(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マイクロメータスケールの粗さを有する気孔体の表面に、ナノメータスケールの粗さを有するナノ突起または陥没した形態の気孔が形成され、マイクロ−ナノ二重構造の表面を形成しているとともに、前記マイクロ−ナノ二重構造の表面上に疎水性薄膜が形成され、
前記気孔体は、巨大気孔支持体単独であるか、または前記巨大気孔支持体の一面に微細気孔層が積層された形態であり、
前記巨大気孔支持体は、直径が5〜20μmである炭素繊維の表面上に、10〜30nmの幅と10〜200nmの長さを有し、かつ、縦横比が1〜7であるナノ突起または気孔が形成されたマイクロ−ナノ二重構造の表面を有し、
前記微細気孔層は、10〜300nmの炭素粉末粒子の表面上に表面のナノ粒子幅が10〜20nm、長さが10〜50nmである角張った形態のナノ突起が形成されたマイクロ−ナノ二重構造の表面を有し、
前記気孔体が、巨大気孔支持体の一面に微細気孔層が積層された形態である場合には、前記巨大気孔支持体と微細気孔層との界面部分では、巨大気孔支持体の表面にナノ突起及び気孔が形成されていないことを特徴とする疎水性が改善された気孔体。
前記疎水性薄膜は、ケイ素と酸素を含む炭化水素系薄膜、又はフッ素を含む炭化水素系薄膜であることを特徴とする請求項6に記載の疎水性が改善された気孔体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜燃料電池(PEMFC、Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)で発電する際の電気化学反応は、以下のとおりである。燃料電池の膜−電極接合体(MEA、Membrane Electrode Assembly)内の酸化極であるアノードに供給された水素が、水素イオンであるプロトンと電子とに分離された後、プロトンは、高分子電解質膜を通じて還元極であるカソード側に移動し、電子は、外部回路を通じてカソードに移動する。
カソードで酸素分子、プロトン、及び電子が反応し、熱を生成するとともに反応副産物として水を生成する。このような電子の流れによって電流が生成する。
【0003】
燃料電池の電気化学的性能を左右する領域は、
i)電気化学反応の速度損失に起因した「活性化損失」領域、
ii)各部品の界面での接触抵抗及び高分子電解質膜でのイオン伝導損失に起因した「オウム損失」領域、
iii)反応気体の物質伝達能力の限界に起因した「物質伝達損失」または「濃度損失」領域、
に大別される(例えば非特許文献1を参照)。
【0004】
燃料電池内の電気化学反応によって生成する水は、適切な量であれば、高分子電解質膜の湿度を保持する役割をする。しかし過剰の水が生成すると、これを適切に除去しなければ、特に高い電流密度で「水溢れ(フラッディング)」現象が発生する。溢れた水は気体の通路である気孔体をを塞ぎ、反応気体が燃料電池セル内に效率的に供給されるのを妨害して電圧損失を増加させる(例えば非特許文献2を参照)。
【0005】
燃料電池セルを構成する代表的な気孔体として、気体拡散層(GDL、Gas Diffusion Layer)がある。気体拡散層は、微細気孔層(MPL、Micro−Porous Layer)と巨大気孔支持体(Macro−Porous SubstrateまたはBacking)とが積層された構造を有する。
【0006】
気孔の大きさを水銀圧入法(Mercury Intrusion)によって測定すると、現在商業化されている気体拡散層は、一般に、気孔の大きさが1μm未満の微細気孔層と、1〜300μmの巨大気孔支持体と、の二重層構造によって構成される(例えば非特許文献3を参照)。
【0007】
上記気体拡散層は、燃料電池内の高分子電解質膜の両表面に、それぞれアノード及びカソード用として塗布された触媒層の外表面に接着され、反応気体である水素及び空気(酸素)の供給、電気化学反応により生成された電子の移動、反応生成水の排出などの多様な物質伝達機能を果たすことにより、燃料電池セルの水溢れ現象を防止する(例えば非特許文献4を参照)。
【0008】
燃料電池内で電気化学反応によって生成される水を円滑に排出して物質伝達性を増加させ、高いセル性能を保持するためには、微細気孔層と巨大気孔支持体のそれぞれにポリテトラフルオロエチレン(PTFE、Polytetrafluoroethylene)などのような疎水性剤を適切に導入し、疎水性を与えることが非常に重要である例えば非特許文献5を参照)。
【0009】
しかし、従来の疎水性付与工程は、湿式化学工程を用いているため、製造工程自体が複雑であり、PTFEなどを気体拡散層に均一に分布させ難いという問題点があった。
また、従来の気体拡散層の製造方法では、疎水性防水(Wet−proof)処理が既に施されている気孔体に、接触角(静的接触角)150°以上の高疎水性または超疎水性を与えることが難しかった。
【0010】
一方、従来から、酸素、窒素、アンモニア、シラン(SiH
4)、シロキサン、有機金属などの多様なプラズマを用い、気孔体の表面に親水性を導入しようとする試みが行われている(例えば特許文献1、2を参照)。しかしこれは、気孔体に高疎水性を導入しようとする本発明の目的とは異なる。
【0011】
その他に、MEAの電極製造時にプラズマ表面処理技法を導入した例もある(例えば特許文献3〜6を参照)。これは、主に触媒及びバインダーを含んだ触媒層の形成工程に関するものである。即ち、プラズマ方式を用いて触媒層の表面を改質することにより、親水性あるいは疎水性の表面を製作する方法であり、このような方法は、気孔体の表面で高疎水性を得るには限界がある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、燃料電池セルなどに用いられる気孔体(PM、Porous Media)及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、気孔を形成する表面の疎水性を向上させた気孔体、及びその製造方法に関するものである。
【0026】
本発明の高疎水性気孔体は、マイクロメータスケールの粗さを有する気孔体の表面に、ナノメータスケールのナノ突起または陥没した形態の気孔を形成することによって、マイクロ−ナノ二重構造の表面を形成し、更にマイクロ−ナノ二重構造の表面上に疎水性薄膜をコーテイングし、マイクロ−ナノ二重構造と疎水性薄膜とによって疎水性を増加させたことを特徴とする。
【0027】
以下、「マイクロ−ナノ二重構造」とは、マイクロメータスケールの粗さを有する気孔体の表面に、プラズマエッチング処理をおこなってナノメータスケールの突起または陥没した形態の気孔を形成した、マイクロ構造とナノ構造との複合構造を意味する。
【0028】
巨大気孔支持体は、表面がマイクロメータスケールの粗さを有するため、マイクロメータスケールの表面突起や陥没した形態の気孔と、形成されたナノ突起または気孔とのマイクロ−ナノ二重構造を有する。
【0029】
微細気孔層を形成している炭素粒子も炭素粒子がマイクロメータスケールの微細な表面粗さを有し、これにプラズマエッチング処理によってナノメータスケールの突起または気孔を形成することにより、プラズマエッチングによるナノ構造と、炭素粒子の表面粗さのマイクロメータスケールの構造と、によるマイクロ−ナノ二重構造を形成する。
【0030】
上記表面粗さは、気孔体を形成している微細気孔層の炭素粒子と巨大気孔支持体の炭素繊維が有する表面突起または陥没した形態の気孔により決定される。
本発明の、マイクロ−ナノ二重構造を有する高疎水性気孔体の表面は、従来の気孔体の表面に比べて濡れ性が顕著に低く、純水との接触角が150°以上となる。
【0031】
また、本発明の気孔体の製造過程は、従来の製造過程による高疎水性付与の限界及び問題点を解決するために、気孔体の表面(微細気孔層と巨大気孔支持体の表面)に、構造的な改質と化学的な改質とを行って高疎水を与える点に特徴がある。また、気孔体の表面で縦横比が大きなナノ構造を形成する過程と、マイクロ−ナノサイズの二重構造を有する表面の構造的改質過程と、疎水性薄膜をコーティングして化学的に疎水性を有する表面を製作する化学的な改質過程と、を複合的に行う点にも特徴がある。
【0032】
本発明者は、気孔体に対して、(a)乾式プラズマ処理(プラズマエッチング処理)を実施することによって、気孔体の表面にナノ突起または気孔(プラズマエッチング処理により形成)を形成し、(b)このナノ突起または気孔が気孔体表面のマイクロスケールの粗さ構造と複合的に組み合わさってマイクロ−ナノ二重構造が形成され、(c)このマイクロ−ナノ二重構造の表面に疎水性薄膜、例えば、プラズマ蒸着を用いた疎水性炭素薄膜をコーティングすることによって、気孔体の疎水性を大幅に向上させることができるという事を実験的に確認し、本発明を完成するに至った。
【0033】
本発明による疎水性が向上した気孔体は、燃料電池の構成部、例えば、燃料電池セルを構成する気体拡散層に用いられ、燃料電池セルにおいて電気化学反応中に生成された水を效果的に排出する目的に使用できる。
【0034】
本発明のプラズマ処理による気孔体表面の改質過程によれば、気孔体表面をアルゴン(Ar)プラズマや酸素プラズマによるエッチングをおこなってナノ構造を形成することにより水との接触面が最小化された表面構造にし、その表面上に更に疎水性を有する薄膜(例えば疎水性炭素薄膜)をコーティングすることによって、気孔体表面に純水の接触角が150°以上であるという高疎水性または超疎水性を与えることができる。
【0035】
即ち、本発明のプラズマ処理による気孔体表面の改質過程は、乾式プラズマ処理工程だけでも、気孔体の表面で構造的改質と化学的改質を可能にし、燃料電池に好適な高い疎水性を容易に与えることのできる長所がある。
【0036】
以下に、気孔体表面の疎水性向上に関する理解のために、固体表面での高疎水あるいは超疎水メカニズムを説明する。
固体表面の疎水性は、固体表面の化学的特性に依存するが、更に固体表面に微細なパターンを形成すれば、疎水性が顕著に増加し、超疎水性の性質を有するようになる。
【0037】
同一の化学的処理が施された平坦な表面に比べ、微細な突起構造や気孔構造が形成されている表面は、水との接触角が150°〜170°と大きくなり、超疎水性の性質を有するようになる。
接触角が10°未満と小さくなる条件では、固体表面の水滴は容易に除去され得る自己洗浄の機能を有するようになる。
【0038】
従って、高疎水性あるいは超疎水性の表面を製作するためには、化学的に表面エネルギーの低い表面層を形成しなければならず、それとともに物理的/構造的な表面粗さが存在しなければならない。
表面粗さの場合は、微細な突起や気孔の大きさ分布が重要な役割をし、突出した形状の粗さだけでなく、陥没した形態の気孔のような構造も類似した特性を示す。
【0039】
気孔がナノメータ及びマイクロメータの大きさで複合的に存在する状態で、表面の化学組成が調節されれば、疎水性表面、さらには超疎水性表面を形成することができる。
そこで本発明は、気孔体の表面で物理的/構造的な表面粗さと化学的特性とが結合して得られる疎水性向上メカニズムを応用することにより高疎水性を達成する。
【0040】
即ち、燃料電池セルの気体拡散層の微細気孔層と巨大気孔支持体との表面に、それぞれプラズマエッチングによるナノパターンとプラズマコーティングによる疎水性薄膜とを形成することにより、高疎水性の表面が得られる。このように気孔体表面の特性に関する構造的制御と化学的制御を複合的に行うことにより、表面の高疎水性付与を達成することができる。
【0041】
以下に、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る気孔体に対してプラズマエッチングを行って表面をマイクロ−ナノ二重構造化をする気孔体の表面改質方法の模式図であって、気体拡散層を構成する微細気孔層と巨大気孔支持体とを示している。
本発明の疎水性が向上した気孔体は、微細気孔層の表面と巨大気孔支持体の表面とに形成された高縦横比のナノ構造及び疎水性薄膜を有する構造をしている。
【0042】
図1に示すように、微細気孔層の表面と巨大気孔支持体の表面に、それぞれマイクロ−ナノ二重構造化のためのプラズマエッチング処理を施して高縦横比のナノ構造を形成し、ここにプラズマ蒸着法により疎水性薄膜をコーティング処理し、高疎水性の表面を有する気孔体を製造する。
【0043】
微細気孔層と巨大気孔支持体とは、次のような素材からなっている。
微細気孔層は、アセチレンブラックカーボン、ブラックパールカーボンなどのようなカーボンブラック系列の炭素粉末と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはフッ化エチレンプロピレン(FEP)系列の疎水性剤とを混合した後、用途に応じて巨大気孔支持体の一面または両面に塗布されて製造される。
【0044】
巨大気孔支持体は、炭素繊維及びポリテトラフルオロエチレンまたはフッ化エチレンプロピレン系列の疎水性剤で構成され(例えば、C.Lim and C.Y.Wang,Electrochim.Acta,
49,4149(2004)を参照)、その物理的構造によって大きく炭素繊維フェルト、炭素繊維紙及び炭素繊維布などに分類される(例えば、S.Escribano,J.Blachot,J.Etheve,A.Morin,R.Mosdale,J.Power Sources,
156,8(2006);M.F.Mathias,J.Roth,J.Fleming,and W.Lehnert,Handbook of Fuel Cells−Fundamentals,Technology and Applications,vol.3,Ch.42,John Wiley&Sons(2003)を参照)。
【0045】
本発明では、上記のような微細気孔層と巨大気孔支持体が積層された構造を有する気孔体の両面にプラズマエッチングを施し(
図1参照)、微細気孔層と巨大気孔支持体の表面(気孔体の表面)を形成している炭素素材(炭素粒子及び炭素繊維)の表面に、ナノ突起や気孔のパターンを形成する。
【0046】
好ましい実施例として、微細気孔層と巨大気孔支持体の表面をなしている炭素素材の表面に、プラズマエッチングを用いて1〜100nmの幅と1〜1000nmの長さを有し、かつ縦横比が1〜10の範囲であるナノ突起や気孔のパターンを形成する。
ここで、縦横比が1未満である場合は、表面粗さの効果が適切に発現されないという問題点があり、縦横比が10を超える場合はナノパターンが安定した構造を維持できないという問題点があり、好ましくない。
【0047】
微細気孔層は、炭素粒子が、大きさが均一でなく互いにかたまった状態で凝集体(Aggregates)を形成し、数十nmから数μmの範囲で混在する。
このような微細気孔層に対してプラズマエッチング処理を行うと、球状の炭素粒子の表面がエッチングされ、角張った形態の数十nmの幅を有する炭素粒子が形成される。この表面上に疎水性薄膜をコーティングする。
【0048】
また、巨大気孔支持体の表面は、直径が5〜20μmである炭素繊維の表面上に、プラズマエッチングにより10〜30nmの幅と10〜200nmの長さを有し、かつ縦横比が1〜7であるナノ突起または気孔を形成する。このナノ突起は、高縦横比のナノパターンをなしながらマイクロ−ナノ二重構造を形成する。
このようなマイクロ−ナノ二重複合構造を有する表面は、超疎水/自己浄化特性を有する。
【0049】
疎水性向上のための疎水性薄膜は、ケイ素(Si)と酸素を含む炭化水素系薄膜、またはフッ素(F)を含む炭化水素系薄膜であり、疎水性薄膜の厚さは、0.1〜90nmの範囲である。
疎水性薄膜の厚さが0.1nm未満である場合は、気孔体の疎水性を増加させる効果が得がたく、90nmを超えると、気体拡散層に用いる場合に電気抵抗値が大幅に増加するという問題点がある。従って、疎水性増加のための薄膜の厚さは、0.1〜90nmの範囲にすることが好ましい。
【0050】
燃料電池の気体拡散層は、疎水性薄膜の厚さを、気体拡散層の本来の電気抵抗値を殆ど増加させることなく、気孔を防がない程度の厚さに調節することが必要である。
ケイ素と酸素を含む炭化水素系物質では、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を前駆体として用いて蒸着したものが用いられる。ヘキサメチルジシロキサンとアルゴンガス(30%体積分率以下)を適切な比率に混合することにより疎水性を制御することができる。
【0051】
上記のように、プラズマエッチングによるナノ構造形成と、プラズマ蒸着による疎水性薄膜コーティングと、により疎水性を向上させた気孔体においては、微細気孔層表面及び巨大気孔支持体表面と水との接触角が150°以上となる。
従来の気孔体表面では、ナノサイズのパターンとマイクロサイズのパターンとを疎水性の高分子物質であるPTFEで被覆しているため、接触角が135°〜145°程度であった。
【0052】
しかし、本発明の気孔体は、プラズマエッチングにより形成されたナノパターンの大きさが、従来の表面と比較して顕著に小さくなり、かつ表面粗さがより大きいので、マイクロ−ナノ二重構造により高疎水性の表面特性を示すようになり、PTFEが被覆していない表面でも150°以上の接触角(静的接触角)を示し、高疎水性を達成することができる。
また、疎水性薄膜のコーティング処理を表面に均一に施すことにより、均一な高疎水性表面を形成することができる。
【0053】
従来の商業化されている気体拡散層の微細気孔層と巨大気孔支持体とには、疎水性を導入ためにPTFEが用いられていた。しかし、PTFEは表面及び内部に均一に導入し難く、また、複雑な湿式製造工程を用いなければならない短所があり、気孔体表面の接触角を150°以上に増加させるのは困難であった。
【0054】
本発明の工程は、(a)巨大気孔支持体単独または巨大気孔支持体と微細気孔層とが積層された構造の気孔体を製造する段階と、(b)気孔体を構成している炭素素材の表面に、プラズマエッチングを用いて高縦横比を有するナノ突起または陥没した気孔形態のナノ構造を形成する段階と、(c)上記ナノ構造が形成された気孔体の表面に疎水性薄膜を形成する段階とを含んで構成される。
【0055】
(a)段階は、
図1に示すように、巨大気孔支持体単独、または微細気孔層と巨大気孔支持体とが積層された構造を有する気孔体を製造する段階であって、このような気孔体の製造工程は当該分野において知られている公知の技術である。本発明の実施例では、微細気孔層と巨大気孔支持体とが積層された市販の気体拡散層用の気孔体を用いる。
【0056】
(b)段階は、マイクロサイズの表面形状が存在する、微細気孔層と巨大気孔支持体とを有する構造の気孔体に対して、両面でプラズマエッチングを施し、気孔体の表面に高縦横比のマイクロ−ナノ二重構造を形成する過程である。プラズマエッチングは、PECVD(Plasma−Enhanced Chemical Vapor Deposition)またはPACVD(Plasma−Assisted Chemical Vapor Deposition)方式のプラズマエッチングであってもよく、O
2、Ar、N
2、He、CF
4、CHF
3、C
2F
6、HFまたはSiF
4を用いるプラズマエッチングであってもよい。
【0057】
また、上記エッチングは、化学蒸着(CVD)方式の他に、イオンビーム方式、ハイブリッドプラズマ化学蒸着(HPCVD)方式、または大気圧プラズマ方式などのような表面構造を作ることができる方式のうちの何れか1つを選択するか、又は2以上を混合して用いることにより行うことができる。
【0058】
図2は、本発明の実施例による酸素プラズマエッチングの前後及び疎水性炭素薄膜を蒸着した後の微細気孔層表面を撮影したSEM写真である。(a)と(b)は、酸素プラズマエッチング前であり、(c)は、酸素プラズマを用いてエッチングした後であり、(d)は、酸素プラズマエッチングされた微細気孔層の表面上に疎水性炭素薄膜を蒸着した後である。
【0059】
図2に示すように、プラズマエッチングによりエッチングされた部分を拡大してみれば、ナノサイズの数多くの高縦横比の突起が形成されていることが確認できる。エッチング処理前の(a)及び(b)と、エッチング後の(c)と、を比較すれば、エッチングによってナノパターンの突起の大きさが50nmから10〜30nm程度に小さくなり、表面がより一層粗くなったことが確認できる。
【0060】
酸素プラズマは炭素と反応するので、微細気孔層の表面を形成している炭素粒子と、巨大気孔支持体の表面を形成している炭素繊維と、をエッチングすることができる。このとき、炭素と酸素プラズマとが結合してCO
2あるいはCOを発生しながら表面がエッチングされる。
【0061】
本発明のプラズマエッチング工程において、エッチング圧力、加速電圧及びエッチング時間(プラズマ照射時間)の中の1つ以上を調節してナノ構造の大きさ及び形状を制御することができる。ここでエッチング圧力は、1Pa〜10Pa、加速電圧は、−100Vb〜−1000Vbの範囲にする。
【0062】
エッチング圧力は、1Pa未満では表面粗さパターンの形成速度が遅くなり過ぎてパターンを效率的に形成するのが困難になり、10Paを超えると、表面粗さパターンの形成速度が速くなりすぎて安定したマイクロ−ナノ二重構造の表面を形成するのが困難になるという問題がある。
加速電圧は、−100Vb未満ではプラズマが效果的に生成され難く、−1000Vbを超えるとプラズマ生成工程を安定して維持するのが困難になるという問題がある。
【0063】
また、マイクロ−ナノ二重構造の表面の形状がプラズマエッチング時間に応じて燃料電池セルの性能に大きな影響を及ぼすので、適正なプラズマ照射時間を設定することが必要である。プラズマ照射時間を、0.1分〜60分以内に設定してプラズマエッチングを施すことが好ましい。
プラズマ照射時間が0.1分未満ではエッチングの効果が少な過ぎてマイクロ−ナノ二重構造の発達が充分でなく、60分を超えると過度にエッチングされて所望の形状のマイクロ−ナノ二重構造を得るのが困難になると共に、表面処理時間が長くなり過ぎて生産性が低下するという問題がある。
【0064】
c)段階は、(b)段階により形成されたマイクロ−ナノ二重構造の表面の複合気孔構造が形成された気孔体の表面に、疎水性薄膜を形成する過程である。疎水性薄膜の蒸着は、ヘキサメチルジシロキサンガス、又はアルゴンガスの分率が30体積%以下であるアルゴンとヘキサメチルジシロキサンの混合ガスを用いる。
【0065】
疎水性を向上させるための疎水性炭素薄膜の表面特性は、PECVD装置におけるr.f.(Radio Frequency)電源と、前駆体ガス内のアルゴン分率と、に依存する。
そのため、r.f.電源と前駆体ガス内のアルゴン分率を適切に調節すれば、疎水特性を調節することができ、かつ良好な薄膜を形成することができる。
【0066】
以下、図面を参照し、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
<実施例1>
疎水性が増加した微細気孔層素材
本実施例では、気体拡散層素材として、10〜300nmの炭素粉末粒子及びPTFEで形成された微細気孔層と、フェルト構造の炭素繊維とPTFEで構成された巨大気孔支持体と、を有する市販品を用いた。しかし、PTFEなどの疎水性物質のコーテイングがなく、炭素繊維だけで構成された巨大気孔支持体を有する気体拡散層素材も本実施例で用いることができる。
【0067】
図2の(a)は、本実施例の酸素プラズマエッチング前の微細気孔層表面の、低倍率写真であり、(b)は高倍率写真である。
本実施例に用いた気体拡散層素材は、微細気孔層をなしている炭素粒径が均一でなく、10〜300nmの範囲で混在していた。用いた気体拡散層の基本物性及び特性を表1に示す。
気孔体(気体拡散層)の厚さは、厚さ測定機(Mitutoyo Thickness Gauge,Mitutoyo Co.,Japan)を用い、少なくとも20回以上測定して求めた。
【0068】
気孔体の単位面積当たりの重さは、電子天秤(A&D Company,Japan)を用い、少なくとも20回以上測定して求めた。
また、気孔体の空気透過度は、Gurleyの方法を用い、0.3kPaの条件下で少なくとも5回以上測定した。
【0070】
用意された微細気孔層の表面に、r.f.PECVD装置を用いた酸素プラズマエッチング処理を施した。エッチングガスは酸素のみを使用し、エッチング圧力は、10Pa、r.f.電圧は、−100Vb〜−800Vbの条件で行った。
【0071】
酸素プラズマは炭素素材と反応し、微細気孔層の表面を形成している炭素粒子をエッチングする。炭素素材と酸素プラズマとが結合してCO
2あるいはCOガスを形成することにより、微細気孔層の表面がエッチングされた。
酸素プラズマエッチングによって、微細気孔層をなしている数十から数百nmの球形状の粒子の表面がエッチングされ、角張った形態の10〜20nmの幅を有する粒子が形成された。
【0072】
電圧条件−400Vbで、処理時間を1、2、5、及び10分に変化させながらプラズマエッチングを行ったところ、表面のナノ粒子幅が10〜20nm、長さが10〜50nmであるナノ突起が生じ、炭素ナノ粒子がナノ突起の形態に変化し、表面粗さが増加する効果が得られた。
【0073】
次に、このように形成された炭素ナノ突起上に、疎水性向上のために、ケイ素及び酸素を含む炭素薄膜を形成した。
HMDSOのみを、13.56MHzのr.f.電源を備えるPECVD装置を用い、r.f.電源を−400Vbに固定し、チャンバ内の圧力を5Paに設定し、生成する疎水性薄膜の厚さは10nmに一定して疎水性薄膜の蒸着を行った。
【0074】
以下、実施例1の製造過程により製造された疎水性気孔体の微細気孔層の特性を説明する。
図2(d)に示すように、実施例1により形成された微細気孔層の表面は、
図2(b)に示したナノ突起を有する表面に疎水性炭素薄膜が形成されている構造である。
【0075】
このような構造の疎水性表面において、接触角は
図2(d)の右上に挿入されたイメージに示したように、150°以上である。接触角は、疎水性炭素薄膜の形成条件に応じて調節できる。
【0076】
接触角の測定は、ゴニオメータ(Data Physics Instrument GmbH,OCA 20L)を用いて行った。この装備は、表面に静置した水滴の光学的イメージと接触角を測定することができる。本発明で用いる「接触角」は「静的接触角」を意味する。
【0077】
図3は、実施例1による微細気孔層の表面上における水滴の接触角を、酸素プラズマエッチングの時間を変化させて測定したグラフである。
図3に示すように、微細気孔層表面は、エッチング前には接触角が145°であったが、実施例1の条件で表面にナノ突起を形成し、疎水性炭素薄膜をコーティングすることによって、酸素プラズマ処理の時間に応じて接触角が約160〜170°に変化し、超疎水性を呈するようになった。
【0078】
上記のように、実施例1記載した製造方法によって疎水特性の向上した微細気孔層を製造することができた。製造された微細気孔層の表面は、自己洗浄の機能を有し、かつ水滴を排出する機能を有していたので、この微細気孔層を有する気孔体は、燃料電池の電気化学反応時に生成する水を円滑に排出し、セル性能を維持する素材として広く用いることができた。
【0079】
<実施例2>
疎水性が増加した巨大気孔支持体素材
気孔体の微細気孔層の反対面である巨大気孔支持体は、炭素繊維をフェルト化して形成されており、炭素繊維間に疎水性素材であるPTFEを含んでいる。従来の巨大気孔支持体の水滴に対する接触角は135〜145°である。これは従来の微細気孔層の接触角とほぼ等しい。
【0080】
巨大気孔支持体の炭素繊維はフェルト状をしており、炭素繊維の直径は5〜20μmの範囲である。
最初に、巨大気孔支持体の表面に対してr.f.PECVD装置を用いた酸素プラズマエッチング処理を施した。エッチングガスとして酸素のみを使用し、エッチング圧力は、10Paとし、r.f.電圧は−100Vb〜−800Vbとする条件でプラズマエッチングを行った。
【0081】
酸素プラズマは、炭素繊維素材と反応して、巨大気孔支持体の表面を形成している炭素粒子をエッチングした。炭素繊維素材と酸素プラズマとが結合してCO
2あるいはCOガスを形成して表面がエッチングされた(
図4を参照)。
プラズマエッチング後には、マイクロメータサイズの炭素繊維表面に、ナノメータサイズの高縦横比のナノ突起が形成され、マイクロ−ナノ二重突起構造が構成された。
【0082】
電圧条件−400Vbで、処理時間を1、2、5、及び10分に変化させながらプラズマエッチングを行い、表面の炭素繊維表面と炭素繊維間のPTFE高分子表面にナノ突起構造を形成した。生成した突起は、10〜30nmの幅を有し、かつ10〜200nmの長さを有しており、縦横比は1〜7になった。
【0083】
この結果、直径5〜20μmの炭素繊維と、その上に形成された高縦横比のナノ突起とから成るマイクロ−ナノ二重突起が形成された。
得られた巨大気孔支持体は、マイクロ−ナノ二重(複合)突起構造を有する表面を有するようになり、超疎水特性及び自己浄化の特性を示す表面構造を有する。
【0084】
次に、形成された炭素繊維表面及びPTFE表面の炭素ナノ突起を有するマイクロ−ナノ二重突起構造の巨大気孔支持体に、疎水性向上のためのケイ素と酸素を含む炭素薄膜を形成した。
反応条件は、13.56MHzのr.f.PECVD装置により、、r.f.電源は−400Vbに固定し、HMDSOのみを用い(前駆体ガス内のアルゴンガスの分率は0体積%に維持し)、チャンバ内の圧力は5Paで疎水性薄膜を蒸着した。蒸着する疎水性薄膜の厚さは10nmとした。
【0085】
以下、本実施例の製造過程により形成された疎水性気孔体において、巨大気孔支持体の特性を分析し、その結果を説明する。
図4は、本発明の実施例による酸素プラズマエッチング前後の巨大気孔支持体表面を撮影したSEM写真である。(a)は酸素プラズマエッチング前であり、(b)は酸素プラズマエッチング後である。
図4(b)に示すように、実施例2の製造過程により形成された巨大気孔支持体の表面には、マイクロ−ナノ二重構造を有する炭素繊維及びPTFEの表面に、疎水性薄膜が形成されていた。
【0086】
図5は、本発明の実施例2により巨大気孔支持体の表面上における水滴の接触角を、酸素プラズマエッチング時間を変化させて測定したグラフである。
図5に示すように、疎水性気孔体表面の静的接触角は、150°以上であった。この接触角は、プラズマエッチング条件及び疎水性炭素薄膜の形成条件に応じて調節できた。
【0087】
接触角の測定は、上記実施例1と同じゴニオメータを用いて行った。この装置は、試料の表面に静置された水滴の光学的イメージと接触角とを測定することができる。
【0088】
図5に示すように、従来の巨大気孔支持体表面の静的接触角は約145°であったが、表面にナノ突起を形成し疎水性薄膜をコーティングした後の巨大気孔支持体表面の静的接触角は最大約155°になり、超疎水性を示すようになった。また酸素プラズマ処理の時間に応じて静的接触角が変化した。
【0089】
上記のように、実施例2に記載した製造方法により、高疎水特性を有する巨大気孔支持体を製造することができた。製造された巨大気孔支持体の表面は自己洗浄機能を有し、かつ水滴を排出する機能も有していたので、この巨大気孔支持体を有する気孔体は、燃料電池の電気化学反応によって生成する水を円滑に排出し、セルの性能を維持する素材として広く用いることができた。
【0090】
微細気孔層と巨大気孔支持体の表面に対してナノ突起を形成し疎水性薄膜をコーティングすることによって疎水特性を向上させる本発明の工程を用いて、これらの2層がなしている気体拡散層の疎水性特性を大幅に向上させることができた。
【0091】
このようにして、本発明の製造工程によって、微細気孔層表面と巨大気孔支持体表面との疎水特性を大幅に向上させることができ、高疎水性の気孔体を製造することが可能になった。