【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0029】
実施例1〜24に係る窒化アルミニウム焼結体は以下の手順の一部又は全部を実施することによって生成された。
【0030】
(1)所定量の窒化アルミニウム原料粉末を準備した。該窒化アルミニウム原料粉末は、平均粒径約1.1μm、比表面積2.6m
2/gのものを採用した。(実施例1〜24)
【0031】
(2)コロイド状ケイ素化合物として所定量のシリカゾルを準備した。適量のシリカゾルは、窒化アルミニウム原料粉末を100重量部としたSi元素換算の添加量に基づいて準備された。該シリカゾルは、粒径10〜15nmのSiO
2の微粒子であり、分散溶媒がIPAであり、且つ、シリカ固形分濃度が30%の分散液(日産化学工業(株)製のオルガノシリカゾル)を採用した。(実施例8〜22)
他方、実施例23では、Si源として純度99.8%、粒径1.2μmのシリカ粉末を準備した。
【0032】
(3)焼結助剤として、高純度の酸化イットリウム(Y
2O
3)の粉末を準備した。焼結助剤の添加量は、1〜10重量部とするのが好適である。本実施例では、添加剤の効果をより正確に理解するため、すべて5重量部で一定とした。(実施例1〜24)
【0033】
(4)任意の添加剤として、ZrO
2粉末と部分安定化ジルコニア(PSZ)粉末を準備した。該部分安定化ジルコニアは、ZrO
2にY
2O
3を2〜4mol%固溶させたものが好適に用いられるが、本実施例では3mol%固溶させた原料を用いた。PSZ中のY
2O
3はAlNの重量と比べて極めて微量であるので無視することができる。(実施例1〜7,13〜22,24)
【0034】
(5)上記原料を窒化アルミニウム原料粉末を100重量部として、適量の各原料を添加して原料組成物を調製した。(実施例1〜24)
【0035】
(6)ボールミルに各原料を段階的に投入し、表1の条件で一次混合工程、二次混合工程(第1段階、第2段階)を行った。(実施例1〜24)
【0036】
【表1】
【0037】
(7)原料混合物をドクターブレード法によってシート状に成形し、金型(パンチング)によって所望の形状に形成した。(実施例1〜24)
【0038】
(8)原料混合物のシート成形体を敷粉塗布し、積層して、真空中で7時間、550℃で加熱して脱脂処理し、続けて、窒素ガス雰囲気中で5時間、1700〜1800℃で加熱して焼成した。(実施例1〜24)
【0039】
比較例1に係る窒化アルミニウム焼結体は、表1の一次混合工程を省略し、二次混合工程(第1段階、第2段階)のみを実施したものである。これ以外の工程は、実施例4に係る窒化アルミニウム焼結体の製法と同様である。
【0040】
実施例1〜24及び比較例1の窒化アルミニウム焼結体に関し、以下の方法で特性A〜Cの評価がなされた。
【0041】
A.曲げ強度
曲げ強度測定の測定方法には、3点曲げ試験が採用された。評価用の窒化アルミニウム焼結体は、63mm×20mm×0.32mmtの試験片を用いた。測定装置は、(株)島津製作所製の型式AG−ISであり、その測定条件を測定数20pcs、クロスヘッドスピード0.5mm/分、支点間距離30mmとし、その平均値を求めた。
【0042】
B.熱伝導率
熱伝導率の測定方法には、レーザーフラッシュ法が採用された。窒化アルミニウム焼結体の試験片は、25mm×25mmの大きさの試験片を用いた。測定装置は、アルバック理工(株)製の型式TC−7000であり、その測定条件を測定数2pcsとし、その平均値を求めた。
【0043】
C.結晶相同定(ZrN生成量)
結晶相同定には、Cu−Kα線を用いたX線回折法が採用された。窒化アルミニウム焼結体を乳鉢で粉砕し、10mm×10mmの大きさのホルダーに埋設し測定した。そして、ZrN生成量は、測定したX線回折で検出されたピーク強度(面積)に基づいてWPPF法で算定された。測定装置は、(株)リガク製の型式UltimaIVを用い、測定数1pcsとした。
【0044】
各実施例の窒化アルミニウム焼結体の特性A〜C(測定結果)を以下の表2に示した。なお、原料混合物の配合量は、窒化アルミニウム原料粉末(AlN)を100重量部に対して、酸化物換算したY
2O
3の重量部、酸化物換算したZrO
2の重量部、及び、Si元素換算したケイ素化合物の重量部として示した。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例4は、100重量部のAlNに対して、5重量部のY
2O
3と、2重量部のZrO
2を添加したものである。そして、実施例4(一次混合工程有り)と比較例1(一次混合工程無し)とは、配合量の点では同じであるが、一次混合工程の有無の点で相違する。そして、実施例4では、強度が580MPaであり、且つ、熱伝導率が149W/mKであるのに対し、比較例では、強度が493MPaであり、且つ、熱伝導率が150W/mKである。すなわち、実施例4では、比較例と比較して、熱伝導率を維持しつつ、約90MPa(約18%)の強度が向上している。したがって、一次混合工程を導入することにより、熱伝導率が低下することなく強度が改善することが確認された。
【0047】
また、実施例4(添加剤としてPSZ)と実施例24(添加剤としてZrO
2)とは、配合量の点では同じであるが、添加剤として用いたZrO
2に固溶しているY
2O
3の有無の点で相違する。実施例4では、強度が580MPaであり、且つ、熱伝導率が149W/mKであるのに対し、実施例24では、強度が507MPaであり、且つ、熱伝導率が148W/mKである。すなわち、実施例4では、実施例24と比較して、熱伝導率を維持しつつ、約73MPa(約14%)の強度が向上している。したがって、添加剤として部分安定化ジルコニア(PSZ)を採用することにより、熱伝導率が低下することなく強度が改善することが確認された。
【0048】
図1は、比較例1に係る窒化アルミニウム焼結体のSEMによる表面観察(倍率8000)の結果を示し、
図2はそのEDX(エネルギー分散型X線分光法)における分析結果(輝点がZr元素)を示している。なお、表面解析及びEDX分析は(株)日立ハイテクノロジーズ製の型式S−3400Nで行われた。
図3は、実施例4に係る窒化アルミニウム焼結体のSEMによる表面観察(倍率8000)の結果を示している。
図4はそのEDX(エネルギー分散型X線分光法)における分析結果(輝点がZr元素)を示している。なお、
図1及び
図3のSEM画像において、矢印で指した粒子又は塊がZrNであることがX線回折による結晶相同定及びEDX分析により判明している。
【0049】
図1及び
図2によれば、従来製法による比較例の窒化アルミニウム焼結体では、ZrNが均一に分散せずに1.5μm以上の大きな塊となって存在していることが分かる。他方、
図3及び
図4によれば、一次混合工程を導入した窒化アルミニウム焼結体(実施例4)では、比較例と比べて、ZrNが微小粒子として均一に分散しており、その粒径は0.1〜0.8μm程度であることが分かる。また、SEM画像によれば、
図1の比較例では、ZrNの塊の存在により、AlNの粒子同士が部分的に離隔し(粒界のばらつき)、AlN結晶粒子が全体として乱雑としている。他方、
図3の実施例4では、ZrNの微小粒子が均一に分散しているため、AlN粒子間の結晶粒界が狭く、その粒界の幅がほぼ一様であり、AlNの結晶粒子が全体として規則的に並んでいる。すなわち、
図1乃至
図4に示すように、一次混合工程を導入することにより、結果物(窒化アルミニウム焼結体)において視認可能な顕著な構造的変化を生じる。その結果、窒化アルミニウム焼結体の強度が大幅に改善することが分かった。
【0050】
しかしながら、このZrNの分散が窒化アルミニウム焼結体の強度改善に寄与する現象について、その原理が未だ解明されていない。
【0051】
実施例1〜7は、Siを添加せずに、ZrO
2(PSZ)配合量を変化させたものである。表2に示すとおり、100重量部のAlNに対して、ZrO
2配合量が0.5〜5重量部(実施例4、5)のとき、3点曲げ強度が550MPa以上であり、且つ、熱伝導率が130W/mK以上である。そして、実施例6、7のように、ZrO
2配合量が5重量部を越えると、強度が上昇するが熱伝導率の低下が顕著となる。すなわち、表2によれば、Zrの配合量は、酸化物換算で0.5〜5重量部であることが好ましい。
【0052】
実施例8〜12は、ZrO
2を添加せずに、Si(シリカゾル)配合量を変化させたものである。表2に示すとおり、100重量部のAlNに対して、Si配合量がSi元素換算で0.025〜0.2重量部(実施例8〜11)のとき、3点曲げ強度が540MPa以上であり、且つ、熱伝導率が140MPa以上である。そして、実施例12のように、Si配合量が0.5重量部となると、強度の低下が顕著となる。すなわち、表2によれば、Si配合量は、0.025〜0.2重量部であることが好ましい。
【0053】
実施例10は、100重量部のAlNに対して、5重量部のY
2O
3と、Si元素換算で0.1重量部のシリカゾル(コロイド状ケイ素化合物)を添加したものである。これに対し、実施例23は、100重量部のAlNに対して、5重量部のY
2O
3と、Si元素換算で0.1重量部のシリカ粉末を添加したものである。つまり、実施例12と実施例23とでは、添加(配合)するSiの状態が異なる。そして、実施例10では、強度が600MPaであり、且つ、熱伝導率が143W/mKであるのに対し、実施例23では、強度が520MPaであり、且つ、熱伝導率が127W/mKである。すなわち、実施例10では、実施例22と比較して、約80Mpa(約15%)の強度が向上し、且つ、約16W/mK(約13%)の熱伝導率が向上している。したがって、シリカ粉末に代えてシリカゾルを採用することにより、強度及び熱伝導率が改善することが確認された。
【0054】
実施例13〜22は、部分安定化ジルコニア及び/又はSi(シリカゾル)配合量を変化させたものである。特に、実施例13〜22に係る窒化アルミニウム焼結体は、650MPa以上の3点曲げ強度及び130W/m・K以上の熱伝導率を示し、極めて良好な特性を有している。すなわち、窒化アルミニウム焼結体の原料混合物において、AlN100重量部に対して、5重量部のY
2O
3、0.5〜5重量部のZrO
2、及び、0.025〜0.15重量部のSiの配合量が特性の上で好適である。
【0055】
実施例2〜7、13〜22及び24は、ZrNを析出させたものである。特に、実施例13〜22に係る窒化アルミニウム焼結体は、650MPa以上の3点曲げ強度及び130W/m・K以上の熱伝導率を示し、良好な特性を有している。すなわち、窒化アルミニウム焼結体においてZrNを0.4%〜4.2wt%析出させたことにより、好適な強度及び熱伝導率が得られることが確認された。
【0056】
さらに、その中でも特に、実施例15、17、19、20に係る窒化アルミニウム焼結体は、660MPa以上の3点曲げ強度及び140W/m・K以上の熱伝導率を示し、極めて良好な特性を有している。すなわち、窒化アルミニウム焼結体の原料混合物において、窒化アルミニウム原料粉末100重量部に対して、1〜10重量部のY
2O
3、2〜3重量部の部分安定化ジルコニア、及び、0.05〜0.1重量部のSiの配合量であり、かつ、窒化アルミニウム焼結体においてZrN粒子を1.4〜2.5wt%析出させたことにより、特性の上で最も好適な強度及び熱伝導率が得られることが確認された。
【0057】
本実施形態(実施例1〜24)の窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法によれば、一次混合工程を導入したことにより、上記工程を導入しない窒化アルミニウム焼結体と比べて、同組成で相対的な強度の改善を実現したものである。
【0058】
なお、上記実施例に含まれない元素や成分に関しても、焼結助剤、添加剤として同様の性質を有していれば、本発明の製造方法による恩恵を受けることが可能であり、本発明の技術範囲内であれば、任意に置換、省略及び/又は追加可能である。
【0059】
本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に
属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
(付記)本明細書は、以下の構成を開示するものである。
構成1.窒化アルミニウム原料粉末100重量部に対して、Si元素換算で0.025〜0.15重量部のSiO2と、酸化物換算で1〜10重量部のY2O3と、酸化物換算で1〜5重量部の部分安定化ジルコニアと、を含有する原料混合物の成形体の焼結体である窒化アルミニウム焼結体。
構成2.窒化アルミニウム原料粉末100重量部に対して、Si元素換算で0.025〜0.15重量部のSiO2と、酸化物換算で1〜10重量部のY2O3と、酸化物換算で1〜5重量部の部分安定化ジルコニアと、を含有する原料混合物の成形体の焼結体であり、ZrN粒子が0.7〜4.2wt%析出していることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
構成3.前記ZrN粒子が均一に分散して析出していることを特徴とする構成2に記載の窒化アルミニウム焼結体。
構成4.前記ZrN粒子の平均粒径が、0.1〜0.8μmであることを特徴とする構成2又は3に記載の窒化アルミニウム焼結体。
構成5.熱伝導率が130W/m・K以上であり、且つ、3点曲げ強度が650MPa以上であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載の窒化アルミニウム焼結体。
構成6.窒化アルミニウム原料粉末100重量部に対して、Si元素換算で0.05〜0.1重量部のSiO2と、酸化物換算で1〜10重量部のY2O3と、酸化物換算で2〜3重量部の部分安定化ジルコニアと、を含有する原料混合物の成形体の焼結体であり、ZrN粒子が1.4〜2.5wt%析出しているとともに、熱伝導率が140W/m・K以上であり、且つ、3点曲げ強度が660MPa以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
構成7.ケイ素化合物及び焼結助剤を混合して一次混合物を作製する一次混合工程と、
前記一次混合物を前記窒化アルミニウム原料粉末に混合して原料混合物を作製する二次混合工程と、
前記原料混合物を成形して所定の温度域で焼成する工程と、
を含み、
前記原料混合物は、窒化アルミニウム原料粉末100重量部に対して、Si元素換算で0.025〜0.2重量部のSiO2と、酸化物換算で1〜10重量部のY2O3とを含有することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。