(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジプロピルカーボネートからなる群から選択された少なくとも一種の材料からなることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両用非水電解液電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の寸法関係とは異なる場合がある。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の車両用非水電解液電池を表す模式的な断面図である。電池1は、負極集電体5と、負極集電体5上に塗布された負極活物質7と、セパレータ8と、正極活物質層9と、正極集電体4とが順に積層された構造を有している。負極活物質7の周囲、セパレータ8、および正極活物質層9中には、電解液が含浸されている。
【0015】
電解液は、50体積%を超えるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの両方と、鎖状カーボネートを含む非水電解液からなる。また、電池1は、車両用となっている。
【0016】
車両は、走行中にエンジンなどから発生する熱によってその内部温度が高くなり、その内部に搭載した電池を高温にする。この電池1の高温化によって、電池1内の電解液の温度も上昇し、その粘度が低下する。このため、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートの比率が比較的高くても電解液のイオン移動特性に悪影響を及ぼして低下させるといったことがなくなる。従って、50体積%を超える高含量のエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートを含んでいても、電解液はエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート含有量増加に対するイオン導電率の上昇傾向が続き、高いイオン導電率を達成することができる。この結果、電池1の内部抵抗を低くして、高出力化を図ることができる。
【0017】
電池1の通常使用温度は、50℃〜100℃であるが、60〜90℃で使用するのが好ましく、60℃〜80℃で使用するのがより好ましい。これらの通常使用温度であれば、電池1の構成部材を劣化させることなく、電解液の粘度を低下させて、効果的に電池の高出力化を図ることができる。
【0018】
なお、ここで言う電池の通常使用温度とは、車両を走行させたときの電池の周囲の環境温度のことである。
【0019】
車両としては、モーターやエンジンといった発熱する駆動機構を有して走行可能なものであれば特に限定されるわけではなく例えば、二輪車、三輪車、四輪車、五輪以上の車輪を有する移動体に使用することができる。特に、エンジンが搭載される車両のエンジンルームに搭載される電池として使用するのがよい。また、パラレルハイブリッド自動車、シリーズハイブリッド自動車、またはプラグインハイブリッド車といった、エンジンと車両駆動用電池の両方が搭載される用途、すなわちいわゆるハイブリッド自動車用電池として使用してもよい。
【0020】
図2は、本実施形態の電池1を四輪自動車22に搭載した例を示す模式図である。
図2Aの例では、自動車22のエンジンルーム23に電池1が搭載される。また、
図2Bの例では、シート24の下方に、電池1が搭載される。
図2の何れの例であっても、電池1は、自動車22の走行時に、自動車22内で発生する熱によって高温化する。大まかな温度としては、シート下方の場合、50℃〜70℃、エンジンルームの場合、さらに高く、60℃〜100℃である。上述したように、このような場合に本実施形態の電池は、高出力となることができる。
【0021】
電解液は、好ましくは55体積%以上、さらには60体積%以上のエチレンカーボネートおよび/またはプロピレンカーボネートを含有することが好ましく、さらには70体積%以上のエチレンカーボネートおよび/またはプロピレンカーボネートを含有することが好ましい。これにより、電池1の内部抵抗を低くして、更に高出力とすることができる。また、電解液中に用いる鎖状カーボネートは特に限定されないが例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびジプロピルカーボネート(DPC)からなる群から選択された少なくとも一種の材料を用いることができる。
【0022】
負極集電体5および正極集電体4としては、導電性の板状のものであれば特に限定されないが、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金などを用いることができる。
【0023】
負極活物質7としては、カチオンを吸蔵・放出可能な材料であれば特に限定されず、天然黒鉛、石炭・石油ピッチ等を高温で熱処理して得られる黒鉛化炭素等の結晶質カーボン、石炭、石油ピッチコークス、アセチレンピッチコークス等を熱処理して得られる非晶質カーボン、金属リチウムやAlLi等のリチウム合金などが使用できる。
【0024】
セパレータ8としては例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、フッ素樹脂等の多孔性フィルムを用いることができる。
【0025】
正極活物質層9に用いる正極活物質としては、放電時に正イオンを吸収するもの又は負イオンを放出するものであれば特に限定されず、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiCoO
2、LiNiO
2等の金属酸化物が使用できる。
【0026】
電解液中には、電解質を含む。電解質としては、Li、K、Na等のアルカリ金属のカチオンとClO
4-、BF
4-、PF
6-、CF
3SO
3-、(CF
3SO
2)
2N
-、(C
2F
5SO
2)
2N
-、(CF
3SO
2)
3C
-、(C
2F
5SO
2)
3C
-等のハロゲンを含む化合物のアニオンからなる塩を溶解したものが挙げられる。
【0027】
(第2実施形態)
本実施形態は、正極および負極からなる電極対を複数個、積層させた積層型の車両用非水電解液電池1に関するものである。
図3Aは本実施形態の電池1の外観斜視図、
図3Bはその分解斜視図を表す。また、
図4Aは
図3A中のA-A線に沿った拡大断面図、
図4Bはポリオレフィン微多孔膜と無機化合物材料層の積層体からなる複合セパレータ18の拡大断面図である。
【0028】
これらの図面に示すように、電池1は、電池要素10と、電池要素10を気密に封止する2枚のフィルム41、42からなる外装フィルム40とを有する。
図4Aおよび4Bに示すように、電池要素10は、複合セパレータ18を介して交互に積層された複数の正極板11および負極板12を有する。負極板12よりも正極板11の方がサイズ(面積)が小さくなっている。電池要素10の対向する2つの長辺上には、積層された正極板11および負極板12を固定する結束部材(テープ13)が貼られている。また、各正極板11からは正極延出部14が引き出され、各負極板12からは負極延出部15が引き出されている。さらに、各正極延出部14は、正極リード16の一端に一括して接合され、各負極延出部15は、負極リード17の一端に一括して接合されている。フィルム外装体内には、電解液が注入されている。
【0029】
図4Aに示すように、正極板11の両面には正極活物質が塗布され、負極板12の両面には負極活物質が塗布されている。
図3Aに示すように、正極リード16の一端は、外装フィルム40の一辺(短辺)から外装フィルム40の外側に引き出されている。また、負極リード17の一端は、外装フィルムの他の一辺(短辺)から該外装フィルム40の外側に引き出されている。
【0030】
図4Bに示すように、複合セパレータ18は、ポリオレフィン微多孔膜18aと、その互いに対向する両面上に形成された無機化合物材料層18bとを有する。
【0031】
ポリオレフィン微多孔
膜18aを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合ないし重合させて、更には積層させて用いることもできる。一軸延伸あるいは二軸延伸されていることが好ましい。また、電池特性への影響を考えると厚みは5〜30μm、空隙率は30〜70%が好ましい。
【0032】
無機化合物材料層18bは、無機化合物を含有する多孔質層であってポリオレフィン微多孔膜18a上に層を形成できるものであれば特に限定されるものでない。ここで用いられる無機化合物材料としては、たとえばセラミック材料であり、好ましくは酸化物系無機材料である。例えばアルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合ないし焼結させて用いることもできる。また、その粉末の粒径は0.1〜10μmであることが好ましい。
【0033】
また、無機化合物材料層18bを形成する際には、バインダを用いてもよい。このようなバインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、混合ないし重合させて用いてもよい。また、バインダ量は、例えば一般的なバインダ量と同程度であることが好ましく、具体的には、無機化合物材料層18bにおいて、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。例えば、上記無機化合物材料と上記バインダをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶媒に分散させたスラリー(無機化合物材料層形成用材料)を微多孔膜18a上に塗布し、乾燥させることなどにより、無機化合物材料層18bを形成することができる。無機化合物材料層18bの厚みは1〜20μm、空隙率は30〜70%が好ましい。
【0034】
電池の製造時には、常温で電池内への電解液の注入が行われるため、電解液の粘度が高い場合には、従来、ポリオレフィン系セパレータ内などへの電解液の含浸性が低かった。このため、製造時間が長くなりコストが増大すると共に電池の高出力化を阻害することとなっていた。
【0035】
これに対して、本実施形態の電池1は、
図4Bに示す無機化合物材料層18bを有するため、電池1の製造時に常温で電池内へ高粘度の電解液6を注入した場合であっても、電池1内への電解液6の含浸性を高めることができる。これは、以下の2つの理由(A)、(B)によるものと考えられる。
【0036】
(A)無機化合物材料層18bは、無機化合物材料あるいはセラミック材料であるため、また好ましくは酸化物系無機材料であるため、表面の極性は有機材料特にポリオレフィン系材料と比べて高い。このため、本発明で用いられるようなカーボネート系溶媒を有する電解液の、無機化合物材料層18bに対する接触角は小さくなる。こうして、無機化合物材料層18bを設けることによって、電解液6の含浸性が向上するものと考えられる。
【0037】
(B)本実施形態の電池1は積層型電池であるため、
図3Bの矢印20で示したように、4方向から電解液を含浸させることが可能となる(電極面の法線方向が水平を向くようにした状態で、下側から電解液を含浸させる方法においては、電極の4辺のうち、下を向く辺と、それに隣接する2辺から電解液が入っていくことになり、上を向く辺からは電解液を必ずしも含浸させなくてもよく、この場合には3方向)。これに対して、正極と負極の電極対を何重にも巻き回した巻回型電池の場合は、軸方向である2方向(
図3Cの矢印21で示す方向)からしか電解液を含浸させることができない。従って、本実施形態の電池1は、巻回型電池と比べて、電解液の含浸性が向上するものと考えられる。
【0038】
以上のように、本実施形態の電池1は、複合セパレータ18を設けることによって、常温での電池製造時に、高い含浸性で電池1内に電解液6を注入することができる。この結果、製造時間を短縮化することが可能となり、製造コストを低減することができる。また、セパレータ18内などには十分な量の電解液6が存在するため、電池1の内部抵抗を低下させて、高出力化を図ることができる。
【0039】
なお、本実施形態の複合セパレータ18は、ポリオレフィン微多孔膜18aの両面に無機化合物材料層18bを設けたが、ポリオレフィン微多孔膜18aの片面にのみ無機化合物材料層18bを設けても良い。この場合、無機化合物材料層18bを設けるポリオレフィン微多孔膜18aの面は、正極に対向する側の面であっても、負極に対向する側の面であっても良い。好ましくは、最も電解液の含浸性を向上させることができるため、本実施形態のようにポリオレフィン微多孔膜18aの両面に無機化合物材料層18bを設けるのが良い。
【実施例】
【0040】
(試験例)
まず、高温の電解液中のエチレンカーボネート(以下、ECと記載する場合がある)の含量と、電解液のイオン導電率との関係を調べた。
【0041】
電解液として、1.5MのLiPF
6を含有するECとジエチルカーボネート(以下、DECと記載する場合がある)の混合溶液を作成した。この際、電解液中のEC含量を30、50、70体積%とした3種類の電解液を作成した。この3種類の電解液について、60℃におけるイオン導電率を測定した。この結果を、下記表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の結果から、高温(60℃)では、EC含量が30、50、70体積%と増加するにつれて、電解液のイオン導電率が向上していることが分かる。
【0044】
また、上記のように作成した3種類の電解液について、20℃における粘度を測定した。この結果を下記表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の結果から、常温(20℃)では、EC含量が50体積%以上となると、30体積%の場合と比べて大幅に粘度が高くなっていることがわかる。従って、電池内への電解液注入は一般に常温で行われることから、EC含量が50体積%以上の電解液の注入は、粘度が高いため30体積%の場合に比べて困難になると言える。
【0047】
(実施例1)
上記の試験例の結果を踏まえて、以下のように電池を作成した。正極活物質であるリチウムマンガン複合酸化物を、バインダーであるPVDFを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記載する場合がある)中に均一に分散させスラリーを作製した。そのスラリーを正極集電体となるアルミ金属箔上に塗布後、NMPを蒸発させることにより正極板を作成した。
【0048】
負極活物質である黒鉛を、バインダーであるPVDFを溶解させたNMP中に均一に分散させスラリーを作製した。そのスラリーを負極集電体となる銅箔上に塗布して負極板を作成した。
【0049】
電解液として、1.5MのLiPF
6を含有するECとDECの混合溶液(EC:DEC=70体積%:30体積%)を作成した。また、無機化合物材料層を有する複合セパレータとして、以下のものを準備した。チタニア(平均粒径約400nm)と、アクリロニトリル単位を含むゴム系バインダー樹脂とを95:5の比率でアセトンに分散・溶解させて得たスラリーを、ポリプロピレンからなる厚さ25μmの微多孔膜の両面に塗布・乾燥することにより、片面2μmの膜厚のセラミック層(無機化合物材料層)が形成された複合セパレータを得た。
【0050】
上記の各部品を、正極板、複合セパレータ、負極板、複合セパレータ、正極板、複合セパレータ、負極板・・・のように積層させたものをフィルムで包み込んで3辺をシールし電池の構成要素を作成した。未シールの辺から電解液を注液し、最後の1辺を真空下でシールすることにより、
図3A、3Bおよび4で示される積層型電池を作成した。この際、注液は問題なく行うことができた。
【0051】
この積層型電池について、60℃における内部抵抗を測定したところ、低い内部抵抗値を示し、高出力であることが分かった。この結果は、上記表1の結果と整合するものであった。
【0052】
(比較例1)
電解液中のEC含量を30体積%とした以外は、実施例1と同様にして、積層型電池を作成した。この積層型電池について、内部抵抗を測定したところ、高い内部抵抗値を示し、低出力であることが分かった。この結果は、上記表1の結果と整合するものであった。
【0053】
(比較例2)
電解液中のEC含量を40体積%とした以外は、実施例1と同様にして、積層型電池を作成した。この積層型電池について、内部抵抗を測定したところ、実施例1と比較例1の間の内部抵抗値を示し、実施例1と比較例1の間の出力であることが分かった。この結果は、上記表1の結果と整合するものであった。
【0054】
(参考例1)
正極板と負極板の間に挟むセパレータとして、複合セパレータではなく、厚さ29μmのポリプロピレン微多孔膜単独(無機化合物材料層の形成なし)を用いた以外は実施例1と同様に電池を作製したところ、未シールの辺から電解液を注液する際、所定量を注入する前に電解液が未シール辺からあふれた。そこで注液量を5分割し、5回に分けて注液と休止を繰り返すことで、所定量の注液ができた。その他の工程は実施例と同様とした。作製した電池の性能評価を行ったところ、出力が実施例1の90%にとどまった。
【0055】
実施例1と参考例1を比較すると、注液性、出力ともに、実施例1のほうが、優れている。これは、実施例1では、セパレータにセラミック層(無機化合物材料層)を設けていることで、粘度の高い電解液を用いているにもかかわらず含浸性が優れ、それによって電池の出力も向上しているものと考えられる。
【0056】
上記実施例では環状カーボネートとしてエチレンカーボネートを用いた場合を記載しているが、エチレンカーボネートに代えてプロピレンカーボネートを用いた場合、あるいはこれら2つを混合した場合でも同様な効果が得られるものと考えられる。