【文献】
栗田進,偏光(No.4),株式会社ルケオ HP,2005年12月12日,URL,www.luceo.co.jp/technical/pdf/henkou4.pdf
【文献】
SATOU, M. et al.,A Method of Estimating the Refractive Index of Hydrocarbons in Coal Derived liquids by a Group Contribution Method,石油学会誌,日本,石油化学会,1992年,Vol.35/No.6,pp.466-473
【文献】
HOSHINO, D, et al.,Prediction of Refractive Index of Aliphatic Hydrocarbons,石油学会誌,日本,石油学会,1979年,Vol.22/No.4 ,pp.218-222
【文献】
谷尾宣久ほか,光学ポリマーの屈折率予測システム,高分子論文集,2009年 1月,Vol.66/No.1,pp.24-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によれば、化学物質の屈折率は式(1)により算出することが可能である。
n
D=[(1+2×Σm
in
Fi/V
mol)
/(1−Σm
in
Fi/V
mol)]
0.5 (1)
式中、n
Dは屈折率を表し、m
iはフラグメントiの個数を表し、n
Fiはフラグメントiの屈折率に関する加成的な寄与に対応するパラメータ(以下、「フラグメントの屈折率指数(n
Fi)」ということがある)を表し、V
molは化学物質のモル体積を表す。
【0013】
ここで、式(1)のΣm
in
Fiは以下に示す式(11)のように書き換えることができる。
Σm
in
Fi=m
A×n
FA + m
B×n
FB + m
C×n
FC + … (11)
式中、m
Aは化学物質中のフラグメントAの個数を、n
FAはフラグメントAに対応するフラグメント屈折率指数を表し、m
Bは化学物質中のフラグメントBの個数を、n
FBはフラグメントBに対応するフラグメント屈折率指数を表し、m
Cは化学物質中のフラグメントCの個数を、n
FCはフラグメントCに対応するフラグメント屈折率指数を表し、…以下同様にフラグメントの個数およびフラグメントの屈折率指数を表す。
【0014】
式(1)中のフラグメントの屈折率指数(n
Fi)は、特許文献1に記載の方法によっても求めることができるが、以下に示すような方法によって求めることが好ましい。
【0015】
前記フラグメント屈折率指数(n
Fi)は、あらかじめ複数の屈折率既知の化学物質を選定し、それぞれの化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、そのフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m
i)に関する情報、その化学物質のモル体積(V
mol)および化学物質の屈折率(n
D)のデータを入手し、あらかじめ選定した複数の既知化学物質の前記データを用いて式(2)で重回帰解析することにより、その化学物質を構成するフラグメントiの屈折率指数(n
Fi)の値を算出する。
(n
D2−1)/(n
D2+2)=Σm
in
Fi/V
mol (2)
【0016】
上記の式(1)により化学物質の屈折率(n
D)を推算する際に、または上記の式(2)により重回帰解析する際に、推算する化学物質のモル体積(V
mol)は、その化学物質のモル体積(V
mol)が既知であれば、その値を用いることができるが、化学物質のモル体積(V
mol)が分かっていない場合、密度既知の化学物質であれば分子量を密度で除して求めることができる。化学物質の密度は、たとえば文献(J.A.Riddick, W.B.Bunger and T.K.Sakano, 1986,John Wiley & Sons,Techniques of Chemistry Volume II Organic Solvents)および試薬カタログ(アルドリッチ社試薬カタログ)、に収録されたデータを用いることができる。
【0017】
また、密度未知の化学物質であれば化学物質のモル体積は分子力場計算あるいは半経験的分子軌道法計算で求めることができる。分子力場計算および半経験的分子軌道法計算は、CambridgeSoft社製ChemDrawやフリーの3D分子モデル作成ソフトFacioなどで行うことができる。
【0018】
さらに、モル体積(V
mol)が未知物質である場合は、以下のようにしてその化学物質のモル体積(V
mol)を求めることができる。
すなわち、あらかじめ複数のモル体積(V
mol)既知の化学物質を選定し、それぞれの化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、そのフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m
i)に関する情報およびその化学物質のモル体積(V
mol)のデータを入手し、前記データを用いて式(3)で重回帰解析することにより、フラグメントiのフラグメントiのモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータ(V
i)(以下、「モル体積指数(V
i)」ということがある)を算出することができる。
V
mol=Σm
iV
i (3)
【0019】
また式(3)と上記のようにして算出したフラグメントiのモル体積(V
i)を用いて化学物質のモル体積を算出することができる。
ここで、式(3)は以下に示す式(31)のように書き換えることができる。
V
mol=m
A×V
A+m
B×V
B+m
C×V
C+… (31)
式中、m
Aは化学物質中のフラグメントAの個数、V
AはフラグメントAのモル体積指数を表し、m
Bは化学物質中のフラグメントBの個数を表し、V
BはフラグメントBのモル体積指数を表し、m
Cは化学物質中のフラグメントCの個数を、V
CはフラグメントCのモル体積指数を表し、…以下同様にフラグメントの個数およびフラグメントのモル体積指数を表す。
【0020】
本発明システムの化学物質のフラグメントに分解する手法は任意であるが、推算システムの汎用性を高くするためにはフラグメントを小さくする方が好ましい。
【0021】
そして、化学物質を部分構造ごとに分解したフラグメントに含まれる炭素原子の数が1以下であるようにフラグメントを分解することが好ましい。
【0022】
より好ましくは、フラグメントに含まれる炭素原子の数が1のフラグメント、その化学物質の特性に影響を及ぼしている官能基もしくはヘテロ原子のみのフラグメントに分解する手法がより好ましい。
【0023】
フラグメントに含まれる炭素数が1であれば、炭素原子とヘテロ原子からなるその化学物質の特性に影響を及ぼしている官能基をフラグメントに優先して分解することが好ましく、炭素数が1のフラグメントにギ酸エステル類およびギ酸アミド類を構成する上で必要なホルミル水素が含まれている場合には、ホルミル水素(H(CO)−)をフラグメントとすることが好ましい。
【0024】
例えば、ホルミル水素(H(CO)−)、メチル基(−CH
3)、sp
3メチレン基(−CH
2−)、sp
3メチン基(−CH<)、sp
3四級炭素(>C<)、sp
2メチレン基(CH
2=)、sp
2メチン基(−CH=)、sp
2四級炭素(>C=)、spメチン基(CH≡)、sp四級炭素(−C≡)、フッ素原子(−F)、塩素原子(−Cl)、臭素原子(−Br)、ヨウ素原子(−I)、水酸基(−OH)、エーテル基(−O−)、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、オキシカルボニル基(−COO−)、第二アミド基(−CONH−)、第三アミド基(−CON<)、一級アミノ基(−NH
2)、二級アミノ基(−NH−)、三級アミノ基(−N<)、sp
2窒素(−N=)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO
2)、メルカプト基(−SH)、スルフィド基(−S−)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO
2−)、などに分解するのが好ましい。
【0025】
なおホルミル水素は、ギ酸エステル類およびギ酸アミド類を構成する上で必要なフラグメントである。
【0026】
上記で、炭素原子とヘテロ原子からなるその化学物質の特性に影響を及ぼしている官能基をフラグメントに優先して分解したのが、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、オキシカルボニル基(−COO−)、第一アミド基(‐CONH
2)、第二アミド基(−CONH−)、第三アミド基(−CON<)、一級アミノ基(−NH
2)、二級アミノ基(−NH−)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO
2)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO
2−)である。
【0027】
上記のようなフラグメントに分解することで、一置換のベンゼン環はsp
2メチン基(−CH=)5個と、sp
2四級炭素(>C=)1個で表すことができ、二置換ベンゼン環はsp
2メチン基(−CH=)4個と、sp
2四級炭素(>C=)2個で表すことができ、三置換ベンゼン環はsp
2メチン基(−CH=)3個と、sp
2四級炭素(>C=)3個で表すことができる。以下同様に6置換ベンゼン環までsp
2メチン基(−CH=)と、sp
2四級炭素(>C=)の2種類フラグメントで表すことができる。また一置換ピリジン環はsp
2メチン基(−CH=)4個と、sp
2四級炭素(>C=)1個およびsp
2窒素(−N=)1個であらわすことができ、二置換チアゾール環はsp
2メチン基(−CH=)1個と、sp
2四級炭素(>C=)2個と、sp
2窒素(−N=)1個およびスルフィド基(−S−)1個で表すことができる。この様に複雑な複素環も上記フラグメントを組み合わせることによって表すことができる。
【0028】
ここで、ホルミル基(−CHO)を末端に有する化合物について、詳細に説明すると、ギ酸エステル類およびギ酸アミド類を構成する上で必要なホルミル水素が含まれている場合には、ホルミル水素(H(CO)−)をフラグメントとすることが好ましく、それ以外の化合物ではホルミル基(−CHO)をフラグメントにすることが好ましい。すなわち、ギ酸エステル類では、ホルミル水素(H(CO)−)、とオキシカルボニル基(−COO−)のフラグメントに分解し、ギ酸アミド類では、ホルミル水素(H(CO)−)、と、第二アミド基(−CONH−)又は第三アミド基(−CON<)のフラグメントに分解することになる。
【0029】
また、リン、ケイ素、ホウ素のヘテロ原子を含む場合のフラグメントへの分解は、ホスホリル基(−PO<)のような官能基のフラグメントとホスフィン基(−P<)、ケイ素原子(>Si<)、ホウ素原子(−B<)などのヘテロ原子のみのフラグメントに分解するのが好ましい。
更に、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、等の金属原子を含む場合は、そのヘテロ原子単位をフラグメントにするのが好ましい。
【0030】
このように、フラグメントに分解することにより、前記式(2)及び前記式(3)の重回帰解析、前記式(3)のモル体積(V
mol)または前記式(1)の屈折率を算出する式のフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m
i)を求めることができる。
【0031】
本発明による化学物質の屈折率の推算には、予め、推算に用いる前記式(1)の計算に適用するフラグメントごとの定数である屈折率指数に関する加成的な寄与に対応するパラメータ(n
Fi)の値を決定しておく必要がある。
【0032】
フラグメントの屈折率指数(n
Fi)の決定は、既知化学物質のデータを用いて前記式(2)による重回帰解析によって求められ、モル体積(V
mol)の決定は、既知化学物質のデータを用いて前記式(3)による重回帰解析によって求められるが、重回帰解析に用いる既知化学物質の数は、できるだけ多いほうが好ましく、少なくとも数十以上の既知化学物質のデータが必要である。
【0033】
また、重回帰解析に用いる複数の既知化学物質の選定においては、屈折率を推算したい化学物質をフラグメントに分解したある特定のフラグメントを含む化学物質が二つ以上存在することが好ましい。より好ましくは5個以上存在することが好ましい。
【0034】
さらに、重回帰解析に用いる複数の既知化学物質の選定においては、屈折率を推算したい化学物質と類似したフラグメントから構成された複数の既知化学物質を選定しておくことも有効である。
【0035】
そして、重回帰解析は、汎用パソコンおよび汎用計算ソフトウエアを用いて行うことができる。
【0036】
次に、屈折率を推算したい化学物質の屈折率を算出する方法について説明する。
【0037】
最初に、化学物質の化学構造式を決定し、対象となる化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解することにより、フラグメントの種類とフラグメントごとの個数(m
i)のデータを求める。続いて、フラグメントごとの定数である屈折率指数(n
Fi)が決定している前記式(1)により演算して演算値を求めることにより、対象となる化学物質の屈折率(n
D)を求めることができる。
【0038】
更に、本発明の化学物質の屈折率推算方法は、以下に示すように化学物質の屈折率推算システムとすることもできる。
すなわち、情報処理装置において、(A)あらかじめ選定した複数の化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解するステップと、(B)あらかじめ選定した複数の化学物質のモル体積(V
mol)および化学物質の屈折率(n
D)について前記式(2)で重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(n
Fi)の値を算出するステップと、(C)対象となる化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解するステップと、(D)ステップBで算出されたフラグメント屈折率指数(n
Fi)の値を上記の関係式に入力して決定された推算式に基づいて、対象となる化学物質のモル体積(V
mol)から演算値を求めることにより、対象となる化学物質の屈折率(n
D)を決定するステップ、を有する屈折率推算システムである。
【0039】
ここで、対象となる化学物質のモル体積(V
mol)は、前記(3)式により既知化学物質のデータを用いて重回帰解析によって求めた値を用いることができる。
【0040】
前記屈折率推算システムについて更に詳細に説明する。
【0041】
図1に、本実施形態に係る屈折率推算方法が実行される屈折率計算装置10を示す。屈折率推算装置10は、具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピューター等の情報処理装置である。屈折率推算装置10は、例えば中央演算処理装置(CPU)や内部メモリ等のハードウェアにより構成されており、これらの構成要素が動作することにより後述する屈折率推算装置10としての機能が発揮される。なお、本実施形態に係る屈折率推算方法を情報処理装置に対して実行させるプログラムが屈折率推算装置10において実行されることにより、本方法が行われてもよい。
【0042】
屈折率推算装置10は、化学物質情報部11と、化学物質選定部12と、フラグメント分解部13と、重回帰分析部14と、回帰式作成部15と、判断部16と、未知化学物質情報部17と、屈折率推算部18と出力部19とを備えて構成される。また、屈折率推算装置10は、外部装置20と接続されており、外部装置20から情報が入力される。
【0043】
化学物質情報部11は、化学物質の構造式、屈折率、分子量、比重、モル体積などの情報を蓄積する。情報の入力は外部装置20から行われる。化学物質選定部12は、化学物質情報部11の中から複数の化学物質を選定する。フラグメント分解部13は、化学物質選定部12で選定された化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める。重回帰分析部14は、化学物質選定部12で選定された化学物質の屈折率、モル体積、およびそれらの化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメントの種類および個数のデータを重回帰分析する。回帰式作成部15は、重回帰分析部14で分析した結果を回帰式として出力および記憶する。
【0044】
判断部16は、重回帰分析部14で重回帰分析した結果があらかじめ設定された条件を満足するか否かを判断して、満足していると判断されたら当該回帰式を回帰式作成部15に出力および記憶させ、満足していないと判断されたら上記化学物質の選定および/またはフラグメント分解を変更して再度重回帰解析をして回帰式を求める。
【0045】
未知化学物質情報部17は、屈折率を推算する化学物質の構造式、分子量、比重、モル体積などの情報を蓄積し、化学物質情報部11と同一の部でも良い。屈折率推算部18は、回帰式作成部15より出力および記憶された回帰式に、未知化学物質情報部17の屈折率を推算する化学物質の情報および屈折率を推算する化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメント種類および個数のデータを代入して推算屈折率を算出する。出力部19は、屈折率推算部18で算出された推算屈折率を出力する。
【0046】
上記の各構成要素の処理は、全て情報処理として行われる。それぞれの処理の具体的内容については、より詳細に後述する。
【0047】
以下、本実施形態に係る屈折率推算方法(屈折率推算装置10において実行される処理)を説明する。まず、屈折率推算回帰式の作成方法の基本的な処理を第一の処理として
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0048】
まず化学物質選定部12が、化学物質情報部11に蓄積された化学物質から複数の化学物質を選定する(S01)。選定は、重回帰解析を統計的に有意のものにするために後述するフラグメント分解ステップで設定される各フラグメントが5つ以上の化学物質に含まれるように化学物質を選定することが好ましい。選定される化学物質の総数は特に制限がないが、少なすぎると回帰式の精度が悪くなり好ましくない。化学物質の総数は多い方が精度の上では好ましいが、多すぎると計算時間が長くなりすぎる。上記を考慮して、フラグメントの種類が30〜40程度の場合は選定される化学物質の総数が150〜250程度が好ましい。
【0049】
次いでフラグメント分解部13が、選定した複数の化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める(S02)。化学物質のフラグメントの分解方法はあらかじめ設定しておく。化学物質をフラグメントに分解する手法は任意であるが、推算システムの汎用性を高くするためにはフラグメントを小さくする方が好ましく、フラグメントに含まれる炭素原子の数が1のフラグメントもしくはヘテロ原子のみのフラグメントに分解する手法がより好ましい。
【0050】
次いで重回帰解析部14が、化学物質選定部12で選定された化学物質の屈折率、モル体積、およびそれらの化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメントの種類および個数のデータを、式(2)を用いて重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(n
Fi)の値を算出する(S03)。
(n
D2−1)/(n
D2+2)=Σm
in
Fi/V
mol (2)
式中m
iは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、n
Fiはフラグメントiの屈折率指数を表し、V
molは化学物質のモル体積を表す。
重回帰の手法はあらかじめ設定しておく。重回帰の手法は任意であるが、最小二乗法が好ましい。
【0051】
上記の処理(S01〜S03)が終了すると判断部16が、回帰式があらかじめ設定された条件を満足しているか否かを判断する(S05)。あらかじめ設定された条件は例えば重相関係数の自乗が下限閾値以上というものである。この閾値はあらかじめ判断部に記憶されている。
【0052】
判断部16が条件を満たしていないと判断した場合は、判断部16は、化学物質選定部12に再度化学物質の選定を行うように制御がなされる(S04)。化学物質選定部12が再度化学物質情報部11に蓄積された化学物質から複数の化学物質を選定し、一連の処理(S01〜S03)が行われる。
【0053】
判断部16が条件を満たしていると判断した場合は、重回帰解析結果を回帰式として回帰式作成部15に出力および記憶させるよう制御がなされる(S05)。
【0054】
次に、未知化学物質の屈折率を推算する基本的な処理を第二の処理として
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0055】
フラグメント分解部13が、未知化学物質情報部17に蓄積された屈折率を推算する化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める(S11)。化学物質のフラグメントの分解方法はS02の分解方法と同一にする。
【0056】
次いで、屈折率推算部18が、S05において出力および記憶された回帰式に、未知化学物質情報部17の屈折率を推算する化学物質の情報、およびS11において屈折率を推算する化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメント種類および個数のデータを代入して推算屈折率を算出する(S12)。
【0057】
次いで、出力部19が、S12で算出された推算屈折率を出力する(S13)。出力部19は、屈折率推算部18で算出された推算屈折率を出力する。出力は、ユーザが推算屈折率の情報を参照できるように、例えば、屈折率推算装置10が備えるディスプレイ等の表示装置に表示することにより行われる。それ以外でも、別の装置への出力が行われてもよい。また、推算屈折率の出力の際に、併せて当該推算屈折率の算出の対象となった化学物質の構造に関する情報が出力されてもよい。
【実施例】
【0058】
(実施例)
本実施形態に係る屈折率推算方法により、化学物質の屈折率を推算した実施例を示す。本実施例は、
図1に示した本実施形態に係る屈折率推算方法が実行される屈折率計算装置10にて
図2および
図3に示したフォローチャートに従って行った。
【0059】
180種の化学物質を選定して溶解パラメータ計算装置に入力した。180種の化学物質は、2‐ヘキシン、スクワレン、2‐メチル‐1‐ヘキセン‐3‐イン、1,7‐オクタジイン、1‐エチニルシクロヘキサン、イソプロピルベンゼン、1‐メチルナフタレン、1,2‐ジメチルナフタレン、テトラヒドロナフタレン、スチレン、フルオロベンゼン、p‐ジフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、3‐フルオロフェノール、パーフルオロデカリン、塩化イソブチル、1‐クロロナフタレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1‐ジクロロエチレン、2‐ブロモプロパン、臭化t-ブチル、1-ブロモナフタレン、ブロモエチレン、1,1,2,2‐テトラブロモエチレン、1‐ヨードブタン、ジヨードメタン、1,3‐ジヨードプロパン、ヨードベンゼン、1‐ヨードナフタレン、2‐プロパノール、ベンジルアルコール、プロパルギルアルコール、1,2‐エタンジオール、グリセロール、2,4‐ジメチルフェノール、2‐エチルフェノール、3‐クロロフェノール、サリチルアルデヒド、2‐t‐ブチルフェノール、1,2‐ジメトキシエタン、シクロヘキセンオキサイド、1,4‐ジオキサン、アニソール、t‐ブチルメチルエーテル、ピバルアルデヒド、シクロヘキサンカルボアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、2‐シクロヘキセン‐1‐オン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、2,3‐ペンタンジオン、ギ酸、イソ吉草酸、シクロヘキシル酢酸、アクリル酸、プロピオール酸、ギ酸エチル、ギ酸フェニル、酢酸ビニル、酢酸プロパルギル、トリアセチン、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、桂皮酸エチル、マレイン酸ジブチル、γ‐ブチロラクトン、ニトロメタン、2‐ニトロプロパン、1‐ニトロシクロヘキセン、ニトロベンゼン、2‐ニトロアニソール、ペンタフルオロニトロベンゼン、アセトニトリル、イソブチロニトリル、シアン化ベンジル、o‐トルニトリル、2‐クロロアクリロニトリル、メタクリロニトリル、t‐ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、m‐トルイジン、アリルアミン、エチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ピロール、モルホリン、ピペリジン、N‐メチルアニリン、N‐メチルピペリジン、トリエチルアミン、N,N‐ジメチルアニリン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N‐ジメチル‐1−アミノナフタレン、トリエタノールアミン、ピリジン、3‐ピコリン、2,4,6‐トリメチルピリジン、キノリン、1‐クロロイソキノリン、2‐メチルピリミジン、ホルムアニリド、N‐メチルアセトアミド、N‐エチルホルムアミド、N‐アセチルモルホリン、N‐ベンジルピロリドン、N‐メチルピロリドン、1‐ブタンチオール、1,2‐エタンジチオール、シクロヘキサンチオール、ベンゼンチオール、3‐メチルベンゼンチオール、エチルビニルスルフィド、チオアニソール、ジブチルスルフィド、プロピレンスルフィド、テトラヒドロチオフェン、1,3‐ジチオラン、1,3‐チアゾリジン、チオモルホリン、ジメチルジスルフィド、ジアリルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、ジt‐ブチルジスルフィド、ジメチルスルホキシド、ジビニルスルホキシド、メチル(メチルスルフィニル)メチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン1‐オキサイド、フェニルメチルスルホキシド、3‐(メチルスルホニル)‐1‐プロピン、エチルビニルスルホン、ベンゼンスルホニルシアニド、フェニルスルホニル酢酸メチル、スルホラン、(メチルスルホニル)酢酸エチル、ジエチルメトキシボラン、ジイソプロポキシメチルボラン、5,6‐ジヒドロ‐2‐フェニル‐4H‐1,3,2‐ジオキサボリン、ホウ酸トリイソプロピル、2‐メトキシ‐4,4,6‐トリメチル‐1,3,2‐ジオキサボリナン、ホウ酸トリブチル、トリエチルホスフィン、1,2‐ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、ジメチルフェニルホスフィン、メトキシジフェニルホスフィン、フェニルジメトキシホスフィン、亜リン酸トリメチル、リン酸トリス(2,2,2‐トリフルオロエチル)、メチルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ホスフィニルギ酸メチル、(ヒドロキシメチル)ホスホン酸ジエチル、リン酸トリブチル、リン酸ジエチル4‐ニトロフェニル、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、アセチルトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、1,3‐ジメチルテトラビニルジシロキサン、テトラエトキシシラン、1,2‐ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタン、トリメチル(フェニル)スズ、ジ(トリブチルスタンニル)オキシド、臭化トリエチルスズ、二酢酸ジブチルスズ、テトラキス(ジメチルアミノ)スズ、オルトチタン酸テトライソプロピル、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラ(2−エチルヘキシル)、トリブトキシ塩化チタン、チタニウムジブトキシドビス(2−エチルヘキサノエート)、である。
【0060】
選定した180種の化学物質をフラグメントへの分解した結果は、ホルミル水素(H(CO)−)、メチル基(−CH
3)、sp
3メチレン基(−CH
2−)、sp
3メチン基(−CH<)、sp
3四級炭素(>C<)、sp
2メチレン基(CH
2=)、sp
2メチン基(−CH=)、sp
2四級炭素(>C=)、spメチン基(CH≡)、sp四級炭素(−C≡)、フッ素原子(−F)、塩素原子(−Cl)、臭素原子(−Br)、ヨウ素原子(−I)、水酸基(−OH)、エーテル基(−O−)、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、オキシカルボニル基(−COO−)、第二アミド基(−CONH−)、第三アミド基(−CON<)、一級アミノ基(−NH
2)、二級アミノ基(−NH−)、三級アミノ基(−N<)、sp
2窒素(−N=)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO
2)、メルカプト基(−SH)、スルフィド基(−S−)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO
2−)、ホウ素原子(−B<)、ホスフィン基(−P<)、ホスホリル基(−PO<)、ケイ素原子(>Si<)、チタン原子(>Ti<)、スズ原子(>Sn<)の38種のフラグメントであった。
各々の化学物質に対するフラグメントの種類および数がデータとして得られた。
【0061】
180種の化学物質について式(3)によって重回帰解析した。その結果、m
iの係数としてV
iフラグメントiのモル体積が求められ、下記式(32)で示される相関関係式が決定された。
V
mol=Σm
iV
i (3)
V
mol=m
H(CO)-×10.10+m
-CH3×27.00+m
-CH2-×16.45+…+m
>Sn<×21.80
(32)
n=180、R
2=0.999
ここで、nは解析した化学物質の数を表し、R
2は原点回帰における自由度調整済み重相関係数の二乗を表す。
【0062】
次いで、同じ180種の化学物質について式(2)によって重回帰解析した。その結果、m
iの係数としてn
Fiすなわちフラグメントiの屈折率指数が求められ、式(21)で示される相関関係式が決定された。
(n
D2−1)/(n
D2+2)=Σm
in
Fi/V
mol (21)
式(21)に、計算されたn
Fiおよび式(32)のV
molを代入した式を示すと、式(22)のようになる。
(n
D2−1)/(n
D2+2)
=(m
H(CO)-×1.16+m
-CH3×5.65+m
-CH2-×4.57+…+m
>Sn<×14.21)
/(m
H(CO)-×10.10+m
-CH3×27.00+m
-CH2-×16.45+…+m
>Sn<×21.80)
(22)
n=180、R
2=0.999
ここで、nは解析した化学物質の数を表し、R
2は原点回帰における自由度調整済み重相関係数の二乗を表す。
【0063】
次いで、式(2)を変形しまた上記で求められたV
iおよびn
Fiを入力して、推算式(12)が決定された。
n
D=[(1+2×Σm
in
Fi/V
mol)
/(1−Σm
in
Fi/V
mol)]
0.5 (12)
式(12)において、m
in
Fi=m
H(CO)-×1.16+m
-CH3×5.65+m
-CH2-×4.57+…+m
>Sn<×14.21、およびV
mol=m
H(CO)-×10.10+m
-CH3×27.00+m
-CH2-×16.45+…+m
>Sn<×21.80、である。
【0064】
実施例の180種の化学物質の推算式(12)による推算値と文献値との相関関係は式(4)のようになった。
[推算式(12)の推算値]=0.950×文献値+0.077 (4)
n=180、R
2=0.938
相関関係を
図4に示す。
【0065】
実施例の180種の化学物質以外の67種の化学物質の推算式(12)による推算値と文献値との相関関係は式(5)のようになった。
[推算式(9)の推算値]=0.990×文献値+0.016 (5)
n=67、R
2=0.967
相関関係を
図5に示す。
【0066】
上記式(4)、(5)、はいずれも原点を通り傾きが1の直線に近い直線を表している。本発明の実施例の推算式は優れた推算性を示した。
【0067】
式(12)においてポリスチレン単量体の屈折率は1.594と推算され、二量体以上の屈折率もモノマー単位の数にかかわりなく全く同じ値1.594と推算された。両者はポリスチレン屈折率の文献値1.595にほぼ一致した。
式(12)において、全てのm
iが0で化学物質が存在しない状態すなわち真空のときの屈折率は、m
in
Fi/V
molを0と見積もればn
D=1.000と推算される。
【0068】
(比較例)
実施例と同じ180種の化学物質を実施例と同じ38種のフラグメントに分解して特許文献1に示された方法でもって、すなわち、式(101)によって重回帰解析した。その結果、m
iの係数としてn
Fiすなわちフラグメントiの屈折率指数が求められ、式(102)で示される相関関係式が決定された。
n
D=(Σm
in
Fi−4.773)/V
mol+1.58 (102)
式(102)においてポリスチレン単量体の屈折率は1.563と推算され、5量体の屈折率は1.601と推算され、異なる値を示した。
式(102)において、全てのm
iが0で化学物質が存在しない状態すなわち真空のときの屈折率は推算できなかった。