(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、原子力施設における給排気には、吹流し型フィルタが用いられている。吹流し型フィルタは、エアフィルタとしての機能が終了すると、折り畳んで保管あるいは焼却することができるため、プリーツ型のエアフィルタに比べて取扱性が良い。また袋状フィルタが放射性物質を捕獲している場合、折り畳んだ吹流し型フィルタが保管室に隔離されて長期保管される。このため、濾材をジグザグ形状に折り、このジグザグ形状を維持するためにスペーサ等を使用したプリーツ型のエアフィルタに比べて設置作業性や操作性に優れている。
【0003】
袋状フィルタとして、フィルタ濾材の基材のガラス繊維シートが直接気流に接することを防いで、気流により、ガラス繊維が剥がされることを防止するとともに濾材の寿命が長寿命となる袋状フィルタが知られている(特許文献1)。
具体的には、袋状フィルタは、ガラス繊維製濾材シートの気流に対して上流側および下流側両面に各々補強シートを貼り合わせ、この2枚のガラス繊維製濾材シートを重ね合わせて一側縁を除いて他の側縁部を覆い布で挟みさらに覆い布の上から糸で縫い合わせて袋状にした袋状フィルタ濾材を用いる。
【0004】
また、袋状フィルタとして、ガラス繊維ウールを内部に、不織布を前記ガラス繊維ウールの外側面に配設してバグ状に形成された濾材の、前記ガラス繊維の表層全面に網目状補強材を一体的に固着して(例えば接着剤等を用いて)構成されるフィルタも知られている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1における袋状フィルタではガラス繊維シート(シート状の綿状繊維層)の破損を抑制できる構造であるが、フィルタ特性(その圧力損失、捕集効率、寿命など)を向上させることは難しい。かつ、上記特許文献1及び特許文献2における袋状フィルタでは、処理風量の大きい空調機で使用された場合、濾材面上の風速分布により部分的に風速の差が大きく、乱流が厳しくなり、局所的にバタつき現象が発生し濾材面が毛羽立って早期に濾材としての性能を失う場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、従来の問題点を解決するために、フィルタ特性(その圧力損失、捕集効率、寿命など)を維持しつつ、濾材中のシート状の綿状繊維層の破損を従来品より抑制することができる袋状フィルタ、吹流し型フィルタ及び袋状フィルタ用濾材の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、袋状フィルタである。当該袋状フィルタは、網形状の網部材と、前記網部材の網糸に
直径0.5〜3.0μmのガラス繊維が絡むことにより前記網部材に一体化して前記網部材に積層された
、厚さが5〜10mmで、目付けが7〜10kg/m2であるシート状の綿状繊維層と、を含む一対の積層材が、前記網部材同士が内側に向くように重ね合わされて形成される濾材と、
前記濾材における前記一対の積層材の重ね合わせにより形成される前記濾材の対向する部分が所定距離以上離間しないように前記対向する部分同士を複数の箇所で繋ぐ糸材と、
前記濾材の最外層として設けられて前記綿状繊維層のそれぞれを支持し、流れるエアを透過する一対の支持層と、を有し、
前記支持層のそれぞれは、前記綿状繊維層と前記糸材によって固定されている。
【0009】
前記綿状繊維層は、前記網部材にガラス繊維を吹き付けることで形成された層であることが好ましい。
【0011】
本発明の他の一態様は、吹流し型フィルタである。当該吹流し型フィルタは、
矩形状の外枠部材と、
前記外枠部材に、一方向に配列して係止される複数の内枠部材と
前記複数の内枠部材のそれぞれに固定された、前記袋状フィルタと、
を備える。
【0012】
本発明の他の一態様は、袋状フィルタ用濾材の作製方法である。当該作製方法は、
網形状の網部材を搬送する工程と、
一方向に流れるガス流の中でガラス原料を熔解することにより、ガラス繊維を形成させ、該ガラス繊維を搬送中の前記網部材に絡ませて付着させることにより前記網部材に積層した綿状繊維層を有する一対の積層材を作製する工程と、
前記一対の積層材のうち前記網部材同士が内側に向くように重ね合わせ、前記一対の積層材の重ね合わせにより濾材の内側に向く対向する部分が所定距離以上離間しないように糸材により前記対向する部分同士を複数の箇所で繋ぐ工程と、を含む。
このとき、前記対向する部分同士を複数の箇所で繋ぐ工程は、前記濾材の両側の最外層として設けられて前記綿状繊維層のそれぞれを支持し、流れるエアを透過する一対の支持層のそれぞれを、前記綿状繊維層と前記糸材によって固定することを含む、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記袋状フィルタ、吹流し型フィルタ及び袋状フィルタ用濾材の作製方法によれば、フィルタ特性(その圧力損失、捕集効率、寿命など)を維持しつつ、濾材であるシート状の綿状繊維層の破損を従来品より抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の袋状フィルタ、吹流し型フィルタ及び袋状フィルタ用濾材の作製方法について詳細に説明する。
図1は、本発明の吹流し型フィルタの一実施形態である吹流し型フィルタ10の概略構成を示す図である。
図2は、吹流し型フィルタ10の一部分の構成を示す図である。
【0016】
(吹流し型フィルタ)
吹流し型フィルタ10は、
図1に示されるように、袋状フィルタを多数配置した形態のフィルタユニットである。吹流し型フィルタ10は、外枠部材12と、複数の内枠部材14と、複数の袋状フィルタ16と、を備える。
外枠部材12は、矩形形状を成しており、スチール等で構成されている。
内枠部材14は、矩形形状の枠を成しており、スチール等で構成されている。内枠部材14は、
図2に示すように、袋状フィルタ16の開口部のサイズに対応するように内枠部材14のサイズが定められている。袋状フィルタ16の開口部の周上の縁が内枠部材14の外周に接するように、内枠部材14に袋状フィルタ16が装着される。したがって、袋状フィルタ16が装着された複数の内枠部材14は、外枠部材12に一方向に配列して係止される。このとき、隣接する内枠部材14同士が、内枠部材14に設けられた貫通孔を通してネジ14aで締結される。これにより、内枠部材14に袋状フィルタ16が固定される。さらに、一列に並んだ内枠部材14のそれぞれの外枠部材12と接する部分が図示されないネジ等により外枠部材12に対して固定される。
このようにして、
図1に示すような吹流し型フィルタ10が作製される。
【0017】
(袋状フィルタ)
図3(a),(b)は、袋状フィルタ16の構成を示す図である。袋状フィルタ16は、網部材20と、綿状繊維層22と、支持層24と、を含む濾材を有する。この濾材は、網部材20、綿状繊維層22、及び支持層24が積層されて構成されている。網部材20及び綿状繊維層22は積層材として予め作製されている。そして、一対の積層材が、袋型の形状になるように、網部材20同士が内側を向き、支持層24が外側を向くように重ね合わされて袋状の濾材が形成されている。一対の積層材を構成する網部材20及び綿状繊維層22と、支持層24とを周辺縫製糸18a,18b,18cで3辺縫製加工することで袋状の濾材の形状が維持される。さらに、一対の積層材が重ね合わされて形成される内側に向く濾材の対向する部分同士が、所定距離以上離間しないように、重ね合わされた対向する部分同士が複数の箇所で糸材26aにより繋がれている。
【0018】
図4は、網部材20と、綿状繊維層22と、支持層24の構成を示している。
網部材20は、ガラスからなる繊維を複数撚って束ねた網繊維が格子状に配置されて形成されている。網部材20の網繊維は、例えば2.5〜3.0dtexである。網部材20における網繊維が配置される矩形形状の一辺の長さ(網目の大きさ)は、例えば3〜7mmであることが、後述する綿状繊維層22の耐久性を維持して長期間エアフィルタの機能を保持することができる点で、さらに、綿状繊維層22を一体化して積層材を形成する点で好ましい。網繊維による網の形状は格子状に限らず、三角形状、六角形状等であってもよく、網繊維の網の形状は限定されない。
【0019】
綿状繊維層22は、ガラス繊維ウールからなり、例えば、直径0.5〜3.0μmである。綿状繊維層22の厚さは、例えば5〜10mmである。綿状繊維層22は、エア中の粒子(平均0.7μm)を捕集する機能を有する。綿状繊維層22の捕集効率は、70%以上(平均0.7μmの粒子)であることが好ましい。また、綿状繊維層22の圧力損失は、100Pa以下であることが好ましい。綿状繊維層22の目付けは、例えば7〜10kg/m
2であることが好ましい。
このようなガラス繊維ウールは、網部材20の網糸にガラス繊維ウールが絡むことにより網部材20に一体化して網部材20に積層されている。
【0020】
支持層24は、綿状繊維層22を支持する。支持層24は、ビニロン、ポリプロピレン、ポリエステルからなる不織布、あるいはガラスネット等が用いられる。支持層24は、流れるエア中の粒子(平均0.7μm)を捕集する機能を有さず、又、圧力損失も略0である。隣接する綿状繊維層22と一体化されて接合されておらず、糸材26aによって、綿状繊維層22及び網部材20に対して部分的に固定されているだけである。支持層24は、綿状繊維層22と一体化されて接合されていなくても(積層材と一体化されて接合されていなくても)、綿状繊維層22を支持することができる。
なお、上述した網部材20も、支持層24と同様に捕集機能を有さず、圧力損失も略0である。
【0021】
このように、濾材において、綿状繊維層22は、網部材20に対して、接着剤を用いて固着されず、綿状繊維層22のガラス繊維ウールが網部材20の網糸に絡むことにより網部材20に一体化して網部材20に積層されている。綿状繊維層22は、ガラス繊維ウールが網部材20の網糸に絡むように、繊維間を固定するバインダを含んでいる。従来、綿状繊維層20を網部材20に積層するために用いられてきた固着、例えば接着剤等を用いて綿状繊維層22を網部材20に固着する方法では、綿状繊維層22が部分的に圧縮されて固着されるため、綿状繊維層22の嵩が減る。この結果、綿状繊維層22の捕集効率や圧力損失は影響を受けやすい。このため、本実施形態では、綿状繊維層22のガラス繊維ウールが網部材20の網糸に絡むことにより網部材20に一体化して網部材20に積層される。
【0022】
濾材において一対の積層材が重ね合わされた内側の面に網部材20を設けるのは、綿状繊維層22のガラス繊維ウールがエアの風圧によって毛羽立ち、さらに部分的にガラス繊維ウールが綿状繊維層22から剥離して厚さが薄くなり、濾材としての機能を発揮することができなくなるためである。
図5(a),(b)は、従来の網部材がない袋状フィルタにおいて綿状繊維層の一部分が剥離して厚さが薄くなった状態を示す写真である。網部材20を設けることにより、圧力損失を増大させること無く、ガラス繊維ウールの毛羽立ち及び綿状繊維層22からの部分的な離脱を抑制することができる。このような網部材20の効果をより有効には発揮させる点から、網繊維が配置される網目(矩形形状)の間隔は3〜7mmであることが好ましい。
【0023】
図6は、網部材20に綿状繊維層22を形成する方法を実行するシステム30を模式的に示す図である。
システム30は、駆動ローラ32a,32b,32cと、金網ベルト34と、ガラスフィラメント36と、ガスバーナ38と、乾燥機40と、を主に有する。
金網ベルト34は、駆動ローラ32a,32b,32cに巻きまわされ、駆動ローラ32a,32b,32cの回転により金網ベルト34が矢印方向に移動するように構成されている。
金網ベルト34の搬送方向上流側には、ガラスフィラメント36とガスバーナ38とが設けられている。乾燥機40は、金網ベルト34の搬送方向の下流側に設けられている。
【0024】
網部材20は、駆動ローラ30a,30b,30cによって移動する金網ベルト34に載せられて移動して搬送される。このとき、ガラスフィラメント36(フィラメント直径0.3mm)の先端部がガスバーナ38からの高温・高圧の燃焼ガスにより溶融され、ガラスフィラメント36は細かなガラス繊維ウールとなり、金属ベルト34によって移動する網部材に20に吹き付けられる。ガラス繊維ウールが網部材20に向かうガスの流れには液体状態のバインダ42がガス流に供給される。これにより、網部材20にガラス繊維ウールが絡んで、綿状繊維層22が形成される。
【0025】
金網ベルト34の内側には、図示されない吸気口が設けられ、この吸気口は、網部材20を通過したガス流を吸引するように負圧の雰囲気をつくっており、ガラス繊維ウールをガラスフィラメント36から網部材20の方向に向かって引っ張るとともに、金網ベルト34の網からすり抜けて通過したガラス繊維ウールを吸引し回収する。
金網ベルト34によって搬送される網部材20には、ガラス繊維ウールが網部材20の網繊維に絡んで徐々に付着し、これにより綿状繊維層22が形成される。網状繊維層22は、搬送中に徐々に冷却される一方、乾燥機40に搬送されて、乾燥される。
このようにして、網部材20の網繊維にガラス繊維ウールが絡むことにより、網部材20と一体化した綿状繊維層22が形成される。綿状繊維層22の目付けは、金網ベルト34の搬送速度及びガラス繊維ウールを吹き付けるためのガスの流速等を制御することにより行われる。
【0026】
すなわち、網部材20、綿状繊維層22、及び支持層24を有する濾材を作製する方法では、まず、網形状の網部材20を金網ベルト34によって搬送する。このとき、一方向に流れるガス流の中でガラス原料であるガラス繊維フィラメント36を熔解することにより、ガラス繊維ウールを形成させ、このガラス繊維ウールを搬送中の網部材22に付着させることにより網部材に積層した綿状繊維層22を有する一対の積層材を作製する。
次に、この一対の積層材のうち網部材22が内側に向くように一対の積層材が図示されない機材を用いて重ね合わされ、この重ね合わせにより内側に向いて対向する部分が所定距離以上離間しないように糸材26aにより、上記対向する部分同士が複数の箇所で繋がれる。上記対向する部分は、最外層の支持層24から糸材26aで繋げられている。
さらに、重ね合わされた一対の積層材の縁のうち、袋の開口部となる部分を除いた縁の部分が、図示されない機材を用いて、糸で縫い合わせられて袋形状にされる。
このようにして、袋状フィルタ用濾材は作製される。
[実験例]
【0027】
本実施形態の袋状フィルタ用濾材の効果を調べるために、
図1に示す吹流し型フィルタを作製して濾材に用いる綿状繊維層の剥離の有無を調べた。
作製した吹流し型フィルタは、比較例1,2と、実施例1である。
実施例1は、
図3に示す形態であり、綿状繊維層22のガラス繊維ウールが網部材20の網糸に絡んで網部材20と一体化されている。実施例1では、厚さ0.5mm、網目の大きさ5mmのガラス繊維からなる網部材20を用いた。綿状繊維層22は、目付け45g/m
2で厚さが7mmであり、綿状繊維層22の捕集効率(直径0.7μmの粒子)は、85〜90%であり、圧力損失は、30〜40Paである。支持層24は目付け40g/m
2で、厚さが0.5mmであるポリエステルからなる不織布を用いた。
比較例1は、
図7(a)に示すように、綿状繊維層22を内側に、支持層24を外側に重ね、濾材のうち互いに対向する部分を複数の箇所で糸材26aで繋げた構成である。比較例1では、実施例1の綿状繊維層22と支持層24と同様のものを用いた。
比較例2は、
図7(b)に示すように、実施例1と同じ層構成であるが、網部材20と綿状繊維層22を接着剤で固着させて一体化した形態である。比較例2では、実施例1の網部材20と綿状繊維層22と支持層24と同様のものを用いた。
【0028】
このようなエアフィルタ用濾材を用いた吹流し型フィルタを用いて、風速6.2m/秒、風速7.75m/秒の2種類でエアを長時間吹き流して、綿状繊維層22の剥離の有無を調べた。風速6.2m/秒、風速7.75m/秒はそれぞれ、通常用いられる風速の2倍、2.5倍である。綿状繊維層22の剥離の有無は、1時間経過する度に、濾材の表面を目視で観察して判断した。
【0029】
比較例1では、風速6.2m/秒(通常の風速の2倍)において、実験開始後2時間で綿状繊維層22の剥離が確認された。
また、比較例1では、風速7.75m/秒(通常の風速の2.5倍)において、実験開始後1時間で綿状繊維層22の剥離が確認された。
これに対して、比較例2では、風速6.2m/秒(通常の風速の2倍)において、実験開始後5時間経過しても綿状繊維層22の剥離は確認されなかったが、風速7.75m/秒(通常の風速の2.5倍)において、実験開始後6時間後に、綿状繊維層22の剥離が確認された。
【0030】
実施例1では、風速6.2m/秒(通常の風速の2倍)において、実験開始後5時間経過しても綿状繊維層22の剥離は確認されなかった。風速7.75m/秒(通常の風速の2.5倍)においても、実験開始後10時間経過しても、綿状繊維層22の剥離が確認されなかった。
これより、本実施形態は、濾材であるガラス繊維ウールやガラス繊維シート等の剥離による破損を抑制することができることがわかる。また、支持層24や網部材20は、圧力損失に影響を与えないので、フィルタ特性を維持することができる。
【0031】
本実施形態では、綿状繊維層22は、網部材20にガラス繊維を吹き付けることで形成された層であるので、接着剤を用いて固着させる場合に比べて、綿状繊維層22を圧縮することはないので、捕集効率や圧力損失に影響を与えにくい。
また、綿状繊維層22を支持し、流れるエアを透過する支持層24が濾材の最外層に設けられているので、より一層綿状繊維層22の剥離を抑制することができる。
袋状フィルタ用濾材の作製方法では、一方向に流れるガス流の中でガラス原料を熔解して作られるガラス繊維を搬送中の網部材20に絡ませて付着させることにより網部材20に積層した綿状繊維層22を形成するので、網部材20に容易に綿状繊維層22を形成させることができる。
【0032】
以上、本発明の袋状フィルタ、吹流し型フィルタ及び袋状フィルタ用濾材の作製方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。