(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062945
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】気体分離および液体分離用のPBI中空繊維非対称膜を製作するプロセス
(51)【国際特許分類】
B01D 71/62 20060101AFI20170106BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20170106BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20170106BHJP
B01D 71/66 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
B01D71/62
B01D69/08
B01D53/22
B01D71/66
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-528706(P2014-528706)
(86)(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公表番号】特表2014-527906(P2014-527906A)
(43)【公表日】2014年10月23日
(86)【国際出願番号】US2012054033
(87)【国際公開番号】WO2013036693
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年9月3日
(31)【優先権主張番号】61/531,448
(32)【優先日】2011年9月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501228071
【氏名又は名称】エスアールアイ インターナショナル
【氏名又は名称原語表記】SRI International
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】230105223
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ジアヤウイーラ,インデイラ
(72)【発明者】
【氏名】クリシユナン,ゴパラ,エヌ
(72)【発明者】
【氏名】サンジユルジヨ,エンジエル
(72)【発明者】
【氏名】ジアヤウイーラ,パリサ
(72)【発明者】
【氏名】バミデイ,スリニバス
【審査官】
岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−325765(JP,A)
【文献】
米国特許第06015516(US,A)
【文献】
国際公開第2010/077876(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/62
B01D 53/22
B01D 69/08
B01D 71/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称中空繊維を調製する方法であって、
(a)(i)15〜25重量%のポリベンズイミダゾール(ii)1〜5重量%のポリマーの細孔形成材料および(iii)前記ポリベンズイミダゾールについての溶媒を含むポリマー溶液をチューブインオリフィス紡糸口金の外側環状オリフィスに通す工程と、
(b)(i)前記ポリベンズイミダゾールについての65〜99重量%の非溶媒および
(ii)前記ポリベンズイミダゾールについての1〜35重量%の溶媒を含み、環形状に前記ポリマー溶液を維持する穿孔液を紡糸口金の内側チューブに通す工程と、
(c)大気中に0.3〜20cmの落下距離を有するギャップを通して、前記ポリマー溶液および前記穿孔液を落下させる工程と、
(d)浴中で前記ポリマー溶液および前記穿孔液をクエンチして、環形状を有し、第1および第2の同心層を含む非対称中空繊維を形成する工程とを含み、ここで、前記第1の層は前記第2の層と接し、多孔性でなく、前記第2の層は5〜250nmの範囲の細孔を有する多孔性であって、
前記第1の層の化学組成と前記第2の層の化学組成が同じである、該方法。
【請求項2】
(a)1〜100メートル/分の速度で前記繊維を繊維束に巻き取って中空繊維膜を形成する工程を含み
(b)ここで、前記ポリマー溶液は15〜25℃の温度範囲内で少なくとも6か月間化学分解に対して安定であり
(c)紡糸後の前記繊維の洗浄および延伸を含み
(d)ここで、前記ポリベンズイミダゾールはスルホン化ポリベンズイミダゾールであり、または
(e)(a)、(b)、(c)および(d)の任意の組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の層が前記非対称中空繊維の外表面を形成し、前記第2の層は前記非対称中空繊維の内表面を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の層が前記非対称中空繊維の内表面を形成し、前記第2の層は前記非対称中空繊維の外表面を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の層が範囲0.1〜10μmの厚さを有し、前記第2の層は10〜500μmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記チューブインオリフィス紡糸口金の前記外側環状オリフィスが範囲100〜2000μmの外径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1および前記第2の層の厚さが、落下距離の長さ、および前記溶媒と前記非溶媒の相対的極性によって制御され、ここで、前記ポリベンズイミダゾールがスルホン化ポリベンズイミダゾールである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の層が範囲0.1〜10μmの厚さを有し、前記第2の層は10〜500μmの範囲の厚さを有し、前記ポリマーの析出は、落下中に部分的に固化し、クエンチング中に完全に固化する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
繊維の壁を形成する第1および第2の同心層を含む非対称中空繊維であって、前記非対称中空繊維はポリベンズイミダゾール材料を含み、
前記第1の層は非多孔性であり、
前記第2の層は範囲5〜250nmの細孔を有する多孔性であり、
前記第1の層の化学組成と前記第2の層の化学組成が同じであり、
前記非対称中空繊維は範囲100〜2000μmの外径を有する、該非対称中空繊維。
【請求項10】
(a)前記ポリベンズイミダゾールがスルホン化ポリベンズイミダゾールである、または
(b)400℃まで化学分解に対して安定である、または
(c)前記第1の層が範囲0.1〜10μmの厚さを有し、前記第2の層は10〜500μmの範囲の厚さを有する、請求項9に記載の非対称中空繊維。
【請求項11】
前記第1の層が前記非対称中空繊維の外表面を形成し、前記第2の層が前記非対称中空繊維の内表面を形成する、請求項9に記載の非対称中空繊維。
【請求項12】
請求項9に記載の前記非対称中空繊維を繊維束中に含む膜。
【請求項13】
H2、CO2、COおよびメタンを含むガス混合物からH2を分離する方法であって、請求項12に記載の前記膜にガス混合物を通す工程を含む方法。
【請求項14】
水溶液から不純物を除去する方法であって、請求項12に記載の前記膜に前記水溶液を通す工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
気体分離および液体分離用のPBI中空繊維非対称膜を製作するプロセスに関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年9月06日に出願された米国特許仮出願第61/531,448号の優先権を主張し、その開示は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
特許に係る政府の権利の表明
本発明は、海軍研究事務所によって授与されたN00014−10−C−0059、およびエネルギー省によって授与されたDE−FC26−07NT43090の下に米国政府支援を受けて行われた。米国政府は本発明における一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
水処理から気体分離までの多くの産業が膜プロセスを分離および精製に使用している。これらのプロセスは、一般に、平坦なシートまたは中空繊維の形態のポリマー膜を使用する。中空繊維膜は、高い表面積対容積比のために平坦なシート膜より広く使用されている。
【0005】
関連する技術には、米国特許第7771518号、米国特許第5683584号、および米国特許出願公開第2011/0266223号が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7771518号明細書
【特許文献2】米国特許第5683584号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2011/0266223号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、本発明は、非対称中空繊維を調製する方法であって、(a)(i)15〜25重量%のポリベンズイミダゾール(ii)1〜5重量%のポリマーの細孔形成材料および(iii)ポリベンズイミダゾールについての溶媒を含むポリマー溶液をチューブインオリフィス紡糸口金の外側環状オリフィスに通す工程と、(b)(i)ポリベンズイミダゾールについての65〜99重量%の非溶媒および(ii)ポリベンズイミダゾールについての1〜35重量%の溶媒を含み、環形状にポリマー溶液を維持する穿孔液を紡糸口金の内側チューブに通す工程と、(c)大気および0.3〜20cmの落下距離を含むギャップにポリマー溶液および穿孔液を落下させる工程と、(d)浴中でポリマー溶液および穿孔液をクエンチして、環形状を有し、第1および第2の同心層を含む非対称中空繊維を形成する工程とを含み、ここで、第1の層は第2層と接し多孔性でなく、第2の層は5〜250nmの範囲の細孔を有する多孔性である方法を提供する。
【0008】
実施形態において:
本方法は、1〜100メートル/分の速度で繊維を繊維束に巻き取る工程をさらに含む。繊維束は、本明細書に記載されるものなどの適切な膜用途において中空繊維膜として使用することができる。
【0009】
ポリマー溶液は、15〜25℃の温度範囲内で少なくとも6か月間化学分解に対して安定である。
【0010】
本方法は、紡糸後洗浄および繊維の延伸をさらに含む。紡糸後の処置によって、例えば、繊維の機械的強度が増加する。
【0011】
ポリベンズイミダゾールはスルホン化ポリベンズイミダゾールである。
【0012】
第1の層は非対称中空繊維の外表面を形成し、第2の層はその内表面を形成する。
【0013】
第1の層は非対称中空繊維の内表面を形成し、第2の層はその外表面を形成する。
【0014】
第1および第2の層の厚さは、落下距離の長さ、および溶媒と非溶媒の相対的な極性によって制御される。
【0015】
第1の層は範囲0.1〜10μmの厚さを有し、第2の層は10〜500μmの範囲の厚さを有する。
【0016】
第1の層の化学組成と第2の層の化学組成は同じである。
【0017】
ポリマーの析出は、落下中に部分的に固化し、クエンチング中に完全に固化する。
【0018】
チューブインオリフィス紡糸口金の外側環状オリフィスは、範囲100〜2000μmの外径を有する。
【0019】
第1および第2の層の厚さは、落下距離の長さ、および溶媒と非溶媒の相対的な極性によって制御され、ここで、ポリベンズイミダゾールはスルホン化ポリベンズイミダゾールである。
【0020】
第1の層は範囲0.1〜10μmの厚さを有し、第2の層は10〜500μmの範囲の厚さを有し、ポリマーの析出は、落下中に部分的に固化し、クエンチング中に完全に固化する。
【0021】
別の態様において、繊維の壁を形成する第1および第2の同心層を含む非対称中空繊維であって、ポリベンズイミダゾール材料を含み、第1の層は非多孔性であり、第2の層は範囲5〜250nmの細孔を有する多孔性であり、範囲100〜2000μmの外径を有する非対称中空繊維が提供される。
【0022】
実施形態において:
ポリベンズイミダゾールはスルホン化ポリベンズイミダゾールである。
【0023】
非対称中空繊維は400℃まで化学分解に対して安定である。
【0024】
第1の層は範囲0.1〜10μmの厚さを有し、第2の層は10〜500μmの範囲の厚さを有する。
【0025】
第1の層は非対称中空繊維の外表面を形成し、第2の層はその内表面を形成する。
【0026】
別の態様において、ポリベンズイミダゾールならびに第1および第2の同心層を含む非対称中空繊維を含む膜であって、ここで、第1の層は非多孔性であり、第2の層は範囲5〜250nmの細孔を有する多孔性であり、繊維が範囲100〜2000μmの外径を有する膜が提供される。
【0027】
実施形態において:
本膜は、膜にガス混合物を通す工程を含む、H
2、CO
2、COおよびメタンを含むガス混合物からH
2を分離する方法において使用される。
【0028】
本膜は、膜に水溶液を通す工程を含む、水溶液から不純物を除去する方法において使用される。
【0029】
本発明は、記述された態様の組み合わせをすべて、あたかもそれぞれが個別に手間をかけて述べられたかのように、具体的に提供する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
一態様において、本発明は、非対称中空繊維を調製する方法であって、(a)(i)15〜25重量%のポリベンズイミダゾール(ii)1〜5重量%のポリマーの細孔形成材料および(iii)ポリベンズイミダゾールについての溶媒を含むポリマー溶液をチューブインオリフィス紡糸口金の外側環状オリフィスに通す工程と、(b)(i)ポリベンズイミダゾールについての65〜99重量%の非溶媒および(ii)ポリベンズイミダゾールについての1〜35重量%の溶媒を含み、環形状にポリマー溶液を維持する穿孔液を紡糸口金の内側チューブに通す工程と、(c)0.3〜20cmの落下距離にわたる大気を通って、ポリマー溶液および穿孔液を落下させる工程と(d)浴中でポリマー溶液および穿孔液をクエンチして、第1および第2の同心層を含む非対称中空繊維を形成する工程とを含み、ここで、第1の層は非多孔性であり、第2の層は範囲5〜250nmの細孔を有する多孔性である方法を提供する。
【0031】
ポリマー溶液は、非対称中空繊維を形成するポリマー材料を担い、幾つかの実施形態において、細孔形成材料、塩、pH修正剤、粘度修正剤、および1種または複数の溶媒などの1種または複数の追加成分を担う。
【0032】
ポリマー溶液はポリベンズイミダゾール(PBI)を含む。幾つかの実施形態において、PBIはスルホン化されている。スルホン化は任意の都合のよい方法を使用して実行することができる。例えば、PBIのスルホン化版は、硫酸で処理することにより容易に調製することができ、プロトンと共有結合したSO
3−を形成してイミダゾール環の窒素と安定な結合を形成する。スルホン化PBI(SPBI)の中空繊維は、より高い塩素耐性、水流束、および脱塩率速度を提供する。PBIは、本発明の方法に従って非対称中空繊維を生み出すのに有効な量で存在することができる。実施形態において、PBIは、10〜30、または15〜25、もしくは15〜20重量%の範囲の量で、または10、15、17、20もしくは25重量%を超える、または30、25、22、20もしくは18重量%未満の量で存在する。合計重量パーセントが所与の範囲内であれば、複数の種類のPBIが存在してもよい。
【0033】
実施形態において、ポリマー溶液は細孔形成材料を含む。細孔形成材料は、本発明の材料中に細孔の形成を引き起こすまたは支援する材料である。例えば、細孔形成材料は、細孔形成の溶媒交換メカニズムを支援する。任意の好適な細孔形成材料を使用することができる。細孔形成材料の例は、グリコールおよびポリオールなどの複数のヒドロキシル基を含有する化合物である。例としては、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、サッカライドおよび多糖類などを含む。細孔形成材料の別の例はPVPである。細孔形成材料は、結果として得られる非対称中空繊維中に所望の細孔をもたらすのに十分な量でポリマー溶液中に存在する。実施形態において、細孔形成材料は、範囲1〜5重量%、もしくは1〜3重量%で、5、4、3もしくは2重量%未満で、または1、2、3もしくは4重量%を超えてポリマー溶液中に存在する。
【0034】
ポリマー溶液はPBIについての溶媒を含む。そのような溶媒は、溶液中に存在するPBIを本発明の方法において使用される条件下に完全に溶解することができる。適切な溶媒の例は、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリジン(NMP)、ピリジンなどである。溶媒の組み合わせもまた適切である。
【0035】
ポリマー溶液は、LiCl(例えばPBIの安定剤として)などの1種または複数の添加剤をさらに含むことができる。
【0036】
ポリマー溶液は、15〜25℃の温度範囲内などの周囲条件下に少なくとも6か月間化学分解に対して安定である。幾つかの実施形態において、ポリマー溶液は、少なくとも9または12か月間安定である。したがって、ポリマー溶液の成分(特にPBI成分)は、安定期間にわたって著しい分解を受けない。例えば、安定期間にわたるポリマー溶液中のPBI成分の分解は、溶液が15〜25℃の温度範囲に維持される限り、10、8、5、3、2または1%未満である。
【0037】
本発明の方法は、チューブインオリフィス紡糸口金の外側環状オリフィスにポリマー溶液を通す工程を伴う。通す工程は、高圧(すなわち、ポリマー溶液をオリフィスを通して押し出すことができる)で行うことができ、または、重力の影響下および大気圧で溶液をオリフィスから落下させることができる。好都合には、外側環状オリフィスより直ぐ下の拡大領域と拡大領域より下の伸長領域とに細分化することができるギャップが、外側環状オリフィスより下に配置されている。紡糸口金の外側オリフィスから出ると、ポリマー溶液(環状オリフィスの環形状を有する)は、まず拡大領域に入り、そこで円周方向に多少拡大する。ポリマー溶液は拡大領域を通って移動し、次いで、伸長領域に進入し、そこで円周は収縮する。幾つかの実施形態において、ポリマー溶液がギャップを通過すると、溶媒の一部がポリマー溶液から蒸発する。蒸発によってポリマー溶液内のPBIの濃度が増し、PBIの幾分かの固化がギャップ内で起こり得る。ポリマー溶液は、ギャップの伸長領域を通って移動し、ギャップより下に位置する浴に進入する。PBIが浴内で完全に固化するように浴は機能して、ポリマー溶液内のPIを凝固させる。さらに、溶媒交換が浴内で生じる(すなわちポリマー溶液からの溶媒が浴からの溶媒と交換する)。溶媒交換は、固化するPBI内の細孔の形成を結果として生じる。
【0038】
本発明の方法は、チューブインオリフィス紡糸口金の内側チューブに穿孔液を通す工程をさらに含む。内側チューブは、外側環状オリフィス内の中心に(紡糸口金の中心軸に関して)位置する。穿孔液は、ギャップを通って浴へポリマー溶液が落下する間、ポリマー溶液を環形状に維持するために使用される。したがって、穿孔液は、ポリマー溶液が外側環状オリフィスから現れるのと同時に内側チューブから現れる。
【0039】
穿孔液は、PBIについての溶媒とPBIについての非溶媒の混合物を含む。実施形態において、穿孔液は、65〜99重量%、または65、70、75、80、85もしくは90重量%を超える、または99、95、90、85、80、75もしくは70重量%未満の非溶媒を含む。実施形態において、穿孔液は、1〜35重量%、または5、10、15、20、25もしくは30重量%を超える、または35、30、25、20、15、10もしくは5重量%未満のポリベンズイミダゾールについての溶媒を含む。
【0040】
PBIについての非溶媒とは、本発明の方法において使用される温度および圧力の下でPBIをあまり溶解しない溶媒である。例えば、非溶媒は、同様の量の溶媒なら溶解することが可能なPBIの重量の、10、5、1、0.5または0.1%未満しか溶解できない。PBIの非溶媒の例としては、水およびアルコール(メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−プロパノールなど)を含む。
【0041】
穿孔液として液体を適用することによって、相転移が引き起こされる場合があり、内表面近くの繊維モルフォロジーを転相によって制御することができる。
【0042】
浴はPBIについての非溶媒で充填されている。浴中の非溶媒は同一であってもよく、または、穿孔液に存在する非溶媒と異なっていてもよい。浴に進入するポリマー溶液から生じるPBIの析出は、本明細書においてはクエンチングと称する。ポリマー溶液および穿孔液のクエンチングは、本明細書に記載される環形状を有し第1および第2の同心層を有する非対称中空繊維を生み出す。幾つかの実施形態において、中空繊維の環形状は、ギャップを通過するポリマー溶液の環形状(すなわち、穿孔液を囲む)と同一である。幾つかの実施形態においては、他の膨潤または収縮の小さな変形によって、中空繊維の環形状をギャップ中のポリマー溶液の環形状とは異なるようにするが、中空繊維の形状は、それにもかかわらず、ギャップ中のポリマー溶液の環形状に由来する。
【0043】
ギャップは大気を含む。その大気は、空気、窒素もしくはアルゴンなどの単一ガス、またはガスの任意の所望の組成物であってもよい。紡糸口金と浴の間のギャップの長さは、本明細書においては落下距離と称する。落下距離は、0.3、0.5、1、3、5、10もしくは15cmを超える、または20、15、10、5、3もしくは1cm未満などの範囲0.3〜20cmの任意の長さであってもよい。膨潤および伸長領域の相対的長さは、溶解パラメーター、ギャップ内の大気などの様々な因子に依存する。
【0044】
本発明の方法は、PBI材料を含む非対称中空繊維の形成を結果としてもたらす。本方法は、紡糸後処置をさらに含んでもよい。例えば、紡糸後処置は、繊維を洗浄および延伸する工程を含む。洗浄は、水、アルコール、グリコールまたはポリオール溶媒などの、PBIの非溶媒または非溶媒の混合物を用いることができる。延伸は、任意の好適な方法を使用する、二本ローラーによるストレッチングまたは長手ストレッチングなどの、繊維を伸ばす任意の方法を含むことができる。幾つかの実施形態において、そのような紡糸後処置は、繊維の機械的強度を増す。機械的強度のそのような増加は、少なくとも100、150または200%である場合があり、引張強度または他の尺度の繊維強度を指してもよい。
【0045】
非対称中空繊維は、断面に「ドーナツ」形状を有している。したがって、繊維は、第1および第2の同心の(かつ接する)層を含む、環形状を有する壁を含む(断面に)。環の外径と環の内径との間の差は、繊維壁の厚さの2倍を表す。
【0046】
本発明の中空繊維は、これが第1および第2の同心層を含み、第1の層が非多孔性であり第2の層と接し、第2の層が多孔性であるという点で非対称である。幾つかの実施形態において、第1の層は、非対称中空繊維の外表面を形成し、第2の層は、その内表面を形成する。他の実施形態において、第1の層は、非対称中空繊維の内表面を形成し、第2の層は、その外表面を形成する。第2の層の多孔性のために、第1の層は、通常、第2の層より高密度である。実施形態において、第1の層は、第2の層より少なくとも1.1、1.3、1.5、2、3、4または5倍高密度である。
【0047】
第1および第2の層の厚さは、落下距離の長さ、および溶媒と非溶媒の相対的極性によって制御される。幾つかの実施形態において、第1の層は、少なくとも0.1、0.5、1、2、3、5もしくは8μm、または10、8、5、3、2、1もしくは0.5μm未満などの範囲0.1〜10μmの厚さを有する。幾つかの実施形態において、第2の層は、少なくとも10、25、50、100、150、200、250もしくは300μm、または500、300、250、200、150、100、50または25μm未満などの10〜500μmの範囲の厚さを有する。幾つかの実施形態において、比較的低密度の第2の層は、比較的高密度の第1の層より少なくとも10、20、50、100または500倍の厚さを有する。様々な層の厚さは繊維の断面として測定される。
【0048】
第1および第2の層の間の遷移領域は、第1の層の厚さの0.5、0.1、0.05または0.01倍未満など、非常に鋭くすることができる。遷移領域において、繊維材は、多孔性から非多孔性に(すなわち比較的低密度から比較的高密度に)移行する。幾つかの実施形態において、遷移領域はより厚く、多孔性は、第1の層の厚さの少なくとも0.5、0.8または1倍の厚さを有する領域にわたって徐々に減少する。
【0049】
実施形態において、多孔性の第2の層は、相互連結したナノメートル規模の細孔を有する。例えば、細孔は、5〜250nmの範囲の、または5、25、50、100、150もしくは200nmを超える、または250、200、150、100、50もしくは25nm未満の平均直径を有する。細孔は、球状、部分的に球状、または形状が不規則であってもよい。第2の層の細孔の程度および大きさは、一部には使用される溶媒と非溶媒の極性(細孔形成の溶媒交換メカニズムに影響する)によって決まる。他の因子には、浴の溶媒温度および圧力、ならびにギャップ内の溶媒の蒸発の速度および度合が含まれる。
【0050】
環状紡糸口金の穴の寸法、中空繊維の寸法、紡糸口金内の剪断応力、ドープ流速、ポリマーと穿孔の体積流量比率、巻き取り速度と初速度の比率(延伸比)は、最終の繊維構造を決定する主要な因子である。
【0051】
実施形態において、第1の層の化学組成と第2の層の化学組成は同じである。したがって、例えば、第1および第2の層はいずれも、本明細書に記載される材料から選択された同一のPBI材料で作製される。
【0052】
実施形態において、非対称中空繊維は400℃まで安定である。したがって400℃まで、繊維材の分解は、ほとんどないかまたは全くない(すなわち10、5、3または1重量%未満)。
【0053】
チューブインオリフィス紡糸口金の外側環状オリフィスは、範囲100〜2000μmの外径を有する。したがって、最終の非対称中空繊維は、100、200、300、400、500、1000もしくは1500μmを超える、または2000、1500、1000、500、400、300もしくは200μm未満などの100〜2000μmの範囲内の外径を有することができる。内径(すなわち、中空繊維内の空洞の直径)は、外径、ならびに第1および第2の層の厚さによって決まる。(したがって、例えば、範囲90〜1990μm内であってもよい)。
【0054】
本発明の非対称中空繊維は、中空繊維膜(HFM)を形成するために使用することができる。例えば、本明細書に記載される紡糸処置は、1〜100メートル/分の速度で繊維を巻き取ってHFMを形成する工程をさらに含む。
【0055】
膜は、H
2、CO
2、COおよびメタンを含むガス混合物からH
2を分離する方法であって、膜にガス混合物を通す工程を含む方法に使用することができる。
【0056】
膜は、水溶液から不純物を除去する方法であって、膜に水溶液を通す工程を含む方法に使用することができる。
【0057】
PBI膜は、例えば、浸漬乾燥処置を使用して中空繊維を製作した後、スルホン化することができる。
【0058】
他に示さない限り、本開示は、特定の処置、材料などに限定されず、それゆえ様々であってよい。また、本明細書において使用される用語が特定の実施形態のみを記載するためにあり、限定するようには意図されないことは理解されるべきである。
【0059】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が他に指示しない限り、複数の指示物をも含む。したがって、例えば、「溶媒」への言及は、単一の溶媒だけでなく、2種以上の異なる溶媒の組み合わせまたは混合物をも含む。
【0060】
本発明は、記述された特定で好ましい実施形態の組み合わせをすべて包含する。本明細書に記載される実施例および実施形態が説明の目的のみのためであること、および、それを踏まえた様々な修正または変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨および視界ならびに添付の請求の範囲内に含まれるべきものであることは理解される。本明細書に引用される刊行物、特許および特許出願はすべて、その引用を含めて、参照によってすべての目的のためにその全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0061】
ドープ溶液を以下のように調製した:DMAc中の18重量%のPBIドープおよび2重量%のPVP(K16−18,Acros Organics,New Jersey)(8000ダルトンの分子量を有する高分子量細孔形成剤)。
【0062】
穿孔液を以下のように調製した:75〜90重量%のIPAおよび5〜25重量%のDMAc。
【0063】
100%のIPAを含有する凝固浴を調製した。
【0064】
水、イソプロピルアルコール、メタノールおよびその組み合わせから選択した強力な非溶媒を、穿孔液および凝固浴として使用する。強力な非溶媒は、紡糸口金の出口でポリマー溶液を凝固させる能力を有し、そのため、薄い膜層が、外側のポリマー溶液の間で形成されるが、そうでなければ、繊維は容易に壊れ、ポリマー溶液は重力下で液滴として垂れ落ちる。内部穿孔液は、膜層の形成を避けるための、非溶媒と溶媒の混合物である。外径1.2mmおよび内径0.4mmの紡糸口金を製作する。このドープ溶液は、Nジメチルアセトアミド(DMAc)中に26重量%のPBIおよび2重量%のLiClを含む。ドープ溶液の特定の組成物に続いて、穿孔液および凝固浴を、シェル側に欠陥のない選択的ガス分離層を有する、300GPUのH
2透過率の非対称PBI中空繊維膜を製作するために使用した。
【0065】
0.5mmの外径(OD)の断面を有する繊維の高倍率写真を撮影した。同様に、0.8mmのODの断面を有する繊維の高倍率写真を撮影した。画像は、内部層で多孔性、および非多孔性の高密度の外側層を示す。
【0066】
高密度層は、高浸透のH
2と低浸透のCO
2の間の分離をもたらすが、多孔層は、機械的強度をもたらし浸透するガスの通路として圧力損失が少ない。製作した繊維の試験によると、H
2がCO
2より迅速に膜を通って浸透することを示した。温度が上がるとH
2の透過率も上がるが、CO
2の透過率は温度に対し比較的鈍感である。
【0067】
調製した繊維の性能を50日にわたって評価し、1000時間に及ぶ性能を示した。H
2/CO
2の選択性は、時間が経つにつれて35から50に向上し、設計目標の40を超えた。長期的な性能評価データが得られた。H
2透過率の値は、試験期間を通して約80GPU(ガス透過単位)で存続した。1000時間の試験期間の最後には、H
2透過率が250℃で130GPUと測定された。
【0068】
H
2/CO
2は、150、200、225および250℃でH
2透過率の関数としてGPU単位で測定した。H
2/CO
2選択性およびH
2透過率はともに、225℃まで昇温するにつれて、上昇した。250℃ではH
2/CO
2の比率は上昇するが、H2透過率は低下する。このことは、高密度層の厚さがわずかに増加することを示唆する。選択性が低下するにつれて透過率は上昇する。高密度層の厚さは1〜10μmの間で試験し、0.1μmほど薄くても試験することができた。
【0069】
大きな空隙の存在は、高度にドープ特異的であり、凝固中の非溶媒と溶媒の交換速度に強く依存する。大きな空隙を含有する繊維で測定したH2透過率は、室温で範囲100〜200GPUにあったが、H2/CO2選択性はわずか5であった。大きな空隙の存在は、繊維の機械的強度も低下させる。