特許第6063068号(P6063068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063068
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20170106BHJP
   B23H 7/16 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B23H7/02 S
   B23H7/16
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-1244(P2016-1244)
(22)【出願日】2016年1月6日
(65)【公開番号】特開2016-196078(P2016-196078A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-75849(P2015-75849)
(32)【優先日】2015年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古田 友之
(72)【発明者】
【氏名】依田 慎司
(72)【発明者】
【氏名】川原 章義
(72)【発明者】
【氏名】中島 廉夫
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/032114(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/089175(WO,A1)
【文献】 特開平07−156019(JP,A)
【文献】 特開2002−036030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/00−7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と被加工物間である極間に対し、電圧を印加して放電を誘起させる補助放電回路、及び加工電流を通電する主放電回路とを備え、前記補助放電回路が動作した後に、前記主放電回路を動作させて停止させる周期を繰り返すことにより、前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、
前記補助放電回路から極間に対し加工電圧が印加された状態で、且つ、放電していない状態の継続時間である放電遅れ時間を測定する放電遅れ時間測定手段を備え、
前記補助放電回路が極間へ加工電圧を印加開始してから、予め定められた短絡判定期間が経過した後、前記放電遅れ時間測定手段の測定結果がゼロであった場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流を供給し、
前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値未満の場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、前記短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給し、
前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値以上の場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給し、
更に、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値未満の場合に極間に印加する加工電流は、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値以上の場合に極間に印加する加工電流よりも小さい、
ことを特徴とするワイヤ放電加工機。
【請求項2】
前記放電遅れ時間測定手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が閾値以上の状態の継続時間であることを特徴とする、請求項1に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項3】
前記放電遅れ時間測定手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が第1閾値を超えてから第2閾値を下回るまでの継続時間であることを特徴とする、請求項1に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項4】
前記放電が発生したことを検出する手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が閾値を超えてその後下回ったことで放電検出することを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項5】
前記放電が発生したことを検出する手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が第1閾値を超えてその後第2閾値を下回ったことで放電検出することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項6】
前記放電が発生したことを検出する手段は、前記放電遅れ時間測定手段から出力される放電遅れ時間がゼロより大きく、且つ、所定の時間の間変化しない、又は所定の時間の間の変化量が許容値以下である場合に放電検出することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項7】
電極と被加工物間である極間に対し、電圧を印加して放電を誘起させる補助放電回路、及び加工電流を通電する主放電回路とを備え、前記補助放電回路が動作した後に、上記主放電回路を動作させて停止させる周期を繰り返すことにより、上記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、
前記補助放電回路が極間へ加工電圧を印加開始した後、予め定められた極間状態判定期間中の極間状態に応じて、開放信号・放電信号・短絡信号のいずれかを出力する極間状態判定手段を備え、
前記極間状態判定手段から短絡信号が出力された場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流を供給し、前記極間状態判定手段から放電信号が出力された場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、前記短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給し、前記極間状態判定手段から開放信号が出力された場合、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、前記極間状態判定期間の後に放電が発生した場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給し、
更に、前記極間状態判定手段から放電信号が出力された場合に極間に印加する加工電流は、前記極間状態判定手段から開放信号が出力された場合において前記極間状態判定期間後に放電が発生した時に極間に印加する加工電流よりも小さい、
ことを特徴とするワイヤ放電加工機。
【請求項8】
前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間において極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、波形が常に閾値未満であった場合を短絡とし、波形が閾値を超えてその後下回った場合を放電とし、波形が閾値を超えてその後閾値を下回らない場合を開放とすることを特徴とする、請求項7に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項9】
前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間において極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値と第2閾値を比較し、波形が常に第1閾値又は第2閾値未満であった場合を短絡とし、波形が第1閾値を超えてその後第2閾値を下回った場合を放電とし、波形が第1閾値を超えてその後第1閾値又は第2閾値を下回らない場合を開放とすることを特徴とする、請求項7に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項10】
前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間中にはいずれの極間状態判別信号も出力しないようにし、極間状態判定期間の終了時点において、極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、波形が閾値未満であった場合を短絡とし、波形が閾値以上の場合を開放とし、開放の場合には、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、波形が閾値を下回った場合を放電と判定し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給することを特徴とする、請求項7に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項11】
前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間中にはいずれの極間状態判別信号も出力しないようにし、極間状態判定期間の終了時点において、極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値と第2閾値を比較し、波形が第1閾値又は第2閾値未満であった場合を短絡とし、波形が第1閾値以上の場合を開放とし、開放の場合には、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、波形が第2閾値を下回った場合を放電と判定し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給することを特徴とする、請求項7に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項12】
前記放電遅れ時間を判定する基準値、又は前記極間状態判定期間、又は加工電圧波形の絶対値を比較する各閾値は、ワイヤ電極の材質、ワイヤ径、被加工物の材質、被加工物の板厚、各加工条件設定値のうち、いずれか1つ、又は2つ以上の組み合わせに応じて予め定めたことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機の放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機で放電加工を行うと、加工面の形状は、概略ワイヤの形状を転写した形状になる。ワイヤは、基本的に上下ガイド間の距離が大きくなるほど、中央部のたわみ量が増加する傾向があるため、板厚が厚くなるほど、加工面の真直精度が悪化する傾向がある。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1〜特許文献8には、コイル等のインダクタを用いて、上下の通電子を流れる加工電流を測定して、その比率から放電位置を算出し、放電集中による断線を防止すると共に、放電集中による形状精度の悪化を防止する手法が記載されている。また、特許文献9には、分圧抵抗を用いて、やはり上下の通電子を流れる加工電流を測定し、その比率から放電位置を算出し、放電集中による断線を防止すると共に、放電集中による形状精度の悪化を防止する手法が記載されている。
【0004】
また、ワーク板厚が厚くなると、特にワイヤ中央部のたわみ量が大きくなり、中央部付近でワイヤとワーク間(=極間)の間隙量が狭くなる。従来技術では、加工電圧が一瞬でも高くなれば、極間の状態は良好と判断し、放電遅れ時間に関わらず、全ての放電において大きな加工電流を流していた。この結果、放電遅れ時間が短い放電が多く発生するワーク中央部において加工量過多となり、板厚が厚くなるほど真直精度が悪化する傾向にあった。
【0005】
そこで、極間と相関がある放電遅れ時間を利用して、放電遅れ時間が所定の値よりも短い場合に、加工電流を正常値より小さくする、又は加工電流を印加しないようにすることで、厚板中央部での加工量が低減されるため、ワークの真直精度が向上することが本発明における実験より明らかになった。
【0006】
これに関連し、発明の目的は本発明と異なりワイヤ断線防止を目的としているものの、本発明と同様に放電遅れ時間を用いた先行例として、以下のようなものがある。特許文献10には、極間が狭い場合の断線を防止するため、放電遅れ時間が所定値より小さい場合、正常電流より小さい電流を供給することが記載されている。
【0007】
特許文献11には、加工状態が悪化して即放電等が発生した場合にワイヤの断線を防止するため、測定した放電遅れ時間が所定値より小さい場合異常と判断し、主放電回路による加工電流の印加を一時停止させることが記載されている。
【0008】
特許文献12には、ワイヤの断線を防止するため、放電遅れ時間が所定値より小さい場合、加工電流の印加時間を短くしたり、印加を中止したり、休止時間を挿入することが記載されている。
【0009】
特許文献13および特許文献14には、極間の状態に応じて加工電流を印加することで断線を防止するため、放電遅れ時間が長いほど印加時間を長く、放電遅れ時間が短いほど印加時間を短くすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−152616号公報
【特許文献2】特開平1−121127号公報
【特許文献3】特開平7−171716号公報
【特許文献4】特開平7−60548号公報
【特許文献5】特開2004−50298号公報
【特許文献6】WO93/01017号
【特許文献7】WO2007/032114号
【特許文献8】WO2008/050404号
【特許文献9】特開昭60−29230号公報
【特許文献10】特開昭58−211826号公報
【特許文献11】特開平10−315052号公報
【特許文献12】特許第5510616号公報
【特許文献13】特開平5−177436号公報
【特許文献14】特開平5−69230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜特許文献9では、コイルや分圧抵抗を用いて放電位置を検出するとで、放電集中による断線を防止すると共に、放電集中による形状精度の悪化を防止する手法が記載されている。これらの手法では、コイルや分圧抵抗等から構成される検出回路や、検出回路から出力されるアナログ信号を処理するアナログ回路が必要となるため、構成が複雑で高価になったり、検出回路やアナログ回路の誤差を補正するための補正手法が必要となるといった問題があった。
【0012】
また、特許文献10〜特許文献14に記載の手法を応用し、厚板加工の真直精度向上のために適切な調整行った場合、本来目的としているワイヤの断線防止とは別に、厚板加工での真直精度もある程度改善されると思われる。
【0013】
しかしながら、放電遅れ時間がゼロ、すなわち短絡状態の場合、必ずしも加工電流を小さくすれば良い訳ではない。つまり、極間に浮遊する加工屑が原因で極間が短絡し、加工電圧が上昇しない状況では、放電遅れ時間はゼロになる。このような状況の場合、極間の加工屑を除去するため、積極的に加工電流を流す必要がある。逆に、加工電流を流さない、又は加工電流を小さくしてしまうと、極間の加工屑が除去できなくなり、ワイヤとワークが接触し、完全な短絡状態に陥ってしまう。この結果、ワイヤとワークの相対位置を移動させて、極間距離を広げて短絡状態を解除する必要があり、短絡を解除するための時間が掛かるため、加工時間が長くなったり、最悪の場合、短絡状態で加工電流を流さなかったり、小さい加工電流しか流さないため、短絡状態から復帰できず、加工停止に陥ってしまう。
【0014】
そこで本発明の目的は、板厚の厚いワークにおいて真直精度を向上すると共に、加工屑による短絡を解除する機能を有し、加工効率を改善させることで加工速度も向上するワイヤ放電加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の態様1は、電極と被加工物(=ワーク)間である極間に対し、電圧を印加して放電を誘起させる補助放電回路、及び加工電流を通電する主放電回路とを備え、前記補助放電回路が動作した後に、前記主放電回路を動作させて停止させる周期を繰り返すことにより、前記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、前記補助放電回路から極間に対し加工電圧が印加された状態で、且つ、放電していない状態の継続時間である放電遅れ時間を測定する放電遅れ時間測定手段を備え、前記補助放電回路が極間へ加工電圧を印加開始してから、予め定められた短絡判定期間が経過した後、前記放電遅れ時間測定手段の測定結果がゼロであった場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流を供給し、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値未満の場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、前記短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給し、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値以上の場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給し、更に、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値未満の場合に極間に印加する加工電流は、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、前記放電遅れ時間が基準値以上の場合に極間に印加する加工電流よりも小さい、ことを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0016】
発明の態様2は、発明の態様1において、前記放電遅れ時間測定手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が閾値以上の状態の継続時間であることを特徴とする。発明の態様3は、発明の態様1において、前記放電遅れ時間測定手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が第1閾値を超えてから第2閾値を下回るまでの継続時間であることを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0017】
発明の態様4は、発明の態様1または2において、前記放電が発生したことを検出する手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が閾値を超えてその後下回ったことで放電検出することを特徴とする。発明の態様5は、発明の態様1〜3のいずれか一つにおいて、前記放電が発生したことを検出する手段は、極間の加工電圧波形の絶対値が第1閾値を超えてその後第2閾値を下回ったことで放電検出することを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0018】
発明の態様6は、発明の態様1〜3のいずれか一つにおいて、前記放電が発生したことを検出する手段は、前記放電遅れ時間測定手段から出力される放電遅れ時間がゼロより大きく、且つ、所定の時間の間変化しない、又は所定の時間の間の変化量が許容値以下である場合に放電検出することを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0019】
発明の態様7は、電極と被加工物間である極間に対し、電圧を印加して放電を誘起させる補助放電回路、及び加工電流を通電する主放電回路とを備え、前記補助放電回路が動作した後に、上記主放電回路を動作させて停止させる周期を繰り返すことにより、上記被加工物を加工するワイヤ放電加工機において、前記補助放電回路が極間へ加工電圧を印加開始した後、予め定められた極間状態判定期間中の極間状態に応じて、開放信号・放電信号・短絡信号のいずれかを出力する極間状態判定手段を備え、前記極間状態判定手段から短絡信号が出力された場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流を供給し、前記極間状態判定手段から放電信号が出力された場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、前記短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給し、前記極間状態判定手段から開放信号が出力された場合、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、前記極間状態判定期間の後に放電が発生した場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給し、更に、前記極間状態判定手段から放電信号が出力された場合に極間に印加する加工電流は、前記極間状態判定手段から開放信号が出力された場合において前記極間状態判定期間後に放電が発生した時に極間に印加する加工電流よりも小さい、ことを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0020】
発明の態様8は、発明の態様6において、前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間において極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、波形が常に閾値未満であった場合を短絡とし、波形が閾値を超えてその後下回った場合を放電とし、波形が閾値を超えてその後閾値を下回らない場合を開放とすることを特徴とするワイヤ放電加工機である。
発明の態様9は、発明の態様6において、前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間において極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値と第2閾値を比較し、波形が常に第1閾値又は第2閾値未満であった場合を短絡とし、波形が第1閾値を超えてその後第2閾値を下回った場合を放電とし、波形が第1閾値を超えてその後第1閾値又は第2閾値を下回らない場合を開放とすることを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【0021】
発明の態様10は、発明の態様7のいずれか1つにおいて、前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間中にはいずれの極間状態判別信号も出力しないようにし、極間状態判定期間の終了時点において、極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、波形が閾値未満であった場合を短絡とし、波形が閾値以上の場合を開放とし、開放の場合には、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、波形が閾値を下回った場合を放電と判定し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給することを特徴とするワイヤ放電加工機である。
発明の態様11は、発明の態様7において、前記極間状態判定手段の極間状態判定方法は、極間状態判定期間中にはいずれの極間状態判別信号も出力しないようにし、極間状態判定期間の終了時点において、極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値と第2閾値を比較し、波形が第1閾値又は第2閾値未満であった場合を短絡とし、波形が第1閾値以上の場合を開放とし、開放の場合には、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、波形が第2閾値を下回った場合を放電と判定し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給することを特徴とするワイヤ放電加工機である。
発明の態様12は、発明の態様1〜11において、前記放電遅れ時間を判定する基準値、又は前記極間状態判定期間、又は加工電圧波形の絶対値を比較する各閾値は、ワイヤ電極の材質、ワイヤ径、被加工物の材質、被加工物の板厚、各加工条件設定値のうち、いずれか1つ、又は2つ以上の組み合わせに応じて予め定めたことを特徴とするワイヤ放電加工機である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、板厚の厚いワークにおいて真直精度を向上すると共に、加工屑による短絡を解除する機能を有し、加工効率を改善させることで加工速度も向上するワイヤ放電加工機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ワイヤ放電加工機を説明する図である。
図2】(a)極間が加工屑で短絡している状態、(b)放電遅れ時間が短い状態、(c)放電遅れ時間が長い状態を示す図である。
図3】(a)板厚60mmの場合の放電遅れ時間と放電回数の分布、(b)板厚150mmの場合の放電遅れ時間と放電回数の分布を示す図である。
図4】(a)閾値が1個の場合の放電遅れ時間の概念図、(b)閾値が2個の場合の放電遅れ時間の概念図である。
図5】閾値が1個の場合の極間状態判別の概念図である。
図6】閾値が2個の場合の極間状態判別の概念図である。
図7】極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、極間状態を判定する概念図である。
図8】極間の加工電圧波形の絶対値と2個の閾値を比較し、極間状態を判定する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。図1は、本発明に係るワイヤ放電加工機を説明するブロック図である。本発明では、放電遅れ時間を用いて、極間の状態を短絡状態と、極間間隙量が小さい場合と、極間間隙量が大きい場合に分類し、それに応じて主放電回路(主電源10,スイッチング素子8を含む回路)から供給する加工電流の大きさを決定する。
【0025】
補助放電回路(補助電源9,スイッチング素子7を含む回路)が極間へ加工電圧を印加開始してから所定の時間が経過した後、放電遅れ時間がゼロであった場合(つまり、放電が無かった状態)、極間が加工屑により短絡状態にあると判断し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流を供給し、加工屑を除去することで完全な短絡状態に陥ることを防止しつつ、加工効率を高めて加工速度を向上させる。
【0026】
更に、放電が発生し、且つ、放電遅れ時間が基準値未満の場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、短絡時加工電流よりも小さい加工電流を供給するようにして、厚板加工時のワイヤ中央部の形状精度を改善する。一方、放電が発生し、且つ、放電遅れ時間が基準値以上の場合、極間は正常状態であると判断し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給する。
【0027】
ワーク1は図示しないテーブルに取り付けられ、該テーブルを直交するX,Y軸方向に駆動するサーボモータ2,3によってXY平面上を移動可能とされている。又、該XY平面に直交する方向にワイヤ電極4が張設され、かつ該方向に走行するように構成されている。
【0028】
ワイヤ電極4とワーク1間に電圧を印加する補助電源9と主電源10が設けられている。補助電源9は、ワイヤ電極4とワーク1の間に放電を誘起させるための電源である。主電源10は、放電が誘起された後、加工電流(放電電流)を投入する電源である。補助電源9,主電源10は、一方の端子をワーク1に接続され、他方の端子にはスイッチング素子(トランジスタ)7,8を介して通電子5,6によってワイヤ電極4に接続されている。
【0029】
スイッチング素子7,8は、電圧印加制御回路11によってオン/オフ制御される。まず、スイッチング素子7をオンとし、補助電源9よりワイヤ電極4とワーク1との間に放電誘起用の電圧を印加する。図示しない放電検出回路で放電が検出されると、スイッチング素子8をオンとし、主電源10より加工電流をワイヤ電極4とワーク1間に投入し、スイッチング素子7をオフとして、補助電源の電力供給をオフする。なお、放電検出回路が放電を検出する方法を後述して説明する。
【0030】
放電遅れ時間測定回路12は、電圧印加制御回路11とスイッチング素子7と補助電源9により、補助電源9がワイヤ電極4とワーク1間に接続され、補助放電回路から極間に対し加工電圧を印加した状態で、かつ、放電していない状態の継続時間である放電遅れ時間を測定する回路である。
【0031】
数値制御装置13は、放電遅れ時間測定回路12から出力される放電遅れ時間、もしくは図示しないワイヤ電極とワーク間の極間平均電圧測定回路から出力される極間平均電圧値、もしくは図示しないワイヤ電極とワーク間の極間電圧波形から極間状態を開放・放電・短絡に判定する極間状態判定回路から出力される短絡・放電・開放信号に基づいて、サーボモータ2,3の移動指令をサーボ制御装置14に出力する。
【0032】
サーボ制御装置14は、数値制御装置13から出力されたサーボモータ2,3の移動指令に基づいて、サーボモータ2,3を駆動してワイヤ電極4とワーク1の相対移動を制御するサーボ送り制御を行う。
【0033】
上述のワイヤ放電加工機の構成は従来公知である。以下、本発明の各態様を説明する。発明の態様1は、補助放電回路(補助電源9,スイッチング素子7からなる回路)が極間(ワイヤ電極4とワーク1とで形成される間隙)へ加工電圧を印加開始してから、予め定められた短絡判定期間が経過した後、放電遅れ時間測定回路12の測定結果がゼロであった場合、極間に対して主放電回路(主電源10,スイッチング素子8からなる回路)から短絡時加工電流を供給し、一方、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、放電遅れ時間が基準値未満の場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給し、更に、前記短絡判定期間に関わらず、放電が発生し、且つ、放電遅れ時間が基準値以上の場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給するようにしたものである。
【0034】
なお、放電遅れ時間測定手段(放電遅れ時間測定回路12)に替えて、極間状態判定回路を用いて、極間状態判定回路から出力される短絡・放電・開放信号により、主放電回路により供給される加工電流の大きさを変えてもよい。
【0035】
図2(a),(b),(c)は、放電遅れ時間がゼロの場合、又は放電が発生して放電遅れ時間を基準値で判別した場合に、極間に印加する加工電流の大きさを模式的に表したものである。
【0036】
図2(a)は、極間に加工屑が多数存在し、極間が短絡状態に陥っている場合である。このような場合、先行技術のように、加工電流を印加しないのではなく、積極的に加工電流を印加することで、極間の加工屑を放電により飛散させ、極間状態を良好な状態に回復させることができる。図2(b)は、厚板ワークの中央部のように極間が狭い箇所で放電し、放電遅れ時間が短く、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない例である。先述のとおり本発明では、このような場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給するようにして、厚板加工時のワイヤ中央部の形状精度を改善することができる。図2(c)は、厚板ワークの上下エッジ付近のように、極間が広い箇所で放電し、放電遅れ時間が長い例である。
【0037】
図3(a)は板厚60mm、図3(b)は板厚150mmのワーク1を加工した場合の、平均放電遅れ時間と放電回数の分布を実験より求めたものである。ワイヤ電極4は上ワイヤガイド15と下ワイヤガイド16とで張架されている。実験では、直径0.2mmの真鍮ワイヤで、鉄系ワークの加工を行った。ワーク中央部では、極間が狭いため、平均放電遅れ時間が短くなり、放電回数の割合は増える傾向となった。逆にワーク両端部では、平均放電遅れ時間は長くなり、放電回数の割合は減少する傾向となった。平均放電遅れ時間の分布に第2基準値を引くと、板厚60mmではワーク中央部でも平均放電遅れ時間はほとんど基準値以上であるが、板厚150mmの場合、中央部の広い範囲で平均放電遅れ時間が基準値以下となっていることが分かる。
【0038】
このため、従来技術のように、加工電圧が一瞬でも高くなったら、放電遅れ時間に関わらず加工電流を印加した場合、ワーク中央部で加工量過多となり、加工後の真直精度が悪化していた。
【0039】
これに対し、本発明のように、放電遅れ時間が基準値以下の場合に、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、前記短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給することで、真直精度を大幅に改善すると共に、ワーク中央部での加工電流の供給が減少するので、加工速度を向上させることができる。
【0040】
実際に、直径0.2mmの真鍮ワイヤで、板厚150mmの鉄系ワークを加工した。短絡判定期間を2μs、放電遅れ時間の基準値を5μsとし、短絡時のピーク加工電流を約200A、放電遅れ時間が基準値未満の場合には加工電流を印加しないようにし、放電遅れ時間が基準値以上の場合のピーク加工電流を約500Aとして加工したところ、真直精度が30μmから10μmに改善し、加工速度も約10%向上する結果が得られた。これにより、本発明の効果が確かめられた。
【0041】
なお、極間の短絡状態が続く場合には、極間が加工屑で短絡しているのではなく、ワイヤ電極4とワーク1が接触している場合がある。この状態で短絡時加工電流を流し続けると、ワイヤ電極4が断線する可能性が高いため、予め定められて回数以上連続して短絡した場合には、短絡時加工電流の印加を止めたり、所定期間の間、電圧印加を止めるようにしても良い。また、極間の平均電圧を測定し、平均電圧値が所定値以下になったら、ワイヤ電極4とワーク1が接触していると判断し、短絡時加工電流の印加を止めるようにしても良い。
【0042】
次に、発明の態様2及び発明の態様3について述べる。発明の態様2は、放電遅れ時間の測定を、極間の加工電圧波形の絶対値が閾値以上の状態の継続時間としたものであり、発明の態様3は、放電遅れ時間の測定を、極間の加工電圧波形の絶対値が第1閾値を超えてから第2閾値を下回るまでの継続時間としたものである。
【0043】
図4(a)は、放電遅れ時間を測定する閾値が1個の場合(発明の態様2)の概念図である。通常、ワークの電食防止のため、極間に印加する加工電圧はAC(両極性)であるため、全波整流回路などを用いて加工電圧波形の絶対値を求め、これを閾値と比較し、加工電圧波形の絶対値が閾値より高い時間を測定することで、放電遅れ時間を求めることができる。
【0044】
図4(b)は、放電遅れ時間を測定する閾値が2個の場合(発明の態様3)の概念図である。2つの閾値に対して、第1閾値を高く、第2閾値を低く設定しヒステリシスを設けることで、アナログ回路の誤差やノイズの影響を受けることなく、放電遅れ時間の測定をすることができる。例えば、第1閾値は補助放電回路に接続する直流電源電圧の80%程度、第2閾値はアーク電圧(約20V)より高い30V程度に設定することで、適切な検出を行うことができる。なお、第1閾値と第2閾値は同じ値としても良い。
【0045】
次に、発明の態様4および5について述べる。発明の態様4は、放電したこと検出する方法として、極間の加工電圧波形の絶対値が閾値を超えてその後下回ったことで検出するようにしたものであり、発明の態様5は、放電したこと検出する方法として、極間の加工電圧波形の絶対値が第1閾値を超えてその後第2閾値を下回ったことで検出するようにしたものである。
【0046】
図5(a)〜図5(c)に、極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、極間状態を判定する概念図を示す。このうち、図5(b)が放電を検出する例である。図6(a)〜図6(c)に、極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値、第2閾値を比較し、極間状態を判定する概念図を示す。このうち、図6(b)が放電を検出する例である。
【0047】
次に、発明の態様6について述べる。発明の態様6は、放電したこと検出する方法として、放電遅れ時間測定手段から出力される放電遅れ時間がゼロより大きく、且つ、所定の時間の間変化しない、又は所定の時間の間の変化量が許容値以下である場合に放電を検出するようにしたものである。
【0048】
加工電圧が正常に印加されれば、放電遅れ時間はゼロより大きくなり続ける。その後、放電が発生すると、放電遅れ時間の増加は止まる。一方、放電が発生しない場合には、加工電圧を印加し続けている間、放電遅れ時間は増加し続ける。このことを利用し放電の発生を検出する。放電遅れ時間の測定回路に高速なクロックを用いることで、瞬時に放電を検出できる。例えば、100MHzのクロックを用いて、2クロック間変化が無い場合を放電とみなすのであれば、20nsで検出可能である。なお、補助電源回路から極間に加工電圧を供給し始めてから所定時間経過した時点で、放電遅れ時間が所定の閾値以下であることで放電を検出するようにしても良い。
【0049】
次に、発明の態様7について述べる。補助放電回路が極間へ加工電圧を印加開始した後、予め定められた極間状態判定期間中の極間状態に応じて、開放信号・放電信号・短絡信号のいずれかを出力する極間状態判定手段を備え、極間状態判定手段から短絡信号が出力された場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流を供給し、極間状態判定手段から放電信号が出力された場合、極間に対して主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは、前記短絡時加工電流よりも小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給し、極間状態判定手段から開放信号が出力された場合、補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、前記極間状態判定期間の後に放電が発生した場合、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給するようにしたものである。
【0050】
発明の態様7と発明の態様1との違いを説明する。発明の態様1は放電遅れ時間測定手段の測定結果を用いて、極間短絡状態・極間間隙量が狭い状態・極間間隙量が広い状態の区別をし、主放電回路から極間に供給される加工電流の大きさを変えている。これに対して、発明の態様7では、放電遅れ時間測定手段の代わりに極間状態判定手段を用いて、極間状態判定手段から出力される短絡・放電・開放信号により、主放電回路により供給される加工電流の大きさを変えている点である。
【0051】
極間状態判定期間が経過する前に発生した放電は、極間の間隙量が狭い放電とみなし、発明の態様1の方法と同様に、主放電回路から加工電流を供給しない、もしくは短絡時加工電流より小さい、もしくは、前記短絡時加工電流と同じ加工電流を供給する。このように、発明の態様1の「短絡判定期間」と「放電遅れ時間の基準値」という2つの時間要素を、「極間状態判定期間」1つに纏めることで、より簡便に構成し使用することができる。また、一般的なワイヤ放電加工機は、発明の態様3の極間状態判定手段を備えている場合が多いので、放電遅れ時間測定手段を備えていないワイヤ放電加工機でも容易に導入することができる。
【0052】
次に、発明の態様8について述べる。極間状態判定手段の極間状態判定方法として、極間状態判定期間において極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、波形が常に閾値未満であった場合を短絡とし、波形が閾値を超えてその後下回った場合を放電とし、波形が閾値を超えてその後閾値を下回らない場合を開放とするようにしたものである。図5(a)〜図5(c)に、極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、極間状態を判定する概念図を示す。
【0053】
次に、発明の態様9について述べる。極間状態判定手段の極間状態判定方法として、極間状態判定期間において、極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値と第2閾値を比較し、波形が常に第1閾値又は第2閾値未満であった場合を短絡とし、波形が第1閾値を超えてその後第2閾値を下回った場合を放電とし、波形が第1閾値を超えてその後第1閾値又は第2閾値を下回らない場合を開放とするようにしたものである。第1閾値を第2閾値より高く設定しヒステリシスを設けることで、アナログ回路の誤差やノイズの影響を受けることなく、極間の間隙量が充分広く、且つ、正常に放電した状態を検出することができる。例えば、第1閾値は補助放電回路に接続する直流電源電圧の80%程度、第2閾値はアーク電圧(約20V)より高い30V程度に設定することで、適切な検出を行うことができる。なお、第1閾値と第2閾値は同じ値としても良い。図6(a)〜図6(c)に、極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値、第2閾値を比較し、極間状態を判定する概念図を示す。
【0054】
次に、発明の態様10について述べる。極間状態判定手段の極間状態判定方法として、極間状態判定期間中にはいずれの極間状態判別信号も出力しないようにし、極間状態判定期間の終了時点において、極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、波形が閾値未満であった場合を短絡とし、波形が閾値以上の場合を開放とし、開放の場合には、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、波形が閾値を下回った場合を放電と判定し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給するようにしたものである。図7(a)〜図7(d)に、極間の加工電圧波形の絶対値と閾値を比較し、極間状態を判定する概念図を示す。
【0055】
次に、発明の態様11について述べる。極間状態判定手段の極間状態判定方法として、極間状態判定期間中にはいずれの極間状態判別信号も出力しないようにし、状態極間状態判定期間の終了時点において、極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値と第2閾値を比較し、波形が第1閾値又は第2閾値未満であった場合を短絡とし、波形が第1閾値以上の場合を開放とし、開放の場合には、前記補助放電回路から極間への加工電圧印加を継続し、波形が第2閾値を下回った場合を放電と判定し、極間に対して主放電回路から短絡時加工電流と同じ、もしくは、短絡時加工電流より大きい正常時加工電流を供給するようにしたものである。様態9と同様、第1閾値を第2閾値より高く設定しヒステリシスを設けることで、アナログ回路の誤差やノイズの影響を受けることなく、極間の間隙量が充分広く、且つ、正常に放電した状態を検出することができる。
例えば、第1閾値は補助放電回路に接続する直流電源電圧の80%程度、第2閾値はアーク電圧(約20V)より高い30V程度に設定することで、適切な検出を行うことができる。なお、第1閾値と第2閾値は同じ値としても良い。図8(a)〜図8(d)に、極間の加工電圧波形の絶対値と第1閾値、第2閾値を比較し、極間状態を判定する概念図を示す。
【0056】
次に、発明の態様12について述べる。発明の態様1に記載の放電遅れ時間を判定する基準値、又は発明の態様6に記載の極間状態判定期間、又は発明の態様2〜6、8〜11、9に記載の加工電圧波形の絶対値を比較する各閾値は、ワイヤ電極の材質・ワイヤ径・被加工物の材質・被加工物の板厚・各加工条件設定値のうち、いずれか1つ、又は2つ以上の組み合わせに応じて、予め定めるようにしたものである。先に述べた通り、加工中のワイヤの形状がワークに転写されるため、ワイヤの形状に影響する要素に応じて、放電遅れ時間を判定する基準値、極間状態判定期間、加工電圧波形の絶対値を比較する各閾値を予め定める必要がある。例えば、ワーク板厚だけに応じて設定しても良いし、ワイヤ径とワーク板厚の組み合わせなど、2つ以上の組み合わせに応じて設定しても良い。なお、各加工条件設定値とは、加工条件に含まれる加工電源電圧設定値、加工電流印加時間設定値、加工休止時間設定値、加工水量設定値といった各設定値を指し、これらとの組み合わせに応じて設定しても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 ワーク
2,3 サーボモータ
4 ワイヤ電極
5,6 通電子
7,8 スイッチング素子
9 補助電源
10 主電源
11 電圧印加制御回路
12 放電遅れ時間測定回路
13 数値制御装置
14 サーボ制御装置
15 上ワイヤガイド
16 下ワイヤガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8