(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063293
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】気相成長方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20170106BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20170106BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/34
C23C16/44 J
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-33796(P2013-33796)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-165282(P2014-165282A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】池永 和正
【審査官】
長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−258516(JP,A)
【文献】
特開2008−262967(JP,A)
【文献】
特開2011−100783(JP,A)
【文献】
特開平04−139816(JP,A)
【文献】
特開2007−084908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205−21/31、21/365、21/469、
21/86、
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガス導入部及びガス排出部を備えたチャンバー内に、サセプタで保持したサファイア基板を配置し、該基板を加熱するとともに、前記原料ガス導入部からガス排出部に向けてチャンバー内に原料ガスを導入し、チャンバー内で原料ガスを反応させて前記基板面にGaN薄膜を形成する気相成長方法において、前記基板のガス流れ方向上流側で、前記原料ガスに接触するガス接触面を有する複数のガス接触部材を着脱交換可能に形成するとともに、前記基板面にGaN薄膜を形成する操作で前記ガス接触面にガリウム化合物が付着したガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換する際に、
1回目の交換作業では、ガス接触面にガリウム化合物が付着したガス接触部材の少なくとも一つを残して他のガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換し、
2回目の交換作業では、前記1回目の交換作業で交換したガス接触部材を残して、前記1回目の交換作業で交換しなかったガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換し、
前記1回目の交換作業と前記2回目の交換作業とを交互に繰り返す気相成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長方法に関し、詳しくは、サファイア基板にGaN(窒化ガリウム)の薄膜を気相成長させる気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体の一つであるGaN半導体を製造する装置は、例えば、石英製のチャンバー内にサファイア製の基板を配置して該基板を所定の温度に加熱するとともに、前記チャンバー内に、原料ガスとしてトリメチルガリウムとアンモニアとを導入し、該原料ガスを前記基板の表面付近で反応させることにより、基板の表面にGaNを気相成長させて窒化ガリウム半導体を形成する。
【0003】
このような気相成長装置では、原料ガスの状態や基板温度等の成膜条件の最適化だけでなく、各成膜時における成膜条件の均一性を確保することも重要な問題であった。このため、新品あるいは洗浄後のチャンバーを使用する際に、チャンバー内に原料ガスを導入してチャンバー内の原料ガスに接触する面を意図的に汚れた状態にすること、いわゆるプリコートを行うことによって各成膜時における成膜条件の均一化を図ったり、逆に、成膜後にチャンバーを洗浄して常に清浄な状態にすることによって各成膜時における成膜条件の均一化を図ったりすることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−262967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、プリコートを行うためには、原料ガスの無駄が発生するだけでなく、プリコートを行っている間は成膜操作を行えないため、製造コストの増加や生産性の低下を招いてしまう。また、各成膜操作毎に清浄なチャンバーを使用するためには、成膜操作後のチャンバーを取り外して清浄なチャンバーに交換する手間が掛かり、チャンバー交換に要する時間も必要であり、生産性の低下を招いてしまう。
【0006】
そこで本発明は、高品質なGaN薄膜を安定して得ることができる気相成長方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長方法は、原料ガス導入部及びガス排出部を備えたチャンバー内に、サセプタで保持したサファイア基板を配置し、該基板を加熱するとともに、前記原料ガス導入部からガス排出部に向けてチャンバー内に原料ガスを導入し、チャンバー内で原料ガスを反応させて前記基板面にGaN薄膜を形成する気相成長方法において、前記基板のガス流れ方向上流側で、前記原料ガスに接触するガス接触面を有する複数のガス接触部材を着脱交換可能に形成するとともに、前記基板面にGaN薄膜を形成する操作で前記ガス接触面にガリウム化合物が付着したガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換する際に、
1回目の交換作業では、ガス接触面にガリウム化合物が付着したガス接触部材の少なくとも一つを残して他のガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換
し、2回目の交換作業では、前記1回目の交換作業で交換したガス接触部材を残して、前記1回目の交換作業で交換しなかったガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換し、前記1回目の交換作業と前記2回目の交換作業とを交互に繰り返すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の気相成長方法によれば、ガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換する際に、少なくとも一つを残すようにしているので、原料ガス導入部から導入した原料ガスが、ガス接触面にガリウム化合物が付着したガス接触部材に接触することにより、サーマルクリーニング工程にてサファイア基板上にGaが飛散することで成膜条件が安定化し、結晶性や表面モフォロジーが良好なGaN薄膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の気相成長方法を実施する気相成長装置の一例を示す断面正面図である。
【
図3】実験結果を示すもので、成膜操作回数と測定したX線半値幅(FMHW)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1及び
図2は、本発明の気相成長方法を実施するための気相成長装置の一例を示すもので、1回の操作で複数の基板面に均一にGaN薄膜を形成することができる自公転型の気相成長装置を示している。この自公転型の気相成長装置は、石英ガラス製の偏平円筒状のチャンバー11内に、チャンバー11の底面部分を貫通した支持軸12により円盤状のサセプタ13を支持し、前記支持軸12の上部に、放射状に原料ガスを流出させる原料ガス導入部14を設けるとともに、チャンバ11の外周部にガス排出部15を設けている。
【0011】
サセプタ13の下方には、支持軸12を囲むようにしてヒーター16が設けられ、ヒーター16の周囲にはリフレクター17が設けられている。サセプタ13の上面には、内周側に石英中央カバー18が、該石英中央カバー18の外周側に、複数の収容部19を周方向に等間隔で形成したサセプタカバー20が、それぞれ着脱可能な状態で載置され、前記収容部19に、プレートリング21を介してサファイア基板22がそれぞれ支持されている。
【0012】
前記原料ガス導入部14と前記サファイア基板22との間、すなわち、サファイア基板22のガス流れ方向上流側で、原料ガス導入部14からチャンバー11内に導入された原料ガスが接触するガス接触面を有するガス接触部材は、本形態例では、前記石英中央カバー18、前記サセプタカバー20、プレートリング21、チャンバー11の天井板11aの4種類であって、これらのガス接触部材は、基板面にGaN薄膜を形成する操作を行うと、加熱された原料ガスの反応や分解によって生じたガリウム化合物、例えば、GaNがガス接触面に付着する。
【0013】
ガス接触面へのガリウム化合物の付着量が多くなると、パーティクルの発生など、基板面に形成するGaN薄膜に悪影響を与えるため、ガス接触面へのガリウム化合物の付着量が多くなる前に、ガリウム化合物が付着したガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換する必要がある。
【0014】
このため、従来は、ガリウム化合物が付着したガス接触部材の全てを清浄なガス接触部材に交換していたが、本発明では、ガス接触面にガリウム化合物が付着したガス接触部材の少なくとも一つを残して他のガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換する。例えば、本形態例では、石英中央カバー18、サセプタカバー20、プレートリング21及びチャンバー11の天井板11aのなかで、1回目の交換作業では、石英中央カバー18を残してサセプタカバー20、プレートリング21及びチャンバー11の天井板11aを清浄なサセプタカバー20、プレートリング21及びチャンバー11の天井板11aに交換し、2回目の交換作業では、サセプタカバー20、プレートリング21及びチャンバー11の天井板11aを残して石英中央カバー18を清浄な部材に交換する。
【0015】
このように、1回目の交換作業では、ガス接触面にガリウム化合物が付着したガス接触部材の少なくとも一つを残して他のガス接触部材を清浄なガス接触部材に交換し、2回目の交換作業では、1回目の交換作業で交換しなかったガス接触部材を含めて清浄なガス接触部材に交換することにより、原料ガスを導入して成膜する前に行われる、水素を含む雰囲気で1000℃以上まで加熱するサーマルクリーニングの工程で、GaNなどのガリウム化合物が付着したガス接触面からサファイア基板上にGaが飛散することで、一般的な成膜条件でサファイア基板22にGaN薄膜を気相成長させた場合でも、得られるGaN薄膜におけるGaNの結晶性を大幅に向上させることができ、表面モフォロジーも良好なものとすることができる。
【0016】
ここで、同一構成の気相成長装置を使用し、2回の成膜操作毎に、チャンバー11の天井板11aを残して石英中央カバー18、サセプタカバー20及びプレートリング21を清浄なものに交換する作業と、石英中央カバー18、サセプタカバー20及びプレートリング21を残してチャンバー11の天井板11aを清浄なものに交換する作業とを繰り返して行った場合(実施例)と、1回の成膜操作毎に、全てのガス接触部材を清浄な部材に交換した場合(比較例)とで、得られたGaN薄膜のX線半値幅(FWHM)を測定した。なお、ガス接触部材の交換作業以外、温度条件等の成膜条件は全て同一としている。1回目の成膜操作から5回目の成膜操作で得られたGaN薄膜のX線半値幅を測定し、実施例における測定結果を黒三角印で、比較例における測定結果を黒菱形印で、それぞれ
図3に示す。
図3から明らかなように、X線半値幅の値が小さくなり、良好なGaN薄膜が得られていることがわかる。また、部材の交換も2回毎になるので、毎回交換する場合に比べて生産性の向上も図れる。
【0017】
なお、気相成長装置における基板の支持構造は任意であり、従来から広く知られている自公転型、公転型、自転型、横型、縦型といった各種構造の気相成長装置においても、ガス接触部材が複数あるものであれば、本発明方法を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0018】
11…チャンバー、11a…天井板、12…支持軸、13…サセプタ、14…原料ガス導入部、15…ガス排出部、16…ヒーター、17…リフレクター、18…石英中央カバー、19…収容部、20…サセプタカバー、21…プレートリング、22…サファイア基板