特許第6063198号(P6063198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063198
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】かつら及びかつらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   A41G3/00 H
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-224721(P2012-224721)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-77208(P2014-77208A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126218
【氏名又は名称】株式会社アートネイチャー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】山腰 稔幸
【審査官】 村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−022522(JP,U)
【文献】 特開2011−246831(JP,A)
【文献】 特開平02−234903(JP,A)
【文献】 特開2006−183215(JP,A)
【文献】 特開2009−007726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の頭部に装着されるかつらベースと、前記かつらベースに植毛される人工毛又は人毛からなる毛髪とを備えたかつらであって、
前記かつらベースは、人工又は天然素材からなる糸状部材を交差状又は略平行に配したネットを含み、前記毛髪が結び目を作らず、前記ネットの糸状部材結び目を作って前記毛髪を保持したことを特徴とするかつら。
【請求項2】
前記ネットの糸状部材の結び目が、
略環状の曲げ部と、
前記毛髪に巻き付き、前記曲げ部を通って互いに反対方向に延びる2つの保持部と、
からなる請求項1に記載のかつら。
【請求項3】
前記ネットが、複数本の糸状部材を撚ったマルチフィラメントからなり、該マルチフィラメントを形成する1本の糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持した請求項1又は2に記載のかつら。
【請求項4】
前記ネットの糸状部材を、前記毛髪よりも柔軟にした請求項1〜3のいずれか1項に記載のかつら。
【請求項5】
前記ネットの糸状部材の直径を、前記毛髪の直径よりも小さくした請求項1〜4のいずれか1項に記載のかつら。
【請求項6】
前記ネットの糸状部材の結び目を接着剤で固定した請求項1〜5のいずれか1項に記載のかつら。
【請求項7】
前記毛髪を保持した前記ネットの形状を整形剤で整えた請求項1〜6のいずれか1項に記載のかつら。
【請求項8】
装着者の頭部に装着されるかつらベースと、前記かつらベースに植毛される人工毛又は人毛からなる毛髪とを備えたかつらの製造方法であって、
前記かつらベースは、人工又は天然素材からなる糸状部材を交差状又は略平行に配したネットを含み、前記毛髪に結び目を作ることなく、前記ネットの糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持することを特徴とするかつらの製造方法。
【請求項9】
前記毛髪を略V字ないし略U字に曲げ、2つの自由端の反対側に略環状の曲げ部を形成する工程と、
前記毛髪の曲げ部を、前記ネットの一の網目に挿通し、一の糸状部材の下側を通して、隣り合う他の網目から引き出す工程と、
他の網目から引き出した前記毛髪の曲げ部に、該毛髪の2つの自由端側を通して、前記ネットの一の糸状部材に前記毛髪を巻き付ける工程と、
前記曲げ部に通した前記毛髪の2つの自由端側を互いに反対方向に引っ張り、前記曲げ部を消失させることで、前記ネットの一の糸状部材に結び目を作り、前記毛髪を保持する工程と、
を含む請求項8に記載のかつらの製造方法。
【請求項10】
前記ネットの一の糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持した後、前記結び目を接着剤で固定する工程を含む、請求項8又は9に記載のかつらの製造方法。
【請求項11】
前記ネットの一の糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持した後、前記ネットの形状を整形剤で整える工程を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載のかつらの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かつらベースのネットに毛髪を植毛した構成のかつら及びかつらの製造方法に関し、特に、毛髪に結び目を作ることなくネットに植毛することができ、植毛した毛髪の根元を自然な外観にすることが可能なかつら及びかつらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なかつらは、ネット又は人工皮膚からなるかつらベースに、人工毛又は人毛からなる毛髪を植毛した構成となっている。従来の毛髪の植毛方法としては、例えば、図10(a)〜(d)に示すようなものがあった。
【0003】
図10(a)は、いわゆる「V植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。同図において、このV植毛では、合成樹脂からなる人工皮膚(かつらベース)に、毛髪を略V字状に植毛していた。
【0004】
図10(b)は、いわゆる「シングルノット植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。また、同図(c)は、いわゆる「ハーフシングルノット植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。同図(b)において、シングルノット植毛では、まず、毛髪を、前記毛髪の略V字ないし略U字に曲げ、2つの自由端の反対側に略環状の曲げ部を形成する。次いで、この毛髪の曲げ部側を、合成繊維又は天然繊維で編んだネット(かつらベース)の網目に挿通する。その後、毛髪の2つの自由端側を曲げ部に通すことで、この毛髪をネットに結び付けていた。一方、同図(c)において、ハーフシングルノット植毛は、毛髪の1つの自由端側を曲げ部に通すことで、この毛髪をネットに結び付けていた。
【0005】
図10(d)は、いわゆる「引き抜き植毛」と呼ばれる植毛方法を示す概略図である。同図において、この引き抜き植毛では、かつらベースがネットと人工皮膚との2枚重ねになっており、下側の目の粗いネットに毛髪を結び付けた後、上側の人工皮膚から毛髪の自由端側を引き抜いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−268412号公報
【特許文献2】実公平5−19289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上述した図10(b)、(c)のシングルノット植毛及びハーフシングルノット植毛では、毛髪をネットに結び付けていたため、毛髪の根元に結び目の塊ができてしまい、かつらの外観が不自然になってしまう問題があった。特に、黒や茶といった暗色の毛髪の結び目は暗色の塊となり、頭皮を模した明るい肌色のネット上で目立ってしまう。
【0008】
また、上述した図10(a)、(d)のV植毛及び引き抜き植毛では、毛髪の結び目がない又は視認できず、上記のような問題は生じない。しかし、V植毛は、人工皮膚に植毛した毛髪が抜けやすいという問題がある。一方、引き抜き植毛は、毛髪の結び目を隠すための人工皮膚が必要である。さらに、下側のネットに結び付けた毛髪を、上側の人工皮膚の所定位置から引き出す作業は、職人の熟練した技術を要する。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、毛髪に結び目を作ることなくネットに植毛することができ、植毛した毛髪の根元を自然な外観にすることが可能なかつら及びかつらの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のかつらは、装着者の頭部に装着されるかつらベースと、前記かつらベースに植毛される人工毛又は人毛からなる毛髪とを備えたかつらであって、前記かつらベースは、人工又は天然素材からなる糸状部材を交差状又は略平行に配したネットを含み、前記ネットの糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持した構成としてある。
【0011】
上記構成によれば、毛髪が結び目を作らずに、ネットの糸状部材が結び目を作って毛髪を保持するので、毛髪の根元を自然な外観にすることができる。特に、ネットが肌色などの明色である場合は、糸状部材の結び目が目立たず、1つの毛穴から2本の毛髪が生えているような自然な外観となる。
【0012】
また、ネットの糸状部材が結び目を作って毛髪を保持するので、植毛した毛髪が糸状部材に沿って動いてしまうことがない。さらに、糸状部材の結び目が、毛髪の根元を立ち上がらせ、毛髪に自然なボリューム感を与えることができる。
【0013】
好ましくは、前記ネットの糸状部材の結び目が、略環状の曲げ部と、前記毛髪に巻き付き、前記曲げ部を通って互いに反対方向に延びる2つの保持部と、からなる構成にするとよい。
【0014】
上記構成によれば、ネットの糸状部材により形成される略環状の曲げ部と、これを通る2つの保持部とが巻き付いて、毛髪をしっかりと保持することができ、毛髪の根元を自然な外観にすることが可能となる。
【0015】
好ましくは、前記ネットが、複数本の糸状部材を撚ったマルチフィラメントからなり、該マルチフィラメントを形成する1本の糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持した構成にするとよい。
【0016】
上記構成によれば、ネットが太いマルチフィラメントからなる場合でも、このマルチフィラメントを形成する1本の糸状部材に結び目を作って毛髪を保持することができ、毛髪の根元を自然な外観にすることが可能となる。
【0017】
好ましくは、前記ネットの糸状部材を、前記毛髪よりも柔軟にした構成にするとよい。このような構成とした場合は、柔軟な糸状部材で結び目を作りやすくなり、植毛の作業効率を向上させることが可能となる。
【0018】
好ましくは、前記ネットの糸状部材の直径を、前記毛髪の直径よりも小さくした構成にするとよい。このような構成とした場合は、ネットの糸状部材の結び目をより目立たなくすることができる。また、上記と同様に、直径が小さいほど、糸状部材が柔軟となって結び目を作りやすくなり、植毛の作業効率を向上させることが可能となる。
【0019】
好ましくは、前記ネットの糸状部材の結び目を接着剤で固定した構成にするとよい。このような構成によれば、ネットの糸状部材に結び目を作って保持した毛髪を、接着剤でより強固に固定することができ、植毛した毛髪の脱落を防止することが可能となる。
【0020】
好ましくは、前記毛髪を保持した前記ネットの形状を整形剤で整えた構成にするとよい。このような構成によれば、糸状部材が結び目を作ることによって、ネットに縮みが生じた場合でも、ネット全体の形状を整えることができる。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明のかつらの製造方法は、装着者の頭部に装着されるかつらベースと、前記かつらベースに植毛される人工毛又は人毛からなる毛髪とを備えたかつらの製造方法であって、前記かつらベースは、人工又は天然素材からなる糸状部材を交差状又は略平行に配したネットを含み、前記ネットの糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持するようにしてある。
【0022】
上記方法によれば、毛髪が結び目を作らずに、ネットの糸状部材が結び目を作って毛髪を保持するので、毛髪の根元を自然な外観にすることができる。特に、ネットが肌色などの明色である場合は、糸状部材の結び目が目立たず、1つの毛穴から2本の毛髪が生えているような自然な外観となる。
【0023】
また、ネットの糸状部材が結び目を作って毛髪を保持するので、植毛した毛髪が糸状部材に沿って動いてしまうことがない。さらに、糸状部材の結び目が、毛髪の根元を立ち上がらせ、毛髪に自然なボリューム感を与えることができる。
【0024】
好ましくは、前記毛髪を略V字ないし略U字に曲げ、2つの自由端の反対側に略環状の曲げ部を形成する工程と、前記毛髪の曲げ部を、前記ネットの一の網目に挿通し、一の糸状部材の下側を通して、隣り合う他の網目から引き出す工程と、他の網目から引き出した前記毛髪の曲げ部に、該毛髪の2つの自由端側を通して、前記ネットの一の糸状部材に前記毛髪を巻き付ける工程と、前記曲げ部に通した前記毛髪の2つの自由端側を互いに反対方向に引っ張り、前記曲げ部を消失させることで、前記ネットの一の糸状部材に結び目を作り、前記毛髪を保持する工程と、を含むようにするとよい。
【0025】
上記方法によれば、ネットの糸状部材により、略環状の曲げ部と、前記毛髪に巻き付き、前記曲げ部を通って互いに反対方向に延びる2つの保持部とからなる結び目を作ることができる。このような結び目により、毛髪をしっかりと保持して、毛髪の根元を自然な外観にすることが可能となる。また、上記方法の実施には、従来の植毛方法と比較して特別な技術や熟練は不要であり、従来の植毛方法を経験した者であれば、容易に実施することが可能である。
【0026】
好ましくは、前記ネットの一の糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持した後、前記結び目を接着剤で固定する工程を含むようにするとよい。このような方法によれば、ネットの糸状部材に結び目を作って保持した毛髪を、接着剤でより強固に固定することができ、植毛した毛髪の脱落を防止することが可能となる。
【0027】
好ましくは、前記ネットの一の糸状部材に結び目を作って前記毛髪を保持した後、前記ネットの形状を整形剤で整える工程を含むようにするとよい。このような方法によれば、糸状部材が結び目を作ることによって、ネットに縮みが生じた場合でも、ネット全体の形状を整えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のかつら及びかつらの製造方法によれば、毛髪に結び目を作ることなくネットに植毛することができ、植毛した毛髪の根元を自然な外観にすることが可能となる。また、ネットの糸状部材が結び目を作って毛髪を保持するので、植毛した毛髪が糸状部材に沿って動いてしまうことがない。さらに、糸状部材の結び目が、毛髪の根元を立ち上がらせ、毛髪に自然なボリューム感を与えることができる。
【0029】
これに加え、本発明のかつらの製造方法の実施には、従来の植毛方法と比較して特別な技術や熟練は不要であり、従来の植毛方法を経験した者であれば、容易に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係るかつらの背面図である。
図2】上記かつらの植毛構造を示すものであり、同図(a)は平面視の拡大図、同図(b)は背面視の拡大図である。
図3】同図(a)〜(h)は、本発明の一実施形態に係るかつらの製造方法を示す一連の工程図である。
図4】同図(a)〜(e)は、上記かつらの製造方法における毛髪とネットの結着原理を示す説明図である。
図5】上記ネットの結び目を示すものであり、同図(a)は図4(e)の矢視Aから見た概略図、同図(b)は図4(e)の矢視bから見た概略図である。
図6】同図(a)〜(e)は、糸状部材がマルチフィラメントの場合の本発明の適用例を示す概略図である。
図7】同図(a)〜(d)は、本発明のかつらの製造方法の実施例を示す各工程のうちの前半の拡大写真である。
図8】同図(a)〜(d)は、本発明のかつらの製造方法の実施例を示す各工程のうちの後半の拡大写真である。
図9】同図(a)は本発明の方法で製造したかつらの実施例、同図(b)はハーフシングルノット植毛で製造したかつらの比較例を示す拡大写真である。
図10】従来の植毛方法を説明するための概略図であり、同図(a)はV植毛、同図(b)はシングルノット植毛、同図(c)はハーフシングルノット植毛、同図(d)は引き抜き植毛を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本実施形態に係るかつら及びかつらの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
<かつらの全体構成>
図1において、本実施形態のかつら1は、主として、ネット10からなるかつらベース2に、人工毛又は人毛である毛髪3を結着し、表面側に引き出した構成となっている。かつらベース2の裏面には、生え際に対応する箇所に人工皮膚20Aが配設してあり、分け目及びつむじに対応する箇所に人工皮膚20Bが配設してある。
【0033】
<ネット>
本実施形態のかつらベース2は、装着者の頭部に合わせた椀状のネット10で構成してある。図2(a)及び(b)に示すように、ネット10は、人工又は天然素材からなる糸状部材11、11、11…を格子状に交差させた構成となっている。ネット10を構成する糸状部材11の素材としては、成型性及び耐熱性等に優れたナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維が好ましい。但し、綿、麻、絹等の天然繊維からなる糸状部材11を用いてネット10を構成してもよい。
【0034】
糸状部材11は、1本のフィラメント(線状の構造体)からなるものであってもよいし、複数本の糸状部材11、11、11…を撚ったマルチフィラメントからなるものであってもよい(図6(a)を参照)。また、本実施形態では、ネット10を、糸状部材11、11、11…を格子状に交差させた構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、複数本のマルチフィラメントを縦又は横方向に略平行に配したネットを用いることもできる。本発明のかつら及びかつらの製造方法のマルチフィラメントへの適用については、後に図6(a)〜(c)を参照しつつ詳述する。
【0035】
ここで、図2(a)及び(b)に示すように、本実施形態のかつら1は、糸状部材11に結び目12を作って、毛髪3を保持した構成となっている。後に詳述するが、本実施形態では、糸状部材11に巻き付けた毛髪3を引っ張ることで(図3(g)を参照)、該毛髪3の巻き付きを解きつつ、この過程で毛髪3に誘導された糸状部材11が、毛髪3に巻き付いて結び目12を形成するようになっている。このため、糸状部材11は、毛髪3よりも柔軟な素材であることが好ましく、例えば、糸状部材11の直径を、毛髪3の直径よりも小さくすることが好ましい。
【0036】
糸状部材11の色は、これに植毛する毛髪3の色と近似した黒色、茶色又は白色などにするとよい。本実施形態のかつら1は、ネット10を構成する糸状部材11が結び目12を作って毛髪3を保持する構成となっているので、糸状部材11を毛髪3と近似した色にすることで、糸状部材11の結び目12がより目立たなくなる効果がある。また、ネット10を構成する糸状部材11のうち、少なくとも人工皮膚20A、20Bに対応する箇所の色を肌色にしてもよい。
【0037】
<人工皮膚>
人工皮膚20A、20Bは、例えば、ポリウレタンやシリコーン等の合成樹脂からなる肌色のフィルム又はシート、若しくはナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維、綿、麻、絹等の天然繊維からなる目の細かい肌色の織布(メッシュ又はネットを含む)により構成してある。
【0038】
各人工皮膚20A、20Bは、その周縁部をネット10に縫着してあり、毛髪3の生え際、分け目及びつむじの部分で地肌のように見える役割を果たす。各人工皮膚20A、20Bに、合成樹脂製のフィルム又はシートを用いた場合は、人間の頭皮の質感をリアルに再現することができ、見た目がより自然となる。一方、合成繊維又は天然繊維の織布を用いた場合は、かつら1の通気性が良好となり、耐久性が向上する利点がある。
【0039】
<毛髪>
毛髪3は、人工毛又は人毛のいずれを用いてもよい。人工毛の素材としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル又は塩化ビニル系の合成繊維が用いられる。毛髪3の太さは、例えば、細い毛髪として約0.03又は0.04mm程度、太い毛髪として約0.05〜0.10mm程度のものを用いる。また、毛髪3の強度の指標としては、結んでいない直線状態のときの引っ張り強度で約0.80N以上、結んだ状態の引っ張り強度で約0.60N以上のものが好ましい。
【0040】
<毛髪の植毛構造>
本実施形態のかつら1における毛髪3の植毛構造について、図2(a)及び(b)を参照しつつ説明する。上述したように、本実施形態のかつら1は、ネット10の糸状部材11に結び目12を作って毛髪3を保持した構成となっている。糸状部材11の結び目12は、略環状の曲げ部12aと、毛髪3に巻き付き、曲げ部12aを通って互いに反対方向に延びる2つの保持部12b、12cとからなっている。
【0041】
このような植毛構造によれば、毛髪3が結び目を作らずに、ネット10の糸状部材11が結び目12を作って毛髪を保持するので、毛髪3の根元を自然な外観にすることができる。特に、ネット10が肌色などの明色である場合は、糸状部材11の結び目12が目立たず、1つの毛穴から2本の毛髪3が生えているような自然な外観となる。
【0042】
また、ネット10の糸状部材11が結び目12を作って毛髪3を保持するので、植毛した毛髪3が糸状部材11に沿って動いてしまうことがない。さらに、糸状部材11の結び目12が、毛髪3の根元を立ち上がらせ、毛髪に自然なボリューム感を与えることができる。
【0043】
<かつらの製造方法>
上述した図2(a)及び(b)の毛髪の植毛構造は、図3(a)〜(h)に示す一連の工程を経て形成される。以下、図3(a)〜(h)を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るかつらの製造方法について説明する。
【0044】
まず、図3(a)に示すように、毛髪3を略V字ないし略U字に曲げ、2つの自由端の反対側に略環状の曲げ部3aを形成する。次いで、同図(b)及び(c)に示すように、毛髪3の曲げ部3aに鉤針100を引っ掛け、曲げ部3aを、ネット10の一の網目10Aに挿通し、一の糸状部材11の下側を通して、隣り合う他の網目10Bから引き出す。
【0045】
引き続き、図3(d)〜(f)に示すように、鉤針100を用いて、他の網目10Bから引き出した毛髪3の曲げ部3aに、該毛髪3の2つの自由端側3b、3cを通し、ネット10の一の糸状部材11に毛髪3を巻き付ける。
【0046】
その後、図3(g)に示すように、曲げ部3aに通した毛髪3の各自由端側3b、3cを互いに反対方向に引っ張る。すると、該毛髪3の曲げ部3aが消失し、一の糸状部材11に対する巻き付きを解く。この毛髪3の巻き付きが解ける過程で、該毛髪3に誘導された一の糸状部材11が毛髪3に巻き付き、毛髪3の巻き付きが解けたときに、同図(h)に示す結び目12を形成する。
【0047】
図3(h)に示す糸状部材11の結び目12は、略環状の曲げ部12aと、毛髪3に巻き付き、曲げ部12aを通って互いに反対方向に延びる2つの保持部12b、12cとからなっている。このような結び目12により、略V字ないし略U字に曲げた毛髪3の根元が保持される。
【0048】
<毛髪とネットの結着原理>
ここで、上記かつらの製造方法における毛髪3とネット10との結着原理について、図4(a)〜(e)、図5(a)及び(b)を参照しつつ詳述する。
【0049】
図4(a)は、上述した図3(f)と(g)との間の状態を示している。一の糸状部材11を介して、毛髪3の曲げ部3aにその2つの自由端側3b、3cを通すと、図4(a)に示す状態になる。
【0050】
次いで、図4(b)に示すように、曲げ部3aに通した毛髪3の各自由端側3b、3cのうち、一方を他方の反対側に位置させ、同図(c)に示すように、毛髪3の各自由端側3b、3cを互いに反対方向に引っ張る。すると、一方の自由端側3bを引っ張ることで、曲げ部3aが徐々に小さくなり、かつ、他方の自由端側3cを引っ張ることで、糸状部材11がその引っ張り方向に誘導され、曲げ部12aを形成する。
【0051】
引き続き、図4(d)に示すように、毛髪3の各自由端側3b、3cを互いに反対方向に引っ張ると、各自由端側3b、3cが糸状部材11を反転させ、曲げ部12aを通って互いに反対方向に延びる2つの保持部12b、12cを形成する。その後、毛髪3の曲げ部3aが消失し、糸状部材11に、同図(e)に示すような結び目12ができる。このような結び目12は、図5(a)及び(b)に示すように、略V字ないし略U字に曲げた毛髪3の根元を保持し、毛髪3の各自由端側3b、3cの根元を立ち上がらせ、毛髪3に自然なボリューム感を与える。
【0052】
<マルチフィラメントへの適用>
本発明のかつら及びかつらの製造方法は、上述した1本のフィラメントからなる糸状部材11への適用に限定されるものではない。図6(a)に示すように、本発明のかつら及びかつらの製造方法は、複数本の糸状部材11、11、11…を撚ったマルチフィラメント4に適用することも可能である。
【0053】
図1に示すかつらベース2のネット10が、図6(a)に示すようなマルチフィラメント4、4、4…を格子状に交差させた構成である場合は、太いマルチフィラメント4に細い毛髪3を巻き付けて結び目12を作ることが困難である。このような場合は、同図(b)に示すように、マルチフィラメント4を形成する1本の糸状部材11に、上述した図3及び図4の方法を適用すればよい。
【0054】
すなわち、図6(b)に示すように、マルチフィラメント4を形成する複数本の糸状部材11、11、11…のうちの1本を鉤針100(図3を参照)ですくい、糸状部材11と11との間に隙間を空ける。この隙間に、略V字ないし略U字に曲げた毛髪3の曲げ部3aを挿通し、一の糸状部材11を介して、曲げ部3aに毛髪3の各自由端側3b、3cを通す。その後、毛髪3の各自由端側3b、3cを互いに反対方向に引っ張ることで、図6(c)に示すような結び目12を作って、毛髪3を保持することができる。
【0055】
<毛髪の脱落防止、ネットの整形>
好ましくは、ネット10の糸状部材11の結び目12を接着剤で固定するとよい。これにより、糸状部材11に結び目12を作って保持した毛髪3を、接着剤でより強固に固定することができ、植毛した毛髪3の脱落を防止することが可能となる。
【0056】
また、好ましくは、毛髪3を保持したネット10の形状を整形剤で整えるとよい。これにより、糸状部材11が結び目12を作ることによって、ネット10に縮みが生じた場合でも、ネット10全体の形状を整えることができる。
【実施例】
【0057】
本発明のかつらの製造方法の実施例を、図7(a)〜(d)及び図8(a)〜(d)に示す。これらの図面は、本実施例に係るかつらの製造方法の一連の工程を示す拡大写真である。
【0058】
上述した図3(a)〜(h)に示すかつらの製造方法を実際に行った。本実施例では、直径0.04mmのナイロン糸状部材を格子状に交差させたネットに、直径0.07mmのポリエステルからなる毛髪を、本発明のかつらの製造方法に従って植毛した。
【0059】
図7(a)〜(c)は、略V字ないし略U字に曲げた毛髪の曲げ部を、ネットの一の網目に挿通し、一の糸状部材の下側を通して、隣り合う他の網目から引き出す工程であり、図3(a)〜(c)に対応している。
【0060】
これに続く、図7(d)及び図8(a)、(b)は、他の網目から引き出した毛髪の曲げ部に、該毛髪の2つの自由端側を通して、ネットの糸状部材に毛髪を巻き付ける工程であり、図3(d)〜(f)に対応している。
【0061】
最後に、図8(c)及び(d)は、曲げ部に通した毛髪の2つの自由端側を互いに反対方向に引っ張り、曲げ部を消失させることで、ネットの一の糸状部材に結び目を作り、毛髪を保持する工程であり、図3(g)及び(h)に対応している。
【0062】
図9(a)は、上述した本実施例の方法を経て製造したかつらの拡大写真である。また、同図(b)は、ハーフシングルノット植毛で製造したかつらの比較例を示す拡大写真である。同図(a)に示す本実施例のかつらは、毛髪が結び目を作らずに、ネットの糸状部材が結び目を作って毛髪を保持している。肌色の糸状部材の結び目は、ほとんど目立たず、1つの毛穴から2本の毛髪が生えているような自然な外観を呈している。一方、同図(b)に示す比較例のかつらは、略V字ないし略U字に曲げた毛髪の一方に、結び目の黒い塊が形成されている。この結び目の黒い塊が肌色のネット上で目立ってしまい、不自然な外観となっている。
【符号の説明】
【0063】
1 かつら
2 かつらベース
3 毛髪
3a 曲げ部
3b、3c 自由端側
4 マルチフィラメント
10 ネット
10A、10B 網目
11 糸状部材
12 結び目
12a 曲げ部
12b、12c 保持部
20A、20B 人工皮膚
100 鉤針
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10