特許第6063150号(P6063150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063150
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】可変容量圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/12 20060101AFI20170106BHJP
   F04B 27/18 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   F04B27/12 L
   F04B27/18 A
   F04B27/12 H
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-120954(P2012-120954)
(22)【出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-245632(P2013-245632A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】寺内 聖
【審査官】 加藤 一彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−230479(JP,A)
【文献】 特開2007−107438(JP,A)
【文献】 特開2007−120394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/12
F04B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に吐出室、吸入室、クランク室およびシリンダボアが形成されたハウジングと、前記シリンダボア内に配設されたピストンと、前記ハウジングに回転可能に支持される駆動軸と、前記駆動軸と一体に回転するロータと、連結手段を介して連結された前記ロータの回転に同期して回転する斜板と、該斜板の回転をピストンの往復運動に変換する変換機構と、開度に応じて前記クランク室の内部圧力を制御可能な圧力制御弁とを備え、
前記開度が変更されて前記クランク室の内部圧力が変更されるとき、前記斜板を前記駆動軸と摺動させつつ前記斜板の前記駆動軸に対する傾角を変更して前記ピストンのストロークを変更することにより、前記吸入室から前記シリンダボアに吸入される冷媒を圧縮して前記吐出室に吐出する際の吐出容量を変更可能に構成される可変容量圧縮機であって、
前記斜板上の前記ピストンの上死点位置に対応する部位からみて、前記斜板の回転の正方向寄りの圧縮工程側領域が前記斜板の回転の負方向寄りの吸入工程側領域よりも前記ロータに形成されたスラスト軸受の受け面から遠ざかるように、前記斜板が前記ロータに対し傾斜して連結され
前記連結手段は、前記ロータから突設された第1アームと、前記斜板から突設された第2アームと、一端側が第1連結ピンを介して第1アームに対し回動自在に連結され、他端側が第2連結ピンを介して第2アームに対し回動自在に連結されたリンクアームとを備えるリンク機構からなり、
前記斜板の円環状平面部と直交しつつ前記斜板の上死点位置と下死点位置とを含む平面を平面Uとし、前記円環状平面部と直交しつつ平面Uと直交する平面を平面Vとし、前記斜板を平面Uで圧縮工程側と吸入工程側に分けたときに、前記圧縮工程側にある第2連結ピンの一端部が平面Vに近づき、前記吸入工程側にある第2連結ピンの他端部が平面Vから遠ざかるように、第2連結ピンが平面Vに対して所定の角度傾斜していることを特徴とする可変容量圧縮機。
【請求項2】
前記傾角が最大となるときに、前記上死点位置に対応する部位からみて、前記斜板の前記圧縮工程側領域が前記斜板の前記吸入工程側領域よりも前記スラスト軸受の受け面から遠ざかる度合いが最大となる、請求項1に記載の可変容量圧縮機。
【請求項3】
前記傾角が最小となるときに、前記上死点位置に対応する部位からみて、前記斜板の前記圧縮工程側領域が前記斜板の前記吸入工程側領域よりも前記スラスト軸受の受け面から遠ざかる度合いが最小となり、前記傾角の最小値がほぼ0°に設定されている、請求項1または2に記載の可変容量圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量圧縮機に関し、特に、車両用エアコンシステムに使用される可変容量圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二つの部品を連結ピンによって回動可能に連結するヒンジ機構(リンク機構)が開示されている。また、特許文献2には、駆動軸に対する斜板の挙動を安定化させるために相対移動規制手段を付加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−172333号公報
【特許文献2】特開2002−364530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のヒンジ機構(リンク機構)においては、斜板が圧縮荷重に起因した軸方向荷重の作用によって左右方向に傾くと、斜板の貫通孔が傾いて貫通孔が駆動軸の外周面にエッジ接触して接触部が磨耗し、斜板の傾動がスムーズに行なわれなくなるという問題が生じていた。特に、斜板の最大傾角側では圧縮荷重が大きくなるため磨耗の進行が早く、斜板の傾動が阻害されるという問題が生じていた。
【0005】
そこで本発明の課題は、斜板の貫通孔と駆動軸の外周面との接触部の磨耗が抑制され、スムーズな斜板の傾動を可能とする可変容量圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る可変容量圧縮機は、内部に吐出室、吸入室、クランク室およびシリンダボアが形成されたハウジングと、前記シリンダボア内に配設されたピストンと、前記ハウジングに回転可能に支持される駆動軸と、前記駆動軸と一体に回転するロータと、連結手段を介して連結された前記ロータの回転に同期して回転する斜板と、該斜板の回転をピストンの往復運動に変換する変換機構と、開度に応じて前記クランク室の内部圧力を制御可能な圧力制御弁とを備え、
前記開度が変更されて前記クランク室の内部圧力が変更されるとき、前記斜板を前記駆動軸と摺動させつつ前記斜板の前記駆動軸に対する傾角を変更して前記ピストンのストロークを変更することにより、前記吸入室から前記シリンダボアに吸入される冷媒を圧縮して前記吐出室に吐出する際の吐出容量を変更可能に構成される可変容量圧縮機であって、
前記斜板上の前記ピストンの上死点位置に対応する部位からみて、前記斜板の回転の正方向寄りの圧縮工程側領域が前記斜板の回転の負方向寄りの吸入工程側領域よりも前記ロータに形成されたスラスト軸受の受け面から遠ざかるように、前記斜板が前記ロータに対し傾斜して連結され
前記連結手段は、前記ロータから突設された第1アームと、前記斜板から突設された第2アームと、一端側が第1連結ピンを介して第1アームに対し回動自在に連結され、他端側が第2連結ピンを介して第2アームに対し回動自在に連結されたリンクアームとを備えるリンク機構からなり、
前記斜板の円環状平面部と直交しつつ前記斜板の上死点位置と下死点位置とを含む平面を平面Uとし、前記円環状平面部と直交しつつ平面Uと直交する平面を平面Vとし、前記斜板を平面Uで圧縮工程側と吸入工程側に分けたときに、前記圧縮工程側にある第2連結ピンの一端部が平面Vに近づき、前記吸入工程側にある第2連結ピンの他端部が平面Vから遠ざかるように、第2連結ピンが平面Vに対して所定の角度傾斜していることを特徴とするものからなる。
【0007】
このような本発明に係る可変容量圧縮機によれば、可変容量圧縮機の運転により斜板に圧縮荷重が作用したとき、貫通孔と駆動軸の外周面との接触が線接触に近くなり、これにより貫通孔と駆動軸の外周面との接触部の磨耗が抑制されるとともに、斜板の傾動がスムーズになる。
【0008】
また、前記傾角が最大となるときに、前記上死点位置に対応する部位からみて、前記斜板の前記圧縮工程側領域が前記斜板の前記吸入工程側領域よりも前記スラスト軸受の受け面から遠ざかる度合いが最大となることが好ましい。このような構成によれば、斜板の傾角が最大傾角のときは圧縮荷重が最大となり、最大傾角から傾角が減少するに従い圧縮荷重も小さくなるので、斜板の傾角によらず可変容量圧縮機の実運転時に貫通孔と駆動軸の外周面との接触が線接触に近くなる。
【0009】
さらに、前記傾角が最小となるときに、前記上死点位置に対応する部位からみて、前記斜板の前記圧縮工程側領域が前記斜板の前記吸入工程側領域よりも前記スラスト軸受の受け面から遠ざかる度合いが最小となり、前記傾角の最小値がほぼ0°に設定されていることが好ましい。最小傾角がほぼ0°では圧縮荷重はほとんど作用しないので、不必要に斜板を傾斜させることが回避できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スムーズな斜板の傾動を簡素な構造で実現した可変容量圧縮機が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施態様に係る可変容量圧縮機を示す縦断面図である。
図2図1のリンクアームを示す図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のA方向から見た矢視図である。
図3図1の駆動軸とロータの連結体を示す斜視図である。
図4図1の斜板を示す斜視図である。
図5図1の駆動軸、ロータ、リンクアームおよび斜板の連結体を示す正面図である。
図6図1の斜板をロータ側からみた平面図である。
図7図6の第2連結ピンと斜板の連結体を示す部分平面図である。
図8】ロータ、駆動軸、リンクアーム、斜板の位置関係を示し、(a)は駆動軸とロータの連結体の平面図、(b)はリンクアームの正面図、(c)は斜板の平面図である。
図9図1の斜板に関し、(a)は傾角が最大の状態、(b)は傾角が最小の状態を示す。(a)(b)それぞれについて、左上図はC2、C1方向からみた矢視図、右上図はB2、B1方向からみた矢視図であり、下図は側面図である。
図10図1の可変容量圧縮機の運転時における斜板の傾きを説明するための模式側面図である。
図11図8の斜板と駆動軸との接触部位を拡大した部分拡大模式断面図である。
図12】本発明の他の実施態様に係る可変容量圧縮機の斜板をロータ側からみた平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る可変容量圧縮機は、視覚的にわかりやすいように仮想平面(平面P1〜P3)を介して説明すると、以下のようにも説明可能である。すなわち、本発明に係る可変容量圧縮機は、内部に吐出室、吸入室、クランク室及びシリンダボアが区画形成されたハウジングと、前記シリンダボアに配設されたピストンと、前記ハウジング内に回転可能に支持された駆動軸と、該駆動軸に固定されて駆動軸と一体に回転するロータと、該ロータと連結手段を介して連結し、前記ロータと同期回転して前記駆動軸の軸線に対して傾角が可変となるように前記駆動軸を挿通する貫通孔を介して前記駆動軸に摺動自在に取り付けられた斜板と、該斜板の回転を前記ピストンの往復運動に変換する変換機構と、前記クランク室の圧力を調整する制御弁とを備え、前記制御弁の開度調整により前記クランク室の圧力を変化させ、前記斜板の傾角を変更して前記ピストンのストロークを調整し、前記吸入室から前記シリンダボアに吸入された冷媒を圧縮して前記吐出室に吐出する可変容量圧縮機において、
前記駆動軸の軸線と前記斜板の上死点位置とで規定される平面をP1、前記斜板の円環状の平面をP2、平面P1と平面P2の交線を含み平面P1と直交する平面をP3とし、 平面P1で前記斜板を圧縮工程側の領域と吸入工程側の領域に分けたとき、前記駆動軸、前記ロータ、前記連結手段及び前記斜板の連結体において、圧縮工程側の領域にある平面P2の最外部が、対称位置となる吸入工程側の領域にある平面P2の最外部より前記ロータに形成されたスラスト軸受の受け面から遠ざかるように、平面P2が平面P3に対して所定の角度傾斜していることを特徴とするものからなる。
【0013】
このような本発明に係る可変容量圧縮機によれば、可変容量圧縮機の運転により斜板に圧縮荷重が作用したとき、貫通孔と駆動軸の外周面との接触が線接触に近くなり、これにより貫通孔と駆動軸の外周面との接触部の磨耗が抑制されるとともに、斜板の傾動がスムーズになる。
【0014】
また、上記所定の角度は斜板の傾角が最大傾角で最も大きくなり、最大傾角から傾角が減少するに従い小さくなることが好ましい。このような構成によれば、斜板の傾角が最大傾角のときは圧縮荷重が最大となり、最大傾角から傾角が減少するに従い圧縮荷重も小さくなるので、斜板の傾角によらず可変容量圧縮機の実運転時に貫通孔と駆動軸の外周面との接触が線接触に近くなる。
【0015】
なお、斜板の最小傾角はほぼ0°に設定されることが好ましく、所定の角度は最小傾角でほぼ0°であることが好ましい。最小傾角ほぼ0°では圧縮荷重はほとんど作用しないので、不必要に斜板を傾斜させることが回避できる。
【0016】
以下に、発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(1)可変容量圧縮機
図1に示す可変容量圧縮機100はクラッチレス圧縮機であって、複数のシリンダボア101aを備えたシリンダブロック101と、シリンダブロック101の一端に設けられたフロントハウジング102と、シリンダブロック101の他端にバルブプレート103を介して設けられたシリンダヘッド104とを備えている。
【0018】
シリンダブロック101と、フロントハウジング102とによって規定されるクランク室140内を横断して、駆動軸110が設けられ、その中間部の周囲には、斜板111が配置されている。斜板111には駆動軸110が挿通される貫通孔111aが形成され、貫通孔111aは斜板の傾角が斜板111の円環状の平面と直交し、斜板の上死点位置と駆動軸の軸線とを含む平面に直交する枢軸Kを中心に最大傾角と最小傾角の範囲で傾動可能となるようにその形状が形成されている。斜板111は駆動軸110に固定されたロータ112とリンク機構120を介して連結し、貫通孔111aの側面が駆動軸110の外周面に摺動支持されながらその傾角θが変化可能となっている。
【0019】
尚、貫通孔111aには駆動軸110と当接する最小傾角規制部が形成されており、実施例においては、斜板111の円環状の平面が駆動軸110に対して直交するときの斜板の傾角を0°とした場合、貫通孔111aの最小傾角規制部は斜板の傾角θがほぼ0°となるように形成されている。尚、最小傾角がほぼ0°とは、最小傾角が−0.5°より大きく0.5°未満であることを指すが、好ましくは最小傾角は0°以上〜0.5°未満に設定される。
【0020】
ロータ112と斜板111の間には、斜板111を最小傾角に至るまで付勢する圧縮コイルバネからなる傾角減少バネ114が装着され、また斜板111とバネ支持部材116との間には斜板111の傾角を最大傾角より小さい所定の傾角まで増大する方向に付勢する圧縮コイルバネからなる傾角増大バネ115が装着されている。最小傾角において傾角増大バネ115の付勢力は傾角減少バネ114の付勢力より大きく設定されているので、駆動軸110が回転していないときは、傾角減少バネ114の付勢力と傾角増大バネ115の付勢力との合力がゼロとなる所定の傾角をなすように斜板111が位置決めされる。
【0021】
駆動軸110の一端は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通して外側まで延在し、図示されない動力伝達装置に連結されている。尚、駆動軸110とボス部102aとの間には軸封装置130が挿入され、内部と外部とを遮断している。駆動軸110及びロータ112はラジアル方向に軸受131、132で支持され、スラスト方向に軸受133、スラストプレート134で支持されており、外部駆動源からの動力が動力伝達装置に伝達され、駆動軸110は動力伝達装置の回転と同期して回転可能となっている。尚、駆動軸110のスラストプレート134への当接部とスラストプレート134との隙間は、調整ネジ135により所定の距離に調整されている。
【0022】
シリンダボア101a内にはピストン136が配置され、ピストン136のクランク室140側に突出している端部の内側空間には、斜板111の外周部が収容され、斜板111は一対のシュー137を介してピストン136と連動する構成となっている。したがって、斜板111の回転によりピストン136がシリンダボア101a内を往復動することが可能である。
【0023】
シリンダヘッド104には、中心部側に吸入室141と、吸入室141の径方向外側部分を環状に取り囲む吐出室142とが区画形成されている。吸入室141は、シリンダボア101aとは、バルブプレート103に設けられた連通孔103a、吸入弁(図示せず)を介して連通している。吐出室142は、シリンダボア101aとは、吐出弁(図示せず)、バルブプレート103に設けられた連通孔103bを介して連通している。
【0024】
フロントハウジング102、シリンダブロック101、バルブプレート103、シリンダヘッド104が、図示しないガスケットを介して複数の通しボルト105によって締結されて圧縮機ハウジングが形成される。
【0025】
また図1中、シリンダブロック101の上部にはマフラが設けられ、マフラは蓋部材106と、シリンダブロック101上部に区画形成された形成壁101bが図示しないシール部材を介してボルトで締結されることにより形成される。マフラ空間143には逆止弁200が配置されている。逆止弁200は、連通路144とマフラ空間143との接続部に配置され、連通路144(上流側)とマフラ空間143(下流側)との圧力差に応答して動作し、例えば圧力差が所定値より小さい場合に連通路144を遮断し、圧力差が所定値より大きい場合に連通路144を開放する。このように吐出室142は、連通路144、逆止弁200、マフラ空間143及び吐出ポート106aで形成される吐出通路を介してエアコンシステムの吐出側冷媒回路と接続されている。
【0026】
シリンダヘッド104には、吸入ポート104a、連通路104bが形成され、吸入室141は、連通路104b及び吸入ポート104aで形成される吸入通路を介してエアコンシステムの吸入側冷媒回路と接続されている。吸入通路は、シリンダヘッド104の径方向外側から吐出室142の一部を横切るように直線状に伸びている。
【0027】
シリンダヘッド104には、さらに制御弁300が設けられている。制御弁300は、吐出室142とクランク室140とを連通する連通路145の開度を調整し、クランク室140への吐出ガス導入量を制御する。また、クランク室140内の冷媒は、連通路101c、空間146、バルブプレート103に形成されたオリフィス103cを経由して吸入室141へ流れる。
【0028】
したがって制御弁300によりクランク室140の圧力を変化させ、斜板111の傾角を変化させる(つまり、ピストン136のストロークを変化させる)ことにより可変容量圧縮機100の吐出容量を可変に制御することができる。
【0029】
エアコン作動時(つまり、可変容量圧縮機100が作動状態にある時)には、外部信号に基づいて制御弁300に内蔵されるソレノイドへの通電量が調整され、吸入室141の圧力が所定値になるように吐出容量が可変に制御される。制御弁300は、外部環境に応じて吸入圧力を最適に制御することができる。
【0030】
またエアコン非作動時(つまり、可変容量圧縮機100が非作動状態にある時)には、制御弁300に内蔵されるソレノイドへの通電をOFFすることにより、連通路145を強制開放し、可変容量圧縮機100の吐出容量を最小に制御することができる。
【0031】
(2)リンク機構
駆動軸110にはロータ112が固定され、ロータ112には一対の第1アーム112aが突設されている。一対の第1アーム112aの内側に、ほぼ筒状に形成されたリンクアーム121の一端側121aがガイドされる。さらに、第1アーム112aに形成された貫通孔112bと、リンクアーム121の一端側121aに形成された貫通孔121bとの中に、連結手段としての第1連結ピン122を挿通することにより、リンクアーム121は、一対の第1アーム112aにガイドされながら第1連結ピン122の軸心を回転中心として回動可能となっている。
【0032】
尚、第1連結ピン122はリンクアーム121に形成された貫通孔121bに圧入保持され、第1連結ピン122の外周と第1アーム112aに形成された貫通孔112bとの間には微小な隙間が形成されている。
【0033】
リンクアーム121の他端側121cは、筒状に形成された一端側121aから突設された一対のアームとなっており、その内側に斜板111から突設された第2アーム111bがガイドされる。リンクアーム121の他端側121cに形成された貫通孔121dと、第2アーム111bに形成された貫通孔111cとの中に、連結手段としての第2連結ピン123を挿通することにより、リンクアーム121と斜板111とが連結され、第2連結ピン123の軸心を中心としてリンクアーム121と斜板111とが相対的に回動可能となっている。尚、第2連結ピン123は第2アーム111bの貫通孔111cに圧入保持され、第2連結ピン123の外周とリンクアーム121に形成された貫通孔121dとの間には微小な隙間が形成されている。
【0034】
第1アーム112a、第2アーム111b、リンクアーム121、第1連結ピン122及び第2連結ピン123からリンク機構120が構成されている。したがって斜板111は、駆動軸110に固定されたロータ112とリンク機構120を介して連結し、ロータ112の回転トルクを受けることで回転し、かつ駆動軸110に沿ってその傾角が変化可能となっている。
【0035】
(3)第2連結ピン(傾斜配置)
図5は駆動軸110、ロータ112、リンク機構120及び斜板111の連結体を、リンク機構120に正対する方向から見た状態を示したものである。
【0036】
P1で示される線分は駆動軸110の軸線と斜板の上死点位置(及び下死点位置)とで規定される平面P1であって、この平面P1は図1の断面に相当する。尚、斜板の上死点位置とはピストン136の圧縮工程が終了する位置を指し、下死点位置とはピストン136の吸入工程が終了する位置を指す。P2は斜板111の円環状の平面P2であって、P3は平面P1と平面P2との交線G(図中手前側から奥に向かっている線分)を含み平面P1と直交する平面P3を指す。尚、平面P1で斜板111を圧縮工程側の領域と吸入工程側の領域に分けたとき、図中右側が圧縮工程側、図中左側が吸入工程側となる。
【0037】
本実施態様において、斜板111の円環状の平面P2は2面あるので、どちらか一方をP2に決めれば良い。
【0038】
図6は斜板111をロータ112側から見た状態を示したものである。図中Uは、斜板111の円環状の平面P2と直交し、斜板の上死点位置と貫通孔111aの両側面の中心を含む平面Uであり、Vは平面P2と直交し、かつ平面Uと直交する斜板の枢軸Kを含む平面Vである。平面Uと平面Vの交線を駆動軸110の軸心と一致させた状態が斜板の傾角0°の状態である。平面Uは図中上側が斜板の上死点位置、下側が斜板の下死点位置に一致しており、実質的には平面P1と一致している。第2アーム111bの中心は平面Uに一致している。
【0039】
図6に示すように、第2アーム111bの貫通孔111cの軸方向に沿う軸線mは、平面Uと直交し平面U上で軸線mと交差する軸線nに対して平面U上での交点を中心に角度αだけ傾斜するように加工されているここで軸線nは、角度αまで傾斜させない場合の貫通孔111cの軸方向に沿う軸線である。したがって、図7に示すように貫通孔111cに圧入固定された第2連結ピン123は、図中右側の端部が平面Vに近づき、左側の端部が平面Vから遠ざかるように角度αだけ傾斜している。尚、図5及び図7で角度αは誇張して描かれているが、実際には例えば0.5°未満の小さな角度である。角度αは0.2°〜1°、好ましくは0.2°〜0.5°の範囲に設定される。
【0040】
第2連結ピン123は斜板の傾角0°では平面P2と平行であるから、傾角0°の場合、図5に示すように平面P2は平面P3に一致している。つまり斜板111の円環状の平面P2は平面P1に直交している。
【0041】
(4)斜板の貫通孔(オフセット)
第2連結ピン123の両端部は、リンクアーム121の貫通孔121dに挿通されて支持されるが、リンクアーム121の貫通孔121dは図6に示す軸線nと平行であり、さらにリンクアームの貫通孔121b及び第1アームの貫通孔112bの軸方向に沿う軸線と平行である。
【0042】
駆動軸110、ロータ112、リンク機構120及び斜板111を1つの連結体とした場合に、第2連結ピン123が傾斜していると、第2連結ピン123は貫通孔121dに拘束されているので、斜板111が斜板の貫通孔111aと駆動軸110の外周面との隙間の範囲内で、軸線mと軸線nの交点を中心に図6中の反時計方向に回転し、その結果、貫通孔111aの吸入工程側の側面が駆動軸110の外周面に接触する。
【0043】
貫通孔111aの吸入工程側の側面で駆動軸110の外周面が接触すると、圧縮荷重が作用したとき斜板111の傾きが大きくなり、圧縮荷重の作用点と接触点との距離が圧縮工程側の側面で接触させる場合より大きくなり、摩擦力によって斜板111の変角方向の傾動がスムーズに行なわれない恐れがある。
【0044】
そこで、図8に示すように、駆動軸110の軸線を貫通孔111aの両側面の中心からΔLだけオフセットさせてある。
【0045】
図8(a)は駆動軸110とロータ112の連結体を斜板111側から見たもので、Tは駆動軸110の軸線を含み第1アーム112aの内側の面(リンクアームの一端側121aが当接するガイド面)と平行な平面Tである。
【0046】
ロータ112の一対の第1アーム112aは平面Tに平行に配置され、図中左側の第1アーム112a1におけるリンクアームの一端121a側のガイド面と平面Tとの距離L1は、第1アーム112a2におけるリンクアームの一端121a側のガイド面と平面Tとの距離L2より僅かに大きくなっている。つまり一対の第1アーム112aのガイド面は平面Tに対して対称に配置されておらず、一対の第1アーム112aの中心は平面Tに対して図中左側にΔL=(L1−L2)/2だけオフセットしている。尚、ΔLは図中では誇張して描かれているが、、実際には例えば0.2mm以下の極めて小さな値である。
【0047】
また図8(b)に示すように、リンクアーム121の一端121a側の両端(当接部)及び一対のアーム121cにおける第2アーム111bの2つのガイド面はリンクアーム121の中心に対して左右対称に配置されており、したがってリンクアーム121の中心と、図8(c)に示す平面Uは一致している。
【0048】
したがって、平面Tは貫通孔111aの両側面の中心対して図中左方向にΔLだけオフセットされており、これによって、第2連結ピン123が傾斜していても貫通孔111cの圧縮工程側の側面が駆動軸110の外周面に接触するようになっている。
【0049】
(5)斜板の円環状の平面の傾動
図9は、斜板の傾角が変化したときに平面P2が平面P3に対してどのように傾くのか示したものである。図9(a)は斜板の傾角が最大傾角、図9(b)は斜板の傾角が最小傾角の状態を示す。尚、駆動軸110、ロータ112、リンク機構120及び斜板111の連結体の上側に、第2連結ピン123及び斜板111を矢視の方向から見た状態を模式的に示した。
【0050】
斜板の傾角が最小傾角0°では、図9(b)左上図に示すように第2連結ピン123は平面P2に平行であり、したがって図9(b)右上図に示すように、平面P2は平面P3に一致している。つまり斜板の円環状の平面P2は平面P1に直交している。
【0051】
斜板の傾角が増大して最大傾角となると、図7に示すように第2連結ピン123が傾斜しているので、図9(a)左上図に示すように、第2連結ピン123の図7の左側端部(吸入工程側)がロータの基準面Rから遠ざかる方向に、右側端部(圧縮工程側)がロータの基準面Rに近づく方向に移動しようとする。尚、ロータの基準面Rは軸受133の受け面である。
【0052】
しかしながら、第2連結ピン123の両端部はリンクアームの貫通孔121dで拘束されているので、第2連結ピン123自身は第2連結ピン123と貫通孔121dとの間の隙間の範囲を超えて傾くことができず、その結果、図9(a)右上図に示すように、斜板111が第2連結ピン123の傾き方向と逆方向に傾くことになる。
【0053】
つまり斜板の円環状の平面P2は、圧縮工程側の最外部がロータの基準面Rから最も遠ざかる方向に移動し、吸入工程側の最外部がロータの基準面Rに最も近づく方向に移動して、平面P3に対して角度β傾斜している。したがって平面P2と平面P3とのなす角は斜板の傾角が0°ではゼロで、傾角が増大する従い大きくなり、最大傾角で最大の角度βとなる。
【0054】
可変容量圧縮機100が作動してピストン136がガスを圧縮すると、その圧縮荷重がピストン136を介して斜板111に作用する。
【0055】
圧縮荷重の無い無負荷状態では平面P2は平面P3に対して傾いており、圧縮工程側の面がロータの基準面から遠ざかる方向にあるが、ピストン136がガスを圧縮すると圧縮荷重が作用するので斜板の平面P2が平面P3に近づくように斜板111が傾く。斜板の傾角が最大傾角で運転されるような負荷条件では圧縮荷重も大きくなるので、図10に示すように、最大傾角の近傍で運転したときの斜板の平面P2が平面P3にほぼ一致するように、角度βひいては角度αが設定されている。
【0056】
これにより、圧縮荷重の大きな負荷条件で可変容量圧縮機100を運転したときに平面P2が平面P3とほぼ一致するので、図11に示すように貫通孔111aの傾きが抑制されて貫通孔111aの圧縮工程側の側面と駆動軸110の外周面との接触が線接触に近くなる。これにより貫通孔111aと駆動軸110の外周面との接触部の磨耗が抑制されるとともに、斜板111の傾動がスムーズになる。
【0057】
無負荷状態では平面P2は平面P3に対して傾いているが、斜板の傾角が小さくなればその傾きも小さくなり、また圧縮荷重も斜板の傾角が小さくなれば小さくなるので、斜板の傾角によらず実運転したときの平面P2は平面P3に近づく。したがって斜板の傾角によらず、貫通孔111aの圧縮工程側の側面と駆動軸110の外周面との接触が線接触に近くなり、貫通孔111aと駆動軸110の外周面との接触部の磨耗が抑制されるとともに、斜板の傾動がスムーズになる。
【0058】
上述の実施態様では連結手段としてリンク機構を例示したが、その他のヒンジ機構(例えば特許文献2に示されるようなもの)であっても良い。
【0059】
また、上述の実施態様ではロータの第1アームをオフセットさせているが、リンクアームあるいは斜板の第2アームをオフセットさせても良い。
【0060】
また、上述の実施態様では第2アームに対して第2連結ピンを角度αだけ傾斜させているが、図12に示すように第2アームを平面Uに対して圧縮工程側の領域に向けて角度αだけ傾斜させ、これによって第2連結ピンの軸線mを軸線nに対して角度αだけ傾斜させても良い(この場合、第2連結ピンは第2アームに対して直交して配置される。)。
【0061】
さらに、上述の実施態様ではクラッチレス圧縮機を例示したが、電磁クラッチを装着した可変容量圧縮機や、揺動板タイプの可変容量圧縮機、さらにモータで駆動される可変容量圧縮機にも本発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、車両用エアコンシステム等の可変容量圧縮機として利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
100 圧縮機
101 シリンダブロック
101a シリンダボア
101b 形成壁
101c 連通路
102 フロントハウジング
102a ボス部
103 バルブプレート
103a、103b 連通孔
103c オリフィス
104 シリンダヘッド
104a 吸入ポート
104b 連通路
105 通しボルト
106 蓋部材
106a 吐出ポート
110 駆動軸
111 斜板
111a 貫通孔
111b 第2アーム
111c 貫通孔
112 ロータ
112a、112a1、112a2 第1アーム
112b 貫通孔
114 傾角減少バネ
115 傾角増大バネ
116 バネ支持部材
120 リンク機構
121 リンクアーム
121a リンクアームの一端
121b 貫通孔
121c リンクアームの他端
121d 貫通孔
122 第1連結ピン
123 第2連結ピン
130 軸封装置
131、132、133 軸受
134 スラストプレート
135 調整ネジ
136 ピストン
137 シュー
140 クランク室
141 吸入室
142 吐出室
143 マフラ空間
144、145 連通路
146 空間
200 逆止弁
300 制御弁
K 枢軸
P1、P2、P3、T,U、V 平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12