【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、予測血糖濃度の関数である同調を組み込む制御アルゴリズムを適用することにより、糖を正常血糖範囲に調節するように図る制御アプローチとしての、インスリン及び食事の記憶によるマルチゾーンモデル予測制御(Multi−Zone−MPC)を提供する。
【0005】
人工インスリン及び食事の記憶を組み込まれたMulti−Zone−MPCのコントローラーは、食事情報があっても、又はなくても、所定のチューニング可能なゾーンに血糖を制御するように開発された。コントローラーは、平均モデルを使用し、集団の血糖濃度を調節する。平均モデルは、いくつかの対象から回収されたデータを使用する、新規なパラメトリック適合技術により得られる。コントローラーのチューニングは、予測血糖濃度の関数であることがあらかじめ定義される。
【0006】
Multi−Zone−MPCは、血糖の4つの領域への分布に基づき、MPCの重みに関する異なるチューニングを提供する。Multi−Zone−MPCは、低血糖、正常血糖、血糖上昇及び高血糖のゾーンを含む。これらの4つのゾーンを定義することにより、安全かつ有効な制御をもたらす、より上質な制御チューニングが提供される。コントローラーの予測は、10人の異なるコンピュータ内(in silico)の成人対象の食事応答から回収されたデータを使用して開発された平均ARXモデルに基づく。設計上のゾーンの数は、コントローラーの構造に大きな変化なしに先験的に改変できることに留意すべきである。
【0007】
インスリン記憶を有するMulti−Zone−MPCは、人工膵臓に対する代替の制御戦略である。制御アプローチとして、Multi−Zone−MPCは、ポンプ活性の最小化及びより集中された制御努力により、標準的定値制御より優れている。Multi−Zone−MPCにおける4つの制御ゾーンの使用が、食後ピークを減少させ、同時に有効なインスリン投与によりいかなる低血糖も回避するより良い制御戦略であることの証明に成功し、したがって、有効かつ安全な糖調節をT1DMを有する個人に提供する。
【0008】
対象のアルゴリズム及びコントローラーは一般に応用可能であり、代替の薬剤及び生理学的介入、特に滴定可能な生理学的ゾーンに関係する薬剤及び介入を送達する。
【0009】
一態様において、次いで発明は、複数の定義された生理学的ゾーンを有し、それぞれが異なるあらかじめ定義された制御チューニングを有する、multi−zoneモデル予測制御(MPC)アルゴリズムを含む、薬剤送達を制御するプロトコルを提供する。
【0010】
特定の実施形態において、本アルゴリズムは、(a)正常又は所望のゾーンからの大偏差に対する、相対的に保守的な制御作用、及び(b)正常又は所望のゾーン内に対する相対的積極的制御作用を提供する。
【0011】
【数1】
特定の実施形態において、本プロトコルは
図5に示すような論理スキームを含み、Q/Rは、4つの生理学的ゾーンに対してa、b、c及びdとして定義され、(i)a<b;(ii)b/a>1×10
3;(iii)c=0;及び(iv)d>>>a、b及びcである。
【0012】
特定の実施形態において、本プロトコルは
図5に示すような論理スキームを含み、Q/Rは、4つの生理学的ゾーンに対してa、b、c及びdとして定義され、(i)aが2×10
−4であり;(ii)bが2であり;(iii)c=0;及び(iv)dが2×10
10である。
【0013】
特定の実施形態において、生理学的ゾーンは、血糖濃度、麻痺、無痛覚、血圧、心拍、血液pH、体温又はインビボの薬剤濃度のゾーンである。例えば、自動血圧制御は、静脈内ニトロプルシドを使用して達成でき、心拍制御は静脈内ベーターブロッカー又はカルシウムチャネルブロッカーを使用して、pH制御は人工呼吸器調節を使用して、(例えば心臓切開手術中の)体温制御は加熱要素及び冷却要素などを使用して達成できる。したがって、薬剤に加えて、本プロトコルは、調節可能な生理学的介入、例えば換気、電気刺激、加熱などを送達するために使用できる。
【0014】
特定の実施形態において、薬剤は、ホルモン、血糖調節剤(インスリン、グルカゴン又はアミリンなど)、麻酔薬(バルビツール酸誘導体、例えばアモバルビタール(Amobarbital)、メトヘキシタール(Methohexital)、チアミラール(Thiamylal)及びチオペンタール(Thiopental)など、ベンゾジアゼピン誘導体、例えばジアゼパム(Diazepam)、ロラゼパム(Lorazepam)及びミダゾラム(Midazolam)など、エトミデート(Etomidate)、ケタミン(Ketamine)ならびにプロポフォール(Propofol)、鎮痛剤(例えば、アルフェンタニル(Alfentanil)、フェンタニル(Fentanyl)、レミフェンタニル(Remifentanil)、スフェンタニル(Sufentanil)、ブプレノルフィン(Buprenorphine)、ブトルファノール(Butorphanol)、ジアモルフィン(Diamorphine)、ヒドロモルフォン(Hydromorphone)、レボルファノール(Levorphanol)、メペリジン(Meperidine)、メタドン(Methadone)、モルヒネ(Morphine)、ナルブフィン(Nalbuphine)、オキシコドン(Oxycodone)、オキシモルフォン(Oxymorphone)及びペンタゾシン(Pentazocine)、筋弛緩薬(サクシニルコリン(Succinylcholine)、デカメトニウム(Decamethonium)、ミバクリウム(Mivacurium)、ラパクロニウム(Rapacuronium)、アトラクリウム(Atracurium)、シサトラクリウム(Cisatracurium)、ロクロニウム(Rocuronium)、ベクロニウム(Vecuronium)、アルクロニウム(Alcuronium)、ドキサクリウム(Doxacurium)、ガラミン(Gallamine)、メトクリン(Metocurine)、パンクロニウム(Pancuronium)、ピペクロニウム(Pipecuronium)及びツボクラリン(Tubocurarine)など)、化学療法薬(例えば、アルキル化剤、代謝拮抗薬、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤など)又は降圧薬(例えば、利尿薬、ACE阻害薬、アンギオテンシンII受容体アンタゴニスト、ベーターブロッカー、カルシウムチャネルブロッカー、レニン阻害薬及びグリセリルトリニトラートなど)である。
【0015】
特定の実施形態において、生理学的ゾーンは血糖濃度ゾーンであり、薬剤はインスリンであり、本アルゴリズムは、(a)上昇した「高血糖」ゾーンに対する相対的保守的制御作用、及び(b)正常又は正常に近い「正常血糖」ゾーンに対する相対的に積極的な制御作用を提供する。
【0016】
特定の実施形態において、生理学的ゾーンは、血糖濃度ゾーンであり、薬剤はインスリンであり、本アルゴリズムは、(a)上昇した「高血糖」ゾーンに対する相対的保守的制御作用、(b)正常又は正常に近い「正常血糖」ゾーンに対する相対的に積極的な制御作用、(c)正常血糖ゾーンに対する制御作用をしないこと、及び(d)低血糖ゾーンに対するインスリン送達の停止をもたらす制御作用を提供する。
【0017】
【数2】
別の態様において、本発明は、対象のプロトコルに対する取扱説明書によりエンコードされた、好ましくは固定コンピュータで読み取り可能な媒体を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、入力接点、出力接点及び複数の定義された生理学的ゾーンを有し、それぞれが異なるあらかじめ定義された制御チューニングを有するmulti−zoneモデル予測制御(MPC)アルゴリズムを含む薬剤送達コントローラーを提供し、本アルゴリズムは入力接点において生理学的センサーからの入力シグナルを処理し、出力接点において薬剤注入器への出力シグナルを形成し、好ましくは、生理学的ゾーンは血糖濃度ゾーンであり、薬剤はインスリンであり、本アルゴリズムは、(a)上昇した「高血糖」ゾーンに対する相対的保守的制御作用、及び(b)正常又は正常に近い「正常血糖」ゾーンに対する相対的に積極的な制御作用を提供する。
【0019】
コントローラーは、生理学的センサー及び/又は薬剤注入器、例えば糖センサー及びインスリン注入器又はポンプをさらに含むことができる。
【0020】
別の態様において、本発明は、(a)センサーによる生理学的計量を感知し、対象のコントローラーの入力接点において結果として生じるシグナルを受けるステップ、(b)入力シグナルを処理して、出力シグナルを形成するステップ、(c)出力シグナルを出力接点から薬剤注入器に伝送するステップ、及び(d)薬剤を注入器から出力シグナルに従って送達するステップを含む、薬剤を送達する方法を提供する。
【0021】
別の態様において、(a)糖センサーにより血糖濃度を感知し、結果として生じたシグナルを対象のコントローラーの入力接点において受けるステップ、(b)入力シグナルを処理して、出力シグナルを形成するステップ、(c)出力シグナルを出力接点からインスリン注入器に伝送するステップ、及び(d)インスリンを注入器から出力シグナルに従って送達するステップを含む、インスリンを送達する方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、(a)対象に関する薬剤及び事象データを、時間値、薬剤値及び生理学的計量値を得るためのオープンループプロトコルを使用して得るステップ、(b)複数の生理学的ゾーンを生理学的計量値の関数として定義するステップ、及び(c)multi−zone−モデル予測制御(MPC)アルゴリズムを有するコントローラーを含む自動薬剤ポンプをプログラムし、コントローラーが、対象から生理学的計量測定を得、生理学的計量と複数の生理学的ゾーンを比較し、MPCアルゴリズムに従って対象への薬剤の送達を起こすステップを含む薬剤を送達する方法を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、(a)対象に関するインスリン及び食事データを、時間値、インスリン値及び糖値を得るためのオープンループプロトコルを使用して得るステップ、(b)複数の血糖ゾーンを、血糖濃度の関数として定義するステップ、及び(c)multi−zone−モデル予測制御アルゴリズムを有するコントローラーを含む自動インスリンポンプをプログラムし、コントローラーが、血液から糖測定を得、糖値と複数の血糖ゾーンを比較し、対象にインスリンの送達を起こし、特に複数のゾーンが表1に示されるステップを含むインスリンを送達する方法を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、(a)生理学的計量値を対象の血液から決定するステップ、(b)生理学的計量値を、生理学的計量の関数として定義された複数の定義された生理学的ゾーンと比較するステップ、及び(c)生理学的ゾーンを含むmulti−zone−モデル予測制御(MPC)アルゴリズムを有するコントローラーを含む薬剤ポンプを介して自動的に送達するステップを含む、薬剤を送達する方法を提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、(a)糖値を対象の血液から決定するステップ、(b)糖値を、血糖濃度の関数として定義された複数の定義された血糖ゾーンと比較するステップ、及び(c)血糖ゾーンを含むmulti−zone−モデル予測制御アルゴリズムを有するコントローラーを含むインスリンポンプを介して、インスリン又はインスリンアナログを自動的に送達するステップを含む、インスリンを送達する方法を提供する。
【0026】
別の態様において、本発明は、連続モニタリング及び対象への薬剤送達の方法を提供する。本方法は、対象に関する薬剤の血中レベルに関係する値を得るステップ、データを、伝達関数を使用してマッピングするステップ、複数の状況を含む線形差分モデルを作製するステップ、対象における薬剤又は生理学的作用物質の、複数の定義された値のゾーンを得るステップ、予測薬剤値に基づく薬剤の送達の次回の投与用量及び/又は時間を、線形差分モデル及び定義されたゾーンを使用して計算するステップ、計算された次回の投与に基づき薬剤又は生理学的作用物質を送達するステップを含む。列挙された薬剤は、薬剤代謝産物又は副産物又は誘導因子であってもよい。値は、薬剤の血中濃度又は生理学的計量又は症状(例えば体温)であってよい。
【0027】
一般的に、本発明は、本明細書及び図面に関して本明細書の上部に実質的に記載された実施形態ならびに特定の実施形態のすべての組み合わせ及び部分的組み合わせを、あたかもそれぞれが苦労して列挙されたように包含する。
【0028】
本発明の1つ又は複数の実施形態の詳細を、添付の図面及び下記の記載において説明する。本発明の他の特徴、目的及び有利性は、説明及び図面及び特許請求の範囲から明らかであると思われる。