特許第6063232号(P6063232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063232
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/10 20140101AFI20170106BHJP
【FI】
   C09D11/10
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-266068(P2012-266068)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-111682(P2014-111682A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 康成
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油の脂肪酸エステルとヘプタントレランスが9ml以下であるロジン変性フェノール樹脂とを含有し、
さらに植物油の脂肪酸エステルが、ヒートセット型オフセット輪転印刷インキ組成物中に20〜50重量%であることを特徴とするヒートセット型オフセット輪転印刷インキ組成物。
【請求項2】
基材である紙に、請求項1に記載のヒートセット型オフセット輪転印刷インキ組成物を印刷して得られる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフセット印刷インキは、顔料、樹脂、石油系溶剤や植物油などで構成されている。また、オフセット印刷インキを用いるオフセット印刷は、オフセット輪転印刷に利用されるヒートセット型乾燥、オフセット枚葉印刷や新聞印刷に利用される浸透型乾燥や酸化重合型乾燥といった各種乾燥方式が知られており、なかでもヒートセット型乾燥は、オフセット印刷インキ中の石油系溶剤を、印刷直後に乾燥機中を通過させて当該溶剤を強制的に蒸発させることにより印刷紙面上にオフセット印刷インキを固着(セット)させる方法である。ヒートセット型オフセット輪転印刷は、高速で、乾燥機によるオフセット印刷インキのセットが短時間で行われることから現在主流の印刷方式である。オフセット印刷インキに使用される石油系溶剤は、芳香族成分を1%以下に抑えたAF(アロマフリー)溶剤が主流であり、ヒートセット型オフセット輪転印刷では、適当な蒸発速度、乾燥性が必要であることから、浸透型乾燥方式の枚葉印刷や新聞印刷に使用される溶剤と比較すると、低い沸点範囲のものが使用される。例えば、ヒートセット型オフセット輪転インキには、沸点範囲が259〜282℃のAFソルベント7(新日本石油(株)社製)が多く使われる。枚葉印刷インキには、沸点範囲が296〜317℃のAFソルベント6(新日本石油(株)社製)や沸点範囲が275〜306℃のAFソルベント5(新日本石油(株)社製)が多く使われる。また、AF溶剤といえども、VOC成分は少なくとも含まれている。
【0003】
したがって、ヒートセット型オフセット輪転印刷は、溶剤を蒸発させてオフセット印刷インキを乾燥させることから、揮発性有機化合物、いわゆるVOC(Volatile Organic Compound)成分の蒸発が起こる。また、枚葉印刷では、オフセット印刷インキ中の溶剤が浸透し、その後徐々に酸化重合して乾燥固着するが、AF溶剤を使用していても、大気中へのVOC成分の蒸発は起こる。
【0004】
近年の印刷業界ではオフセット印刷インキ中に含まれるVOC成分や芳香族系成分、ナフテン系成分の排出を抑制し環境負荷の低減を図る要望があるため、AF溶剤からVOC成分を含まない植物油成分へ転換を図ることで、VOC成分を除いたオフセット印刷インキがある。しかし、AF溶剤に比べて植物油成分は粘度が高いため、浸透性が悪く、セット性が遅くなる。また、植物油成分の比率が多くなるため、印刷物中に残留しやすいため、乾燥性に影響してしまう。しかも、蒸発しやすい溶剤を蒸発しにくい植物油成分に転換することから、乾燥機で強制的に溶剤を蒸発させて乾燥するヒートセット型オフセット輪転インキには、完全に植物油成分に転換することはできず、浸透乾燥型のオフセット枚葉印刷に利用される枚葉オフセット印刷インキでのみ実現されている。
【0005】
現状、ヒートセット型オフセット輪転印刷の印刷現場では、乾燥機からのVOC排出抑制のために排ガス処理装置を設置して環境負荷の低減を図ったり、乾燥にかかるエネルギーの削減のために乾燥機の温度を少しでも下げて印刷する一方で、生産性の向上のために印刷速度の高速化や印刷にかかるコストの削減のために安価で低品質の印刷用紙の利用が進んでいる。このため、乾燥不良による汚れ、紙剥け、ブランパイリング、光沢の低下などにより印刷物の画像品質低下が起こるというジレンマに陥っている。
【0006】
乾燥不良による汚れは、乾燥機の乾燥温度が低かったり、印刷速度が高速であったりする場合、印刷用紙などに印刷されたオフセット印刷インキのセットが十分でなく、乾燥機中で擦れて汚れたり、クーリングローラーへ転写されて徐々に積もり、汚れとなったり、オフセット印刷インキ皮膜の表面強度が十分でないことなどによりガイドローラー、ターンバー、三角板、折機などで擦れて汚れたりすることである。
【0007】
紙剥けは、安価で低品質の印刷用紙を使用した場合、概してそれらは紙面強度が弱く、オフセット印刷インキのタックが高いと起こりやすくなり、さらに印刷速度が高速になると、印刷時のオフセット印刷インキの見掛けのタックが高くなることにより、より起こりやすくなる。
【0008】
ブランパイリングは、ブランケット上に粘着性の高まったインキが徐々に堆積する現象であるが、オフセット印刷インキの溶解性が高いと、タックの経時での上昇(タック上昇巾ΔT)が大きくなり(機上安定性が悪い、ともいう)、ブランパイリングが起きる。この現象に起因して紙剥けが起こりやすくなる。
【0009】
特許文献1には、ロジン変性フェノール樹脂と植物エステルを溶剤主成分とし、さらにオレフィン系モノマー、ジエン系モノマーの少なくとも1種を重合して得られるポリマーを使用し、従来のインキに比べて大幅にVOCを削減し、かつ高速セット性を備えた印刷インキ組成物が開示されているが、枚葉インキに関するものであり、ヒートセットオフセット輪転インキでは乾燥性が悪く実用できないものであった。
【0010】
特許文献2〜4には、脂肪酸エステルおよび/又は脂肪族エーテルとn−ヘプタントレランスが10ml〜25mlであるロジン変性フェノール樹脂を使用し、かつ石油系溶剤を使用しない印刷インキ組成物が開示されているが、上記範囲のロジン変性フェノール樹脂は通常選択的に使用されるものであり、特定の脂肪酸エステルおよび/又は脂肪族エーテルを組み合わせることにより、従来のインキと同等の乾燥性並びに印刷適性・印刷効果を有するとしている。しかし、10ml未満のロジン変性フェノール樹脂を使用した例については、比較例の記載からも詳細な説明がなく、臨界的意義が不明である。また脂肪族エーテルは、特有の不快な臭気を有しており、作業環境を悪化させるだけでなく、当該インキを用いて印刷された印刷物においても異臭が感じられるという問題がある。
【0011】
特許文献5には、ワニス用樹脂と特定の脂肪酸エステルを含有し、印刷適性を阻害せずにインキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスに優れたオフセット輪転印刷インキが開示されているが、ワニス用樹脂に用いているロジン変性フェノール樹脂の溶解性についての記載がなく、蒸発乾燥性と機上安定性以外の光沢や紙剥けといった印刷適性について満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−155227号公報
【特許文献2】特開2004−204202号公報
【特許文献3】特開2004−204203号公報
【特許文献4】特開2004−244519号公報
【特許文献5】特開2006−176754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明は、印刷インキとしての基本的な性能は満足させたうえで、セット性、乾燥性に優れ、タックが低く抑えられ、ブランパイリングしにくい環境対応型の印刷インキ組成物および当該印刷インキ組成物を用いて作製された印刷物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意検討した結果、植物油の脂肪酸エステルとヘプタントレランスが9ml以下の特定のロジン変性フェノール樹脂とを使用することで課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、
[1]植物油の脂肪酸エステルとヘプタントレランスが9ml以下であるロジン変性フェノール樹脂とを含有し、さらに植物油の脂肪酸エステルが、印刷インキ組成物中に20〜50重量%であることを特徴とする印刷インキ組成物、
[2]基材である紙に、[1]記載の印刷インキ組成物を印刷して得られる印刷物、
である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、印刷インキとしての基本的な性能は満足させたうえで、セット性、乾燥性に優れ、タックが低く抑えられ、ブランパイリングしにくい環境対応型の印刷インキ組成物および当該印刷インキ組成物を用いて作製された印刷物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0018】
本発明の印刷インキ組成物(以下、単にインキともいう)は、植物油の脂肪酸エステルとヘプタントレランスが9ml以下であるロジン変性フェノール樹脂とを含有し、さらに植物油の脂肪酸エステルが、印刷インキ組成物中に20〜50重量%であることを特徴とする印刷インキ組成物である。
【0019】
本発明の植物油の脂肪酸エステルは、大豆油、アマニ油、菜種油、オリーブ油、桐油、綿実油、サフラワー油、向日葵油、トール油、脱水ヒマシ油、胡麻油、カラシ油、トウモロコシ油、落花生油などを由来とした炭素数が18以上の脂肪酸とモノアルコールとをエステル交換したものや植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノアルキルエステルが例示できる。また、脂肪酸モノアルキルエステルを構成するアルコール由来のアルキル基の炭素数は1〜12のものが好ましく、具体例としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、3−メチル−1−ブチル、2,2−ビス(ヒドロキメチル)ブチル、2,4−ジメチル−3−ペンチル、2−エチル−1−ブチル、2−エチル−1−ヘキシル、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル、4−デシル、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル、2−ブチル−1−オクチルなどである。なかでも特に好ましいのはメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2,2−ビス(ヒドロキメチル)ブチルなどである。例えば、ト−ル油脂肪酸ブチルエステル、トール油脂肪酸イソブチルエステル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸エチルエステル、大豆油脂肪酸プロピルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸ヘキシルエステル、大豆油脂肪酸2−エチルヘキシルエステル、アマニ油脂肪酸メチルエステル、アマニ油脂肪酸エチルエステル、アマニ油脂肪酸プロピルエステル、アマニ油脂肪酸ブチルエステル、アマニ油脂肪酸2−エチルヘキシルエステル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステルなどが好ましい。上記植物油の脂肪酸エステルは、樹脂に対する溶解性が上がり、印刷物の光沢向上に優れた効果がある。
【0020】
また、脂肪酸モノアルキルエステルの酸価が4mgKOH/g以下であるものが好ましく、1mgKOH/g以下であるものがより好ましい。4mgKOH/gを超えるものは、極性が大きくなるため、版の非画線部にインキが付着しやすくなり、汚れの原因となる。なお、酸価は、試料1g中に含有する遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で求められる(JIS K3331による)。
【0021】
前記植物油の脂肪酸エステルの含有量は、印刷インキ組成物中に20〜50重量%の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは、25〜40重量%の範囲内である。20重量%未満では、インキの溶解力が不足するため、着肉性、光沢の低下を招くおそれがあり、50重量%を超えると、溶解力が高すぎるため、着肉性、光沢は向上するものの、乾燥性が低下し、ミスチングし易くなる。
【0022】
本発明のロジン変性フェノール樹脂のヘプタントレランス(複数のロジン変性フェノール樹脂を混合して用いる場合はその加重平均値)は9ml以下であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは、5ml以上、9ml以下の範囲である。ヘプタントレランスが5mlより低いロジン変性フェノール樹脂は、極端な低溶解性となり製造上得ることが困難であるとともに、流動性が低下し、ローラー間転移性、紙面への着肉が低下するため、品質の良い印刷物を安定して生産できなくなる。9mlより大きいと、セット性、乾燥性が劣るとともに、流動性が過剰になり、網点が太ったり、ミスチングし易くなる。
【0023】
植物油の脂肪酸エステルと、ヘプタントレランスが9ml以下のロジン変性フェノール樹脂とを併用することが重要であり、このことにより、印刷時に、インキ中の植物油の脂肪酸エステルとロジン変性フェノール樹脂の離脱が速やかに行われ、セット性や乾燥性が大きく向上する。一方、植物油の脂肪酸エステルを使用せず、従来のAF溶剤などでは、樹脂に対する溶解性が劣ってしまい、ワニスが白濁したり、光沢の向上に効果がない。また、ヘプタントレランスが9ml以下のロジン変性フェノール樹脂を使用しない場合には、流動性が過剰になってしまう。
【0024】
また、本発明の植物油の脂肪酸エステルと、ヘプタントレランスが9ml以下のロジン変性フェノール樹脂と、溶剤と、アルミキレート剤などを混合過熱溶解して印刷インキ用ワニス(以下、単にワニスともいう)とすることが好ましい。
【0025】
本発明において、樹脂のヘプタントレランスとは、ビーカーにロジン変性フェノール樹脂1gを秤り取り、トルエン9gに溶解させ、25℃において、ノルマルヘプタンをビュレットにて滴下していき、溶液が白濁しビーカー下の新聞紙活字(10ポイント)が判定出来なくなるまでのノルマルヘプタン滴下量(ml)である。
【0026】
本発明のロジン変性フェノール樹脂は、重量平均分子量が40,000〜300,000の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは、重量平均分子量が50,000〜250,000の範囲内である。重量平均分子量が300,000を超えると溶解性が低下するため、溶剤離脱性が早くなることにより、機上安定性が劣り、紙剥けが発生しやすくなる。また高い弾性を有するため、顔料分散性の低下、紙面への着肉低下や、レベリング性、流動性低下による光沢低下が起こりやすくなる。
ここで、重量平均分子量は、GPC法(ポリスチレン換算)による測定値である。
【0027】
本発明のロジン変性フェノール樹脂の含有量は、印刷インキ全量中に20〜35重量%の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは、印刷インキ全量中に25〜30重量%の範囲内である。20重量%未満では固形分が少ないため、低粘度となって流動性が過剰となり所望のインキを得ることが困難となり、35重量%を超えると光沢が低下しやすくなるため好ましくない。
【0028】
本発明の植物油の脂肪酸エステルとロジン変性フェノール樹脂の比率は、ワニス中の重量比で40/60〜70/30の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは、45/55〜60/40の範囲内である。植物油の脂肪酸エステルとロジン変性フェノール樹脂の比率において、ロジン変性フェノール樹脂が重量比で60重量%を超えると溶解性が劣り、セット性が劣り、タックも上昇し、紙剥けしやすくなる。
【0029】
本発明のロジン変性フェノール樹脂以外のバインダー樹脂は、その他のロジン変性フェノール樹脂、重合ロジンエステル、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂及び石油樹脂等を示し、それらは任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用する事ができる。
【0030】
本発明で用いられる溶剤としては、流動性付与などの目的で、AF溶剤、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、マシン油、シリンダー油などに代表される石油系溶剤、植物油、植物油の脂肪酸エステル、ビニリデンオレフィンなどを適宜選択して用いることができるが、VOC成分を含まない環境対応型のインキとする場合には、AF溶剤やマシン油などの石油系溶剤の使用は控え、植物油、植物油の脂肪酸エステル、ビニリデンオレフィンなど揮発しない溶剤の使用が好ましい。
【0031】
本発明で用いられる植物油としては、主に大豆油が用いられる。その他の植物油としては、例えばアマニ油、菜種油、ヤシ油、オリーブ油、桐油、トール油などおよびこれらを再生処理したものが挙げられる。
【0032】
本発明の印刷インキ組成物の全量に対し植物油は、7〜30重量%の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは10〜25重量%の範囲内である。7重量%未満では光沢が低下する。30重量%を超える量を添加しても光沢の向上効果は得られず、溶解性が高くなり、タックの経時での上昇が大きくなるため、ブランケット上に堆積したインキの粘着性が高まり、アフタータックが残り、紙剥けしやすくなる。
【0033】
本発明で用いられるキレート剤はゲル化剤として働くものであるが、金属キレート、特に、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートなどのアルミニウムキレート化合物が好ましく用いられる。
【0034】
本発明で用いられる顔料としては、有機顔料または無機顔料であり、例えばジスアゾイエロー、カーミン6B、フタロシアニンブルーなどに代表される有機顔料、およびカーボンブラック、炭酸カルシウムなどに代表される無機顔料などであり、特に限定されない。
【0035】
本発明では、他に印刷インキとしての機能向上を目的として、適宜、顔料分散剤、乳化剤、乾燥防止剤、乾燥促進剤、整面剤、滑剤などの添加剤を用いることができる。
【0036】
例えば、耐摩擦性、ブロッキング防止剤、滑り剤としては、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、シリコーン化合物等の合成ワックスを例示することができる。
【0037】
本発明の印刷インキ組成物は、従来公知の方法により製造できる。例えば、ロジン変性フェノール樹脂、植物油の脂肪酸エステル、溶剤、アルミキレート剤及びその他の添加物を混合過熱溶解してワニスを得、このワニスに顔料を3本ロール、ビーズミルなどで分散させた混合物に、溶剤、添加剤、植物油の脂肪酸エステルなどを添加して製造される。
【0038】
本発明の印刷物は、基材となる紙に、通常のオフセット印刷により製作出来る。
【0039】
本発明の印刷物に用いる基材としては、通常のオフセット印刷が可能な用紙であれば使用できるが、特に、オフセット印刷に適する更紙(非塗工紙)、微塗工紙、コート紙、アート紙などが好ましく用いられる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を示す。
【0041】
[ワニスの調製]
製造例1
ロジン変性フェノール樹脂R1(重量平均分子量57,000、ヘプタントレランス7.9ml、ハリマ化成(株)製)37.5部、トール油脂肪酸ブチルエステル(ハートールBU、ハリマ化成(株)製)31部、大豆白絞油31部、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)製)0.4部およびジブチルヒドロキシトルエン0.1部を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV1を得た。
【0042】
製造例2
ロジン変性フェノール樹脂R2(重量平均分子量220,000、ヘプタントレランス8.0ml、ハリマ化成(株)製)35.7部、トール油脂肪酸ブチルエステル(ハートールBU、ハリマ化成(株)製)32部、大豆白絞油32部、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)製)0.2部およびジブチルヒドロキシトルエン0.1部を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV2を得た。
【0043】
製造例3
ロジン変性フェノール樹脂R3(重量平均分子量63,000、ヘプタントレランス8.1ml、ハリマ化成(株)製)37.1部、トール油脂肪酸ブチルエステル(ハートールBU、ハリマ化成(株)製)31.2部、大豆白絞油31.2部、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)製)0.4部およびジブチルヒドロキシトルエン0.1部を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV3を得た。
【0044】
製造例4
ロジン変性フェノール樹脂R6(重量平均分子量90,000、ヘプタントレランス11.8ml、荒川化学工業(株)製)41.4部、大豆油脂肪酸ブチルエステル(SFB−2、東新油脂(株)製)33部、大豆白絞油25部、およびアルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル社製)0.5部およびジブチルヒドロキシトルエン0.1部を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV4を得た。
【0045】
製造例5
ロジン変性フェノール樹脂R4(重量平均分子量148,000、ヘプタントレランス50ml、荒川化学工業(株)製)25部、ロジン変性フェノール樹脂R5(重量平均分子量122,000、ヘプタントレランス30ml、荒川化学工業(株)製)15部、大豆白絞油10部、AFソルベント7(新日本石油社製)49.25部、およびアルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル社製)0.65部およびジブチルヒドロキシトルエン0.1部を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV5を得た。
【0046】
実施例1〜3
表1に示したように、ワニス、シアニンブルー(GBK19SD、DIC(株)製)、炭酸カルシウム(白艶華O、白石カルシウム(株)製)、大豆油脂肪酸ブチルエステル(SFB−2、東新油脂(株)製)を添加して混合し、さらに、3本ロールミルで練肉して、インキベースを得、さらにワニス、ワックス(シャムロック社製、フロロスパース153DM)および大豆油脂肪酸ブチルエステル(SFB−2、東新油脂(株)製)を添加、混合し、L型粘度計(25℃)による粘度値が17〜22Pa・sの実施例1〜3の印刷インキ組成物を得た。
【0047】
比較例1
植物油の脂肪酸エステルと9mlを超えるロジン変性フェノール樹脂とを併用した例で、実施例1と同様の操作を実施し、比較例1の印刷インキ組成物を得た。配合は、表1に示した。
【0048】
比較例2
植物油の脂肪酸エステルをAFソルベント7および大豆白絞油に置換し、9mlを超えるロジン変性フェノール樹脂とを併用した従来品の例で、実施例1と同様の操作を実施し、比較例2の印刷インキ組成物を得た。配合は、表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1(実施例1〜3および比較例1〜2)の印刷インキ組成物について、下記のテーブルテストを行った。その結果を表2に示す。
【0051】
[セット性]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をRIテスター((株)明製作所製)でコート紙に展色し、すぐに自動インキセット試験機((株)東洋精機製作所製)を用いて、展色面に重ねた上質紙への印刷インキ組成物の付着度を目視により確認し、付着が認められなくなるまでに要した時間を測定した。この時間が短いほど、セット性が優れる。
【0052】
[乾燥性]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をプリューフバウ印刷適性試験機(MZ−II、プリューフバウ(株)社製)を用い、印圧400N、印刷速度10m/秒の条件で、印刷インキ組成物0.2ccをコート紙に展色し、紙面乾燥温度を110〜120℃になるように調節して、試料片を乾燥させた。乾燥させた試料片をすぐに取り出し、指触にて試料片のべた付き具合を評価した。べた付きがないほど、乾燥性が優れる。
べた付きの程度について、○:べた付きがないもの、△:ややべた付きがあるもの(実用上問題ない程度)、×:べた付きがあり、実用できない、の3段階で評価した。
なお、プリューフバウ印刷適性試験機はドイツのFOGRA印刷製版研究所で開発された試験機で印刷インキ組成物の評価に広く用いられている。
【0053】
[タック]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をインコメーター((株)東洋精機製作所製)を使用し、インキ量1.31cc、室温25℃、ローラー温度30℃、回転数400rpmの条件下で1分後の数値(タック値)を測定した。タック値が低いほど、紙剥けしにくくなり、優れる。
【0054】
[機上安定性]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をインコメーター((株)東洋精機製作所製)を使用し、インキ量1.31cc、室温25℃、ローラー温度30℃、回転数1200rpmの条件下で0分のタック値と10分後のタック値の差(タック変化)を測定し、評価した。タック変化がより少ないものほど、機上安定性が優れる。
タック変化について、○:4.0未満(機上安定性最良)、△:4.0以上7.0未満(機上安定性良好、実用上問題ない)、×:7.0以上(機上安定性が劣り、実用できない)、の3段階で評価した。
【0055】
上記の他、その他の印刷適性について、以下のテストを行なった。
【0056】
[流動性]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をスプレッドメーター((株)東洋精機製作所製)によってインキの広がり(直径;mm)1分値を測定、評価した。広がり直径について、○:39.0mm以上41.0mm未満(実用上最適)、△:38.0mm以上39.0mm未満又は41.0mm以上42.0mm未満(実用上問題ない)、×:38.0mm未満または42.0mm以上(流動性不足または流動性過多により、実用できない)、の3段階で評価した。
【0057】
[光沢]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をRIテスター((株)明製作所製)でコート紙に展色し、光沢度計PG−1(日本電色工業(株)社製、60°)による測定値を評価した。光沢値が高いほど優れる。
光沢値について、○:55.0以上、△:48.0以上、55.0未満(実用上問題ない)、×:48.0未満(光沢が低く、実用できない)、の3段階で評価した。
【0058】
[ミスチング]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をインコメーター((株)東洋精機製作所製)を使用し、インキ量2.62cc、室温25℃、ローラー温度35℃、回転数2000rpmの条件下で、1分間運転した後のインコメーターロールの背面に設置した白紙へ飛散したインキの飛散状態を目視にて評価した。飛散量が少ないほど、ミスチングが優れる。飛散状態について、○:少ないもの、△:やや多いもの(実用上問題ない程度)、×:多いもの(実用できない)、の3段階で評価した。
【0059】
[耐摩擦性]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物をRIテスター((株)明製作所製)でコート紙に展色し、すぐに温度調整可能なオーブンを用いて、120℃、10秒間、試料片を加熱し、乾燥させた。加熱後、試料片を1分間放冷し、放冷した試料片のインキ面を学振型耐摩擦性試験機にて白紙で擦り、色落ちの程度を目視にて評価した。色落ちが少ないものほど、耐摩擦性が優れる。色落ちの程度について、○:少ないもの、△:やや多いもの(実用上問題ない程度)、×:多いもの(実用できない)、の3段階で評価した。
【0060】
[乳化試験]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物についてリソトロニック乳化試験機(NOVOCONTROL社製)を使用し、インキ25gを40℃において回転数1200rpmで、インキ25gに対して、2ml/分の速度で水を添加していき、インキが飽和した時点の水分量を測定し、インキ25gに対する重量%とし、評価した。
乳化率(%)=100×(飽和時点の水分量g)/(インキ量g)
乳化率は、印刷機による印刷試験において、概ね30〜50%の範囲であることが好ましい効果が得られることが確認されている。
【0061】
【表2】
【0062】
表2によると、実施例1〜3の印刷インキ組成物と比較して、比較例1の特許文献3に類似したヘプタントレランスが9mlより大きい樹脂を使用した印刷インキ組成物は、セット性、乾燥性、耐摩性が劣り、また流動性が過多となり、ミスチングが劣る結果であった。また、比較例2の従来品の例である印刷インキ組成物は、乾燥性、流動性、光沢、ミスチング、耐摩擦性、乳化の適性については、同等か遜色のないレベルであるが、セット性および機上安定性が劣り、タックが高い結果であった。
【0063】
[実機印刷試験:擦れ汚れ]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物を、4色オフセット輪転機を使用して印刷試験を行ない、擦れ汚れが発生しない紙面温度を調べた。なお、擦れ汚れが発生しない紙面温度とは、ある紙面温度において、印刷機折機から排出された印刷直後の印刷物を適当部数抜き取り、すぐにベタ画像部を指で擦り、その擦れ具合を目視にて判定し、擦れ汚れが発生しなかった場合、乾燥機の設定温度を下げ、同様の作業を擦れ汚れが発生するまで繰り返し行い、擦れ汚れが発生しなかったときの最低の紙面温度とした。
印刷機:(株)小森コーポレーション製 4色オフセット輪転機
印刷回転数:600rpm
印刷版:CTP版
用紙:微塗工紙
紙面温度は、放射温度計IT−540(堀場製作所(株)製)を使用し、乾燥機出口を通過直後の紙面上の温度を測定した。また、同時にその時の乾燥機の設定温度も記録した。
【0064】
[実機印刷試験:着肉性]
実施例1〜3および比較例1〜2の各印刷インキ組成物について、標準的な濃度の印刷物を与えることのできるインキの送り量を測定し、比較例2の従来品を基準として、その増減を%で表示した。
【0065】
[実機印刷試験:ドットゲイン]
上記着肉性試験で得られた印刷物を倍率100倍顕微鏡で網点の太りを観察し、比較例2の従来品を基準として、○:基準より細い、×:基準より太っている、の2段階で評価した。
【0066】
【表3】
【0067】
表3によると、実施例1〜3の印刷インキ組成物は、比較例1〜2と乾燥温度は同程度であるが、着肉性、ドットゲインは明らかに優れていることが分かった。これらの結果から、特定の樹脂と植物油の脂肪酸エステルを併用することで、従来品と同等の乾燥温度において、着肉性が向上しインキ送り量が抑えられることにより、ロングラン印刷時のブランケット上のインキパイリング(ブランパイリング)が軽減し、ブランケット洗浄回数の減少や不要な機械停止の低減など生産効率の向上に寄与するとともに、網点の太りが発生しないことにより、鮮明な印刷物を与えることができ、品質の向上に貢献するという効果を奏する。