円形度の値に実質的な差が生じることはないと考えられる。フロー式粒子像分析装置として、例えばSysmex製フロー式粒子像分析装置FPIA−3000を用いることができる。
【0018】
本発明の炭素質材料の炭素源は、特に限定されるものではなく、例えば、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、アルデヒド樹脂(例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂及びアミド樹脂)、又は熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボーネート樹脂、シリコン樹脂、ポリアセタール樹脂及びナイロン樹脂)を挙げることができるが、石油系ピッチ、又は石炭系ピッチが好ましく、石油系ピッチが更に好ましい。石油ピッチは、不純物が少なく、収率が高いからである。
【0019】
[2]非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法は、(1)炭素源を、610℃以下で仮焼成し、炭素質前駆体を得る仮焼成工程、(2)前記炭素質前駆体をジェットミルで粉砕し、粉砕炭素質前駆体を得る粉砕工程、及び(3)前記炭素質前駆体細粒子を800℃以上で、本焼成し炭素質材料を得る本焼成工程、を含む。
本発明の製造方法は、難黒鉛化性炭素材料を得るための製造方法であり、例えば炭素源として、石油ピッチ又は石炭ピッチを用いる場合、前記仮焼成工程(1)の前に、石油ピッチ又は石炭ピッチを、50〜400℃、好ましくは120〜300℃で酸化する工程を含む。なお、アルデヒド樹脂、セルロース、ヤシガラチャー、木炭、又は熱硬化性樹脂を炭素源として用いる場合は、酸化工程は必須の工程ではない。
【0020】
本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の製造方法によって、本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料を製造することができる。しかしながら、本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料は、本発明の製造方法によってのみ製造されるものではなく、前記製造方法以外の製造方法によっても、製造することのできるものである。
【0021】
《酸化工程》
前記石油系ピッチ、又は石炭系ピッチの酸化工程は、石油系ピッチ、又は石炭系ピッチなどの多孔性ピッチが架橋されるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、酸化剤を用いて行うことができる。酸化剤も特に限定されるものではないが、気体としては、O
2、O
3、若しくはNO
2を、空気若しくは窒素等で希釈したガス、又はそれらの混合ガス、あるいは空気等の酸化性気体を用いることができる。また、液体としては、硫酸、硝酸、若しくは過酸化水素等の酸化性液体、又はそれらの混合物を用いることができる。
酸化温度も、特に限定されるものではないが、例えば50〜400℃であり、好ましくは100〜400℃であり、より好ましくは、120〜300℃又は150〜350℃であり、更に好ましくは150〜300℃であり、最も好ましくは200〜300℃である。
【0022】
《仮焼成工程》
本発明の製造方法における仮焼成工程は、炭素源を610℃以下で焼成することによって行い、炭素質前駆体を得ることができる。仮焼成は、揮発分、例えばCO
2、CO、CH
4、及びH
2などと、タール分とを除去し、本焼成において、それらの発生を軽減し、焼成器の負担を軽減することができる。
炭素源の仮焼成の温度は、610℃以下であり、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは、595℃以下であり、更に好ましくは590℃以下であり、最も好ましくは585℃以下である。仮焼成温度の下限は、特に限定されるものではないが、350℃以上であり、好ましくは400℃以上である。仮焼成は、610℃以下で行うことを除けば、通常の仮焼成の手順にしたがって行うことができる。具体的には、仮焼成は、不活性ガス雰囲気中で行い、不活性ガスとしては、窒素、又はアルゴンなどを挙げることができる。また、仮焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10KPa以下で行うことができる。仮焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.5〜10時間で行うことができ、1〜5時間がより好ましい。
本発明の製造方法においては、炭素源を610℃以下で仮焼成することによって、得られた炭素質前駆体の硬度を低下させることができ、ジェットミルを用いる粉砕工程において、ジェットミルの内壁から剥離する金属片のコンタミネーションを防ぐことができる。すなわち、炭素源が610℃を超える温度で仮焼成されると、炭素質前駆体の硬度が高くなりすぎるために、粉砕時に炭素質前駆体によってジェットミルの内壁の金属が剥離し、得られた難黒鉛化性炭素質材料に、金属片が混入する。難黒鉛化性炭素質材料への、金属片の混入は、難黒鉛化性炭素質材料を用いた非水電解質二次電池において、放電量の低下、及び不可逆容量の増加を起こし、充放電効率が低下する。
【0023】
《粉砕工程》
粉砕工程は、非水電解質二次電池負極用炭素質材料の粒径を、均一にするために行い、本発明の製造方法においては、ジェットミルを用いる。ジェットミルの粉砕圧は、特に限定されるものではないが、例えば3.0〜3.5kgf/cm
2で行うことができる。粉砕時間も、仕込み量やローターの回転数などに応じて適宜決定することができ、特に限定されるものはないが、例えば30分〜2時間程度で行うことができる。
また、用いるジェットミルは、分級機を備えたものが好ましい。分級により、特に細かい微粉を取り除き、(D
90−D
10)/D
50をシャープにすることができるからである。
【0024】
本発明の破砕工程において、ジェットミルを用いることにより、シャープな粒子径分布を有する非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得ることができる。具体的には、(D
90−D
10)/D
50が、1.05以下である。
図1(A)に示すように、ジェットミルを用いて粉砕した難黒鉛化性炭素質の炭素質材料は、狭い粒子径分布を示すが、これに対して
図1(B)に示すように、振動ボールミルを用いて粉砕した難黒鉛化性炭素質の炭素質材料は、広い粒子径分布を示し、0.3μm程度の微粉及び30μmを超える粒子を含む。
更に、本発明の破砕工程において、ジェットミルを用いることによって、炭素質材料はエッジレスとなり、角が丸みを帯び、円形度が上昇する。ジェットミルを用いた場合と比較すると、ボールミル、ハンマーミル、ロッドミル、アトマイザーミルなどの機械的に粉砕する方法を用いた場合は、エッジができやすく、円形度が低くなる。円形度の高い炭素質材料は、非水電解質二次電池の負極とした用いた場合、充填量を増加させることが可能であり、単位体積あたりの充放電容量を改善させることが可能である。
【0025】
また、ボールミル、又はロッドミルなどの機械的に粉砕する方法を用いて、炭素質前駆体を破砕した場合、
図1(B)に示すように分級装置を用いているにも拘わらず、0.4μm程度の炭素質の微粉が除かれていない。本発明の破砕工程では、ジェットミルを用いることによって、炭素質の微粉の発生をほぼ完全に抑制することが可能である。微粉を多く含む炭素質材料は、非水電解質二次電池の負極として用いた場合、不可逆容量が増加し、充放電効率が低下するため、好ましくない。
【0026】
粉砕工程により、得られる粉砕炭素質前駆体の平均粒子径は、好ましくは、5〜30μmであり、より好ましくは5〜27.5μmである。粉砕炭素質前駆体は、本焼成工程により、焼成されるが、本焼成の条件により、0〜20%程度の収縮がおきる。従って、平均粒子径D
50が5〜25μmの非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得るために、粉砕炭素質前駆体の平均粒子径を、5〜30μmに調製することが好ましい。
【0027】
《本焼成》
本発明の製造方法における本焼成工程は、通常の本焼成の手順にしたがって行うことができ、本焼成を行うことにより、非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得ることができる。
具体的な粉砕炭素質前駆体の本焼成の温度は、800〜1400℃であり、好ましくは900〜1350℃であり、より好ましくは1000〜1350℃である。本焼成は、不活性ガス雰囲気中で行い、不活性ガスとしては、窒素又はアルゴンなどを挙げることができ、更にはハロゲンガスを含有する不活性ガス中で本焼成を行うことも可能である。また、本焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10KPa以下で行うことも可能である。本焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.1〜10時間で行うことができ、0.3〜8時間が好ましく、0.4〜6時間がより好ましい。
【0028】
《石油系又は石炭系ピッチからの製造》
本発明の炭素質材料は、石油系又は石炭系ピッチを用いる場合、多孔性のピッチ成形体を調整し、その多孔性ピッチ成形体を前記酸化工程に用いる。多孔性ピッチ成形体の調整方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の手順により、調製することができる。すなわち、石油系又は石炭系のタールもしくはピッチに対し、添加剤として沸点200℃以上の2乃至3環の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱して溶融混合した後、成形しピッチ成形体を得る。次にピッチに対し低溶解度を有し、且つ添加剤に対して高溶解度を有する溶剤で、ピッチ成形体から添加剤を抽出除去して多孔性ピッチを得る。
【0029】
ピッチと添加剤の混合は、均一な混合を達成するため、加熱し溶融状態で行う。ピッチと添加剤の混合物は、添加剤を混合物から容易に抽出できるようにするため、粒径1mm以下の粒子に成形することが好ましい。成形は溶融状態で行ってもよく、また混合物を冷却後粉砕する等の方法をとってもよい。ピッチと添加剤の混合物から添加剤を抽出除去するための溶剤としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、又はヘプタン等の脂肪族炭化水素、ナフサ、又はケロシン等の脂肪族炭化水素主体の混合物、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等の脂肪族アルコール類、或いはそれらの混合物が好適である。このような溶剤でピッチと添加剤の混合物成形体から添加剤を抽出することによって、成形体の形状を維持したまま添加剤を成形体から除去することができる。この際に成形体中に添加剤の抜け穴が形成され、均一な多孔性を有するピッチ成形体が得られるものと推定される。
【0030】
得られた多孔性ピッチ成形体を、前記酸化工程によって酸化する。具体的な酸化方法としては、酸化剤として空気又は空気と他のガス、例えば燃焼ガス等との混合ガスのような酸素を含むガスを用いて、50〜400℃、好ましくは120〜300℃で酸化して架橋処理を行うことが簡便であり、経済的にも有利である。この場合、ピッチの軟化点が低いと、酸化時にピッチが溶融して酸化が困難となるので、使用するピッチは軟化点が150℃以上であることが好ましい。
【0031】
前記酸化工程により架橋処理を行った炭素質前駆体について、前記仮焼成工程、粉砕工程、及び本焼成
工程を行い、非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得ることができる。例えば、架橋処理を施した炭素質前駆体を、N
2雰囲気下400℃〜600℃で熱処理した後に、ジェットミル(ホソカワミクロン/AIR JET MILL,MODEL 100AFG)で粉砕し、N
2雰囲気下800〜1400℃、好ましくは900〜1350℃、より好ましくは1000〜1350℃で炭素化することにより、本発明の炭素質材料が得られる。
【0032】
《非水電解質二次電池の負極の製造》
前記のようにして得られた炭素質材料は、非水電解質二次電池の負極として用いることができる。以下に、非水電解質二次電池の製造方法の一例を記載する。
得られた炭素質材料は、そのまま、又は例えば1〜10重量%のアセチレンブラックや導電性カーボンブラック等の導電助剤と共に用いられる。結合剤(バインダー)及び適当な溶媒を適量添加し、混練することによって、電極合剤ペーストとする。その後、例えば、円形あるいは矩形の金属板等からなる導電性の集電材に塗布・乾燥後、加圧成形する。厚さが10〜200μmの層を形成し、負極として電極製造に用いられる。結合剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、及びSBR等、電解液と反応しないものであれば特に限定されない。ポリフッ化ビニリデンの場合、N−メチルピロリドン(NMP)などの極性溶媒が好ましく用いられるが、SBRなどの水性エマルジョンを用いることも出来る。結合剤の好ましい添加量は、本発明の炭素質材料100重量部に対して、0.5〜10重量部である。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させるので好ましくない。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料粒子相互及び集電材との結合が不十分となり好ましくない。
【0033】
本発明の負極材料を用いて、非水電解質二次電池の負極を形成した場合、正極材料、セパレータ、電解液など電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水溶媒二次電池として従来使用されているか、又は提案されている種々の材料を使用することが可能である。例えば、正極材料としては、LiCoO
2、LiNiO
2、又はLiMn
2O
4等の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、適当なバインダーと電極に導電性を付与するための炭素材料とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより正極を形成することができる。
【0034】
これら正極と負極との組み合わせで用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、及び1,3−ジオキソラン等の有機溶媒の一種又は二種以上を組み合わせて用いることが出来る。また、電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiAsF
6、LiCl、LiBr、LiB(C
6H
5)
4、又はLiN(SO
3CF
3)
2等を用いることができる。二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極層と負極層とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料等からなる透液性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に本発明の非水電解質二次電池負極用炭素質材料の物性値の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0036】
《XRD測定》
「炭素材料のd
002」:炭素質材料粉末を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得る。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正する。CuKα線の波長を0.15428nmとし、Braggの公式によりd
002を計算する。
d
002=λ/(2sinθ)
【0037】
《比表面積》
「窒素吸着による比表面積」:B.E.T.の式から誘導された近似式Vm=1/(v(1−x))を用いて、液体窒素温度における窒素吸着による1点法(相対圧力x=0.3)によりVmを求め、次式から試料の比表面積を計算した。
比表面積=4.35×Vm(m
2/g)
ここで、Vmは試料表面に単分子層を形成するのに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、xは相対圧力である。具体的には、MICROMERITICS社製「Flow Sorb II2300」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における炭素質物質への窒素の吸着量を測定した。
炭素材料を試料管に充填し、窒素ガスを30mol%濃度で含有するヘリウムガスを流しながら、試料管を−196℃に冷却し、炭素質材料に窒素を吸着させる。次に、試験管を室温に戻すことで試料から脱離する窒素量を熱伝導度型検出器で測定し、吸着ガス量vとした。
【0038】
《示差熱分析》
島津製作所社製DTG−50を使用し、乾燥空気気流下で示
差熱分析を行った。分析条件は、試料2mg、100mL/minの空気気流下、昇温速度10℃/minである。示差熱曲線から発熱ピーク温度を読み取った。
【0039】
《粒径分布の測定》
試料に分散剤(界面活性剤SNウェット366(サンノプコ社製))を加え馴染ませる。次に純水を加えて、超音波により分散させた後、粒径分布測定器(島津製作所社製「SALD−3000S」)で、粒径0.5〜3000μmの範囲の粒径分布を求めた。
累積(積算)容積粒子径D
90(μm)、D
50(μm)、及びD
10(μm):粒径分布から、累積容積が、それぞれ90%、50%及び10%となる粒径をもって、累積(積算)容積粒子径D
90、D
50、及びD
10とした。
【0040】
《軟化点》
炭素源である石油系ピッチの軟化点は、以下の方法によって測定した。島津製作所製高化式フローテスターを用い、250μm以下に粉砕された試料1gを直径1mmのノズルを底部に有する断面積1cm
2のシリンダーに充填し、9.8N/cm
2(10Kg/cm
2)の加重を加えながら6℃/minの速度で昇温した。温度の上昇に伴い粉体粒子が軟化し、充填率が向上し、試料粉体の体積は減少するが、ある温度以上では体積の減少は停止した。更に昇温を続けると、シリンダー下部のノズルより試料が溶融して流出した。この時の試料粉体の体積減少が停止する温度をその試料の軟化点と定義した。
【0041】
《円形度》
円形度は、フロー式粒子像分析装置(FPIA−3000:Sysmex社製)を用いた。粒子を含む懸濁液を測定装置に吸引し、形成された試料流にストロボ光を照射することにより、セルを通過中の粒子は対物レンズを通じてCCDカメラで静止画像として撮影した。撮影された粒子は、画像解析され、円形度を求めた。なお、粒子円形度は、粒子投影像と同じ投影面積を持つ相当円の周囲長を、粒子投影像の周囲長で割った値である。
【0042】
《実施例1》
軟化点205℃、H/C原子比0.65の石油系ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼及び出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、190℃で加熱溶融混合を行った後、80〜90℃に冷却し、耐圧容器内を窒素ガスにより加圧して、内容物を出口ノズルから押し出し、直径約500μmの紐状成型体を得た。ついで、この紐状成型体を直径(D)と長さ(L)の比(L/D)が約1.5になるように粉砕し、得られた粉砕物を93℃に加熱した0.53質量%のポリビニルアルコール(ケン化度88%)を溶解した水溶液中に投入し、攪拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体スラリーを得た。大部分の水をろ過により取り除いた後に、球状ピッチ成型体の約6倍量の重量のn−ヘキサンでピッチ成型体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、270℃まで昇温し、270℃で1時間保持して酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。
次に、酸化ピッチ100gを内径50mm、高さ900mmの縦型管状炉に入れて、装置下部から常圧の窒素ガスを5NL/minの流量で流しながら550℃まで昇温し、550℃で1時間保持して仮焼成を実施し、炭素質前駆体を得た。得られた炭素質前駆体70gをジェットミル(ホソカワミクロン社AIR JET MILL;MODEL 100AFG)により、粉砕圧3.0kgf/cm
2、ローターの回転数6800rpmで、1時間粉砕し、平均粒子径が約10μmの粉砕炭素質前駆体とした。なお、使用したジェットミルは、分級機を備えたものである。次に、粉砕炭素質前駆体10gを直径100mmの横型管状炉に入れ、250℃/hの昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持して、本焼成を行い、炭素質材料1を調製した。なお、本焼成は、流量10L/minの窒素雰囲気下で行った。
得られた炭素質材料1の粒子径分布を
図1に示す。後述の比較例3の振動ボールミルにより粉砕を行った比較炭素質材料3と比較すると、ジェットミルにより炭素質前駆体の粉砕を行った場合、0.4μm程度の微粉の発生が、抑えられている。また、粒子径分布が狭く、D
50の3倍である27.6μmを超える粒子の含量は0.3%未満である。
【0043】
《実施例2》
仮焼成の温度を500℃にした以外は、実施例1と同様にして炭素質材料2を調製した。
【0044】
《実施例3》
仮焼成の温度を600℃にした以外は、実施例1と同様にして炭素質材料3を調製した。
【0045】
《実施例4》
仮焼成の温度を600℃にし、ジェットミルのローター回転数を4000rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素質材料4を調製した。
【0046】
《実施例5》
仮焼成の温度を580℃にした以外は、実施例1と同様にして炭素質材料5を調製した。
【0047】
《比較例1》
仮焼成の温度を620℃にした以外は、実施例1と同様にして比較炭素質材料1を調製した。
【0048】
《比較例2》
予備炭素化の温度を800℃にした以外は、実施例1と同様にして比較炭素質材料2を調製した。
【0049】
《比較例3》
粉砕機を振動ボールミルにした以外は、実施例3と同様にして比較炭素質材料3を調製した。炭素質前駆体を振動ボールミルにより粉砕し、そして分級機を用いて分級し、微粉を除去した。
比較炭素質材料3の粒子径分布を
図1に示す。振動ボールミルにより炭素質前駆体の粉砕を行うと、分級を行ったにも拘らず、0.4μm程度の微粉が発生することがわかる。
【0050】
《測定セルの製造実施例1〜5及び製造比較例1〜3》
実施例1〜5及び比較例1〜3で製造した、負極材料である炭素質材料1〜5及び比較炭素質材料1〜3を用いて、以下のようにして非水電解質二次電池を作成し、その特性を評価した。本発明の負極材料は非水電解質二次電池の負極として適しているが、電池活物質の放電容量及び不可逆容量を、対極性能のバラツキに影響されることなく精度良く評価するために、特性の安定したリチウム金属を対極として、上記で得られた電極を用いてリチウムイオン二次電池を構成し、その特性を評価した。
正極(炭素極)は次のようにして製造した。各実施例及び比較例で製造した負極材料(炭素質材料)を90重量部、ポリフッ化ビニリデン10重量部に、N−メチル−2−ピロリドンを加えてペースト状とし、ペーストを銅箔上に均一に塗布し、乾燥させた後、シート状の電極を直径15mmの円盤状に打ち抜き、これをプレスして電極とした。電極中の炭素質材料(負極材料)の重量は10mgになるように調整し、炭素材料の充填率が約67%となるようにプレスした。
負極(リチウム極)の調製は、Arガス雰囲気中のグローブボックス内で行った。予め2016サイズのコイン型電池用缶の外蓋に直径16mmのステンレススチール網円盤をスポット溶接した後、厚さ0.8mmの金属リチウム薄板を直径15mmの円盤状に打ち抜いたものをステンレススチール網円盤に圧着し、電極とした。
このようにして製造した正極及び負極を用い、電解液としてはエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを容量比1:2:2で混合した混合溶媒に1.5mol/Lの割合でLiPF6を加えたものを使用し、直径19mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細孔膜をセパレータとして、ポリエチレン製のガスケットを用いて、Ar雰囲気のグローブボックス内で2016サイズのコイン型非水電解質リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0051】
《電池容量の測定》
前記のそれぞれのリチウムイオン二次電池について、充放電試験装置(東洋システム製「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行い、充放電は定電流定電圧法により行った。ここで、「充電」は試験電池では放電反応であるが、この場合は炭素材へのリチウム挿入反応であるので、便宜上「充電」と記述する。逆に「放電」とは試験電池では充電反応であるが、炭素材からのリチウムの脱離反応であるため、便宜上「放電」と記述することにする。ここで採用した定電流定電圧法は、電池電圧が0Vになるまで一定の電流密度0.5mA/cm
2で充電を行い、その後、電圧を0Vに保持するように(定電圧を保持しながら)電流値を連続的に変化させて電流値が20μAに達するまで充電を継続する。このとき供給した電気量を電極の炭素材の重量で除した値を炭素材の単位重量あたりの充電容量(mAh/g)と定義した。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は電池電圧が1.5Vに達するまで一定の電流密度0.5mA/cm
2で行い、このとき放電した電気量を電極の炭素材の重量で除した値を炭素材の単位重量あたりの放電容量(mAh/g)と定義する。不可逆容量は、充電量−放電量として計算される。同一試料を用いて作製した試験電池についてのn=3の測定値を平均して充放電容量及び不可逆容量を決定した。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1〜5の炭素質材料は、(D
90−D
10)/D
50が1.05以下であり、シャープな(狭い)粒子径分布を示す。一方、振動ボールミルで破砕を行った比較例3の炭素質材料は、(D
90−D
10)/D
50が、1.07であり、粒子径分布が広いものである。特に、実施例1〜5の炭素質材料は、D
50を超える粒子径の大きな範囲において、シャープな粒子径分布を示している。
更に、実施例1〜5の炭素質材料を用いて製造したリチウムイオン二次電池は、放電量が高く、不可逆容量が低いため、87%以上の優れた充放電効率を示している。一方、仮焼成の温度を、620℃以上で行った比較例1及び2の炭素質材料は、示差熱分析で620℃以下に発熱ピークを有しており、金属片(Fe)が混入しているものと考えられ、放電量の低下、及び不可逆容量の増加が見られる。