(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062980
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】全反射試料照明装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20170106BHJP
G01N 21/65 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G01N21/64 E
!G01N21/65
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-38153(P2015-38153)
(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公開番号】特開2016-161319(P2016-161319A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2016年10月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】510267421
【氏名又は名称】ニイガタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】漆谷 真帆
(72)【発明者】
【氏名】牧野 秀介
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/034796(WO,A1)
【文献】
特開2008−309785(JP,A)
【文献】
国際公開第94/000761(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/066515(WO,A1)
【文献】
米国特許第05442169(US,A)
【文献】
特開2006−153643(JP,A)
【文献】
特開2012−117837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光をスライドガラス内に導入し、前記スライドガラス内でレーザー光を多重全反射させることで当該スライドガラスの上面にエバネッセント波を発生させ、前記スライドガラスの上面に位置する試料をそのエバネッセント波によって照明する全反射試料照明装置であって、
前記スライドガラスと同程度の屈折率を有する材料から形成され、上面と底面との間を貫通する開口が設けられると共に、上面には前記開口を塞ぐようにして前記スライドガラスが配設される装置基板と、
レーザー光源を保持して前記装置基板の上面に固定され、当該レーザー光源が発するレーザー光を前記装置基板の上面に対して所定の角度で入射させる光源ホルダと、
前記装置基板の底面側に設けられ、前記レーザー光源から前記装置基板に入射したレーザー光を反射して前記スライドガラスに入射させ、前記開口に重なった当該スライドガラスの部位内で多重全反射を生じさせる入射用反射面と、
前記装置基板の底面側で前記開口を挟んで入射用反射面と対向する部位に設けられ、前記スライドガラスから前記装置基板に入射したレーザー光を当該装置基板の上面と平行な方向で且つ前記開口と干渉しない方向へ反射する出射用反射面と、
を備えたことを特徴とする全反射試料照明装置。
【請求項2】
前記装置基板は矩形状に形成され、前記入射用反射面及び前記射出用反射面は前記開口を挟んだ一対の隅角部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の全反射試料照明装置。
【請求項3】
前記装置基板の上面側の周囲には観察ステージに載置される支持板部が設けられると共に、前記支持板部には前記装置基板を前記観察ステージの透孔内に位置決めするためのボスが設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の全反射試料照明装置。
【請求項4】
前記装置基板は、前記入射用反射面及び前記射出用反射面となる金属薄膜が蒸着されたアクリル板を無色透明な他のアクリル板と接着して形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の全反射試料照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば顕微鏡による蛍光観察や全反射ラマン散乱光を用いた計測において、励起光としてのエバネッセント波を発生させる全反射試料照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の界面の極近傍のみを観察・計測する手法として、エバネッセント波を局所的な励起光とした用いた蛍光観察が知られている。エバネッセント波とは、屈折率の異なる二つの物質の界面に対して、光が屈折率の大きな物質側から臨界角以上で入射して当該界面にて全反射した際に、屈折率の小さい物質側に染み出る光のことである。このエバネッセント波の強度は全反射界面から離れるに従い指数関数的に減衰するので、かかるエバネッセント波を用いた蛍光観察では、全反射界面から100nm程度の距離に存在する蛍光色素を選択的に励起することができ、当該界面の極近傍の浅い領域のみに特化した観察・計測を実現することが可能である。
【0003】
従来、エバネッセント波を照射する全反射試料照明装置としては、特許文献1に開示されるものが知られている。この装置は、レーザー光源に対して固定された入射プリズムと、前記入射プリズムに対して近接する方向へ位置調整可能に支持された放射プリズムとを備えており、試料を載せたスライドガラスの両端を前記入射プリズム及び放射プリズムによって下方から支持するように構成されている。前記レーザー光源から出射されたレーザー光は前記入射プリズムと前記スライドガラスとの接触面を介して当該スライドガラス内に導かれ、かかるスライドガラス内において複数回の全反射を繰り返した後、前記スライドガラスと前記放射プリズムとの接触面から当該放射プリズム内に導かれ、かかる放射プリズムから外部へ放射される。
【0004】
前記レーザー光がスライドガラス内で全反射する際に、前記スライドガラスの表面にはレーザー光の全反射位置に対応してエバネッセント波が発生し、当該スライドガラスの表面の極近傍においてのみ試料中の蛍光色素が前記エバネッセント波の照射によって励起され、その励起光を前記スライドガラスの下方に配置した対物レンズによって観察することが可能となっている。
【0005】
また近年では、蛍光色素を用いることなく、エバネッセント波を励起光として試料から発生する全反射ラマン散乱光を捉えることで、界面近傍を非侵襲で計測する技術も提案されており、(非特許文献1)、バイオ分野、医療分野、環境分野などの幅広い分野において、エバネッセント波を発生する全反射試料照明装置の応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−85915号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kuriyama.R, Tateishi.T, Sato.Y, “Development of Total Internal Reflection Raman Imaging for Non-intrusive Quantitative Visualization of Near-wall Concentration”, 17th International Symposium on Applications of Laser Techniques to Fluid Mechanics, 2014
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このような従来の全反射照明装置では、前記入射プリズムを介して前記スライドガラスに入射するレーザー光の入射角度が1度異なると、スライドガラスの表面に発生するエバネッセント波の大きさや強度が変化してしまうため、前記レーザー光源と前記入射プリズムの位置関係の調整に熟練した技術が必要であった。また、前記放射プリズムの位置が最適に調整されないと、放射プリズムから外部に放射されたレーザー光が散乱光を発生させ、かかる散乱光が観察・計測の際のSN比の低下の要因となってしまう。加えて、前記レーザー光源と前記入射プリズムの位置関係を調整すると、それに伴って放射プリズムの位置調整も必要となり、装置の取り扱いに手間がかかるといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、熟練した技術がなくともレーザー光を入射するだけで簡単にエバネッセント波を発生させることができ、観察・計測を行う際の取り扱いが容易な全反射試料照明装置を提供することにある。
【0010】
すなわち、本発明は、レーザー光をスライドガラス内に導入し、前記スライドガラス内でレーザー光を多重全反射させることで当該スライドガラスの上面にエバネッセント波を発生させ、前記スライドガラスの上面に位置する試料をそのエバネッセント波によって照明する全反射試料照明装置であって、前記スライドガラスと同程度の屈折率を有する材料から形成された装置基板を有している。
【0011】
この装置基板には上面と底面との間を貫通する開口が設けられると共に、上面には前記開口を塞ぐようにして前記スライドガラスが配設可能である。また、装置基板の上面にはレーザー光源を保持する光源ホルダが固定されており、前記レーザー光源が発するレーザー光を前記装置基板の上面に対して所定の角度で入射させるようになっている。前記装置基板の底面側には入射用反射面が設けられており、前記レーザー光源から前記装置基板に入射したレーザー光はこの入射用反射面で反射して前記スライドガラスに入射し、前記開口に重なった前記スライドガラスの部位内で多重全反射を生じさせる。これにより、レーザー光が全反射する部位に対応して、前記スライドガラスの表面にはエバネッセント波が発生し、当該エスライドガラス上の試料をエバネッセント波によって照明することができる。一方、前記装置基板の底面側には前記開口を挟んで入射用反射面と対向する部位に出射用反射面が設けられており、この出射用反射面は前記スライドガラスから前記装置基板に入射したレーザー光を
当該装置基板の上面と平行な方向で且つ前記開口と干渉しない方向へ反射し、レーザー光を装置基板の外へ放射する。
【0012】
このような本発明によれば、前記装置基板に対して入射用反射面を形成すると共に、当該装置基板に対してレーザー光源を保持する光源ホルダを固定したので、前記入射用反射面に対するレーザー光線の入射角度は常に一定したものとなり、また、前記装置基板に対してスライドガラスを設置するので、スライドガラスと前記入射用反射面の関係も一定となる。そして、前記装置基板としては屈折率がスライドガラスのそれと同程度の材質を使用しているので、スライドガラスと装置基板の境界面におけるレーザー光の屈折は殆ど考慮する必要がなく、スライドガラス内におけるレーザー光の全反射は試料が載せられた当該スライドガラスの表面と前記開口に面したスライドガラスの裏面においてのみ発生することになる。これにより、装置基板に対してスライドガラスとレーザー光源を保持した光源ホルダをセットさえすれば、前記スライドガラスに対するレーザー光の入射角度は常に一定のものとなり、当該スライドガラスが装置基板の開口に重なった部位でのみエバネッセント波を安定的に発生させることが可能となる他、面倒な調整作業を必要とせず、簡易にエバネッセント波を発生させることが可能となる。
【0013】
また、エバネッセント波を発生させた後にスライドガラスから装置基板に出射したレーザー光は、当該装置基板に形成された出射用反射面によって当該装置基板の表面と平行な方向で且つ前記開口と干渉しない方向へ反射され、その後に前記装置基板から放射されるので、レーザー光が顕微鏡等のステージの下方に位置する対物レンズやそのレボルバー等の機器に反射して散乱光を発生させることがなく、S/N比の高い良好な観察・計測が可能となる。
【0014】
前記装置基板としては、レーザー光の全反射を誘引する開口を略中央に備えて板状に形成されたものであれば、その外形状はいかなるものであっても差し支えないが、前記入射用反射面及び前記出射用反射面の形成を容易なものにするという観点からすれば、当該装置基板は矩形状に形成されるのが好ましい。前記装置基板を矩形状に形成することで、前記開口を挟んだ一対の隅角部に対して、当該隅角部を斜めに切り欠くようにして前記入射用反射面及び前記出射用反射面を形成することが可能となる。
【0015】
また、本発明の全反射試料照明装置は例えば倒立式顕微鏡のステージや各種計測機器のステージに載せて使用することになるが、その際に当該装置をステージに対して容易に固定可能にするといった観点からすれば、前記装置基板の上面側の周囲にステージに載せる支持板部を設けると共に、前記支持板部の裏面側には前記装置基板を前記ステージの透孔内に位置決めするためのボスを設けるのが好ましい。このように構成すれば、本発明の装置をステージに載せるだけで、例えば顕微鏡の対物レンズを前記装置基板の開口に対して合わせることができ、エバネッセント波を用いた観察を容易に開始することが可能となる。
【0016】
前記装置基板の材質としては、屈折率がスライドガラスと同程度であり、且つ、透明度が高く、自家蛍光を具備していないものがよく、例えば無色透明なアクリル樹脂製の板材(以下、「アクリル板」という)を使用することが可能である。その際、前記入射用反射面及び出射用反射面は装置基板となるアクリル板に対して金属薄膜を直接蒸着しても良いが、金属薄膜が一面に蒸着されたアクリル板(以下、「アクリルミラー板」という)が市販されているので、このアクリルミラー板を無色透明なアクリル板と接着して前記装置基板を形成してもよい。これにより、前記装置基板を安価に製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を適用した全反射試料照明装置の実施形態の一例を示す概略図である。
【
図2】実施形態に係る全反射試料照明装置を示す底面図である。
【
図3】実施形態に係る全反射試料照明装置を示す正面図である。
【
図4】実施形態に係る全反射試料照明装置を示す背面図である。
【
図5】実施形態に係る全反射試料照明装置を示す平面図である。
【
図6】実施形態に係る全反射試料照明装置の光源ホルダを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を適用した全反射試料照明装置の実施形態を説明する。
【0019】
図1は本発明を適用した全反射試料照明装置(以下、「照明装置」という)の概略を示す断面図である。この照明装置1は、例えば倒立式の蛍光顕微鏡のステージSに載せて使用するものであり、スライドガラス2を当該照明装置1の所定の位置にセットすると共に、当該照明装置1に固定したレーザー光源3からレーザー光Lを射出すると、スライドガラス2の表面の所定位置にエバネッセント波Evが発生するようになっている。このため、蛍光色素を含む試料が載ったスライドガラス2を前記照明装置1にセットすると、スライドガラス2の表面に染み出たエバネッセント波Evによって試料中の蛍光色素が励起され、前記試料を顕微鏡ステージSの下方からスライドガラス2を通して対物レンズRで蛍光観察することが可能となっている。
【0020】
前記照明装置1は、顕微鏡ステージSの透孔内に配置されると共に対物レンズRの開口40を略中央に有する装置基板4と、この装置基板4の上面側の周囲に張り出して顕微鏡ステージSに重ねられる支持板部5と、前記装置基板4の上面4aに固定されてレーザー光源3を保持する光源ホルダ6とを備えている。また、前記装置基板4には、レーザー光源3から当該装置基板4に入射したレーザー光Lを前記スライドガラス2に向けて反射する入射用反射面7と、スライドガラス2から装置基板4に入射したレーザー光Lを反射して当該装置基板4から外部に放射する出射用反射面8とが設けられている。
【0021】
前記支持板部5と前記装置基板4は一体に形成されており、前記光源ホルダ6は前記装置基板4の上面にネジで固定される。また、前記支持板部5の下面側における前記装置基板4の周囲には、顕微鏡ステージSの透孔に嵌合するボス9が設けられており、このボス9を透孔に嵌合させるように前記支持板部5を顕微鏡ステージSに載せると、前記装置基板4に設けられた前記開口40が前記顕微鏡ステージSの透孔の中央に位置決めされ、顕微鏡の対物レンズRが前記開口40内に位置するようになっている。
【0022】
前記装置基板4は、前記スライドガラス2と同程度の屈折率を有し、且つ、透明度が高く、しかも使用するレーザー光Lの波長に対して自家蛍光を具備していない材質で形成されていることが必要であり、例えば観察用のスライドガラス2と同じ材質を使用することが可能である。本実施形態では、切削や接着等の加工が容易であり、しかもガラス板に比べて安価に入手可能なアクリル板を使用している。
【0023】
図2乃至
図4は前記照明装置1の形状の詳細を示す底面図、正面図及び背面図であり、前記光源ホルダ6を前記装置基板4から取り外した状態を示している。前記支持板部5は四角形状に形成され、その底面の中央には前記ボス9が略円形状に形成されている。このボス9の形状は顕微鏡ステージSの透孔の形状に合致しており、顕微鏡の製造元によって異なったものとなる。また、前記ボス9の底面には前記装置基板4が略矩形状に突出している。前記開口40は前記ボス9の中央に位置して前記装置基板4の上面と底面との間を貫通しているが、前記装置基板4に対してはその中央よりわずかに偏位した位置に存在している。
【0024】
矩形状に形成された前記装置基板4の底面側には4つの隅角部が存在するが、前記開口40を挟んで対角線上に位置する二つの隅角部には前記入射用反射面7及び前記出射用反射面8が位置している。これら入射用反射面7及び出射用反射面8は装置基板4の底面側の隅角部を所定角度で斜めに切り落とした傾斜面として形成されており、かかる傾斜面に対してアルミニウム等の金属薄膜を蒸着して形成することができる。
【0025】
実際に発明者らが製作した本発明の照明装置1では、製作コストを抑えるため、入射用反射面7及び出射用反射面8に関しては市販のアクリルミラー板を利用し、これを前述のアクリル板と貼り合わせて前記装置基板4に入射用反射面7及び出射用反射面8を具備させた。また、前記支持板部5、ボス9及び装置基板4に関しても厚さの異なるアクリル板を接合することで、所定の形状に成形した。接合面に関しては鏡面研磨を行い、接合の際にアクリル板の表面に微小なクラックや気泡が入らぬよう、接着剤としては紫外線硬化樹脂を使用した。また、略矩形状に形成された前記装置基板4の周囲の面の表面粗さはR
a=0.05以内となるようにした。
【0026】
図2の平面図に示すように、前記入射用反射面7は前記装置基板4の上面から入射したレーザー光Lを前記開口40の中心方向へ向けて反射しており、その先には前記出射用反射面8が存在している。実際には、レーザー光Lは前記入射用反射面7から一直線に前記射出用反射面8に向かうのではなく、
図1に示すように前記スライドガラス2に対して下方から斜めに入射し、全反射を繰り返しながらスライドガラス2内を通過した後、前記出射用反射面8に入射する。前記出射用反射面8は、縦方向に関しては、
図1に示すように、レーザー光Lを前記装置基板4の上面と平行な方向へ反射するが、水平面方向に関しては、前記入射用反射面7の方向へ返すのではなく、
図2に示すように、入射したレーザー光Lと角度αをなす方向に反射する。これにより、レーザー光Lが対物レンズRの開口40と干渉するのを防止している。
【0027】
図5は前記照明装置1の平面図であり、前記光源ホルダ6を取り外した状態を示している。前記装置基板4の上面4aの中央には前記スライドガラス2を位置決めするための凹所20が設けられており、前記開口40はこの凹所20の中央に開口している。前記凹所20内にスライドガラス2を設置する際には、当該スライドガラス2と装置基板4との間に油浸オイル等の屈折率整合液を滴下しても良い。また、前記装置基板の上面4aには前記凹所と隣接してホルダ固定座60が設けられており、当該ホルダ固定座60には前記光源ホルダ6がネジ止めされるようになっている。このホルダ固定座60は前記装置基板4に設けられた入射用反射面7の真上に位置しており、光源ホルダ6によってレーザー光源3を保持すると、かかるレーザー光源3から射出されたレーザー光Lが前記装置基板4の上面に対して垂直に入射し、前記入射用反射面7に対して一定の角度でレーザー光Lが入射するようになっている。
【0028】
尚、実際に製作した本発明の照明装置1は支持板部5となるアクリル板に対して装置基板4となるアクリル板を接合したものなので、前記ホルダ固定座60には支持板部5となるアクリル板の板厚に対応した深さの導入穴65が設けられており、前記レーザー光源3から照射されたレーザー光Lは前記導入穴65を通して装置基板4に入射するようになっている。従って、前記支持板部5と装置基板4を単一のアクリル板から形成する場合は、前記導入穴65は設ける必要がない。
【0029】
図6は前記光源ホルダ6の概略図である。この光源ホルダ6は、前記ホルダ固定座60にネジ止めされるベース部61と、このベース部61から垂直に起立した光源保持部62と、前記ベース部61及び光源保持部62と一体的に設けられた放熱フィン63とを有している。前記放熱フィン63は
図6紙面奥行方向に沿って複数枚が配列されている。前記レーザー光源3は前記光源保持部62に対して固定され、照射したレーザー光Lは前記ベース部61に設けられた貫通孔64を通過して前記装置基板4に入射するようになっている。また、レーザー光Lの照射時に前記レーザー光源3が過熱して、その熱が装置基板4に伝導するのを防止するため、前記光源ホルダ6は熱伝導性の良好な金属、例えばアルミニウムによって形成されており、前記レーザー光源3で発生した熱は前記放熱フィン63によって周辺雰囲気中に放熱される。
【0030】
このように構成された照明装置では、
図1に示すように、前記レーザー光源3から照射されたレーザー光Lは前記入射用反射面7で反射されて前記スライドガラス2に所定角度で入射し、当該スライドガラス2の内部で複数回の全反射を繰り返す。前記装置基板4は屈折率がスライドガラス2のそれと同程度の材質から形成されているので、レーザー光Lはスライドガラス2と装置基板4の界面は殆ど屈折することなく通過し、スライドガラス2の表面で全反射した後、前記開口40に重なったスライドガラス2の裏面側でも全反射する。そして、レーザー光Lはスライドガラス2が前記開口40と重なった部位においては当該スライドガラス2内で全反射を繰り返し、スライドガラス2と装置基板4とが重なった部に到達すると、スライドガラス2と装置基板4の界面を通過して当該装置基板4に入射する。
【0031】
従って、前記装置基板4に固定された光源ホルダ6によってレーザー光源3を所定の姿勢で保持し、当該装置基板4の入射用反射面7に対して所定の角度でレーザー光Lを入射させれば、前記スライドガラス2内で自ずと多重全反射が生じ、全反射が生じたスライドガラス2の表面部位においてエバネッセント波Evが発生することになる。これにより、面倒な調整作業を必要とせず、簡易に且つ安定的にエバネッセント波を発生させることができる。
【0032】
一方、前記スライドガラスから装置基板に入射したレーザー光は前記出射用反射面に入射し、装置基板の上面と平行な方向で且つ前記開口と干渉しない方向へ反射され、その後に前記装置基板の周囲面から放射される。顕微鏡ステージSの下方には顕微鏡に備え付けの機器類、例えば対物レンズやそのレボルバー等が存在しているが、このように装置基板の上面と水平な方向、換言すれば顕微鏡ステージの表面と平行な方向へレーザー光を放射すれば、レーザー光が顕微鏡ステージ下方の機器類に反射して予想困難な散乱光を発生させるのを回避することができる。これにより、S/N比の高い良好な蛍光観察が可能となる。
【0033】
以上説明してきたように、本発明の全反射試料照明装置を顕微鏡のステージに設置すれば、簡易に且つ安定的にエバネッセント波を発生させることができ、当該エバネッセント波を用いた全反射蛍光顕微鏡による対象物の観察が容易なものとなり、バイオ分野、医療分野、環境分野等の幅広い分野で一般的に普及することが期待される。
【0034】
また、簡易に且つ安定的にエバネッセント波を発生させる本発明の全反射試料照明装置は当該エバネッセント波を励起光とする全反射ラマン散乱光を用いた計測においても有効であり、当該計測は極界面且つ非侵襲の計測が可能となることから、バイオ分野、医療分野、環境分野などの幅広い分野での使用が期待される。
【符号の説明】
【0035】
1…照明装置、2…スライドガラス、3…レーザー光源、4…装置基板、5…支持板部、6…光源ホルダ、7…入射用反射面、8…出射用反射面、40…開口