特許第6062956号(P6062956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60629562つの電動機を有する純電気駆動可能な自動車のドライブトレイン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062956
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】2つの電動機を有する純電気駆動可能な自動車のドライブトレイン
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/04 20060101AFI20170106BHJP
   B60K 1/02 20060101ALI20170106BHJP
   B60K 17/12 20060101ALI20170106BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B60K17/04 N
   B60K1/02
   B60K17/12
   B60L15/20 S
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-547733(P2014-547733)
(86)(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公表番号】特表2015-508353(P2015-508353A)
(43)【公表日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】EP2012004887
(87)【国際公開番号】WO2013091763
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】102011056929.4
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100098914
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】ノブロック, ダニエル
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102010005789(DE,A1)
【文献】 特開2011−230755(JP,A)
【文献】 特開平11−240349(JP,A)
【文献】 特開2011−033077(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1634756(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/04−17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディファレンシャル(35)を有する車軸(2)と、2つの電気機械(13、14)とを備え、前記車軸(2)が、前記電気機械(13、14)によって、少なくとも1つの歯車機構(15、16)を介して駆動可能である純電気駆動可能な自動車のドライブトレイン(1)において、第1の電気機械(13)が、第1の歯車機構(15)と協働し、第2の電気機械(14)が、第2の歯車機構(16)と協働し、前記第1の歯車機構(15)が、第1の切り替え可能なクラッチ(36)を介して前記ディファレンシャル(35)の入力歯車(34)に接続可能であり、前記車軸(2)の2つの車軸区域(4、5)を駆動させ、前記車軸区域が、前記ディファレンシャル(35)の異なる出力に接続され、前記第1のクラッチ(36)が開いているときに、前記第1の歯車機構(15)が、第2のクラッチ(37)を介して前記車軸(2)の第1の車軸区域(4)に接続可能であり、前記第1のクラッチ(36)が開いているときに、前記第2の歯車機構(16)が、第3のクラッチ(38)を介して前記車軸(2)の第2の車軸区域(5)に接続可能であり、
更に、2つの前記電気機械(13、14)と3つの前記クラッチ(36、37、38)とが、制御手段を有し、前記制御手段により、前記第1の電気機械(13)の作動中に、前記第1のクラッチ(36)が閉じられ、前記第2および第3のクラッチ(37、38)が開かれる、または、前記2つの電気機械(13、14)の作動中に、前記第1のクラッチ(36)が開かれ、前記第2および第3のクラッチ(37、38)が閉じられる、ことを特徴とするドライブトレイン(1)。
【請求項2】
前記車軸(2)が、前記自動車の後車軸であることを特徴とする請求項1に記載のドライブトレイン。
【請求項3】
前記電気機械(13、14)が、前記後車軸(2)の近く、特に前記後車軸の後ろに配置されることを特徴とする請求項2に記載のドライブトレイン。
【請求項4】
乗用車、特にスポーツカーのドライブトレイン(1)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項のドライブトレイン。
【請求項5】
前記歯車機構(15、16)が、平歯車機構として設計されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のドライブトレイン。
【請求項6】
前記歯車機構(15、16)が、同一の伝達比を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のドライブトレイン。
【請求項7】
前記電気機械(13、14)が、前記自動車の走行方向に対して横向きに配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のドライブトレイン。
【請求項8】
前記第1の車軸(2)が、プロペラシャフトを有する2つの車軸区域(4、5)を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のドライブトレイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純電気駆動可能な自動車のドライブトレインであって、ディファレンシャルを有する車軸と、2つの電気機械とを有し、車軸が、少なくとも1つの歯車機構を介して電気機械によって駆動可能であるドライブトレインに関する。
【背景技術】
【0002】
電気駆動可能な土木用車両に関して、または4輪駆動機構を備える農業用車両に関して使用される上記ドライブトレインは、(特許文献1)から知られている。前記ドライブトレインは、2つの電気機械を有する。これらの電気機械は、走行方向で自動車の後車軸の上方に配置され、後車軸の前に配置された平歯車機構と協働する。歯車機構は、1つのシャフトまたは2つのシャフトを介してディファレンシャルに接続される。ディファレンシャルは、自動車の2つの車軸、すなわち後車軸と前車軸とに割り当てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ特許公開第600 13 340 T2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、純電気的に駆動可能な自動車でのドライブトレインであって、様々な走行状況において特に良好な効率で走行することを可能にするドライブトレインを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、特許請求項1の特徴に従って設計されるドライブトレインによって実現される。
【0006】
したがって、純電気駆動可能な自動車のドライブトレインは、2つの電気機械を有する。2つの電気機械の一方(第1の電気機械と呼ぶ)は、第1の歯車機構と協働し、2つの電気機械の他方(第2の電気機械と呼ぶ)は、第2の歯車機構と協働する。第1の歯車機構は、第1の切り替え可能なクラッチを介してディファレンシャルの入力歯車に接続可能であり、車軸の2つの車軸区域を駆動させる。これらの車軸区域は、ディファレンシャルの異なる出力に接続される。第1のクラッチが開いているとき、第1の歯車機構は、第2のクラッチを介して車軸の第1の車軸区域に接続可能であり、第1のクラッチが開いているとき、第2の歯車機構は、第3のクラッチを介して車軸の第2の車軸区域に接続可能である。
【0007】
2つの電気機械と、電気機械に割り当てられた2つの歯車機構と、3つのクラッチとを備えるドライブトレインのこの構成により、第1の電気機械のみを、第1の電気機械に割り当てられた第1の歯車機構、および前記第1の歯車機構に割り当てられたディファレンシャルを介して駆動することによって、車軸の2つの車軸区域を駆動可能となるか、または、駆動力をディファレンシャルに導入せず、代わりに、各車軸区域を、各車軸区域に割り当てられた電気機械によって直接駆動可能となる。車軸のそれぞれの車軸区域のこの独立式駆動により、それぞれの車軸区域に割り当てられた自動車の車輪すなわち自動車の走行車輪の独立各輪駆動が可能となる。その結果、車軸の車軸区域または車軸の車輪のトルクベクタリングが可能となる。前記トルクベクタリングは、一方または他方の車輪の車軸区域での制動介入による損失を何ら引き起こさない。
【0008】
ディファレンシャルを介して力が伝達される走行モードでは、第1のクラッチが閉じられており、他の2つのクラッチ(第2および第3のクラッチ)が開かれているときには、一方の電気機械(第1の電気機械)のみが作動される。逆に、独立各輪駆動では、第1のクラッチが開かれ、第2および第3のクラッチは閉じられる。
【0009】
一方の電気機械(第1の電気機械)のみによる自動車の走行は、エネルギー消費を抑えた走行状況の場合に有利である。特に、ドライビングダイナミクス的に危険な走行状況であるときは常に、独立各輪駆動に切り替えられる。前記のようなドライビングダイナミクス的に危険な走行状況は、特に、安全面で危険な状況であり、車両に対する安定性介入が必要とされる。
【0010】
2つの電気機械と、3つのクラッチとは、好ましくは制御手段を有する。制御手段により、第1の電気機械の作動中に、第1のクラッチが閉じられ、第2および第3のクラッチが開かれるか、または2つの電気機械の作動中に、第1のクラッチが開かれ、第2および第3のクラッチが閉じられる。
【0011】
歯車機構は、好ましくは、平歯車機構として設計される。これらは、比較的小さな構成空間内に収納することができる。特に、歯車機構は、同一の伝達比を有する。
【0012】
電気機械は、特に、自動車の走行方向に対して横向きに配置される。
【0013】
ドライブトレインは、好ましくは、乗用車の形態である自動車で使用される。前記乗用車は、特にスポーツカーである。前記自動車、特に乗用車またはスポーツカーは、好ましくは後輪駆動の形態である。したがって、2つの電気機械が、自動車またはドライブトレインの後部領域に配置される。2つの電気機械が後車軸の後ろに配置される場合に特に有利であると考えられる。
【0014】
しかしながら、基本的には、自動車は、前輪駆動の形態とすることもできる。
【0015】
ドライブトレインに割り当てられる車輪は、特に、プロペラシャフトを介して個別に懸架される。したがって、ドライブトレインは、固定車軸を有しない。
【0016】
本発明のさらなる特徴は、独立請求項、添付図面、および、図面に示される好ましい例示的実施形態の説明から明らかになるが、本発明は、それらの例示的実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によるドライブトレインの好ましい実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1による例示的実施形態は、純電気駆動可能な自動車用のドライブトレインを示す。自動車は、特に乗用車、具体的にはスポーツカーである。自動車の後車軸に割り当てられたドライブトレイン、さらに、自動車の駆動車軸でない前車軸が図示されている。
【0019】
独立懸架式サスペンションを備えるドライブトレイン1は、第1の後車軸2を有する。自動車の前方走行方向3(以下では「走行方向」と呼ぶ)に対して、後車軸2は、左側車軸区域4と、右側車軸区域5とを有する。後車軸2の左右の車輪は、参照番号6で表され、後車軸2の車軸区域4および5に関する軸受は、参照番号7で表される。後車軸2の車軸区域4および5はプロペラシャフトを有する。
【0020】
自動車は、さらに、駆動車軸でない第2の前車軸8を有する。この車軸8も、独立懸架式サスペンションを有する。前車軸8は、左側車軸区域9と、右側車軸区域10とを有する。前車軸8の左右の車輪は、参照番号11で表され、前車軸8の車軸区域9および10に関する軸受は、参照番号12で表される。前車軸8の車軸区域9および10も同様にプロペラシャフトを有する。
【0021】
後車軸2は、2つの電気機械13および14によって駆動可能である。ここで、電気機械13は、歯車機構15と協働し、電気機械14は、歯車機構16と協働する。歯車機構15および16は、後車軸2の実質的に後ろに配置され、2つの電気機械13および14はそれぞれ、走行方向3に対して横向きに配置される。したがって、電気機械13または14の被動シャフト17によって示されるそれぞれの電気機械13または14の回転軸は、走行方向3に配置される。
【0022】
それぞれの電気機械13または14の固定子は、参照番号18で表される。被動シャフト17が接続されるそれぞれの電気機械13または14の回転子は、参照番号19で表される。それぞれの被動シャフト17は、軸受20に取り付けられる。
【0023】
2つの電気機械13、14の被動シャフト17は、同じ幾何学軸上に配置される。したがって、電気機械13および14の固定子18の回転軸は、その幾何学軸に対応する。
【0024】
以下にさらに述べるわずかな相違点を除いて、2つの歯車機構15、16は、車両の長手方向軸に対して鏡映対称に配置され、同一の設計である。したがって、それらは同一の伝達比を有する。歯車機構は、平歯車機構として設計される。
【0025】
それぞれの歯車機構15または16は、ピニオン21を有する。ピニオン21は、一体回転するように被動シャフト17に接続され、平歯車として設計される。前記ピニオン21は、それぞれの歯車機構15または16の平歯車22と噛み合う。平歯車22は、一体回転するようにシャフト23に接続される。前記シャフト23は、端部側で軸受24内に取り付けられる。ピニオン25が、平歯車22に隣接して配置され、一体回転するようにシャフト23に接続される。歯車機構16のピニオン25は、平歯車26と噛み合う。平歯車26は、車軸2の右側車軸区域5内に自由に回転可能となるように取り付けられる。平歯車26は、一体回転するようにクラッチ部品27に接続される。クラッチ部品27はクラッチ部品28と作動可能な位置にすることができる。クラッチ部品28は、一体回転するように右側車軸区域5に接続される。
【0026】
平歯車26と比べて変更されている平歯車29は、他方の歯車機構15のピニオン25と協働する。平歯車26と同様に、前記平歯車29は、車軸2の車軸区域、本発明の場合は左側車軸区域4内に、自由に回転可能となるように取り付けられ、一体回転するようにクラッチ部品30に接続される。クラッチ部品30は、クラッチ部品27に対応する様式で設計される。前記クラッチ部品30はクラッチ部品31と作動可能な位置にすることができる。クラッチ部品31は、一体回転するように左側車軸区域4に接続され、これに関し、構成および配置はクラッチ部品28に対応する。
【0027】
左側車軸区域4に割り当てられた平歯車29は、平歯車29がクラッチ部品32を回転しないように受け取る点で、右側車軸区域5に割り当てられた平歯車26とは基本的に異なる。クラッチ部品32はクラッチ部品33と作動可能に接続させることができる。クラッチ部品33は切り替え可能であり、それにより、平歯車29とディファレンシャル35の入力歯車34との間で、回転しない接続を形成することができる。2つの車軸区域4および5は、ディファレンシャル35の2つの出力に、一体回転するように接続される。
【0028】
したがって、クラッチ部品32および33は、第1の切り替え可能なクラッチ36を形成し、クラッチ部品30および31は、第2の切り替え可能なクラッチ37を形成し、クラッチ部品27および28は、第3の切り替え可能なクラッチ38を形成する。2つの電気機械の一方、特に電気機械13によって車両を走行させれば十分であり、エネルギー節約モードでの走行が行われる第1の走行状況では、第1のクラッチ36は閉じられ、第2および第3のクラッチ37、38は開かれる。電気機械14はオフに切り替えられる。したがって、電気機械13のみが、歯車機構15、したがって平歯車29およびクラッチ36を介してディファレンシャル35にトルクを伝達し、そこから2つの車軸区域4および5を介して車輪6に伝達する。
【0029】
対照的に、ドライビングダイナミクス的に危険な状況の場合には、後車軸2の車輪6を個別に駆動することができる。第1のクラッチ36が開かれ、第2および第3のクラッチ37、38が閉じられる。ここで、力は、ディファレンシャル35を介して後車軸2の車軸区域4および5に伝達されるのではなく、第1のトルク列において、電気機械13から、電気機械13に割り当てられた歯車機構15を介してクラッチ37に、さらにそこから、左側車軸区域4、および左側車軸区域4に割り当てられた車輪6に伝達が行われる。電気機械14は、第2のトルク経路によって、歯車機構16を介して、閉じたクラッチ38に接続される。したがって、右側車軸区域5、および右側車軸区域5に割り当てられた車輪6は、前記クラッチ38を介して駆動される。電気機械13、14の異なるトルクにより、2つの車軸区域4および5に異なるトルクを導入することが可能となり、したがって、独立各輪駆動により、後車軸2のトルクベクタリングが可能となる。
【0030】
2つの電気機械13および14と、3つのクラッチ36、37、38とは、制御手段を有する。この制御手段により、第1の電気機械13の作動中に、第1のクラッチ36が閉じられ、第2および第3のクラッチ37、38が開かれるか、または2つの電気機械13、14の作動中に、第1のクラッチ36が開かれ、第2および第3のクラッチ37、38が閉じられる。
図1