(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
下水処理場、し尿処理場、廃水処理設備等から排出される脱水汚泥を焼却する際に生じる排気ガスにはN
2Oなどの窒素酸化物(NOx)等の大気汚染物質が含まれている。これらの大気汚染物質は排出を抑制することが望まれている。
【0003】
そこで、従来、排気ガス中の窒素酸化物を低減するために、燃焼用空気を複数段階に分けて炉に供給することで、脱水汚泥中に含まれる窒素が窒素酸化物に転化することを抑制することができる、燃焼装置が開発されてきた(例えば、特許文献1参照)。このような燃焼装置においては、まず、最初の段階で完全燃焼に必要な空気量である理論空気量よりも少ない量の空気を供給して脱水汚泥を不完全燃焼させることで脱水汚泥中に含まれる窒素が窒素化合物に転化することを抑制する。その後、さらに一以上の段階に分けて空気を供給して、未燃物を完全に燃焼させる。
【0004】
さらに、特許文献1に記載の燃焼装置は、脱水汚泥の燃焼するための炉内で砂のような流動媒体を循環させることにより、炉内の温度を高温に保ち脱水汚泥を迅速且つ完全に乾燥及び焼却させることができる循環型燃焼装置でもある。特に、特許文献1による燃焼装置は、燃焼炉外に排出された燃焼灰及び流動媒体(砂)を含む排気ガスから、粒子径が大きいものを除去して燃焼炉内に戻すことにより、排気ガスから熱を回収する熱回収室の磨耗を防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載の燃焼装置は、窒素酸化物の低減という観点からすると、脱水汚泥中の窒素と結合可能な燃焼空気中の酸素量を減らして(空気比(=供給空気量/理論空気量)を低くして)脱水汚泥の燃焼により生じる窒素酸化物の量を低減させるという思想に基づくものであった。しかし、空気比を下げれば下げるほど、脱水汚泥の燃焼量が減少して燃焼装置内の温度が十分に上がらず、燃焼装置を安定的に運転することが難しくなってしまう。このため、特許文献1に記載の燃焼装置による窒素酸化物の発生量の低減効果には限界があった。
そこで、本発明は、流動媒体を循環させて燃焼する循環型燃焼方式を採用し、脱水汚泥の焼却により生じる窒素酸化物の発生量を効率的に低減することができる汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、鉄系無機凝集剤を使用して脱水処理を行った脱水汚泥を還元雰囲気下で燃焼した場合、脱水汚泥中に含まれる鉄系無機凝集剤由来の鉄成分により窒素酸化物の発生量を低減することができることを見出して、この発明を完成した。
【0008】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の汚泥燃焼装置は、鉄系無機凝集剤を混合した汚泥を脱水し、脱水汚泥を生成する脱水部と、前記脱水汚泥を流動媒体と共に還元状態で燃焼して、燃焼ガス、固形燃焼生成物、未燃物、及び流動媒体を含む生成物を生成する燃焼部と、前記生成物から前記流動媒体を回収し、前記燃焼部に供給する循環部と、前記燃焼部に対して前記脱水汚泥を供給する汚泥供給手段と、
前記生成物から前記固形燃焼生成物を回収する燃焼生成物回収部と、前記燃焼生成物回収部で回収された前記固形燃焼生成物を前記燃焼部に供給する燃焼生成物供給部と、を備えることを特徴とする。このように、鉄系無機凝集剤を用いて得た脱水汚泥を流動媒体と共に還元状態で燃焼することで、燃焼時に脱水汚泥中の窒素と酸素とが結合して生じる窒素酸化物の生成量を効率的に低減することができる。
【0010】
また、本発明の汚泥燃焼装置では、前記燃焼生成物供給部は、前記汚泥供給手段を介して前記固形燃焼生成物を前記燃焼部に供給し、前記汚泥供給手段は、混合手段を備え、該混合手段により前記固形燃焼生成物と前記脱水汚泥とを混合してから前記燃焼部に対して供給することが好ましい。固形燃焼生成物を燃焼部に戻す際に、脱水汚泥中に分散させて汚泥と共に燃焼部に供給することで、脱水汚泥の燃焼にあたり、脱水汚泥中の窒素と酸素との結合を効率的に阻害し、窒素酸化物の生成量を更に低減することが可能となる。
【0011】
また、本発明の汚泥燃焼装置では、前記燃焼生成物供給部は、酸素を含有しないガスにより前記固形燃焼生成物を搬送することが好ましい。かかる構成を採用することにより、窒素酸化物発生抑制効果を更に向上させることができる。
【0012】
更に、本発明の汚泥燃焼装置では、前記燃焼生成物回収部は、前記循環部を経た生成物から前記固形燃焼生成物を回収することが好ましい。流動媒体と固形燃焼生成物とを別々に回収して燃焼部に供給することにより、燃焼部において脱水汚泥を安定的に燃焼させることができるからである。また、固形燃焼生成物と脱水汚泥とを混合して燃焼部へと供給する場合には、混合手段が流動媒体により摩耗するのを抑制することができるからである。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、鉄系無機凝集剤を使用して脱水処理を行った脱水汚泥を流動媒体と共に還元状態で燃焼して、燃焼ガス、固形燃焼生成物、未燃物、及び流動媒体を含む生成物を生成し、前記生成物から前記流動媒体を回収し、前記燃焼のために循環させ
、さらに、前記生成物から前記固形燃焼生成物を回収し、回収された前記固形燃焼生成物を前記還元状態における前記脱水汚泥の燃焼時に供給する、ことを特徴とする。これにより、燃焼時に脱水汚泥中の窒素と酸素とが結合して生じる窒素酸化物の生成量を効率的に低減することができる。
【0015】
また、本発明の汚泥燃焼方法は、前記固形燃焼生成物の供給を、前記脱水汚泥と混合した状態で行うことが好ましい。これにより、脱水汚泥の燃焼にあたり、脱水汚泥中の窒素と酸素との結合を効率的に阻害し、窒素酸化物の生成量を更に低減すること可能となるからである。
【0016】
また、本発明の汚泥燃焼方法は、前記固形燃焼生成物を前記還元状態における燃焼時に供給するにあたり、酸素を含有しないガスにより前記固形燃焼生成物を搬送することが好ましい。これにより、窒素酸化物発生抑制効果を更に向上させることができるからである。
【0017】
更に、本発明の汚泥燃焼方法は、前記流動媒体を回収した後の生成物から前記固形燃焼生成物を回収することが好ましい。流動媒体と固形燃焼生成物とを別々に回収して燃焼に供することにより、脱水汚泥を安定的に燃焼させることができるからである。また、固形燃焼生成物と脱水汚泥とを混合して燃焼に供する場合には、固形燃焼生成物と脱水汚泥との混合に用いる混合手段が流動媒体により摩耗するのを抑制することができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法によれば、循環型燃焼方式を採用し、脱水汚泥の焼却により生じる窒素酸化物の発生量を効率的に低減する汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の汚泥燃焼装置を、図面に基づき詳細に説明する。なお、本発明の汚泥燃焼方法は、本発明の汚泥燃焼装置の説明から明らかになる。
【0021】
<汚泥燃焼装置>
図1に示す汚泥燃焼装置100は、循環燃焼部10及び後燃焼部20を備える。汚泥燃焼装置100は、循環燃焼部10にて還元雰囲気下で脱水汚泥を不完全燃焼し、その後、後燃焼部20にて、酸化雰囲気下で不完全燃焼により生じた未燃ガスを完全燃焼させる多層燃焼装置である。
図1には示さないが、汚泥燃焼装置100は、後燃焼部20の後に、後燃焼部20から排出される排気ガスを冷却するための冷却塔と、排気ガス中のダスト成分等を捕集するバグフィルタ、スクラバー等とを備えても良い。なお、還元雰囲気とは、供給された脱水汚泥の完全燃焼に必要な酸素量である理論酸素量よりも少ない量の酸素を供給した雰囲気を指し、酸化雰囲気とは、理論酸素量以上の酸素を供給した雰囲気を指す。因みに、理論酸素量は、脱水汚泥中に含まれている燃焼時に酸素と結合可能な元素(C、H、N、O、S、Cl等)の量、及び図示しない補助燃料取込部から取り込まれる補助燃料の量に基づいて、化学量論を用いて算出することができる。具体的には、炭素(C)、水素(H)、及び窒素(N)量はCHN元素分析装置により測定し、酸素(O)、全硫黄(S)、可燃性硫黄、全塩素(Cl)、及び可燃性塩素量は、JISM8813に従って測定し、不燃性硫黄及び不燃性塩素は、それぞれ、全硫黄(S)及び可燃性硫黄、全塩素(Cl)及び可燃性塩素から計算により算出した。また、補助燃料の量は、JISM8814に従って算出した総発熱量に基づいて決定した。
【0022】
ところで、汚泥燃焼装置では、通常、汚泥の焼却を効率化する観点から、汚泥を脱水して得られる脱水汚泥を焼却する。汚泥の脱水方法には、脱水助剤を添加した汚泥をスクリュープレス等の機械プレス手段により圧搾する方法がある。脱水助剤としては、高分子凝集剤のような有機凝集剤や、ポリ硫酸第2鉄及びポリ塩化第2鉄のような無機凝集剤がある。有機凝集剤及び無機凝集剤は、それぞれ単独で使用されることもあるし、併用されることもある。有機凝集剤及び無機凝集剤を併用する場合は、有機凝集剤である高分子凝集剤を汚泥に加えることでフロックを生成してから無機凝集剤を加えることが好ましい。なお、脱水対象の汚泥の固形物質に対して20〜30質量%の無機凝集剤を投入することが一般的である。
【0023】
ここで、本発明の汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法では、燃焼させる脱水汚泥を得る際に、少なくとも所定の無機凝集剤を使用することを特徴とする。即ち、無機凝集剤には、ポリ塩化アルミニウムなどのアルミニウム系無機凝集剤や、ポリ硫酸第2鉄及びポリ塩化第2鉄のような鉄系無機凝集剤など、様々な種類の無機凝集剤が存在するが、本発明の汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法では、鉄系無機凝集剤を用いて得た脱水汚泥を燃焼させることを特徴とする。鉄系無機凝集剤を用いて得た脱水汚泥を燃焼させることで、脱水汚泥の燃焼時に脱水汚泥中の窒素と酸素とが結合して生じる窒素酸化物の生成量を効率的に低減することができるからである。
【0024】
ここで、鉄系無機凝集剤を用いて得た脱水汚泥を燃焼させることで窒素酸化物の生成量を効率的に低減することができるメカニズムは、明らかではないが、以下のようなものであると推測される。
即ち、鉄系無機凝集剤を用いて得た脱水汚泥は、鉄系無機凝集剤由来の鉄成分を含む。そして、脱水汚泥中の当該鉄成分は、還元雰囲気下で燃焼させると、燃焼の際に酸素と反応して2価の鉄(Fe
2+)である酸化第1鉄(FeO)となる。ここで、窒素酸化物は、汚泥中に含まれる窒素成分と、燃焼空気中の酸素とが結合することにより生成されるが、鉄系無機凝集剤由来の鉄成分が存在する場合、当該鉄成分が燃焼中に酸素と結合して酸化第1鉄(FeO)となることにより、汚泥中に含まれる窒素成分と燃焼雰囲気中の酸素とが結合して窒素酸化物を生成するのを妨げる。また、酸化第1鉄(FeO)が形成した場合、当該酸化第1鉄(FeO)が燃焼中に酸素と結合して酸化第2鉄(Fe
2O
3)となることにより、汚泥中に含まれる窒素成分と燃焼雰囲気中の酸素とが結合して窒素酸化物を生成するのを妨げる。
【0025】
なお、鉄系無機凝集剤を用いて得た脱水汚泥を燃焼させることで窒素酸化物の生成量を効率的に低減し得ることは、
図1に示す汚泥燃焼装置を用いて種々の条件下で脱水汚泥を燃焼させた際の後燃焼部内の最高温度と一酸化二窒素(N
2O)排出量との関係からも明らかである。
具体的には、
図2は、有機系高分子凝集剤のような有機凝集剤のみを用いて脱水処理して得た脱水汚泥(1液脱水汚泥)と、有機凝集剤及び鉄系無機凝集剤(ポリ硫酸第2鉄)を併用して得た脱水汚泥(2液脱水汚泥)とについて、後燃焼部内最高温度を変化させて燃焼した場合の、窒素酸化物である一酸化ニ窒素(N
2O)の排出量(Kg-N
2O/t−DS:脱水汚泥固形分1トン当りのN
2O排出量をKg表示した値)を示すグラフである。有機凝集剤による1液脱水汚泥は鉄系無機凝集剤(ここでは、ポリ硫酸第2鉄)を使用しないため、脱水汚泥中に凝集剤由来の鉄成分が含まれていない。そのため、凝集助剤由来の鉄成分を含有しない1液脱水汚泥を焼却した場合の一酸化ニ窒素の排出量は、2液脱水汚泥よりも多い。図中、常に2液脱水汚泥の方が一酸化ニ窒素(N
2O)の排出量が少ないが、特に、後燃焼部最高温度が低い場合において、一酸化ニ窒素(N
2O)の排出量の差が顕著であった。
【0026】
以下、有機凝集剤及び鉄系無機凝集剤(ポリ硫酸第2鉄:[Fe
2(OH)n(SO
4)
3−n/2]m 但し、〇<n≦2m=f(n))を併用して得た2液脱水汚泥を燃焼させる汚泥燃焼装置100の構成について更に詳述する。
【0027】
汚泥燃焼装置100は、鉄系無機凝集剤を混合した汚泥を脱水し、脱水汚泥を生成する脱水部(図示せず)を備えている。また、汚泥燃焼装置100は、脱水部で得られた脱水汚泥を流動媒体と共に還元状態で燃焼して、燃焼ガス、固形燃焼生成物、未燃物、及び流動媒体を含む生成物を生成する燃焼部11、及び、生成物から流動媒体を回収し、燃焼部に供給する循環部12を有する循環燃焼部10と、当該循環燃焼部10の燃焼部11に対して、鉄系無機凝集剤由来の鉄成分を含む汚泥を供給する汚泥供給手段13とを備える。燃焼部11は、空気を燃焼部11内に取り込む空気取込部16を備えると共に、ダクト24及びダウンカマー17を備える循環部12と連通される。具体的には、燃焼部11は、流動媒体として砂を利用する流動層燃焼炉であり、高温の砂が流動することにより、汚泥を粉砕・攪拌し燃焼させるものである。また、循環部12は、ダクト24と、ダクト24を介して燃焼部11から排出された燃焼ガス、固形燃焼生成物、未燃物、及び流動媒体を含む生成物から流動媒体を回収する回収装置(例えば、サイクロン)と、回収装置で回収した流動媒体を燃焼部11内に戻すダウンカマー17とを備えている。
【0028】
さらに、汚泥燃焼装置100は、循環燃焼部10の循環部12を経た生成物(流動媒体を回収された生成物)から固形燃焼生成物を回収する燃焼生成物回収部14と、当該燃焼生成物回収部14で回収された固形燃焼生成物を燃焼部11に供給する燃焼生成物供給部15とを備えることが好ましい。燃焼生成物回収部14はダクト25により循環部12の回収装置と連通され、さらにダクト18を備える。具体的には、燃焼生成物回収部14は、遠心力により粉体を回収するサイクロンにより構成されうる。燃焼生成物回収部14は、固形燃焼生成物である灰等を回収し、ダクト18を通じて固形燃焼生成物を落下させる。なお、ダクト18から燃焼生成物供給部15が分岐する位置において切替装置26を設けて、ダクト18を通じて落下する固形燃焼生成物の一部を、燃焼生成物供給部15へ供給することができる。燃焼生成物供給部15へ供給されなかった固形燃焼生成物は、最終的に産業廃棄物として廃棄される。
ここで、上記構成からも明らかなように、この汚泥燃焼装置100では、循環部12では流動媒体を回収し、燃焼生成物回収部14では流動媒体よりも比重の小さい固形燃焼生成物を回収する。従って、燃焼生成物回収部14としてのサイクロンでは、回収装置としてのサイクロンよりも大きな遠心力を負荷する。即ち、回収装置において負荷する遠心力は、流動媒体は回収されるが燃焼生成物の大部分(例えば、95質量%以上)は回収されない大きさの遠心力とし、燃焼生成物回収部14のサイクロンで負荷する遠心力は、燃焼生成物を回収し得る大きさ以上とする。
【0029】
燃焼生成物供給部15は、燃焼生成物回収部14において分離された、燃焼部11における固形燃焼生成物である灰を、汚泥供給手段13を介して燃焼部11へと供給する。固形燃焼生成物の搬送は、例えば、図示しない誘引ファン等の手段により実施する。固形燃焼生成物は、燃焼部11にて汚泥中の鉄成分と燃焼空気中の酸素とが結合して生成された酸化第1鉄(FeO)を含んでいる。酸化第1鉄(FeO)は、燃焼により3価の鉄(Fe
3+)である酸化第2鉄(Fe
2O
3)を生じて、燃焼時に汚泥中の窒素と酸素とが結合するのを妨げることができる。このため、酸化第1鉄を含む固形燃焼生成物の一部を循環させ、燃焼部11における汚泥の燃焼に再利用することで、窒素酸化物の生成を効率的に阻害することができる。なお、窒素酸化物とならなかった汚泥中の窒素は、窒素(N
2)となって、汚泥燃焼装置100の外に排出される。因みに、酸化第2鉄は非常に安定な物質であり、その後還元されて酸化第1鉄に戻ることはない。好ましくは、燃焼生成物回収部14のサイクロンで負荷する遠心力は、酸化第1鉄を含む固形燃焼生成物の比重以上の物質が回収される大きさとする。このようにして、酸化第1鉄又は酸化第2鉄を含まない不要な物質が燃焼部11に返送されることを防ぎ、汚泥燃焼装置100の運転を効率化することができる。
【0030】
ここで、燃焼生成物供給部15は、固形燃焼生成物を燃焼部11に直接戻すのではなく、固形燃焼生成物を汚泥供給手段13に供給し、汚泥供給手段13が、固形燃焼生成物と汚泥とを混合してから燃焼部11に供給している。例えば、汚泥供給手段13は、混合手段としてスクリュー手段を備え、当該スクリュー手段により固形燃焼生成物と汚泥とを混合することができる。固形燃焼生成物中に含まれる酸化第1鉄を汚泥に予め練りこんでから燃焼部11に供給することで、脱水汚泥中に2価の鉄(Fe
2+)を分散させることができ、燃焼部11における脱水汚泥の燃焼にあたり、脱水汚泥中の窒素と、燃焼空気中の酸素との結合を効率的に阻害することが可能となる。
【0031】
このように、循環部12及び燃焼生成物回収部14で、流動媒体及び固形燃焼生成物を別個に回収し、流動媒体はそのまま、固形燃焼生成物は汚泥供給手段13を介してから燃焼部11に戻すという構成を採用することで、循環燃焼部10の燃焼部11内の温度低下を防ぐとともに、汚泥供給手段の混合手段の劣化を防ぐという効果が生じる。仮に、流動媒体及び固形燃焼生成物を同時に回収して、これらの混合物を汚泥供給手段13に戻した場合には、流動媒体である砂の粒子により汚泥供給手段13に備えられた混合手段が磨耗する虞がある。さらに、この場合、燃焼生成物供給部15へ供給されなかった固形燃焼生成物を廃棄する際に加熱された流動媒体の一部も廃棄されることになるため、燃焼部11内の温度が下がる虞がある。
【0032】
さらに、燃焼部11の空気取込部16は、燃焼部11内の空気比が0.8以上1.0未満、好ましくは、0.9以上1.0未満となるように、燃焼部11内に空気を取込む。空気比が0.8を下回ると、酸素不足により燃焼部11内の温度が上がらず、循環燃焼部10が十分に機能しない。また、空気比が1.0以上となると、燃焼部11内が還元雰囲気とならず、燃焼部11において生成される窒素酸化物の量が増加してしまう。
【0033】
さらに、本発明による燃焼生成物供給部15は、酸素を含有しないガスにより固形燃焼生成物を汚泥供給手段13に搬送することが好ましい。固形燃焼生成物が燃焼部11に投入される前に、固形燃焼生成物中に含まれる酸化第1鉄(FeO)が酸化されて、酸化第2鉄(Fe
2O
3)となることを防ぐためである。これにより、窒素酸化物抑制効果を更に向上させることができる。
【0034】
なお、後燃焼部20は、第1空気取込部21、第2空気取込部22、及びダクト23を備える。第1空気取込部21及び第2空気取込部22は、それぞれ、異なる空気比で後燃焼部20内へ空気を取り込む。第1空気取込部21は、燃焼部11よりも高い空気比で循環燃焼部10を経た生成物を燃焼する燃焼場を後燃焼部20の上層部(上流側に位置する部分)において提供するような空気比で空気を取り込む。第2空気取込部22は、第1空気取込部21よりも低く、好ましくは、燃焼部11よりも高い空気比で後燃焼部20の上層部の燃焼場を経た生成物を燃焼する燃焼場を提供するような空気比で空気を取り込む。
このようにして、本発明による汚泥燃焼装置100は、後燃焼部20の上層部の空気比を最適化して燃焼場を完全燃焼状態として、汚泥燃焼装置100内における最高温度場を提供する。汚泥燃焼装置100は、かかる燃焼場にて、ダクト19を通じて燃焼生成物回収部14から提供される未燃物(不燃ガス等)を含む生成物を完全燃焼させる。そして、汚泥燃焼装置100は、後燃焼部20の下層部(下流側に位置する部分)において最高温度場に次ぐ温度の燃焼場を提供して、上層部で燃え残った不燃ガスを完全燃焼させる。後燃焼部20の上層部及び下層部における各燃焼場の温度をこのように設定することで、不燃ガスの燃え残りを確実に燃焼させることができる。
【0035】
<汚泥燃焼装置の動作>
以下、汚泥燃焼装置100の動作について説明する。
まず、汚泥供給手段13を通じて燃焼部11に供給された脱水汚泥は、燃焼部11において、高温に熱せられた砂と激しく混合されつつ燃焼される。燃焼部11は、図示しない補助燃料取込部から取り込まれる補助燃料及び脱水汚泥中の炭素等の元素の量との関係で燃焼部11内の空気比が0.9以上1.0未満となるように空気取込部16から空気を取り込み、脱水汚泥を燃焼する。空気取込部16からの空気は、例えば、650℃〜700℃に熱せられた熱風であり、燃焼部11内の温度は、例えば、燃焼部11の下層部である、流動媒体の粒子密度が高い濃厚層部で750℃〜800℃である。さらに、後燃焼部20の中層における温度は、850℃〜890℃であることが好ましい。燃焼部11内における温度を後燃焼部20における完全燃焼状態の燃焼場の温度よりも低温とすることで、鉄成分が溶解することを抑制し、流動媒体である砂に溶解した鉄成分が付着して砂の粒子径が大きくなることを防ぐとともに、酸化第1鉄又は酸化第2鉄を含む燃焼生成物の回収を効率化することができる。
【0036】
燃焼部11において生成された生成物は循環部12に供給され、循環部12において、例えば、下降旋回流により生成物から流動媒体である砂が分離される。分離された砂は、ダウンカマー17を通じて燃焼部11に戻り、再び流動床を構成する。他の成分を含む生成物は、ダクト25を経て燃焼生成物回収部14に供給され、燃焼生成物回収部14は、例えば、下降旋回により生成物から固形燃焼生成物を分離する。分離された固形燃焼生成物は、ダクト18を下降し、一部は産業廃棄物として廃棄され、一部は燃焼生成物供給部15を経て汚泥供給手段13に供給される。
【0037】
そして、汚泥供給手段13において、図示しない混合手段により脱水汚泥と固形燃焼生成物とが混合された混合物が生成され、燃焼部11に供給される。燃焼部11に供給された混合物は、固形燃焼生成物由来の酸化第1鉄(FeO)及び鉄系無機凝集剤由来の鉄成分は、燃焼空気中の酸素と反応することにより、脱水汚泥中の窒素と燃焼空気中の酸素とが反応して窒素酸化物を生成することを阻害する。上述の通り、燃焼部11内は不完全燃焼状態となるように空気取込量が制御されているので、鉄分による窒素酸化物生成の抑制効果との相乗効果により、燃焼部11において生成される窒素酸化物量を効率的に低減することができる。
【0038】
一方、燃焼生成物回収部14を経た未燃物を含む生成物は、ダクト19を通じて後燃焼部20へ供給される。第1空気取込部21及び第2空気取込部22は、それぞれ、後燃焼部20の上層部の空気比が、下層部の空気比より低くなるように、後燃焼部20内へ空気を取り込む。例えば、後燃焼部20の上層部の空気比は、1.0以上1.1未満であり、下層部の空気比は、1.1以上1.3未満である。このとき、後燃焼部20内の温度は、上層部で約900℃、下層部で約850℃である。後燃焼部20における燃焼により生成された排気ガスは、ダクト23を通じて後燃焼部20より排出される。その後、汚泥燃焼装置100は、図示しない冷却塔、バグフィルタ、及びスクラバー等を経て、排気ガスを装置外に排出する。
【0039】
以上、一例を用いて本発明の汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法について説明したが、本発明の汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法は、上記一例に限定されることはなく、本発明の汚泥燃焼装置及び汚泥燃焼方法には、適宜変更を加えることができる。
また、本発明の汚泥燃焼方法においては、有機凝集剤を使用することなく、ポリ硫酸第2鉄及びポリ塩化第2鉄のような鉄系無機凝集剤を使用して得た脱水汚泥を燃焼させることももちろん可能である。この場合、有機凝集剤の使用にかかる工程及び費用がかからないため、汚泥処理のコストを低減することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
燃焼生成物回収部14、ダクト18、及び燃焼生成物供給部15を備えないこと以外は
図1に示した汚泥燃焼装置100と同様の構成を有する汚泥燃焼装置を用いて脱水汚泥を燃焼した結果を表1に示す。表1は、循環燃焼部10の燃焼部11内における空気比と、後燃焼部20から排出される一酸化ニ窒素(N
2O)の濃度及び循環燃焼部10及び後燃焼部20の操炉安定性との関係を示す。操炉安定性は、燃焼部11の下層部の温度(以下、濃厚層部温度Tとする。)により評価した。空気比mが1.1以上1.2未満と比較的高いほど完全燃焼状態に近づくため、操炉安定性にとっては好ましい一方で、燃焼部11における一酸化ニ窒素(N
2O)の生成量が増加し、多層燃焼装置を用いたことによる窒素酸化物の抑制効果(以下、多層燃焼効果という)が低減する傾向がある。
【0042】
【表1】
【0043】
ここで、後燃焼部出口N
2O濃度[ppm]については、評価は以下に従った。
A:40ppm未満で、多層燃焼効果が大きい
B:40ppm以上90ppm未満で、やや多層燃焼効果あり
C:90ppm以上で、通常焼却相当
また、操炉安定性については、評価は以下に従った。
A:操炉安定(濃厚層部温度Tが750℃≦T<800℃)
B:操炉不安定(濃厚層部温度Tが700℃≦T<750℃)
C:操炉不可能(濃厚層部温度TがT<700℃)
【0044】
表1より明らかな通り、循環燃焼部10における空気比mが0.9以上1.0未満の場合に、後燃焼部出口N
2O濃度の値の評価はBであり、操炉安定性がAであり、多層燃焼効果及び操炉安定性のバランスがとれているといえる。
【0045】
(実施例2)
図1に示す汚泥燃焼装置100により脱水汚泥を燃焼した。燃焼部11に対して、燃焼生成物回収部14で回収された固形燃焼生成物を供給することにより、循環燃焼部10における空気比が0.9〜1.0の場合における後燃焼部出口N
2O濃度の値の評価をA(20ppm)とすることができる。このようにして、本発明による汚泥燃焼装置100において、燃焼部11に対して、燃焼生成物回収部14で回収された固形燃焼生成物を供給する構成を採用した場合には、多層燃焼効果をより一層向上させることができる。