(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063059
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂の硬化剤または可塑剤として有効なスチレン化フェノール
(51)【国際特許分類】
C08G 59/62 20060101AFI20170106BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20170106BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20170106BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
C08G59/62
C08L63/00 C
C09D163/00
C09D7/12
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-549244(P2015-549244)
(86)(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公表番号】特表2016-509615(P2016-509615A)
(43)【公表日】2016年3月31日
(86)【国際出願番号】KR2013010723
(87)【国際公開番号】WO2015076440
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】514210784
【氏名又は名称】錦湖石油化學株式會▲社▼
【氏名又は名称原語表記】KOREA KUMHO PETROCHEMICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094053
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】ロー キー ユーン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジュン ヒー
(72)【発明者】
【氏名】キム ジン オク
【審査官】
岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−506030(JP,A)
【文献】
特開昭57−008221(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/043213(WO,A1)
【文献】
特開2008−088348(JP,A)
【文献】
特開平05−132544(JP,A)
【文献】
特開2003−193024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 63/00−63/10
C09D 7/00−7/14
163/00−163/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノール
およびアミンからなるエポキシ樹脂の硬化剤。
【化1】
(式中、nは1、2、または3である。)
【請求項2】
前記スチレン化フェノールは、n=1のモノスチレン化フェノール(MSP)の含量が50重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂の硬化剤。
【請求項3】
前記スチレン化フェノールは、n=1のモノスチレン化フェノール(MSP)50〜75重量%、n=2のジスチレン化フェノール(DSP)15〜35重量%、及びn=3のトリスチレン化フェノール(TSP)1〜8重量%の含量比を有することを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂の硬化剤。
【請求項4】
下記一般式(2)で表わされるスチレン化フェノール
およびアミンからなるエポキシ樹脂の可塑剤。
【化2】
(式中、nは1、2、または3である。)
【請求項5】
前記スチレン化フェノールは、n=1のモノスチレン化フェノール(MSP)の含量が50重量%以上であることを特徴とする請求項4に記載のエポキシ樹脂の可塑剤。
【請求項6】
前記スチレン化フェノールは、n=1のモノスチレン化フェノール(MSP)50〜75重量%、n=2のジスチレン化フェノール(DSP)15〜35重量%、及びn=3のトリスチレン化フェノール(TSP)1〜8重量%の含量比を有することを特徴とする請求項4に記載のエポキシ樹脂の可塑剤。
【請求項7】
エポキシ樹脂を含む主剤部と、
下記一般式(3)で表わされるスチレン化フェノール
およびアミンからなる硬化剤部と、
からなることを特徴とするエポキシ塗料。
【化3】
(式中、nは1、2、または3である。)
【請求項8】
前記スチレン化フェノールは、n=1のモノスチレン化フェノール(MSP)の含量が50重量%以上であることを特徴とする請求項7に記載のエポキシ塗料。
【請求項9】
前記スチレン化フェノールは、n=1のモノスチレン化フェノール(MSP)50〜75重量%、n=2のジスチレン化フェノール(DSP)15〜35重量%、及びn=3のトリスチレン化フェノール(TSP)1〜8重量%の含量比を有することを特徴とする請求項7に記載のエポキシ塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂の硬化剤または可塑剤として有効なスチレン化フェノールに関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物が、機械的特性、電気的特性、熱的特性、耐薬品性、接着性などの点で優れた性能を有することから、塗料、電気電子用絶縁材料、接着剤などの幅広い用途に利用されている。
また、エポキシ樹脂は、硬さ強度、硬度、耐日光性、加工性などの物性に優れており、硬化時に揮発性物質が発生したり体積が収縮したりする虞がないことから、エポキシ樹脂に適合した硬化剤を配合してコンクリート素地に用いる塗料として使用することもある。コンクリートを保護するために用いられる他のタイプの塗料に比べて、エポキシ硬化型塗料は、収縮性が低く、機械・化学的耐性が高いため、高機能性塗料に好適である。
【0003】
一方、ノニルフェノール(Nonylphenol)は、固有の物理化学的特性によってエポキシ硬化型塗料分野で硬化剤または可塑剤として利用されることを始め、様々な産業分野で広範囲な用途に適用されている。しかし、ノニルフェノールは、腎臓への毒性及び内分泌系ホルモンの攪乱物質として知られており、産業界での使用禁止、または使用範囲がだんだん制限されている。
特に、ヨーロッパでは2003年に既に一部の分野でノニルフェノールの全面的な使用禁止または製品内で0.1%以上を超えないように規制している(非特許文献1)。
また、EU Reachでも同じく規制及び管理されている(非特許文献2)。韓国内でもノニルフェノールの危険性に関する報告があり、使用規制を強化して2010年1月から一部の品目を全面的に禁止している。
【0004】
しかし、ノニルフェノールの代替物質が開発されておらず、業界では多くの困難がある。ノニルフェノールの代替物質として使用するためには、優先的にノニルフェノールと同等またはほぼ同様の物理化学的特性を持つべきである。
【0005】
ここで、本発明者らはスチレン化フェノール(Styrenated phenol)の粘度物性及び硬化物性がノニルフェノールと似ているという点に着目し、エポキシ樹脂の硬化剤または可塑剤として用いられるノニルフェノールの代わりにスチレン化フェノールを適用すること鋭意検討した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】EU Directive2003/53/EC
【非特許文献2】REACH法令集Annex17制限物質
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スチレン化フェノールは、フェノールとスチレンのアルキル化反応により製造される。スチレン化フェノールは、フェノールのベンゼン環に1つのスチレンが結合されたモノスチレン化フェノール(MSP)、2つのスチレンが結合されたジスチレン化フェノール(DSP)、及び3つのスチレンが結合されたトリスチレン化フェノール(TSP)化合物がある。これらスチレン化フェノールは、合成ゴムまたは樹脂の酸化防止剤として主に使用しているが、スチレン化フェノールをエポキシ樹脂の硬化剤または可塑剤として用いることを記載した文献が報告されたことはまだない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スチレン化フェノールをエポキシ樹脂の硬化剤に使用する用途を提供することにその目的がある。
また、本発明は、スチレン化フェノールをエポキシ樹脂の可塑剤に使用する用途を提供することにその目的がある。
また、本発明は、硬化剤または可塑剤としてスチレン化フェノールを含むエポキシ塗料を提供することにその目的がある。
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノール
およびアミンからなるエポキシ樹脂の硬化剤または可塑剤を特徴とする。
【0010】
【化1】
(式中、nは1、2、または3である。)
【0011】
本発明は、エポキシ樹脂を含む主剤部と、前記一般式で表わされるスチレン化フェノール
およびアミンからなる硬化剤部と、からなるエポキシ塗料を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
スチレン化フェノールは、ノニルフェノールとほぼ同様の物理化学的特性を持つと共に、ノニルフェノール固有の適用性による粘度改善及び硬化促進性を保有しているため、ノニルフェノールの代替物質として効果的である。すなわち、スチレン化フェノールはエポキシ樹脂の硬化剤または可塑剤として好ましい。
【0013】
また、エポキシ樹脂を含む主剤部と、前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールを含む硬化剤部と、からなるエポキシ塗料に適用する時、コンクリート素地に対する付着性に優れ、硬化時に塗膜の収縮性が低く、硬化塗膜の機械的化学的耐性に優れているため、厚膜型塗料として好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、スチレン化フェノールの粘度特性及び硬化特性がノニルフェノールのそれと似ていることを確認し、スチレン化フェノールをエポキシ硬化型塗料の製造時に硬化剤または可塑剤に使用することに関する。
【0015】
本発明でのスチレン化フェノールは下記一般式(1)で表わされる。
【0016】
【化2】
(式中、nは1、2、または3である。)
【0017】
本発明では、前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールにおいて、n=1の化合物はモノスチレン化フェノール「MSP」とし、n=2の化合物はジスチレン化フェノール「DSP」とし、n=3の化合物はトリスチレン化フェノール「TSP」とする。
【0018】
前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールにおいて、MSPは、具体的に2−(1−フェニルエチル)フェノール(MSP−1)、4−(1−フェニルエチル)フェノール(MSP−2)を含むことができる。
【0020】
また、前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールにおいて、DSPは、具体的に2,4−ビス(1−フェニルエチル)フェノール(DSP−1)、2,6−ビス(1−フェニルエチル)フェノール(DSP−2)を含むことができる。
【0022】
また、前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールにおいて、TSPは、具体的に2,4,6−トリス(1−フェニルエチル)フェノール(TSP−1)を含むことができる。
【0024】
前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールは、フェノールとスチレンを酸触媒下で100℃〜150℃の温度で加熱する条件でアルキル化反応させて製造される。具体的には、フェノール1モルに対してスチレン1〜1.5モルを反応させると、MSP、DSP、及びTSP化合物がMSP:DSP:TSP=50〜75:15〜35:1〜8重量%の含量比を有する化合物が生成される。
【0025】
MSP、DSP、TSPの重量比は、反応物質として用いられるフェノールとスチレンの反応モル比から定められる。本発明に適合したスチレン化フェノールは、MSPの含量が50重量%以上、好ましくは50〜75重量%となるように調節されることが良い。本発明では比較的に高MSP含量を有するスチレン化フェノールを使用するが、その理由はMSPの含量が高いほど粘度が低くなってエポキシ樹脂との混用時に可塑性を付与して作業性が良くなり、ヒドロキシル価(OH Value)が既存のノニルフェノール(240〜250)とほぼ同様になって硬化反応を促進するからである。
下記表1にはKumanox−3110製品として商用化されているスチレン化フェノールと、使用規制物質として分類されたノニルフェノールの物性を比較して示す。
【0027】
前記表1に示すように、スチレン化フェノールは無毒性の物質であって、環境に優しく、重量平均分子量、ヒドロキシル価(OH価)、粘度、色価、水分含量がノニルフェノールとほぼ同様であることが分かる。特に、スチレン化フェノールの粘度は、ノニルフェノールの粘度よりも低いため、エポキシ樹脂との混用時に可塑性がさらに向上して作業性に優れるという特長がある。
【0028】
したがって、前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールは、ノニルフェノールの代替物質として効果的であり、無毒性物質であるため環境に優しい。
【0029】
一方、本発明は、前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールを、エポキシ樹脂を主剤として含むエポキシ塗料用硬化剤として使用することをその特徴とする。
【0030】
前記エポキシ塗料は、具体的にエポキシ主剤部と硬化剤部で区分することができる。エポキシ塗料を構成する主剤部には、エポキシ樹脂、非反応性希釈剤、可塑剤などが含まれており、硬化剤部には硬化促進剤、可塑剤などが含まれている。エポキシ塗料の組成成分及び成分比については現在まで多角的な研究が推進されており、本発明ではこれら組成成分及び成分比について特に制限することはない。
本発明では、エポキシ塗料において、硬化剤部を構成する硬化剤または可塑剤として前記一般式(1)で表わされるスチレン化フェノールを適用することを特徴とする。スチレン化フェノールを含む硬化剤部は、具体的に硬化剤または可塑剤としてスチレン化フェノール1〜40重量%と通常のエポキシ硬化剤60〜99重量%を含むことができる。
本発明の実施例では、通常のエポキシ硬化剤としてポリエーテルジアミン系硬化剤を用いた例を具体的に示しているが、本発明は、通常のエポキシ硬化剤成分の選択を特に制限することはない。
【0031】
このようなスチレン化フェノールを含む硬化剤部は、2液型エポキシ塗料として使用することにより塗料の粘度が低くなって作業が容易であり、硬化時間を短縮させて作業性を改善し、塗装表面の硬度が増加して耐久性を向上させるという効果がある。
【0032】
エポキシ主剤部100重量部に対して硬化剤部は通常的に1〜40重量部の範囲で配合して硬化塗膜を形成する。
【0033】
上述した本発明は、下記の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例によって限定されることはない。
【0034】
また、下記の実施例で測定された物性は下記の方法で測定した。
[物性測定方法]
1)粘度
粘度は、25℃で回転粘度計測定装置(Brookfield HAT ViscometerまたはBrookfield LV DVE 230 Viscometer)を用いて測定した。
2)色
色は、カラー測定装置(NIPPON DENSHOKU OME 2000)を用いて測定した。
3)アミン価
アミン価は0.1N−HCl滴定法を用いて測定した。
4)硬化時間
硬化時間は100gスケールで25℃(50℃(0.1)水銀温度計)を基点として室温で測定した。
5)ショア硬度
硬度は硬度測定装置(e−Asker Durometer Super EX Type−D)を用いて測定した。最終硬度は80℃で2時間加熱硬化させた試料の硬度を意味し、室温で室温硬化させた試料の硬度変化を毎日測定した。
【0035】
[実施例]
実施例1.スチレン化フェノールの製造
フェノール(300g)、リン酸(H
3PO
4)触媒(1.876g、0.006eq)を入れて140℃まで加熱してスチレン(381.6g、1.15eq)を120分間徐々に滴加した。スチレンの滴加によって反応温度は140℃から170℃まで上昇した。スチレンの滴加が完了すると、同一反応温度で1時間をさらに反応させた。未反応物を除去するために反応温度を110℃に下げて反応物に硫酸(H
2SO
4)触媒(0.02g、リン酸触媒に対して1〜3重量%)を添加し、硫酸が添加されることによって反応温度が125℃まで上昇し、その状態で30分間さらに反応させた。反応物の温度を80℃にし、ここに炭酸ナトリウム水溶液を上述した硫酸と同様の当量比にして添加して30分間中和した。生成された中和塩は、減圧濃縮によって水分を除去し、濾過除去することによってスチレン化フェノール(反応転換率97%、純度97%以上)を得た。
得られたスチレン化フェノールをGC分析した結果、MSP67重量%、DSP27重量%、TSP6重量%の比率を有することを確認した。
【0036】
実験例2.エポキシ塗料用硬化剤部の製造
2−1)スチレン化フェノールを含む硬化剤部(A)
ポリエーテル素材の500mL容量の容器にD−230(Jeffamine、クッド化学製、ポリエーテルジアミン類)198gと前記製造例で製造されたスチレン化フェノール102gを投入し、マグネチック攪拌器を用いて攪拌した。発熱現象が終了すると、70℃まで昇温して30分間さらに攪拌し、100メッシュ分子ふるいを用いて硬化剤部(A)300gを得た。
2−2)ノニルフェノールを含む硬化剤部(B)
ポリエーテル素材の500mL容量の容器にD−230(Jeffamine、クッド化学製、ポリエーテルジアミン類)198gと前記製造例で製造されたノニルフェノール102gを投入し、マグネチック攪拌器を用いて攪拌した。発熱現象が終了すると、70℃まで昇温して30分間さらに攪拌し、100メッシュ分子ふるいを用いて硬化剤部(B)300gを得た。
前記実施例2で製造した硬化剤部(A)、(B)のそれぞれの粘度及びアミン価を測定して下記表2に示す。
【0038】
実験例.エポキシ塗料の物性比較
KER−828(クムホP&B化学製、エポキシ樹脂)90重量%とベンジルアルコール10重量%を含むエポキシ主剤部100重量部に、前記2−1)または2−2)で製造したそれぞれの硬化剤部40重量部を混合して硬化した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
上述した通り、スチレン化フェノールは、粘度及びアミン価などの物性がノニルフェノールと同等またはほぼ同様の物理化学的性質を持っており、エポキシ塗料の硬化剤部に含む場合は、ノニルフェノールを含む硬化剤部に比べて、スチレン化フェノールを含む硬化剤部は硬化時間が短く、硬化塗膜の硬度が高く、物性に優れるため、作業性及び耐久性の改善効果が得られる。
したがって、スチレン化フェノールは、エポキシ樹脂の硬化剤または可塑剤として効果的である。