【実施例】
【0052】
[薬理試験1]
紫外線(UV−B)照射前に角膜上皮細胞を本剤で処置した場合に、紫外線照射による生細胞数の低下が抑制されるか否かを評価した。
【0053】
(試験方法)
SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE−T:理化学研究所、バイオリソースセンター、Cell No.:RCB2280、実施例において以下同じ)を96ウェルプレートに播種(1×10
4個/ウェル)し、10%FBS含有DMEM/F−12培地で1日培養した。翌日、前記10%FBS含有DMEM/F−12培地を0.1%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムを含有するPBS、0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するPBS、0.1%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムおよび0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するPBS、または被験物質を含有しないPBSに交換した(以下、それぞれ、「0.1% HA群」、「0.05% FAD群」、「0.1% HA/0.05% FAD群」または「基剤群」ともいう)。その後、角膜上皮細胞にUV−B照射(80mJ/cm
2)を約1分間行った。各群の培地をDMEM/F−12培地に交換してから、37℃で24時間培養した後、CellTiter96
(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega社製、カタログ番号:G3580、実施例において以下同じ)を用いて生細胞数を測定し、下記式1に従って、生存率を算出した。なお、本試験で用いたヒアルロン酸ナトリウムおよびフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩は、それぞれキューピー株式会社および協和発酵バイオ株式会社から購入した。
【0054】
[式1]
生存率(%)=(各群の生細胞数/UV−B非照射群の生細胞数)×100
(結果)
試験結果を
図1に示す。なお、
図1中、値は平均値±標準誤差を示す(N=3)。
【0055】
(考察)
図1から明らかなように、UV−B照射前に角膜上皮細胞を本剤で前処置しておいた場合、生存率はほぼ100%であった。すなわち、角膜が紫外線に曝露される前に、ヒアルロン酸またはその塩およびフラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩を組み合わせて予防的に眼局所投与した場合、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死を効果的に抑制されることが示された。
【0056】
[薬理試験2]
UV−Bの照射条件を変更して、薬理試験1と同様の試験を行った。
【0057】
(試験方法)
薬理試験1と同様の操作を行った後、10%FBS含有DMEM/F−12培地を0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するPBS、0.05%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムを含有するPBS、0.05%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムおよび0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するPBS、0.3%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムを含有するPBS、0.3%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムおよび0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するPBS、または被験物質を含有しないPBSに交換した(以下、それぞれ、「0.05% FAD群」、「0.05% HA群」、「0.05% HA/0.05% FAD群」、「0.3% HA群」、「0.3% HA/0.05% FAD群」または「基剤群」ともいう)。次に、角膜上皮細胞にUV−B照射(120mJ/cm
2)を約2分間行い、再び薬理試験1と同様の操作を行った。その後、前記式1に従って、生存率を算出し、さらに、下記式2に従って、各群の細胞死抑制率を算出した。
【0058】
[式2]
細胞死抑制率(%)=各群の生存率−基剤群の生存率
(結果)
試験結果を表1に示す。なお、表1中、値は各群の細胞死抑制率の平均値(N=3)を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(考察)
表1から明らかなように、ヒアルロン酸ナトリウムは、単独ではUV−B照射(120mJ/cm
2、約2分間)による角膜上皮細胞死をほとんど抑制できないにも関わらず、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムと併用した場合には、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の細胞死抑制効果を顕著に増強させることが示された。すなわち、角膜が紫外線に曝露される前に、ヒアルロン酸またはその塩およびフラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩を組み合わせて予防的に眼局所投与した場合、両者は相乗的に作用して、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死を効果的に抑制することが示された。
【0061】
[薬理試験3]
紫外線(UV−B)照射後に角膜上皮細胞を本剤で処置した場合に、紫外線照射による生細胞数の低下が抑制されるか否かを評価した。
【0062】
(試験方法)
SV40不死化ヒト角膜上皮細胞を96ウェルプレートに播種(1×10
4個/ウェル)し、10%FBS含有DMEM/F−12培地で1日培養した。翌日、角膜上皮細胞にUV−B照射(80mJ/cm
2)を約1分間行った。その後、前記10%FBS含有DMEM/F−12培地を0.1%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウム含有するPBS、0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するPBS、0.1%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムおよび0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するPBS、または被験物質を含有しないPBSに交換した後、37℃で60分間培養した(以下、それぞれ、「0.1% HA群」、「0.05% FAD群」、「0.1% HA/0.05% FAD群」または「基剤群」ともいう)。その後、各群の培地を10% FBS含有DMEM/F−12培地に交換してから、37℃で24時間培養した後、CellTiter96
(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assayを用いて生細胞数を測定し、下記式3に従って、生存率を算出した。なお、本試験で用いたヒアルロン酸ナトリウムおよびフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の購入先は、薬理試験1と同様である。
【0063】
[式3]
生存率(%)=(各群の生細胞数/UV−B非照射群の生細胞数)×100
(結果)
試験結果を
図2に示す。
図2中、値は平均値±標準誤差を示す(N=3)。
【0064】
(考察)
図2から明らかなように、UV−B照射後に角膜上皮細胞をヒアルロン酸ナトリウムまたはフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩で処置した場合、角膜上皮細胞死の抑制はほとんど認められなかった。一方で、角膜上皮細胞をヒアルロン酸ナトリウムおよびフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩で処置した場合には、驚くべきことに、有意な角膜上皮細胞死の抑制作用が確認された。すなわち、角膜が紫外線に曝露された後であっても、ヒアルロン酸またはその塩およびフラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩を組み合わせて眼局所投与すれば、紫外線によって誘発される角膜上皮細胞死を抑制し得ることが明らかとなった。
【0065】
[薬理試験4]
乾燥負荷前に角膜上皮細胞を本剤で処置した場合に、乾燥による生細胞数の低下が抑制されるか否かを評価した。
【0066】
(試験方法)
SV40不死化ヒト角膜上皮細胞を96ウェルプレートに播種(1×10
4細胞/ウェル)し、10%FBS含有DMEM/F−12培地で1日培養した。翌日、培地を0.1%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウム含有するD−MEM/F12培地、0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩をD−MEM/F12培地、0.1%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムおよび0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を含有するD−MEM/F12培地、または被験物質を含有しないD−MEM/F12培地に交換した後、37℃で60分間培養した(以下、それぞれ、「0.1% HA群」、「0.05% FAD群」、「0.1% HA/0.05% FAD群」または「基剤群」ともいう)。培養後、各群の培地を除去してから、乾燥負荷を15分間行った。負荷後、CellTiter96
(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assayを用いて、生細胞数を測定し、下記式4に従って、生存率を算出した。なお、本試験で用いたヒアルロン酸ナトリウムおよびフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の購入先は、薬理試験1と同様である。
【0067】
[式4]
生存率(%)=(各群の生細胞数/乾燥負荷未実施群の生細胞数)×100
(結果)
試験結果を
図3に示す。
図3中、値は平均値±標準誤差を示す(N=6)。
【0068】
(考察)
図3から明らかなように、0.1% HA群では角膜上皮細胞死の抑制作用が認められたが、0.05% FAD群では同作用は確認されなかった。一方で、0.1% HA/0.05% FAD群では、0.1% HA群を凌ぐ顕著な角膜上皮細胞死抑制作用が認められた。前述したように、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の単独投与では角膜上皮細胞死の抑制作用が全く認められなかったことを勘案すれば、これは驚くべき結果である。以上の結果から、ヒアルロン酸またはその塩およびフラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩を組み合わせて眼局所投与すれば、乾燥による角膜上皮細胞死を顕著に抑制し得ることが明らかとなった。
【0069】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0070】
(処方例1)
点眼剤(ヒアルロン酸ナトリウム濃度:0.1%(w/v)、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩濃度:0.05%(w/v)) 100ml中
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1g
フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩 0.05g
塩化ナトリウム 0.9g
リン酸水素ナトリウム水和物 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にヒアルロン酸ナトリウム、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩およびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼剤を調製する。ヒアルロン酸ナトリウムおよびフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の添加量を変えることにより、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が0.05%(w/v)、0.3%(w/v)または0.5%(w/v)であり、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の濃度が0.01%(w/v)または0.1%(w/v)である点眼剤を調製できる。
【0071】
(処方例2)
眼軟膏(ヒアルロン酸ナトリウム濃度:0.1%(w/w)、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩濃度:0.05%(w/w)) 100g中
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1g
フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩 0.05g
流動パラフィン 10g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリンおよび流動パラフィンに、ヒアルロン酸ナトリウムおよびフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を加え、これらを十分に混合した後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。ヒアルロン酸ナトリウムおよびフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の添加量を変えることにより、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が0.05%(w/w)、0.3%(w/w)または0.5%(w/w)であり、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の濃度が0.01%(w/w)または0.1%(w/w)である眼軟膏を調製できる。